説明

電線フラット化部材及びワイヤーハーネスのフラット化構造部

【課題】ワイヤーハーネス組立工程において複数の電線の整列状態からフラット化部分の位置調節を可能にすること。
【解決手段】電線フラット化部材20は、複数の電線1をフラットな形状に維持するための部材である。この電線フラット化部材20は、電線1を配線方向Aに沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部32が並列状に複数形成された電線支持部30と、電線支持部30から配線方向A側方に連接された結束材70巻き付け用の結束材巻付部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複数の電線をフラットな形状に維持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に配索されるワイヤーハーネスにおいて、その一部が周辺部材の間等の狭いスペースに配索されることもある。そして、ワイヤーハーネスのうち狭いスペースに配索される部分は、予めワイヤーハーネスの組立工程においてフラットな形状に維持されることもある。
【0003】
特許文献1には、複数の電線を所定のピッチで並列状に保持する電線フラット化部材が開示されている。この電線フラット化部材は、板状の基板部の上面に立設された複数の溝形成部により、基板部の上面上に電線配索方向に延びる複数の電線収容溝が所望のピッチで形成され、電線収容溝側に突出する各溝形成部に形成される電線抜け規制部を有している。そして、電線フラット化部材の各電線収容溝に電線を収納することにより、電線フラットケーブルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−99335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ワイヤーハーネスの組立工程においては、複数の電線におけるフラット化部分の位置調整等、電線を電線フラット化部材に対して延在方向に相対移動することを要することもある。
【0006】
しかしながら、特許文献1の電線フラット化部材は、電線を各電線収容溝に収納して整列させた状態では、電線抜け規制部によって電線が延在方向に位置決めされてしまい、電線に対して延在方向における位置調整を行うことが困難である。
【0007】
そこで、本発明は、ワイヤーハーネス組立工程において複数の電線の整列状態からフラット化部分の位置調節を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、複数の電線をフラットな形状に維持するための電線フラット化部材であって、前記電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、前記電線支持部から前記配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部と、を備える。
【0009】
第2の態様は、第1の態様に係る電線フラット化部材であって、前記電線支持部は、一対設けられ、前記結束材巻付部は、一対の前記電線支持部を前記配線方向に対向させる姿勢で接続している。
【0010】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る電線フラット化部材であって、前記溝部は、正面視においてU字形状に形成されている。
【0011】
第4の態様は、第1又は第2の態様に係る電線フラット化部材であって、前記溝部は、底側に前記電線の直径より大きい内部空間を有する電線収容部を有し、開口側に前記電線の直径より小さい抜止め部を有している。
【0012】
第5の態様は、第1〜第4のいずれか一態様に係る電線フラット化部材であって、前記結束材巻付部は、両側端部が凹状に湾曲した形状に形成されて前記配線方向における中間部が幅狭に設定されている。
【0013】
第6の態様は、第1〜第5のいずれか一態様に係る電線フラット化部材であって、前記電線支持部は、前記溝部が並ぶ並列方向一端部から一方に突出する凸部と、前記並列方向他端部に形成されて他の前記電線支持部の前記凸部と嵌合可能な凹部と、を有している。
【0014】
第7の態様は、複数の電線が全体的又は部分的にフラットな形状に維持されて構成されるワイヤーハーネスのフラット化構造部であって、前記複数の電線と、前記電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、前記電線支持部から前記配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部とを有し、前記複数の電線が前記複数の溝部に配置されて前記複数の電線におけるフラット化対象部分の側方の部分を支持する電線フラット化部材と、前記複数の電線における前記結束材巻付部に沿って延在する部分を、前記結束材巻付部と共に結束する結束材と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様に係る電線フラット化部材によると、電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、電線支持部から配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部とを備えるため、複数の電線を電線支持部の各溝部に配設すると共に、その側方に延び出る部分を結束材巻付部に沿わせて結束材により結束材巻付部と一緒に結束することにより、複数の電線をフラットな形状に維持することができる。そして、結束材の巻き付け前には、複数の電線を配線方向にスライド移動可能であるため、複数の電線の整列状態からフラット化部分の位置調節をすることができる。
【0016】
第2の態様に係る電線フラット化部材によると、電線支持部が一対設けられ、結束材巻付部が一対の電線支持部を配線方向に対向させる姿勢で接続しているため、複数の溝部に配設される各電線をより確実に配線方向に沿って整列させることが可能であると共に、結束材巻付部に結束材を巻き付けた状態で結束材が結束材巻付部から配線方向に外れることを抑制することができる。
【0017】
第3の態様に係る電線フラット化部材によると、溝部が正面視においてU字形状に形成されているため、電線を溝部に配設しやすいと共に、溝部に配設された電線を配線方向にスライド移動させやすい。
【0018】
第4の態様に係る電線フラット化部材によると、溝部が、底側に電線の直径より大きい内部空間を有する電線収容部を有し、開口側に電線の直径より小さい抜止め部を有しているため、電線が溝部の電線収容部内に配設された状態で、電線を、溝部内からの抜止めをしつつ配線方向にスライド可能に支持することができる。
【0019】
第5の態様に係る電線フラット化部材によると、結束材巻付部は、両側端部が凹状に湾曲した形状に形成されて配線方向における中間部が幅狭に設定されているため、結束材巻付部に巻き付けられる結束材が配線方向にずれることを抑制することができる。
【0020】
第6の態様に係る電線フラット化部材によると、電線支持部は、並列方向一端部から一方に突出する凸部と、並列方向他端部に形成されて他の電線支持部の凸部と嵌合可能な凹部とを有しているため、複数連結することにより、より多くの電線をまとめてフラットな形状に維持することができる。
【0021】
第7の態様に係るワイヤーハーネスのフラット化構造部によると、複数の電線と、電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、電線支持部から配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部とを有し、複数の電線が複数の溝部に配置されて複数の電線におけるフラット化対象部分の側方の部分を支持する電線フラット化部材と、複数の電線における結束材巻付部に沿って延在する部分を結束材巻付部と共に結束する結束材と、を備えている。このため、複数の電線のうち電線フラット化部材の配線方向側方に延び出たフラット化対象部分は、配線方向に沿って並列状に並べられてフラットな形状に維持され、狭いスペースにも配索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ワイヤーハーネスのフラット化構造部を示す斜視図である。
【図2】電線フラット化部材の斜視図である。
【図3】電線フラット化部材の正面図である。
【図4】電線フラット化部材の平面図である。
【図5】連結された電線フラット化部材の平面図である。
【図6】支持治具を示す斜視図である。
【図7】電線フラット化部材の複数の電線に対する移動作業を示す図である。
【図8】溝部に複数の電線が重ねて配設される例を示す図である。
【図9】変形例に係る溝部の形状を示す図である。
【図10】変形例に係るワイヤーハーネスのフラット化構造部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るワイヤーハーネスのフラット化構造部10及び電線フラット化部材20について説明する(図1参照)。電線フラット化部材20は、複数の電線1をフラットな形状に維持するための部材である。また、ワイヤーハーネスのフラット化構造部10は、電線フラット化部材20を用いて、複数の電線1を全体的又は部分的にフラットな形状に維持して構成されるワイヤーハーネスである。
【0024】
説明の便宜上、ワイヤーハーネスについて説明しておく。ワイヤーハーネスは、例えば、自動車等に配索されるワイヤーハーネスであり、給電用電線及び信号伝達用電線等を含む複数の電線1が配索形態に配置された状態で結束等されて構成される。ここでは、複数の電線1は、全て同径の電線である例で説明する。
【0025】
また、ここでは、ワイヤーハーネスのうち、周辺部材90等の間の狭いスペース等に配索される部分を構成する複数の電線1を、電線フラット化部材20を用いてフラットな形状に維持する。なお、図1、図10では、複数の電線1が、周辺部材90としてのシートベルト固定用のブラケットの隙間に配索される例を示している。
【0026】
ワイヤーハーネスのフラット化構造部10は、上記複数の電線1が、電線フラット化部材20に支持された状態で結束材70によって束ねられることにより構成されている。電線フラット化部材20は、一対の電線支持部30と、結束材巻付部40とを備えている(図2〜図4参照)。概略的には、電線フラット化部材20は、一対の電線支持部30が、結束材巻付部40を挟む形態で結束材巻付部40により接続された構成である。
【0027】
電線支持部30は、電線1を延在させる配線方向Aに沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部32が並列状に複数(図面では4つ)形成された部分である。より具体的には、電線支持部30は、略直方体形状の本体部分において、一方向(配線方向A)に貫通すると共に一つの面において開口する溝状に形成された溝部32を有している。
【0028】
溝部32は、正面視においてU字形状に形成されている(図3参照)。溝部32は、電線1の直径より大きい(ここでは僅かに大きい)幅寸法に設定されている。また、溝部32は、内周部が配線方向Aに沿って平滑に形成されている。すなわち、溝部32内に配設された電線1は、溝部32に対して配線方向Aにスライド移動可能である。また、溝部32の深さ寸法も、電線1の直径より大きく設定されている。ここでは、複数の溝部32は、それぞれ同形状に形成され、並列方向Pに等間隔で形成されている。並列方向Pとは、電線支持部30において複数の溝部32が並ぶ方向である。もっとも、複数の溝部32は、配設対象である電線1を配設可能であればよく、複数の電線1の直径がそれぞれ異なる場合、各電線1の直径に応じた(直径より大きく設定した)サイズに設定されていればよい。
【0029】
結束材巻付部40は、電線支持部30から配線方向A側方に連接された結束材70を巻き付けるための部分である(図3、図4参照)。すなわち、結束材巻付部40に沿って延在する電線1を、結束材70により結束材巻付部40と一緒に結束することにより、電線フラット化部材20に固定することができる。
【0030】
ここで、結束材70について説明しておく。結束材70は、一方向に沿って並べられる複数の部材について、その外周に巻き付けることにより結束状態を維持可能な部材であればよく、例えば、粘着テープ、結束バンド及びワイヤー等の部材である。なお、結束バンドとは、環状部を構成可能で、その環状部を任意の周長に調節して該周長に維持できる部材である。ここでは、結束材70として、ワイヤーハーネスを構成する電線を結束するための粘着テープを採用している。
【0031】
この結束材巻付部40は、一対の電線支持部30を配線方向Aに対向させる姿勢で接続している。より具体的には、結束材巻付部40は、一対の電線支持部30を、それぞれの対応する複数の溝部32が配線方向Aに沿って対向する姿勢で、間隔をあけて接続している。結束材巻付部40の配線方向Aにおける寸法は、結束材70の幅寸法と同じかそれより大きく(ここでは大きく)設定されている(図4参照)。すなわち、結束材70を、一対の電線支持部30間で、結束材巻付部40及び複数の電線1に巻きつけることが可能である。ここでは、結束材70として粘着テープを採用しているため、例えば、結束材巻付部40の配線方向Aの寸法は、粘着テープの幅寸法より3mm大きい(両側に1.5mmの余裕を持って巻付可能な)寸法に設定されているとよい。
【0032】
また、結束材巻付部40は、板状に形成され、厚さ方向が一対の電線支持部30における溝部32の深さ方向に沿う姿勢で、配線方向A両端部が一対の電線支持部30に連なっている。ここでは、結束材巻付部40は、溝部32の開口側に臨む一主面42が溝部32の底部に沿う(略面一になる)形態に設定されている(図3参照)。つまり、一対の電線支持部30の各溝部32に配設される電線1は、結束材巻付部40の一主面42上に載置された状態で、該一主面42に沿って一対の電線支持部30間に延在する。
【0033】
また、結束材巻付部40は、両側端部44が凹状に湾曲した形状に形成されて配線方向Aにおける中間部が幅狭に設定されている(図4参照)。ここでは、結束材巻付部40は、配線方向A両端部が一対の電線支持部30の並列方向Pの寸法と略同じ幅寸法に設定されると共に、配線方向A中間部に向けて両側から徐々に幅狭になっている。
【0034】
もっとも、結束材巻付部40は、幅寸法が略一定に設定されていてもよく、結束材70の結束材巻付部40からの脱落を抑制する観点から言うと、結束材巻付部40より幅狭に設定されているとよく、好ましくは、上記のように両側端部44が湾曲した形状がよい。また、結束材巻付部40の両側端部44は、湾曲形状に限らず、配線方向Aにおける中間部が幅狭となるように、配線方向A両端部から中間部に向けて徐々に内側に傾斜する直線状に形成されていてもよい。
【0035】
また、電線フラット化部材20は、並列方向Pにおいて他の電線支持部30と連結可能に構成されている。より具体的には、電線支持部30は、並列方向P一端部から一方に突出する凸部34と、並列方向P他端部に形成されて他の電線支持部30の凸部34と嵌合可能な凹部36とを有している(図4、図5参照)。ここでは、一対の電線支持部30において、互い違いに凸部34及び凹部36が形成されている。すなわち、一対の電線支持部30の並列方向Pの一方側では、一方の電線支持部30に凸部34が設けられると共に他方の電線支持部30に凹部36が設けられ、並列方向Pの他方側では、一方の電線支持部30に凹部36が設けられると共に他方の電線支持部30に凸部34が設けられている。
【0036】
凸部34は、電線支持部30の並列方向P一端部から略円柱形状に突出する部分である。また、凹部36は、電線支持部30の並列方向P他端部で開口する略円柱形状の内部空間を有する凹形状に形成されている部分である。凹部36の内部空間は、凸部34の外部形状と同じかそれより僅かに小さい(ここでは僅かに小さい)サイズに設定されている。
【0037】
次に、上記電線フラット化部材20を用いたワイヤーハーネスのフラット化構造部10について説明する。図1では、複数の電線1が端末寄りの部分でフラット化されたワイヤーハーネスのフラット化構造部10を示している。複数の電線1の端末とは、コネクタ又は電気機器に接続された部分を含むと共に、ジャンクションボックス、リレーボックス等に接続された部分を含むものとする。ここでは、端末にコネクタCが接続された複数の電線1が、コネクタCから延び出る部分をフラット化対象部分3とする例で、図1に即して説明する。なお、複数の電線1は、コネクタCに対して一列に並んだ形態で接続されているものとする。
【0038】
このワイヤーハーネスのフラット化構造部10は、複数の電線1におけるフラット化対象部分3の側方の部分を電線フラット化部材20により支持して構成されている。そして、一対の電線支持部30の複数の溝部32に複数の電線1が配設されると共に、複数の電線1における一対の電線支持部30の間で結束材巻付部40に沿って延在する部分が結束材70により結束材巻付部40と共に結束されている。
【0039】
より具体的には、一対の電線支持部30の各溝部32に配設される複数の電線1は、配線方向Aに沿って延在して並んでいる。ここでは、複数の電線1は、各溝部32に1本ずつ配設され、各溝部32の底側に位置する状態で、並列方向Pに沿って一列に並べられている(図3参照)。そして、複数の電線1におけるフラット化対象部分3は、コネクタCと電線フラット化部材20との間で並列状に延在している。例えば、電線フラット化部材20は、複数の電線1におけるコネクタCの先端部から80mmの端末取り付けの作業代を確保した位置のフラット化対象部分3に対して、電線フラット化部材20側に30mmの間隔をあける位置に設定されているとよい。なお、電線フラット化部材20の取り付け位置は、複数の電線1の長さのばらつき及び電線フラット化部材20の取り付け公差等を加味して設定されているとよい。また、一対の電線支持部30の間で、結束材巻付部40とそれに沿って延在する複数の電線1とが、結束材70によりまとめて結束されることにより、複数の電線1が電線支持部30の溝部32の底側の位置に維持されると共に結束材巻付部40の一主面42に接触した状態に維持されている(図3参照)。
【0040】
このワイヤーハーネスのフラット化構造部10の製造は、ワイヤーハーネスの組立工程において組立図板80上で行われる。すなわち、複数の電線1が組立図板80上に配索形態で布線される際に、複数の電線1を電線フラット化部材20にセットしてフラット化する。ここで、電線フラット化部材20は、組立図板80上で専用の支持治具82を用いて支持されるとよい。図6には、支持治具82の一例を示している。説明の便宜上、支持治具82について説明しておく。
【0041】
支持治具82は、一対の支持部84を有する。この一対の支持部84はそれぞれ受け部85と柱部87とを有している。ここでは、一対の支持部84は、同形状に形成されている。受け部85は、電線フラット化部材20の並列方向Pにおける一方の端部を載置する部分である。この受け部85は、矩形状の底部と、その3辺に立設された連続する側壁部を有している。すなわち、受け部85は、底部により電線フラット化部材20の並列方向P一端側を支持すると共に、側壁部により電線フラット化部材20の並列方向P一方側及び配線方向A両側に移動規制する。また、受け部85は、電線フラット化部材20の凸部34を配設可能なスリット部86を有している。柱部87は、受け部85を組立図板80上に支持する部分であり、基端部が組立図板80に対して螺合等することにより固定可能に形成され、先端部が受け部85の底部に連なっている。
【0042】
そして、支持治具82は、一対の支持部84が向かい合わせに組立図板80上に固定されることにより構成されている。下記説明では、支持治具82により電線フラット化部材20が支持されているものとする。つまり、電線フラット化部材20は、並列方向Pの両端側部分が各受け部85の底部上に載置されて一対の支持部84に支持されている。ここでは、複数の電線1におけるフラット化対象部分3がコネクタCから延び出る部分であるため、支持治具82は、コネクタCの支持位置に対向する位置に設けられている。
【0043】
以下、ワイヤーハーネスのフラット化構造部10の製造工程について説明する。
【0044】
まず、支持治具82に支持された電線フラット化部材20の一対の電線支持部30における複数の溝部32に複数の電線1をそれぞれ配設する(工程(a))。ここでは、コネクタCに接続された順で並ぶように、複数の電線1を各溝部32に対して1本ずつ配設していく。複数の電線1をコネクタCに接続された順で複数の溝部32に配設するため、コネクタCの支持位置と支持治具82との位置はなるべく近く設定されている。
【0045】
次に、電線フラット化部材20を、支持治具82から取り出して、複数の電線1におけるフラット化対象部分3の側方の位置に移動させる(工程(b)、図7参照)。すなわち、電線フラット化部材20は、工程(a)で複数の電線1が各溝部32に配設される際に支持治具82で支持される位置から、フラット化対象部分3の側方の位置まで移動される。
【0046】
また、工程(b)では、各電線1の長さのばらつき等により発生する弛みを、コネクタCと電線フラット化部材20との間から逃がすために、電線1を電線フラット化部材20に対してスライドさせることもある。
【0047】
そして、結束材巻付部40に対して複数の電線1を沿わせた状態で、複数の電線1を結束材巻付部40と共に結束する(工程(c))。より具体的には、結束材70としての粘着テープを、結束材巻付部40とそれに沿って延在している複数の電線1とをまとめた全体に対して、配線方向Aに沿った軸周りに巻き付ける。これにより、複数の電線1と電線フラット化部材20とは、固定された状態に維持される。
【0048】
以上の工程により、複数の電線1の端末部材としてのコネクタCと電線フラット化部材20との間の複数の電線1におけるフラット化対象部分3が、フラットな形状に維持される。もっとも、コネクタCと電線フラット化部材20とは、その間に延在する複数の電線1が平面上に位置する(少なくともねじれない)姿勢で存在するものとする。これにより、複数の電線1のフラット化対象部分3を狭いスペースにも配索することができる。
【0049】
これまで、溝部32が4つ形成された電線支持部30について説明してきたが、溝部32の数は、複数の電線1のフラット化対象部分3における電線1の数に応じて決定されるとよい。
【0050】
これまで、電線支持部30の複数の溝部32に対して1本ずつ電線1を配設する例で説明してきたが、複数の電線1を少なくとも一方向にフラットな形状に維持できればよく、1つの溝部32に対して複数の電線1を重ねて配設してもよい(図8参照)。複数の電線1のフラット化部分の厚さ寸法を低減観点では2段までが好ましいが、フラットな形状で支持する観点では配索スペースに応じて3段以上に設定されてもよい。この構成は、例えば、コネクタC等の端末部材に対して2列に並んで接続されている場合等に効果的である。なお、この場合の溝部32の深さ寸法は、重ねて配設される電線1の数に応じて深く設定されればよい。
【0051】
また、複数の電線フラット化部材20を連結した状態で、複数の電線フラット化部材20の各溝部32に複数の電線1を配設してもよい。図5には、2つの電線フラット化部材20を連結して構成されたワイヤーハーネスのフラット化構造部110を示している。この場合、連結した電線フラット化部材20の並列方向Pの寸法に対応して、一対の支持部84の組立図板80に対する固定位置を変更することにより間隔を調節した支持治具82を用いて、連結した複数の電線フラット化部材20のうち並列方向P両端に位置する電線フラット化部材20の端部側部分を支持すればよい。この構成によれば、より多くの電線1を、まとめてフラットな形状に維持することができる。
【0052】
また、電線フラット化部材20の溝部32は、正面視においてU字形状に形成される場合に限られない。すなわち、底側に電線1の直径より大きい内部空間を有する電線収容部321を有し、開口側に電線1の直径より小さい抜止め部322を有している溝部320が採用されてもよい。この溝部320も、内周部が配線方向Aに沿って平滑に形成されているとよい。そして、電線1が溝部320の電線収容部321内に配設された状態で、抜止め部322により開口から抜け出ることを抑制されつつ、電線収容部321内で配線方向Aにスライド移動可能に支持される。この溝部320が形成された電線支持部130を有する電線フラット化部材120を図9に示している。
【0053】
また、電線フラット化部材20の連結に係る凸部34と凹部36は、上述した形状の組合せに限られるものではない。例えば、先端部で外周側に突出する爪部が形成された凸部と、爪部を配設可能な内部空間を有する凹部との組合せであってもよい。
【0054】
また、電線フラット化部材20は、一対の電線支持部30を有する構成に限られない。すなわち、電線フラット化部材20は、1つの電線支持部30と、その側方に連接された結束材巻付部40とを有する構成であってもよい。
【0055】
また、図10には、電線フラット化部材20が、複数の電線1におけるフラット化対象部分3を挟んで一対設けられているワイヤーハーネスのフラット化構造部210を示している。すなわち、複数の電線1におけるフラット化対象部分3の両側方の部分に各電線フラット化部材20が取り付けられ、一対の電線フラット化部材20の間に延在する部分が、フラットな形状に維持される。
【0056】
実施形態に係る電線フラット化部材20によると、電線1を配線方向Aに沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部32が並列状に複数形成された電線支持部30と、電線支持部30から配線方向A側方に連接された結束材70巻き付け用の結束材巻付部40とを備える。ワイヤーハーネスのフラット化構造部10では、電線フラット化部材20により複数の電線1におけるフラット化対象部分3の側方の部分を支持して、複数の電線1が、それぞれ電線支持部30の複数の溝部32に配設されると共に、結束材巻付部40に沿わせて結束材70により結束材巻付部40と共に束ねられている。このため、複数の電線1のうち電線フラット化部材20の側方に延び出たフラット化対象部分3は、配線方向Aに沿って並列状に並べられてフラットな形状に維持され、狭いスペースにも配索することができる。また、ワイヤーハーネスのフラット化構造部10の製造方法において、結束材70の巻き付け前には、複数の電線1に対して電線フラット化部材20を配線方向Aにスライド移動することにより、ワイヤーハーネス組立工程で複数の電線1の整列状態からフラット化部分の位置調節をすることができる。また、複数の電線1の長さのばらつきによりフラット化対象部分3で弛みが生じた場合でも、該弛み分の長さをコネクタC(又は電線フラット化部材20)と電線フラット化部材20との間から逃がすことができ、より安定したフラットな形状を得ることができる。
【0057】
また、溝部32が正面視において電線1の直径より幅広のU字形状に形成されると共に、その内周部が配線方向Aに沿って平滑に形成されているため、電線1を溝部32に配設しやすいと共に、溝部32に配設された電線1を配線方向Aにスライド移動させやすい。
【0058】
また、電線支持部30が一対設けられ、結束材巻付部40が一対の電線支持部30を配線方向Aに対向させる姿勢で接続しているため、複数の溝部32に配設される各電線1をより確実に配線方向Aに沿って整列させることが可能であると共に、結束材巻付部40に結束材70を巻き付けた状態で結束材70が結束材巻付部40から配線方向Aに外れることを抑制することができる。
【0059】
また、結束材巻付部40は、両側端部44が凹状に湾曲した形状に形成されて配線方向Aにおける中間部が幅狭に設定されているため、結束材巻付部40に巻き付けられる結束材70が配線方向Aにずれることを抑制することができる。
【0060】
また、電線支持部30は、並列方向P一端部から一方に突出する凸部34と、並列方向P他端部に形成されて他の電線支持部30の凸部34と嵌合可能な凹部36とを有しているため、複数連結することにより、より多くの電線1をまとめてフラットな形状に維持することができる。
【0061】
また、結束材70としてワイヤーハーネス結束用の粘着テープを採用する構成によると、電線フラット化部材20に対して複数の電線1を固定する専用部材を省略することができ、ワイヤーハーネス組立工程においてより作業効率良くワイヤーハーネスのフラット化構造部10を製造することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 電線
10、110、210 ワイヤーハーネスのフラット化構造部
20 電線フラット化部材
30、130 電線支持部
32、320 溝部
321 電線収容部
322 抜止め部
34 凸部
36 凹部
40 結束材巻付部
44 両側端部
70 結束材
A 配線方向
P 並列方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線をフラットな形状に維持するための電線フラット化部材であって、
前記電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、
前記電線支持部から前記配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部と、
を備える電線フラット化部材。
【請求項2】
請求項1に記載の電線フラット化部材であって、
前記電線支持部は、一対設けられ、
前記結束材巻付部は、一対の前記電線支持部を前記配線方向に対向させる姿勢で接続している、電線フラット化部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電線フラット化部材であって、
前記溝部は、正面視においてU字形状に形成されている、電線フラット化部材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電線フラット化部材であって、
前記溝部は、底側に前記電線の直径より大きい内部空間を有する電線収容部を有し、開口側に前記電線の直径より小さい抜止め部を有している、電線フラット化部材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の電線フラット化部材であって、
前記結束材巻付部は、両側端部が凹状に湾曲した形状に形成されて前記配線方向における中間部が幅狭に設定されている、電線フラット化部材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の電線フラット化部材であって、
前記電線支持部は、前記溝部が並ぶ並列方向一端部から一方に突出する凸部と、前記並列方向他端部に形成されて他の前記電線支持部の前記凸部と嵌合可能な凹部と、を有している、電線フラット化部材。
【請求項7】
複数の電線が全体的又は部分的にフラットな形状に維持されて構成されるワイヤーハーネスのフラット化構造部であって、
前記複数の電線と、
前記電線を配線方向に沿ってスライド移動可能に配設可能な溝部が並列状に複数形成された電線支持部と、前記電線支持部から前記配線方向側方に連接された結束材巻き付け用の結束材巻付部とを有し、前記複数の電線が前記複数の溝部に配置されて前記複数の電線におけるフラット化対象部分の側方の部分を支持する電線フラット化部材と、
前記複数の電線における前記結束材巻付部に沿って延在する部分を、前記結束材巻付部と共に結束する結束材と、
を備えている、ワイヤーハーネスのフラット化構造部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−30344(P2013−30344A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165241(P2011−165241)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】