説明

電線保護材装着治具、電線保護材の装着方法及び保護材付き電線の製造方法

【課題】
本発明は、耐磨耗性及び汎用性の両方の点で優れている電線保護材装着治具、電線保護材の装着方法及び保護材付き電線の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の電線保護材装着治具1は、軸線方向にスリットSが形成された電線保護材2を、電線束Wの外周に被せて装着するものであり、支軸3を支点として開閉可能に取り付けられた第1の支持部材4及び第2の支持部材5と、第1の支持部材4及び第2の支持部材5上にそれぞれ設けられ、電線保護材2のスリットSを広げた状態に保持し、電線保護材2を電線束Wに向けて送り出す第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7と、を有し、第1の支持部材6及び第2の支持部材7を開閉することにより、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7の間隔が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保護材装着治具、電線保護材の装着方法及び保護材付き電線の製造方法に関し、特に、自動車配線用のワイヤーハーネス等の電線束の外周にコルゲートチューブ等の電線保護材を被せて装着する際に用いられる電線保護材装着治具、電線保護材の装着方法及び保護材付き電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コルゲートチューブ等の電線保護材は、樹脂製のチューブ材に中心軸線方向のスリットを形成し、このスリットを拡開することによって、電線束の外周に被せられる外装部品である。このような電線保護材を装着するために、従来より、種々の装着治具が提案されている。
【0003】
例えば、特開平10−106367号公報には、軸線方向に拡開可能なスリットが形成された電線保護材が装着されるべき電線束を受ける略U字形の底部と、底部に連続して対をなし、それぞれ底部にガイドされた電線束と斜めに交差する線上に沿う上辺を互いに平行に区画している一対の側壁部と、上記各側壁部の上辺に設けられ、それぞれ相手方の側壁部に対し離反する方向に張り出すフランジとを備え、電線保護材をフランジでガイドしながら電線束に送り出すことにより、上記スリットを拡開して電線保護材を電線束に被せる電線保護材装着治具において、上記底部に延設され、フランジから電線束に向けて送り出された電線保護材のスリット先端部を受ける補助ガイドを設けている電線保護材装着治具が提案されている。この電線保護材装着治具は、全体が樹脂製の板で作られている(以下、この技術を従来例という)。
【0004】
【特許文献1】特開平10−106367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例の電線保護材装着治具は、全体が樹脂製の板で作られており、一対の側壁部を互いに近接させた状態で、電線保護材を送り出すので、異なるサイズの内径の電線保護材に対応でき、汎用性の点で優れている。しかし、樹脂製のために耐磨耗性の点で劣り、使用による破損が発生しやすく、交換の頻度が多くなるという課題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、耐磨耗性及び汎用性の両方の点で優れている電線保護材装着治具、電線保護材の装着方法及び保護材付き電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電線保護材装着治具は、軸線方向にスリットが形成された電線保護材を、電線束の外周に被せて装着する電線保護材装着治具において、前記電線保護材のスリットを広げた状態に保持し、前記電線保護材を電線束に向けて送り出す第1のガイド部材及び第2のガイド部材と、前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材を移動させ、前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材の間隔を調整する移動手段とを有することを特徴とするものである。
【0008】
前記移動手段は、支軸を支点として開閉移動され、第1のガイド部材及び第2のガイド部材にそれぞれ連結された第1の支持部材及び第2の支持部材を有してもよい。
【0009】
前記第1の支持部材及び第2の支持部材の間隔を固定するロック部材を、さらに有してもよい。
【0010】
前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材は、金属で作られていてもよい。
【0011】
本発明の電線保護材の装着方法は、移動可能な第1のガイド部材及び第2のガイド部材を備えた電線保護材装着治具を用いて、軸線方向にスリットが形成された電線保護材を、電線束の外周に被せて装着する電線保護材の装着方法において、
前記装着すべき電線保護材のサイズに応じて、前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材を移動させて所定の間隔に調整するステップと、
前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材に前記電線保護材のスリットの両端部を当てて、前記スリットを広げた状態に保持して、前記電線保護材を電線束に向けて送り出すステップと、
前記送り出された前記電線保護材を電線束の外周に被せて装着するステップと、
を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の保護材付き電線の製造方法は、前記電線保護材の装着方法により、電線束の外周に電線保護材を装着して製造されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0014】
(1)装着すべき電線保護材のサイズに応じて、第1のガイド部材及び第2のガイド部材を移動させて所定の間隔に調整することができるので、一つの装着治具で異なるサイズの電線保護材に対応した装着が可能となり、汎用性に優れている。
【0015】
(2)各構成部材を耐磨耗性に優れた金属で作ることができるので、使用による破損を低減でき、交換の必要性がほとんどない。その結果、作業性の向上及びランニングコストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態例について図面を参照して説明する。図1(A)は本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を示す平面図、(B)はその側面図、図2は本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を示す斜視図である。
【0017】
本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具1は、軸線方向にスリットSが形成されたコルゲートチューブ等の電線保護材2(図5、図6参照)を、ワイヤーハーネス等の電線を束ねた電線束Wの外周に被せて装着するために用いられるものであり、耐磨耗性に優れた材質、例えば金属で作られているのが好ましい。
【0018】
図1(A)、(B)及び図2に示すように、本電線保護材装着治具1は、支軸3を支点として開閉可能に取り付けられた第1の支持部材4及び第2の支持部材5と、第1の支持部材4及び第2の支持部材5上にそれぞれ設けられ、電線保護材2のスリットSを広げた状態に保持して、電線保護材2を電線束Wに向けて送り出す第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7を有する。
【0019】
第1の支持部材4及び第2の支持部材5は、プライヤ(ペンチ)のように接合部3aに設けられた支軸3に取り付けられており、支軸3より前方側に、側面から見て断面略L字状の第1の連結部8及び第2の連結部9を備えており、第1の連結部8及び第2の連結部9の先端に、それぞれ第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7が設けられている。
【0020】
第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7は、全体が細長い棒状に形成されている。また、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7の先端部は、外側にやや湾曲され、かつ先細に形成されているので、送り出された電線保護材2のスリットSを拡開させた状態でスムーズに電線束Wに被せることができる。
【0021】
第1の支持部材4及び第2の支持部材5は、支軸3より後方側に、第1の連結部8に連結された第1のハンドル部10及び第2の連結部9に連結された第2のハンドル部11をそれぞれ備えている。
【0022】
第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11を開閉することにより、第1の連結部8及び第2の連結部9に設けられた第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7が閉開される。これによって、第1のガイド部材6と第2のガイド部部材7との間隔を調整することができるので、異なるサイズの内径の電線保護材2に対応することができる。
【0023】
また、同一サイズの内径の電線保護材2を連続して装着する場合には、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11の間隔を固定してブレを少なくするために、ロック部材12が用いられる。
【0024】
図3(A)及び(B)はロック部材12の構成及び動作を説明するための説明図である。図3(A)に示すように、ロック部材12は、第1のハンドル部10に設けられたピン10aに枢着された係止基板12aを備えている。係止基板12aの後方側の端面には、第2のハンドル部11上に設けられた突起部11aに係止される複数の係止溝12bが端面に沿って形成されている。
【0025】
図3(A)の点線に示すように、係止基板12aをピン10aを支点として反時計方向に回動させた後、第1のハンドル部10と第2のハンドル部11との間隔を調整し、再度、係止基板12aを時計方向に回動させて、係止基板12aの係止溝12bに第2のハンドル部11上に設けられた突起部11aを係止させることにより、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11の間隔を所定の位置で固定することができる(図3(B)参照)。
【0026】
次に、本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具1を用いて、電線保護材2を電線束Wに装着する方法について説明する。図4(A)〜(D)は本発明の実施形態例に係る電線保護材2の装着方法を概略的に説明するための説明図である。
【0027】
まず、第1の支持部材4及び第2の支持部材5の間に電線束Wが通るように電線保護材装着治具1を位置決めする(図4(A)参照)。
【0028】
次いで、装着すべき電線保護材2の内径のサイズに応じて、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11を開閉して、支軸3を支点として第1の連結部8及び第2の連結部9を回動させて、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7を所定の間隔に調整する。その際、小さいサイズの内径の電線保護材2aの場合には、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11を外側に開いて、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7の間隔を狭めるか、あるいは当接させる。これによって、小さいサイズの内径の電線保護材2aを電線束W側に送り出すことが可能となる(図5参照)。
【0029】
また、大きいサイズの内径の電線保護材2bの場合には、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11を内側に閉じて、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7の間隔を広める。これによって、大きいサイズの内径の電線保護材2bを電線束W側に送り出すことが可能となる(図6参照)。
【0030】
また、同一サイズの内径の電線保護材2を連続して装着する場合には、ロック部材12により、第1のハンドル部10及び第2のハンドル部11の間隔を固定する(図3(A)及び(B)参照)。
【0031】
次いで、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7に電線保護材2のスリットSの両端部を当てて、スリットSを広げた状態に保持して、電線保護材2を電線束Wに向けて送り出す(図4(C)参照)。
【0032】
その後、送り出された電線保護材2を電線束Wの外周に被せていく。電線束Wを覆った電線保護材2は、自己の弾性により、スリットSを閉じて電線束Wの外周に装着される(図4(D)参照)。
【0033】
本発明の実施形態例によれば、装着すべき電線保護材2の内径のサイズに応じて、支軸3を支点として第1の支持部材4及び第2の支持部材5を回動させて、第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7を移動させ、所定の間隔に調整できるので、一つの装着治具で異なるサイズの内径の電線保護材2に対応した装着が可能となり、汎用性に優れている。
【0034】
また、各構成部材を耐磨耗性に優れた金属で作ることができるので、使用による破損を低減でき、交換の必要性がほとんどない。その結果、作業性の向上及びランニングコストの低減を図ることができる。
【0035】
図7(A)はガイド部材の側面を示す図1(B)のVII−VII線断面図、(B)〜(D)はその変形例を示す断面図である。
【0036】
図7(A)に示すように、第1のガイド部材6(第2のガイド部材7)の側面は、平坦に形成されているが、電線保護材2の案内(ガイド)を確実に行うために、例えば、図7(B)に示すように、側面の上部にフランジ6aを設けてもよい。また、図7(C)に示すように、側面を内側に向かって傾斜させて形成したり、図7(D)に示すように、側面を湾曲させて形成してもよい。
【0037】
本発明は、上記実施の形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内において、種々の変更が可能である。
【0038】
例えば、第1の支持部材4及び第2の支持部材5と第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7とは一体に構成されていてもよく、また、別体の両部材を溶接又はろう付け等で接合してもよい。また、既存のプライヤ等の工具に第1のガイド部材6及び第2のガイド部材7を接合してもよい。
【0039】
また、本実施形態例では、電線束Wに装着しているが、1本の電線に装着する場合にも使用できる。
【0040】
さらに、本実施形態例では、横断面形状が円形の電線保護材2に適用されているが、これに限定されることはなく、例えば方形状、楕円状、多角形状等他の横断面形状の電線保護材にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、例えば、自動車用ワイヤーハーネス等の電線束Wの外周にコルゲートチューブ等の電線保護材2を被せて装着する作業に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(A)は本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を示す平面図、(B)はその側面図である。
【0043】
【図2】本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を示す斜視図である。
【0044】
【図3】(A)及び(B)はロック部材の構成及び動作を説明するための説明図である。
【0045】
【図4】(A)〜(D)は本発明の実施形態例に係る電線保護材の装着方法を概略的に説明するための説明図である。
【0046】
【図5】本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を用いて、小さいサイズの内径の電線保護材を装着する場合を示す斜視図である。
【0047】
【図6】本発明の実施形態例に係る電線保護材装着治具を用いて、大きいサイズの内径の電線保護材を装着する場合を示す斜視図である。
【0048】
【図7】(A)はガイド部材の側面を示す図1(B)のVII−VII線断面図、(B)〜(D)はその変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1:電線保護材装着治具
2:電線保護材
3:支軸
4:第1の支持部材
5:第2の支持部材
6:第1のガイド部材
7:第2のガイド部材
8:第1の連結部
9:第2の連結部
10:第1のハンドル部
11:第2のハンドル部
12:ロック部材
S:スリット
W:電線束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向にスリットが形成された電線保護材を、電線束の外周に被せて装着する電線保護材装着治具において、
前記電線保護材のスリットを広げた状態に保持し、前記電線保護材を電線束に向けて送り出す第1のガイド部材及び第2のガイド部材と、
前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材を移動させ、前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材の間隔を調整する移動手段と、
を有することを特徴とする電線保護材装着治具。
【請求項2】
前記移動手段は、支軸を支点として開閉移動され、第1のガイド部材及び第2のガイド部材にそれぞれ連結された第1の支持部材及び第2の支持部材を有することを特徴とする請求項1に記載の電線保護材装着治具。
【請求項3】
前記第1の支持部材及び第2の支持部材の間隔を固定するロック部材を、さらに有することを特徴とする請求項2に記載の電線保護材装着治具。
【請求項4】
前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材は、金属で作られていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つの項に記載の電線保護材装着治具。
【請求項5】
移動可能な第1のガイド部材及び第2のガイド部材を備えた電線保護材装着治具を用いて、軸線方向にスリットが形成された電線保護材を、電線束の外周に被せて装着する電線保護材の装着方法において、
前記装着すべき電線保護材のサイズに応じて、前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材を移動させて所定の間隔に調整するステップと、
前記第1のガイド部材及び第2のガイド部材に前記電線保護材のスリットの両端部を当てて、前記スリットを広げた状態に保持して、前記電線保護材を電線束に向けて送り出すステップと、
前記送り出された前記電線保護材を電線束の外周に被せて装着するステップと、
を有することを特徴とする電線保護材の装着方法。
【請求項6】
前記請求項5に記載された電線保護材の装着方法により、電線束の外周に電線保護材を装着して製造されることを特徴とする保護材付き電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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