説明

電線及びそれを用いたワイヤーハーネス

【課題】撚線導体の直径を大きくすることなく引張り強度を高めることができ、導電性の低下も少なく、廃棄物になったときの処理も容易な、ワイヤーハーネス用の電線を提供する。
【解決手段】中心素線2の周りに複数本の外周素線3を撚り合わせてなる撚線導体4と、この撚線導体の周りに設けられた樹脂被覆5とを有する電線であって、中心素線2の直径は0.09〜0.3mm、撚線導体4の直径Dは0.28〜0.6mmであり、中心素線2は硬質のCu−Ag合金線からなり、外周素線3は軟質又は硬質のCu−Sn合金線からなる電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに好適な電線と、それを用いたワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車内配線には、多数の電線を束ねたワイヤーハーネスが使用されている。ワイヤーハーネスに用いられる電線としては、複数本の銅素線を撚り合わせて撚線導体とし、この撚線導体に樹脂被覆を施してなるものが一般的である。その典型的な例を図5に示す。この電線1は、中心素線2の周りに6本の外周素線3を撚り合わせて撚線導体4とし、この撚線導体4の周りに樹脂被覆5を施したものである。中心素線2及び外周素線3は、いずれも同じ材質で、銅又は銅合金が使用される。また中心素線2及び外周素線3は、いずれも同径である。
【0003】
このような電線の電気的接続には圧接端子が用いられることが多い。その一例を図5に併せて示す。圧接端子6は、硬い金属板に電線1が押し込まれるスロット7を形成したものである。スロット7の両側は刃8になっていて、刃8の間隔Sは電線1の撚線導体4の直径Dより小さく設定されている。このため、電線1をスロット7に押し込むと、樹脂被覆5が刃8によって切り裂かれると共に、刃8が撚線導体4に食い込んで、簡単に電気的接続状態を得ることができる。
【0004】
ところで、自動車用電線では、用途に応じて引張り強度の異なるものを使い分けたいというニーズがある。ところが、自動車用電線は、撚線導体の直径が規格によって段階的に定められているため、電気的性能は同じでも、より高い引張り強度が要求される場合には、直径が1段階又は2段階上の太い撚線導体を使用することで対処するのが一般的であった。しかし、太い撚線導体を使用することは、自動車用電線の細径化、軽量化の流れに逆行することとなる。
【0005】
そこで、撚線導体の直径を変えずに引張り強度を高めるため、特許文献1には、中心素線にステンレス鋼線を使用し、その周りに銅又は銅合金線を撚り合わせてなる撚線導体を使用した電線も提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−158450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、中心素線にステンレス鋼線を使用し、その周りに銅又は銅合金線を撚り合わせた撚線導体は、確かに直径を大きくすることなく引張り強度を高めることができるものの、ステンレス鋼線の導電性が極めて低いため、撚線導体としての電気抵抗が高くなり、十分な導電性能を得ることが困難である。また、ステンレス鋼線と銅又は銅合金線が混撚りされているため、電線が廃棄物となったときに、ステンレス鋼線と銅又は銅合金線の分別回収が難しいという問題もある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、撚線導体の直径を大きくすることなく引張り強度を高めることができ、導電性の低下も少なく、廃棄物になったときの処理も容易な電線と、それを用いたワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため、本発明に係る電線は、中心素線の周りに複数本の外周素線を撚り合わせてなる撚線導体と、この撚線導体の周りに設けられた樹脂被覆とを有する電線であって、
前記中心素線の直径は0.09〜0.3mm、撚線導体の直径は0.28〜0.6mmであり、
前記中心素線は硬質のCu−Ag合金線からなり、前記外周素線は軟質又は硬質のCu−Sn合金線からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記のように構成された電線を複数本、集合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
硬質(焼鈍をしていない)のCu−Ag合金線は、軟銅線の80%程度の導電率を有し、しかも引張り強度が軟銅線の3〜5倍もある。また、軟質(焼鈍をした)又は硬質(焼鈍をしていない)のCu−Sn合金線は、軟銅線の50〜70%の導電率を有しながら、引張り強度が銅線の2〜2.5倍程度あり、Cu−Ag合金線よりも軟らかく圧接端子の刃の食い込み性も良好である。したがって中心素線にCu−Ag合金線を使用し、外周素線にCu−Sn合金線を使用した撚線導体は、全素線が軟銅線の撚線導体に比べ、導電性能を大きく低下させることなく、高い引張り強度を得ることができると共に、圧接端子の刃の食い込み性も良好である。さらに、この撚線導体は全体が銅系合金で構成されていることから、電線が廃棄物となったときの有用金属回収処理も容易である。
【0012】
また、本発明に係る電線は、高い引張り強度が要求されても、直径の増大を抑えることができ、また引張り強度の要求が同程度であれば、撚線導体の直径を小さくすることができるため、この電線をワイヤーハーネスに用いることにより、ワイヤーハーネスの小径化、軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1ないし図4はそれぞれ本発明に係る電線の実施形態を示す。図において、1は電線、4は中心素線2の周りに複数本の外周素線3を撚り合わせてなる撚線導体、5は撚線導体4の周りに設けられた樹脂被覆である。
【0014】
図1の電線1の撚線導体4は、中心素線2の周りに、中心素線2と同径の外周素線3を6本撚り合わせたものである。
図2の電線1の撚線導体4は、中心素線2の周りに、中心素線2よりも小径の外周素線3を7本、素線同士が隣接するように撚り合わせたものである。
図3の電線1の撚線導体4は、中心素線2の周りに、中心素線2よりも小径の外周素線3を8本、素線同士が隣接するように撚り合わせたものである。
図4の電線1の撚線導体4は、中心素線2の周りに、中心素線2よりも大径の外周素線3を5本、素線同士が隣接するように撚り合わせたものである。
【0015】
いずれの電線1も、中心素線2の直径は0.09〜0.3mm、撚線導体4の直径Dは0.28〜0.6mmであり、中心素線2は硬質のCu−Ag合金線で構成され、外周素線3は軟質又は硬質のCu−Sn合金線で構成されている。
【0016】
本発明において、中心素線2に硬質のCu−Ag合金線を用いるのは、Cu−Ag合金線は、軟銅線の約80%の導電率を有し、しかも引張り強度が軟銅線の3〜5倍もあるため、ステンレス鋼線を用いる場合に比べ、中心素線にも十分電流を流すことができ、撚線導体4としての導電性を良好に維持しつつ、引張り強度を高めることができるからである。具体的には、軟銅線の引張り強度は、一般に190MPaであるが、Cu−Ag合金線の引張り強度は同じ直径で580〜1150MPaである。
【0017】
また、外周素線3にCu−Sn合金線を用いる理由は、軟質又は硬質のCu−Sn合金線は、軟銅線の50〜70%の導電率を有しながら、引張り強度が銅線の2〜2.5倍程度あり、撚線導体4の導電性を実質的に損なうことなく、引張り強度を高めることができると共に、Cu−Ag合金線よりも軟らかく、軟銅線よりも硬いため、圧接端子の刃の食い込み性が良好で、食い込み状態の安定性も良好であるからである。
【0018】
したがって、中心素線2にCu−Ag合金線を用い、外周素線3にCu−Sn合金線を用いた撚線導体4は、導電性を実質的に損なうことなく、また直径を大きくすることなく、引張り強度を大きくすることができ、また引張り強度の要求が同程度であれば、直径を小さくすることができる。具体的には、例えば直径約0.5mmで70N以上の破断強度を確保でき、0.13mmサイズまで細径化することが可能である。したがって、本発明に係る電線を用いることにより、ワイヤーハーネスの小径化、軽量化を実現でき、電気機器等の小型化に伴う制御回路の小型化の要請に応え、より狭いスペースにおける配線が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る電線の一実施形態を示す断面図。
【図2】同じく他の実施形態を示す断面図
【図3】同じくさらに他の実施形態を示す断面図
【図4】同じくさらに他の実施形態を示す断面図
【図5】従来の電線を圧接端子に接続した状態を示す正面図。
【符号の説明】
【0020】
1:電線
2:中心素線
3:外周素線
4:撚線導体
5:樹脂被覆
6:圧接端子
7:スロット
8:刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心素線の周りに複数本の外周素線を撚り合わせてなる撚線導体と、この撚線導体の周りに設けられた樹脂被覆とを有する電線であって、
前記中心素線の直径は0.09〜0.3mm、撚線導体の直径は0.28〜0.6mmであり、
前記中心素線は硬質のCu−Ag合金線からなり、前記外周素線は軟質又は硬質のCu−Sn合金線からなることを特徴とする電線。
【請求項2】
請求項1記載の電線を複数本集合してなるワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−91283(P2008−91283A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273578(P2006−273578)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】