説明

電線結束方法

【課題】 隣接する電線間をピンホール(隙間)を生じることなく、樹脂材料で完全に埋め尽くした状態で複数の電線を簡便に結束でき、電線の結束部の充分な防水性能を達成することができる電線結束方法の提供。
【解決手段】 各電線の結束部位となる箇所にそれぞれ樹脂製テープを巻き付け、該結束部位で複数本の電線をまとめ、該結束部位を加熱することで樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化させることを特徴とする電線結束方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電線を結束するための電線結束方法に関し、更に詳しくは、複数の電線を隣接する電線間に隙間がなく、樹脂材料で完全に埋めた状態で結束でき、電線の結束部に充分な防水性能が確保される簡便な電線結束方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジンルームと運転席との間を仕切る隔壁の穴等に通される複数の電線は、電線相互の間隙からの水の浸入を防ぐために、複数の電線を封止材により結束することが行われている。この場合の結束方法としては、いくつかの方法が知られている。例えば、液状のウレタン或いはシリコン樹脂を電線間に注入し、固化させることにより電線を一体化させる方法がある。又、図3に示すような櫛状に成型された封止材を使用する方法の提案がある(特許文献1参照)。この方法では、櫛状に成型された封止材の溝に電線の結束予定部位が挿入される。そして、結束対象の全ての電線を複数の封止材によって保持し、その後、電線の結束予定部位の外周に、弾性収縮力を持つ磁性体が添加された耐熱ゴム製の弾性グロメットを嵌め合わせ、その弾性収縮力によって、電線の結束予定部位の外周を加圧することで、複数の電線を拘束する(図4参照)。そして、更に、該グロメットの外方から封止材に高周波をかけ、交流磁界内において、グロメットの構成材料である磁性体を誘導加熱し、その発熱によって封止材を溶融させると同時に、グロメットの弾性収縮力により、溶融した封止材材料を加圧して電線の間に流し込んで、複数の電線を結束している。
【0003】
又、ホットメルトを環状に折り曲げ可能に波板状に加工した電線保持材を、封止材とする方法の提案もある(特許文献2参照)。この方法で使用される封止材であるホットメルトは、図5に示すように、R状のヒンジを介して隣接した複数の電線保持部材(波板の谷の部分)を有し、この保持部材はヒンジを介して環状に折り曲げ可能に形成されている。各保持部材は、断面が略C字形状を有し、電線を1本ずつ保持可能になっている。そして、電線を結束する際には、各保持部材のC字形状の部分に電線を1本ずつ保持させ、図6に示すように、この状態のホットメルトを環状に巻き、その後、ホットメルトの外周部に熱収縮チューブを巻回した後、熱収縮チューブ及びホットメルトを熱風等によって加熱する。この結果、ホットメルトが溶融して電線の間に回りこんで、複数の電線間の隙間を埋め、結束が完了する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−27221号公報
【特許文献2】特開2000−188024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの従来の方法では、基本的に、封止材或いはホットメルトを溶融させる前の状態において、電線の周りが、封止材或いはホットメルトで(即ち、これらを構成している溶融材料で)覆われていない部分があり、電線同士が接する可能性がある。又、保持した部分から電線が離れ、電線同士が接する可能性もある。このような状態において材料を溶融させて、複数の電線を結束させた場合には、隣接している電線によって形成された間隙に溶融材料が入っていかないで、電線間に、溶融材料が充填されない隙間を生じる可能性がある。例えば、図7に示したように3本の電線を結束した場合に、3本の電線間に溶融材料が充填されていないピンホールが生じることがあり、このピンホールによって結束部の防水性が低下することが懸念される。
【0006】
従って、本発明の目的は、隣接する電線間を、上記したようなピンホール(隙間)を生じることなく、樹脂材料で完全に埋め尽くした状態で複数の電線を簡便に結束でき、これにより、電線の結束部の充分な防水性能を達成することができる電線結束方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、適切な融点、厚み、サイズ等を持った樹脂製のテープを封止材として選択し、該樹脂製テープを、結束する複数の電線の所望の位置(結束部位)に1本毎巻き付けて、この結束部位で複数の電線をまとめ、テープが巻き付けられている部分を加熱する方法によれば、溶融した樹脂が確実に電線間の隙間を埋め、防水効果に優れた結束電線が得られることを見出して本発明に至った。
【0008】
即ち、前記した目的は、下記の本発明によって達成される。本発明は、(1)各電線の結束部位となる箇所にそれぞれ樹脂製テープを巻き付け、該結束部位で複数本の電線をまとめ、該結束部位を加熱することで樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化させることを特徴とする電線結束方法である。
【0009】
好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。(2)樹脂製テープの片面或いは両面に粘着剤が塗布されている上記(1)に記載の電線結束方法。(3)更に、結束部位で複数本の電線をまとめ、熱収縮製チューブに該結束部位を挿入し、該熱収縮製チューブを加熱する上記(1)又は(2)に記載の電線結束方法。(4)樹脂製テープ中に、或いは樹脂製テープ及び熱収縮製チューブ中に磁性粉を混入させて、加熱を高周波によって行う上記(1)〜(3)のいずれかに記載の電線結束方法。
【0010】
本発明の別の実施形態は、(5)その片面或いは両面に粘着剤が塗布されている樹脂製テープを巻き付けた電線を予め用意しておき、電線結束時に必要な本数の電線を結束部位でまとめ、該結束部位を加熱することで樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化させることを特徴とする電線結束方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電線結束方法は、簡便な方法でありながら、溶融した樹脂が確実に電線同士の隙間を埋め、防水効果に優れた結束電線が得られる。先ず、本発明で用いる樹脂製テープは、電線の所望する部位に簡単に巻き付けることができ、又、樹脂製テープの巻き付け回数を変えることによって、テープの巻き付け厚みを容易に調整できる。このため、樹脂製テープを適切な状態となるように電線に巻き付けることで、各電線に巻き付けた樹脂製テープを加熱融着することで、電線間に隙間を生じること無く複数の電線を結束することができる。又、本発明の好ましい形態として、樹脂製テープの片面或いは両面に粘着剤を塗布することにより、電線の所望する部位に、樹脂製テープを確実な状態に巻き付けることができる。更に、予め封止材である樹脂製テープを巻き付けた状態の電線を用意しておく形態の本発明によれば、作業現場で電線に封止材を取り付ける手間が省け、工程の時間短縮にもなり、簡便に結束電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明で用いる電線は、従来より使用されているものであるが、通常、ポリ塩化ビニル樹脂、架橋ポリエチレン等で絶縁被覆されている。本発明では、このような電線の周りに樹脂製テープを巻き付け、該樹脂製テープを電線用の封止材として用いる。従って、樹脂性テープの材料としては、上記絶縁被覆材と密着性が良好なものを用いることが好ましい。樹脂製テープは、樹脂製テープを溶融した場合に良好な結束部位が形成されるように、適切な厚みと幅を有するものを用いることが好ましい。本発明で用いる樹脂製テープは、その片面或いは両面に粘着剤を塗布したものであることが好ましい。粘着剤を塗布した樹脂製テープを使用することで、電線の所望する位置に、所望の厚み或いは幅に樹脂製テープを巻き付けることが、より容易になる。
【0013】
本発明にかかる方法では、先ず、樹脂製テープを、複数本の電線を結束する予定の所望の位置(結束部位)に巻き付ける。電線に樹脂製テープを巻き付ける方法としては、手で巻き付けてもよいし、或いは巻き付け装置を用いて行ってもよい。本発明で使用する、封止材である樹脂製テープが巻き付けられた状態の電線の様子を示す模式的な斜視図を、図1(a)に示した。本発明にかかる方法では、次に、このような樹脂製テープが巻き付けられた状態の電線を複数本、結束部位でまとめる(図1(b)参照)。複数本の電線をまとめる場合に束ねる等してもよい。
【0014】
次に、まとめられた状態の結束部位を加熱し、封止材としての樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化する。この際に、樹脂製テープを巻き付けた結束部位が複数まとめられた状態で良好な加熱ができるように、例えば、冶具で、結束する複数本の電線を固定する等して、然る後、結束部位に熱風を吹き付ける等の方法で加熱すればよい。その他の方法としては、図2に示したように、熱収縮チューブを用い、複数本の電線を熱収縮チューブに挿入し、電線に樹脂製テープを巻き付けた結束部位が複数まとめられた部分が、熱収縮チューブで囲まれるようにし、然る後、熱収縮チューブの部分を熱風を吹き付けるして加熱する方法が挙げられる。このような熱収縮チューブを用いた方法によれば、熱収縮チューブの熱収縮によって、樹脂製テープの融着による一体化を更に促進することができる。
【0015】
その他の方法としては、封止材である樹脂製テープや熱収縮チューブの中に、予め磁性粉体を混入させておき、加熱を高周波によって行う方法が挙げられる。この場合には、高周波により磁性粉が誘導加熱され、それによって封止材及び熱収縮チューブが加熱されて、溶融した樹脂製テープは電線の周囲を被覆し、融着して一体化し、電線間の隙間をなくした状態で複数本の電線が結束される。
【0016】
更に、上記したそれぞれの場合において、樹脂製テープの加熱融着を減圧下で行えば、溶融テープ間に生じる欠陥をより減少させることができる。又、弾性収縮力をもつ弾性材料製グロメットに、束ねた状態の複数の電線を挿入した状態で加熱した場合には、溶融樹脂は、電線間の隙間を埋めながら電線の長さ方向に拡がる。上記に列挙した方法によれば、樹脂製テープが溶融することで、その樹脂は確実に電線を被覆し、又、融着して一体化された封止材には隙間はない。これにより、防水性に優れた結束電線が得られる。
【0017】
本発明で使用する封止材である樹脂製テープに用いる樹脂としては、加熱溶融性を有し、絶縁被覆電線への密着性(即ち、絶縁被覆用のポリマーと親和性がある)、耐水性、耐熱性等の物性に優れた樹脂であればよく、特に限定されない。このような樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレン;エチレン−塩化ビニルコポリマー、エチレン−塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−アクリル酸エステルコポリマー、エチレン−メタクリル酸コポリマー、エチレン−メタクリル酸エステルコポリマー、エチレン−α−オレフィンコポリマー、アイオノマー、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸コポリマー等のエチレン系コポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアセタール樹脂、ポリアミド、ポリアリレート、熱可塑性エラストマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブチレン、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、トランス1,4−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン、イソブチレンコポリマー、エチレン−ポリプロピレンコポリマー、ブタジエン−スチレンコポリマー樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンコポリマー樹脂、ポリプロピレン系コポリマー、ウレタン系コポリマー、エステル系コポリマー、アミド系コポリマー、塩化ビニル系コポリマー、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ふっ素樹脂等が挙げられるが、これらの樹脂より選ばれた1種の樹脂、又は2種以上の樹脂のポリマーブレンド或いはポリマーアロイ等が用いられる。
【0018】
上記に挙げたような材料からなる樹脂製のテープは、可撓性を有し、柔らかいので電線に巻き付けることは非常に容易である。先に述べたように、テープの片面或いは両面に粘着剤を塗布したものを用いれば、巻き付けたテープが電線より脱落することを有効に防止でき、より作業性に優れたものとなる。
【0019】
この際に用いる粘着剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニルコポリマー系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、アクリル(コ)ポリマー系、ポリウレタン系等のホットメルト系粘着剤;ポリ塩化ビニル系、エポキシ樹脂系、エチレン−酢酸ビニルコポリマー系、酢酸ビニル−アクリルコポリマー系、ポリ酢酸ビニル系等のエマルジョン系粘着剤;天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、メチルメタアクリレート−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ポリウレタンゴム等のゴムラテックス系粘着剤;シリコン系粘着剤等が用いられる。
【0020】
上記したような構成からなる本発明の方法によれば、加熱することで、電線に巻き付けた封止材である樹脂製テープを溶融した場合に、樹脂製テープが各電線の周りを完全に覆った状態となっているため、封止材同士が融着し一体化すると、各電線間の隙間がなくなり、この結果、結着部位における充分な防水性が達成される。更に、本発明によれば、結束部位に封止材である樹脂製テープを予め巻き付けた電線を用意しておくことによって、作業現場で電線に封止材を取り付けるといった手間を要することなく、作業現場で、複数の電線の結束部位をまとめて、結束部位を熱風等で加熱するといった極めて観念な作業だけで、上記した良好な状態で複数本の電線の結着をすることができる。
【実施例】
【0021】
下記に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。封止材として、裏面に粘着剤層(ブチルゴム系粘着剤)を有する有機溶剤不溶型の共重合ポリエステル製樹脂テープ(厚み50μm、幅25mm)を用いた。そして、該テープを、塩化ビニル樹脂製絶縁被覆層を有する電線(外径2mm)の所望の位置に、手で0.25mmの厚みとなるように巻き付けた。更に、上記と同様の方法で、同様の電線に、同様の樹脂テープを巻き付けた電線を9本用意した。次に、これらの10本の電線を束ね、樹脂テープを巻き付けた結束する予定の部分をまとめて、この部分を熱収縮性チューブで覆った。次に、この熱収縮性チューブの両端をエナメル線を巻き付けて固定し、150℃のオーブンに5分間垂直に吊り下げて樹脂テープを溶融させて、10本の電線を融着一体化させた。
【0022】
次に、オーブンから結束された状態の電線を取り出して冷却後、下記の方法で結束状態の確認を行った。結束部位の片側を水に浸し、反対側から100kPaの圧力で1分間加圧した。その結果、気泡の発生は見られず、結束部位に隙間がないことが確認された。又、電線の結束部をカッターで切断し、断面を光学顕微鏡で観察したところ、電線間の隙間は樹脂で埋め尽くされて、ピンホールがないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の電線結束方法は、結束部に充分な防水性能を確保することができ、例えば、自動車等における複数の電線をまとめてエンジンルームと運転席との隔壁を通して配線する場合等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】樹脂製テープ封止材を電線に巻きつけた状態、及び複数の電線をまとめた状態を説明する斜視図である。
【図2】樹脂製テープ封止材を巻き付けた電線束を熱収縮チューブに挿入した状態及び熱収縮チューブを加熱収縮させた状態を説明する概略断面図である。
【図3】従来の封止材を説明する斜視図である。
【図4】従来の封止材を弾性グロメットに挿入した状態を説明する概略断面図である。
【図5】従来の封止材を説明する斜視図である。
【図6】従来の封止材を熱収縮チューブに挿入した状態を説明する概略断面図である。
【図7】従来の封止材を加熱溶融し、電線間にピンホールが発生した状態を説明する概略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各電線の結束部位となる箇所にそれぞれ樹脂製テープを巻き付け、該結束部位で複数本の電線をまとめ、該結束部位を加熱することで樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化させることを特徴とする電線結束方法。
【請求項2】
樹脂製テープの片面或いは両面に粘着剤が塗布されている請求項1に記載の電線結束方法。
【請求項3】
更に、結束部位で複数本の電線をまとめ、熱収縮製チューブに該結束部位を挿入し、該熱収縮製チューブを加熱する請求項1又は2に記載の電線結束方法。
【請求項4】
樹脂製テープ中に、或いは樹脂製テープ及び熱収縮製チューブ中に磁性粉を混入させて、加熱を高周波によって行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線結束方法。
【請求項5】
その片面或いは両面に粘着剤が塗布されている樹脂製テープを巻き付けた電線を予め用意しておき、電線結束時に必要な本数の電線を結束部位でまとめ、該結束部位を加熱することで樹脂製テープを溶融して、複数本の電線を融着一体化させることを特徴とする電線結束方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−85950(P2006−85950A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267477(P2004−267477)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)