説明

電線評価方法および電線評価システム

【課題】 現場作業に依存することなく、また環境の影響を考慮して、電線を評価することを可能にする電線評価方法および電線評価システムを提供する。
【解決手段】 鉄塔110を介在して架線されると共に端部同士がジャンパ線130で接続されている送電線120の劣化を評価する電線評価システムであって、送電線120の診断時期が到来したときに測定された引張荷重であって、サンプリングで得られたジャンパ線130の引張荷重の測定値を入力する入力装置2と、ジャンパ線130の引張荷重の規格値、この規格値から算出した初期値、およびジャンパ線の最大使用張力から算出した安全値と、入力装置2に入力された測定値との比較結果から、送電線120の劣化を評価するコンピュータ本体1とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電線の劣化を評価する電線評価方法および電線評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔で支持されている送電線や配電線等の架空電線については、需要家に安定して電力を供給するために、点検時期が規定されている。架空電線の点検時期になると、作業者は現場で鉄塔に昇り、電線劣化を診断するために、目視点検等による診断を行いながら架空電線に沿って移動する。電線劣化診断には、例えば架空電線に渦電流を誘起させ、発生した渦電流の状態を調べることにより、電線の劣化を判別する渦流探傷の手法がある。こうした手法により、電線の劣化、特に電線内部の腐食を診断している。電線内部の腐食は目視点検で発見することが困難であり、電線内部の腐食により、電線が発熱して溶断する場合もある。
【0003】
このような点検の手間を省いた、架空電線の劣化診断方法が例えば特許文献1に記載されている。この方法によれば、鉄塔などで支持された架空電線と同等の電線の性能劣化度を測定して、測定データを得る。また、鉄塔周辺の腐食因子を室内で模擬させた試験室で、劣化診断対象の架空電線と同様なサンプル電線に対して劣化試験を行い、性能の劣化度を測定して、電線劣化度のマスターカーブを作成する。この後、測定データとマスターカーブとを照合させて、敷設されている架空電線の余寿命を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−64610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、架空電線は各種の環境下で使用されている。例えば、海岸に近い場所に敷設された架空電線には海塩粒子が飛来して付着し、架空電線の腐食原因となる。また、工業地帯に敷設された架空電線には各種の生成物が付着して、同じく架空電線の腐食原因となる。このように、各種の環境下で架空電線は運用されている。しかし、先に述べたマスターカーブを用いる劣化診断の手法では、架空電線が敷設されている環境の影響を考慮して、電線の劣化診断をすることはできない。
【0006】
この発明の目的は、前記の課題を解決し、現場作業に依存することなく、また環境の影響を考慮して、電線を評価することを可能にする電線評価方法および電線評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、鉄塔を介在して架線されると共に端部同士がジャンパ線で接続されている架空電線の劣化を評価する電線評価方法であって、架空電線の診断時期が到来すると、サンプリングで得たジャンパ線の引張荷重を測定し、ジャンパ線の引張荷重の規格値、この規格値から算出した初期値、およびジャンパ線の最大使用張力から算出した安全値と、ジャンパ線の引張荷重の測定値との比較結果から、架空電線の劣化を評価する、ことを特徴とする電線評価方法である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電線評価方法において、ジャンパ線の測定値が規格値と初期値との間にあるとき、架空電線が架線された時期から診断時期までの経過期間と、ジャンパ線の引張荷重が初期値から測定値まで変化したときの変化幅とから、ジャンパ線の測定値が規格値に到達するまでの到達時期を算出し、この到達時期を次の診断時期にすると判断する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の電線評価方法において、ジャンパ線の測定値が安全値と規格値との間にあるとき、架空電線が架線された時期から診断時期までの経過期間と、ジャンパ線の引張荷重が初期値から測定値まで変化したときの変化幅とから、ジャンパ線の測定値が安全値に到達する時期を算出し、この到達時期までに架空電線の改修を計画すると判断する、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線評価方法において、ジャンパ線の測定値が安全値より低いとき、改修を直ちに計画すると判断する、ことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線評価方法において、架空電線が架線されている地帯を環境に応じて区分し、区分された地区に設置されている鉄塔から、ジャンパ線をサンプリングする鉄塔を少なくとも1つ前もって設定し、架空電線の診断時期が到来すると、あらかじめ設定された鉄塔のジャンパ線の引張荷重を測定する、ことを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、鉄塔を介在して架線されると共に端部同士がジャンパ線で接続されている架空電線の劣化を評価する電線評価システムであって、架空電線の診断時期が到来したときに測定された引張荷重であって、サンプリングで得られたジャンパ線の引張荷重の測定値を入力する入力手段と、ジャンパ線の引張荷重の規格値、この規格値から算出した初期値、およびジャンパ線の最大使用張力から算出した安全値と、前記入力手段に入力された測定値との比較結果から、架空電線の劣化を評価する評価手段と、を備えることを特徴とする電線評価システムである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1および請求項6の発明によれば、ジャンパ線の引張荷重の規格値、初期値および安全値と、サンプリングしたジャンパ線の引張荷重の測定値とを比較して、架空電線の状態を調べるので、架空電線に対する現場作業に依存することなく、架空電線の劣化を評価することを可能にする。
【0014】
請求項2の発明によれば、ジャンパ線の測定値が規格値と初期値との間にあるときには、次の診断時期を明確にすることを可能にする。
【0015】
請求項3の発明によれば、ジャンパ線の安全値と測定値との間にあるときには、架空電線の改修を計画する期限を判定することを可能にする。
【0016】
請求項4の発明によれば、ジャンパ線の測定値が安全値より低いときには、改修を直ちに計画することを可能にする。
【0017】
請求項5の発明によれば、環境に応じて区分された地区からジャンパ線をサンプリングするので、環境の影響を考慮して架空電線の劣化を評価することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1による電線評価システムを示す構成図である。
【図2】鉄塔設備を説明する図であり、図2(a)は鉄塔全体を示す図、図2(b)は図2(a)の破線部分を拡大した図である。
【図3】鉄塔テーブルの一例を示す図である。
【図4】ジャンパ線特性テーブルの一例を示す図である。
【図5】診断管理テーブルの一例を示す図である。
【図6】汚損区分を説明する図である。
【図7】最初の診断年度を説明する図である。
【図8】劣化評価処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図10】送電線の劣化評価を説明する図である。
【図11】送電線の劣化評価を説明する図である。
【図12】送電線の劣化評価を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。以下の実施の形態では、架空電線として送電線を例として説明する。
【0020】
この実施の形態による電線評価システムを図1に示す。この電線評価システムは、送電線の評価を行うコンピュータシステムであり、コンピュータ本体1、入力装置2、表示装置3およびプリンタ4を備えている。電線評価システムは、送電線の評価を行う際に、ジャンパ線のデータを用いる。例えば図2(a)に示す鉄塔110において、図2(b)に示すように、送電線120の端部同士を連結するジャンパ線130は送電線と同様な環境に置かれている。この結果、ジャンパ線130の劣化と送電線120の劣化には相関関係がある。一方、運用されている送電線120をサンプリングして、その劣化状態を評価するのは困難であるが、ジャンパ線130であれば、サンプリングが可能である。したがって、この実施の形態による電線評価システムでは、ジャンパ線130のデータを用いて送電線120の評価を行っている。
【0021】
電線評価システムの入力装置2は、キーボードやマウス等のような、担当者によって操作される装置である。表示装置3およびプリンタ4は共に出力装置である。表示装置3は、送電線の劣化評価の結果等を表示するLCD(液晶ディスプレイ)のような装置であり、プリンタ4は、送電線の劣化評価の結果等をプリントする装置である。
【0022】
コンピュータ本体1は、インターフェース11、16、RAM(Random Access Memory)12、処理部13、記憶装置14および表示制御部15を備えている。インターフェース11は、入力装置2を処理部13に接続するためのものであり、インターフェース16は、プリンタ4を処理部13に接続するためのものである。表示制御部15は、処理部13の制御によって、画像を表示するための画像信号を生成して表示装置3に送る。RAM12は、データ処理のためにプログラム等を一時的に記憶するメモリであり、記憶装置14は、コンピュータとして必要なプログラムや、電線評価システムに必要とするプログラム、電線評価に用いるデータ等を記憶しているハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)のようなものである。
【0023】
記憶装置14が記憶しているデータには鉄塔テーブルがある。鉄塔テーブルには、送電線の各線路に設置されている鉄塔に関するデータが記録されている。この鉄塔テーブルの一例を図3に示す。図3の鉄塔テーブルには、送電線の各線路に設置されている鉄塔の番号、鉄塔の設置年数、鉄塔で送電線を連結するジャンパ線のサイズや線種などが記録されている。
【0024】
記憶装置14が記憶しているデータにはジャンパ線特性テーブルがある。ジャンパ線特性テーブルには、鉄塔テーブルに記録されている各ジャンパ線の特性を表すデータが記録されている。このジャンパ線特性テーブルの一例を図4に示す。図4のジャンパ線特性テーブルには、ジャンパ線の線種、サイズ、規格値、最大使用張力などが記録されている。
【0025】
記憶装置14が記憶しているデータには診断管理テーブルがある。診断管理テーブルには、送電線の劣化診断に関するデータが記録されている。この診断管理テーブルの一例を図5に示す。図5の診断管理テーブルには、送電線の路線名、路線が通る汚損区分、送電線の線種およびサイズ、送電線が架線された年度、送電線の最初の診断年度、送電線の診断の際にジャンパ線がサンプリングされる鉄塔を表す診断対象、診断で測定された引張強度、次回の診断予定などが記録されている。
【0026】
診断管理テーブルの汚損区分は、次のように区分されている。送電線の劣化原因の主なものとして、海からの海塩と、工場や産廃の排煙とがある。そこで、この実施の形態では、送電線が架線された地帯が、塩分量の薄い順に、A地区〜E地区の5つの地区に区分し、
A地区…最も塩分量の薄い地区
E地区…最も塩分量の多い地区
としている。塩分量としては、単位面積当たりの塩分付着量などがある。例えば、図6に示すように、海岸からの距離に応じて、送電線が架線されている地帯が区分されている。工場や産廃の排煙が発生する地区を、この実施の形態では、
産廃・工場地区…産廃処理場や工場がある地区
としている。先の図6では、工場の有無に応じて、送電線が架線された地帯が区分されている。
【0027】
診断管理テーブルの診断年度は、送電線を架線してから、この送電線を最初に診断する年度を表している。この実施の形態では、ACSR(鋼心アルミより線)、AC(アルミ覆鋼より線)等の送電線の劣化診断が前もって行われている。そして、劣化診断の結果を基にして、診断年度が決められている。
【0028】
例えばA地区の場合、図7に示すように、送電線の規格値と、規格値の1.1倍を初期値とした場合に、撤去電線等を引張試験機で試験し、送電線が破断するときの引張荷重を求める。なお、送電線は、通常、規格値に対して110%以上の余裕をみて作られているので、規格値の1.1倍を初期値としている。この後、送電線の各使用年度における引張荷重を測定点とし、各測定点を描いたものが図7である。さらに、すべての測定点を包括する包括線を、初期値を始点として求める。つまり、測定点が表す引張荷重と、この測定点の使用年数に該当する引張荷重であって、包括線が表す引張荷重との差が常に正の値となるように、包括線を求める。そして、包括線が表す引張荷重が規格値になる使用年数T0を、最初の診断年数としている。残りの地区も同様にして、最初の診断年数を求めている。なお、産廃・工場地区のように、送電線に対する被煙の量などが、工場等の個別の影響を強く受ける場合には、最初の診断年数を任意に設定しておく。また、送電線として中防食電線や重防食電線が用いられている場合には、中防食電線や重防食電線に応じて、A地区〜E地区の最初の診断年数を同じにしてもよい。
【0029】
診断管理テーブルの診断対象は送電線の劣化診断をする際に利用される鉄塔を表す。この実施の形態では、先に述べたように、送電線の劣化診断をするときに、送電線を直接診断するのではなく、鉄塔において送電線の端部同士を連結するジャンパ線を利用している。このとき、多数ある鉄塔の中から、次のようにして診断対象が選定されている。まず、汚損区分が例えばA地区である場合、架線からの年数が最も経過している区間を抽出する。抽出した区間において、海岸から距離が最も短い区間を抽出する。そして、抽出した区間に設置されている鉄塔の中から、周辺環境を考慮して診断対象が選定される。例えば、この選定に際して、周辺環境を考慮した次の条件が考慮される。
a.海側に風の遮蔽物がない箇所
b.風の収束する谷や河川を送電線が横断する箇所
c.工場等の重要物を送電線が横断する箇所
さらに、次の特記事項も条件として考慮される。
d.同一の汚損区分内に異なる種別の電線が用いられている区間がある場合、それぞれに診断対象を選定する
e.海岸からの距離が同じようなルートが連続している場合に、1箇所の診断結果で汚損区分全体の劣化傾向を判断することが困難なとき、所定数の径間に1箇所程度の診断対象を選定する
f.同一汚損区分が他の汚損区分を挟んで両側に存在する場合に、1箇所の診断結果で汚損区分全体の劣化傾向を判断することが困難なとき、それぞれの区分で診断対象を選定する
g.担当の箇所毎に診断対象を選定することが基本であるが、他所の診断結果で自所の劣化傾向の把握が可能な場合や、それぞれの所で選定した診断対象が近接する場合は基本の選定によらない
h.実際のサンプル採取にあたって、腐食による劣化が最も進んでいると推測される箇所(例えば海側に面している箇所)を選定する
こうした条件下での選定は、残りのB地区〜E地区でも同様にして行われる。また、汚損区分が産廃・工場地区である場合、産廃や工場からの排煙を直接被煙している区間を抽出する。そして、抽出した区間に設置されている鉄塔の中から、先に述べた条件を考慮して診断対象が選定される。
【0030】
これらの条件により、例えば先の図6の場合には、破線の円で示すように、E地区の2号鉄塔、D地区の4号鉄塔、産廃・工場地区の6号鉄塔が診断対象にされている。
【0031】
診断管理テーブルの引張荷重は、診断対象である鉄塔に設置されているジャンパ線の引張荷重を記録する。先に述べたように、この実施の形態では、劣化診断をするときに、送電線を直接診断するのではなく、鉄塔において送電線の端部同士を連結するジャンパ線を用いる。そして、このジャンパ線を引張試験機で引っ張り、ジャンパ線が破断する際の引張荷重を測定する。この値が診断管理テーブルの引張荷重の欄に記録されている。
【0032】
処理部13は、記憶装置14に記憶されている各種のプログラムを実行する。処理部13が実行するプログラムには劣化評価プログラムがある。処理部13は、劣化評価プログラムを、RAM12を作業領域として実行すると、劣化評価処理を開始する。この劣化評価処理の一例を図8に示す。処理部13は、劣化評価処理を開始すると、診断対象を指定するための入力画面を表示する(ステップS1)。ステップS1で表示される入力画面は、送電線の路線名、汚損区分などを入力するための入力欄で形成されている。ステップS1で診断対象を指定するためのデータが入力されると、ステップS1で入力された線路の汚損区分で、前もって設定された診断対象の鉄塔について、使用されていたジャンパ線の引張荷重を入力するための入力画面を表示する(ステップS2)。ステップS2で各引張荷重が入力されると、処理部13は、最初に劣化評価をする診断対象を選出する(ステップS3)。ステップS3が終了すると、処理部13は、選出した診断対象について判定処理を行う(ステップS4)。この判定処理を図9に示す。
【0033】
処理部13は、判定処理を開始すると、鉄塔テーブルとジャンパ線特性テーブルとを参照して、診断対象である鉄塔で使用されているジャンパ線のデータを読み出す(ステップSA1)。ステップSA1で、処理部13は、ステップS1で入力された診断対象に用いられているジャンパ線について、鉄塔テーブルを用いて調べ、関連するデータをジャンパ線特性テーブルから読み出す。これにより、ジャンパ線の規格値や最大使用張力などが読み出される。ステップSA1の後、処理部13は、該当するジャンパ線の規格値を基準にして、初期値を算出する(ステップSA2)。ステップSA2で処理部13は、
初期値=規格値×1.1
により初期値を算出する。送電線やジャンパ線は、通常、規格値に対して、110%以上の余裕をみて作られているので、ステップSA2では、ジャンパ線の規格値の1.1倍を初期値としている。なお、入力装置2から初期値を入力することも可能である。
【0034】
また、処理部13は、ジャンパ線の最大使用張力に対して、安全率が値2.5となるライン(以下、「安全値」という)を算出する(ステップSA3)。ステップSA3で処理部13は、
安全値=最大使用張力×2.5
により、安全値を算出する。値2.5は安全率であり、ステップSA3では、最大使用張力に対して安全率2.5となる引張荷重を、安全値として算出している。
【0035】
ステップSA3が終了すると、処理部13は、
a.ステップS5で入力された測定値
b.ステップSA2で算出した初期値
c.ステップSA3で算出した安全値
について、ジャンパ線の規格値に対する割合(%)を算出する(ステップSA4)。この後、処理部13は、3つの値を基にして、送電線の劣化を評価する(ステップSA5)。ジャンパ線は送電線と同様な環境に設置されているので、ジャンパ線の劣化と送電線の劣化には相関関係がある。したがって、ジャンパ線の規格値に対する上記a〜上記cの値の各割合は、そのまま送電線に対して当てはまるので、ジャンパ線に対する評価が送電線に対する評価になる。
【0036】
例えば、ジャンパ線の診断結果を表す測定値が図10に示すように、
診断結果>規格値
である場合、処理部13は、初期値と、診断を行った時期T1および測定値とから、ジャンパ線の劣化が進んで規格値に達する到達時期を算出する。処理部13は、算出した到達時期つまり時期T2を、送電線を含む設備の2回目の診断年度と判断する。これにより、処理部13は、次回の診断予定を時期T2とする評価結果を生成する。なお、各時期T1、T2は、診断管理テーブルに記録されている架線年度を基準にしている。つまり、初期値の値110%は送電線およびジャンパ線の架線年度のものである。
【0037】
また、ジャンパ線の診断結果を表す測定値が図11に示すように、
規格値>診断結果>安全値
である場合、処理部13は、初期値と、診断を行った時期T1および測定値とから、ジャンパ線の劣化が進んで安全値に達する到達時期を算出する。処理部13は、算出した到達時期つまり時期T3を、送電線を含む設備改修を計画する期限と判断する。これにより、設備改修を計画する期限を時期T3とする評価結果を生成する。
【0038】
さらに、ジャンパ線の診断結果を表す測定値が図12に示すように、
安全値>診断結果
である場合、処理部13は、送電線を含む設備改修計画を直ちに作成すると判断する。これにより、処理部13は、急ぎの改修計画作成とする評価結果を生成する。
【0039】
なお、ジャンパ線の劣化が送電線の劣化と相関関係がない場合、ジャンパ線の劣化および送電線の劣化が直線的に変化するので、ジャンパ線の劣化を補正して、送電線の劣化と相関関係が成り立つようにする。これにより、先に述べた時期T2や時期T3が補正される。
【0040】
こうして、処理部13は、送電線の劣化を評価し、評価結果を生成して、ステップSA5を終えると、ステップS4の判定処理を終了する。この後、処理部13は、判定処理で得た評価結果を診断管理テーブルに反映して、診断管理テーブルを更新する(ステップS5)。ステップS5が終了すると、処理部13は、未処理の診断対象があるかどうかを判定する(ステップS6)。未処理の診断対象があると、処理部13は、次の診断対象を選出し(ステップS7)、処理をステップS4に戻す。
【0041】
一方、ステップS6で未処理の診断対象がなければ、処理部13は、診断管理テーブルの更新内容、つまり、ステップS4の判定処理で得た、すべての評価結果を出力する(ステップS8)。ステップS8により、処理部13は、評価結果を表示装置3に表示し、また、プリンタ4で印刷する。処理部13は、ステップS8を終えると、劣化評価処理を終了する。
【0042】
次に、この実施の形態による電線評価システムを用いた電線評価方法について説明する。送電線の劣化評価の時期が到来すると、担当者は前もって決められている診断対象である鉄塔からジャンパ線をサンプリングする。劣化評価の時期の到来は、担当者が入力装置2を操作して、記憶装置14の診断管理テーブルを参照することで、得られる。サンプリングが終了すると、担当者は、サンプリングしたジャンパ線を、引張試験機を用いて試験する。このとき、素線ではなく、より線のジャンパ線が引っ張られて破断する際の引張荷重が測定される。担当者は、サンプリングしたすべてのジャンパ線に対して引張試験を行う。
【0043】
この後、担当者は、電線評価システムを操作して、劣化評価プログラムを起動する。これにより、電線評価システムは、診断対象を指定するための入力画面や、ジャンパ線の引張荷重を入力するための入力画面を表示するので、担当者は、これらの入力画面に従って、診断対象や引張荷重を入力する。この後、電線評価システムは、劣化評価処理により、次の診断年度などを表す評価結果を生成する。そして、処理部13は、生成した評価結果により診断管理テーブルを更新し、かつ、評価結果を表示装置3などの出力装置に出力する。これにより、担当者は、2回目の診断をする設備および診断予定、改修の期限が決められた設備、直ちに改修すべき設備を知ることができる。
【0044】
こうして、この実施の形態によれば、環境に応じて区分されたA地区〜E地区および産廃・工場地域からジャンパ線をサンプリングし、サンプリングしたジャンパ線の引張荷重に応じて送電線の劣化を評価するので、環境の影響を考慮して送電線の劣化を評価することができる。また、この実施の形態によれば、ジャンパ線の引張荷重の規格値、初期値および安全値と、サンプリングしたジャンパ線の引張荷重の測定値とを比較して、送電線の劣化を調べるので、送電線に対して行われる渦流探傷の手法などのような現場作業に依存することなく、送電線の劣化を評価することを可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0045】
この発明は、ジャンパ線などで電気的に接続されている各種の架空電線の劣化を診断することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 コンピュータ本体(評価手段)
11、16 インターフェース
12 RAM
13 処理部
14 記憶装置
15 表示制御部
2 入力装置(入力手段)
3 表示装置
4 プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔を介在して架線されると共に端部同士がジャンパ線で接続されている架空電線の劣化を評価する電線評価方法であって、
架空電線の診断時期が到来すると、サンプリングで得たジャンパ線の引張荷重を測定し、
ジャンパ線の引張荷重の規格値、この規格値から算出した初期値、およびジャンパ線の最大使用張力から算出した安全値と、ジャンパ線の引張荷重の測定値との比較結果から、架空電線の劣化を評価する、
ことを特徴とする電線評価方法。
【請求項2】
ジャンパ線の測定値が規格値と初期値との間にあるとき、架空電線が架線された時期から診断時期までの経過期間と、ジャンパ線の引張荷重が初期値から測定値まで変化したときの変化幅とから、ジャンパ線の測定値が規格値に到達するまでの到達時期を算出し、この到達時期を次の診断時期にすると判断する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電線評価方法。
【請求項3】
ジャンパ線の測定値が安全値と規格値との間にあるとき、架空電線が架線された時期から診断時期までの経過期間と、ジャンパ線の引張荷重が初期値から測定値まで変化したときの変化幅とから、ジャンパ線の測定値が安全値に到達する時期を算出し、この到達時期までに架空電線の改修を計画すると判断する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電線評価方法。
【請求項4】
ジャンパ線の測定値が安全値より低いとき、改修を直ちに計画すると判断する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線評価方法。
【請求項5】
架空電線が架線されている地帯を環境に応じて区分し、区分された地区に設置されている鉄塔から、ジャンパ線をサンプリングする鉄塔を少なくとも1つ前もって設定し、架空電線の診断時期が到来すると、あらかじめ設定された鉄塔のジャンパ線の引張荷重を測定する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電線評価方法。
【請求項6】
鉄塔を介在して架線されると共に端部同士がジャンパ線で接続されている架空電線の劣化を評価する電線評価システムであって、
架空電線の診断時期が到来したときに測定された引張荷重であって、サンプリングで得られたジャンパ線の引張荷重の測定値を入力する入力手段と、
ジャンパ線の引張荷重の規格値、この規格値から算出した初期値、およびジャンパ線の最大使用張力から算出した安全値と、前記入力手段に入力された測定値との比較結果から、架空電線の劣化を評価する評価手段と、
を備えることを特徴とする電線評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−197059(P2010−197059A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38838(P2009−38838)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】