電解用電極、及びその電極の製造方法
【課題】低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能である電解用電極を提供する。
【解決手段】本発明の電解用電極1は、基体2と、この基体2に構成された表面層4を備えて成る電解用電極1であって、表面層4は、非晶質の誘電体、例えば、ニオブ酸化物であり、且つ、そのニオブ担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下とすることで、当該電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成する。
【解決手段】本発明の電解用電極1は、基体2と、この基体2に構成された表面層4を備えて成る電解用電極1であって、表面層4は、非晶質の誘電体、例えば、ニオブ酸化物であり、且つ、そのニオブ担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下とすることで、当該電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極、及びその電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、所謂オゾン水は上下水道や、食品等、又は、半導体デバイス製造プロセス等での洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、紫外線ランプによりオゾンガスを生成するオゾン生成手段と水を貯留するタンクとを備え、生成したオゾンガスをタンク内の水に供給することでオゾン水を生成するオゾン水生成装置が開示されている。また、特許文献2には、水中にオゾンガスを効率よく溶解させるために、放電式のオゾンガス生成装置により生成したオゾンガスと水とをミキシングポンプにより所定の割合で混合するオゾン水生成装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の如き紫外線ランプや放電式によりオゾンガスを発生させてこのオゾンガスを水中に溶解させて成るオゾン水生成方法では、オゾンガス生成装置やオゾンガスを水中に溶解させるための操作などが必要となり装置が複雑化しやすく、また生成したオゾンガスを水中に溶解させる方法であるため所望の濃度のオゾン水を高効率に生成することが困難であるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、上記のような問題を解決するための方法として、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法が開示されている。係る方法では、多孔質体又は網状体で形成された電極基材と白金族元素の酸化物等を含む電極触媒とを有して構成されるオゾン生成用電極を用いる。
【0006】
また、特許文献4には、電解質溶液としての模擬水道水を酸化タンタル等の誘電体により表面層が構成された電解用電極により電解処理することで、オゾンを生成させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−77060号公報
【特許文献2】特開平11−333475号公報
【特許文献3】特開2002−80986号公報
【特許文献4】特開2007−016303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した如き特許文献3に示される方法では、電極物質としてダイヤモンドを使用するため、装置自体のコストが高騰する問題がある。係るオゾン水の生成方法では、白金族元素は標準的なアノード材料であり、有機物を含まない水系溶液中ではほとんど溶解しないという特徴があるが、オゾン生成用電極としてはオゾン生成効率が低く、高効率な電解法によるオゾン水生成を行うことは困難である。更に、このような従来のオゾン生成用電極を用いた電解法によるオゾン水生成では、オゾン生成のための電気分解において、1A/cm2以上の高電流密度を必要とすることや、電解質を低温とする必要があり、非常に多くのエネルギーを消費するという問題があった。これ以外にも二酸化鉛を用いた場合には、有毒であるという問題がある。
【0009】
更に、上述した如き特許文献4に示される電解用電極を用いた場合であっても、オゾンは生成されるものの、表面層の膜厚依存性や、当該層を構成する物質の結晶性によってオゾン生成効率にバラツキが生じていた。そのため、オゾン生成における電流効率の向上が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能である電解用電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、基体と、この基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、表面層は、非晶質の誘電体であることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3の発明において、金属酸化物を構成する金属は、ニオブ、若しくは、タンタルであることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、誘電体は、貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、貴金属は、白金、金、イリジウムであることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6の何れかの発明において、基体には、表面層の内側に位置して、基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、中間層は、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされることを特徴とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9の発明において、薄領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする。
【0021】
請求項11の発明は、請求項9又は請求項10の発明において、厚領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする。
【0022】
請求項12の発明は、請求項9乃至請求項11の何れかの発明において、誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であることを特徴とする。
【0023】
請求項13の発明は、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することを特徴とする。
【0024】
請求項14の発明は、基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより基体の表面に中間層を形成する第1のステップと、この第1のステップ後、中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことを特徴とする。
【0025】
請求項15の発明は、請求項13又は請求項14の発明において、表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことを特徴とする。
【0026】
請求項16の発明は、請求項13乃至請求項15の何れかの発明において、表面層は、ニオブ酸化物であって、且つ、熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことを特徴とする。
【0027】
請求項17の発明は、請求項13乃至請求項15の何れかの発明において、表面層は、タンタル酸化物であって、且つ、熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことを特徴とする。
【0028】
請求項18の発明は、請求項13乃至請求項17の何れかの発明において、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して表面層を形成することを特徴とする。
【0029】
請求項19の発明は、請求項13乃至請求項18の何れかの発明において、表面層の原料は、有機金属を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明によれば、基体と、この基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極において、表面層は、非晶質の誘電体であるので、当該電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0031】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0032】
請求項2の発明によれば、上記に加えて、誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であるので、高効率でオゾン生成することが可能となる。
【0033】
請求項3の発明によれば、上記に加えて、金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であり、特に請求項4の発明の如くニオブ、若しくは、タンタルであるので、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に構成することができる。また、ニオブ若しくはタンタルにて金属酸化物を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0034】
請求項5の発明によれば、上記に加えて、金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、誘電体は、請求項6の発明の如く白金、金、イリジウム等の貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であるので、オゾンの生成効率を低下させることなく、当該金属酸化物により表面層を構成する材料の安定性を図ることができる。
【0035】
請求項7の発明によれば、上記各発明に加えて、基体には、表面層の内側に位置して、基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層、例えば、請求項8の発明の如く白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより中間層が形成されているので、アノードでの電極反応における電子が効果的に表面層内を移動することが可能となる。そのため、表面層の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができる。これにより、より低い電流密度にて効率的にオゾンを生成することができるようになる。
【0036】
特に、係る発明によれば、基体の表面に難酸化性の金属で中間層が形成されているため、当該電極により電解を行った場合において、当該基体表面が酸化し不導体化する不都合を回避することができる。これにより、電極の耐久性を向上させることができる。また、基体全体を当該中間層を構成する材料により構成する場合に比して、生産コストの低廉化を図ることができると共に、係る場合においても、同様に効率的にオゾンを生成することができる。
【0037】
請求項9の発明によれば、基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成る電解用電極において、表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされるので、当該電極をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0038】
特に、表面層は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0039】
そして、上記薄領域と共に、表面層は、最さが5μm以上とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0040】
請求項10の発明によれば、上記に加えて、薄領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、請求項11の発明の如くにより、厚領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることにより、その表面層の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0041】
請求項12の発明によれば、上記各発明に加えて、誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であるので、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に構成することができる。また、ニオブ酸化物若しくはタンタル酸化物にて表面層を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0042】
また、表面層を構成する誘電体は、ニオブ酸化物又はタンタル酸化物の非晶質であることから、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としない。そのため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0043】
請求項13の発明の電解用電極の製造方法によれば、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することにより、製造された電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0044】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0045】
請求項14の発明によれば、基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより基体の表面に中間層を形成する第1のステップと、この第1のステップ後、中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことにより、製造された電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0046】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0047】
また、基体の表面には、適切な厚さ、適切な量で、中間層を形成することができると共に、密着性の高い中間層を形成することができる。また、電極に必要な耐久性に合わせた中間層の厚さを容易に得ることができるため、中間層の原料の使用量を適量にすることができ、無駄な使用を低減することができる。
【0048】
更に、中間層の表面に適切な厚さ、適切な量で、表面層を形成することができると共に、密着性の高い表面層を形成することができる。
【0049】
請求項15の発明によれば、上記各発明において、表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことにより、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に製造することができる。また、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物により表面層を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0050】
請求項16の発明によれば、上記各発明において、表面層がニオブ酸化物である場合、熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことにより、結晶化しない状態の非晶質のニオブ酸化物にて表面層を構成することが可能となる。また、請求項17の発明によれば、表面層がタンタル酸化物である場合、熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことにより、結晶化しない状態の非晶質のタンタル酸化物にて表面層を構成することが可能となる。
【0051】
請求項18の発明によれば、上記各発明において、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して表面層を形成することにより、基体に所定厚さの表面層を形成することができる。これにより、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0052】
請求項19の発明によれば、上記各発明において、表面層の原料は、有機金属を含むことにより、基体への表面層の形成を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を適用した実施例としての電解用電極の平断面図である。
【図2】電解用電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】各条件により作製された電解用電極の表面層のX線回折パターンを示す図である。
【図4】電解用電極を適用した電解装置の概略説明図である。
【図5】各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【図6】各焼成温度に対する電流効率を示す図である。
【図7】各ニオブ担持量に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図8】表面層の原料の塗布回数に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図9】電解用電極の断面SEM写真である。
【図10】非晶質のタンタル酸化物により表面層が形成された電解用電極のX線回折パターンを示す図である。
【図11】各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【図12】各Ptに対するTaの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図13】各貴金属に対するNbの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図14】電解用電極の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態として、実施例1及び実施例2を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0055】
図1は本発明の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体(導電性基体)2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。
【0056】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金などにより構成される。コストや加工性、耐食性などを考慮した場合、チタンが好適であり、本実施例では、基体2としてチタン板を用いる。
【0057】
中間層3は、表面層4の内側に位置して形成されるものであり、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、又は、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、又は、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。尚、金属酸化物については、予め酸化物として中間層3が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。
【0058】
但し、中間層3が導電性をもつ金属酸化物、例えば酸化イリジウム等により構成される場合には、当該金属酸化物を構成する酸素原子が導電体に悪影響を及ぼすことから、当該中間層3は、難酸化性の金属により構成することが望ましい。本実施例では、中間層4は、白金により構成する。
【0059】
尚、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層3を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体2を低廉な材料にて構成し、当該基体2の表面に貴金属等で構成される中間層3を形成することが好ましい。
【0060】
また、基体2を導電性を有さない物質、例えばガラス板により構成し、当該基体2は、少なくとも後述する表面層4との接触面が導電性を有する材料により被覆されているものであるならば、上記構成に限定されるものではない。これによっても、基体2の構成に用いられる材料に要するコストの高騰を抑制することが可能となる。
【0061】
また、表面層4は、前記中間層3を被覆するものであって、非晶質(アモルファス。不定形)の誘電体である。誘電体は、金属的伝導性を示さない物質のことであり、本実施例において、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素に相当する金属の酸化物、望ましくは、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)の酸化物(金属酸化物)によって、中間層3が形成された基体2の表面(中間層3の表面)に層状に形成される。尚、この表面層4の厚さの詳細については後述する。
【0062】
なお、本実施例では、誘電体として非晶質の単一金属の酸化物として非晶質のニオブ酸化物(NbOx)や、タンタル酸化物(TaOx)を挙げているが、これに限定されるものではなく、誘電体である非晶質の複合金属酸化物であってもよい。
【0063】
次に、図2のフローチャートを参照して本発明の実施例1としての電解用電極1の製造方法について説明する。先ず初めに、厚さ1mm、長さ80mm、幅20mmのチタン板を基体2として用い、この基体2の表面(長さ80mm、幅20mmとした面)を耐水研磨紙により研磨する(ステップS1)。尚、基体2の表面の片側のみに中間層3及び表面層4を被覆して、この表面層4を対極に対向させて電解の反応面として使用しても良いが、例えば、バイポーラ式の電解装置において採用する場合には、基体2の表面の両面、或いは、基体2の全面に中間層3及び表面層4を形成させても良い。この場合、基体2の表面の研磨及び以下で説明するエッチング、熱処理等の製造工程は、基体2の表面、或いは、全面に対して行うものとする。
【0064】
また、上記基体2の表面の研磨は、当該基体2の表面に形成されている酸化皮膜を削除できればよいものであり、耐水研磨紙による方法だけでなく、サンドブラスト等同様の効果が得られる方法ならば、他の方法であっても良い。
【0065】
次に、表面を研磨した基体2を有機溶剤、本実施例では、アセトンにより脱脂し(ステップS2)、その後、濃度200g/Lの熱シュウ酸水溶液により所定の面粗さとなるまで、本実施例では3時間の化学エッチングを実行する(ステップS3)。尚、前記熱シュウ酸水溶液の代わりとして、例えば、熱硫酸、フッ酸などを用いても良い。
【0066】
化学エッチングにより表面が粗面化された基体2に、先ず、中間層3を形成する。本実施例では、白金により中間層3を形成するため、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、白金濃度が50mg/Lとなる量の六塩化白金酸を溶解させて、中間層3の原料とする。
【0067】
そして、前記基体2の表面に上記中間層3の原料をヘラを用いて均一に塗布する(ステップS4)。尚、この中間層3の原料の塗布方法としては、上記の如きヘラで塗布する方法以外にも、前記中間層3の原料をスプレーにて基体2上に塗布する方法、或いは、前記中間層3の原料を容器内に収容し、この容器内に基体2を浸漬する方法、更には、基体2を回転させて遠心力により前記中間層3の原料を塗布する方法(スピンコート法)等で行っても良い。
【0068】
表面に中間層3の原料が付着した基体2を、次に室温にて10分間乾燥し(ステップS5)、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には、200℃にて10分間乾燥を行う(ステップS6)。更には、400℃〜550℃の温度範囲、好適には500℃にて10分間の熱処理(焼成)を実施する(ステップS7)。これにより、前記溶媒成分等が蒸発し、基体2の表面には白金で構成される中間層3が形成される。
【0069】
そして、上記中間層3が形成された基体2を室温にて10分間冷却し(ステップS8)、その後、図2に示すように、再び中間層3の原料の塗布(ステップS4)、室温乾燥(ステップS5)、200℃での熱処理(ステップS6)、500℃での熱処理(ステップS7)、室温冷却(ステップS8)の工程を、中間層3の厚さが所定の厚さとなるまで繰り返す(ステップS9)。尚、本実施例では、上記工程を10回繰り返し行うものとする。これらの工程を中間層3を作製する第1のステップとする。
【0070】
このように、中間層3の作製工程を複数回繰り返すことにより、一度で大量の中間層3の原料を基体2の表面に構成させた場合に比べて、基体2上に適切な厚さ、適切な量で白金を被覆させることができるようになる。また、密着性の高い中間層3を形成することができるようになり、電極自体の耐久性を向上させることができる。また、電極に必要な耐久性に合わせた中間層3の厚さを容易に得ることができるため、貴金属又は貴金属酸化物の使用量を適量とすることができ、無駄な貴金属及び貴金属酸化物の使用を低減することができる。
【0071】
その後、基体2の表面に形成した中間層3の表面に、誘電体により構成された表面層4を形成する。本実施例では、誘電体であるニオブ酸化物により表面層4を形成させるため、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、ニオブ濃度が0.73mol/Lとなる量のニオブペンタエトキシドを溶解させて、表面層4の原料とする。
【0072】
ここで、ニオブペンタエトキシドは純度99%の試薬を用いる。また、高周波誘導結合発光分光分析装置(ICP発光分光分析装置)による分析によれば、不純物としてバリウム、カルシウム、ジルコニウム、アルミニウム、カドミウム、コバルト、クロム、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、ニッケル、ストロンチウム、チタン、バナジウム、亜鉛、鉛、アンチモン、スズが含まれる。そのため、本実施例において用いるニオブペンタエトキシドは、1%以下程度の不純物を含んだものを用いる。また、焼成後にこれらの不純物は、空気中に飛散することはないため、表面層4のニオブ酸化物中には上記不純物が1%程度含まれている。しかし、これらの不純物が本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0073】
尚、本実施例では、表面層4の原料として、ニオブのアルコキシドを採用しているが、これに限定されるものではなくカルボキシル基を含む有機金属であっても良い。これにより、表面層の原料として有機金属を含むものを採用することにより、基体2への表面層4の形成を容易とすることができる。
【0074】
そして、上述した中間層3を形成するための中間層3の原料の塗布方法と同様にヘラを用いて、基体2の表面上に形成した中間層3の表面に上記表面層4の原料を均一に塗布する(ステップS10)。尚、この表面層4の原料の塗布においても、中間層3の原料の塗布の場合と同様に、ヘラで塗布する方法以外に、表面層4の原料をスプレーにて塗布する方法、或いは、表面層4の原料を容器内に収容し、この容器内に中間層3が形成された基体2を浸漬する方法、更には、当該基体2を回転させて遠心力により前記表面層4の原料を塗布する方法(スピンコート法)などを行っても良い。
【0075】
このように、中間層3の表面に表面層4の原料が付着した基体2には、上述した中間層3の形成のための作製工程と略同様な作製工程により表面層4の形成が行われる。
【0076】
即ち、上記中間層3の表面に表面層4の原料が塗布された基体2を室温にて10分間乾燥し(ステップS11)、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には200℃で10分間の乾燥を行う(ステップS12)。そして、この表面層4の作製においては、300℃〜500℃の温度範囲にて10分間の熱処理(焼成)を行う(ステップS13)。これにより、基体2の表面に形成された中間層3の更に表面にニオブ酸化物により構成される表面層4が形成される。尚、当該熱処理(焼成)における温度についての詳細は後述する。
【0077】
そして、表面層4が形成された基体2を室温にて10分間冷却し(ステップS14)、その後、図2に示すように再び表面層4の原料の塗布(ステップS10)、室温乾燥(ステップS11)、200℃乾燥(ステップS12)、熱処理(焼成。ステップS13)、室温冷却(ステップS14)の工程を、表面層4の厚さが所定の厚さとなるまで繰り返す(ステップS15)。これにより、本実施例における電解用電極1が得られる。尚、本実施例では、上記工程を10回乃至50回繰り返し行うものとする。尚、当該表面層4の工程回数についての詳細は後述する。これらの工程を表面層4を作製する第2のステップと
する。
(1)電解用電極のX線回折分析
次に、上述により得られた電解用電極1の表面層4のX線回折分析を行い、当該表面層4の結晶構造の解析を行う。図3は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を300℃、350℃、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃、600℃の各条件として電解用電極1を構成した場合の各表面層4のX線回折パターンを示している。尚、各条件にて作製された電解用電極1の表面層4の上記工程回数は、いずれも25回と条件を統一する。
【0078】
一般に、結晶構造の解析には、X線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層4を形成するニオブ酸化物の結晶構造を解析することが可能となる。本実施例では、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 Discover)を用いて観測を行った。
【0079】
これによると、焼成温度が500℃以上(500℃、550℃、600℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンに示される各回折ピーク(2θ)は、いずれの焼成温度により構成された電極1であっても、22.6°程度、28.5°程度、36.7°程度、50.8°程度、55.1°程度であった(図3で黒丸にて表示するピーク)。これらは、酸化ニオブ(Nb2O5)特有の回折ピーク(2θ)と一致するものであり、焼成温度500℃以上として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在しているが、焼成温度500℃未満(この場合、475℃、450℃、400℃、350℃、300℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在していない。
【0080】
従って、上述した如き本実施例の方法では、焼成温度を300℃以上500℃未満の温度範囲にて表面層4を形成する電解用電極1では、表面層4を形成するニオブ酸化物は、結晶構造を持たない非晶質、即ち、不定形、所謂アモルファスであることが分かる。
【0081】
尚、本実施例では、表面層4をニオブペンタエトキシドを含む表面層の原料をへらを用いて(本実施例では中間層3表面)に均一に塗布し、所定温度にて焼成することにより、非晶質のニオブ酸化物を形成しているが、当該非晶質のニオブ酸化物により表面層4を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0082】
他の方法として、熱CVD法による表面層4の形成方法がある。この熱CVD法では、基体2の表面に、上記実施例と同様に中間層3を形成した後、表面層の原料であるニオブを含む有機溶媒を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、例えば300℃〜500℃に熱せられた基体2の表面で化学反応を行う。
【0083】
これにより、表面層の原料であるニオブを含む有機溶媒のニオブを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体2の表面において除去され、ニオブのみが雰囲気中の酸素と反応し、ニオブ酸化物として基体2(実際には中間層3)の表面に形成される。基体2の表面(中間層3の表面)に形成されたニオブ酸化物は、非晶質薄膜(ニオブ酸化物膜)を構成する。
【0084】
尚、非晶質のニオブ酸化物により表面層4を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
(2)オゾン生成の電流効率の焼成温度依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成の焼成温度の依存性について図4乃至図6を参照して説明する。図4は電解用電極1を適用した電解装置10の概略説明図、図5は各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図、図6は各焼成温度に対する電流効率を示す図である。
【0085】
電解装置10は、処理槽11と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極12と、電極1、12に直流電流を印加する電源15とから構成される。そして、これら電極1、12間に位置して、処理槽11内の電極1の存する一方の領域と電極12の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))14が設けられる。また、アノードとしての電解用電極1が浸漬される領域には、撹拌装置16が設けられている。
【0086】
また、この処理槽11内には、電解質溶液としての模擬水道水13が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水が電解質溶液として用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、他の水系電解質を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。なお、当該実験に用いられる電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。
【0087】
電解用電極1は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃、600℃とした各条件の電極を用いる。各電解用電極1及び対極となる電極12の表面積は、この場合2×4cm2を採用する。
【0088】
以上の構成により、処理槽11内の各領域に150mlずつの模擬水道水13を貯溜し、該電解用電極1及び電極12をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、各電極間距離は、10mmとする。そして、電源15により、電流160mAの定電流が電解用電極1及び電極12に印加される。また、模擬水道水13の温度は+20℃であるものとする。
【0089】
本実施例では、各電解用電極によるオゾンの生成量は、上記条件にて1分間電解後の模擬水道水13中のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、図5ではオゾン生成量の濃度を示し、図6では通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与した電荷の割合、即ち、オゾン生成電流効率を示し、これらから各電解用電極の評価を行う。
【0090】
図5に示すように、当該実験では、表面層4の焼成温度が250℃であった電解用電極(以下、焼成温度250℃の場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、オゾン生成量は、0.19mg/L、焼成温度300℃の場合、0.24mg/L、焼成温度350℃の場合、0.41mg/L、焼成温度400℃の場合、0.54mg/L、焼成温度450℃の場合、0.50mg/L、焼成温度475℃の場合、0.47mg/L、焼成温度500℃の場合、0.24mg/L、焼成温度550℃の場合、0.11mg/L、焼成温度600℃の場合、0.11mg/Lであった。
【0091】
また、図6に示されるように、オゾン生成電流効率で表した場合、焼成温度250℃の場合、3.5%、焼成温度300℃の場合、4.5%、焼成温度350℃の場合、7.7%、焼成温度400℃の場合、10.2%、焼成温度450℃の場合、9.3%、焼成温度475℃の場合、8.8%、焼成温度500℃の場合、4.4%、焼成温度550℃の場合、2.1%、焼成温度600℃の場合、2.1%であった。
【0092】
これらの結果と、上記X線回折分析の結果とを比較すると、表面層4が結晶化された酸化ニオブ(Nb2O5)である焼成温度550℃及び600℃の場合と、表面層4が結晶構造を持たない非晶質である焼成温度350℃、400℃、450℃、475℃の場合とでは、表面層4が非晶質のニオブ酸化物である場合の方が、オゾン生成電流効率が3.6倍以上、高いことが分かる。
【0093】
これにより、電解用電極1の表面層4を、非晶質の誘電体の一例としてのニオブ酸化物とすることで、当該電極1をアノードとして使用した低電流密度(一例として160mA)による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0094】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0095】
一方、焼成温度500℃で表面層4を形成した場合には、焼成温度550℃や600℃にて形成した場合と異なり、そのオゾン生成電流効率がこれらの2倍以上となっている。これは、当該焼成温度では、結晶化したニオブ酸化物と非晶質のニオブ酸化物の両者が形成される遷移温度である。
【0096】
従って、当該焼成温度が500℃の場合であっても非晶質のニオブ酸化物が形成されており、当該焼成温度であっても、非晶質のニオブ酸化物による表面層4による効果が得られる。
【0097】
また、実験結果より焼成温度が250℃、300℃である場合には、表面層4は、非晶質のニオブ酸化物が形成されているため、結晶化された酸化ニオブにより表面層4が形成された焼成温度550℃、600℃の場合よりも高いオゾン生成電流効率を示している。
【0098】
しかしながら、当該電解用電極によるオゾン生成の電流効率として4%以上が求められる場合には、当該表面層4を形成する焼成温度の条件は、300℃以上500℃以下であることが望ましい。表面層4を形成する焼成温度の条件を350℃以上500℃未満とすることで、7.5%以上のオゾン生成の電流効率(400℃が電流効率の極大値)を実現することが可能となる。従って、表面層4を非晶質のニオブ酸化物にて構成する場合には、焼成温度の条件を350℃以上500℃未満とすることが望ましい。
(3)オゾン生成量のNb担持量依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成量のニオブ(Nb)担持量依存性について図7及び図8を参照して説明する。図7は各ニオブ担持量に対するオゾン生成濃度を示す図、図8は表面層4の原料の塗布回数に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【0099】
上記と同様の電解装置10を用いて、表面層4を構成するニオブの担持量の条件を変更した各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。この場合、電解用電極1は、表面層4の原料は、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、ニオブ濃度を0.37mol/L、0.73mol/L、1.45mol/Lとなる量のニオブペンタエトキシドを溶解させて調整した。そして、図2の熱処理(焼成)(ステップS13)における焼成温度は、上述した如く非晶質のニオブ酸化物を形成でき、且つ、同一条件下でオゾン生成の電流効率の極大値を得られる400℃とする。また、図2のステップS15におけるその塗布回数は、5回から50回繰り返し行うことで、それぞれ得られた電解用電極によってオゾン生成に関する評価を行う。電解条件については、上記(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。
【0100】
図7に示すように、当該実験では、表面層4の原料の塗布回数を変化させることで、表面層4のニオブ担持量を変化させる。ニオブ濃度0.37mol/Lにて調整した原料にて表面層4を形成した電解用電極(Nb濃度0.37mol/Lの場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、ニオブ(Nb)の担持量が2.10μmol/cm2の場合に生成されたオゾン濃度が0.083mg/L、Nb担持量が3.94μmol/cm2で0.43mg/L、Nb担持量が5.50μmol/cm2で0.48mg/L、Nb担持量が6.56μmol/cm2で0.54mg/L、Nb担持量7.97μmol/cm2で0.43mg/Lであった。
【0101】
また、Nb濃度0.73mol/Lの場合、Nb担持量が2.14μmol/cm2で生成されたオゾン濃度が0.16mg/L、Nb担持量が3.97μmol/cm2で0.26mg/L、Nb担持量が5.88μmol/cm2で0.40mg/L、Nb担持量が8.08μmol/cm2で0.49mg/L、Nb担持量が8.90μmol/cm2で0.54mg/L、Nb担持量が10.10μmol/cm2で0.49mg/L、Nb担持量が10.86μmol/cm2で0.30mg/L、Nb担持量が11.99μmol/cm2で0.15mg/L、Nb担持量が13.30μmol/cm2で0.03mg/L、Nb担持量が15.75μmol/cm2で0.003mg/Lであった。
【0102】
また、Nb濃度1.45mol/Lの場合、Nb担持量が4.127μmol/cm2で生成されたオゾン濃度が0.035mg/L、Nb担持量が7.46μmol/cm2で0.07mg/L、Nb担持量が10.24μmol/cm2で0.18mg/L、Nb担持量が12.82μmol/cm2で0.35mg/L、Nb担持量が15.29μmol/cm2で0.26mg/Lであった。
【0103】
図7に示すように、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が2μmol/cm2〜16μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。当該オゾン濃度は、病原性の腸内細菌(例えばO157)を約5秒で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を2〜16μmol/cm2とすることが望ましい。
【0104】
また、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が4μmol/cm2〜13μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.3mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、ウイルスを5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を4〜13μmol/cm2とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0105】
更に、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が5μmol/cm2〜10μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.5mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、病原性の芽胞菌(例えば破傷風菌)等を5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を5〜10μmol/cm2とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0106】
このように、表面層4のNbの担持量を調整することで、その使用目的に応じた濃度のオゾンを低電流にてより効果的に生成することが可能となる。
(4)オゾン生成量の表面層の原料の塗布回数依存性
一方、図8を参照して表面層の原料の塗布回数に着目し、当該塗布回数に対するオゾンの生成濃度について検討する。図8に示すように、当該実験では、Nb濃度0.37mol/Lの場合、10回塗布で生成されたオゾン濃度が0.083mg/L、20回塗布で0.43mg/L、30回塗布で0.48mg/L、40回塗布で0.54mg/L、50回塗布で0.43mg/Lであった。また、Nb濃度0.73mg/Lの場合、5回塗布で生成されたオゾン濃度が0.003mg/L、10回塗布で0.032mg/L、15回塗布で0.153mg/L、20回塗布で0.30mg/L、25回塗布で0.49mg/L、30回塗布で0.54mg/L、35回塗布で0.49mg/L、40回塗布で0.40mg/L、45回塗布で0.26mg/L、50回塗布で0.16mg/Lであった。また、Nb濃度1.45mol/Lの場合、5回塗布で生成されたオゾン濃度が0.035mg/L、10回塗布で0.07mg/L、15回塗布で0.18mg/L、20回塗布で0.35mg/L、25回塗布で0.26mg/Lであった。
【0107】
このように、いずれのNb濃度にて調整された表面層4の原料を使用した場合であっても、塗布回数に対するオゾン生成量との関係は、ある値で極大値をとる。即ち、Nb濃度が0.37mol/Lの場合、40回塗布で生成されたオゾン濃度が0.54mg/Lであり、Nb濃度が0.73mol/Lの場合、30回塗布で生成されたオゾン濃度が0.54mg/Lであり、Nb濃度が1.45mol/Lの場合、20回塗布で生成されたオゾン濃度が0.35mg/Lである。
【0108】
これは、表面層4の原料の塗布回数が少ない場合、十分な厚さの非晶質のニオブ酸化物による表面層4が形成されず、電気的に中間層3が見えた状態となる。そのため、表面層4にて行われるはずの電子の授受の反応場が十分確保できず、オゾンの生成効率が低下するものと考えられる。
【0109】
他方、表面層4の原料の塗布回数が多すぎる場合には、形成される表面層4が厚くなり過ぎ、電圧降下が大きく影響する。そして、反応により生じるジュール熱が高くなることで、生成されたオゾンが直ぐに分解されてしまうこととなり、オゾンの生成効率が低下するものと考えられる。
【0110】
よって、表面層4の原料の塗布回数が15回〜50回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。当該オゾン濃度は、病原性の腸内細菌(例えばO157)を約5秒で99%死滅させることができるものであり、表面層4を構成するための原料の塗布回数を15回〜50回とすることが望ましい。
【0111】
また、表面層4の原料の塗布回数が20回〜40回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.3mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、ウイルスを5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4を構成するための原料の塗布回数を20〜40回とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0112】
更に、表面層4の原料の塗布回数が25回〜35回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が略0.5mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、病原性の芽胞菌(例えば破傷風菌)等を5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4の原料の塗布回数を25回〜35回とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0113】
このように、表面層4を構成する表面層4の原料の塗布回数を調整することで、その使用目的に応じた濃度のオゾンを低電流にてより効果的に生成することが可能となる。
(5)表面層の厚さ分析
次に、誘電体により構成される表面層4の厚さについて検討する。図9には実施例1において作製された電解用電極1の断面SEM写真を示す。当該電解用電極1は、表面層4を非晶質のニオブ酸化物にて構成するものであり、焼成温度は400℃、塗布回数は25回である。
【0114】
図9の断面SEM写真は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製 S-3400NX)により取得したものである。凹凸のある薄い白色の層から上側に示されている層が本発明における表面層4であり、当該表面層4の下側に接触して形成される白色にて示されている層(他に比べて薄い層)が中間層3である。そして、この中間層3の下側に接触して形成される灰色にて示されている層が基体2である。
【0115】
これによると、上述した如く取得されたSEM写真(倍率2000倍の電極断面の写真)を10枚以上取得し、そのデータから表面層4の膜厚を観察すると、表面層4は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を有する不均厚構成とされている。薄領域の厚さは、0.2μm乃至2.5μmの範囲内、望ましくは、0.2μm乃至1.5μm、及び/又は平均0.5μmである。厚領域の厚さは、5μm以上、望ましくは、11μm以上、また、電極の生産コストやオゾン生成効率を考慮し、20μm以下である。
【0116】
また、上記データから膜厚のばらつきの割合を統計的に処理して分析すると、厚さが0.2μm乃至2.5μm以下とする薄領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、厚さが5μm以上の厚領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、これらの薄領域と、厚領域以外の部分の電解用電極1の表面層4は、2.5μmより大きく5μm未満の厚さとする領域である。
【0117】
本実施例では、表面層4の薄領域と厚領域の形成は、上述したように、電解用電極1の基体2を図2のステップS3にて所定の面粗さとなるようにエッチング処理を施し、当該所定の面粗さとされた表面に、複数回に分けて中間層3の原料の塗布による中間層3の形成、更に、複数回に分けて表面層4の原料がその表面に塗布されることによってなされる。
【0118】
このように、本実施例では、非晶質の誘電体としてニオブ酸化物にて構成された表面層4は、その厚さが所定厚さ範囲の薄領域と、所定厚さ範囲の厚領域が形成されるように構成されているため、上述したように当該電解用電極1をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0119】
特に、表面層4は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0120】
そして、上記薄領域と共に、表面層4は、厚さが5μm以上、望ましくは11μm以上20μm以下とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0121】
また、薄領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、厚領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることにより、その表面層4の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【実施例2】
【0122】
次に、本発明の実施例2の電解用電極について説明する。なお、係る実施例により得られる電解用電極の製造方法は、上記実施例1における図2のフローチャートと同様であり、概略構成図も図1と略同様であるため、詳細な製造方法の説明は省略する。
【0123】
即ち、当該実施例における電解用電極は、上記各実施例と同様に基体2を構成するチタン板の表面に、白金にて中間層3を構成する。尚、当該基体2及び中間層3の詳細については上記実施例1と同様とする。
【0124】
次に、中間層3の表面に表面層4を形成する。係る実施例では、表面層4は、非晶質の誘電体として、タンタルの酸化物により構成されている。この場合、表面層4の原料としての有機タンタル化合物溶液を中間層3が形成された基体2の表面に塗布する。本実施例では、表面層4は、タンタル酸化物により構成するため、本実施例では、タンタルペンタエトキシドを用いる。
【0125】
本実施例では、タンタルペンタエトキシドは純度99%の試薬を用いる。また、高周波誘導結合発光分光分析装置(ICP発光分光分析装置)による分析によれば、上述した如きニオブペンタエトキシドと同様の不純物が含まれていた。そのため、本実施例におけるタンタルペンタエトキシドは、1%以下程度の不純物を含んだものを採用する。また、焼成後にこれらの不純物は空気中に飛散することはないため、表面層4のタンタル酸化物中には上記不純物が1%以下程度含まれている。しかし、これらの不純物が本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0126】
尚、本実施例でタンタルペンタエトキシドの溶媒としてはイソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールを4:1に混合した溶媒を用いる。また、本実施例では、表面層4の原料としてタンタルペンタエトキシドを用いているがこれに限定されるものではなく、タンタルを含む化合物であって、焼成によりタンタル以外の物質を除去し、酸化タンタルによる成膜が可能な物質であれば良いものとする。また、本実施例では、溶媒としてイソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールを4:1に混合した溶媒を用いているが、これに限定されるものではなく、アルコール系などの他の溶媒を用いてもよい。また、こ
の表面層4の原料には、その溶液安定性を考慮し、詳細は後述する如く貴金属の有機溶媒が添加される。
【0127】
そして、中間層3が形成された基体2の表面に上記表面層4の原料を均一に塗布する。尚、この表面層4の原料の塗布においても、中間層3の原料の塗布の場合と同様に、ヘラで塗布する方法以外に、表面層4の原料をスプレーにて塗布する方法、或いは、表面層4の原料を容器内に収容し、この容器内に中間層3が形成された基体2を浸漬する方法、更には、当該基体2を回転させて遠心力により前記表面層4の原料を塗布する方法(スピンコート法)などを行っても良い。
【0128】
上記中間層3の表面に表面層4の原料が塗布された基体2を室温にて10分間乾燥し、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には200℃で10分間の乾燥を行う。そして、この表面層4の作製においては、400℃〜625℃の温度範囲にて10分間の熱処理(焼成)を行う。これにより、基体2の表面に形成された中間層3の更に表面にタンタル酸化物により構成される表面層4が形成される。
(1)電解用電極のX線回折分析
次に、上述により得られた電解用電極1の表面層4のX線回折分析を行い、当該表面層4の結晶構造の解析を行う。図10は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、625℃の各条件として電解用電極1を構成した場合の各表面層4のX線回折パターンを示している。尚、各条件にて作製された電解用電極1の表面層4の上記工程回数は、いずれも25回と条件を統一する。
【0129】
一般に、結晶構造の解析には、X線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層4を形成するタンタル酸化物の結晶構造を解析することが可能となる。本実施例では、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 Discover)を用いて観測を行った。
【0130】
これによると、焼成温度が600℃より高い(625℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンに示される各回折ピーク(2θ)は、いずれの焼成温度により構成された電極1であっても、22.9°程度、25.8°程度、28.5°程度、33.4°程度、36.8°程度、50.7°程度、56.0°程度であった(図10で黒三角にて表示するピーク)。これらは、酸化タンタル(Ta2O5)特有の回折ピーク(2θ)と一致するものであり、600℃より高い焼成温度で得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在しているが、焼成温度600℃以下(この場合、600℃、550℃、500℃、450℃、400℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在していない。
【0131】
従って、上述した如き本実施例の方法では、焼成温度を400℃以上600℃以下の温度範囲にて表面層4を形成する電解用電極1では、表面層4を形成するタンタル酸化物は、結晶構造を持たない非晶質、即ち、不定形、所謂アモルファスであることが分かる。
【0132】
尚、本実施例では、表面層4をタンタルペンタエトキシドを含む表面層の原料をへらを用いて(本実施例では中間層3表面)に均一に塗布し、所定温度にて焼成することにより、非晶質のタンタル酸化物を形成しているが、当該非晶質のタンタル酸化物により表面層4を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0133】
他の方法として、熱CVD法による表面層4の形成方法がある。この熱CVD法では、基体2の表面に、上記実施例と同様に中間層3を形成した後、表面層の原料であるタンタルを含む有機溶媒を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、例えば400℃〜600℃に熱せられた基体2の表面で化学反応を行う。
【0134】
これにより、表面層の原料であるタンタルを含む有機溶媒のタンタルを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体2の表面において除去され、タンタルのみが雰囲気中の酸素と反応し、タンタル酸化物として基体2(実際には中間層3)の表面に形成される。基体2の表面(中間層3の表面)に形成されたタンタル酸化物は、非晶質薄膜(タンタル酸化物膜)を構成する。
【0135】
尚、非晶質のタンタル酸化物により表面層4を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
(2)オゾン生成の電流効率の焼成温度依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成の焼成温度の依存性について図4及び図11を参照して説明する。図4は電解用電極1を適用した電解装置10の概略説明図、図11は各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【0136】
電解装置10は、処理槽11と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極12と、電極1、12に直流電流を印加する電源15とから構成される。そして、これら電極1、12間に位置して、処理槽11内の電極1の存する一方の領域と電極12の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))14が設けられる。また、アノードとしての電解用電極1が浸漬される領域には、撹拌装置16が設けられている。
【0137】
また、この処理槽11内には、電解質溶液としての模擬水道水13が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水が電解質溶液として用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、他の水系電解質を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。なお、当該実験に用いられる電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。
【0138】
電解用電極1は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、625℃とした各条件の電極を用いる。各電解用電極1及び対極となる電極12の表面積は、この場合2×4cm2を採用する。
【0139】
以上の構成により、処理槽11内の各領域に150mlずつの模擬水道水13を貯溜し、該電解用電極1及び電極12をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、各電極間距離は、10mmとする。そして、電源15により、電流160mAの定電流が電解用電極1及び電極12に印加される。また、模擬水道水13の温度は+20℃であるものとする。
【0140】
本実施例では、各電解用電極によるオゾンの生成量は、上記条件にて1分間電解後の模擬水道水13中のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、図11ではオゾン生成量の濃度を示し、これから各電解用電極の評価を行う。
【0141】
図11に示すように、当該実験では、表面層4の焼成温度が400℃であった電解用電極(以下、焼成温度400℃の場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、オゾン生成量は、0.01mg/L、焼成温度500℃の場合、0.19mg/L、焼成温度550℃の場合、0.26mg/L、焼成温度600℃の場合、0.43mg/L、焼成温度625℃の場合、0.08mg/Lであった。
【0142】
これらの結果と、上記X線回折分析の結果とを比較すると、表面層4が結晶化された酸化タンタル(Ta2O5)である焼成温度625℃の場合と、表面層4が結晶構造を持たない非晶質である焼成温度450℃、500℃、550℃、600℃の場合とでは、表面層4が非晶質のタンタル酸化物である場合の方が、オゾン生成電流効率が1.5〜5.4倍、高いことが分かる。
【0143】
これにより、電解用電極1の表面層4を、非晶質の誘電体の一例としてのタンタル酸化物とすることで、当該電極1をアノードとして使用した低電流密度(一例として160mA)による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0144】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
(3)表面層の原料の貴金属含有による依存性
ここで、当該表面層4の形成に用いられる表面層の原料としてタンタルペンタエトキシドは、その溶液安定性が悪い。そこで、溶液安定性を改善すべく、当該表面層4の原料には、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、Taと貴金属としての一例としてのPtの合計の濃度が1.45mol/Lとなる量の有機溶媒を溶解させて表面層4の原料とする。タンタルペンタエトキシド溶液に、Ptの原料としての六塩化白金酸をTaに対するPt比が0〜100%の範囲で変化させて調整する。本実験における各電解用電極の表面層4を形成する際の焼成
温度は600℃、塗布回数は25回とする。
【0145】
尚、Ptを添加する場合には、Ptの原料として六塩化白金酸・六水和物を用いる場合、当該六塩化白金酸・六水和物中にある塩素が焼成によって飛散しないために、表面層4には塩素も含まれることとなるが、これが本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0146】
上記と同様の電解装置10を用いて、表面層4を構成するTaと貴金属Ptとの構成比を変化させた各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。電解条件については、上記実施例2の(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。当該実験結果を図12の各Ptに対するTaの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図にて示す。
【0147】
当該実験では、表面層4を構成するPtに対するTaの構成比(以下、単にTaとする)が0%である場合に生成されたオゾン濃度は0、Taが10%の場合0.02mg/L、Taが20%、30%、40%、50%の場合いずれも0、Taが60%の場合0.01mg/L、Taが70%の場合0.06mg/L、Taが75%の場合0.15mg/L、Taが80%の場合0.38mg/L、Taが85%の場合0.26mg/L、Taが90%の場合0.27mg/L、Taが95%の場合0.19mg/L、Taが100%の場合0.32mg/Lであった。
【0148】
このように、Ptに対するTaの構成比率が80%の場合、即ち、表面層4を構成する誘電体に含まれる卑金属(この場合Ta)に対する貴金属(この場合Pt)の割合が20%以下である場合には、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。
【0149】
また、Taにて構成される表面層4の原料にPtが添加されることで、その溶液安定性を確保することができる。よって、貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下とすることで、オゾンの生成効率を低下させることなく、当該金属酸化物により表面層4を構成する原料の安定性を図ることができる。
【0150】
本実施例では、表面層4を非晶質のタンタル酸化物にて構成する場合に、貴金属として白金を含ませる場合について示しているが、当該貴金属は、これに限定されるものではなく、金やイリジウムであっても良い。
【0151】
また、図13には上記実施例1において採用される表面層4の原料に貴金属を添加した場合のオゾン生成量の依存性について示している。この場合、表面層4の原料には、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、Nbと貴金属(M)の合計の濃度が0.73mol/Lとなる量の有機溶媒を溶解させて表面層4の原料とする。貴金属としては、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)を用い、Nb原料としてのニオブペンタエトキシドに、Pt材料としての六塩化白金酸、Au材料としての六塩化金酸、Ir材料としての塩化イリジウムをNbに対するPt比、Au比、Ir比が0〜50%の範囲で変化させて調整する。本実験における各電解用電極の表面層4を形成する際の焼成温度は400℃、塗布回数は25回とする。
【0152】
この場合も、上記と同様に電解装置10を用いて表面層4を構成するNbと各貴金属Pt、Au、Irとの構成比を変化させた各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。電解条件については、上記実施例2の(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。
【0153】
当該実験では、表面層4を構成するPtに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が50.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0.005mg/L、Nbが62.6%の場合0.015mg/L、Nbが63.1%の場合0.02mg/L、Nbが64.6%の場合0.017mg/L、Nbが85.6%の場合0.27mg/L、Nbが93.3%の場合0.36mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0154】
表面層4を構成するAuに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が50.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0.03mg/L、Nbが80.0%の場合0.15mg/L、Nbが88.0%の場合0.245mg/L、Nbが95.5%の場合0.38mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0155】
表面層4を構成するIrに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が85.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0、Nbが92.3%の場合0.173mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0156】
このように、表面層4をニオブ酸化物にて構成する場合であっても、貴金属に対するNbの構成比率が80%の場合、即ち、表面層4を構成する誘電体に含まれる卑金属(この場合Nb)に対する貴金属(この場合、特に、Pt及びAu)の割合が20%以下である場合には、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。
(2)表面層の厚さ分析
次に、誘電体により構成される表面層4の厚さについて検討する。図14には実施例2において作製された電解用電極1の断面SEM写真を示す。当該電解用電極1は、表面層4を非晶質のタンタル酸化物にて構成するものであり、焼成温度は600℃、塗布回数は25回、表面層4の原料の溶液安定性及びオゾン生成効率を考慮し、表面層4の原料には、Pt材料が添加され、表面層4を構成するPtに対するTaの構成比は90%としたものである。
【0157】
図14の断面SEM写真は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製 S-3400NX)により取得したものである。白色にて示されている層が本発明における表面層4であり、当該表面層4の下側に接触して形成される濃い灰色にて示されている層(他に比べて薄い層)が中間層3である。そして、この中間層3の下側に接触して形成される灰色にて示されている層が基体2である。
【0158】
これによると、上述した如く取得されたSEM写真(倍率2000倍の電極断面の写真)を10枚以上取得し、そのデータから表面層4の膜厚を観察すると、表面層4は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を有する不均厚構成とされている。薄領域の厚さは、0.2μm乃至2.5μmの範囲内、望ましくは、0.2μm乃至1.5μm、及び/又は平均0.5μmである。厚領域の厚さは、5μm以上、望ましくは、11μm以上、また、電極の生産コストやオゾン生成効率を考慮し、20μm以下である。
【0159】
また、上記データから膜厚のばらつきの割合を統計的に処理して分析すると、厚さが0.2μm乃至2.5μm以下とする薄領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、厚さが5μm以上の厚領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至40%の範囲であった。そして、これらの薄領域と、厚領域以外の部分の電解用電極1の表面層4は、2.5μmより大きく5μm未満の厚さとする領域である。
【0160】
本実施例では、表面層4の薄領域と厚領域の形成は、上述したように、電解用電極1の基体2を図2のステップS3にて所定の面粗さとなるようにエッチング処理を施し、当該所定の面粗さとされた表面に、複数回に分けて中間層3の原料の塗布による中間層3の形成、更に、複数回に分けて表面層4の原料がその表面に塗布されることによってなされる。
【0161】
このように、本実施例では、非晶質の誘電体としてタンタル酸化物にて構成された表面層4は、その厚さが所定厚さ範囲の薄領域と、所定厚さ範囲の厚領域が形成されるように構成されているため、上述したように当該電解用電極1をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0162】
特に、表面層4は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0163】
そして、上記薄領域と共に、表面層4は、厚さが5μm以上、望ましくは11μm以上20μm以下とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0164】
また、薄領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、厚領域は、表面層4の全体面積の20%乃至40%の範囲とすることにより、その表面層4の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0165】
上述したように、各実施例における電解用電極1の表面層4を構成する誘電体としての非晶質の金属酸化物は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素、更に望ましくは、ニオブ、若しくは、タンタルとすることにより、高いオゾン生成効率を実現する電極1を容易に構成することができる。また、ニオブ若しくはタンタルにて金属酸化物を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0166】
尚、各実施例における電解用電極1は、基体2に、表面層4の内側に位置して、基体2の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層3、例えば、上述したように、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより中間層が形成されているので、アノードでの電極反応における電子が効果的に表面層4内を移動することが可能となる。そのため、表面層4の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができる。これにより、より低い電流密度にて効率的にオゾンを生成することができるようになる。
【0167】
特に、基体2の表面に難酸化性の金属で中間層3が形成されているため、当該電極1により電解を行った場合において、当該基体2表面が酸化し不導体化する不都合を回避することができる。これにより、電極1の耐久性を向上させることができる。また、基体2全体を当該中間層を構成する材料により構成する場合に比して、生産コストの低廉化を図ることができると共に、係る場合においても、同様に効率的にオゾンを生成することができる。
【符号の説明】
【0168】
1 電解用電極
2 基体(導電性基体)
3 中間層
4 表面層
10 電解装置
11 処理槽
12 電極(カソード)
13 電解質溶液(模擬水道水)
14 陽イオン交換膜
15 電源
16 撹拌装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極、及びその電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、所謂オゾン水は上下水道や、食品等、又は、半導体デバイス製造プロセス等での洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、紫外線ランプによりオゾンガスを生成するオゾン生成手段と水を貯留するタンクとを備え、生成したオゾンガスをタンク内の水に供給することでオゾン水を生成するオゾン水生成装置が開示されている。また、特許文献2には、水中にオゾンガスを効率よく溶解させるために、放電式のオゾンガス生成装置により生成したオゾンガスと水とをミキシングポンプにより所定の割合で混合するオゾン水生成装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の如き紫外線ランプや放電式によりオゾンガスを発生させてこのオゾンガスを水中に溶解させて成るオゾン水生成方法では、オゾンガス生成装置やオゾンガスを水中に溶解させるための操作などが必要となり装置が複雑化しやすく、また生成したオゾンガスを水中に溶解させる方法であるため所望の濃度のオゾン水を高効率に生成することが困難であるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、上記のような問題を解決するための方法として、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法が開示されている。係る方法では、多孔質体又は網状体で形成された電極基材と白金族元素の酸化物等を含む電極触媒とを有して構成されるオゾン生成用電極を用いる。
【0006】
また、特許文献4には、電解質溶液としての模擬水道水を酸化タンタル等の誘電体により表面層が構成された電解用電極により電解処理することで、オゾンを生成させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−77060号公報
【特許文献2】特開平11−333475号公報
【特許文献3】特開2002−80986号公報
【特許文献4】特開2007−016303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した如き特許文献3に示される方法では、電極物質としてダイヤモンドを使用するため、装置自体のコストが高騰する問題がある。係るオゾン水の生成方法では、白金族元素は標準的なアノード材料であり、有機物を含まない水系溶液中ではほとんど溶解しないという特徴があるが、オゾン生成用電極としてはオゾン生成効率が低く、高効率な電解法によるオゾン水生成を行うことは困難である。更に、このような従来のオゾン生成用電極を用いた電解法によるオゾン水生成では、オゾン生成のための電気分解において、1A/cm2以上の高電流密度を必要とすることや、電解質を低温とする必要があり、非常に多くのエネルギーを消費するという問題があった。これ以外にも二酸化鉛を用いた場合には、有毒であるという問題がある。
【0009】
更に、上述した如き特許文献4に示される電解用電極を用いた場合であっても、オゾンは生成されるものの、表面層の膜厚依存性や、当該層を構成する物質の結晶性によってオゾン生成効率にバラツキが生じていた。そのため、オゾン生成における電流効率の向上が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能である電解用電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、基体と、この基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、表面層は、非晶質の誘電体であることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項2又は請求項3の発明において、金属酸化物を構成する金属は、ニオブ、若しくは、タンタルであることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、誘電体は、貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項5の発明において、貴金属は、白金、金、イリジウムであることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6の何れかの発明において、基体には、表面層の内側に位置して、基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項7の発明において、中間層は、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより構成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされることを特徴とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項9の発明において、薄領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする。
【0021】
請求項11の発明は、請求項9又は請求項10の発明において、厚領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする。
【0022】
請求項12の発明は、請求項9乃至請求項11の何れかの発明において、誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であることを特徴とする。
【0023】
請求項13の発明は、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することを特徴とする。
【0024】
請求項14の発明は、基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより基体の表面に中間層を形成する第1のステップと、この第1のステップ後、中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことを特徴とする。
【0025】
請求項15の発明は、請求項13又は請求項14の発明において、表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことを特徴とする。
【0026】
請求項16の発明は、請求項13乃至請求項15の何れかの発明において、表面層は、ニオブ酸化物であって、且つ、熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことを特徴とする。
【0027】
請求項17の発明は、請求項13乃至請求項15の何れかの発明において、表面層は、タンタル酸化物であって、且つ、熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことを特徴とする。
【0028】
請求項18の発明は、請求項13乃至請求項17の何れかの発明において、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して表面層を形成することを特徴とする。
【0029】
請求項19の発明は、請求項13乃至請求項18の何れかの発明において、表面層の原料は、有機金属を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
請求項1の発明によれば、基体と、この基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極において、表面層は、非晶質の誘電体であるので、当該電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0031】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0032】
請求項2の発明によれば、上記に加えて、誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であるので、高効率でオゾン生成することが可能となる。
【0033】
請求項3の発明によれば、上記に加えて、金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であり、特に請求項4の発明の如くニオブ、若しくは、タンタルであるので、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に構成することができる。また、ニオブ若しくはタンタルにて金属酸化物を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0034】
請求項5の発明によれば、上記に加えて、金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、誘電体は、請求項6の発明の如く白金、金、イリジウム等の貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であるので、オゾンの生成効率を低下させることなく、当該金属酸化物により表面層を構成する材料の安定性を図ることができる。
【0035】
請求項7の発明によれば、上記各発明に加えて、基体には、表面層の内側に位置して、基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層、例えば、請求項8の発明の如く白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより中間層が形成されているので、アノードでの電極反応における電子が効果的に表面層内を移動することが可能となる。そのため、表面層の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができる。これにより、より低い電流密度にて効率的にオゾンを生成することができるようになる。
【0036】
特に、係る発明によれば、基体の表面に難酸化性の金属で中間層が形成されているため、当該電極により電解を行った場合において、当該基体表面が酸化し不導体化する不都合を回避することができる。これにより、電極の耐久性を向上させることができる。また、基体全体を当該中間層を構成する材料により構成する場合に比して、生産コストの低廉化を図ることができると共に、係る場合においても、同様に効率的にオゾンを生成することができる。
【0037】
請求項9の発明によれば、基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成る電解用電極において、表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされるので、当該電極をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0038】
特に、表面層は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0039】
そして、上記薄領域と共に、表面層は、最さが5μm以上とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0040】
請求項10の発明によれば、上記に加えて、薄領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、請求項11の発明の如くにより、厚領域は、表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることにより、その表面層の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0041】
請求項12の発明によれば、上記各発明に加えて、誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であるので、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に構成することができる。また、ニオブ酸化物若しくはタンタル酸化物にて表面層を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0042】
また、表面層を構成する誘電体は、ニオブ酸化物又はタンタル酸化物の非晶質であることから、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としない。そのため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0043】
請求項13の発明の電解用電極の製造方法によれば、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することにより、製造された電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0044】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0045】
請求項14の発明によれば、基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより基体の表面に中間層を形成する第1のステップと、この第1のステップ後、中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことにより、製造された電極をアノードとして使用した低電流密度による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0046】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0047】
また、基体の表面には、適切な厚さ、適切な量で、中間層を形成することができると共に、密着性の高い中間層を形成することができる。また、電極に必要な耐久性に合わせた中間層の厚さを容易に得ることができるため、中間層の原料の使用量を適量にすることができ、無駄な使用を低減することができる。
【0048】
更に、中間層の表面に適切な厚さ、適切な量で、表面層を形成することができると共に、密着性の高い表面層を形成することができる。
【0049】
請求項15の発明によれば、上記各発明において、表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことにより、高いオゾン生成効率を実現する電極を容易に製造することができる。また、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物により表面層を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0050】
請求項16の発明によれば、上記各発明において、表面層がニオブ酸化物である場合、熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことにより、結晶化しない状態の非晶質のニオブ酸化物にて表面層を構成することが可能となる。また、請求項17の発明によれば、表面層がタンタル酸化物である場合、熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことにより、結晶化しない状態の非晶質のタンタル酸化物にて表面層を構成することが可能となる。
【0051】
請求項18の発明によれば、上記各発明において、基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して表面層を形成することにより、基体に所定厚さの表面層を形成することができる。これにより、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0052】
請求項19の発明によれば、上記各発明において、表面層の原料は、有機金属を含むことにより、基体への表面層の形成を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を適用した実施例としての電解用電極の平断面図である。
【図2】電解用電極の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】各条件により作製された電解用電極の表面層のX線回折パターンを示す図である。
【図4】電解用電極を適用した電解装置の概略説明図である。
【図5】各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【図6】各焼成温度に対する電流効率を示す図である。
【図7】各ニオブ担持量に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図8】表面層の原料の塗布回数に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図9】電解用電極の断面SEM写真である。
【図10】非晶質のタンタル酸化物により表面層が形成された電解用電極のX線回折パターンを示す図である。
【図11】各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【図12】各Ptに対するTaの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図13】各貴金属に対するNbの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【図14】電解用電極の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態として、実施例1及び実施例2を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0055】
図1は本発明の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体(導電性基体)2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。
【0056】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金などにより構成される。コストや加工性、耐食性などを考慮した場合、チタンが好適であり、本実施例では、基体2としてチタン板を用いる。
【0057】
中間層3は、表面層4の内側に位置して形成されるものであり、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、又は、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、又は、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。尚、金属酸化物については、予め酸化物として中間層3が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。
【0058】
但し、中間層3が導電性をもつ金属酸化物、例えば酸化イリジウム等により構成される場合には、当該金属酸化物を構成する酸素原子が導電体に悪影響を及ぼすことから、当該中間層3は、難酸化性の金属により構成することが望ましい。本実施例では、中間層4は、白金により構成する。
【0059】
尚、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層3を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体2を低廉な材料にて構成し、当該基体2の表面に貴金属等で構成される中間層3を形成することが好ましい。
【0060】
また、基体2を導電性を有さない物質、例えばガラス板により構成し、当該基体2は、少なくとも後述する表面層4との接触面が導電性を有する材料により被覆されているものであるならば、上記構成に限定されるものではない。これによっても、基体2の構成に用いられる材料に要するコストの高騰を抑制することが可能となる。
【0061】
また、表面層4は、前記中間層3を被覆するものであって、非晶質(アモルファス。不定形)の誘電体である。誘電体は、金属的伝導性を示さない物質のことであり、本実施例において、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素に相当する金属の酸化物、望ましくは、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)の酸化物(金属酸化物)によって、中間層3が形成された基体2の表面(中間層3の表面)に層状に形成される。尚、この表面層4の厚さの詳細については後述する。
【0062】
なお、本実施例では、誘電体として非晶質の単一金属の酸化物として非晶質のニオブ酸化物(NbOx)や、タンタル酸化物(TaOx)を挙げているが、これに限定されるものではなく、誘電体である非晶質の複合金属酸化物であってもよい。
【0063】
次に、図2のフローチャートを参照して本発明の実施例1としての電解用電極1の製造方法について説明する。先ず初めに、厚さ1mm、長さ80mm、幅20mmのチタン板を基体2として用い、この基体2の表面(長さ80mm、幅20mmとした面)を耐水研磨紙により研磨する(ステップS1)。尚、基体2の表面の片側のみに中間層3及び表面層4を被覆して、この表面層4を対極に対向させて電解の反応面として使用しても良いが、例えば、バイポーラ式の電解装置において採用する場合には、基体2の表面の両面、或いは、基体2の全面に中間層3及び表面層4を形成させても良い。この場合、基体2の表面の研磨及び以下で説明するエッチング、熱処理等の製造工程は、基体2の表面、或いは、全面に対して行うものとする。
【0064】
また、上記基体2の表面の研磨は、当該基体2の表面に形成されている酸化皮膜を削除できればよいものであり、耐水研磨紙による方法だけでなく、サンドブラスト等同様の効果が得られる方法ならば、他の方法であっても良い。
【0065】
次に、表面を研磨した基体2を有機溶剤、本実施例では、アセトンにより脱脂し(ステップS2)、その後、濃度200g/Lの熱シュウ酸水溶液により所定の面粗さとなるまで、本実施例では3時間の化学エッチングを実行する(ステップS3)。尚、前記熱シュウ酸水溶液の代わりとして、例えば、熱硫酸、フッ酸などを用いても良い。
【0066】
化学エッチングにより表面が粗面化された基体2に、先ず、中間層3を形成する。本実施例では、白金により中間層3を形成するため、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、白金濃度が50mg/Lとなる量の六塩化白金酸を溶解させて、中間層3の原料とする。
【0067】
そして、前記基体2の表面に上記中間層3の原料をヘラを用いて均一に塗布する(ステップS4)。尚、この中間層3の原料の塗布方法としては、上記の如きヘラで塗布する方法以外にも、前記中間層3の原料をスプレーにて基体2上に塗布する方法、或いは、前記中間層3の原料を容器内に収容し、この容器内に基体2を浸漬する方法、更には、基体2を回転させて遠心力により前記中間層3の原料を塗布する方法(スピンコート法)等で行っても良い。
【0068】
表面に中間層3の原料が付着した基体2を、次に室温にて10分間乾燥し(ステップS5)、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には、200℃にて10分間乾燥を行う(ステップS6)。更には、400℃〜550℃の温度範囲、好適には500℃にて10分間の熱処理(焼成)を実施する(ステップS7)。これにより、前記溶媒成分等が蒸発し、基体2の表面には白金で構成される中間層3が形成される。
【0069】
そして、上記中間層3が形成された基体2を室温にて10分間冷却し(ステップS8)、その後、図2に示すように、再び中間層3の原料の塗布(ステップS4)、室温乾燥(ステップS5)、200℃での熱処理(ステップS6)、500℃での熱処理(ステップS7)、室温冷却(ステップS8)の工程を、中間層3の厚さが所定の厚さとなるまで繰り返す(ステップS9)。尚、本実施例では、上記工程を10回繰り返し行うものとする。これらの工程を中間層3を作製する第1のステップとする。
【0070】
このように、中間層3の作製工程を複数回繰り返すことにより、一度で大量の中間層3の原料を基体2の表面に構成させた場合に比べて、基体2上に適切な厚さ、適切な量で白金を被覆させることができるようになる。また、密着性の高い中間層3を形成することができるようになり、電極自体の耐久性を向上させることができる。また、電極に必要な耐久性に合わせた中間層3の厚さを容易に得ることができるため、貴金属又は貴金属酸化物の使用量を適量とすることができ、無駄な貴金属及び貴金属酸化物の使用を低減することができる。
【0071】
その後、基体2の表面に形成した中間層3の表面に、誘電体により構成された表面層4を形成する。本実施例では、誘電体であるニオブ酸化物により表面層4を形成させるため、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、ニオブ濃度が0.73mol/Lとなる量のニオブペンタエトキシドを溶解させて、表面層4の原料とする。
【0072】
ここで、ニオブペンタエトキシドは純度99%の試薬を用いる。また、高周波誘導結合発光分光分析装置(ICP発光分光分析装置)による分析によれば、不純物としてバリウム、カルシウム、ジルコニウム、アルミニウム、カドミウム、コバルト、クロム、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、ニッケル、ストロンチウム、チタン、バナジウム、亜鉛、鉛、アンチモン、スズが含まれる。そのため、本実施例において用いるニオブペンタエトキシドは、1%以下程度の不純物を含んだものを用いる。また、焼成後にこれらの不純物は、空気中に飛散することはないため、表面層4のニオブ酸化物中には上記不純物が1%程度含まれている。しかし、これらの不純物が本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0073】
尚、本実施例では、表面層4の原料として、ニオブのアルコキシドを採用しているが、これに限定されるものではなくカルボキシル基を含む有機金属であっても良い。これにより、表面層の原料として有機金属を含むものを採用することにより、基体2への表面層4の形成を容易とすることができる。
【0074】
そして、上述した中間層3を形成するための中間層3の原料の塗布方法と同様にヘラを用いて、基体2の表面上に形成した中間層3の表面に上記表面層4の原料を均一に塗布する(ステップS10)。尚、この表面層4の原料の塗布においても、中間層3の原料の塗布の場合と同様に、ヘラで塗布する方法以外に、表面層4の原料をスプレーにて塗布する方法、或いは、表面層4の原料を容器内に収容し、この容器内に中間層3が形成された基体2を浸漬する方法、更には、当該基体2を回転させて遠心力により前記表面層4の原料を塗布する方法(スピンコート法)などを行っても良い。
【0075】
このように、中間層3の表面に表面層4の原料が付着した基体2には、上述した中間層3の形成のための作製工程と略同様な作製工程により表面層4の形成が行われる。
【0076】
即ち、上記中間層3の表面に表面層4の原料が塗布された基体2を室温にて10分間乾燥し(ステップS11)、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には200℃で10分間の乾燥を行う(ステップS12)。そして、この表面層4の作製においては、300℃〜500℃の温度範囲にて10分間の熱処理(焼成)を行う(ステップS13)。これにより、基体2の表面に形成された中間層3の更に表面にニオブ酸化物により構成される表面層4が形成される。尚、当該熱処理(焼成)における温度についての詳細は後述する。
【0077】
そして、表面層4が形成された基体2を室温にて10分間冷却し(ステップS14)、その後、図2に示すように再び表面層4の原料の塗布(ステップS10)、室温乾燥(ステップS11)、200℃乾燥(ステップS12)、熱処理(焼成。ステップS13)、室温冷却(ステップS14)の工程を、表面層4の厚さが所定の厚さとなるまで繰り返す(ステップS15)。これにより、本実施例における電解用電極1が得られる。尚、本実施例では、上記工程を10回乃至50回繰り返し行うものとする。尚、当該表面層4の工程回数についての詳細は後述する。これらの工程を表面層4を作製する第2のステップと
する。
(1)電解用電極のX線回折分析
次に、上述により得られた電解用電極1の表面層4のX線回折分析を行い、当該表面層4の結晶構造の解析を行う。図3は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を300℃、350℃、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃、600℃の各条件として電解用電極1を構成した場合の各表面層4のX線回折パターンを示している。尚、各条件にて作製された電解用電極1の表面層4の上記工程回数は、いずれも25回と条件を統一する。
【0078】
一般に、結晶構造の解析には、X線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層4を形成するニオブ酸化物の結晶構造を解析することが可能となる。本実施例では、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 Discover)を用いて観測を行った。
【0079】
これによると、焼成温度が500℃以上(500℃、550℃、600℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンに示される各回折ピーク(2θ)は、いずれの焼成温度により構成された電極1であっても、22.6°程度、28.5°程度、36.7°程度、50.8°程度、55.1°程度であった(図3で黒丸にて表示するピーク)。これらは、酸化ニオブ(Nb2O5)特有の回折ピーク(2θ)と一致するものであり、焼成温度500℃以上として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在しているが、焼成温度500℃未満(この場合、475℃、450℃、400℃、350℃、300℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在していない。
【0080】
従って、上述した如き本実施例の方法では、焼成温度を300℃以上500℃未満の温度範囲にて表面層4を形成する電解用電極1では、表面層4を形成するニオブ酸化物は、結晶構造を持たない非晶質、即ち、不定形、所謂アモルファスであることが分かる。
【0081】
尚、本実施例では、表面層4をニオブペンタエトキシドを含む表面層の原料をへらを用いて(本実施例では中間層3表面)に均一に塗布し、所定温度にて焼成することにより、非晶質のニオブ酸化物を形成しているが、当該非晶質のニオブ酸化物により表面層4を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0082】
他の方法として、熱CVD法による表面層4の形成方法がある。この熱CVD法では、基体2の表面に、上記実施例と同様に中間層3を形成した後、表面層の原料であるニオブを含む有機溶媒を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、例えば300℃〜500℃に熱せられた基体2の表面で化学反応を行う。
【0083】
これにより、表面層の原料であるニオブを含む有機溶媒のニオブを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体2の表面において除去され、ニオブのみが雰囲気中の酸素と反応し、ニオブ酸化物として基体2(実際には中間層3)の表面に形成される。基体2の表面(中間層3の表面)に形成されたニオブ酸化物は、非晶質薄膜(ニオブ酸化物膜)を構成する。
【0084】
尚、非晶質のニオブ酸化物により表面層4を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
(2)オゾン生成の電流効率の焼成温度依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成の焼成温度の依存性について図4乃至図6を参照して説明する。図4は電解用電極1を適用した電解装置10の概略説明図、図5は各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図、図6は各焼成温度に対する電流効率を示す図である。
【0085】
電解装置10は、処理槽11と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極12と、電極1、12に直流電流を印加する電源15とから構成される。そして、これら電極1、12間に位置して、処理槽11内の電極1の存する一方の領域と電極12の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))14が設けられる。また、アノードとしての電解用電極1が浸漬される領域には、撹拌装置16が設けられている。
【0086】
また、この処理槽11内には、電解質溶液としての模擬水道水13が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水が電解質溶液として用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、他の水系電解質を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。なお、当該実験に用いられる電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。
【0087】
電解用電極1は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を250℃、300℃、350℃、400℃、450℃、475℃、500℃、550℃、600℃とした各条件の電極を用いる。各電解用電極1及び対極となる電極12の表面積は、この場合2×4cm2を採用する。
【0088】
以上の構成により、処理槽11内の各領域に150mlずつの模擬水道水13を貯溜し、該電解用電極1及び電極12をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、各電極間距離は、10mmとする。そして、電源15により、電流160mAの定電流が電解用電極1及び電極12に印加される。また、模擬水道水13の温度は+20℃であるものとする。
【0089】
本実施例では、各電解用電極によるオゾンの生成量は、上記条件にて1分間電解後の模擬水道水13中のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、図5ではオゾン生成量の濃度を示し、図6では通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与した電荷の割合、即ち、オゾン生成電流効率を示し、これらから各電解用電極の評価を行う。
【0090】
図5に示すように、当該実験では、表面層4の焼成温度が250℃であった電解用電極(以下、焼成温度250℃の場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、オゾン生成量は、0.19mg/L、焼成温度300℃の場合、0.24mg/L、焼成温度350℃の場合、0.41mg/L、焼成温度400℃の場合、0.54mg/L、焼成温度450℃の場合、0.50mg/L、焼成温度475℃の場合、0.47mg/L、焼成温度500℃の場合、0.24mg/L、焼成温度550℃の場合、0.11mg/L、焼成温度600℃の場合、0.11mg/Lであった。
【0091】
また、図6に示されるように、オゾン生成電流効率で表した場合、焼成温度250℃の場合、3.5%、焼成温度300℃の場合、4.5%、焼成温度350℃の場合、7.7%、焼成温度400℃の場合、10.2%、焼成温度450℃の場合、9.3%、焼成温度475℃の場合、8.8%、焼成温度500℃の場合、4.4%、焼成温度550℃の場合、2.1%、焼成温度600℃の場合、2.1%であった。
【0092】
これらの結果と、上記X線回折分析の結果とを比較すると、表面層4が結晶化された酸化ニオブ(Nb2O5)である焼成温度550℃及び600℃の場合と、表面層4が結晶構造を持たない非晶質である焼成温度350℃、400℃、450℃、475℃の場合とでは、表面層4が非晶質のニオブ酸化物である場合の方が、オゾン生成電流効率が3.6倍以上、高いことが分かる。
【0093】
これにより、電解用電極1の表面層4を、非晶質の誘電体の一例としてのニオブ酸化物とすることで、当該電極1をアノードとして使用した低電流密度(一例として160mA)による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0094】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0095】
一方、焼成温度500℃で表面層4を形成した場合には、焼成温度550℃や600℃にて形成した場合と異なり、そのオゾン生成電流効率がこれらの2倍以上となっている。これは、当該焼成温度では、結晶化したニオブ酸化物と非晶質のニオブ酸化物の両者が形成される遷移温度である。
【0096】
従って、当該焼成温度が500℃の場合であっても非晶質のニオブ酸化物が形成されており、当該焼成温度であっても、非晶質のニオブ酸化物による表面層4による効果が得られる。
【0097】
また、実験結果より焼成温度が250℃、300℃である場合には、表面層4は、非晶質のニオブ酸化物が形成されているため、結晶化された酸化ニオブにより表面層4が形成された焼成温度550℃、600℃の場合よりも高いオゾン生成電流効率を示している。
【0098】
しかしながら、当該電解用電極によるオゾン生成の電流効率として4%以上が求められる場合には、当該表面層4を形成する焼成温度の条件は、300℃以上500℃以下であることが望ましい。表面層4を形成する焼成温度の条件を350℃以上500℃未満とすることで、7.5%以上のオゾン生成の電流効率(400℃が電流効率の極大値)を実現することが可能となる。従って、表面層4を非晶質のニオブ酸化物にて構成する場合には、焼成温度の条件を350℃以上500℃未満とすることが望ましい。
(3)オゾン生成量のNb担持量依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成量のニオブ(Nb)担持量依存性について図7及び図8を参照して説明する。図7は各ニオブ担持量に対するオゾン生成濃度を示す図、図8は表面層4の原料の塗布回数に対するオゾン生成濃度を示す図である。
【0099】
上記と同様の電解装置10を用いて、表面層4を構成するニオブの担持量の条件を変更した各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。この場合、電解用電極1は、表面層4の原料は、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、ニオブ濃度を0.37mol/L、0.73mol/L、1.45mol/Lとなる量のニオブペンタエトキシドを溶解させて調整した。そして、図2の熱処理(焼成)(ステップS13)における焼成温度は、上述した如く非晶質のニオブ酸化物を形成でき、且つ、同一条件下でオゾン生成の電流効率の極大値を得られる400℃とする。また、図2のステップS15におけるその塗布回数は、5回から50回繰り返し行うことで、それぞれ得られた電解用電極によってオゾン生成に関する評価を行う。電解条件については、上記(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。
【0100】
図7に示すように、当該実験では、表面層4の原料の塗布回数を変化させることで、表面層4のニオブ担持量を変化させる。ニオブ濃度0.37mol/Lにて調整した原料にて表面層4を形成した電解用電極(Nb濃度0.37mol/Lの場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、ニオブ(Nb)の担持量が2.10μmol/cm2の場合に生成されたオゾン濃度が0.083mg/L、Nb担持量が3.94μmol/cm2で0.43mg/L、Nb担持量が5.50μmol/cm2で0.48mg/L、Nb担持量が6.56μmol/cm2で0.54mg/L、Nb担持量7.97μmol/cm2で0.43mg/Lであった。
【0101】
また、Nb濃度0.73mol/Lの場合、Nb担持量が2.14μmol/cm2で生成されたオゾン濃度が0.16mg/L、Nb担持量が3.97μmol/cm2で0.26mg/L、Nb担持量が5.88μmol/cm2で0.40mg/L、Nb担持量が8.08μmol/cm2で0.49mg/L、Nb担持量が8.90μmol/cm2で0.54mg/L、Nb担持量が10.10μmol/cm2で0.49mg/L、Nb担持量が10.86μmol/cm2で0.30mg/L、Nb担持量が11.99μmol/cm2で0.15mg/L、Nb担持量が13.30μmol/cm2で0.03mg/L、Nb担持量が15.75μmol/cm2で0.003mg/Lであった。
【0102】
また、Nb濃度1.45mol/Lの場合、Nb担持量が4.127μmol/cm2で生成されたオゾン濃度が0.035mg/L、Nb担持量が7.46μmol/cm2で0.07mg/L、Nb担持量が10.24μmol/cm2で0.18mg/L、Nb担持量が12.82μmol/cm2で0.35mg/L、Nb担持量が15.29μmol/cm2で0.26mg/Lであった。
【0103】
図7に示すように、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が2μmol/cm2〜16μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。当該オゾン濃度は、病原性の腸内細菌(例えばO157)を約5秒で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を2〜16μmol/cm2とすることが望ましい。
【0104】
また、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が4μmol/cm2〜13μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.3mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、ウイルスを5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を4〜13μmol/cm2とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0105】
更に、電解用電極1の表面層4のNbの担持量が5μmol/cm2〜10μmol/cm2では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.5mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、病原性の芽胞菌(例えば破傷風菌)等を5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4のNbの担持量を5〜10μmol/cm2とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0106】
このように、表面層4のNbの担持量を調整することで、その使用目的に応じた濃度のオゾンを低電流にてより効果的に生成することが可能となる。
(4)オゾン生成量の表面層の原料の塗布回数依存性
一方、図8を参照して表面層の原料の塗布回数に着目し、当該塗布回数に対するオゾンの生成濃度について検討する。図8に示すように、当該実験では、Nb濃度0.37mol/Lの場合、10回塗布で生成されたオゾン濃度が0.083mg/L、20回塗布で0.43mg/L、30回塗布で0.48mg/L、40回塗布で0.54mg/L、50回塗布で0.43mg/Lであった。また、Nb濃度0.73mg/Lの場合、5回塗布で生成されたオゾン濃度が0.003mg/L、10回塗布で0.032mg/L、15回塗布で0.153mg/L、20回塗布で0.30mg/L、25回塗布で0.49mg/L、30回塗布で0.54mg/L、35回塗布で0.49mg/L、40回塗布で0.40mg/L、45回塗布で0.26mg/L、50回塗布で0.16mg/Lであった。また、Nb濃度1.45mol/Lの場合、5回塗布で生成されたオゾン濃度が0.035mg/L、10回塗布で0.07mg/L、15回塗布で0.18mg/L、20回塗布で0.35mg/L、25回塗布で0.26mg/Lであった。
【0107】
このように、いずれのNb濃度にて調整された表面層4の原料を使用した場合であっても、塗布回数に対するオゾン生成量との関係は、ある値で極大値をとる。即ち、Nb濃度が0.37mol/Lの場合、40回塗布で生成されたオゾン濃度が0.54mg/Lであり、Nb濃度が0.73mol/Lの場合、30回塗布で生成されたオゾン濃度が0.54mg/Lであり、Nb濃度が1.45mol/Lの場合、20回塗布で生成されたオゾン濃度が0.35mg/Lである。
【0108】
これは、表面層4の原料の塗布回数が少ない場合、十分な厚さの非晶質のニオブ酸化物による表面層4が形成されず、電気的に中間層3が見えた状態となる。そのため、表面層4にて行われるはずの電子の授受の反応場が十分確保できず、オゾンの生成効率が低下するものと考えられる。
【0109】
他方、表面層4の原料の塗布回数が多すぎる場合には、形成される表面層4が厚くなり過ぎ、電圧降下が大きく影響する。そして、反応により生じるジュール熱が高くなることで、生成されたオゾンが直ぐに分解されてしまうこととなり、オゾンの生成効率が低下するものと考えられる。
【0110】
よって、表面層4の原料の塗布回数が15回〜50回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。当該オゾン濃度は、病原性の腸内細菌(例えばO157)を約5秒で99%死滅させることができるものであり、表面層4を構成するための原料の塗布回数を15回〜50回とすることが望ましい。
【0111】
また、表面層4の原料の塗布回数が20回〜40回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.3mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、ウイルスを5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4を構成するための原料の塗布回数を20〜40回とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0112】
更に、表面層4の原料の塗布回数が25回〜35回では、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が略0.5mg/L以上とすることができる。当該オゾン濃度は、病原性の芽胞菌(例えば破傷風菌)等を5分以内で99%死滅させることができるものであり、表面層4の原料の塗布回数を25回〜35回とすることでより高い殺菌、ウイルス不活性効果を実現できる。
【0113】
このように、表面層4を構成する表面層4の原料の塗布回数を調整することで、その使用目的に応じた濃度のオゾンを低電流にてより効果的に生成することが可能となる。
(5)表面層の厚さ分析
次に、誘電体により構成される表面層4の厚さについて検討する。図9には実施例1において作製された電解用電極1の断面SEM写真を示す。当該電解用電極1は、表面層4を非晶質のニオブ酸化物にて構成するものであり、焼成温度は400℃、塗布回数は25回である。
【0114】
図9の断面SEM写真は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製 S-3400NX)により取得したものである。凹凸のある薄い白色の層から上側に示されている層が本発明における表面層4であり、当該表面層4の下側に接触して形成される白色にて示されている層(他に比べて薄い層)が中間層3である。そして、この中間層3の下側に接触して形成される灰色にて示されている層が基体2である。
【0115】
これによると、上述した如く取得されたSEM写真(倍率2000倍の電極断面の写真)を10枚以上取得し、そのデータから表面層4の膜厚を観察すると、表面層4は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を有する不均厚構成とされている。薄領域の厚さは、0.2μm乃至2.5μmの範囲内、望ましくは、0.2μm乃至1.5μm、及び/又は平均0.5μmである。厚領域の厚さは、5μm以上、望ましくは、11μm以上、また、電極の生産コストやオゾン生成効率を考慮し、20μm以下である。
【0116】
また、上記データから膜厚のばらつきの割合を統計的に処理して分析すると、厚さが0.2μm乃至2.5μm以下とする薄領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、厚さが5μm以上の厚領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、これらの薄領域と、厚領域以外の部分の電解用電極1の表面層4は、2.5μmより大きく5μm未満の厚さとする領域である。
【0117】
本実施例では、表面層4の薄領域と厚領域の形成は、上述したように、電解用電極1の基体2を図2のステップS3にて所定の面粗さとなるようにエッチング処理を施し、当該所定の面粗さとされた表面に、複数回に分けて中間層3の原料の塗布による中間層3の形成、更に、複数回に分けて表面層4の原料がその表面に塗布されることによってなされる。
【0118】
このように、本実施例では、非晶質の誘電体としてニオブ酸化物にて構成された表面層4は、その厚さが所定厚さ範囲の薄領域と、所定厚さ範囲の厚領域が形成されるように構成されているため、上述したように当該電解用電極1をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0119】
特に、表面層4は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0120】
そして、上記薄領域と共に、表面層4は、厚さが5μm以上、望ましくは11μm以上20μm以下とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0121】
また、薄領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、厚領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることにより、その表面層4の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【実施例2】
【0122】
次に、本発明の実施例2の電解用電極について説明する。なお、係る実施例により得られる電解用電極の製造方法は、上記実施例1における図2のフローチャートと同様であり、概略構成図も図1と略同様であるため、詳細な製造方法の説明は省略する。
【0123】
即ち、当該実施例における電解用電極は、上記各実施例と同様に基体2を構成するチタン板の表面に、白金にて中間層3を構成する。尚、当該基体2及び中間層3の詳細については上記実施例1と同様とする。
【0124】
次に、中間層3の表面に表面層4を形成する。係る実施例では、表面層4は、非晶質の誘電体として、タンタルの酸化物により構成されている。この場合、表面層4の原料としての有機タンタル化合物溶液を中間層3が形成された基体2の表面に塗布する。本実施例では、表面層4は、タンタル酸化物により構成するため、本実施例では、タンタルペンタエトキシドを用いる。
【0125】
本実施例では、タンタルペンタエトキシドは純度99%の試薬を用いる。また、高周波誘導結合発光分光分析装置(ICP発光分光分析装置)による分析によれば、上述した如きニオブペンタエトキシドと同様の不純物が含まれていた。そのため、本実施例におけるタンタルペンタエトキシドは、1%以下程度の不純物を含んだものを採用する。また、焼成後にこれらの不純物は空気中に飛散することはないため、表面層4のタンタル酸化物中には上記不純物が1%以下程度含まれている。しかし、これらの不純物が本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0126】
尚、本実施例でタンタルペンタエトキシドの溶媒としてはイソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールを4:1に混合した溶媒を用いる。また、本実施例では、表面層4の原料としてタンタルペンタエトキシドを用いているがこれに限定されるものではなく、タンタルを含む化合物であって、焼成によりタンタル以外の物質を除去し、酸化タンタルによる成膜が可能な物質であれば良いものとする。また、本実施例では、溶媒としてイソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールを4:1に混合した溶媒を用いているが、これに限定されるものではなく、アルコール系などの他の溶媒を用いてもよい。また、こ
の表面層4の原料には、その溶液安定性を考慮し、詳細は後述する如く貴金属の有機溶媒が添加される。
【0127】
そして、中間層3が形成された基体2の表面に上記表面層4の原料を均一に塗布する。尚、この表面層4の原料の塗布においても、中間層3の原料の塗布の場合と同様に、ヘラで塗布する方法以外に、表面層4の原料をスプレーにて塗布する方法、或いは、表面層4の原料を容器内に収容し、この容器内に中間層3が形成された基体2を浸漬する方法、更には、当該基体2を回転させて遠心力により前記表面層4の原料を塗布する方法(スピンコート法)などを行っても良い。
【0128】
上記中間層3の表面に表面層4の原料が塗布された基体2を室温にて10分間乾燥し、その後、150℃〜250℃の温度範囲、好適には200℃で10分間の乾燥を行う。そして、この表面層4の作製においては、400℃〜625℃の温度範囲にて10分間の熱処理(焼成)を行う。これにより、基体2の表面に形成された中間層3の更に表面にタンタル酸化物により構成される表面層4が形成される。
(1)電解用電極のX線回折分析
次に、上述により得られた電解用電極1の表面層4のX線回折分析を行い、当該表面層4の結晶構造の解析を行う。図10は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、625℃の各条件として電解用電極1を構成した場合の各表面層4のX線回折パターンを示している。尚、各条件にて作製された電解用電極1の表面層4の上記工程回数は、いずれも25回と条件を統一する。
【0129】
一般に、結晶構造の解析には、X線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層4を形成するタンタル酸化物の結晶構造を解析することが可能となる。本実施例では、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 Discover)を用いて観測を行った。
【0130】
これによると、焼成温度が600℃より高い(625℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンに示される各回折ピーク(2θ)は、いずれの焼成温度により構成された電極1であっても、22.9°程度、25.8°程度、28.5°程度、33.4°程度、36.8°程度、50.7°程度、56.0°程度であった(図10で黒三角にて表示するピーク)。これらは、酸化タンタル(Ta2O5)特有の回折ピーク(2θ)と一致するものであり、600℃より高い焼成温度で得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在しているが、焼成温度600℃以下(この場合、600℃、550℃、500℃、450℃、400℃)として得られた電解用電極1の表面層4のX線回折パターンには、存在していない。
【0131】
従って、上述した如き本実施例の方法では、焼成温度を400℃以上600℃以下の温度範囲にて表面層4を形成する電解用電極1では、表面層4を形成するタンタル酸化物は、結晶構造を持たない非晶質、即ち、不定形、所謂アモルファスであることが分かる。
【0132】
尚、本実施例では、表面層4をタンタルペンタエトキシドを含む表面層の原料をへらを用いて(本実施例では中間層3表面)に均一に塗布し、所定温度にて焼成することにより、非晶質のタンタル酸化物を形成しているが、当該非晶質のタンタル酸化物により表面層4を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0133】
他の方法として、熱CVD法による表面層4の形成方法がある。この熱CVD法では、基体2の表面に、上記実施例と同様に中間層3を形成した後、表面層の原料であるタンタルを含む有機溶媒を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、例えば400℃〜600℃に熱せられた基体2の表面で化学反応を行う。
【0134】
これにより、表面層の原料であるタンタルを含む有機溶媒のタンタルを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体2の表面において除去され、タンタルのみが雰囲気中の酸素と反応し、タンタル酸化物として基体2(実際には中間層3)の表面に形成される。基体2の表面(中間層3の表面)に形成されたタンタル酸化物は、非晶質薄膜(タンタル酸化物膜)を構成する。
【0135】
尚、非晶質のタンタル酸化物により表面層4を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
(2)オゾン生成の電流効率の焼成温度依存性
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成の焼成温度の依存性について図4及び図11を参照して説明する。図4は電解用電極1を適用した電解装置10の概略説明図、図11は各焼成温度に対するオゾン生成量を示す図である。
【0136】
電解装置10は、処理槽11と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極12と、電極1、12に直流電流を印加する電源15とから構成される。そして、これら電極1、12間に位置して、処理槽11内の電極1の存する一方の領域と電極12の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))14が設けられる。また、アノードとしての電解用電極1が浸漬される領域には、撹拌装置16が設けられている。
【0137】
また、この処理槽11内には、電解質溶液としての模擬水道水13が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水が電解質溶液として用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、他の水系電解質を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。なお、当該実験に用いられる電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。
【0138】
電解用電極1は、表面層4を形成する際の熱処理(ステップ13)の焼成温度を400℃、450℃、500℃、550℃、600℃、625℃とした各条件の電極を用いる。各電解用電極1及び対極となる電極12の表面積は、この場合2×4cm2を採用する。
【0139】
以上の構成により、処理槽11内の各領域に150mlずつの模擬水道水13を貯溜し、該電解用電極1及び電極12をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、各電極間距離は、10mmとする。そして、電源15により、電流160mAの定電流が電解用電極1及び電極12に印加される。また、模擬水道水13の温度は+20℃であるものとする。
【0140】
本実施例では、各電解用電極によるオゾンの生成量は、上記条件にて1分間電解後の模擬水道水13中のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、図11ではオゾン生成量の濃度を示し、これから各電解用電極の評価を行う。
【0141】
図11に示すように、当該実験では、表面層4の焼成温度が400℃であった電解用電極(以下、焼成温度400℃の場合とする。以下、各電極についても同様に示す。)の場合、オゾン生成量は、0.01mg/L、焼成温度500℃の場合、0.19mg/L、焼成温度550℃の場合、0.26mg/L、焼成温度600℃の場合、0.43mg/L、焼成温度625℃の場合、0.08mg/Lであった。
【0142】
これらの結果と、上記X線回折分析の結果とを比較すると、表面層4が結晶化された酸化タンタル(Ta2O5)である焼成温度625℃の場合と、表面層4が結晶構造を持たない非晶質である焼成温度450℃、500℃、550℃、600℃の場合とでは、表面層4が非晶質のタンタル酸化物である場合の方が、オゾン生成電流効率が1.5〜5.4倍、高いことが分かる。
【0143】
これにより、電解用電極1の表面層4を、非晶質の誘電体の一例としてのタンタル酸化物とすることで、当該電極1をアノードとして使用した低電流密度(一例として160mA)による電解質溶液の電気分解により効率的にオゾンを生成することができる。
【0144】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
(3)表面層の原料の貴金属含有による依存性
ここで、当該表面層4の形成に用いられる表面層の原料としてタンタルペンタエトキシドは、その溶液安定性が悪い。そこで、溶液安定性を改善すべく、当該表面層4の原料には、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、Taと貴金属としての一例としてのPtの合計の濃度が1.45mol/Lとなる量の有機溶媒を溶解させて表面層4の原料とする。タンタルペンタエトキシド溶液に、Ptの原料としての六塩化白金酸をTaに対するPt比が0〜100%の範囲で変化させて調整する。本実験における各電解用電極の表面層4を形成する際の焼成
温度は600℃、塗布回数は25回とする。
【0145】
尚、Ptを添加する場合には、Ptの原料として六塩化白金酸・六水和物を用いる場合、当該六塩化白金酸・六水和物中にある塩素が焼成によって飛散しないために、表面層4には塩素も含まれることとなるが、これが本実施例における表面層4の特性に影響を与えるものではない。
【0146】
上記と同様の電解装置10を用いて、表面層4を構成するTaと貴金属Ptとの構成比を変化させた各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。電解条件については、上記実施例2の(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。当該実験結果を図12の各Ptに対するTaの構成比率に対するオゾン生成濃度を示す図にて示す。
【0147】
当該実験では、表面層4を構成するPtに対するTaの構成比(以下、単にTaとする)が0%である場合に生成されたオゾン濃度は0、Taが10%の場合0.02mg/L、Taが20%、30%、40%、50%の場合いずれも0、Taが60%の場合0.01mg/L、Taが70%の場合0.06mg/L、Taが75%の場合0.15mg/L、Taが80%の場合0.38mg/L、Taが85%の場合0.26mg/L、Taが90%の場合0.27mg/L、Taが95%の場合0.19mg/L、Taが100%の場合0.32mg/Lであった。
【0148】
このように、Ptに対するTaの構成比率が80%の場合、即ち、表面層4を構成する誘電体に含まれる卑金属(この場合Ta)に対する貴金属(この場合Pt)の割合が20%以下である場合には、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。
【0149】
また、Taにて構成される表面層4の原料にPtが添加されることで、その溶液安定性を確保することができる。よって、貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下とすることで、オゾンの生成効率を低下させることなく、当該金属酸化物により表面層4を構成する原料の安定性を図ることができる。
【0150】
本実施例では、表面層4を非晶質のタンタル酸化物にて構成する場合に、貴金属として白金を含ませる場合について示しているが、当該貴金属は、これに限定されるものではなく、金やイリジウムであっても良い。
【0151】
また、図13には上記実施例1において採用される表面層4の原料に貴金属を添加した場合のオゾン生成量の依存性について示している。この場合、表面層4の原料には、イソプロピルアルコールと2−エトキシエタノールの混合比がそれぞれ4:1となるように調整した溶媒に、Nbと貴金属(M)の合計の濃度が0.73mol/Lとなる量の有機溶媒を溶解させて表面層4の原料とする。貴金属としては、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)を用い、Nb原料としてのニオブペンタエトキシドに、Pt材料としての六塩化白金酸、Au材料としての六塩化金酸、Ir材料としての塩化イリジウムをNbに対するPt比、Au比、Ir比が0〜50%の範囲で変化させて調整する。本実験における各電解用電極の表面層4を形成する際の焼成温度は400℃、塗布回数は25回とする。
【0152】
この場合も、上記と同様に電解装置10を用いて表面層4を構成するNbと各貴金属Pt、Au、Irとの構成比を変化させた各電解用電極1のオゾン生成に関する評価を行った。電解条件については、上記実施例2の(2)における電解条件及びオゾン生成量の測定法と同様とするため、説明を省略する。
【0153】
当該実験では、表面層4を構成するPtに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が50.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0.005mg/L、Nbが62.6%の場合0.015mg/L、Nbが63.1%の場合0.02mg/L、Nbが64.6%の場合0.017mg/L、Nbが85.6%の場合0.27mg/L、Nbが93.3%の場合0.36mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0154】
表面層4を構成するAuに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が50.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0.03mg/L、Nbが80.0%の場合0.15mg/L、Nbが88.0%の場合0.245mg/L、Nbが95.5%の場合0.38mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0155】
表面層4を構成するIrに対するNbの構成比(以下、単にNbとする)が85.5%である場合に生成されたオゾン濃度は0、Nbが92.3%の場合0.173mg/L、Nbが100%の場合0.54mg/Lであった。
【0156】
このように、表面層4をニオブ酸化物にて構成する場合であっても、貴金属に対するNbの構成比率が80%の場合、即ち、表面層4を構成する誘電体に含まれる卑金属(この場合Nb)に対する貴金属(この場合、特に、Pt及びAu)の割合が20%以下である場合には、電解質溶液中に生成されるオゾン濃度が0.1mg/L以上とすることができ、高効率でオゾンを生成することができる。
(2)表面層の厚さ分析
次に、誘電体により構成される表面層4の厚さについて検討する。図14には実施例2において作製された電解用電極1の断面SEM写真を示す。当該電解用電極1は、表面層4を非晶質のタンタル酸化物にて構成するものであり、焼成温度は600℃、塗布回数は25回、表面層4の原料の溶液安定性及びオゾン生成効率を考慮し、表面層4の原料には、Pt材料が添加され、表面層4を構成するPtに対するTaの構成比は90%としたものである。
【0157】
図14の断面SEM写真は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立製 S-3400NX)により取得したものである。白色にて示されている層が本発明における表面層4であり、当該表面層4の下側に接触して形成される濃い灰色にて示されている層(他に比べて薄い層)が中間層3である。そして、この中間層3の下側に接触して形成される灰色にて示されている層が基体2である。
【0158】
これによると、上述した如く取得されたSEM写真(倍率2000倍の電極断面の写真)を10枚以上取得し、そのデータから表面層4の膜厚を観察すると、表面層4は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を有する不均厚構成とされている。薄領域の厚さは、0.2μm乃至2.5μmの範囲内、望ましくは、0.2μm乃至1.5μm、及び/又は平均0.5μmである。厚領域の厚さは、5μm以上、望ましくは、11μm以上、また、電極の生産コストやオゾン生成効率を考慮し、20μm以下である。
【0159】
また、上記データから膜厚のばらつきの割合を統計的に処理して分析すると、厚さが0.2μm乃至2.5μm以下とする薄領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲であった。そして、厚さが5μm以上の厚領域は、当該電解用電極1の表面層4の全体面積の20%乃至40%の範囲であった。そして、これらの薄領域と、厚領域以外の部分の電解用電極1の表面層4は、2.5μmより大きく5μm未満の厚さとする領域である。
【0160】
本実施例では、表面層4の薄領域と厚領域の形成は、上述したように、電解用電極1の基体2を図2のステップS3にて所定の面粗さとなるようにエッチング処理を施し、当該所定の面粗さとされた表面に、複数回に分けて中間層3の原料の塗布による中間層3の形成、更に、複数回に分けて表面層4の原料がその表面に塗布されることによってなされる。
【0161】
このように、本実施例では、非晶質の誘電体としてタンタル酸化物にて構成された表面層4は、その厚さが所定厚さ範囲の薄領域と、所定厚さ範囲の厚領域が形成されるように構成されているため、上述したように当該電解用電極1をアノードとして使用した電解質溶液の電気分解を行うことで、低電流密度にて効率的にオゾンを生成することができる。
【0162】
特に、表面層4は、厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内とする薄領域を有することで、より高いエネルギーレベルでの電子の移動を生起させることができ、低い電流密度における高効率なオゾン生成を実現することができる。
【0163】
そして、上記薄領域と共に、表面層4は、厚さが5μm以上、望ましくは11μm以上20μm以下とする厚領域を有しているため、当該厚膜とされる厚領域によって薄領域の剥離を効果的に抑制し、当該電解用電極の耐久性の向上を図ることが可能となる。
【0164】
また、薄領域は、表面層4の全体面積の20%乃至50%の範囲とすること、更には、厚領域は、表面層4の全体面積の20%乃至40%の範囲とすることにより、その表面層4の耐久性を確保しつつ、低電流密度による高効率なオゾン生成を実現することが可能となる。
【0165】
上述したように、各実施例における電解用電極1の表面層4を構成する誘電体としての非晶質の金属酸化物は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素、更に望ましくは、ニオブ、若しくは、タンタルとすることにより、高いオゾン生成効率を実現する電極1を容易に構成することができる。また、ニオブ若しくはタンタルにて金属酸化物を構成することで、生産コストの低廉化を図ることができ、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0166】
尚、各実施例における電解用電極1は、基体2に、表面層4の内側に位置して、基体2の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層3、例えば、上述したように、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより中間層が形成されているので、アノードでの電極反応における電子が効果的に表面層4内を移動することが可能となる。そのため、表面層4の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができる。これにより、より低い電流密度にて効率的にオゾンを生成することができるようになる。
【0167】
特に、基体2の表面に難酸化性の金属で中間層3が形成されているため、当該電極1により電解を行った場合において、当該基体2表面が酸化し不導体化する不都合を回避することができる。これにより、電極1の耐久性を向上させることができる。また、基体2全体を当該中間層を構成する材料により構成する場合に比して、生産コストの低廉化を図ることができると共に、係る場合においても、同様に効率的にオゾンを生成することができる。
【符号の説明】
【0168】
1 電解用電極
2 基体(導電性基体)
3 中間層
4 表面層
10 電解装置
11 処理槽
12 電極(カソード)
13 電解質溶液(模擬水道水)
14 陽イオン交換膜
15 電源
16 撹拌装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、当該基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、非晶質の誘電体であることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
前記誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であることを特徴とする請求項2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記金属酸化物を構成する金属は、ニオブ、若しくは、タンタルであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
前記金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、前記誘電体は、貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であることを特徴とする請求項4に記載の電解用電極。
【請求項6】
前記貴金属は、白金、金、イリジウムであることを特徴とする請求項5に記載の電解用電極。
【請求項7】
前記基体には、前記表面層の内側に位置して、前記基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の電解用電極。
【請求項8】
前記中間層は、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより構成されていることを特徴とする請求項7に記載の電解用電極。
【請求項9】
基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、
前記薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされることを特徴とする電解用電極。
【請求項10】
前記薄領域は、前記表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする請求項9に記載の電解用電極。
【請求項11】
前記厚領域は、前記表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする請求項9又は請求項10のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項12】
前記誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項13】
基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項14】
基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより前記基体の表面に前記中間層を形成する第1のステップと、
該第1のステップ後、前記中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項15】
前記表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項16】
前記表面層は、ニオブ酸化物であって、且つ、前記熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことを特徴とする請求項13乃至請求項15の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項17】
前記表面層は、タンタル酸化物であって、且つ、前記熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことを特徴とする請求項13乃至請求項15の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項18】
前記基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して前記表面層を形成することを特徴とする請求項13乃至請求項17の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項19】
前記表面層の原料は、有機金属を含むことを特徴とする請求項13乃至請求項18の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項1】
基体と、当該基体に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、非晶質の誘電体であることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
前記誘電体は、金属酸化物であり、且つ、金属元素の担持量が2μmol/cm2以上16μmol/cm2以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記金属酸化物を構成する金属は、周期律表3族、4族、若しくは5族の元素であることを特徴とする請求項2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記金属酸化物を構成する金属は、ニオブ、若しくは、タンタルであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
前記金属酸化物を構成する金属は、タンタルであって、且つ、前記誘電体は、貴金属を含み、当該貴金属の卑金属に対する割合が0より大きく20%以下であることを特徴とする請求項4に記載の電解用電極。
【請求項6】
前記貴金属は、白金、金、イリジウムであることを特徴とする請求項5に記載の電解用電極。
【請求項7】
前記基体には、前記表面層の内側に位置して、前記基体の表面に形成され、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の電解用電極。
【請求項8】
前記中間層は、白金、金、イリジウム、酸化イリジウムにより構成されていることを特徴とする請求項7に記載の電解用電極。
【請求項9】
基体と、当該基体に誘電体にて構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、少なくとも厚さの薄い薄領域と、厚さの厚い厚領域を備え、
前記薄領域の厚さが0.2μm乃至2.5μmの範囲内であって、且つ、厚領域の厚さが5μm以上とする不均厚構成とされることを特徴とする電解用電極。
【請求項10】
前記薄領域は、前記表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする請求項9に記載の電解用電極。
【請求項11】
前記厚領域は、前記表面層の全体面積の20%乃至50%の範囲とすることを特徴とする請求項9又は請求項10のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項12】
前記誘電体は、非晶質のニオブ酸化物又は非晶質のタンタル酸化物であることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項13】
基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成することを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項14】
基体の表面に中間層の原料を塗布した後、熱処理することにより前記基体の表面に前記中間層を形成する第1のステップと、
該第1のステップ後、前記中間層の表面に表面層の原料を塗布した後、熱処理することにより非晶質の表面層を形成する第2のステップを含むことを特徴とする電解用電極の製造方法。
【請求項15】
前記表面層を、非晶質のニオブ酸化物、又は、非晶質のタンタル酸化物としたことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項16】
前記表面層は、ニオブ酸化物であって、且つ、前記熱処理における熱処理温度を、300℃乃至500℃としたことを特徴とする請求項13乃至請求項15の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項17】
前記表面層は、タンタル酸化物であって、且つ、前記熱処理における熱処理温度を、450℃乃至600℃としたことを特徴とする請求項13乃至請求項15の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項18】
前記基体に表面層の原料を塗布した後、熱処理する工程を15回乃至50回繰り返して前記表面層を形成することを特徴とする請求項13乃至請求項17の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【請求項19】
前記表面層の原料は、有機金属を含むことを特徴とする請求項13乃至請求項18の何れかに記載の電解用電極の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−174164(P2011−174164A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102844(P2010−102844)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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