電解用電極及びそれを用いた電解方法及びそれを用いた電解装置
【課題】容易な製造方法によって得られ、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾン水を生成することを可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極、及び、それを用いた電解方法、並びに、それを用いた電解装置を提供する。
【解決手段】本発明の電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に構成された表面層4を備えて成るものであって、表面層4は、アナターゼ型酸化チタンにより構成されている。
【解決手段】本発明の電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に構成された表面層4を備えて成るものであって、表面層4は、アナターゼ型酸化チタンにより構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極と、それを用いた電解方法、並びにそれを用いた電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、所謂オゾン水は上下水道や、食品等、又は、半導体デバイス製造プロセス等での洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、導電性ダイヤモンド構造を有する電極物質をアノードとして用いて水を電解することにより、酸素、オゾン及び過酸化水素を生成する方法が開示されている。また、特許文献2には、複数のセル内でそれぞれ水などを電解して過酸化水素とオゾンを生成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−269686号公報
【特許文献2】特許第3298431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した如き特許文献1に示される方法では、電極物質としてダイヤモンドを使用するため、装置自体のコストが高騰する問題がある。
【0005】
他方、特許文献2に示される方法では、オゾンや過酸化水素を複数のセル内でそれぞれ電解して生成しなければ成らない。そのため、オゾン及び過酸化水素が溶解した水溶液を単一の電解操作によって得ることができず、作業効率が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、容易な製造方法によって得られ、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極及び、それを用いた電解方法、並びに、それを用いた電解装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解用電極は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、アナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の電解用電極は、上記発明において、表面層は、厚さが1mm以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の電解用電極は、上記各発明において、表面層は、厚さが200nm乃至600nmであることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の電解用電極は、上記各発明において、基体は、少なくとも表面層との接触面が導電性であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の電解用電極の製造方法は、上記各発明の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の電解方法は、上記発明の電解方法による電解によって生成する物質が、オゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つであることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の電解装置は、請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、請求項5又は請求項6の発明の電解方法にて水又は電解質溶液を電解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電解用電極は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、薄膜であるため低電流密度にて電気分解を行うことができ、また、アナターゼ型酸化チタンであるので、効率的にオゾンを生成することができる。また、この酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造形成時に凝集することによって、各結晶間に基体表面が露出した状態となり複数の孔を形成することができ、当該孔の存在により、アノードにおける電極反応において、オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することが可能となる。
【0015】
請求項2の発明によれば、上記発明において、表面層は、厚さが1mm以下とすることにより、薄膜により構成することができるため、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、上記各発明において、表面層の厚さを200nm乃至600nmとすることで、上記発明と同様に、薄膜により構成することができるため、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができる。
【0017】
また、表面層の厚さを200nm乃至600nmとすることで、当該電極に通電される総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷、即ち、電流効率が高い範囲において、オゾンを発生させることが可能となると共に、電極の生産性の向上及び生産コストの低廉化を実現することが可能となる。
【0018】
これにより、より一層オゾン生成効率の高い電解用電極を低コストにて実現することが可能となる。
【0019】
請求項4の発明によれば、上記各発明において、基体は、少なくとも表面層との接触面が導電性であるので、基体自体の導電性によらず、上記請求項1乃至請求項3の発明の如き電極として機能させることが可能となる。
【0020】
請求項5の発明によれば、上記各発明の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することにより、請求項6の発明の如く効率的にオゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つを生成することができる。
【0021】
これにより、水又は電解質溶液を電解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能となるため、比較的寿命の短いOHラジカルについても、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0022】
請求項7の発明によれば、請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、請求項5又は請求項6の発明の電解方法により水又は電解質溶液を電解することにより、現場において容易にオゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つを含む物質を生成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態として、実施例1及び実施例2を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の電解用電極の一例としての実施例1の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。
【0025】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金、或いはシリコン(Si)などにより構成される。特に、本実施例において用いられる基体2は、表面が平坦に処理されたシリコンを用いる。
【0026】
中間層3は、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、又は、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、又は、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。尚、金属酸化物については、予め酸化物として中間層3が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。本実施例では、中間層3は、白金により構成するものとする。
【0027】
尚、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層3を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体2を低廉な材料にて構成し、当該基体2の表面に貴金属等で構成される中間層3を形成することが好ましい。また、基体2を導電性を有さない物質、例えばガラス板により構成し、当該基体2は、少なくとも後述する表面層4との接触面が導電性を有する材料により被覆されているものであるならば、上記構成に限定されるものではない。これによっても、基体2の構成に用いられる材料に要するコストの高騰を抑制することが可能となる。
【0028】
また、表面層4は、前記中間層3を被覆するように当該中間層3と共に、誘電体により基体2の表面に層状に形成され、この表面層4は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、2000nm以下に構成される。尚、本実施例における当該表面層4の厚みについては、詳細は後述するが、更に好ましくは、100nm未満の厚みとなるように形成されるものとする。
【0029】
次に、本発明の電解用電極の製造方法について図2のフローチャートを参照して説明する。基体2としてシリコンを用いる。尚、この場合のシリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)等を導入し、導電率を高めたものが望ましい。当該シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。尚、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料を用いてもよいものとする。
【0030】
先ず初めに、ステップS1において前記シリコンの基体2を5%のフッ酸により前処理を行い、当該シリコン基体2の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体2の表面をより平坦な状態とする。尚、当該前処理は行わなくてもよい。その後、ステップS2において純水にて基体2の表面のリンスを行い、以降ステップS3において既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0031】
本実施例では、基体2への中間層3の形成は、スパッタ法により実行する。本実施例では、中間層3は、白金により構成するため、最初のターゲットとして中間層構成材であるPt(80mmφ)を用い、rfパワーを100W、Arガス圧を0.9Pa、基体2とターゲットとの間の距離を60mmとして、室温で20分間成膜を実行する(ステップS3)。これにより、基体2の表面には、厚さ100nm程度の中間層3が形成される。尚、本実施例では、中間層3の成膜方法としてスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0032】
次に、中間層3が形成された基体2の表面に表面層4を形成する。本実施例では、表面層4は、スピンコート法を用いて形成するため、表面層構成材としての有機チタン化合物溶液を中間層3が形成された基体2の表面に塗布する。本実施例では、表面層4は、酸化チタンにより構成するため、有機チタン化合物として配位数4のチタンにヒロドキシル基や、アルデヒド基、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシル基等の官能基を配位して構成されるものを用いる。また、この有機チタン化合物溶液のチタンの重量%は、全体の0.5%乃至5%程度であることが望ましい。尚、本実施例では、表面層構成材として有機チタン化合物溶液を用いているがこれに限定されるものではなく、チタンを含む化合物であって、焼成によりチタン以外の物質を除去可能な物質、例えば、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンなどであっても良いものとする。
【0033】
そして、中間層3が形成された基体2の表面に表面層構成材を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1500rpmで5秒間、3000rpmで60秒間とする。その後、室温及び220℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS5)。これにより、基体2の中間層3の表面には、チタンを含む表面層構成材により表面層4が形成される。
【0034】
その後、当該中間層3及び表面層4が形成された基体2は、ステップS6においてマッフル炉において500℃乃至800℃、好ましくは、550℃乃至650℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、電解用電極1が得られる。これにより、中間層3の表面に塗布された表面層構成材は、均一に酸化チタンとされる。尚、当該焼成により酸化チタンとなり、この状態で表面層4の厚さは、20nm〜100nm程度となる。なお、当該表面層4の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0035】
上述した如く得られる電解用電極1は、表面層4は、すべて酸化チタンとされている。また、中間層3は、基体2のシリコンと、白金シリサイドを形成している。また、シリコンは、中間層3までで止まっており、表面層4の内部にまで拡散していない。また、同様に、中間層3を構成する白金も表面層4内部にまでは到達していない。
【0036】
尚、本実施例では、表面層4を誘電体のみで構成しているため、当該表面層4への貴金属又は貴金属酸化物の使用を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。
【実施例2】
【0037】
次に、図3を参照して実施例2の電解用電極6について説明する。図3は本発明の電解用電極の一例としての電解用電極6の平断面図である。図3に示すように電解用電極6は、基体7と、当該基体7の表面に形成される密着層8と、当該密着層8の表面に形成される中間層9と、当該中間層9の表面に形成される表面層10とから構成される。
【0038】
本発明において基体7は、上記実施例1の電解用電極1に用いられる基体2と同様の材料により構成されるものであり、本実施例においても、基体7は、シリコンを用いる。
【0039】
密着層8は、基体7の表面に形成され、基体7と密着層8の表面に例えば白金により形成される中間層9との密着性の向上を図るために用いられるものであり、酸化チタンや窒化チタンなどにより構成される。尚、本実施例では酸化チタンを用いる。
【0040】
中間層9は、上記実施例1の電解用電極1に用いられる中間層3と同様の材料により構成されるものであり、本実施例では、中間層9は、白金により構成するものとする。
【0041】
尚、本実施例においても、上記基体7を白金にて構成する場合には、基体7の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層9を格別に構成する必要はなく、当然に密着層2を構成する必要がない。ただし、係る基体7を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体7を低廉な材料にて構成し、当該基体7の表面に密着層8を介して貴金属等で構成される中間層9を形成することが好ましい。
【0042】
また、表面層10は、前記中間層9を被覆するように当該中間層9と共に、誘電体により基体7の表面に層状に形成され、この表面層10は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、2000nm以下に構成される。尚、当該実施例において、当該表面層10の厚みについては、詳細は後述するが、更に好ましくは、100nm未満の厚みとなるように形成されるものとする。
【0043】
表面層10を構成する誘電体としては、アナターゼ型酸化チタンが用いられる。
【0044】
次に、本発明の電解用電極の製造方法について図4のフローチャートを参照して説明する。基体7としてシリコンを用いる。尚、この場合のシリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)等を導入し、導電率を高めたものが望ましい。当該シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。また、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料であって、好ましくは表面が平坦に処理されたものを用いてもよいものとする。
【0045】
そのため、上記実施例1と同様に、前記シリコンの基体7を5%のフッ酸により前処理を行い、当該シリコン基体7の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体7の表面をより平坦な状態とする。尚、当該前処理は行わなくてもよい。その後、純水にて基体7の表面のリンスを行い、既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0046】
本実施例では、先ず初めに、ステップS11において、基体7の表面に上述した如き中間層9の密着性を向上させるための密着層8の形成を行う。この基体7への密着層8の形成は、反応性スパッタ法により実行する。密着層8は、酸化チタンにより構成するため、最初のターゲットとしてTiを用い、投入電力6.17W/cm2、酸素分圧52%(Ar:O2 24:26)、成膜圧力を0.6Paとして、室温で10分間成膜を実行する(ステップS3)。これにより、基体7の表面には、厚さ50nm程度の酸化チタンにて構成される密着層8が形成される。尚、本実施例では、密着層8の成膜方法として反応性スパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、スパッタ法、CVD法、イオンプレーティング法、メッキ法、あるいはこれらの方法と熱酸化の組み合わせなどであっても良いものとする。
【0047】
次に、ステップS12において、表面に密着層8が形成された基体7の表面に中間層9の形成を行う。基体7への中間層9の形成は、上記実施例と同様にスパッタ法により実行する。本実施例では、中間層9は、白金により構成するため、最初のターゲットとしてPt(80mmφ)を用い、投入電力4.63W/cm2、Arガス圧を0.7Paとして、室温で約1分10秒間成膜を実行する。これにより、密着層8が形成された基体7の表面には、厚さ200nm程度の中間層9が形成される。尚、本実施例では、中間層9の成膜方法としてスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0048】
次に、中間層9が形成された基体7の表面に表面層10を形成する。本実施例では、表面層10は、スピンコート法を用いて形成するため、表面層構成材としての有機チタン化合物溶液を中間層9が形成された基体7の表面に塗布する。本実施例では、表面層10は、酸化チタンにより構成するため、有機チタン化合物として配位数4のチタンにヒロドキシル基や、アルデヒド基、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシル基等の官能基を配位して構成されるものを用いる。また、この有機チタン化合物溶液のチタンの重量%は、全体の0.5%乃至5%程度であることが望ましい。尚、本実施例では、表面層構成材として有機チタン化合物溶液を用いているがこれに限定されるものではなく、チタンを含む化合物であって、焼成によりチタン以外の物質を除去可能な物質、例えば、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンなどであっても良いものとする。
【0049】
そして、ステップS13において、中間層9が形成された基体7の表面に表面層構成材を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1000rpmで10秒間、3000rpmで30秒間とする。その後、室温及び200℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS14)。これにより、基体7の中間層9の表面には、チタン化合物を含む表面層構成材により表面層10が形成される。
【0050】
その後、当該中間層9及び表面層10が形成された基体7は、ステップS15においてマッフル炉において500℃乃至800℃、好ましくは、550℃乃至650℃、本実施例では、650℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、電解用電極6が得られる。これにより、中間層9の表面に塗布された表面層構成材は、均一に酸化チタンとされる。本実施例では、本成膜操作を計14回繰り返した。尚、表面層構成材は、当該焼成により酸化チタンとなり、この状態で表面層10の厚さは、20nm〜1000nm程度、本実施例では500nm程度となる。なお、当該表面層10の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0051】
上述した如く得られる電解用電極6は、表面層10は、すべて酸化チタンとされている。即ち、表面層構成材は、チタンを含む化合物、例えば上述したように、チタン以外に複数の官能基が配位された有機チタン化合物や、塩化チタンや臭化チタン、ヨウ化チタンなどを含むものであるが、焼成されることによって、チタン以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基や、塩素、臭素、ヨウ素などは、除去される。他方、チタンは、雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとなる。
【0052】
一般に、酸化チタンは、結晶形態によって、アナターゼ型とルチル型、ブルッカイト型の三種類があり、熱力学的にはルチル型が全温度領域で安定相であり、他は準安定相である。ブルッカイト型の酸化チタンは、他の結晶形態に比して不安定であり、純粋な結晶を合成するのは難しく、一般に工業的な利用がない。アナターゼ型の酸化チタンも高温、例えば900℃以上にするとルチル型に熱転移することが知られている。
【0053】
これらアナターゼ型とルチル型、ブルッカイト型の酸化チタンの結晶構造の解析には、通常、エックス線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層10を構成する酸化チタンの結晶構造を解析することが可能となる。
【0054】
図5は、上述した如く得られた電解用電極7の表面層10のエックス線回折パターンである。これによると、本実施例において得られた電解用電極7の表面層10を構成する酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造にて得られるピークを示しており(丸印はアナターゼ型の結晶構造にて得られるピーク、各ピークに付される数字は面指数)、これにより、表面層10を構成する酸化チタン膜は、アナターゼ型の結晶構造を形成していることが分かる。
【0055】
尚、本実施例では、表面層10をチタン化合物を含む表面層構成材をスピンコート法により基体表面(本実施例では中間層9表面)に塗布し、所定温度にて焼成することにより、アナターゼ型酸化チタンにより形成しているが、当該アナターゼ型の酸化チタンにより表面層10を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0056】
他の方法として、熱CVD法による表面層10の形成方法がある。この熱CVD法では、基体7の表面に、上記実施例と同様に密着層8、中間層9を順次形成した後、表面層構成材である有機チタン化合物を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、高温、例えば500℃乃至800℃、好ましくは、500℃乃至600℃に熱せられた基体7の表面で化学反応を行う。
【0057】
これにより、表面層構成材である有機チタン化合物のチタンを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体7の表面において除去され、チタンのみが雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとして基体7の表面に形成される。基体7の表面(実際には中間層9の表面)に形成された酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を形成する薄膜(酸化チタン膜)を構成する。
【0058】
尚、アナターゼ型の酸化チタンにより表面層10を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
【0059】
いずれの表面層10の形成方法においても、中間層9の表面に形成される酸化チタン膜は、アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンが一様に形成されるものではなく、焼成又は、熱CVD法における高温基体7の表面において結晶を形成する過程において、酸化チタンが凝集することにより、結晶粒が形成され、各結晶粒間には、隙間のような孔が形成される。この孔は、電解用電極7の表面層10において点在して形成されるものであり、該孔は、表面層10の直ぐ下の層、即ち白金にて形成される中間層9が露出した状態とされている。
【0060】
尚、本実施例では、シリコンにて構成される基体7の表面には、酸化チタンにて構成される密着層8が形成されているため、直接、中間層9を構成する白金が、基体7内部にまで拡散することによる白金シリサイドが形成されることを阻止することが可能となる。また、酸化チタンにより構成される密着層8により、中間層9を構成する白金の基体7への密着性を向上させることができる。また、基体7の表面に形成される中間層9は、構成する白金が原子レベルで一様に構成することが可能となり、当該中間層9の表面に形成される表面層10、即ち、酸化チタンのアナターゼ型結晶構造の形成を容易に行うことが可能となる。
【0061】
尚、本実施例においても、表面層10を誘電体のみで構成しているため、当該表面層10への貴金属又は貴金属酸化物の使用を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。
【実施例3】
【0062】
次に、図11を参照して実施例2の電解用電極26について説明する。図11は本発明の電解用電極の一例としての電解用電極26の平断面図である。図11に示すように電解用電極26は、基体27と、当該基体27の表面に形成される密着層28と、当該密着層28の表面に形成される中間層29と、当該中間層29の表面に形成される表面層30とから構成される。なお、当該電解用電極26は、基体27側に電気伝導部としてのチタン板31が設けられており、当該チタン板31と中間層29とは、電極26の端面に設けられる導電性材料としての銀ペースト32により、導通可能とされている。また、この銀ペースト32とチタン板31はシール材33に覆われており、電解には寄与しない。
【0063】
係る実施例において基体27は、上記各実施例の電解用電極1、6に用いられる基体2、7と同様の材料により構成されるものであり、本実施例においても、基体27は、シリコンを用いる。
【0064】
密着層28は、基体27の表面に形成され、基体27と密着層28の表面に例えば白金により形成される中間層29との密着性の向上を図るために用いられるものであり、酸化チタンや窒化チタンなどにより構成される。尚、本実施例では酸化チタンを用いる。
【0065】
中間層29は、上記各実施例の電解用電極1、6に用いられる中間層3、9と同様の材料により構成されるものであり、本実施例では、中間層29は、白金により構成するものとする。
【0066】
尚、係る実施例においても、上記基体27を白金にて構成する場合には、基体27の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層29を格別に構成する必要はなく、当然に密着層28を構成する必要がない。ただし、係る基体27を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体27を低廉な材料にて構成し、当該基体27の表面に密着層28を介して貴金属等で構成される中間層29を形成することが好ましい。
【0067】
また、表面層30は、前記中間層29を被覆するように当該中間層29と共に、誘電体により基体27の表面に層状に形成され、この表面層30は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、200nm乃至600nmに構成される。
【0068】
表面層30を構成する誘電体としては、上記各実施例と同様にアナターゼ型酸化チタンが用いられる。
【0069】
なお、係る実施例における電解用電極26の製造方法は、上記実施例2における電解用電極6の製造方法と略同一であるため(焼成温度は650℃)、説明を省略する。ただし、電解用電極26を構成する表面層30については、上記と同一の成膜操作を繰り返すことにより、表面層30の厚さは、200nm〜600nm程度となる。なお、当該表面層30の膜厚の測定には、上記と同様、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0070】
これにより、得られる電解用電極26は、表面層30は、すべて酸化チタンとされている。即ち、表面層構成材は、チタンを含む化合物、例えば上述したように、チタン以外に複数の官能基が配位された有機チタン化合物や、塩化チタンや臭化チタン、ヨウ化チタンなどを含むものであるが、焼成されることによって、チタン以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基や、塩素、臭素、ヨウ素などは、除去される。他方、チタンは、雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとなる。
【0071】
また、この場合においても、表面層30を構成する酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を形成している。
【0072】
また、この場合においても、表面層30をチタン化合物を含む表面層構成材をスピンコート法により基体表面(本実施例では中間層29表面)に塗布し、所定温度にて焼成することにより、アナターゼ型酸化チタンにより形成しているが、当該アナターゼ型の酸化チタンにより表面層30を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0073】
上記と同様に、熱CVD法や、ディップ法、メッキ法などにより表面層30の形成を行っても良い。
(各電解用電極による電解方法及びその評価)
次に、上記各実施例において製造された電解用電極1、6及び26を用いた電解によるオゾン及び/又は過酸化水素の生成について図6乃至図10及び図12乃至図14を参照して説明する。
【0074】
まずはじめに、図6に示す如き電解装置20を用いた電解用電極1及び6に関する実験について説明する。図6は電解装置20の概略説明図を示している。電解装置20は、処理槽21と、上述した如きアノードとしての電解用電極1又は6と、カソードとしての電極22と、これら電極1(6)、22に直流電流を印加する電源25とから構成される。そして、これら電極1(6)、22間に位置して、処理槽21内の電極1(6)の存する一方の領域と電極22の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))24が設けられる。また、この処理槽21内には、電解質溶液としての模擬水道水23又は0.01M HClO4が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水や0.01M HClO4溶液等の電解質溶液が用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、純水を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。
【0075】
電解用電極1又は6は、上述した如き各実施例における製造方法により作製したものである。電解装置20に用いる電解用電極1は、表面層4を形成する際の焼成温度が、550℃、600℃、650℃のものの合計3種類使用する。また、電解用電極6は、表面層10を形成する際の焼成温度が650℃のものを使用する。これにより、それぞれの電解用電極1又は6をアノードとして用いた場合の電解質溶液の紫外線吸収を測定することで、各電解用電極1及び6の評価を行う。
【0076】
他方、カソードとしての電極22には白金を用いる。これ以外にもチタン基体2表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0077】
また、電解用電極1を用いて電解処理される電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。電解用電極6を用いて電解処理される電解質溶液は、0.01M HClO4である。
【0078】
以上の構成により、電解用電極1を用いた電解では、処理槽21内に150mlの模擬水道水23を貯溜し、該電解用電極1及び電極22をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、本実施例における電解用電極1及び電極22の面積は25mm×15mmとする。そして、電源25により80mA、電流密度約20mA/cm2の定電流、160mA、電流密度約40mA/cm2の定電流、240mA、電流密度約60mA/cm2の定電流が電解用電極1及び電極22に印加される。他方、電解用電極6を用いた電解では、処理槽21内に0.01M HClO4を貯溜し、該電解用電極6及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。当該電解条件は、電流密度26.7mA/cm2とし、また、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0079】
尚、本実施例では電解用電極1、6によるオゾン及び過酸化水素の生成量は、上記条件にて5分間電解後の模擬水道水23又は溶液の紫外線吸収を測定し、評価を行う。
【0080】
次に、図7乃至図9を用いて各焼成温度にて形成された電解用電極1ごとの電流密度に対する生成物質について説明する。図7は焼成温度550℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図8は焼成温度600℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図9は焼成温度650℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示している。いずれも縦軸は、吸光度を示し、横軸は波長を示している。また、図中Aは電流密度約20mA/cm2、Bは約40mA/cm2、Cは約60mA/cm2の実験結果を示しており、Dは当該実験の対比として示される電解用電極の実験結果を示している。Dにおいて用いられる電解用電極はスパッタ法により基体表面、若しくは、中間層の表面にチタンを形成し、熱酸化することで表面層4を形成したものであり、電極面積は15mm×15mm、焼成温度は500℃、電流密度は10mA/cm2である。
【0081】
図7は、550℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)とオゾンの吸収ピーク(約258nm)が観測されており、これらの吸光度比は、ほぼ同じ、若しくは、若干オゾンが多い程度である。また、電流密度が大きくなるに従い、過酸化水素及びオゾンが増加していることがわかる。特に、電流密度が60mA/cm2では、多くの過酸化水素及びオゾンの吸収があることがわかる。
【0082】
これに対し、スパッタ法により表面層4が形成されている電解用電極1を用いた場合には、オゾンの吸収ピークが観測されるが、過酸化水素についての吸収ピークはみられない。従って、上記条件によってスパッタ法により表面層4を形成する方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができないのに対し、スピンコート法による表面層4の形成方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができることがわかる。
【0083】
図8は、600℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)が観測されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、40mA/cm2、60mA/cm2のみ観測され、20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは観測されていない。特に、約20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、約40、約60mA/cm2の場合に比べ、吸収量が多く、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われていることがいえる。
【0084】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0085】
600℃にて焼成された電解用電極1を用いて電解質溶液を電解した場合には、図7に示す如き550℃にて焼成された電解用電極1に比べ、60mA/cm2の電流密度の場合におけるオゾンの吸収ピークが大きくなり、過酸化水素の吸収ピークが小さくなっていることがわかる。また、40mA/cm2の電流密度の場合における過酸化水素の吸収ピークは、大きくなっていることがわかる。
【0086】
図9は、650℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)が測定されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、約40mA/cm2、約60mA/cm2のみ測定され、約20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは測定されていない。特に、20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、40、60mA/cm2の場合に比べ、大きく、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われているといえる。
【0087】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。特に、電流密度を約20mA/cm2へと小さくしていくに従い、過酸化水素の生成量を増加させることができると共に、オゾンの生成量を減少させることができる。また、電流密度を約20mA/cm2とすることで、オゾンの生成を抑制し、過酸化水素のみを生成することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0088】
また、オゾンの吸収ピークは、約40、約60mA/cm2のいずれの場合においても観測されているが、その吸収量は、焼成温度が600℃の場合に比べ少ない。いずれの電流密度においても、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われているといえる。この傾向は、図5に示される如き焼成温度が600℃の場合にの電極1を用いた場合によりも顕著であることがわかる。
【0089】
従って、電解用電極1の焼成温度を上昇させていくに従い、過酸化水素の生成が優先的に行われることとなり、焼成温度が600℃である場合には、過酸化水素の生成を行いながらも、オゾンを効率的に生成することができることがわかる。
【0090】
また、オゾンと過酸化水素の両者の生成がなされる場合には、電解質溶液中に生成された過酸化水素は、より酸化力の強いオゾンにより酸化され、OHラジカルを生成することが可能となる(化学反応式A)。以下、化学反応式Aを示す。
【0091】
化学反応式A 2O3+H2O2→2・OH+3O2
このOHラジカルは、強力な酸化力を発揮することができる。当該電解用電極1を用いて電解質溶液を電気分解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能であり、これらの反応によってOHラジカルを生成することが可能となる。そのため、オゾンのみでは困難なカビ・たばこ臭などの除去が可能となる。この場合において、OHラジカルは、比較的寿命が短いが、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0092】
次に、図10を用いて電解用電極6を用いて電解を行った場合の生成物質について説明する。図10は電解用電極6を用いた場合の電解質溶液の紫外線吸収である。縦軸は、吸光度を示し、横軸は波長を示している。これによると、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)とオゾンの吸収ピーク(約258nm)が観測されており、これらの吸光度比は、過酸化水素がオゾンの二倍程度であるが、明らかに電解質溶液中に過酸化水素とオゾンの両者が生成されていることが分かる。尚、図10に示す実験結果は、図9に示すスピンコート法により作成された電解用電極1の約20mA/cm2の実験データとオゾンの生成有無の点で異なるが、電流密度が26.7mA/cm2である点、電解用電極6は中間層9と基体7との間に密着層8が形成されていること、及び電解質溶液が異なることの理由から、実験データが異なるものと考えられる。
【0093】
このように、各実施例における各電解用電極1、6をアノードとして電解質溶液を電解することにより、電解質溶液中に、オゾン及び過酸化水素の両者を生成することが可能となる。これは、各実施例における電解用電極1、6は、表面層4又は10を構成する酸化チタンがスピンコート法により形成されているため、100nm以下と比較的薄膜にて形成することが可能となり、また、当該薄膜を構成する酸化チタンは、図5から明らかなように、アナターゼ型の結晶構造を有しているためであると考えられる。
【0094】
そのため、表面層4又は10中の不純物準位を介して、或いは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が導電性材料にて構成される中間層3にまで移動すると考えられる。
【0095】
通常、金属電極を電解用電極として使用した場合、アノードにおける電極反応が、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより生起する。これに対し、本発明における表面層4又は10を形成した電解用電極1又は6を使用した場合、表面層が誘電体により構成されているため、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより、アノードにおける電極反応が生起する。
【0096】
そのため、本発明における電解用電極1又は6を使用した場合、白金等の電解用電極を使用した場合に比して、より高いエネルギーレベルでの電子の移動が起こって電極反応を生起するためにオゾンの生成効率が上昇するものと考えられる。
【0097】
これにより、電解用電極1に所定の低電流密度、0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2、望ましくは、1mA/cm2乃至1000mA/cm2の電流が印加されることで、高効率にてオゾンを生成させることが可能となると共に、過酸化水素を生成することができる電極を得ることができる。
【0098】
特に、実施例2に示される如く電解用電極6の表面層10は、表面層構成材としてチタンを含む化合物を用い、スピンコート法や熱CVD法により基体7の表面(本実施例では中間層9の表面)に形成されていることから、当該表面層10は、アナターゼ型の酸化チタンによる薄膜により構成されている。そして、この酸化チタンの薄膜には、焼成時又は熱CVD法における高温基体の表面における反応時において、酸化チタンが凝集することにより、各結晶間に基体7表面(実際には表面層10の直ぐ下の層を構成する中間層9の表面、即ち、基体2と表面層10との接触面を構成する導電性の中間層9)が露出した状態となる複数の孔が形成されている。
【0099】
そのため、表面層10では、薄膜に形成される酸化チタンの表面において、上述した如きオゾンを生成する反応が行われ、これと共に、中間層9が露出した状態となる孔の存在により、過酸化水素を生成する反応が行われる。
【0100】
これにより、低電流密度にて電気分解を行った場合であっても効率的にオゾンを生成することが可能となると共に、当該オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することが可能となる。
【0101】
また、このように、オゾンと共に過酸化水素の生成を実現することができる電極1又は6の表面層4又は10は、上述したようにスピンコート法により形成することが可能であるため、比較的安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。また、表面層4又は10は、上述したように熱CVD法により形成することで、安定性が良く、高い生産効率を実現することが可能となる。
【0102】
更にまた、係る表面層4及び10を構成するために用いられる表面層構成材は、チタン重量%が0.5乃至5%であるので、容易にアナターゼ型の結晶構造を形成することが可能となると共に、当該電極1又は6をアノードとして用いた際に、オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することを可能とする大きさの孔を形成することが可能となる。
【0103】
また、上述した如く各実施例1、2では、シリコンにて構成される基体2、7に、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層3又は9を形成し、更に当該中間層3又は9の表面に上述した如き表面層4又は10を構成することで電解用電極1又は6を形成しているが、基体2又は7を中間層3又は9と同様の材料、即ち、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む材料にて構成する場合には、格別に中間層3を形成しなくても同様にオゾンを効率的に生成することができる電極を構成することができる。ただし、本発明の如く基体2又は7に上記材料にて構成される中間層3又は9を被覆形成することにより、同様に効率的にオゾンを生成することができる電極1又は6を低廉な生産コストにて実現することが可能となる。
【0104】
次に、図12に示す如き電解装置35を用いた実施例3の電解用電極26に関する実験について説明する。図12は電解装置35の概略説明図を示している。電解装置35は、処理槽36と、上述した如きアノードとしての電解用電極26と、カソードとしての電極22と、これら電極26、22に直流電流を印加する電源37とから構成される。そして、これら電極26、22間に位置して、処理槽36内の電極26の存する一方の領域と電極22の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))24が設けられる。また、アノードとしての電解用電極26が浸漬される領域には、撹拌装置38が設けられている。
【0105】
また、この処理槽36内には、電解質溶液としての模擬水道水23又は0.01M HClO4が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水や0.01M HClO4溶液等の電解質溶液が用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、純水を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。用いられる模擬水道水は、上記実験において用いられるものと同様の成分組成のものを用いる。
【0106】
電解用電極26は、上述した如き実施例3における製造方法により作製したものを用い、他方、カソードとしての電極22には上記と同様のもの、即ち、白金を用いる。これ以外にもチタン基体2表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0107】
以上の構成により、図13及び図14を参照して電解用電極26を用いて電解を行った場合のオゾン生成に関する電流効率についての実験について説明する。図13に示す如き実験では、処理槽36内の各領域(アノード側及びカソード側のそれぞれの領域)に150ml0.01M HClO4を貯溜し、電解用電極26及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。そして、各電極間の距離は10mmとし、電源37により電流密度26.7mA/cm2の定電流が、電解用電極26及び電極22に印加される。なお、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0108】
本実施例では電解用電極26よるオゾンの生成量は、上記条件にて5分間電解後の溶液のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製)により測定し、通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与された電荷の割合、即ち、電流効率を算出して評価を行う。
【0109】
図13における実験では、電解用電極26の表面層30の膜厚をそれぞれ207.3nm、277.7nm、346.2nm、385.5nm、503.6nm、547.0nm、724.7nmとした7種類について電解質溶液のオゾン生成に寄与した電流量を測定し、通電された総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷の割合を算出したもの、即ち、電流効率により各表面層30の膜厚に対するオゾン生成効率についての比較を行う。なお、当該表面層30の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0110】
通常、安定な過塩素酸(HClO4)を電解質溶液として用いた場合には、電極に供給される電流は、殆ど酸素の生成に寄与されるため、オゾンの生成は生じがたい。図13に示す如き実験においても、電解用電極26の表面層30の膜厚が207.3nmや277.7nmである場合には、オゾン生成の電流効率は、ほぼ0%となり、電気分解に供される電流の殆どは、酸素の生成に使用されている。
【0111】
これに対し、電解用電極26の表面層30の膜厚を346.2nmとした場合には、オゾンに関する電流効率が約1.7%となり、安定した過塩素酸を電解質溶液として電解処理した場合であっても、オゾンが生成される。更に、その膜厚をそれ以上の385.5nmや503.6nm、547.0nm、724.7nmとすると、オゾンに関する電流効率がそれぞれ約5.2%、約6.9%、約4.7%、約5.4%と高い電流効率でオゾンを生成することができる。なお、この場合においても電気分解に供される残余の電流の殆どは、酸素の生成に使用される。以下、同様とする。
【0112】
他方、図14に示す実験では、処理槽36内の各領域(アノード側及びカソード側のそれぞれの領域)に150ml模擬水道水を貯溜し、電解用電極26及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。そして、各電極間の距離は10mmとし、電源37により電流密度26.7mA/cm2の定電流、若しくは、17.8mA/cm2の定電流を、電解用電極26及び電極22に流す。なお、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0113】
この場合においても電解用電極26よるオゾンの生成量は、上記条件にて5分間電解後の溶液のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与された電荷の割合、即ち、下記化学反応式Bに基づいて電流効率を算出して評価を行う。
【0114】
化学反応式B 3H2O→O3+6H++6e-
図14における実験では、電解用電極26の表面層30の膜厚をそれぞれ49.8nm、78.5nm、111nm、147nm、202nm、250nm、278nm、303nm、354nm、381nmとした10種類について電解質溶液のオゾン生成に寄与した電流量を測定し、通電された総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷の割合を算出したもの、即ち、電流効率により各表面層30の膜厚に対するオゾン生成効率についての比較を行う。
【0115】
これによると、いずれの電流密度条件であっても、電解用電極26の表面層30の膜厚が250nm以下である場合には、オゾンに関する電流効率は、約1.3%以下であった。
【0116】
これに対し、電解用電極26の表面層30の膜厚を278nmとした場合には、オゾンに関する電流効率が約2.5%(17.8mA/cm2)若しくは、約2.8%(26.7mA/cm2)となり、格段にオゾン生成効率が高くなることが分かる。また、更にその膜厚を厚くした場合には、膜厚の増加に伴ってオゾンに関する電流効率も上昇していることが分かる。
【0117】
図13及び図14の実験結果により、電解用電極26を構成する表面層30の膜厚がある厚さを境に、格段にオゾンの生成効率が高くなることが分かる。この表面層の膜厚に対するオゾン生成の電流効率が変化する点は、電解の対象となる電解質溶液の種類によって異なるが、当該表面層30の膜厚が200nm以上であれば、当該表面層の膜厚に対するオゾン生成の電流効率が変化する点を観測することができる。
【0118】
従って、表面層30の厚さを200nm以上とすることで、当該電極26に通電される総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷、即ち、電流効率が高い範囲において、オゾンを生成させることが可能となる。
【0119】
また、上述した図13に示す如き実験結果に基づくと、ある程度、電解用電極26の表面層30の厚さが厚くなると、それ以上のオゾンに関する電流効率の上昇は観測されないため、当該電解用電極26の表面層30の成膜操作との関係から、表面層30の厚さを600nm以下とすることによって、電解用電極26の生産性の向上及び生産コストの低廉化を実現しつつ、オゾン生成効率の高い電極を実現することが可能となる。
【0120】
これにより、よりオゾン生成効率の高い電解用電極を低コストにて実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の電解用電極の概略断面図である(実施例1)。
【図2】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例1)。
【図3】本発明の電解用電極の概略断面図である(実施例2)。
【図4】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例2)。
【図5】本発明の電解用電極のエックス線回折である。
【図6】本発明の電解装置の概略説明図である(実施例1、実施例2)。
【図7】焼成温度550℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図8】焼成温度600℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図9】焼成温度650℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図10】電解用電極の紫外線吸収を示す図である(実施例2)。
【図11】電解用電極の平断面図である(実施例3)。
【図12】本発明の電解装置の概略説明図である(実施例3)。
【図13】電解用電極の表面層の膜厚に対するオゾンに関する電流効率を示す図である(実施例3)。
【図14】電解用電極の表面層の膜厚に対するオゾンに関する電流効率を示す図である(実施例3)。
【符号の説明】
【0122】
1、6、26 電解用電極
2、7、27 基体
3、9、29 中間層
4、10、30 表面層
8、28 密着層
20、35 電解装置
21、36 処理槽
22 電極
23 模擬水道水
25、37 電源
38 撹拌装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用又は民生用電解プロセスに使用される電解用電極と、それを用いた電解方法、並びにそれを用いた電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、所謂オゾン水は上下水道や、食品等、又は、半導体デバイス製造プロセス等での洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、導電性ダイヤモンド構造を有する電極物質をアノードとして用いて水を電解することにより、酸素、オゾン及び過酸化水素を生成する方法が開示されている。また、特許文献2には、複数のセル内でそれぞれ水などを電解して過酸化水素とオゾンを生成する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−269686号公報
【特許文献2】特許第3298431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した如き特許文献1に示される方法では、電極物質としてダイヤモンドを使用するため、装置自体のコストが高騰する問題がある。
【0005】
他方、特許文献2に示される方法では、オゾンや過酸化水素を複数のセル内でそれぞれ電解して生成しなければ成らない。そのため、オゾン及び過酸化水素が溶解した水溶液を単一の電解操作によって得ることができず、作業効率が悪いという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、容易な製造方法によって得られ、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能であると共に、過酸化水素や強い酸化力を有するOHラジカルを生成することが可能である電解用電極及び、それを用いた電解方法、並びに、それを用いた電解装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電解用電極は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、アナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の電解用電極は、上記発明において、表面層は、厚さが1mm以下であることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の電解用電極は、上記各発明において、表面層は、厚さが200nm乃至600nmであることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の電解用電極は、上記各発明において、基体は、少なくとも表面層との接触面が導電性であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の電解用電極の製造方法は、上記各発明の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の電解方法は、上記発明の電解方法による電解によって生成する物質が、オゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つであることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の電解装置は、請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、請求項5又は請求項6の発明の電解方法にて水又は電解質溶液を電解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電解用電極は、基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成るものであって、表面層は、薄膜であるため低電流密度にて電気分解を行うことができ、また、アナターゼ型酸化チタンであるので、効率的にオゾンを生成することができる。また、この酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造形成時に凝集することによって、各結晶間に基体表面が露出した状態となり複数の孔を形成することができ、当該孔の存在により、アノードにおける電極反応において、オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することが可能となる。
【0015】
請求項2の発明によれば、上記発明において、表面層は、厚さが1mm以下とすることにより、薄膜により構成することができるため、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、上記各発明において、表面層の厚さを200nm乃至600nmとすることで、上記発明と同様に、薄膜により構成することができるため、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることができ、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができる。
【0017】
また、表面層の厚さを200nm乃至600nmとすることで、当該電極に通電される総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷、即ち、電流効率が高い範囲において、オゾンを発生させることが可能となると共に、電極の生産性の向上及び生産コストの低廉化を実現することが可能となる。
【0018】
これにより、より一層オゾン生成効率の高い電解用電極を低コストにて実現することが可能となる。
【0019】
請求項4の発明によれば、上記各発明において、基体は、少なくとも表面層との接触面が導電性であるので、基体自体の導電性によらず、上記請求項1乃至請求項3の発明の如き電極として機能させることが可能となる。
【0020】
請求項5の発明によれば、上記各発明の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することにより、請求項6の発明の如く効率的にオゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つを生成することができる。
【0021】
これにより、水又は電解質溶液を電解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能となるため、比較的寿命の短いOHラジカルについても、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0022】
請求項7の発明によれば、請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、請求項5又は請求項6の発明の電解方法により水又は電解質溶液を電解することにより、現場において容易にオゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つを含む物質を生成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態として、実施例1及び実施例2を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は本発明の電解用電極の一例としての実施例1の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体2と、当該基体2の表面に形成される中間層3と、当該中間層3の表面に形成される表面層4とから構成される。
【0025】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金、或いはシリコン(Si)などにより構成される。特に、本実施例において用いられる基体2は、表面が平坦に処理されたシリコンを用いる。
【0026】
中間層3は、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、又は、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、又は、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。尚、金属酸化物については、予め酸化物として中間層3が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。本実施例では、中間層3は、白金により構成するものとする。
【0027】
尚、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層3を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体2を低廉な材料にて構成し、当該基体2の表面に貴金属等で構成される中間層3を形成することが好ましい。また、基体2を導電性を有さない物質、例えばガラス板により構成し、当該基体2は、少なくとも後述する表面層4との接触面が導電性を有する材料により被覆されているものであるならば、上記構成に限定されるものではない。これによっても、基体2の構成に用いられる材料に要するコストの高騰を抑制することが可能となる。
【0028】
また、表面層4は、前記中間層3を被覆するように当該中間層3と共に、誘電体により基体2の表面に層状に形成され、この表面層4は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、2000nm以下に構成される。尚、本実施例における当該表面層4の厚みについては、詳細は後述するが、更に好ましくは、100nm未満の厚みとなるように形成されるものとする。
【0029】
次に、本発明の電解用電極の製造方法について図2のフローチャートを参照して説明する。基体2としてシリコンを用いる。尚、この場合のシリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)等を導入し、導電率を高めたものが望ましい。当該シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。尚、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料を用いてもよいものとする。
【0030】
先ず初めに、ステップS1において前記シリコンの基体2を5%のフッ酸により前処理を行い、当該シリコン基体2の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体2の表面をより平坦な状態とする。尚、当該前処理は行わなくてもよい。その後、ステップS2において純水にて基体2の表面のリンスを行い、以降ステップS3において既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0031】
本実施例では、基体2への中間層3の形成は、スパッタ法により実行する。本実施例では、中間層3は、白金により構成するため、最初のターゲットとして中間層構成材であるPt(80mmφ)を用い、rfパワーを100W、Arガス圧を0.9Pa、基体2とターゲットとの間の距離を60mmとして、室温で20分間成膜を実行する(ステップS3)。これにより、基体2の表面には、厚さ100nm程度の中間層3が形成される。尚、本実施例では、中間層3の成膜方法としてスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0032】
次に、中間層3が形成された基体2の表面に表面層4を形成する。本実施例では、表面層4は、スピンコート法を用いて形成するため、表面層構成材としての有機チタン化合物溶液を中間層3が形成された基体2の表面に塗布する。本実施例では、表面層4は、酸化チタンにより構成するため、有機チタン化合物として配位数4のチタンにヒロドキシル基や、アルデヒド基、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシル基等の官能基を配位して構成されるものを用いる。また、この有機チタン化合物溶液のチタンの重量%は、全体の0.5%乃至5%程度であることが望ましい。尚、本実施例では、表面層構成材として有機チタン化合物溶液を用いているがこれに限定されるものではなく、チタンを含む化合物であって、焼成によりチタン以外の物質を除去可能な物質、例えば、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンなどであっても良いものとする。
【0033】
そして、中間層3が形成された基体2の表面に表面層構成材を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1500rpmで5秒間、3000rpmで60秒間とする。その後、室温及び220℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS5)。これにより、基体2の中間層3の表面には、チタンを含む表面層構成材により表面層4が形成される。
【0034】
その後、当該中間層3及び表面層4が形成された基体2は、ステップS6においてマッフル炉において500℃乃至800℃、好ましくは、550℃乃至650℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、電解用電極1が得られる。これにより、中間層3の表面に塗布された表面層構成材は、均一に酸化チタンとされる。尚、当該焼成により酸化チタンとなり、この状態で表面層4の厚さは、20nm〜100nm程度となる。なお、当該表面層4の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0035】
上述した如く得られる電解用電極1は、表面層4は、すべて酸化チタンとされている。また、中間層3は、基体2のシリコンと、白金シリサイドを形成している。また、シリコンは、中間層3までで止まっており、表面層4の内部にまで拡散していない。また、同様に、中間層3を構成する白金も表面層4内部にまでは到達していない。
【0036】
尚、本実施例では、表面層4を誘電体のみで構成しているため、当該表面層4への貴金属又は貴金属酸化物の使用を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。
【実施例2】
【0037】
次に、図3を参照して実施例2の電解用電極6について説明する。図3は本発明の電解用電極の一例としての電解用電極6の平断面図である。図3に示すように電解用電極6は、基体7と、当該基体7の表面に形成される密着層8と、当該密着層8の表面に形成される中間層9と、当該中間層9の表面に形成される表面層10とから構成される。
【0038】
本発明において基体7は、上記実施例1の電解用電極1に用いられる基体2と同様の材料により構成されるものであり、本実施例においても、基体7は、シリコンを用いる。
【0039】
密着層8は、基体7の表面に形成され、基体7と密着層8の表面に例えば白金により形成される中間層9との密着性の向上を図るために用いられるものであり、酸化チタンや窒化チタンなどにより構成される。尚、本実施例では酸化チタンを用いる。
【0040】
中間層9は、上記実施例1の電解用電極1に用いられる中間層3と同様の材料により構成されるものであり、本実施例では、中間層9は、白金により構成するものとする。
【0041】
尚、本実施例においても、上記基体7を白金にて構成する場合には、基体7の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層9を格別に構成する必要はなく、当然に密着層2を構成する必要がない。ただし、係る基体7を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体7を低廉な材料にて構成し、当該基体7の表面に密着層8を介して貴金属等で構成される中間層9を形成することが好ましい。
【0042】
また、表面層10は、前記中間層9を被覆するように当該中間層9と共に、誘電体により基体7の表面に層状に形成され、この表面層10は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、2000nm以下に構成される。尚、当該実施例において、当該表面層10の厚みについては、詳細は後述するが、更に好ましくは、100nm未満の厚みとなるように形成されるものとする。
【0043】
表面層10を構成する誘電体としては、アナターゼ型酸化チタンが用いられる。
【0044】
次に、本発明の電解用電極の製造方法について図4のフローチャートを参照して説明する。基体7としてシリコンを用いる。尚、この場合のシリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)等を導入し、導電率を高めたものが望ましい。当該シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。また、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料であって、好ましくは表面が平坦に処理されたものを用いてもよいものとする。
【0045】
そのため、上記実施例1と同様に、前記シリコンの基体7を5%のフッ酸により前処理を行い、当該シリコン基体7の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体7の表面をより平坦な状態とする。尚、当該前処理は行わなくてもよい。その後、純水にて基体7の表面のリンスを行い、既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0046】
本実施例では、先ず初めに、ステップS11において、基体7の表面に上述した如き中間層9の密着性を向上させるための密着層8の形成を行う。この基体7への密着層8の形成は、反応性スパッタ法により実行する。密着層8は、酸化チタンにより構成するため、最初のターゲットとしてTiを用い、投入電力6.17W/cm2、酸素分圧52%(Ar:O2 24:26)、成膜圧力を0.6Paとして、室温で10分間成膜を実行する(ステップS3)。これにより、基体7の表面には、厚さ50nm程度の酸化チタンにて構成される密着層8が形成される。尚、本実施例では、密着層8の成膜方法として反応性スパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、スパッタ法、CVD法、イオンプレーティング法、メッキ法、あるいはこれらの方法と熱酸化の組み合わせなどであっても良いものとする。
【0047】
次に、ステップS12において、表面に密着層8が形成された基体7の表面に中間層9の形成を行う。基体7への中間層9の形成は、上記実施例と同様にスパッタ法により実行する。本実施例では、中間層9は、白金により構成するため、最初のターゲットとしてPt(80mmφ)を用い、投入電力4.63W/cm2、Arガス圧を0.7Paとして、室温で約1分10秒間成膜を実行する。これにより、密着層8が形成された基体7の表面には、厚さ200nm程度の中間層9が形成される。尚、本実施例では、中間層9の成膜方法としてスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0048】
次に、中間層9が形成された基体7の表面に表面層10を形成する。本実施例では、表面層10は、スピンコート法を用いて形成するため、表面層構成材としての有機チタン化合物溶液を中間層9が形成された基体7の表面に塗布する。本実施例では、表面層10は、酸化チタンにより構成するため、有機チタン化合物として配位数4のチタンにヒロドキシル基や、アルデヒド基、アルキル基、カルボキシル基、アルコキシル基等の官能基を配位して構成されるものを用いる。また、この有機チタン化合物溶液のチタンの重量%は、全体の0.5%乃至5%程度であることが望ましい。尚、本実施例では、表面層構成材として有機チタン化合物溶液を用いているがこれに限定されるものではなく、チタンを含む化合物であって、焼成によりチタン以外の物質を除去可能な物質、例えば、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタンなどであっても良いものとする。
【0049】
そして、ステップS13において、中間層9が形成された基体7の表面に表面層構成材を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1000rpmで10秒間、3000rpmで30秒間とする。その後、室温及び200℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS14)。これにより、基体7の中間層9の表面には、チタン化合物を含む表面層構成材により表面層10が形成される。
【0050】
その後、当該中間層9及び表面層10が形成された基体7は、ステップS15においてマッフル炉において500℃乃至800℃、好ましくは、550℃乃至650℃、本実施例では、650℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、電解用電極6が得られる。これにより、中間層9の表面に塗布された表面層構成材は、均一に酸化チタンとされる。本実施例では、本成膜操作を計14回繰り返した。尚、表面層構成材は、当該焼成により酸化チタンとなり、この状態で表面層10の厚さは、20nm〜1000nm程度、本実施例では500nm程度となる。なお、当該表面層10の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0051】
上述した如く得られる電解用電極6は、表面層10は、すべて酸化チタンとされている。即ち、表面層構成材は、チタンを含む化合物、例えば上述したように、チタン以外に複数の官能基が配位された有機チタン化合物や、塩化チタンや臭化チタン、ヨウ化チタンなどを含むものであるが、焼成されることによって、チタン以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基や、塩素、臭素、ヨウ素などは、除去される。他方、チタンは、雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとなる。
【0052】
一般に、酸化チタンは、結晶形態によって、アナターゼ型とルチル型、ブルッカイト型の三種類があり、熱力学的にはルチル型が全温度領域で安定相であり、他は準安定相である。ブルッカイト型の酸化チタンは、他の結晶形態に比して不安定であり、純粋な結晶を合成するのは難しく、一般に工業的な利用がない。アナターゼ型の酸化チタンも高温、例えば900℃以上にするとルチル型に熱転移することが知られている。
【0053】
これらアナターゼ型とルチル型、ブルッカイト型の酸化チタンの結晶構造の解析には、通常、エックス線回折(XRD)が用いられており、これによって、表面層10を構成する酸化チタンの結晶構造を解析することが可能となる。
【0054】
図5は、上述した如く得られた電解用電極7の表面層10のエックス線回折パターンである。これによると、本実施例において得られた電解用電極7の表面層10を構成する酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造にて得られるピークを示しており(丸印はアナターゼ型の結晶構造にて得られるピーク、各ピークに付される数字は面指数)、これにより、表面層10を構成する酸化チタン膜は、アナターゼ型の結晶構造を形成していることが分かる。
【0055】
尚、本実施例では、表面層10をチタン化合物を含む表面層構成材をスピンコート法により基体表面(本実施例では中間層9表面)に塗布し、所定温度にて焼成することにより、アナターゼ型酸化チタンにより形成しているが、当該アナターゼ型の酸化チタンにより表面層10を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0056】
他の方法として、熱CVD法による表面層10の形成方法がある。この熱CVD法では、基体7の表面に、上記実施例と同様に密着層8、中間層9を順次形成した後、表面層構成材である有機チタン化合物を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、高温、例えば500℃乃至800℃、好ましくは、500℃乃至600℃に熱せられた基体7の表面で化学反応を行う。
【0057】
これにより、表面層構成材である有機チタン化合物のチタンを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体7の表面において除去され、チタンのみが雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとして基体7の表面に形成される。基体7の表面(実際には中間層9の表面)に形成された酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を形成する薄膜(酸化チタン膜)を構成する。
【0058】
尚、アナターゼ型の酸化チタンにより表面層10を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
【0059】
いずれの表面層10の形成方法においても、中間層9の表面に形成される酸化チタン膜は、アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンが一様に形成されるものではなく、焼成又は、熱CVD法における高温基体7の表面において結晶を形成する過程において、酸化チタンが凝集することにより、結晶粒が形成され、各結晶粒間には、隙間のような孔が形成される。この孔は、電解用電極7の表面層10において点在して形成されるものであり、該孔は、表面層10の直ぐ下の層、即ち白金にて形成される中間層9が露出した状態とされている。
【0060】
尚、本実施例では、シリコンにて構成される基体7の表面には、酸化チタンにて構成される密着層8が形成されているため、直接、中間層9を構成する白金が、基体7内部にまで拡散することによる白金シリサイドが形成されることを阻止することが可能となる。また、酸化チタンにより構成される密着層8により、中間層9を構成する白金の基体7への密着性を向上させることができる。また、基体7の表面に形成される中間層9は、構成する白金が原子レベルで一様に構成することが可能となり、当該中間層9の表面に形成される表面層10、即ち、酸化チタンのアナターゼ型結晶構造の形成を容易に行うことが可能となる。
【0061】
尚、本実施例においても、表面層10を誘電体のみで構成しているため、当該表面層10への貴金属又は貴金属酸化物の使用を削減することができ、コストの低廉化を図ることができる。
【実施例3】
【0062】
次に、図11を参照して実施例2の電解用電極26について説明する。図11は本発明の電解用電極の一例としての電解用電極26の平断面図である。図11に示すように電解用電極26は、基体27と、当該基体27の表面に形成される密着層28と、当該密着層28の表面に形成される中間層29と、当該中間層29の表面に形成される表面層30とから構成される。なお、当該電解用電極26は、基体27側に電気伝導部としてのチタン板31が設けられており、当該チタン板31と中間層29とは、電極26の端面に設けられる導電性材料としての銀ペースト32により、導通可能とされている。また、この銀ペースト32とチタン板31はシール材33に覆われており、電解には寄与しない。
【0063】
係る実施例において基体27は、上記各実施例の電解用電極1、6に用いられる基体2、7と同様の材料により構成されるものであり、本実施例においても、基体27は、シリコンを用いる。
【0064】
密着層28は、基体27の表面に形成され、基体27と密着層28の表面に例えば白金により形成される中間層29との密着性の向上を図るために用いられるものであり、酸化チタンや窒化チタンなどにより構成される。尚、本実施例では酸化チタンを用いる。
【0065】
中間層29は、上記各実施例の電解用電極1、6に用いられる中間層3、9と同様の材料により構成されるものであり、本実施例では、中間層29は、白金により構成するものとする。
【0066】
尚、係る実施例においても、上記基体27を白金にて構成する場合には、基体27の表面も当然に白金にて構成されるため、当該中間層29を格別に構成する必要はなく、当然に密着層28を構成する必要がない。ただし、係る基体27を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、当該基体27を低廉な材料にて構成し、当該基体27の表面に密着層28を介して貴金属等で構成される中間層29を形成することが好ましい。
【0067】
また、表面層30は、前記中間層29を被覆するように当該中間層29と共に、誘電体により基体27の表面に層状に形成され、この表面層30は、所定厚み、本実施例では0より大きく1mm以下、好ましくは、200nm乃至600nmに構成される。
【0068】
表面層30を構成する誘電体としては、上記各実施例と同様にアナターゼ型酸化チタンが用いられる。
【0069】
なお、係る実施例における電解用電極26の製造方法は、上記実施例2における電解用電極6の製造方法と略同一であるため(焼成温度は650℃)、説明を省略する。ただし、電解用電極26を構成する表面層30については、上記と同一の成膜操作を繰り返すことにより、表面層30の厚さは、200nm〜600nm程度となる。なお、当該表面層30の膜厚の測定には、上記と同様、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0070】
これにより、得られる電解用電極26は、表面層30は、すべて酸化チタンとされている。即ち、表面層構成材は、チタンを含む化合物、例えば上述したように、チタン以外に複数の官能基が配位された有機チタン化合物や、塩化チタンや臭化チタン、ヨウ化チタンなどを含むものであるが、焼成されることによって、チタン以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基や、塩素、臭素、ヨウ素などは、除去される。他方、チタンは、雰囲気中の酸素と反応し、酸化チタンとなる。
【0071】
また、この場合においても、表面層30を構成する酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を形成している。
【0072】
また、この場合においても、表面層30をチタン化合物を含む表面層構成材をスピンコート法により基体表面(本実施例では中間層29表面)に塗布し、所定温度にて焼成することにより、アナターゼ型酸化チタンにより形成しているが、当該アナターゼ型の酸化チタンにより表面層30を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0073】
上記と同様に、熱CVD法や、ディップ法、メッキ法などにより表面層30の形成を行っても良い。
(各電解用電極による電解方法及びその評価)
次に、上記各実施例において製造された電解用電極1、6及び26を用いた電解によるオゾン及び/又は過酸化水素の生成について図6乃至図10及び図12乃至図14を参照して説明する。
【0074】
まずはじめに、図6に示す如き電解装置20を用いた電解用電極1及び6に関する実験について説明する。図6は電解装置20の概略説明図を示している。電解装置20は、処理槽21と、上述した如きアノードとしての電解用電極1又は6と、カソードとしての電極22と、これら電極1(6)、22に直流電流を印加する電源25とから構成される。そして、これら電極1(6)、22間に位置して、処理槽21内の電極1(6)の存する一方の領域と電極22の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))24が設けられる。また、この処理槽21内には、電解質溶液としての模擬水道水23又は0.01M HClO4が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水や0.01M HClO4溶液等の電解質溶液が用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、純水を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。
【0075】
電解用電極1又は6は、上述した如き各実施例における製造方法により作製したものである。電解装置20に用いる電解用電極1は、表面層4を形成する際の焼成温度が、550℃、600℃、650℃のものの合計3種類使用する。また、電解用電極6は、表面層10を形成する際の焼成温度が650℃のものを使用する。これにより、それぞれの電解用電極1又は6をアノードとして用いた場合の電解質溶液の紫外線吸収を測定することで、各電解用電極1及び6の評価を行う。
【0076】
他方、カソードとしての電極22には白金を用いる。これ以外にもチタン基体2表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0077】
また、電解用電極1を用いて電解処理される電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmである。電解用電極6を用いて電解処理される電解質溶液は、0.01M HClO4である。
【0078】
以上の構成により、電解用電極1を用いた電解では、処理槽21内に150mlの模擬水道水23を貯溜し、該電解用電極1及び電極22をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。尚、本実施例における電解用電極1及び電極22の面積は25mm×15mmとする。そして、電源25により80mA、電流密度約20mA/cm2の定電流、160mA、電流密度約40mA/cm2の定電流、240mA、電流密度約60mA/cm2の定電流が電解用電極1及び電極22に印加される。他方、電解用電極6を用いた電解では、処理槽21内に0.01M HClO4を貯溜し、該電解用電極6及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。当該電解条件は、電流密度26.7mA/cm2とし、また、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0079】
尚、本実施例では電解用電極1、6によるオゾン及び過酸化水素の生成量は、上記条件にて5分間電解後の模擬水道水23又は溶液の紫外線吸収を測定し、評価を行う。
【0080】
次に、図7乃至図9を用いて各焼成温度にて形成された電解用電極1ごとの電流密度に対する生成物質について説明する。図7は焼成温度550℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図8は焼成温度600℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収であり、図9は焼成温度650℃にて形成された電解用電極1の各電流密度に対する紫外線吸収を示している。いずれも縦軸は、吸光度を示し、横軸は波長を示している。また、図中Aは電流密度約20mA/cm2、Bは約40mA/cm2、Cは約60mA/cm2の実験結果を示しており、Dは当該実験の対比として示される電解用電極の実験結果を示している。Dにおいて用いられる電解用電極はスパッタ法により基体表面、若しくは、中間層の表面にチタンを形成し、熱酸化することで表面層4を形成したものであり、電極面積は15mm×15mm、焼成温度は500℃、電流密度は10mA/cm2である。
【0081】
図7は、550℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)とオゾンの吸収ピーク(約258nm)が観測されており、これらの吸光度比は、ほぼ同じ、若しくは、若干オゾンが多い程度である。また、電流密度が大きくなるに従い、過酸化水素及びオゾンが増加していることがわかる。特に、電流密度が60mA/cm2では、多くの過酸化水素及びオゾンの吸収があることがわかる。
【0082】
これに対し、スパッタ法により表面層4が形成されている電解用電極1を用いた場合には、オゾンの吸収ピークが観測されるが、過酸化水素についての吸収ピークはみられない。従って、上記条件によってスパッタ法により表面層4を形成する方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができないのに対し、スピンコート法による表面層4の形成方法では、オゾンと過酸化水素の両者を生成することができることがわかる。
【0083】
図8は、600℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)が観測されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、40mA/cm2、60mA/cm2のみ観測され、20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは観測されていない。特に、約20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、約40、約60mA/cm2の場合に比べ、吸収量が多く、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われていることがいえる。
【0084】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0085】
600℃にて焼成された電解用電極1を用いて電解質溶液を電解した場合には、図7に示す如き550℃にて焼成された電解用電極1に比べ、60mA/cm2の電流密度の場合におけるオゾンの吸収ピークが大きくなり、過酸化水素の吸収ピークが小さくなっていることがわかる。また、40mA/cm2の電流密度の場合における過酸化水素の吸収ピークは、大きくなっていることがわかる。
【0086】
図9は、650℃にて焼成された電解用電極1の実験結果である。これによると、いずれの電流密度においても、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)が測定されているが、オゾンの吸収ピーク(約258nm)は、約40mA/cm2、約60mA/cm2のみ測定され、約20mA/cm2では、オゾンの吸収ピークは測定されていない。特に、20mA/cm2では、過酸化水素の吸収ピークは、40、60mA/cm2の場合に比べ、大きく、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われているといえる。
【0087】
これにより、当該電極では、電流密度を変更することにより、電解により生成される過酸化水素とオゾンの生成比率、特に、オゾンの生成有無を選択することが可能となる。特に、電流密度を約20mA/cm2へと小さくしていくに従い、過酸化水素の生成量を増加させることができると共に、オゾンの生成量を減少させることができる。また、電流密度を約20mA/cm2とすることで、オゾンの生成を抑制し、過酸化水素のみを生成することが可能となる。そのため、目的とする物質に応じて電流密度を変更して電気分解することにより、優先的に生成される物質を選択することが可能となり、汎用性が向上する。
【0088】
また、オゾンの吸収ピークは、約40、約60mA/cm2のいずれの場合においても観測されているが、その吸収量は、焼成温度が600℃の場合に比べ少ない。いずれの電流密度においても、オゾンではなく過酸化水素の生成が優先的に行われているといえる。この傾向は、図5に示される如き焼成温度が600℃の場合にの電極1を用いた場合によりも顕著であることがわかる。
【0089】
従って、電解用電極1の焼成温度を上昇させていくに従い、過酸化水素の生成が優先的に行われることとなり、焼成温度が600℃である場合には、過酸化水素の生成を行いながらも、オゾンを効率的に生成することができることがわかる。
【0090】
また、オゾンと過酸化水素の両者の生成がなされる場合には、電解質溶液中に生成された過酸化水素は、より酸化力の強いオゾンにより酸化され、OHラジカルを生成することが可能となる(化学反応式A)。以下、化学反応式Aを示す。
【0091】
化学反応式A 2O3+H2O2→2・OH+3O2
このOHラジカルは、強力な酸化力を発揮することができる。当該電解用電極1を用いて電解質溶液を電気分解することで、複数種類の酸化物質を生成することが可能であり、これらの反応によってOHラジカルを生成することが可能となる。そのため、オゾンのみでは困難なカビ・たばこ臭などの除去が可能となる。この場合において、OHラジカルは、比較的寿命が短いが、必要とされる現場において容易に生成することが可能となり、当該OHラジカルの酸化力を有効に用いることが可能となる。
【0092】
次に、図10を用いて電解用電極6を用いて電解を行った場合の生成物質について説明する。図10は電解用電極6を用いた場合の電解質溶液の紫外線吸収である。縦軸は、吸光度を示し、横軸は波長を示している。これによると、過酸化水素の吸収ピーク(約200nm〜220nm)とオゾンの吸収ピーク(約258nm)が観測されており、これらの吸光度比は、過酸化水素がオゾンの二倍程度であるが、明らかに電解質溶液中に過酸化水素とオゾンの両者が生成されていることが分かる。尚、図10に示す実験結果は、図9に示すスピンコート法により作成された電解用電極1の約20mA/cm2の実験データとオゾンの生成有無の点で異なるが、電流密度が26.7mA/cm2である点、電解用電極6は中間層9と基体7との間に密着層8が形成されていること、及び電解質溶液が異なることの理由から、実験データが異なるものと考えられる。
【0093】
このように、各実施例における各電解用電極1、6をアノードとして電解質溶液を電解することにより、電解質溶液中に、オゾン及び過酸化水素の両者を生成することが可能となる。これは、各実施例における電解用電極1、6は、表面層4又は10を構成する酸化チタンがスピンコート法により形成されているため、100nm以下と比較的薄膜にて形成することが可能となり、また、当該薄膜を構成する酸化チタンは、図5から明らかなように、アナターゼ型の結晶構造を有しているためであると考えられる。
【0094】
そのため、表面層4又は10中の不純物準位を介して、或いは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が導電性材料にて構成される中間層3にまで移動すると考えられる。
【0095】
通常、金属電極を電解用電極として使用した場合、アノードにおける電極反応が、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより生起する。これに対し、本発明における表面層4又は10を形成した電解用電極1又は6を使用した場合、表面層が誘電体により構成されているため、フェルミ準位よりバンドギャップの半分程度高いエネルギーレベルにある伝導体の底付近の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより、アノードにおける電極反応が生起する。
【0096】
そのため、本発明における電解用電極1又は6を使用した場合、白金等の電解用電極を使用した場合に比して、より高いエネルギーレベルでの電子の移動が起こって電極反応を生起するためにオゾンの生成効率が上昇するものと考えられる。
【0097】
これにより、電解用電極1に所定の低電流密度、0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2、望ましくは、1mA/cm2乃至1000mA/cm2の電流が印加されることで、高効率にてオゾンを生成させることが可能となると共に、過酸化水素を生成することができる電極を得ることができる。
【0098】
特に、実施例2に示される如く電解用電極6の表面層10は、表面層構成材としてチタンを含む化合物を用い、スピンコート法や熱CVD法により基体7の表面(本実施例では中間層9の表面)に形成されていることから、当該表面層10は、アナターゼ型の酸化チタンによる薄膜により構成されている。そして、この酸化チタンの薄膜には、焼成時又は熱CVD法における高温基体の表面における反応時において、酸化チタンが凝集することにより、各結晶間に基体7表面(実際には表面層10の直ぐ下の層を構成する中間層9の表面、即ち、基体2と表面層10との接触面を構成する導電性の中間層9)が露出した状態となる複数の孔が形成されている。
【0099】
そのため、表面層10では、薄膜に形成される酸化チタンの表面において、上述した如きオゾンを生成する反応が行われ、これと共に、中間層9が露出した状態となる孔の存在により、過酸化水素を生成する反応が行われる。
【0100】
これにより、低電流密度にて電気分解を行った場合であっても効率的にオゾンを生成することが可能となると共に、当該オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することが可能となる。
【0101】
また、このように、オゾンと共に過酸化水素の生成を実現することができる電極1又は6の表面層4又は10は、上述したようにスピンコート法により形成することが可能であるため、比較的安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。また、表面層4又は10は、上述したように熱CVD法により形成することで、安定性が良く、高い生産効率を実現することが可能となる。
【0102】
更にまた、係る表面層4及び10を構成するために用いられる表面層構成材は、チタン重量%が0.5乃至5%であるので、容易にアナターゼ型の結晶構造を形成することが可能となると共に、当該電極1又は6をアノードとして用いた際に、オゾンの生成効率を抑制することなく過酸化水素の生成を実現することを可能とする大きさの孔を形成することが可能となる。
【0103】
また、上述した如く各実施例1、2では、シリコンにて構成される基体2、7に、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層3又は9を形成し、更に当該中間層3又は9の表面に上述した如き表面層4又は10を構成することで電解用電極1又は6を形成しているが、基体2又は7を中間層3又は9と同様の材料、即ち、少なくとも難酸化性の金属、又は、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む材料にて構成する場合には、格別に中間層3を形成しなくても同様にオゾンを効率的に生成することができる電極を構成することができる。ただし、本発明の如く基体2又は7に上記材料にて構成される中間層3又は9を被覆形成することにより、同様に効率的にオゾンを生成することができる電極1又は6を低廉な生産コストにて実現することが可能となる。
【0104】
次に、図12に示す如き電解装置35を用いた実施例3の電解用電極26に関する実験について説明する。図12は電解装置35の概略説明図を示している。電解装置35は、処理槽36と、上述した如きアノードとしての電解用電極26と、カソードとしての電極22と、これら電極26、22に直流電流を印加する電源37とから構成される。そして、これら電極26、22間に位置して、処理槽36内の電極26の存する一方の領域と電極22の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))24が設けられる。また、アノードとしての電解用電極26が浸漬される領域には、撹拌装置38が設けられている。
【0105】
また、この処理槽36内には、電解質溶液としての模擬水道水23又は0.01M HClO4が貯溜される。尚、本実施例における実験では、模擬水道水や0.01M HClO4溶液等の電解質溶液が用いられているが、陽イオン交換膜を設けることにより、純水を処理した場合であっても、略同様の効果が得られる。用いられる模擬水道水は、上記実験において用いられるものと同様の成分組成のものを用いる。
【0106】
電解用電極26は、上述した如き実施例3における製造方法により作製したものを用い、他方、カソードとしての電極22には上記と同様のもの、即ち、白金を用いる。これ以外にもチタン基体2表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0107】
以上の構成により、図13及び図14を参照して電解用電極26を用いて電解を行った場合のオゾン生成に関する電流効率についての実験について説明する。図13に示す如き実験では、処理槽36内の各領域(アノード側及びカソード側のそれぞれの領域)に150ml0.01M HClO4を貯溜し、電解用電極26及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。そして、各電極間の距離は10mmとし、電源37により電流密度26.7mA/cm2の定電流が、電解用電極26及び電極22に印加される。なお、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0108】
本実施例では電解用電極26よるオゾンの生成量は、上記条件にて5分間電解後の溶液のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製)により測定し、通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与された電荷の割合、即ち、電流効率を算出して評価を行う。
【0109】
図13における実験では、電解用電極26の表面層30の膜厚をそれぞれ207.3nm、277.7nm、346.2nm、385.5nm、503.6nm、547.0nm、724.7nmとした7種類について電解質溶液のオゾン生成に寄与した電流量を測定し、通電された総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷の割合を算出したもの、即ち、電流効率により各表面層30の膜厚に対するオゾン生成効率についての比較を行う。なお、当該表面層30の膜厚の測定には、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX-3220ZS Element Analyzer)を用いている。
【0110】
通常、安定な過塩素酸(HClO4)を電解質溶液として用いた場合には、電極に供給される電流は、殆ど酸素の生成に寄与されるため、オゾンの生成は生じがたい。図13に示す如き実験においても、電解用電極26の表面層30の膜厚が207.3nmや277.7nmである場合には、オゾン生成の電流効率は、ほぼ0%となり、電気分解に供される電流の殆どは、酸素の生成に使用されている。
【0111】
これに対し、電解用電極26の表面層30の膜厚を346.2nmとした場合には、オゾンに関する電流効率が約1.7%となり、安定した過塩素酸を電解質溶液として電解処理した場合であっても、オゾンが生成される。更に、その膜厚をそれ以上の385.5nmや503.6nm、547.0nm、724.7nmとすると、オゾンに関する電流効率がそれぞれ約5.2%、約6.9%、約4.7%、約5.4%と高い電流効率でオゾンを生成することができる。なお、この場合においても電気分解に供される残余の電流の殆どは、酸素の生成に使用される。以下、同様とする。
【0112】
他方、図14に示す実験では、処理槽36内の各領域(アノード側及びカソード側のそれぞれの領域)に150ml模擬水道水を貯溜し、電解用電極26及び電極22をそれぞれ溶液中に浸漬させる。そして、各電極間の距離は10mmとし、電源37により電流密度26.7mA/cm2の定電流、若しくは、17.8mA/cm2の定電流を、電解用電極26及び電極22に流す。なお、溶液の温度は+15℃であるものとする。
【0113】
この場合においても電解用電極26よるオゾンの生成量は、上記条件にて5分間電解後の溶液のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、通電された総電荷量に対する当該オゾン生成に寄与された電荷の割合、即ち、下記化学反応式Bに基づいて電流効率を算出して評価を行う。
【0114】
化学反応式B 3H2O→O3+6H++6e-
図14における実験では、電解用電極26の表面層30の膜厚をそれぞれ49.8nm、78.5nm、111nm、147nm、202nm、250nm、278nm、303nm、354nm、381nmとした10種類について電解質溶液のオゾン生成に寄与した電流量を測定し、通電された総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷の割合を算出したもの、即ち、電流効率により各表面層30の膜厚に対するオゾン生成効率についての比較を行う。
【0115】
これによると、いずれの電流密度条件であっても、電解用電極26の表面層30の膜厚が250nm以下である場合には、オゾンに関する電流効率は、約1.3%以下であった。
【0116】
これに対し、電解用電極26の表面層30の膜厚を278nmとした場合には、オゾンに関する電流効率が約2.5%(17.8mA/cm2)若しくは、約2.8%(26.7mA/cm2)となり、格段にオゾン生成効率が高くなることが分かる。また、更にその膜厚を厚くした場合には、膜厚の増加に伴ってオゾンに関する電流効率も上昇していることが分かる。
【0117】
図13及び図14の実験結果により、電解用電極26を構成する表面層30の膜厚がある厚さを境に、格段にオゾンの生成効率が高くなることが分かる。この表面層の膜厚に対するオゾン生成の電流効率が変化する点は、電解の対象となる電解質溶液の種類によって異なるが、当該表面層30の膜厚が200nm以上であれば、当該表面層の膜厚に対するオゾン生成の電流効率が変化する点を観測することができる。
【0118】
従って、表面層30の厚さを200nm以上とすることで、当該電極26に通電される総電荷量に対するオゾン生成に寄与された電荷、即ち、電流効率が高い範囲において、オゾンを生成させることが可能となる。
【0119】
また、上述した図13に示す如き実験結果に基づくと、ある程度、電解用電極26の表面層30の厚さが厚くなると、それ以上のオゾンに関する電流効率の上昇は観測されないため、当該電解用電極26の表面層30の成膜操作との関係から、表面層30の厚さを600nm以下とすることによって、電解用電極26の生産性の向上及び生産コストの低廉化を実現しつつ、オゾン生成効率の高い電極を実現することが可能となる。
【0120】
これにより、よりオゾン生成効率の高い電解用電極を低コストにて実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の電解用電極の概略断面図である(実施例1)。
【図2】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例1)。
【図3】本発明の電解用電極の概略断面図である(実施例2)。
【図4】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例2)。
【図5】本発明の電解用電極のエックス線回折である。
【図6】本発明の電解装置の概略説明図である(実施例1、実施例2)。
【図7】焼成温度550℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図8】焼成温度600℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図9】焼成温度650℃にて形成された電解用電極の各電流密度に対する紫外線吸収を示す図である(実施例1)。
【図10】電解用電極の紫外線吸収を示す図である(実施例2)。
【図11】電解用電極の平断面図である(実施例3)。
【図12】本発明の電解装置の概略説明図である(実施例3)。
【図13】電解用電極の表面層の膜厚に対するオゾンに関する電流効率を示す図である(実施例3)。
【図14】電解用電極の表面層の膜厚に対するオゾンに関する電流効率を示す図である(実施例3)。
【符号の説明】
【0122】
1、6、26 電解用電極
2、7、27 基体
3、9、29 中間層
4、10、30 表面層
8、28 密着層
20、35 電解装置
21、36 処理槽
22 電極
23 模擬水道水
25、37 電源
38 撹拌装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、アナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
前記表面層は、厚さが1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記表面層は、厚さが200nm乃至600nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記基体は、少なくとも前記表面層との接触面が導電性であることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することを特徴とする電解方法。
【請求項6】
前記電解方法による電解によって生成する物質が、オゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載の電解方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、前記請求項5又は請求項6の電解方法により水又は電解質溶液を電解することを特徴とする電解装置。
【請求項1】
基体と、当該基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、アナターゼ型酸化チタンであることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
前記表面層は、厚さが1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記表面層は、厚さが200nm乃至600nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記基体は、少なくとも前記表面層との接触面が導電性であることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の電解用電極をアノードとし、電流密度0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2で水又は電解質溶液を電解することを特徴とする電解方法。
【請求項6】
前記電解方法による電解によって生成する物質が、オゾン、過酸化水素、或いは他の活性酸素種の少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載の電解方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4の何れかの電解用電極を備え、当該電極を用いて、且つ、前記請求項5又は請求項6の電解方法により水又は電解質溶液を電解することを特徴とする電解装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−95173(P2008−95173A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57303(P2007−57303)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
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