説明

電解研磨用途において電解質を再生する方法

電解研磨方法のアルミニウム表面の製造において再使用するための、高濃度の塩化ナトリウムを含有する電解質を再生する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解研磨、特に、金属ワークピースの電解研磨方法に再使用するために電解質を再生する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解加工(ECM)は、電解槽の一部であるアノード分極したワークピースの電気化学的溶解により金属を除去する方法である。ECMは、電解工程における、電解槽におけるツール(カソード)によるワークピース(アノード)の制御されたアノード電気化学的溶解方法に基づいている。
【0003】
電解は、液体溶液に浸された2本のワイヤ間を電流が流れる化学的方法である。かかる溶液は、電解液という。ワイヤは電極と呼ばれ、正極のものはアノードであり、負極のものはカソードである。電解が典型的に行われるのは、電気めっきと電鋳方法であり、これらの方法では金属コーティングがカソードワークピースの表面に付着する。
【0004】
アノード溶解操作としては、電解研磨(ECP)、電解バリ取り(ECD)および電気めっきの逆である電解加工(ECM)が例示される。ECPにおいて、例えば、研磨されるワークピースは、電解槽におけるアノードとなる。他の金属をワークピース表面に付着させる代わりに、電解研磨の動作は、表面層を除去して平滑かつ研磨された表面を生成する。電解研磨された表面の製造は、通常、アノードワークピースからの原子の不規則な除去と関連し、その表面は、酸化膜で覆われる。
【0005】
電解研磨に用いる電解質の種類はワークピースの表面に高品質の研磨仕上げを得るのに重要な因子である。例えば、塩化ナトリウム電解質は鋼およびニッケル合金にエッチングされた艶消し仕上げを生成する傾向がある。さらに、電解質の濃度は電解質の電流密度および速度を変える可能性があり、これはアノードワークピースからの原子の除去速度に影響する。例えば、水溶液中50%を超える濃度の塩化ナトリウム電解質であると、電解質の電流密度特性を減じる原因となってワークピースの表面仕上げに影響する。それでもなお、ある種の金属については電解研磨用途において平滑な研磨表面を得る機構はまだ完全には分かっていない。例えば、ニッケル系合金類では、金属表面でのニッケル酸化膜の形成は平滑な研磨表面を得るために必要な条件と考えられている。他の例では金属表面に酸化物膜が形成されると質の悪い表面仕上げとなる。例えば、硝酸ナトリウム電解質中のチタンでは、酸化膜が金属表面に形成されて光沢のない表面仕上げとなる。
【0006】
アルミニウムおよびアルミニウム系合金類の電解研磨においては、水溶液中50%を超える高濃度のナトリウムイオン(好ましくは、塩化ナトリウム)を有する電解質であると、アルミニウムの平滑かつ高反射率の研磨表面仕上げが得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電解研磨方法から生成された廃棄物は金属加水分解物と呼ばれることが多い。これらの加水分解物は、典型的には、電解質を再使用するために電解質溶液からろ過される。典型的なろ過技術としては遠心分離、ろ過および沈殿が挙げられる。アルミニウムワークピースの電解研磨において、加水分解物は通常微細分散アルミニウム加水分解物の形態にある。しかしながら、アルミニウム加水分解物と塩化ナトリウム加水分解物の比重が似ているため、公知の技術を用いて電解質を加水分解物から効率的に分離するのは難しい。米国特許第4,737,250号明細書には、硝酸鉄(III)を電解質に添加して加水分解物を粗い凝集形態で主に沈殿させる、硝酸ナトリウムを含有する電解質の再生方法が記載されている。分離方法後であっても、少量の金属加水分解物が電解質中にまだ存在している。この量はECM用途のワークピースの形状には影響しないが、電解研磨用途においては電解質に残った少量の加水分解物でも表面仕上げに大きく影響する可能性がある。例えば、約1.0重量%の加水分解物を含有する塩化ナトリウム電解質であると、アルミニウムワークピースが曇った艶消し表面仕上げとなる。電解質は平滑な高反射研磨表面仕上げを得るのに重要な因子であるため、電解質の再使用は通常アルミニウムのような臨界電気研磨用途ではなされない。従って、本発明のひとつの目的は微細分散アルミニウム加水分解物を塩化ナトリウム電解質から分離して、分離または再生された電解質を電解研磨方法で再使用できるように実質的に汚染物質を含まないものとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電解研磨アルミニウム表面の製造において、塩化ナトリウムを高濃度で含有する再生された電解質を用いる方法を提供する。この方法には、硝酸鉄(III)を微細分散金属加水分解物を含有する電解質混合物に添加して、微細分散部分を吸着および内包により結合する粗大凝集粒子を形成することが含まれる。高濃度レベルの塩(すなわち、塩化ナトリウム)の存在下で、沈澱物は容易にろ過、沈澱可能で、遠心分離でき、実質的に汚染物質を含まない再生電解質溶液が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、硝酸鉄(III)を、アルミニウムの電解研磨で得られる金属加水分解物の量と釣り合った量で高塩化ナトリウム水溶液(電解質)に添加して、加水分解物を驚くほど効率的に沈殿させる方法である。この方法により、水溶液中の塩化ナトリウム(またはその他ナトリウム塩)の濃度が例えば50%を超える、好ましくは50〜60%の範囲である電解質が再生される。電解質の高濃度の塩は、アルミニウムの電解研磨の高品質表面仕上げを得るのに重要な因子であるばかりでなく、それ自体で不要な加水分解物全体の沈殿を新たにかつ驚くほどに改善するのに寄与する。それに拘束されることを意図するものではないが、理論的には、高含量の塩の存在下での加水分解物の凝集は、比較的低含量の塩に比べて高い。これは恐らく、利用可能なナトリウムイオンが加水分解物とともに錯体を生成し、加水分解物の沈殿が増進されるからである。
【0010】
米国特許第4,737,250号明細書に記載されているような電解質を再生する先行技術の方法においては、金属加水分解物は、硝酸鉄(III)を添加した後、公知の分離方法により硝酸ナトリウム電解質から分離される。微細分散加水分解物の約10〜25%は硝酸鉄(III)と結合せず、これらの汚染物質は分離肯定後も電解質に残るものと考えられる。電解質に残る金属加水分解物がたとえ少量であっても、電解研磨用途における表面の反射性および輝度に悪影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、例えば、少量のアルミニウム加水分解物(例えば、約1.0重量%)がアルミニウム表面の電解研磨中に電解質に残留していると、白濁膜が表面に生じてアルミニウム表面の研磨された外観を実質的に減じる。
【0011】
高濃度の塩化ナトリウムを含有する電解質に硝酸鉄(III)を添加することによって、分離(例えば、ろ過、沈澱または遠心分離)したときに実質的に汚染物質を含まない電解質が生成される。添加された硝酸鉄(III)は加水分解され、これによって生じたイオン生成物は次いで金属加水分解物不純物と錯化して、粗大凝集粒子を形成する。理論的には、加水分解反応によって、ナトリウムイオンが硝酸鉄(III)と結合しなかった残りの加水分解物と錯体を形成して残りの加水分解物を沈殿させることもまた促される。粗大凝集粒子とナトリウム錯体は、ろ過、沈澱および遠心分離をはじめとする公知の分離方法を用いて電解質から容易に分離される。電解質の塩濃度は凝集と分離の結果としてやや減少するものの、得られる電解質は実質的に汚染物質を含まず、少量の回収塩を添加すればよい。そして、再生された電解質を、研磨表面の品質に影響を与えることなく電解研磨方法において電解質容器に戻すことができる。
【0012】
以下の実施例は例示である。
【0013】
実施例1
自動車ホイールリム等のアルミニウム部品の電解研磨において、約60%の塩化ナトリウムを含有する電解質を用いる。研磨工程後、少なくとも1/2ポンドのアルミニウム加水分解物がリム毎に生成され、電解質(水性塩化ナトリウム)および微細分散アルミニウム加水分解物を含有するスラッジまたはゼラチン状混合物が形成される。この電解質混合物は、混合物の総重量を基準にして、少なくとも5.0重量%の固体(加水分解物)を含む。電解質混合物1リットル当たり、硝酸鉄(III)を10〜100mgの量で電解質混合物に添加する。混合物は反応して、粗大凝集粒子と、加水分解物とのナトリウムイオン錯体との両方を形成する。混合物を遠心分離することによって、実質的に汚染物質を含まない電解質が得られる。塩濃度が若干減少しても、再生された電解質の塩濃度が50%未満になるまで回収塩を添加する必要はない。
【0014】
金属除去の程度を示す指標である電力を測定することによって、制御された電解研磨循環システムにおいて電解質に添加される硝酸鉄(III)を計量することが可能となる。硝酸鉄(III)の添加は、電解質容器、またはそれに接続された加水分解物が同様に除去される別個の循環システムにおいて、好都合かつ有効である。
【0015】
本発明をその特定の実施形態の具体例を参照して説明してきたが、かかる具体例は、特許請求の範囲に含まれるものは除き、本発明の範囲を限定しないものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムワークピースの電解研磨に用いる、高濃度の塩化ナトリウムを含有する再生された電解質を再使用する方法であって、
電解研磨により生成した微細分散アルミニウム加水分解物が主に粗大凝集粒子として沈殿する量の硝酸鉄を、前期電解質に添加する工程と、
前記粗大凝集粒子と、残りの微細分散アルミニウム加水分解物と、の両方を前記電解質から分離して、実質的に汚染物質を含まない電解質とする工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記電解質が、水溶液中50%を超える量の塩化ナトリウム濃度を有する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質が、水溶液中50〜60%の範囲の量の塩化ナトリウム濃度を有する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記残りの微細分散アルミニウム加水分解物によってナトリウムイオン錯体が生成されて、前記加水分解物の前記電解質からの分離が促進される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分離工程が、遠心分離、ろ過および沈殿を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
アルミニウムワークピースの電解研磨に用いる、高濃度のナトリウム塩を含有する再生された電解質を再使用する方法であって、
電解研磨により生成した微細分散アルミニウム加水分解物が主に粗大凝集粒子として沈殿する量の硝酸鉄を、前記電解質に添加する工程と、
前記粗大凝集粒子と、残りの微細分散アルミニウム加水分解物と、の両方を前記電解質から分離して、実質的に汚染物質を含まない電解質とする工程と、を含む方法。
【請求項7】
前記ナトリウム塩が、硝酸ナトリウムを含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記電解質が、水溶液中50%を超える量の硝酸ナトリウム濃度を有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記電解質が、水溶液中50〜60%の範囲の量の硝酸ナトリウム濃度を有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記残りの微細分散アルミニウム加水分解物によってナトリウムイオン錯体が生成されて、前記加水分解物の前記電解質からの分離が促進される請求項6に記載の方法。
【請求項11】
アルミニウムワークピースの電解研磨に用いる、高濃度のナトリウムイオンを含有する再生電解質を再使用する方法であって、
電解研磨により生成した微細分散アルミニウム加水分解物が主に粗大凝集粒子として沈殿する量の硝酸鉄を、前記電解質に添加する工程と、
前記粗大凝集粒子と、残りの微細分散アルミニウム加水分解物と、の両方を前記電解質から分離して、実質的に汚染物質を含まない電解質とする工程と、を含む方法。
【請求項12】
前記電解質が、水溶液中50%を超える量のナトリウムイオン濃度を有する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電解質が、水溶液中50〜60%の範囲の量のナトリウムイオン濃度を有する請求項12に記載の方法。

【公表番号】特表2010−505037(P2010−505037A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525690(P2009−525690)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/075594
【国際公開番号】WO2008/024633
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(509050144)イクストルード ホーン コーポレイション (1)