説明

電解質及び電解質膜

【課題】従来のリチウム塩を用いた電解質と同等のイオン伝導度を有し、且つリチウムイオンの輸率にも優れる電解質、及び該電解質を用いた電解質膜の提供。
【解決手段】(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする電解質;かかる電解質を用いて得られたことを特徴とする電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池への適用に好適な電解質及び該電解質を用いて得られた電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池に比べて、エネルギー密度及び起電力が高いという特徴を有するため、小型、軽量化が要求される携帯電話やノートパソコン等の電源として広く使用されている。そして、これら機器のリチウムイオン二次電池の多くには、電解液として、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水系電解液が使用されている。
【0003】
しかしながら、非水系電解液を使用した二次電池は、有機溶媒の液漏れに伴う充放電サイクル寿命特性低下の可能性や、負極から正極方向に成長するデンドライドの析出による内部短絡の危険性を有しており、最悪の場合、発火事故の原因となる。近年リチウムイオン二次電池を電力貯蔵用の大型定置用電源や電気自動車用の電源として適用することが期待されており、リチウムイオン二次電池のさらなる高エネルギー密度化と安全性の向上が強く望まれている。
そこで、電解質として固体又はゲル状のものを利用する系が考案され、さかんに研究が進められている。これらの電解質を使用することにより、電解液の揮発拡散や液漏れが防止されるため、電池としての信頼性及び安全性を向上させることができる。さらに、電解質自体を薄膜化及び積層化することが容易になるため、プロセス性の向上とパッケージの簡略化が期待されている。
【0004】
固体電解質は、様々な高分子化合物をマトリクスポリマーとし、これにリチウム塩を均一に固溶させたイオン伝導体である。ここでマトリクスポリマーとしては、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシド等のアルキレンエーテル系のものをはじめ、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリフォスファゼン系、ポリシロキサン系のものが例示でき、これらマトリクスポリマーに、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C)等のリチウム塩を固溶させることにより、イオン伝導性を発現させている。
【0005】
非水溶媒を含まない固体電解質において、リチウムイオンは、マトリクスポリマーのセグメンタルモーションによって移動していると推測される。すなわち、マトリクスポリマーがポリエチレンオキシドである場合を例に挙げると、そのエーテル結合を構成している酸素原子の非共有電子対上に、リチウムイオンがトラップされ、次いで、マトリクスポリマー鎖の熱運動に伴い、近傍の同様な酸素原子の非共有電子対上にリチウムイオンが移動して再度トラップされ、この一連の動きによって、リチウムイオンが輸送されると推測されている。
【0006】
しかし、これら固体電解質は、リチウムイオンが上記の移動の中で、酸素原子の非共有電子対等に強くトラップされるため、リチウムイオンの輸率(イオン伝導度全体におけるリチウムイオンによるイオン伝導度の割合)が、0.5以下になるなど、低い値にとどまるという問題点があった。このような電解質から得られた電解質膜をリチウムイオン二次電池に適用した場合、充放電時にはリチウムイオンだけでなく、その対アニオンも移動してしまう。そのため、急速充電、すなわち大電流での充電を行うと、電極上でアニオンの濃度分極が引き起こされ、抵抗が増大するために電池性能が低下してしまうという問題点があった。
このような中、リチウムイオンの輸率を改善するために、電解質中をカチオンのみが移動する高分子複合体、すなわちシングルイオン伝導体をリチウムイオン二次電池の電解質膜に適用する方法が提案されている(特許文献1〜2、非特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−50345号公報
【特許文献2】特開2006−318674号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Watanabe,Y.Suzuki,A.Nishimoto,Electrochimica Acta,vol.45,p.1187(2000).
【非特許文献2】M.Watanabe,H.Tokuda,Electrochimica Acta,vol.46,p.1487(2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記のシングルイオン伝導体を適用した電解質膜は、0.5以上の高いリチウムイオンの輸率を示すが、イオン伝導度がLiPF、LiBF、LiN(SOCF等の従来のリチウム塩を使用した電解質膜に比べ、大幅に低くなってしまうという問題点があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のリチウム塩を用いた電解質と同等のイオン伝導度を有し、且つリチウムイオンの輸率にも優れる電解質、及び該電解質を用いた電解質膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、
本発明は、(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする電解質を提供する。
本発明の電解質においては、前記(A)有機酸のリチウム塩が、カルボン酸又はスルホン酸のリチウム塩であることが好ましい。
本発明の電解質においては、前記(A)有機酸のリチウム塩が、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、吉草酸リチウム、イソ吉草酸リチウム、シュウ酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、フタル酸リチウム及び安息香酸リチウムからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、前記(B)ホウ素化合物が、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体、ハロゲン化ホウ素アルコール錯体、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、2,4,6−トリアルコキシボロキシン、ホウ酸トリアルキル、ホウ酸トリアリール及びトリス(トリアルキルシリル)ボラートからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジニウム錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体、2,4,6−トリメトキシボロキシン、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリ−n−プロピル、ホウ酸トリ−n−ブチル、ホウ酸トリ−n−ペンチル、ホウ酸トリ−n−ヘキシル、ホウ酸トリ−n−ヘプチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル及びトリス(トリメチルシリル)ボラートからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、前記(C)マトリクスポリマーが、ポリエーテル系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリアクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、さらに、(D)可塑剤が配合されていてもよい。
本発明の電解質においては、前記(D)可塑剤が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
本発明の電解質においては、配合成分の総量に占める前記(D)可塑剤の割合が3〜50質量%であることが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の電解質を用いて得られたことを特徴とする電解質膜を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来のリチウム塩を用いた電解質と同等のイオン伝導度を有し、且つリチウムイオンの輸率にも優れる電解質、及び該電解質を用いた電解質膜を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<電解質>
本発明の電解質は、(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする。本発明の電解質は、(A)有機酸のリチウム塩に(B)ホウ素化合物を組み合わせて使用することで、優れたイオン伝導度とリチウムイオンの輸率を実現するものである。なお、本発明において、「リチウムイオンの輸率」とは、「イオン伝導度全体におけるリチウムイオンによるイオン伝導度の割合」を指し、例えば、リチウムイオン二次電池における電解質膜では、1に近いほど好ましい。
【0014】
[(A)有機酸のリチウム塩]
前記(A)有機酸のリチウム塩は、有機酸の酸基がリチウム塩を構成しているものであればよいが、カルボン酸のリチウム塩又はスルホン酸のリチウム塩であることが好ましい。また、(A)有機酸のリチウム塩において、リチウム塩を構成する酸基の数は、特に限定されない。
【0015】
前記カルボン酸のリチウム塩は、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸及び芳香族カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよく、1価カルボン酸及び多価カルボン酸のいずれのリチウム塩でもよい。好ましい前記カルボン酸のリチウム塩としては、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、吉草酸リチウム、イソ吉草酸リチウム、シュウ酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、フタル酸リチウム、安息香酸リチウムが例示できる。
そして、より好ましい前記カルボン酸のリチウム塩としては、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウムが例示できる。なお、本発明において、有機酸のリチウム塩は、特に断りの無い限り、一分子中のすべての酸基がリチウム塩を構成しているものとする。例えば、シュウ酸リチウムはシュウ酸二リチウムを意味する。
【0016】
(A)有機酸のリチウム塩は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0017】
(A)有機酸のリチウム塩の配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調整すればよいが、通常は、電解質中における、(A)有機酸のリチウム塩中のリチウム原子のモル濃度([(A)有機酸のリチウム塩中のリチウム原子のモル数]/[電解質の総量(kg)])が、好ましくは0.1〜10mol/kg、より好ましくは0.2〜5.0mol/kgとなるように配合量を調節するとよい。このような範囲とすることで、電解質膜は、温度によらず一層優れたイオン伝導度を示すものとなる。
【0018】
[(B)ホウ素化合物]
前記(B)ホウ素化合物は特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、三フッ化ホウ素(BF)等のハロゲン化ホウ素;三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体(BFO(CH)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体(BFO(C)、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体(BFO((CHC))、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体(BFO((CHC)(CH))、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体(BFOC)等のハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体(BFHOCH)、三フッ化ホウ素プロパノール錯体(BFHOC)、三フッ化ホウ素フェノール錯体(BFHOC)等のハロゲン化ホウ素アルコール錯体;三フッ化ホウ素ピペリジニウム錯体(BFNC11)、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体(BFNC)等のハロゲン化ホウ素アミン錯体;2,4,6−トリメトキシボロキシン等の2,4,6−トリアルコキシボロキシン;ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリ−n−プロピル、ホウ酸トリ−n−ブチル、ホウ酸トリ−n−ペンチル、ホウ酸トリ−n−ヘキシル、ホウ酸トリ−n−ヘプチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリオクタデシル等のホウ酸トリアルキル;ホウ酸トリフェニル等のホウ酸トリアリール;トリス(トリメチルシリル)ボラート等のトリス(トリアルキルシリル)ボラートが例示できる。
そして、より好ましい(B)ホウ素化合物としては、三フッ化ホウ素等のハロゲン化ホウ素;三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体等のハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体;三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体等のハロゲン化ホウ素アルコール錯体が例示できる。
(B)ホウ素化合物は、(A)有機酸のリチウム塩において、リチウムイオンのアニオン部からの解離を促進し、イオン伝導度を向上させる機能を有していると推測される。
【0019】
(B)ホウ素化合物は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0020】
(B)ホウ素化合物の配合量は特に限定されず、(B)ホウ素化合物や(A)有機酸のリチウム塩の種類に応じて適宜調節すればよい。通常は、[(B)ホウ素化合物の配合量(モル数)]/[配合された(A)有機酸のリチウム塩中のリチウム原子のモル数]のモル比が0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、電解質膜は、温度によらず一層優れたイオン伝導度を示すものとなる。また、前記モル比の上限値は本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、3であることが好ましく、2であることがより好ましく、1.5であることが特に好ましい。(B)ホウ素化合物の配合量は、前記上限値より多くてもよいが、前記範囲のような少量でも十分な効果が得られる。
【0021】
[(C)マトリクスポリマー]
(C)マトリクスポリマーは、特に限定されず、固体電解質分野で公知のものが適宜使用できる。
(C)マトリクスポリマーの好ましいものとして具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系ポリマー(ポリアルキレンエーテル系ポリマー);ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化アセトン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリアクリルアミド、エチレンオキシドユニットを含むポリアクリレート等のポリアクリル系ポリマー;ポリアクリロニトリル;ポリホスファゼン;ポリシロキサンが例示できる。
【0022】
(C)マトリクスポリマーは、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0023】
(C)マトリクスポリマーの配合量は特に限定されず、その種類に応じて適宜調節すればよいが、配合成分の総量に占める(B)マトリクスポリマーの割合は、20〜98質量%であることが好ましい。下限値以上とすることで、膜強度を一層向上させることができる。
【0024】
[(D)可塑剤]
本発明の電解質は、(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマー以外に、さらに、これらに該当しない(D)可塑剤が配合されていてもよい。
【0025】
(D)可塑剤は、後述する電解質膜中に残留させるものであり、固体電解質分野で公知のものが適宜使用できるが、(C)マトリクスポリマーを溶解させることができるもの、又は(A)有機酸のリチウム塩を溶解若しくは分散させることができるものが好ましい。
(D)可塑剤は、例えば、電解質膜の製造時における、希釈用有機溶媒の使用の有無に従って選択できる。希釈用有機溶媒とは、後述するように電解質膜を製造する際に、電解質を希釈して、取り扱いや成型を容易にするためのものであり、最終的には乾燥によって電解質膜から除去され得るものである。
希釈用有機溶媒を使用しない場合には、(D)可塑剤としては、上記のものが特に限定なく使用できる。
一方、希釈用有機溶媒を使用し、乾燥させる場合には、(D)可塑剤としては上記のものの中でも、沸点が乾燥温度よりも好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上高いものが例示できる。
【0026】
(D)可塑剤の好ましいものとして具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル類;テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のエーテル類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル等のカルボン酸エステル類;アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等のスルホン類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等のオリゴエチレンオキシドが例示できる。
【0027】
(D)可塑剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すればよい。
【0028】
(D)可塑剤の配合量は特に限定されず、電解質膜の強度を著しく損なわなければ、その種類に応じて適宜調節すればよい。例えば、配合成分の総量に占める前記(D)可塑剤の割合が、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは5〜40質量%となるように調節するとよい。下限値以上とすることで、(D)可塑剤を使用したことによる効果が十分に得られる。
【0029】
[その他の成分]
本発明の電解質は、(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物、(C)マトリクスポリマー及び(D)可塑剤以外に、本発明の効果を妨げない範囲内において、さらに、これらに該当しないその他の成分が配合されていてもよい。
【0030】
[電解質の製造方法]
本発明の電解質は、(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマー、並びに必要に応じて(D)可塑剤及び/又は前記その他の成分を配合することで製造できる。
各成分の配合時には、これら成分を添加して、各種手段により十分に混合することが好ましい。また、後述する本発明の電解質膜を引き続き製造する場合には、必要に応じて希釈用有機溶媒をさらに添加して、得られた組成物を一括して混合するようにしてもよい。
各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を添加してから混合してもよく、配合成分を均一に溶解又は分散させることができればよい。
【0031】
前記各成分の混合方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すれば良く、室温又は加熱条件下で所定時間混合すればよいが、例えば、15〜80℃で1〜48時間程度混合する方法が挙げられる。混合時には、(A)有機酸のリチウム塩を十分に溶解又は分散させることが好ましく、(C)マトリクスポリマーを完全に溶解させることが好ましい。
【0032】
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)等の従来のリチウム塩を使用した固体電解質から得られた電解質膜は、イオン伝導度が良好でも、リチウムイオンの輸率が不十分である。また、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム等の有機酸のリチウム塩は、単独では有機溶媒に著しく溶解しにくいため、これまでに固体電解質におけるリチウム塩としては適用されていない。これに対して、本発明の電解質は、特に(B)ホウ素化合物が配合されていることにより、(A)有機酸のリチウム塩を使用しても、イオン伝導度及びリチウムイオンの輸率のいずれにも優れたものである。
【0033】
<電解質膜及びその製造方法>
本発明の電解質膜は、上記本発明の電解質を用いて得られたことを特徴とする。
本発明の電解質膜は、例えば、本発明の電解質に希釈用有機溶媒を添加して混合し、得られた組成物を型又は容器に流し込んだり、シート上にキャストしたりした後、乾燥させて希釈用有機溶媒を除去し、所望の形状に成型することで製造できる。また、(D)可塑剤が配合された電解質を用いて、希釈用有機溶媒を添加せずに、そのまま成型してもよい。
【0034】
希釈用有機溶媒は、乾燥により除去できるものであればよく、沸点が120℃以下のものが好ましく、沸点が90℃以下のものがより好ましい。そして、例えば、配合成分のいずれかを十分に溶解又は分散させることができるものが好ましく、(C)マトリクスポリマーを溶解させることができるもの、又は(A)有機酸のリチウム塩を溶解若しくは分散させることができるものがより好ましい。希釈用有機溶媒として、具体的には、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒が例示できる。
【0035】
希釈用有機溶媒は、電解質を希釈して、取り扱いや成型を容易にするためのものであり、その使用量は電解質の種類に応じて適宜調節すればよい。また、希釈用有機溶媒は、乾燥時に全量を除去することが好ましいが、希釈用有機溶媒が可塑剤となり得るものである場合、本発明の効果を妨げない範囲で、一部が電解質膜に残留していてもよい。この場合には、希釈用有機溶媒の残留量は少ないほど好ましいが、残留した希釈用有機溶媒を電解質製造時に配合した(D)可塑剤とみなし、電解質製造時の配合成分の総量と希釈用有機溶媒の残留量との総和に占める、希釈用有機溶媒の残留量と(D)可塑剤の配合量との総和の比率が、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下となるように調節するとよい。
【0036】
希釈用有機溶媒添加後の混合方法は、特に限定されず、電解質の製造時における各成分の混合方法と同様でよい。
【0037】
前記型又は容器としては、電解質膜を所望の形状に成型できる任意のものが使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製のものが好適である。また、前記シートとしては、本発明の電解質又は該電解質に希釈用有機溶媒を添加して得られた組成物等を吸収しない任意のものが使用でき、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製シート、ポリエチレン製シート等が好適である。
【0038】
前記電解質又は組成物の乾燥方法は特に限定されず、例えば、ドライボックス、真空デシケータ、減圧乾燥機等を使用する公知の方法を適用すればよい。
【0039】
本発明の電解質膜は、例えば、LiPF、LiBF、LiN(SOCF等の従来のリチウム塩を使用した電解質膜と同等のイオン伝導度を示す。さらに、本発明の電解質膜は、例えば、40℃において好ましくは0.5以上という優れたリチウムイオンの輸率を示す。
【0040】
このように、本発明の電解質膜は、従来の電解質膜と同等のイオン伝導度を示し、且つリチウムイオンの輸率にも優れるので、例えば、リチウムイオン二次電池に適用した場合、充放電時におけるリチウムイオン及びその対アニオンの移動が抑制され、大電流での充放電を行っても、電極上でのアニオンの濃度分極が抑制されて、抵抗の増大による電池性能の低下が抑制される。また、本発明の電解質膜は、概ね固体状であり、電解液の揮発拡散や液漏れに伴う充放電サイクル寿命特性の低下、内部短絡が抑制されるので、高エネルギー密度化が可能で、安全性が高い。さらに、電解質膜の薄膜化及び積層化が容易なので、プロセス性の向上とパッケージの簡略化が可能である。
【0041】
本発明の電解質膜は、従来の電解質膜と同様に用いることができ、特性に優れたリチウムイオン二次電池を作製できる。例えば、リチウムイオン二次電池として、負極、正極及び電解質膜が備えられたものとし、さらに必要に応じて、負極と正極との間に、セパレータを設けてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
(1)使用した化学物質
本実施例で使用した化学物質を以下に示す。
・(A)有機酸のリチウム塩の原料
ギ酸(アルドリッチ社製)
酢酸(アルドリッチ社製)
シュウ酸(アルドリッチ社製)
コハク酸(アルドリッチ社製)
水酸化リチウム・一水和物(LiOH・HO)(アルドリッチ社製)
・(B)ホウ素化合物
三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BFO(C)(アルドリッチ社製)
・(C)マトリクスポリマー
ポリエチレンオキシド(以下、PEOと略記する)(質量平均分子量6000000、アルドリッチ社製)
・(D)可塑剤
エチレンカーボネート(以下、ECと略記する)(アルドリッチ社製)
γ−ブチロラクトン(以下、GBLと略記する)(アルドリッチ社製)
・リチウム塩
ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SOCF)(キシダ化学社製)
四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)(キシダ化学社製)
・希釈用有機溶媒
アセトニトリル(脱水、アルドリッチ社製)
【0044】
(2)(A)有機酸のリチウム塩の調製
(2−1)ギ酸リチウムの調製
ギ酸(20.0g、434.5mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを50mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(17.87g、426.0mmol)を100mlの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のギ酸リチウムを得た。
【0045】
(2−2)酢酸リチウムの調製
酢酸(10.0g、166.5mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを50mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(7.15g、167.0mmol)を100mlの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末の酢酸リチウムを得た。
【0046】
(2−3)シュウ酸リチウムの調製
シュウ酸(10.0g、111mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを100mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(9.23g、220mmol)を100mlの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のシュウ酸リチウムを得た。
【0047】
(2−4)コハク酸リチウムの調製
コハク酸(10.0g、84.7mmol)を丸底フラスコに量り取り、これを50mLの蒸留水に溶解させた。これにLiOH・HO(7.27g、169.8mmol)を100mlの蒸留水に溶かした溶液をゆっくりと滴下した。室温で24時間撹拌した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶液を濃縮した。濃縮した溶液を200mLのアセトニトリルにゆっくりと滴下し、析出した固体を再度アセトニトリルにて洗浄した後、乾燥させることによって白色粉末のコハク酸リチウムを得た。
【0048】
(3)電解質及び電解質膜の製造
以下に示す実施例及び比較例における電解質膜の製造は、すべてドライボックス内又は真空デシケータ内で行った。
【0049】
[実施例1]
PEO(0.50g)、上記(2−1)にて得られたギ酸リチウム(0.059g)、BFO(C(0.161g)をサンプル瓶に量り取り、アセトニトリル(12mL)を加え、室温で24時間攪拌した。PEOが完全にアセトニトリルに溶解し、ギ酸リチウムが溶液中に十分に溶解していることを確認した後、得られた電解質溶液をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ(直径7.5cm)にキャスティングした。次いで、前記シャーレを真空デシケータ内に移し、ここに乾燥窒素を2L/分の流量で流しながら、20℃で24時間乾燥させることによってアセトニトリルを除去し、電解質膜を得た。表1に、電解質製造時の(A)有機酸のリチウム塩と、各成分の配合比を示す。なお、表1中、「(B)ホウ素化合物/(A)リチウム原子(モル比)」とは、「(B)ホウ素化合物の配合量(モル数)]/[配合された(A)有機酸のリチウム塩中のリチウム原子のモル数]のモル比」のことを指す。また、「全配合成分:(D)可塑剤(質量比)」とは、「配合成分の総量:(D)可塑剤の配合量(質量比)」のことを指し、「配合成分」に「希釈用有機溶媒」は含まれない。
【0050】
[実施例2]
ギ酸リチウム(0.059g)に代えて、上記(2−2)にて得られた酢酸リチウム(0.075g)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。
【0051】
[実施例3]
ギ酸リチウム(0.059g)に代えて、上記(2−3)にて得られたシュウ酸リチウム(0.055g)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。
【0052】
[実施例4]
ギ酸リチウム(0.059g)に代えて、上記(2−4)にて得られたコハク酸リチウム(0.070g)を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。
【0053】
[実施例5]
PEO(0.50g)、上記(2−1)にて得られたギ酸リチウム(0.049g)、BFO(C(0.134g)、EC及びGBLの混合溶媒(EC:GBL=30:70(体積比))(0.246g)をサンプル瓶に量り取り、アセトニトリル(12mL)を加え、室温で24時間攪拌した。PEOが完全にアセトニトリルに溶解し、ギ酸リチウムが溶液中に十分に溶解していることを確認した後、得られた電解質溶液をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ(直径7.5cm)にキャスティングした。次いで、前記シャーレを真空デシケータ内に移し、ここに乾燥窒素を2L/分の流量で流しながら、20℃で24時間乾燥させることによってアセトニトリルを除去し、電解質膜を得た。
【0054】
[実施例6]
ギ酸リチウム(0.049g)に代えて、上記(2−2)にて得られた酢酸リチウム(0.062g)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で電解質膜を得た。
【0055】
[実施例7]
ギ酸リチウム(0.049g)に代えて、上記(2−3)にて得られたシュウ酸リチウム(0.045g)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で電解質膜を得た。
【0056】
[実施例8]
ギ酸リチウム(0.049g)に代えて、上記(2−4)にて得られたコハク酸リチウム(0.059g)を使用したこと以外は、実施例5と同様の方法で電解質膜を得た。
【0057】
[比較例1]
BFO(Cを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。
【0058】
[比較例2]
BFO(Cを配合しなかったこと以外は、実施例3と同様の方法で電解質膜を得た。
【0059】
[比較例3]
BFO(Cを配合しなかったこと以外は、実施例5と同様の方法で電解質膜を得た。
【0060】
[比較例4]
BFO(Cを配合しなかったこと以外は、実施例7と同様の方法で電解質膜を得た。
【0061】
[参考例1]
PEO(0.50g)、LiN(SOCF(0.326g)をサンプル瓶に量り取り、アセトニトリル(12mL)を加え、室温で24時間攪拌した。PEOが完全にアセトニトリルに溶解し、LiN(SOCFが溶液中に十分に溶解していることを確認した後、得られた電解質溶液をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ(直径7.5cm)にキャスティングした。次いで、前記シャーレを真空デシケータ内に移し、ここに乾燥窒素を2L/分の流量で流しながら、20℃で24時間乾燥させることによってアセトニトリルを除去し、電解質膜を得た。
【0062】
[参考例2]
PEO(0.50g)、LiN(SOCF(0.272g)、EC及びGBLの混合溶媒(EC:GBL=30:70(体積比))(0.246g)をサンプル瓶に量り取り、アセトニトリル(12mL)を加え、室温で24時間攪拌した。PEOが完全にアセトニトリルに溶解し、LiN(SOCFが溶液中に十分に溶解していることを確認した後、得られた電解質溶液をポリテトラフルオロエチレン製のシャーレ(直径7.5cm)にキャスティングした。次いで、前記シャーレを真空デシケータ内に移し、ここに乾燥窒素を2L/分の流量で流しながら、20℃で24時間乾燥させることによってアセトニトリルを除去し、電解質膜を得た。
【0063】
[参考例3]
LiN(SOCF(0.326g)に代えて、LiBF(0.107g)を使用したこと以外は、参考例1と同様の方法で電解質膜を得た。
【0064】
[参考例4]
LiN(SOCF(0.272g)に代えて、LiBF(0.107g)を使用したこと以外は、参考例2と同様の方法で電解質膜を得た。
【0065】
(4)電解質膜のイオン伝導度の測定
上記で得られた電解質膜を、直径16mmの大きさに切り取って測定用試料とし、この試料をステンレス板で挟みこんでセルに組み込んだ。そして、セルを複素交流インピーダンス測定装置に接続し、ナイキストプロットから抵抗値を測定した。この時、セルを60℃に設定した恒温槽に入れて電解質膜と電極をなじませた後、温度を下げていき、所定温度での抵抗値を測定した。各温度での抵抗値は、それぞれの温度でセルを30分間保持してから測定した。そして、得られた抵抗値から、下記式(I)にしたがって、電解質膜のイオン伝導度(σ)(S/cm)を算出した。実施例1〜8、比較例1〜4、及び参考例1〜4の電解質膜について、40℃でのイオン伝導度(σ)を表2に示す。
σ = l/s・R ・・・・(I)
(式中、lは試料(電解質膜)の厚さ(cm)を表し;sは試料(電解質膜)の面積(cm)を表し;Rは抵抗値(Ω)を表す。)
【0066】
(5)電解質膜のリチウムイオンの輸率(t+)の測定
上記で得られた電解質膜のリチウムイオンの輸率を、直流分極測定と複素インピーダンス測定の併用によって求めた。
すなわち、電解質膜を直径17mmの大きさに切り取り、これをLi板で挟みこんでセルに組み込んだ。そして、セルを複素交流インピーダンス測定装置に接続し、セルを60℃に設定した恒温槽に1時間入れた後、温度を40℃に変えて、1時間以上置いた後に測定を開始した。測定法は以下の通りである。まず、複素インピーダンス測定を行い、抵抗値(以下、R0と略記する)を見積もった。その後、直流分極測定を行い、電流値が一定になったのを確認(以下、初期電流値をI0、一定になった時の電流値をIsとそれぞれ略記する)した後、再び、複素インピーダンス測定を行い、抵抗値(以下、Rsと略記する)を見積もった。そして、40℃におけるリチウムイオンの輸率を、下記式(II)で表されるエバンス式より算出した。実施例1〜8及び参考例1〜4の電解質膜について、リチウムイオンの輸率(t+)を表2に示す。表2中、「−」は未測定であることを示す。
t+ = Is(ΔV−I0・R0)/I0(ΔV−Is・Rs) ・・・・(II)
(式中、ΔVは印加電圧を表し;R0、Rs、I0、Isは上記と同様である。)
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実施例1より、(C)マトリクスポリマーにギ酸リチウム、BFO(Cを配合すれば、電解質膜において、高いイオン伝導度とリチウムイオンの輸率を実現できることが確認できた。そして実施例2〜4より、異なる種類の有機酸のリチウム塩を配合した場合でも、実施例1と同様の結果が得られた。
そして、実施例5〜8より、さらに(D)可塑剤を配合することにより、イオン伝導度がさらに向上することが確認できた。実施例1〜8の電解質膜は、従来のリチウム塩を用いた電解質膜である参考例1〜4のものに対して、同等以上のイオン伝導度を有し、リチウムイオンの輸率でより優れたていた。
一方、比較例1より、BFO(Cが、電解質膜の室温付近におけるイオン伝導度の向上に不可欠な配合成分であることが確認できた。
また、比較例2〜4より、異なる構造の有機酸のリチウム塩であっても、BFO(Cが未配合となることにより、イオン伝導度が大きく低下してしまうことが確認できた。これは有機酸のリチウム塩が有効に解離できないためであると推測される。なお、比較例1〜4に関しては、イオン伝導度が非常に低いため、リチウムイオンの輸率の測定に至らなかった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機酸のリチウム塩、(B)ホウ素化合物及び(C)マトリクスポリマーが配合されてなることを特徴とする電解質。
【請求項2】
前記(A)有機酸のリチウム塩が、カルボン酸又はスルホン酸のリチウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の電解質。
【請求項3】
前記(A)有機酸のリチウム塩が、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、吉草酸リチウム、イソ吉草酸リチウム、シュウ酸リチウム、乳酸リチウム、酒石酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム、グルタル酸リチウム、アジピン酸リチウム、フタル酸リチウム及び安息香酸リチウムからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解質。
【請求項4】
前記(B)ホウ素化合物が、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化ホウ素アルキルエーテル錯体、ハロゲン化ホウ素アルコール錯体、ハロゲン化ホウ素アミン錯体、2,4,6−トリアルコキシボロキシン、ホウ酸トリアルキル、ホウ酸トリアリール及びトリス(トリアルキルシリル)ボラートからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項5】
前記(B)ホウ素化合物が、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジtert−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素tert−ブチルメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素プロパノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素ピペリジニウム錯体、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体、2,4,6−トリメトキシボロキシン、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリ−n−プロピル、ホウ酸トリ−n−ブチル、ホウ酸トリ−n−ペンチル、ホウ酸トリ−n−ヘキシル、ホウ酸トリ−n−ヘプチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリオクタデシル、ホウ酸トリフェニル及びトリス(トリメチルシリル)ボラートからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項6】
前記(C)マトリクスポリマーが、ポリエーテル系ポリマー、フッ素系ポリマー、ポリアクリル系ポリマー、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン及びポリシロキサンからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項7】
さらに、(D)可塑剤が配合されてなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項8】
前記(D)可塑剤が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸n−プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル及びポリエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択される一種以上であることを特徴とする請求項7に記載の電解質。
【請求項9】
配合成分の総量に占める前記(D)可塑剤の割合が3〜50質量%であることを特徴とする請求項7又は8に記載の電解質。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電解質を用いて得られたことを特徴とする電解質膜。