説明

霜の付着力測定方法及びこれらを適用した各種方法、及び霜の付着力測定装置及びこれらを適用した各種装置

【課題】トロリ線などの被付着体に付着した霜にどの程度のせん断力を加えれば、この霜が効果的に除去できるという着霜状況を数値の上で明らかにすることができ、そのせん断力(すなわち、霜の付着力)に基づき、パンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力を無用に磨耗を発生させない最適値とすることが可能な霜の付着力測定の技術を提供する。
【解決手段】トロリ線1などの被付着体に付着した霜に、霜の付着面1Aに沿って摺動自在な摺り板2の押圧によってせん断力を加え、摺り板2にかかる荷重に基づき霜の付着力を検出する。この霜の付着力に基づきトロリ線1に発生した霜の程度を知ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線、乗用車のフロントガラスなどの被付着体に付着した霜の付着力を測定する方法及び装置、及びこれらを用いた各種技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冬季に気温が低くかつ湿度が高く、晴天(雲が少ない)の夜間には、トロリ線に霜が付着し成長することがある。このような区間を電車が走行すると、トロリ線からパンタグラフが離線し、これに伴うアーク放電によってパンタグラフが損傷したり、トロリ線が溶断されることがある。そして、こうした事放を低減するために、特許文献1に示されるような、トロリ線ヘコーティング剤を塗布するトロリ線塗油機が提案されている。この特許文献1に示されるトロリ線塗油機は、線路に沿って走行可能な作業台車上に取り付けられて上下方向に伸縮自在のフレームと、このフレームにトロリ線と回転接触する案内輪と、トロリ線に油を噴射するノズルを備えたものである。
【0003】
また、特許文献2には難着氷霜トロリ線に関する技術が提案されている。この特許文献2に示される難着氷霜トロリ線は、パンタグラフの摺り板と接触する大径部分内に加熱線が挿入されたものであって、加熱線での発熱によってその表面の霜を融解する。また、このような難着氷霜トロリ線によらず、トロリ線に付着した霜を除去するために、霜取り列車を臨時列車として運行することがある。霜取り列車に用いる車両では、パンタグラフを2台以上備えており、先頭側のパンタグラフを無集電パンタグラフとして霜の除去のみに用い、後尾側のパンタグラフで集電を行い列車の動力を得ている。
【0004】
一方、摺り板のパンタグラフヘの接触力については、その測定方法が提案されている。例えば特許文献3では、パンタグラフ舟体のトロリ線を挟む2箇所の縦断面におけるねじりモーメントを測定するとともに、当該縦断面における回転慣性力とから、舟体のねじりモーメントを求め、パンタグラフとトロリ線との接触力を測定する。
【特許文献1】特開平5−178131号公報
【特許文献2】特開平9−301019号公報
【特許文献3】特許第3722463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される塗油機では、油などのコーティング剤に関する効果について、これを定量的に明らかにした文献や調査報告などは現在のところ発表されておらず、実際の使用に際してどの程度の効果があるか明らかとはなっていない。また、このような塗油機では、専用の大規模な装置を備える必要があり、材料費や人件費が高くなるという問題があるために、実際の使用に際しては、トロリ線に付着した霜の程度を事前かつ詳細に調べる必要がある。
【0006】
特許文献2に示される難着氷霜トロリ線では、大径部分に電熱線を挿入するための小孔を設ける必要があり製造に手間がかかるとともに、発熱量を上回る放射冷却が生じた揚合に着霜を防止することができなくなるという問題があり、このために、特許文献1の技術と同様に、実際の使用に際しては、トロリ線に付着した霜の程度を事前かつ詳細に調べる必要がある。
【0007】
特許文献3に示されるパンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力測定方法では、霜が付着した状態における、摺り板とトロリ線との接触力を測定することを想定していない。現状では、冷え込みの厳しい夜明け前の始発列車が走行する前の「霜取り列車」の無集電パンタグラフ摺り板または専用に取り付けられた霜取り用カッターが、トロリ線と接触することで霜や氷を強制的に除去しているが、その際、霜取り列車の無集電パンタグラフ用の摺り板には、トロリ線を無用に摩耗させないこと、トロリ線に付着した霜よりも硬く確実に霜を除去すること、の両方の性能を備えた材質が要求されている。また、パンタグラフの押し上げ力は、トロリ線を無用に摩耗させないこと、トロリ線に付着した霜を確実に除去できること、トロリ線から離線しないこと、が求められる。しかしながら、前述したように、霜とトロリ線とのせん断付着力に関する研究調査報告はこれまでには無く、霜取り列車において、無集電パンタグラフ用の摺り板の材質を最適化すること、及び霜取りのためにパンタグラフの押し上げ力を最適な値に設定すること、についての知見は得られていない。
【0008】
本発明は、従来の有していた問題を解決しようとするものであって、トロリ線などの被付着体に付着した霜にどの程度のせん断力を加えれば、この霜が効果的に除去できるという着霜状況を数値の上で明らかにすることができ、そのせん断力(すなわち、霜の付着力)に基づき、特許文献1に示される油などのコーティング剤の使用量、及び特許文献2に示される難着氷霜トロリ線の発熱量を無駄なく的確に定めることができ、また、特許文献3に示されるパンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力を無用に磨耗を発生させない最適値とすることが可能な、霜の付着力測定に関する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、上記目的を達成するために本発明として示される霜の付着力測定方法では、トロリ線などの被付着体に付着した霜に、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板の押圧によって霜にせん断力を加え、このときの摺り板にかかる荷重に基づき霜の付着力を検出する。
【0010】
また、本発明として示されるパンタグラフ離線検出方法では、上記霜の付着力測定方法において、着霜がある時に電気の導通が消失した場合、および/または、該摺り板にかかる荷重が所定値以下に低下している場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走していると判定する。
【0011】
また、本発明として示される摺り板の摩擦力測定方法では、上記霜の付着力測定方法において、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を検出することによって、該摺り板と被付着体との摩擦力を検出する
【0012】
また、本発明として示される霜取り用パンタグラフの最適化方法では、上記霜の付着力測定方法において、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板によって霜にせん断力を加えた際の該摺り板にかかる荷重から、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を減ずることにより、トロリ線に付着した霜の付着力を求め、この霜の付着力に基づき、霜取り列車における無集電パンタグラフのトロリ線への押し上げ力を調整する。
【0013】
また、本発明として示される霜の付着力測定装置では、霜が付着するトロリ線などの被付着体の霜付着面に沿って摺動自在に設けられて摺動時に被付着体に付着した霜にせん断力を加える摺り板と、この摺り板にかかる荷重に基づき被付着体の霜付着面に対する霜の付着力を検出する検出手段と、を具備する。
【0014】
また、本発明として示されるパンタグラフ離線測定装置では、上記霜の付着力測定装置の検出手段にて、着霜がある時に、電気の導通が消失した場合、および/または、該摺り板にかかる荷重が基準値を下回っている場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走していると判定する。
【0015】
また、本発明として示される摺り板の摩擦力測定装置では、上記霜の付着力測定装置の検出手段にて、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を検出することによって、摺り板と被付着体との摩擦力を検出する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の霜の付着力測定方法及びその装置では、トロリ線などの被付着体に付着した霜に、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板の押圧によってせん断力を加え、このときの摺り板にかかる荷重に基づき霜の付着力を検出するようにしたので、検出した霜の付着力に基づいて当該霜の程度を知ることができ、霜の状況に応じて、油などのコーティング剤の使用量(特許文献1参照)、難着氷霜トロリ線の発熱量(特許文献2参照)を無駄なく的確に定め、パンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力(特許文献3参照)及び霜取り列車の無集電パンタグラフの押し上げ力を、トロリ線に無用に磨耗を発生させない最適値とすることができ、トロリ線に付着した霜を効率良く除去することが可能となる。また、気温、湿度などの気象要素によって変化する霜のせん断付着力も明らかにすることができるので、気象条件に応じて最適なパンタグラフの押し上げ力を決定することが可能となる。さらに、霜のせん断付着力が明らかになれば、霜を除去するために最適な摺り板の材質を選定することができる。また、本方法は鉄道用のトロリ線に付着する霜のせん断付着力を測定するだけでなく、冬季の早朝に、自動車フロントガラス(被付着体)に発生する霜のせん断付着力測定にも応用することができるので、最適なワイパーの材質を選定すること、およびワイパーの回転力とガラス面への押し付け力とを最適化することにも応用でき、さらに、冷凍庫壁面に(被付着体)生じる霜の除霜装置について、除霜部分の材質や駆動速度ならびに押し付け力を最適化させることに応用することもできる。
【0017】
本発明のパンタグラフ離線検出方法及びその装置では、着霜がある時に電気の導通が消失した場合、および/または、該摺り板にかかる荷重が低下している場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走していると判定するようにしたので、この判定結果に基づき、滑走が発生しないようにパンタグラフの押し上げ力を厳密に調整することができ、また、パンタグラフの材料の選定にも応用することが可能となる。
【0018】
本発明の摺り板の摩擦力測定方法及びその装置では、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、当該霜の付着面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を検出することによって、摺り板とトロリ線との摩擦力を検出するようにしたので、この摩擦力を、着霜したトロリ線の霜付着面に沿って摺動される摺り板にかかる荷重から減ずれば、トロリ線に付着した霜の付着力を正しく求めることができ、この霜の付着力に基づき、上述したような、油などのコーティング剤の使用量、難着氷霜トロリ線の発熱量を無駄なく的確に定めることができ、パンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力及び霜取り列車の無集電パンタグラフの押し上げ力を、トロリ線に無用に磨耗を発生させない最適値とすることができ、トロリ線に付着した霜を効率良く除去することが可能となる。
【0019】
本発明の霜取り用パンタグラフの最適化方法では、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板によって霜にせん断力を加えた際の該摺り板にかかる荷重から、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を減ずることにより、トロリ線に発生する霜の付着力を正確に求め、この霜の状況に応じて、霜取り列車の無集電パンタグラフのトロリ線への押し上げ力を調整するようにしたので、このような調整によってトロリ線に無用に磨耗を発生させず、該トロリ線に付着した霜を効率良く除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1及び図2は本発明の霜の付着力測定方法が適用されている霜の付着力測定装置100の概略図であって、これらの図において符号1で示すものは、パンタグラフを通じて列車に電力を供給するためのトロリ線である。このトロリ線1の下方には、トロリ線1の下部面1A(すなわち、霜付着面)と摺動される摺り板2が設けられ、この摺り板2の下方には、該摺り板2をトロリ線1に沿って矢印a−b方向に移動させるための走行体3が設けられている。摺り板2は、走行体3上に取り付けられたバネ4によって常時、上方に押し上げられるものであって、該バネ4の付勢力によって、その上面がトロリ線1の下部面1Aと密着し、かつ走行体3が前方の矢印b方向に走行した場合に、トロリ線1の下部面1Aと摺動する。その際、摺り板2の前部が、トロリ線1に付着した霜を矢印b方向に押圧するとともに、その押圧力の反作用により生じる矢印a方向のせん断力によって、霜を掻き落とす。
【0021】
上述した摺り板2には、該摺り板2に掛かる荷重を検出するためのロードセル5・6が設けられている。また、トロリ線1と摺り板2との間に電気回路を形成し、電圧の変化を電圧計7で測定することにより、付着した霜による離線の有無を検出する。なお、ロードセル5・6の取り付けは2種類の形態が考えられる。一つは、図1に示されるように、摺り板2の進行方向(矢印b方向)の反対側にロードセル5を設置し、摺り板2にかかる荷重を直接測定する方法であるが、この方式は、摺り板2が矢印b方向に進行することが前提となる。もう一つは、図2に示されるように、摺り板2の下面にビーム式のロードセル6を設置し、摺り板2が進行方向(矢印a方向又は矢印b方向)の後方に押される力を測定する方法であり、この場合、摺り板2の進行方向は矢印a方向又は矢印b方向のいずれであっても良い。
【0022】
次に、上述した霜の付着力測定装置100にてトロリ線1に付着した霜の程度を測定するための作用について説明する。摺り板2をバネ4により一定の押し上げ力でトロリ線1に押し付け、既定の速度でスライドさせると、摺り板2による霜の押圧方向と反対方向に、霜を切断しようとするせん断力が生じる。このせん断力を、ロードセル5・6にかかる荷重の数値として測定する。このせん断力は、「トロリ線とすり板との摩擦力」と「霜の付着力」との和である。
【0023】
このとき、霜付着時の摺り板2にかかる荷重をAとし、一方、霜を除去した後、あるいは着霜が発生していない状態で測定した摺り板2にかかる荷重をB(すなわち、この荷重Bは、トロリ線1における摺り板2とトロリ線1との摩擦力に一致する)と定めると、霜のせん断力(すなわち、霜の付着力)Cは、荷重Aから荷重Bを減じた「A−B」と表すことができ、ここで得られた霜の付着力Cに基づき、霜の付着状況を数値データとして知ることができる(実測例を図4に示す)。なお、このような霜の付着力Cの測定は、図1に符号8で示される演算手段にて実行される。
【0024】
次に、実験室内でトロリ線に付着する霜を再現する、あるいは自然条件で野外に設置したトロリ線に霜を発生させ、その霜の発生状況を測定するための霜の付着力測定装置100を具体化した霜の付着力測定装置101を図3に示す。
【0025】
図3において、符号10で示すものは模擬トロリ線であり、この模擬トロリ線10の下方には、基台11が配置されている。この基台11は、駆動装置16によりトロリ線10に長さ方向(矢印a−b方向)に沿って移動する。駆動装置16は、例えば模擬トロリ線10に沿って設けられたベルト(図示略)上に載せられていて、該ベルト移動とともに移動することができる。前記基台11の上には、軸受12が設けられ、この軸受12によって模擬トロリ線と平行に支持された軸を中心として、支持板13が回動自在に支持されている。この支持板13はその上面に模擬摺り板14が固定されかつ上下方向への移動を許容するように設けられたものであって、基台11の側部に配置されたコイル式バネ15の引っ張りにより上方への力が付勢されている。そして、このコイル式バネ15によって、摺り板14の押し上げ力が一定となるように調整することができ、該摺り板14がトロリ線10に一定の圧力で押し付けられる。なお、霜の付着力測定装置101にも、霜の付着力測定装置100と同様のロードセル5又は6、電圧計7、演算手段8が設けられているが、図示は省略されている。また、霜の付着力測定装置101に示されるトロリ線10、摺り板14、コイル式バネ15は、霜の付着力測定装置100のトロリ線1、摺り板2、バネ4にそれぞれ対応している。
【0026】
図3に示す霜の付着力測定装置101によって測定した、霜のせん断付着力の測定例を図4に示す。横軸は、時間を表しているが、摺り板2の移動速度と経過時間とから、位置を特定することができる。符号(A)で示される細実線は、霜付着時に摺り板14にかかる荷重の大きさ、符号(B)で示される太実線は霜無付着時に摺り板14にかかる荷重の大きさ、符号(C)で示される細実線は、「A−B」で表される霜の付着力を、それぞれ表している。なお、この実験では、摺り板14の最高速度を1500(mm/s)で長手方向に1000(mm)スライドさせ、摺り板14の押し上げ力を通常のパンタグラフと同様に約60Nとした。また、トロリ線10への霜の成長は、気温−1(℃)、湿度97(%)、架線温度−4(℃)で、トロリ線10の長さ20(mm)分の霜の付着量が、0.6〜1.0(g)の範囲に収まるように調整した。そして、このような条件で、霜の付着力Cを測定したところ、符号(イ)で示される評価区間内において霜のせん断付着力Cが最小1N、最大5Nであることが分った。
【0027】
図3に示す霜の付着力測定装置101によって離線の有無を測定した例について、図5を参照して説明する。なお、測定条件は、上述した霜の付着力を測定した場合と同じである。
【0028】
そして、図5に示される細実線は、トロリ線10と摺り板14との間の電圧を表しており、特に符号(ロ)で示される着霜区間では、電圧が低下していることが認められる。なお、本データは、ノイズ除去のために0.09s毎の移動平均をとっており、電圧が0Vまで低下していない。同時にこの着霜区間(ロ)おいて、破線で示される霜の付着力Cも同時に低下していることが認められる。この電圧の低下している区間では、摺り板14が霜の上を滑走しているため、霜のせん断付着力が小さく測定され、摺り板14とトロリ線10が離線して通電が無くなっていることが分かる。なお、実験において、このような離線は毎回発生するのでは無く、複数回行った実験の中で、離線が発生した際の測定結果の一つが図5に示されている。また、本例では、例えば電圧又は付着力に基準値(例えば、基準電圧を4Vとする、又は基準付着力を15Nとする等の基準値)を設け、着霜があるにも係わらず、この基準値を下回った場合に離線が発生したと判定すると良い。
【0029】
以上詳細に説明したように本実施例に示される霜の付着力測定装置100(101)では、トロリ線1(10)などの被付着体に付着した霜に、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板2(14)の押圧によってせん断力を加え、該摺り板2(14)にかかる荷重に基づき霜の付着力を検出するようにしたので、検出した霜の付着力に基づいて当該霜の程度を知ることができ、その霜の程度に応じて、油などのコーティング剤の使用量(特許文献1参照)、難着氷霜トロリ線の発熱量(特許文献2参照)を無駄なく的確に定め、パンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力(特許文献3参照)及び霜取り列車の無集電パンタグラフの押し上げ力を、トロリ線に無用に磨耗を発生させない最適値とすることができ、トロリ線に付着した霜を効率良く除去することが可能となる。また、気温、湿度などの気象要素によって変化する霜のせん断付着力も明らかにできるので、気象条件に応じてパンタグラフの押し上げ力を最適化することが可能となる。さらに、霜のせん断付着力が明らかになれば、霜を除去するために最適な摺り板の材質を選定することができる。また、本方法は鉄道用トロリ線に付着する霜のせん断付着力を測定するだけでなく、冬季の早朝に、自動車フロントガラス(被付着体)に発生する霜のせん断付着力測定にも応用することができるので、最適なワイパーの材質を選定すること、およびワイパーの回転力とガラス面への押し付け力とを最適化することにも応用でき、さらに、冷凍庫壁面(被付着体)に生じる霜の除霜装置について、除霜部分の材質や駆動速度ならびに押し付け力を最適化させることに応用することもできる。
【0030】
本実施例に示される霜の付着力測定装置100(101)では、着霜がある時に電気の導通が消失した場合、および/または、該摺り板2(14)にかかる荷重が基準値を下回った低い値となった場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走して、離線していると判定するようにしたので、この判定結果に基づき、滑走が発生しないようにパンタグラフの押し上げ力を厳密に調整することができ、また、パンタグラフの材料の選定にも応用することが可能となる。なお、このような判定は演算手段8にて行われ、当該演算手段8の判定機能を、付着力測定装置100(101)に加えることで、パンタグラフ離線測定装置が構成される。
【0031】
本実施例に示される霜の付着力測定装置100(101)では、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、当該霜の付着面に沿って摺り板2(14)を摺動させた場合の該摺り板2(14)にかかる荷重(=B)を検出することによって、摺り板2(14)とトロリ線1(10)との摩擦力を検出するようにしたので、この摩擦力を、着霜したトロリ線1(10)の霜付着面に沿って摺動される摺り板2(14)にかかる荷重(=A)から減ずれば、トロリ線1(10)に付着した霜の付着力(=C)を正しく求めることができ、この霜の付着力に基づき、上述したように、油などのコーティング剤の使用量、難着氷霜トロリ線の発熱量を無駄なく的確に定めることができ、パンタグラフ摺り板とトロリ線との接触力及び霜取り列車の無集電パンタグラフの押し上げ力を、トロリ線に無用に磨耗を発生させない最適値とすることができ、トロリ線に付着した霜を効率良く除去することが可能となる。なお、上述した摩擦力の計算は演算手段8にて行われ、このような演算手段8の摩擦力演算機能を、付着力測定装置100(101)に加えることで、摺り板の摩擦力測定装置が構成される。
【0032】
上記実施例において、ロードセル5、ロードセル6、電圧計7、演算手段8は、特許請求の範囲に示される検出手段を構成している。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】霜の付着力測定装置100の概略図であって、ロードセル5が摺り板2の後部に配置されている場合の例。
【図2】霜の付着力測定装置100の概略図であって、ロードセル6が摺り板2の下部に配置されている場合の例。
【図3】図1及び図2を具体化した霜の付着力測定装置101を示す図であって、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】試験により得られた霜の付着力(=C)を示すグラフである。
【図5】摺り板がトロリ線より離線する場合の電圧と付着力の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1 トロリ線(被付着体)
2 摺り板
3 走行体
5 ロードセル(検出手段)
6 ロードセル(検出手段)
7 電圧計(検出手段)
8 演算手段(検出手段)
10 トロリ線(被付着体)
14 摺り板
100 霜の付着力測定装置
101 霜の付着力測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線などの被付着体に付着した霜に、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板の押圧によって霜にせん断力を加え、このときの摺り板にかかる荷重に基づき霜の付着力を検出することを特徴とする霜の付着力測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載される霜の付着力測定方法において、着霜がある時に電気の導通が消失している場合、および/または該摺り板にかかる荷重が所定値以下に低下している場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走していると判定することを特徴とするパンタグラフ離線検出方法。
【請求項3】
請求項1に記載される霜の付着力測定方法において、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を検出することによって、該摺り板と被付着体との摩擦力を検出することを特徴とする摺り板の摩擦力測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載される霜の付着力測定方法において、霜の付着面に沿って摺動自在な摺り板によって霜にせん断力を加えた際の該摺り板にかかる荷重から、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を減ずることにより、トロリ線に付着した霜の付着力を求め、この霜の付着力に基づき、霜取り列車における無集電パンタグラフのトロリ線への押し上げ力を調整することを特徴とする霜取り用パンタグラフの最適化方法。
【請求項5】
霜が付着するトロリ線などの被付着体の霜付着面に沿って摺動自在に設けられて摺動時に被付着体に付着した霜にせん断力を加える摺り板と、
この摺り板にかかる荷重に基づき被付着体の霜付着面に対する霜の付着力を検出する検出手段と、を具備することを特徴とする霜の付着力測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載される霜の付着力測定装置の検出手段では、着霜がある時に電気の導通が消失している場合、および/または該摺り板にかかる荷重が所定値以下に低下している場合に、該摺り板がトロリ線に付着した霜の上を滑走していると判定することを特徴とするパンタグラフ離線測定装置。
【請求項7】
請求項5に記載される霜の付着力測定装置の検出手段では、霜を除去した後、又は着霜が発生していない状態で、霜が付着される面に沿って摺り板を摺動させた場合の該摺り板にかかる荷重を検出することによって、摺り板と被付着体との摩擦力を検出することを特徴とする摺り板の摩擦力測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−290571(P2008−290571A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−138033(P2007−138033)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年11月29日〜12月1日 社団法人 北海道開発技術センター主催の「第22回寒冷地技術シンポジウム」に文書をもって発表
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)