説明

静止機器

【課題】静止機器のコイルにおいて、巻線作業後は乾燥炉へ投入し絶縁紙の水分除去を行っている。その後、配線作業に至までに気中にさらされるため、配線作業前に絶縁抵抗の測定を実施する。この時点で水分を吸着し絶縁抵抗が規定値以下となるものについては、真空乾燥炉へ投入し再度水分除去を行うため、作業工数増大の原因となる。また、コイルの管理方法の工夫が必要となる。水分の吸着により絶縁抵抗が規定値以下となると、部分放電を発生し短絡事故を起こす可能性があるため大変危険である。そこで、本発明は、配線作業前のコイルにおいて絶縁抵抗の低下が少ないコイルを有する静止機器を提供する。
【解決手段】ボビンに主絶縁層を介して導線を巻回してコイルを構成し、前記主絶縁層の少なくとも一部に防水・防湿性を備えた高分子フィルムを重ね合わせて積層構造とし、高分子フィルムにより主絶縁層への水分吸着を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静止機器を提供する技術に関し、特にコイルの絶縁方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開平11−67552号公報(特許文献1)がある。この公報には、変圧器巻線を製作する過程での層間絶縁紙挿入作業による生産性低下を防止し、作業性及び生産性に優れた変圧器巻線及びその製造方法を提供する。と記載されている。また、特開2001−23831号公報(特許文献2)がある。この公報には、変圧器などの静止誘導器の巻線において、高圧−低圧巻線間に相対する高圧巻線の内側の絶縁構成を簡略化することにより、高圧導体固体絶縁物に囲まれた3次元的なクサビ状ギャップを2次元化することで絶縁耐力を向上させる。と記載されている。しかしながら、いずれの公報においても静止機器における巻線作業後のコイル絶縁抵抗の低下防止についての記載はない。
【0003】
さらに、特開2001−196241号公報(特許文献3)には、油入電気機器用絶縁コイルにおける、巻線が巻回された絶縁導体層の各層間に配設された層間絶縁層の絶縁材料のコスト低減を図ることを課題として、層間絶縁層を、巻装時に周方向にかかる引張力に対して充分引っ張り強度を有する薄手で安価なポリプロピレンフィルムとクラフト紙との2層構造とする技術が開示されている。しかしながら、コイルの主絶縁において高分子フィルムとクラフト紙を巻回することによる巻線作業後のコイル絶縁抵抗の低下防止についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−67552号公報
【特許文献2】特開2001−23831号公報
【特許文献3】特開2001−196241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静止機器のコイルにおいて、巻線作業後は乾燥炉へ投入し絶縁紙の水分除去を行っている。その後、配線作業中断などにより気中にさらされる時間が長くなった場合に水分を吸着し絶縁抵抗が規定値以下となるものがある。その場合は、乾燥炉へ投入し再度水分除去を行うため、作業工数増大の原因となる。また、コイルの管理方法の工夫が必要となる。水分の吸着により絶縁抵抗が規定値以下となると、部分放電を発生し短絡事故を起こす可能性があるため大変危険である。そこで、本発明は、配線作業前のコイルにおいて絶縁抵抗の低下が少ないコイルを有する静止機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、変圧器やリアクトルなどのコイルを備えた静止機器において、前記コイルが、ボビンに主絶縁層を介して導線を巻回して構成され、前記主絶縁層の少なくとも一部が、高分子フィルムを重ね合わせた積層構造であることを特徴とする。
【0007】
また、前記主絶縁層がクラフト紙であり、前記高分子フィルムは、前記クラフト紙への水分の吸着を抑制する防水・防湿性を備えた水分吸着抑制効果を備えた素材から成ることを特徴とする。
【0008】
また、前記コイルが、前記ボビンに前記導線を主絶縁層と高分子フィルムを積層した絶縁層を介して巻回して構成され、経年劣化などにより前記高分子フィルムが加水分解した場合でも絶縁紙のみの厚さにより、鉄製のボビンと導線間の距離を保持することを特徴とする。
【0009】
また、コイルを密に巻くために絶縁紙への張力を上げたときに絶縁紙が破損しないよう高分子フィルムにより引張強度を上げたことを特徴とする。
【0010】
また、巻線作業後から配線作業までの間、前記高分子フィルムにより主絶縁層への水分吸着量を抑制することにより、絶縁強度を低下させることなく、再乾燥をする必要が無いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高分子フィルムにより主絶縁層への水分吸着量を抑制し、巻線作業後から配線作業までの間、水分吸着量が低いため絶縁強度を低下させることなく、再乾燥をする必要が無く、作業効率が良好となる。
【0012】
図6は、高分子フィルムを設けた変圧器と高分子フィルムを設けずに主絶縁層としてクラフト紙などの絶縁紙のみで製作した変圧器完成品の絶縁油に含有する水分量を説明する棒グラフであり、縦軸に絶縁油に含有する水分量を示す。通電前後において、高分子フィルムを設けた変圧器は絶縁紙のみで製作した変圧器に比べ絶縁油に溶出する水分量が少ない。
【0013】
また、図7は、高分子フィルムを設けた変圧器と高分子フィルムを設けずに絶縁紙のみで製作した変圧器完成品の絶縁抵抗を説明する折線グラフであり、横軸に絶縁油の温度を示し、縦軸に絶縁抵抗値を示す。高分子フィルムを設けた変圧器は絶縁紙のみで製作した変圧器に比べ絶縁抵抗値の低下が少ない。
【0014】
上記の実験結果より、水分吸着抑制層である高分子フィルムを、静止機器のコイル絶縁物に設けることにより、水分吸着量が減少し絶縁抵抗の低下を抑制できることから品質の向上、信頼性の向上が期待できる。
【0015】
また、ワニス処理などにより固着した絶縁紙が破損した場合においても、高分子フィルムはワニスにより固まらないため破損することなく絶縁強度を保つため信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の変圧器を示す概略説明図である。
【図2】本発明の高分子フィルムをコイルの鉄ボビン上に設ける図を示す。
【図3】本発明の高分子フィルムをコイルの内巻線上に設ける図を示す。
【図4】本発明の高分子フィルムをコイルの最外層に設ける図を示す。
【図5】従来のコイル絶縁方法の図を示す。
【図6】本発明の高分子フィルム有無における油中水分量を説明する棒グラフを示す。
【図7】本発明の高分子フィルム有無における絶縁抵抗を説明する折線グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の静止機器である変圧器1を示し、この変圧器1は、鉄心2とコイル3とで構成される。コイル3は後述する鉄製ボビンに主絶縁層を介して巻回して構成される。ここで、変圧器1のコイル3において前記主絶縁層は、クラフト紙から成る絶縁紙が使用され、この絶縁紙への水分吸着抑制効果を高める目的で水分吸着抑制層を設ける図について説明する。
【0019】
図2は、絶縁材料である水分吸着抑制層を構成する高分子フィルム100と、絶縁材料であるクラフト紙から成る絶縁紙101、静止機器のコイルの鉄製ボビン102を示している。水分吸着抑制層である高分子フィルム100は、鉄製ボビン102上で絶縁紙101に挟み込むように巻き付けた後、内巻導線、外巻導線を巻きつけ、静止機器のコイルが完成する。すなわち、この実施例では、まず、絶縁紙101の表裏に高分子フィルム100を積層させた3層構造の絶縁層を鉄製ボビン102に巻き付けてから内巻導線、外巻導線を巻き付けることによって、鉄製ボビン102と内巻導線との間に3層構造の絶縁紙101と高分子フィルム100が介在している。
【実施例2】
【0020】
図3は、本発明の静止機器コイルの内巻線上に水分吸着抑制層を設ける図について説明する。
図3は、絶縁材料である水分吸着抑制層を構成する高分子フィルム200と、絶縁材料であるクラフト紙から成る絶縁紙201、静止機器のコイルの鉄製ボビン202、コイルの内巻導線203を示している。水分吸着抑制層である高分子フィルム200は、内巻導線203上で絶縁紙201に挟み込むように巻き付けた後、外巻導線を巻きつけ、静止機器のコイルが完成する。すなわち、この実施例では、内巻導線と外巻導線との間に3層構造の絶縁紙101と高分子フィルム100が介在している。
【実施例3】
【0021】
図4は、本発明の静止機器コイルの最外層に水分吸着抑制層を設ける図について説明する。
図4は、絶縁材料である水分吸着抑制層を構成する高分子フィルム300と、絶縁材料であるクラフト紙から成る絶縁紙301、静止機器のコイルの鉄製ボビン302、コイルの外巻線303を示している。水分吸着抑制層である高分子フィルム300は、外巻線303上で絶縁紙301に挟み込むように巻き付けた後、外巻導線を巻きつけ、静止機器のコイルが完成する。すなわち、この実施例では、外巻導線の外側に3層構造の絶縁紙101と高分子フィルム100が巻き付けられている。
【0022】
図5は、従来の静止機器コイルの絶縁方法を示す図について説明する。
【0023】
図5は、絶縁材料であるクラフト紙から成る絶縁紙401、静止機器のコイルの鉄ボビン402を示している。絶縁紙401を鉄製ボビン402上に巻き付けた後、外巻導線を巻き付け、静止機器のコイルが完成する。
【0024】
図6は、高分子フィルムを設けた変圧器と高分子フィルムを設けずに主絶縁層としてクラフト紙などの絶縁紙のみで製作した変圧器完成品の絶縁油に含有する水分量を説明する棒グラフであり、縦軸に絶縁油に含有する水分量を示す。通電前後において、高分子フィルムを設けた変圧器は絶縁紙のみで製作した変圧器に比べ絶縁油に溶出する水分量が少ない。
【0025】
また、図7は、高分子フィルムを設けた変圧器と高分子フィルムを設けずに絶縁紙のみで製作した図5に示す従来の変圧器完成品の絶縁抵抗を説明する折線グラフであり、横軸に絶縁油の温度を示し、縦軸に絶縁抵抗値を示す。高分子フィルムを設けた変圧器は絶縁紙のみで製作した変圧器に比べ絶縁抵抗値の低下が少ない。
【0026】
上記の実験結果より、水分吸着抑制層である高分子フィルムを、静止機器のコイル絶縁物に設けることにより、水分吸着量が減少し絶縁抵抗の低下を抑制できることから品質の向上、信頼性の向上が期待できる。
【0027】
また、ワニス処理などにより固着した絶縁紙が破損した場合においても、高分子フィルムはワニスにより固まらないため破損することなく絶縁強度を保つため信頼性が向上する。
【0028】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置換ることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0029】
例えば導線の間に絶縁紙と水分吸着抑制層を構成する高分子フィルムとを積層した絶縁層を介在させるようにしてボビンに導線を巻回してもよい。このように、導線間の全てに絶縁紙と高分子フィルムとを積層した絶縁層を介在させれば、仮に経年劣化などにより前記高分子フィルムが加水分解した場合でも絶縁紙のみの厚さにより、鉄製のボビンと導線間の距離を保持することができる。
【0030】
また、高分子フィルムは、絶縁紙の両面に積層した3層構造に限らず、絶縁紙の片面に積層した2層構造であってもよく、水分吸着抑制層を構成する高分子フィルムの枚数を追加・削除をすることが可能である。
【符号の説明】
【0031】
100,200,300 水分吸着抑制層
101,201,301,401 絶縁紙
102,202,302,402 鉄ボビン
203 内巻線
303 外巻線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器やリアクトルなどのコイルを備えた静止機器において、前記コイルが、ボビンに主絶縁層を介して導線を巻回して構成され、前記主絶縁層の少なくとも一部が、高分子フィルムを重ね合わせた積層構造であることを特徴とする静止機器。
【請求項2】
請求項1記載の静止機器において、
前記主絶縁層がクラフト紙であり、前記高分子フィルムは、前記クラフト紙への水分の吸着を抑制する防水・防湿性を備えた水分吸着抑制効果を備えた素材から成ることを特徴とする静止機器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の静止機器のコイルにおいて、前記コイルが、前記ボビンに前記導線を主絶縁層と高分子フィルムを積層した絶縁層を介して巻回して構成され、経年劣化などにより前記高分子フィルムが加水分解した場合でも絶縁紙のみの厚さにより、鉄製のボビンと導線間の距離を保持することを特徴とする静止機器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の静止機器のコイルにおいて、
コイルを密に巻くために絶縁紙への張力を上げたときに絶縁紙が破損しないよう高分子フィルムにより引張強度を上げたことを特徴とする静止機器。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の静止機器のコイルにおいて、巻線作業後から配線作業までの間、前記高分子フィルムにより主絶縁層への水分吸着量を抑制することにより、絶縁強度を低下させることなく、再乾燥をする必要が無いことを特徴とする静止機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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