説明

静止誘導電器用積層鉄心

【課題】上部及び下部継鉄における損失を低減できて小型化が図れる静止誘導電器用積層鉄心を提供する。
【解決手段】巻線を巻回する鉄心脚11、12は珪素鋼板を積層して形成し、上部継鉄13及び下部継鉄14は非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成し、前記各鉄心脚11、12と上部継鉄13及び下部継鉄14間は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯積層体単位を交互に積層する積層接合部15として静止誘導電器用積層鉄心を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変圧器やリアクトル等の静止誘導電器用積層鉄心に係り、特に珪素鋼板と非晶質性合金薄帯を組み合せて積層する静止誘導電器用積層鉄心に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、変圧器やリアクトル等の静止誘導電器は、短冊状に切断した珪素鋼板を積層した鉄心を使用している。これに対して、近年の小容量の静止誘導電器では、鉄損が少なく優れた磁気特性を有する非晶質性合金薄帯を用い、巻鉄心を製作して使用することが多くなってきている。非晶質性合金薄帯を用いた巻鉄心は、一巻回毎に切断する構造であって、一巻回毎に非晶質性合金薄帯の巻始め端と巻終わり端との接合部を備えている。
【0003】
一般的な非晶質性合金薄帯は、20或いは30μmの厚みで製造されるから、鉄心に用いる珪素鋼板の1/10程度の厚みである。このため、非晶質性合金薄帯は、同一長さに切断した所定枚数の積層シートを一単位として1枚の珪素鋼板の厚み程度にし、この非晶質性合金薄帯の積層シートの複数単位を巻回して巻鉄心を形成している。
【0004】
非晶質性合金薄帯製の巻鉄心は、静止誘導電器例えば変圧器の場合は、大容量化するに伴い鉄心を支える冶具が大形化してしまうし、非晶質性合金薄帯の巻始め端と巻終わり端との接合部が上部に設けられるため、製作時に非晶質性合金薄帯に局部応力を掛けることなく起立させるのが困難となる。これらのことは、非晶質性合金薄帯を用いた大容量の変圧器製造は作業性が悪くなるため、経済的に製作できず大容量化の障害となっている。
【0005】
従来から、珪素鋼板に替えて非晶質性合金薄帯を用いた積層鉄心は、例えば特許文献1及び2に提案されている。特許文献1は、複数枚の帯状の非晶質性合金薄帯を、平滑面が互いに向き合わないように重ね合わせて絶縁処理剤を付着した後、非晶質性合金薄帯群を厚さ方向に押圧してから加熱し、非晶質性合金薄帯の表面及び積層間に絶縁処理剤の被膜を形成した上、更に歪取り焼鈍処理を行って積層ブロックを作り、この複数組の積層ブロックを組み合わせ、積層鉄心を製作することが記載されている。また特許文献2には、耐食性がよくて防錆処理が不要なステンレス鋼板を鉄心材として用いる際に、ステンレス鋼板の数枚毎に非晶質性合金薄帯の1枚を挿入し、電磁鉄心を製作することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−71612号公報
【特許文献2】特開昭62−14406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている積層鉄心は、積層ブロックの歪取り焼鈍処理を行ってから組み合せるため、積層作業時に積層ブロックに局部応力が加わり微小な割れが発生し破壊へと発展する恐れがある。積層ブロックを組み合せたU字形の鉄心を使用した単相変圧器は、鉄心脚に巻線を装着してから上部より積層ブロックを挿入して一体に構成するから、積層ブロックを挿入する際に局部応力が加わり微小な割れが発生し、この割れで生じた非晶質性合金薄帯の破片が巻線内に入り、変圧器の信頼性を著しく低下してしまう恐れもある。
【0008】
また、積層鉄心に使用する非晶質性合金薄帯は飽和磁束密度が1.56〜1.61Tであり、一般に使用される珪素鋼板の飽和磁束密度の2.00Tに比べて低いので、巻線の巻回する鉄心脚が大きくなって変圧器が大型化する問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載されている電磁鉄心は、ステンレス鋼板の鉄心材の数枚毎に非晶質性合金薄帯の1枚を挿入するため、接合部で組み立て作業が非常に難しく経済的に製作できなくなる。その上、非磁性体のステンレス鋼板を用いるため、電磁鉄心の有効断面積が減少することになるから、所定の磁束密度を得るには電磁鉄心の断面積を増加させなければならなくなる。しかも、このステンレス鋼板と飽和磁束密度が低い非晶質性合金薄帯を用いる構造の場合も、同様に鉄心脚が大きくなるため、変圧器が大型化する問題がある。
【0010】
本発明の目的は、上部及び下部継鉄における損失を低減できて小型化が図れる静止誘導電器用積層鉄心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の静止誘導電器用積層鉄心は、巻線を巻回する少なくとも2つ以上の鉄心脚と、前記鉄心脚間を磁気的に結合する上部及び下部継鉄とから構成する際に、前記各鉄心脚は珪素鋼板を積層して形成し、前記上部及び下部継鉄は非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成し、前記各鉄心脚と前記上部及び下部継鉄間は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯積層体単位を交互に積層した積層接合部として構成したことを特徴としている。
【0012】
好ましくは、前記鉄心脚と前記上部及び下部継鉄は、珪素鋼板或いは非晶質性合金薄帯の積層端面に絶縁処理剤を施して構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明のように静止誘導電器用積層鉄心を構成すれば、各鉄心脚は珪素鋼板を積層して形成し、また上部及び下部継鉄は非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成しているので、上部及び下部継鉄おける損失を低減でき、各鉄心脚及び上部及び下部継鉄の全てを非晶質性合金薄帯で構成した積層鉄心に比べて静止誘導電器の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例である静止誘導電器用積層鉄心を示す正面図である。
【図2】本発明の他の実施例である静止誘導電器用積層鉄心を示す正面図である。
【図3】(a)及び(b)は、それぞれ図2の静止誘導電器用積層鉄心を構成する積層単位を示す正面図である。
【図4】図2の積層鉄心を用いた静止誘導電器の組み立て状態の説明図である。
【図5】本発明の別の実施例である三相3脚の静止誘導電器用積層鉄心を示す正面図である。
【図6】本発明の他の実施例である三相5脚の静止誘導電器用積層鉄心を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の静止誘導電器用積層鉄心は、巻線を巻回する少なくとも2つ以上の鉄心脚と、前記鉄心脚間を磁気的に結合する上部及び下部継鉄とから構成する。そして、各鉄心脚は珪素鋼板を積層して形成し、上部及び下部継鉄は非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成する。各鉄心脚と上部及び下部継鉄間は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯の積層体単位とを交互に積層する積層接合部としている。以下、本発明の静止誘導電器用積層鉄心を、図1から図6に示す変圧器用積層鉄心を用いて順に説明する。
【実施例1】
【0016】
本発明を適用した図1に示す単相2脚の変圧器積層鉄心10は、2つの鉄心脚11、12と、これら鉄心脚11、12間を磁気的に結合する上部継鉄13及び下部継鉄14により閉磁路を構成している。そして、鉄心脚11、12は短冊状に切断した珪素鋼板を積層して形成している。また、上部及び下部継鉄13、14は、短冊状に切断した非晶質性合金薄帯を後述するように積層して形成している。
【0017】
一般的な珪素鋼板の板厚は、300μm或いは350μmであるから、鉄心脚11、12を形成する1枚の珪素鋼板に対して、上部継鉄13及び下部継鉄14を形成する板厚が25μm程度の非晶質性合金薄帯は、所定枚数を積層して一つの単位の積層体にし、例えば12〜14枚を一組として組み合せたものを積層体単位にして使用する。
【0018】
そして、図1の変圧器積層鉄心10では、鉄心脚11、12と上部継鉄13及び下部継鉄14間の四隅の接合は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯の積層体単位とが実線及び破線で示す如く交互に重なり合う積層接合部15の構造にする。これにより、変圧器積層鉄心10を起立させた場合でも積層接合部15の面圧で変形せぬように保持できる構成としている。
【0019】
上記した本発明の変圧器積層鉄心10は、巻線(図示せず)が巻回される鉄心脚11、12は、非晶質性合金薄帯よりも飽和磁束密度が高い珪素銅板で形成している。このため、従来の如く非晶質性合金薄帯を鉄心脚に使用した積層鉄心に比べて、鉄心脚の断面積が小さくなるから、変圧器の小型化が可能であるし、また各鉄心脚の重量を低減できることから経済的に製作できる。そのうえ、非晶質性合金薄帯は、損失が0.016〜0・101(W/kg)と低いから、これを用いて形成する上部継鉄13及び下部継鉄14におけるの損失を低減することができる。
【実施例2】
【0020】
また、図2に示す本発明を適用した単相2脚の変圧器積層鉄心20は、上記した例と同様に珪素鋼板を積層して形成した2つの鉄心脚21、22と、非晶質性合金薄帯の積層体単位を積層して形成した上部継鉄23及び下部継鉄24により閉磁路を構成したものである。しかも、鉄心脚21、22と上部及び下部継鉄23、24間の四隅の接合は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯とが実線及び破線で示す如く、概略45度で交互に重なり合う斜めの積層接合部25の構造にしている。
【0021】
この変圧器積層鉄心20は、図3(a)及び(b)に示す2種類の積層単位を積層して構成する。即ち、図3(a)に示す如く鉄心脚21、22の形成に使用する珪素鋼板21A、22Aと、上部及び下部継鉄23、24の形成に使用する積層体単位にした非晶質性合金薄帯23A、24Aは、双方とも両端を斜めに切断して斜め接合、所謂額縁状の接合となるように配置して接合面が時計方向にずれた一層目の積層単位20Aを形成する。
【0022】
また、図3(b)に示す如く鉄心脚21、22の形成に使用する珪素鋼板21B、22Bと、上部及び下部継鉄23、24の形成に使用する積層体単位にした非晶質性合金薄帯23B、24Bは、接合面が逆に反時計方向にずれた二層目の積層単位20Bを形成している。そして、これらの奇数層目及び偶数層目の積層単位20Aと20Bを交互に積層し、図2に示す斜めの積層接合部25の構造を有する変圧器変圧器積層鉄心10を構成している。
【0023】
上記の変圧器積層鉄心20は、積層した平置きの状態或いは起立させた状態で、非酸化性雰囲気中において焼鈍温度約400℃及び10分〜2時間の条件で歪取り焼鈍を実施し、非晶質性合金薄帯の歪を除去して、鉄損や磁気特性の向上を図る。そして、歪取り焼鈍終了後に、起立させても局部応力が加わらぬように鉄心脚21,22に鉄心当板(図示せず)を、また上部及び下部継鉄23、24に鉄心締付金具(図示せず)を設けてから、変圧器積層鉄心20全体を起立させる。
【0024】
その後、図4に示すように上部継鉄23を形成する珪素鋼板23A、23Bを取り外し、U字状にした鉄心脚21、22に巻線26、27を巻回し、再度珪素鋼板23A、23Bの挿鉄作業を行って積層接合部25を有する上部継鉄23を形成し、変圧器中身本体を構成する。
【0025】
なお、U字状にした鉄心脚21、22に巻線26、27を巻回後、上部継鉄3を形成する非晶質性合金薄帯を挿鉄する際は、既に述べたように鉄心脚21、22を形成する1枚の珪素鋼板に対して、非晶質性合金薄帯は所定枚数を積層した積層体単位にし、両者の厚みが同等となるように積層して一体化する。また、非晶質性合金薄帯を挿鉄にあたっては、この破片が巻線内に落下しない対策を施して、変圧器の信頼性を損なわないようにする。
【0026】
この図2に示す変圧器積層鉄心20は図1のものと同様な効果を達成できるし、しかも斜めの積層接合部25の構造を有しているため、図1の積層接合部15に比べて損失の発生領域が少ないため、損失を低減することができる。
【実施例3】
【0027】
更に、図5に本発明を適用した三相3脚の変圧器積層鉄心30を用いた変圧器中身を示している。この変圧器積層鉄心30は、上記した例と同様に珪素鋼板を積層して形成して巻線36、37、38を巻回する3つの鉄心脚31、32、33と、非晶質性合金薄帯の積層体単位を積層して形成した上部継鉄34及び下部継鉄35により、閉磁路を作った三相3脚の構成である。そして、変圧器積層鉄心30の鉄心脚31、32、33と上部及び下部継鉄33、34間の各部の接合は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯の積層体単位とが実線及び破線で示す如く、概略45度で交互に重なり合う斜めの積層接合部39の構造にして損失を低減している。
【0028】
この変圧器積層鉄心30でも、巻線36、37、38を巻回する3つの鉄心脚31、32、33を非晶質性合金薄帯の積層体単位に比べて飽和磁束密度の高い珪素鋼板を用いているため、鉄心脚の径が大型化せず、積層鉄心全体を非晶質性合金薄帯で構成する従来のものに比べて変圧器本体を小型化することができる。また、巻線36、37、38を巻回する3つの鉄心脚31、32、33を、非晶質性合金薄帯に比べて剛性の高い珪素鋼板を用いたので、変圧器容量が増大し大型化しても変圧器積層鉄心を強固に支持することができる。
【0029】
なお、中央の鉄心脚32と上部継鉄34及び下部継鉄35での積層接合部39は、λ形状となっているが、鉄心脚32と上部継鉄34及び下部継鉄35を左右反転させて積層することにより、積層接合部39をX形状にすることができる。λ形状及びX形状の積層接合部39のいずれであっても、損失を同程度低減できる。
【実施例4】
【0030】
また、図6に本発明を適用した三相5脚の変圧器積層鉄心40を用いた変圧器中身を示している。この変圧器積層鉄心40は、珪素鋼板を積層して形成して巻線46、47、48を巻回する3つの鉄心脚41、42、43と、珪素鋼板を積層して形成して巻線を巻回しない左右の側脚50、51と、非晶質性合金薄帯の積層体単位を積層して形成した上部継鉄44及び下部継鉄45により、概略45度で交互に重なり合う斜めの積層接合部49により閉磁路を作った三相5脚の構成である。
【0031】
この変圧器積層鉄心40では、側脚50、51が増えても非晶質性合金薄帯に比べて飽和磁束密度の高い珪素鋼板を用いているため、各鉄心脚の断面積が増加せず、変圧器の小型化ができる。鉄心脚41、42、43と、上部継鉄44及び下部継鉄45との積層接合部49の接合領域が、単相2脚及び三相3脚の積層鉄心を殆んど変わらないため、大容量変圧器における損失を上記のものと同様に低減できる。側脚50、51は、損失の大きい珪素鋼板に代えて非晶質性合金薄帯の積層体単位を積層して形成すれば、更に損失を低減することできる。
【0032】
なお、本発明の各実施例の変圧器積層鉄心では、巻線を巻回する前の各鉄心脚の珪素鋼板と、下部継鉄を形成する非晶質性合金薄帯の積層体単位の積層端面、及び巻線を巻回した後に上部継鉄の積層端面にそれぞれ、ワニス等の絶縁処理剤を施すことができる。このように絶縁処理剤を施すと、積層間抵抗を大きくできると共に、非晶質性合金薄帯の破損部を固めることにより、変圧器の信頼性を向上させることできる。
【0033】
上記した各実施例においては、本発明を単相2脚及び三相3脚や三相5脚の変圧器積層鉄心の例で説明したが、本発明は単相3脚やリアクトルにも適用でき、同様な効果を達成することができる。
【符号の説明】
【0034】
10、20、30,40…静止誘導電器用積層鉄心、11、12、21、22、23、31、32、33、41、42、43…鉄心脚、20A、20B…積層単位、21A、22A、21B、22B…珪素鋼板、23A、23B、24A、24B…非晶質性合金薄帯、13、23、34、44…上部継鉄、14、24、35、45…下部継鉄、15、25、39、49…積層接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を巻回する少なくとも2つ以上の鉄心脚と、前記鉄心脚間を磁気的に結合する上部及び下部継鉄とからなる静止誘導電器用積層鉄心において、前記各鉄心脚は珪素鋼板を積層して形成し、前記上部及び下部継鉄は非晶質性合金薄帯を所定枚数積層した積層体単位を用いて積層して形成し、前記各鉄心脚と前記上部及び下部継鉄間は、珪素鋼板と非晶質性合金薄帯積層体単位を交互に積層する積層接合部として構成したことを特徴とする静止誘導電器用積層鉄心。
【請求項2】
請求項1において、前記鉄心脚と前記上部及び下部継鉄は、珪素鋼板或いは非晶質性合金薄帯の積層端面に絶縁処理剤を施して構成したことを特徴とする静止誘導電器用積層鉄心。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−80856(P2013−80856A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220821(P2011−220821)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)