説明

静止誘導電器

【課題】機器のサイズを大きくすることなく、少ない部品構成で高圧側ブッシングをタンクの上面に設けた、不活性ガス密封式油入静止誘導電器を提供する。
【解決手段】タンク内の絶縁油中に、鉄心、巻線及び高圧リードを収納し、タンク上部には不活性ガス空間を備えた油入静止誘導電器において、タンク上面から引き出したブッシングの油中にある碍子に、前記碍子部の誘電率もより低く、また不活性ガスの誘電率よりも高い誘電率を有する多孔質材料から成る絶縁物層を巻きまわした。この絶縁物は絶縁油と不活性ガスの両方に接しており、絶縁油を含浸することで絶縁物の誘電率が、不活性ガスと碍子の中間の誘電率に近づくことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油入静止誘導電器に係わり、より詳しくは高圧側ブッシングをタンク上面から垂直方向に引き出した油入静止誘導電器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に油入静止誘導機器は、タンク内に鉄心と巻線とを設置し、それらを絶縁油に浸して、さらにタンク内上部に不活性ガスを封入している。油入静止誘導機器においては、上記巻線に接続されている端末リード線を、タンク側面に配置されている油中から突き出した絶縁貫通型ブッシングの端末に接続しているものが多い。これはタンク上部よりブッシングを引き出すと、不活性ガス25、碍子2、絶縁油23の3媒体が接している図4に示したA部は、3種類の異なる誘電率を持った媒体が交差する、所謂油くさびが構成されるため、電界が集中し絶縁強度が低くなる。つまりその構成を避けるために、油中から絶縁貫通型ブッシングを引き出すことが多いのである。
【0003】
油入静止誘導電器において、課電時にタンク内部の碍子、絶縁油、不活性ガス等の電界の大きさは、電界が境界面に垂直な場合は、次のような式が成り立つ。誘電体1(誘電率ε)と誘電体2(誘電率ε)、誘電体1の電界の強さ(電界E)と誘電体2の電界の強さ(電界E)の間の誘電率と電界の強さの関係は、誘電率ε/誘電率ε=電界E/電界Eとなる。一般に、その物質(誘電体)の誘電率の大きさに反比例して、電界の大きさが決定する。
【0004】
図4を使って更に詳しく説明する。仮想放電縦経路100は、電界の強さが不連続となる前記油くさび部Aから放電が開始し、不活性ガス25を貫通し、接地されているタンク26に向かう経路を模式的に示している。一般的に、真空の誘電率ε=8.854×10−12Fm−1に対して、碍子の場合、誘電率ε碍子=5〜7×ε、不活性ガス(窒素)の場合、誘電率ε窒素=1×ε、絶縁油(鉱油)の場合、誘電率ε絶縁油=2.2×εであるといわれている。
【0005】
まず碍子2と不活性ガス25(窒素)の接触部分で考えてみると、電界の強さは、誘電率ε碍子/誘電率ε窒素=電界E窒素/電界E碍子なので、(5〜7×ε)/1×εで表され、不活性ガス25(窒素)は、碍子2に比べおよそ5〜7倍の電界の大きさとなる。
【0006】
同様に絶縁油23(鉱油)と不活性ガス25(窒素)の接触部で考えてみると、電界の強さは、誘電率ε絶縁油/誘電率ε窒素=電界E窒素/電界E絶縁油なので、(2.2×ε)/1×εで表され、不活性ガス25(窒素)は、絶縁油23(鉱油)に比べおよそ2.2倍の電界の大きさとなる。
【0007】
つまり、不活性ガス25(窒素)には、碍子2の5〜7倍、絶縁油23(鉱油)の2.2倍の電界の大きさが加わることになる。つまり、一般的に数kV/mm程度の絶縁強度しかない不活性ガス(窒素)では、十分な絶縁距離を確保しなければならない。
【0008】
一方、仮想放電横経路200は、高圧リード22が接続されたブッシング端から、タンク26側面へ向かう放電経路を模式的に示しているが、これは絶縁油23中から水平にブッシングを引き出した場合を想定している。
【0009】
まず仮想放電横経路200中にある媒体は絶縁油23だけなので、A部のような3種の物質(誘電体)の油くさびは構成されない。つまり、絶縁油23(鉱油)に全電圧が課電させることになる。しかし、絶縁油23(鉱油)の絶縁強度は、不活性ガス(窒素)に比べ12〜16倍程度高いといわれている。よって、絶縁破壊を防ぐ絶縁距離は、同じ仕様で考えた場合、不活性ガスに比べて数分の1程度で済むことになる。結果として、絶縁油中よりブッシングを引き出した方が、不活性ガス中より引き出した場合に比べて、絶縁強度を高めることができる。
【0010】
以上のような理由から、油入静止誘導電器においては、タンク上部を貫通させて外部にブッシングを出さず、つまり油くさび構成を避けて、絶縁油油中を貫通させたブッシングに引き出す構成としている。
【0011】
しかし、絶縁油油中を貫通させたブッシング構成では、周辺機器との設置場所の取り合いから制約ができてしまい、機器が大型化し、設置面積の拡大やコストの問題が発生してしまう。そこで特許文献1に示すように、電界緩和シールドをブッシングの絶縁強度の低い部分に設けて絶縁強度を向上させ、タンク上部からブッシングを引き出す方法も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭61‐99218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1に示した方法では、局部的な電界緩和は可能でも、その電界緩和シールドと、タンクまたタンク内部の構成物との間の耐電圧を確保するために、大きな絶縁距離が必要になる。つまり絶縁距離の確保のために、機器の大型化が避けられないのである。また、電界緩和シールドを構成する部品数も多く、取り付けも複雑なため作業工数も多くなり、コストアップも避けられない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はこの様なことを鑑み、タンク内を絶縁油で満たし前記タンク上部には不活性ガス封入して、前記絶縁油中に鉄心、巻線、前記巻線に接続されたリード線を浸し、前記タンク上面に前記絶縁油中より前記不活性ガス空間を貫通して配置されたブッシングの前記絶縁油中の端に、前記巻線に接続されたリード線を接続した油入り静止誘導電器において、前記碍子が前記絶縁油と前記不活性ガスの両媒体に接する領域に、前記碍子の誘電率よりも低く、前記不活性ガスの誘電率よりも高い誘電率を有した多孔質材料からなる絶縁物を巻き回し、かつ前記絶縁物は前記絶縁油中及び前記不活性ガスの両媒体に接し、毛細管現象が発生することで前記絶縁油が含浸し、前記絶縁油油面高さよりも高い位置において、前記絶縁油が含浸した前記絶縁物の誘電率が前記不活性ガスと前記碍子の誘電率の中間値に近づくようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
碍子に巻きまわされた多孔性絶縁物が絶縁油に接すると、毛細管現象により、絶縁油が多孔性絶縁物に含浸する。このことで、不活性ガスと碍子の間に、それら2媒体の中間の誘電率を持った絶縁物が入ることになる。
【0016】
よって、課電時に碍子、絶縁物、不活性ガスが分担する電圧の割合がそれぞれ均等化するので、より高い電圧仕様の機器でもタンク上部からブッシングを垂直に引き出す構成が、実現できるようになる。
【0017】
更にブッシングに電界シールドを設ける構成とは異なり、構成する部品数が減るので、取り付けに要する作業工数も減る。またこのことは、タンクやタンク内に備えられた構成物との絶縁距離を大きく取る必要もなくなるので、機器の大型化やコストの増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施例1に関する油入静止誘導電器の概略図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に関する毛細管現象を説明する図である。
【図3】図3本発明によるブッシングの説明図である。
【図4】図4は従来のタンク上部からブッシングを引き出した静止誘導電器の課電時の経路を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
最初に図3を使って、本発明によるブッシング1の構造を説明する。なお、従来技術と同一部分については、同一符号を付して説明を省略する。まず碍子2に巻きまわした、絶縁物5の取り付け方法を説明する。絶縁物5は多孔性絶縁物であって、碍子最上部3付近から碍子最下部4方向に向かって、碍子2を芯として巻き回す。絶縁物5を巻き回す際は、皺や撚れまたは空隙ができない様に、できるだけ碍子2に密着させて巻く。そして、碍子最下部4の近辺まで巻き進んだら、絶縁物5の終端を前周巻き回し部へ挟み込んで固定する。この際、絶縁物5の巻回し回数はそのときの製品仕様に合わせて適宜調整する。なお、絶縁物5の固定方法は、接着剤等を使用しても構わない。
【0020】
絶縁物5の巻き進み方は、絶縁物5の幅D>ラップ代Rとなるように、絶縁物5をラップさせながら巻き進む。絶縁物5の巻き終わり位置は、本ブッシング1を製品に取り付けた際、絶縁油中となる位置をあらかじめ計算しておき決定する。ラップ代Rは、絶縁被覆幅Dの1/2幅程度が好ましいが、下層部分がむき出しにならない範囲において調整しても良い。
【0021】
また、巻き回し方向を図3の下方向としているが、状況に応じて上方向に巻き回しても良い。絶縁物5の巻き始め及び巻き終わり部の被覆端部では、絶縁物5を固定するため折り返しを行い、往復を繰り返しながら巻き回しても良い。
【0022】
次に、図1を使って実際に製品に適用した例を説明する。図のように、本発明に使用するブッシング1を油入静止誘導電器のタンク26の上面に取り付ける。この際、碍子2に巻き回された絶縁物5の一部は、絶縁油23に浸されている。
【0023】
更に詳しく絶縁油23に浸されている部分を、図2に示した。絶縁物5は、多孔性絶縁物であるため毛細管現象により絶縁油23を吸い上げ、油面24から上方向に、毛細管現象が及ぶ範囲まで絶縁油23を含んだ状態となり、それが維持される。
【0024】
例えば、絶縁物5をクラフト紙、絶縁油23を鉱油、不活性ガス25を窒素とした場合、毛細管現象により鉱油を含浸したクラフト紙は、鉱油の比誘電率ε4=2.2へ近づく。結果として、クラフト紙の比誘電率は、油浸前の比誘電率ε5=4程度から3.5程度になるのである。クラフト紙が鉱油を含浸することにより、各媒体間の誘電率の差が少なくなり、集中する電界も緩やかなものに変えることができる。
【0025】
つまり3媒体が接する油くさび部Aは、不活性ガス25(窒素)、クラフト紙(鉱油含浸)、碍子2が直列に並んだ構成となり、比誘電率で見ると、1<3.5<5の順に段階的になるのである。この様になると、課電時にそれぞれの媒体で分担する電圧の割合が均等化され、全体として絶縁強度が向上するのである。
【0026】
また毛細管現象の及ぶ範囲は、使用する絶縁物5によって決定されるが、わずかでも油面24より高い位置まで絶縁油23が絶縁物5内に含浸すれば効果が期待できる。
【0027】
好ましくは、毛細管現象によって吸い上げられた絶縁油23の高さよりも高い位置まで絶縁物5を巻きまわしておくと良い。これは、油くさびの構成される位置が、電界の集中しやすいA部から図2のB部の位置に遠ざかることになり、より絶縁強度が向上するのである。クラフト紙は、絶縁油として鉱油を使用した場合、油面よりもおよそ60mm程度毛細管現象により絶縁油が吸い上げられるので、少なくとも60mm以上の上方まで巻きまわしておくと良い。
【0028】
より好ましくは、碍子2の全てに絶縁物5を巻きまわしておくと、より絶縁強度が向上する。
【0029】
もちろん、絶縁油、絶縁物、周囲温度、気圧、製品仕様等によって、適宜絶縁物の巻き回し回数、巻き回し長さを調節するのは言うまでも無い。
【0030】
本実施例1において、絶縁物5はクラフト紙であって、厚さ50μm、密度0.8g/cmを使用した。しかし、代わりにクレープ紙や中空糸膜のシートなどのシートを用いてもよい。ただし、以下の条件が必要である。誘電率は、碍子2の誘電率と不活性ガス25の誘電率の、中間の誘電率を持つものであって、また毛細管現象により絶縁油23を吸い上げることができる、多孔質絶縁物であること。
【符号の説明】
【0031】
1 ブッシング
2 碍子
5 絶縁物
23 絶縁油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内を絶縁油で満たし前記タンク上部には不活性ガスを封入して、前記絶縁油中に鉄心、巻線、前記巻線に接続されたリード線を浸し、前記タンク上面に前記絶縁油中より前記不活性ガス空間を貫通して配置されたブッシングの前記絶縁油中の端に、前記巻線に接続されたリード線を接続した油入り静止誘導電器において、前記碍子が前記絶縁油と前記不活性ガスの両媒体に接する領域に、前記碍子の誘電率よりも低く、前記不活性ガスの誘電率よりも高い誘電率を有した多孔質材料からなる絶縁物を巻き回し、かつ前記絶縁物は前記絶縁油中及び前記不活性ガスの両媒体に接し、前記絶縁油油面高さよりも高い位置において、前記絶縁油が含浸した前記絶縁物の誘電率が前記不活性ガスと前記碍子の誘電率の中間値に近づくようにしたことを特徴とする油入静止誘導電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−64746(P2012−64746A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207623(P2010−207623)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】