説明

静電植毛装置

【課題】 単純なデザインはもとより複雑なデザインであっても、その度に版下なるものを作成しなくても、求めるパターンの接着剤塗布を行うこと、及び、静電植毛を行うことのできる静電植毛装置を提供する。
【解決手段】 画像データを入力するための画像入力手段(3)と、当該画像入力手段から入力した画像データに基づいて接着剤を被植毛体(111)に塗布するための接着剤塗布手段(5)と、当該接着剤が塗布された被植毛体にフロック(F)を静電植毛するための植毛手段(7)と、当該接着剤塗布手段及び当該植毛手段を制御するための制御手段(13)と、を含めて静電植毛装置(1)を構成する。画像データに基づいた植毛であるから、単純なものだけでなく複雑なデザインであっても植毛することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電植毛装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電植毛を施した製品(植毛製品)には、たとえば、自動車内装材、空調装置部品、雑貨部品のように、各種工業製品から生活用品まで幅広く利用されている。現在、自動車内装材であるコイン箱(ダッシュボード等に組み込む小銭入れ)や空調装置であるクーラ−に使用するルーバー等のように、大量に製造するものについては自動化装置による静電植毛が行われている(特許文献1参照)。ところが、上記したような大量製造に馴染まない製品(たとえば、ポスターや装飾品)は、そのほとんどが手作業による静電植毛が行われている。他方、自動であると手作業であるとを問わず、植毛製品を製造するにはフロック(ナイロン繊維、短繊維、パイル)の植毛に先駆けて被植毛体に接着剤を塗布する必要があるが、この塗布方法には、大きく分けて2種類の方法がある。最初の方法は、被植毛体の前面に接着剤を塗布する方法であり、スプレーによる塗布が一般的である。もう一つは、スクリーン印刷による方法である。スクリーン印刷による方法は、通常の印刷を行う際に用いる印刷インキの代わりに接着剤を塗布する方法である。
【特許文献1】特開2003−305386(段落0011、図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、スプレーによる接着剤の塗布では、被植毛体に対して部分植毛を行う場合、すなわち、接着剤を部分的に塗布する場合に、植毛しない部分(非植毛部分、すなわち、接着剤を塗布しない部分)を隠すためのマスキング作業が必要になる。スクリーン印刷は、それを使用することにより作り出そうとする植毛部分又は非植毛部分の形状を形成すること、すなわち、いわゆる版下作成に手間がかかるため、どうしても画一的なデザインになりがちであった。本発明が解決しようとする課題は、単純なデザインはもとより複雑なデザインであっても、その度に版下なるものを作成しなくても、求めるパターンの接着剤塗布を行うこと、及び、静電植毛を行うことを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために本発明は、次の構成を備えている。なお、何れかの請求項に係る発明の説明に当って行う用語の定義等は、その性質上可能な範囲において他の請求項に係る発明にも適用があるものとする。
【0005】
(請求項1に記載した発明の特徴)
請求項1記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項1の植毛装置」という)は、画像データを入力するための画像入力手段(たとえば、スキャナー、CAD)と、当該画像入力手段から入力した画像データに基づいて接着剤を被植毛体に塗布するための接着剤塗布手段と、当該接着剤が塗布された被植毛体にフロックを静電植毛するための植毛手段(植毛方式には、たとえば、アップ式、ダウン式、サイド式がある)と、当該接着剤塗布手段及び当該植毛手段を制御するための制御手段と、を含めて構成してある。
【0006】
請求項1の植毛装置によれば、画像入力手段から入力した画像データに基づいて接着剤を被植毛体に塗布することができる。画像データに基づいた接着剤パターンを描くことができるので、スクリーン印刷方式による接着剤塗布方法において必要な版下作成の手間が不要になる。このため、パターンの作成、さらにはパターンの切り替えや変更等を簡単に行うことができる。多種類のパターンを思い通りに選択使用することも可能になる。単純なパターンであっても複雑なパターンであっても、変わりはない。したがって、パターンの画一化を防止し、多様性に富んだパターンの静電植毛が実現する。接着剤塗布の後、植毛手段が植毛を行う。飛翔させたフロックが静電気の力により被植毛体に引き寄せられ、接着剤の働きによって接着剤パターンに付着する。フロック付着後の接着剤乾燥によって、静電植毛作業を終了する。
【0007】
(請求項2記載の発明の特徴)
請求項2記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項2の植毛装置」という)では、請求項1の植毛装置の基本的構成を備えさせた上で、前記接着剤塗布手段が、ノズルと、当該ノズルを介して接着剤を吐出させるためのディスペンサ(流体である接着剤を定量供給可能な装置)と、当該ノズルの被植毛体に対する相対位置を変化させるための塗布用移動機構と、を含めて構成してある。ディスペンサの接着剤供給方式は、これに何ら制限はない。相対位置の変化は、ノズルと被植毛体のうち、何れか一方又は双方を移動させることによって行う。移動には、一次元的なもの、二次元的なもの、さらに、三次元的なもの等がある。
【0008】
請求項2の植毛装置によれば、請求項1の植毛装置の作用効果を前提に、ディスペンサによって送られた接着剤はノズルから吐出され被植毛体に塗布される。ノズルは、被植毛体に対する相対位置が塗布用移動機構の働きによって変化する。その制御は、制御手段が画像データに基づいて行う。ノズル及び/被植毛体の移動(停止)と、接着剤吐出の開始(停止)と、により、被植毛体表面に所望の接着剤パターンが形成される。
【0009】
(請求項3記載の発明の特徴)
請求項3記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項3の植毛装置」という)では、請求項2記載の植毛装置の基本的構造を備えさせた上で、前記塗布用移動機構が、前記ノズル及び/又は被植毛体を移動可能に構成した3軸(X軸、Y軸、Z軸)テーブルを含めて構成してある。
【0010】
請求項3の植毛装置によれば、ノズルと被植毛体との間の相対移動が、3軸によって三次元方向に行われる。ノズルのみを三次元的に移動させてもよいし、被植毛体のみを三次元的に移動させてもよい。ノズルと被植毛体の双方を三次元的に移動させてもよい。
【0011】
(請求項4記載の発明の特徴)
請求項4記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項4の植毛装置」という)では、請求項2又は3記載の植毛装置の基本的構造を備えさせた上で、前記ディスペンサには、接着剤吐出機能とともに液だれ防止のための接着剤吸引機能を持たせてあり、前記ノズルと被植毛体との間の距離が、被植毛体検出信号を出力可能な距離センサーによって検出可能に構成してある。さらに、前記制御手段が、当該被植毛体検出信号に基づき、前記ノズルと被植毛体との距離が所定距離を下回ったときに当該ディスペンサに接着剤吐出を行わせ、かつ、前記ノズルと被植毛体との距離が所定距離を上回ったときに当該ディスペンサに接着剤吐出に代えて接着剤吸引を行わせるように構成してある。
【0012】
請求項4の植毛装置によれば、請求項2又は3の植毛装置の作用効果に加え、ノズルが被植毛体に近づいたとき、すなわち、所定距離を下回ったときに接着剤吐出を開始させ、これとは逆に遠のいたとき、すなわち、所定距離を上回ったときに接着剤吐出を停止させるとともに接着剤吸引を行わせる。所定距離の検出は、距離センサーが行う。制御装置は、ディスペンサに接着剤吐出を停止させるときに、併せて、ノズルを被植毛体から離れる方向に移動させ、その移動により被植毛体とノズルとの距離が所定距離を越えたときに接着剤吸引を行わせる。接着剤吸引は、主として、吐出停止時における余剰接着剤の落下や吐出開始時における余剰接着剤塗布によるパターン太り等を防止するためである。つまり、落下やパターン太りの原因となる余剰接着剤を取り除くために、ノズル内に吸引する。このように、任意の線(パターン)の描画(塗布)の終了時に、余剰接着剤を僅かに吸引させることにより、接着剤の液だれを防止しつつ、高速で均一な線描画が可能となる。
【0013】
(請求項5記載の発明の特徴)
請求項5記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項5の植毛装置」という)では、請求項1乃至4何れか記載の植毛装置の基本的構造を備えさせた上で、前記植毛手段には、被植毛体に対してフロックを放射するための植毛ガンを含めて構成してあり、当該植毛ガンの被植毛体に対する相対位置を変化させるための植毛用移動機構を設けてある。
【0014】
請求項5の植毛装置によれば、請求項1乃至4何れかの植毛装置の作用効果を前提に、植毛ガンがフロックを放射し、この植毛ガンと被植毛体の何れか又は双方が植毛用移動機構によって相対移動させられる。この相対移動によって、接着剤パターンに向けて的確なフロック放射を行うことができる。この結果、無駄なフロック放射を避け、効率的な静電植毛を実現することができる。
【0015】
(請求項6記載の発明の特徴)
請求項6記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項6の植毛装置」という)では、請求項5記載の植毛装置の基本的構造を備えさせた上で、前記植毛ガンが、複数設けてあり、当該複数の植毛ガンを構成する植毛ガン各々が、相異なる種類及び/又は相異なる色彩のフロックを放射可能に構成してある。相異なる種類のフロックとは、たとえば、長さや太さの異なるフロック同士のことや、材質の異なるフロック同士のことをいう。フロックは、種類のみ相異ならせてもよいし、色彩のみ相異ならせてもよい。種類と色彩の双方を相異ならせてもよい。
【0016】
請求項6の植毛装置によれば、請求項5の植毛装置の作用効果に加え、複数ある植毛ガンを同時に又は適時に駆動させることによって、同じ被植毛体に相異なる種類及び/又は色彩のフロック植毛を施すことができる。フロックはそのままで、被植毛体を交替させ、交替させる度に相異なる種類及び/又は色彩のフロック植毛を施すようにしてもよい。フロックの種類及び/又は色彩の変化によって、単種類又は単色の場合に比べて、より多様性に富んだ植毛パターンを形成することができる。
【0017】
(請求項7記載の発明の特徴)
請求項7記載の発明に係る静電植毛装置(以下、適宜「請求項7の植毛装置」という)では、請求項5又は6記載の植毛装置の基本的構造を備えさせた上で、前記植毛ガンが、フロックを帯電させるための電極を備えている。当該電極には電源を接続してあり、当該電源が、フロックの凝集現象及び/又はブリッジ現象を阻止するために前記制御手段による断続制御可能に構成してある。
【0018】
請求項7の植毛装置によれば、請求項5又は6の植毛装置の作用効果に加え、フロックの凝集現象とフロックのブリッジ現象とのうち何れか一方又は双方を阻止することができる。現象阻止は、電極への印加電圧を適当な周期又はタイミングで断続することにより実現することができる。フロックが凝集したりブリッジしたりすると、求める植毛パターンを崩しかねないので、これを有効阻止することによって、多様性に富む植毛パターンの形成に貢献することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る静電植毛装置によれば、単純なデザインはもとより複雑なデザインであっても、その度に版下なるものを作成しなくても、求めるパターンの接着剤塗布を行うこと、及び、静電植毛を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
各図に基づいて、本発明を実施するための最良の形態(以下、適宜「本実施形態」という)について説明する。図1は、静電植毛装置の概略構成図である。図2は、植毛ガン及び植毛用移動機構の斜視図である。図3は、複数の植毛ガン及び植毛用移動機構の斜視図である。
【0021】
(静電植毛装置の概略構造)
図1及び2を参照しながら説明する。静電植毛装置1は、画像入力部3、接着剤塗布部5及び静電植毛部7の三者から概ね構成してある。画像入力部3は、画像データを入力するための画像入力手段として機能する。接着剤塗布部5は、画像入力部3を介して得た画像データに基づいて接着剤を被植毛体に塗布するための接着剤塗布手段である。静電植毛部7は、接着剤が塗布された被植毛体にフロック(ナイロン繊維、短繊維、パイル)を静電植毛するための植毛手段である。詳しくは、次項以下で説明する。
【0022】
(画像入力部の構成)
画像入力部3は、たとえば、図1に示す紙などの媒体101に描写された画像パターン101aをスキャナ11から読み取ることにより、また、画像データをコンピュータ13にCAD(Computer Aided Drawer)入力することにより、画像データの入力を行うための装置(器具)である。CDやMDその他の磁気媒体から、また、インタ−ネット等の通信網から、必要とする画像データの一部又は全部を読み込み又はダウンロードした場合のコンピュータ13等も、本願における画像入力部に該当する。なお、コンピュータ13には、上述のとおり画像入力部3の一部又は全部としての機能とともに、後述する制御手段としての機能を持たせてある。
【0023】
(接着剤塗布部の構成)
接着剤塗布部5は、図1に示す接着剤Gを吐出するためのノズル19と、ノズル19に接着剤Gを供給可能、同じく吸引可能(後述)なディスペンサ21と、ノズル19を被植毛体に対して相対移動させるための3軸テーブル23と、ノズル19と被植毛体111との間の距離を検出するための距離センサー25と、ディスペンサ21及び3軸テーブル23を制御するための制御手段として機能するコンピュータ13と、を含めて概ね構成してある。ノズル19は、ノズル本体19a及びノズル本体19aから突き出る先端部19bとから構成してあり、内部には接着剤Gを移動させるための流路19cを形成してある。流路19cは、ホース20を介してディスペンサ21の接着剤供給口(図示を省略)と連通させてある。ノズル19の形状や流路19cの内径等は、接着剤Gの粘度、塗布した接着剤Gの線径、さらには、たとえば、被植毛体111等の材質や形状等とも密接に関係するため、求める塗布を可能とするように適宜設定するとよい。
【0024】
次は3軸テーブル23について説明する。3軸テーブル23は、テーブル本体23aと、図1の正面から見たときにテーブル本体23aに対してY軸方向(図1の紙面厚み方向)に移動するY軸可動部23c、Y軸可動部23cに対してX軸方向(図1の左右方向)に移動可能に取り付けてあるX軸可動部23b、及び、X軸可動部23bに対してZ軸方向(図1の上下方向)に移動可能に取り付けてあるZ軸可動部23dと、を備えている。ノズル19は、Z軸可動部23dとともに上下動可能に取り付けてある。本実施形態におけるテーブル本体23aは、その上面に被植毛体を載置可能に、また、この載置した被植毛体に対して、X軸可動部23b、Y軸可動部23c及びZ軸可動部23dのそれぞれを移動させることにより被植毛体に対して3次元的な接着剤塗布ができるように構成してある。すなわち、3軸テーブル23は、ノズル19を被植毛体に対して相対移動させるための塗布用移動機構として機能する。図1に示す被植毛体111の様なシート状の被植毛体に対する接着剤塗布だけであれば2次元(平面)移動だけで足りるが、本実施形態では、立体的な被植毛体にも接着剤塗布を行えるように3次元移動可能に構成してある。なお、上記テーブル本体23aは被植毛体111を水平に保持(載置)するように構成してあるが、これを垂直に保持可能に構成したり、または、これら以外の姿勢で保持可能に構成したりすることもできる。
【0025】
ディスペンサ21は、内部に貯留してある接着剤を供給する機能と、供給とは逆方向に吸引する機能と、を兼ね備えており、前述したように、コンピュータ13によって制御される。接着剤の供給及び吸引は、ホース20を介して行われ、供給によって接着剤がノズル19から吐出され、吸引によってノズル19の先端から余剰接着剤がノズル19内に吸引される。接着剤の供給及び吸引は、距離センサー25による被植毛体の検出及び非検出をトリガーとする。すなわち、ノズル19が被植毛体111に近づいたとき、すなわち、所定距離(距離センサー25の作動距離)を下回ったときに接着剤吐出を開始させ、これとは逆に遠のいたとき、すなわち、所定距離を上回ったときに接着剤吐出を停止させるとともに接着剤吸引を行わせる。接着剤吸引は、主として、吐出停止時における余剰接着剤の落下や吐出開始時における余剰接着剤塗布によるパターン太り等を防止するためである。つまり、落下やパターン太りの原因となる余剰接着剤を取り除くために、ノズル19内に吸引する。なお、ディスペンサ21は、流体である接着剤を定量供給可能なものであれば、その供給方式に何らの制限はない。インクジェット方式やスプレー方式等による接着剤供給装置も、本明細書にいうディスペンサに含まれる。
【0026】
(植毛部の構成)
図2に基づいて説明する。静電植毛部7は、植毛を行うための植毛ガン31と、植毛ガン31にフロック供給を行うための供給部41と、から構成してある。植毛ガン31は、水平方向に延びる支持円筒33と、支持円筒33の下部に取り付けた角柱状の回収ダクト39と、から外観構造を構成してある。支持円筒33は、一端側(図2の左側)を開口させ、他端側(図2の右側)は閉鎖板33aによって閉鎖させてある。支持円筒33の上面には、フロック供給口33bを開口させてあり、同じく下面には回収ダクト39内と連通させるための連通孔を開口させてある。閉鎖板33aの略中央には、放射孔33hを開口させてあり、支持円筒33内の閉鎖板33a近くには、電源37に接続した電極35を配してある。電源37は、コンピュータ13によって制御可能に構成してある。放射孔33hの内径は、5mmとした。放射孔33hを介してフロックFを吹出すように構成したのは、必要な部分にだけフロックFを植毛するためにスポット的な放射を可能とするためである。また、内径を5mmとしたのは、被植毛体111との距離にもよるが、同じくスポット的放射に適当であると考えたからである。内径は、パターンの形状や被植毛体の形状等に合わせて適宜調整することができる。
【0027】
供給部41は、フロック供給口33bに差し込んだ落下パイプ41bと、落下パイプ上部に取り付けた逆さ円錐形の貯留部41aと、を主要部材として構成してある。供給部41全体は、漏斗形状になっていて、貯留部41aに貯留させてあるフロックFが落下パイプ41b内を落下し、フロック供給口33bを抜けて支持円筒33内に落下するように構成してある。貯留部41a内にはフロックFが容易に落下しない程度の目のメッシュ41mを配してあり、フロックFはこのメッシュ41m上に供給されるようになっている。貯留部41aには、偏芯モータ43によって振動が加えられるように、そしてこの振動によってフロックFがメッシュ41mの目を抜けて落下するように構成してある。電極35は概ね円柱状に形成してあり、閉鎖板33aに対向する端面は閉鎖板33aに向って下り傾斜する上向きの傾斜面35aとしてある。傾斜面35aは、フロック供給口33bの直下に配してあり、これにより、上から落下してくるフロックFを放射孔33h方向に偏向させやすいようにしてある。落下してきたフロックFは、上述したように偏向させられ放射孔33hから吹出されるもの以外に、偏向させられたが閉鎖板33aに衝突して吹出されなかったものや偏向させられずに落下していくものがあり得るが、吹出されなかったフロックFは連通孔を介して回収ダクト39内に回収されるようになっている。本実施形態における放射孔33hの放射方向は略水平にしてあるので、接着剤塗布を終了した被植毛体111への植毛は、図2に示すように垂直方向に保持しながら行うことになる。植毛ガン31は、2軸テーブル46によって移動可能に構成してあり、この移動によって被植毛体111の所定箇所にフロックFを植毛可能に構成してある。すなわち、2軸テーブル46はX軸アーム46xと、Y軸アーム46yと、X軸アーム46xとY軸アーム46yとをX−Y方向(垂直平面方向)に移動させるための駆動部(図示を省略)と、を含み、植毛ガン31はX軸アーム46xと一体移動するようにその上面に固定してある。2軸アーム46の制御は、コンピュータ13を介して行う。なお、本実施形態では、被植毛体111を固定しておき、この被植毛体111に対して植毛ガン31を相対移動させるように構成してあるが、これとは逆に、植毛ガン31を固定しておき、この植毛ガン31に対して被植毛体111を相対移動させるように構成してもよい。さらに、被植毛体111と植毛ガン31の双方を移動可能に構成し、両者間の相対位置を変更できるようにすることもできる。
【0028】
前述したように電極35には、電源37を接続してある。電極35に高電圧を印加してフロックを帯電させるためである。フロックを帯電させるのは、被植毛体を電気的接地することによって、被植毛体に静電気の力でフロックを引き寄せさせるためである。引き寄せられたフロックは、植毛パターン111aに付着する。これら一連の流れによって、静電植毛が行われる。このように、静電植毛を行うためには、電極に高電圧を印加する必要があるが、高電圧を印加し続けるとフロックの凝集現象やブリッジ現象の起こる恐れがある。フロックの凝集現象とは、フロック同士が弾き寄せ合うことにより、凝集、すなわち、固まってしまう現象のことをいう。また、フロックのブリッジ現象とは、電極と被植毛体、すなわち、高電位箇所と接地電位箇所との間でフロックがつながってブリッジしてしまう現象のことをいう。ブリッジ現象が生じると、電極と被植毛体との間が電気的にショートしてしまう場合もある。凝集現象やブリッジ現象が、円滑な植毛の邪魔をし、求める植毛パターンを崩しかねないことは言うまでもない。そこで、本実施形態では、コンピュータ13による電源37の断続制御ができるように構成してある。つまり、植毛を行っている最中に、所定の周期又はタイミングで短時間の印加中断を行うようにしてある。印加中断により、印加再開までの間、フロックの帯電を途絶えさせ、これによって、印加を継続させたなら生じたであろう凝集やブリッジを有効阻止するためである。本実施形態では、40kVの電圧を5秒間印加した後に1秒間印加停止する周期で断続制御した。その結果、植毛仕上がりに悪影響を与えることなくフロックの凝集やブリッジを有効阻止することができた。したがって、電源37の断続制御は、植毛仕上がりの点から多様性に富む植毛パターン形成に貢献する。なお、上記周期は、印加電圧の高低、フロックの材質や大きさ等の違い、電極と被植毛体間の距離、等の条件によって異なる場合もあるであろうから、植毛を行うときは諸条件を考慮したうえで最適と思われる長さ(間隔)に設定するとよい。
【0029】
(植毛装置の使用手順)
図1及び2を参照する。まず、接着剤の選択を行う。本実施形態で使用した接着剤Gには、植毛加工に広く用いられているアクリルエマルジョン接着剤を使用した。アクリルエマルジョン接着剤は、アンモニアを加えることによりその粘度を高くすることができる。粘度は、主として被植毛体の表面性状に深く関係する。本実施形態では、シート状の紙又は樹脂を被植毛体としてあるが、既存のアクリルエマルジョン接着剤をそのまま塗布したところ、塗布により形成された線が広がってしまい(接着剤が流れる)太い線になってしまった。このときのアクリルエマルジョン接着剤の粘度は、2,000cpsであった。そこで、このアクリルエマルジョン接着剤に29%のアンモニア水を0.5%添加して粘度調整をした。この粘度調整したアクリルエマルジョン接着剤を、流路19cの内径1.4mmのノズル19を使用して塗布したところ、被植毛体111の表面に太さが約1mm程度の塗布(描画)が可能となった。なお、接着剤及びその粘度の選定は、被植毛体の性状や求める塗布パターンの線径等を総合的に考慮して定める必要があることは言うまでもない。
【0030】
まず、スキャナ11を用いて媒体101から画像パターン101aを読み取り、読み取った画像データをコンピュータ13で処理する。次に、テーブル本体23aの上面に載置した被植毛体111に、読み取った画像データに基づいた接着剤塗布を行う。接着剤塗布は、画像データに基づいた指令をコンピュータ13が接着剤塗布部5に送信することから始まる。指令を受けた接着剤塗布部5は、X軸可動部23b、Y軸可動部23c及びZ軸可動部23dを移動させ、植毛パターン111aを形成するために必要な位置にノズル19を移動させる。所定位置にノズル19が到着したところで、Z軸可動部23dが稼動してノズル19を下降させる。ここで、距離センサー25が被植毛体111までの距離が所定距離に達したことを検知すると被植毛体検知信号を出力し、この被植毛体検知信号を受けたコンピュータ13はディスペンサ21に指令を送りノズル19を介した接着剤吐出を開始させる。この開始により接着剤塗布が行われる。コンピュータ13は、接着剤吐出の指令と併せてX軸可動部23b及び/又はY軸可動部23cにも駆動指令を送る。駆動指令は、植毛パターン111a形成に必要な範囲と限度で行う。
【0031】
植毛パターン111a形成の途中で、デザイン上のパターン途切れを描画するために一次的に塗布を中断するとき、また、接着剤塗布そのものを終了するときは、コンピュータ13の指令を受けた3軸テーブル23は、Z軸可動部23dを移動してノズル19を上昇させる。ノズル19を上昇させると、距離センサー25が被植毛体111が所定距離(有効検知距離)外に出たことを検知する。この検知信号(又は受信していた検知信号の遮断)を受けたコンピュータ13は、ディスペンサ21に指令を送り、余剰接着剤の吸引を指示する。吸引指示を受けたディスペンサ21は、ノズル19の先端部19bから落下しようとする余剰接着剤がノズル19内に吸引する。これによって、余剰接着剤塗布によるパターン太り等を有効に防止することができる。図1に示す符号111aは、被植毛体111に塗布された接着剤によって描かれた植毛パターンを示している。
【0032】
植毛パターン111aを形成した被植毛体111は、これを、垂直に保持しながら静電植毛部7により静電植毛を行う。電極35に、たとえば、40kV前後の電圧を印加しながら静電植毛部7の植毛ガン31をX−Y軸方向に植毛パターン111aに沿ってスキャン移動させて行う。植毛ガン31の移動は、コンピュータ13によって制御される2軸テーブル46が行う。植毛パターン111a全体に植毛したところで一連の植毛作業を完了する。以上の説明から理解されるように、植毛パターン111aは、スキャナ11から読み取り(入力)した画像パターン101aに基づいて作成したものであるから、単純なデザインはもとより複雑なデザインであっても、その度にスクリーン印刷で使用する版下なるものを作成しなくても、求めるパターンの接着剤塗布を行うこと、及び、静電植毛を行うことができる。したがって、大量生産に適することは言うまでもなく、大量生産に馴染まない、たとえば、芸術性の高い一品制作的なものや少数生産するものについても、多様性に富んだ植毛を行うことができる。
【0033】
(本実施形態の変形例)
図3に基づいて説明する。本実施形態の変形例(以下、適宜「本変形例」という)が、これまで説明してきた本実施形態と異なるのは、主として植毛ガンの個数とその制御方法にあり、他の部位については本質的な相違はない。そこで、重複説明を避けるために、以下においては、本変形例と本実施形態との間で相違する部位のみについて説明を行い、共通する部位については必要に応じて引用することにする。なお、両者共通する部位については、図2で示した符号と同じ符号を図3において使用する場合がある。
【0034】
本変形例に係る静電植毛部57に係る2軸テーブル59は、X軸アーム59xと、Y軸アーム59yと、図外の駆動部と、を含めて構成してあり、被植毛体(図3では省略)に対してX−Y軸方向に相対移動可能に構成してある。X軸アーム59xの上面には、植毛ガン31R、31B及び31Yの3基を固定してあり、3基はX軸アーム59xと一体移動するようになっている。植毛ガン31R、31B及び31Yは、何れも先に説明した植毛ガン31と同じ構造に構成してあり、植毛ガン31Rは、赤色のフロック放射のためのものであり、植毛ガン31Bは青色のフロック放射のためのものであり、さらに、植毛ガン31Yは黄色のフロック放射のためのものである。各色放射用の植毛ガンは、何れもコンピュータ13によって個別制御可能に設定してある。すなわち、赤色フロックを植毛したいときは植毛ガン31Rを所望箇所に移動させてから駆動させ、青色フロックの植毛を望むときは植毛ガン31Bを同じく駆動させ、さらに、黄色フロックの植毛を行うべきときは植毛ガン31Yを同じく駆動させることによって、3色のフロックを、図外にある同一又は別個の被植毛体に植毛することが可能になる。3個の植毛ガンは、個別に駆動させるのが現実的であるが、可能であれば複数の植毛ガン(たとえば、植毛ガン31R及び植毛ガン31B)を同時に駆動させるようにしてもよい。フロックの色彩は、上記3色に限る必要はなく、好みや用途に応じて適宜選択すればよい。また、3色の代わりに2色としてもよいし、4色以上としてもよい。多色植毛は、同じ被植毛体に対する単一色植毛に比べて、より多様性に富んだ植毛パターン作成に大きく貢献する。なお、上述したように、複数の植毛ガンを用い、各々の植毛ガンに相異なる色彩のフロックを放射させることとともに、又は、これに代えて、相異なる種類(たとえば、材質、大きさ)のフロックを放射させることも多様性向上のために好ましいといえる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】静電植毛装置の概略構成図である。
【図2】植毛ガン及び植毛用移動機構の斜視図である。
【図3】複数の植毛ガン及び植毛用移動機構の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1 静電植毛装置
3 画像入力部
5 接着剤塗布部
7,57 静電植毛部
11 スキャナ
13 コンピュータ
19 ノズル
19a ノズル本体
19b 先端部
19c 流路
20 ホース
21 ディスペンサ
23 3軸テーブル
23a テーブル本体
23b X軸可動部
23c Y軸可動部
23d Z軸可動部
25 距離センサー
31,31R,31B,31Y 植毛ガン
33 支持円筒
33a 閉鎖板
33b フロック供給口
33h 放射孔
35 電極
35a 傾斜面
37 電源
39 回収ダクト
41 供給部
41a 貯留部
41b 落下パイプ
41m メッシュ
43 偏芯モータ
46,59 2軸テーブル
46x,59x X軸アーム
46y,59y Y軸アーム
101 媒体
101a 画像パターン
111 被植毛体
111a 植毛パターン
F フロック
G 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データを入力するための画像入力手段と、
当該画像入力手段から入力した画像データに基づいて接着剤を被植毛体に塗布するための接着剤塗布手段と、
当該接着剤が塗布された被植毛体にフロックを静電植毛するための植毛手段と、
当該接着剤塗布手段及び当該植毛手段を制御するための制御手段と、を含めて構成してある
ことを特徴とする静電植毛装置。
【請求項2】
前記接着剤塗布手段が、
ノズルと、
当該ノズルを介して接着剤を吐出させるためのディスペンサと、
当該ノズルの被植毛体に対する相対位置を変化させるための塗布用移動機構と、を含めて構成してある
ことを特徴とする請求項1記載の静電植毛装置。
【請求項3】
前記塗布用移動機構が、前記ノズル及び/又は被植毛体を移動可能に構成した3軸テーブルを含めて構成してある
ことを特徴とする請求項2記載の静電植毛装置。
【請求項4】
前記ディスペンサには、接着剤吐出機能とともに液だれ防止のための接着剤吸引機能を持たせてあり、
前記ノズルと被植毛体との間の距離が、被植毛体検出信号を出力可能な距離センサーによって検出可能に構成してあり、
前記制御手段が、当該被植毛体検出信号に基づき、前記ノズルと被植毛体との距離が所定距離を下回ったときに当該ディスペンサに接着剤吐出を行わせ、かつ、前記ノズルと被植毛体との距離が所定距離を上回ったときに当該ディスペンサに接着剤吐出に代えて接着剤吸引を行わせるように構成してある
ことを特徴とする請求項2又は3記載の静電植毛装置。
【請求項5】
前記植毛手段が、被植毛体に対してフロックを放射するための植毛ガンを含めて構成してあり、
当該植毛ガンの被植毛体に対する相対位置を変化させるための植毛用移動機構を設けてある
ことを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の静電植毛装置。
【請求項6】
前記植毛ガンが、複数設けてあり、
当該複数の植毛ガンを構成する植毛ガン各々が、相異なる種類及び/又は相異なる色彩のフロックを放射可能に構成してある
ことを特徴とする請求項5記載の静電植毛装置。
【請求項7】
前記植毛ガンが、フロックを帯電させるための電極を備え、
当該電極に接続した電源が、フロックの凝集現象及び/又はブリッジ現象を阻止するために前記制御手段による断続制御可能に構成してある
ことを特徴とする請求項5又は6記載の静電植毛装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−167547(P2006−167547A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361613(P2004−361613)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成16年度東京都立産業技術研究所研究発表会 主催者名 東京都立産業技術研究所 開催日 平成16年6月15日
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【Fターム(参考)】