説明

非共有結合高分子

【課題】化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子およびそのデバイスを提供する。
【解決手段】下記一般式[1]で示される、双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子及び前記の非共有結合高分子のカラムナー液晶性を利用する分子デバイス。


(式中、RおよびRは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、XおよびXは水素原子又は水酸基であって少なくとも片方が水酸基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規な非共有結合高分子および分子デバイスに関し、さらに詳しくは双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子およびそのカラムナー液晶性を利用する分子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数ナノ〜数十ナノオーダーの規則構造あるいは原子配列を制御することが検討されている。
この制御を現在の加工技術によって行うことは可能であるが、その制御は限定的である。また、加工に非常な長時間を要するか高コスト加工法が必要である。
このため、金属錯体あるいは有機化合物を自己組織化した高分子が提案されている。
そして、自己組織化した高分子が種々の機能性材料、例えば電子デバイス素子、エレクトロルミネッセンスあるいは触媒、分光学的、磁気的又は電気化学的複合膜などの機能性材料として注目されている。
【0003】
例えば、π共役系を有する自己組織化機能を有する高分子として、金属錯体、トリフェニレン、トリフェニルアミン、トリフェニレンの誘導体およびトリフェニルアミンの誘導体から自己組織化によって得られる導電性を有する超分岐高分子、この超分岐高分子を用いた電子デバイス素子が提案されている(特許文献1)。
また、ナノオーダーの規則構造あるいは原子配列を制御した構造体として、両端に親水性基を有する双頭性脂質の中に金属錯体が埋め込まれた錯体化合物構造の磁性機能、エレクトロルミネッセンス機能、導電性機能、触媒能などの金属的特性を備えたナノワイヤーが提案された(特許文献2)。
そして、配位子骨格に多重水素結合を導入し、その自己組織化能を利用して中心金属として様々な遷移金属イオンを取り込んで形成する有機―無機複合膜組織が中心金属の種類によって色が変わる遷移金属錯体ナノ薄膜が提案された(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2005− 75962号公報
【特許文献2】特開2005−255543号公報
【特許文献3】特開2006−124349号公報
【0005】
上記の特許文献1および特許文献3に具体的に記載されている超分岐高分子およびナノ薄膜はいずれも出発原料が複雑な構造の多環芳香族化合物である。
また、上記特許文献2に具体的に記載されているナノワイヤーは機能的に限定され、例えばイオン伝導性については期待できず、出発原料の構造が複雑であり合成工程に複数工程を要するものである。
従って、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要とせずイオン構造を有する出発原料からの自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子およびそのデバイスは知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子およびそのデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下記一般式[1]で示される、双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子に関する。
【0008】
【化1】

(式中、RおよびRは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数10〜30、好適には10〜20の直鎖アルキル基であり、XおよびXは水素原子又は水酸基であって少なくとも片方が水酸基である。)
【0009】
また、この発明は、前記の非共有結合高分子のカラムナー液晶性を利用する分子デバイスに関する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、化学構造がシンプルでかつ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子を提供することができる。
また、この発明によれば、化学構造がシンプルでかつ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子のカラムナー性を利用したデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)対アニオンが酒石酸イオンである前記の非共有結合高分子。
2)対アニオンがリンゴ酸イオンである前記の非共有結合高分子。
3)前記一般式[1]においてRがオクタデシル基である前記の非共有結合高分子。
【0012】
この発明の非共有結合高分子は、前記の双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとを自己組織化により形成することによって得ることができる。
前記の双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンとしては、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジラウリルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジトリデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジペンタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジテトラデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジペンタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジヘキサデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジヘプタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジオクタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジノナデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ジエイコシルエチレンアンモニウムなどが挙げられる。
【0013】
また、双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジラウリルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジトリデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジペンタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジテトラデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジペンタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジヘキサでシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジヘプタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジオクタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジノナデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラエチル−N,N’−ジエイコシルエチレンアンモニウムなどが挙げられる。
【0014】
また、前記の双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジラウリルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジトリデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジテトラデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジペンタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジヘキサでシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジヘプタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジオクタデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジノナデシルエチレンアンモニウム、N,N,N’,N’−テトラn−プロピル−N,N’−ジエイコシルエチレンアンモニウムなどが挙げられる。
【0015】
前記の対アニオンとしては、以下の[化2]で示される酒石酸イオン、[化3]で示されるリンゴ酸イオンが挙げられる。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
この発明の非共有結合高分子は、溶媒中で前記の双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンのハロゲン化物、例えば臭素化物と前記のアニオンのアルカリ塩、例えばナトリウム塩あるいはカリウム塩とを接触させてイオン交換反応によって反応させた後、生成物を分離することによって得ることができる。
前記の溶媒としては特に制限はなく、例えば水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
前記の双頭型アルキルアンモニウムカチオンのハロゲン化物と前記のアニオンのアルカリ塩とは、溶媒に均一に分散させて反応させることが好ましく、特にいずれかの成分を溶解させて反応させることが好ましい。
また、前記の反応は20〜100℃、1〜100時間の範囲内で適宜選択することができる。
また、前記の分離は、抽出、濾過、洗浄、再結晶などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0019】
この発明の非共有結合高分子は、前記の一般式[1]で示される双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから得られる化合物が分子間相互作用に基づく自己組織化によって高分子化された高分子化合物である。
この発明の非共有結合高分子について、この発明の1実施態様である下記式[4]で示される双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから得られる化合物(化合物1)とこの発明の他の1実施態様である下記式[5]で示される双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから得られる化合物(化合物2)を用いて説明する。
【0020】
【化4】

(前記一般式[1]において、RおよびRはメチル基であり、Rはオクタデシル基であり、XおよびXはいずれも水酸基である。)
【0021】
【化5】

(前記一般式[1]において、RおよびRはメチル基であり、Rはオクタデシル基であり、XおよびXは片方が水素原子であって他方が水酸基である。)
【0022】
前記の化合物1および化合物2についての後述の実施例の欄に測定法の詳細が説明される示差走査熱量分析(DSC)測定、偏向顕微鏡観察から、化合物1は101〜176℃で液晶相を示し、化合物2は44〜150℃で液晶相を示し、いずれも液晶相の熱安定性が高い。そして、これらについての後述の実施例の欄に詳細が説明される粉末X線回折測定から、化合物1はa=66.6Å、b=58.4Åの格子定数、化合物2はa=65.4Å、b=54.9Åの格子定数の二次元斜方格子を有し、カラムナー液晶相である。また、化合物1および化合物2は、図2および図6に示すようにカラム内における分子配列は棒状ミセルと推測される。
また、化合物1および化合物2についての後述の実施例の欄に詳細が説明される薄膜の交流インピーダンス測定による電気伝導度の評価から、液晶状態で化合物1では10−6S/cm以上、化合物2では10−5S/cm以上のイオン伝導性を示す可能性があることが明らかになった。
【0023】
つまり、この発明の非共有結合高分子は、一次元水素結合ならびにカルボン酸の一次元配列に起因する一次元分子鎖カラムの形成が起こり、二次元格子を持つカラムナー相を示すと考えられる。
そして、この発明の非共有結合高分子は、1)前記一般式[1]に示される分子構造を基本構成単位とし、2)自己組織化によりナノオーダー規則構造を有し、3)ナノオーダー規則構造に起因する機能を発現し、特に広い温度範囲内においてカラムナー液晶相を発現するので、その液晶性を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
また、この発明の非共有結合高分子は、イオン伝導性を有し、その性質を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【実施例】
【0024】
以下、この発明の実施例を示す。
以下の実施例は単に説明するためのものであり、この発明を限定するものではない。
以下の各例において、分析は以下に示す測定機器および測定法で行った。
元素分析:Parkin−Elmer 2400(Parkin−Elmer社)
示差走査熱量分析(DSC)測定:DSC SSC 6200(セイコー電子工業社)
分解温度:N中、昇温度速度10℃/分で記録された5質量%減少温度を示す。
偏向顕微鏡(POM)観察:BX50(オリンパス社)とホットステージFP82(メトラー社)
液晶構造の粉末X線回折測定:RINT−Ultima III(リガク社)
電気伝導度測定:装置としてSolartron社のmodel 1260/1296を用いて、交流インピーダンスを測定した。
【0025】
実施例1
N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(東京化成工業株式会社製)と2当量のオクタデシルブロマイド(東京化成工業株式会社製)とをn−ヘキサン中、室温(約25℃)で48時間反応させた。反応終了後、析出物をろ別し、乾燥することによって双頭型アンモニウムブロマイドであるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジブロマイドを得た。次いで、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジブロマイド(5mmol)をエタノール220mlに溶解し、これを水300ml中にてL−(+)−酒石酸(東京化成社)0.9g(6.0mmol)を水酸化カリウムで中和した溶液に注ぎ、50℃で72時間攪拌した。次いで、混合液を室温に冷却した後、沈殿した析出物をろ別した。析出物を水で数回洗浄した後、エタノール100mlに加熱溶解し、熱ろ過を行うことによって未反応物を除去した。ろ液を濃縮することによって粗生成物を得た。凍結乾燥ならびに減圧乾燥することによって、目的とする化合物(収量2.6g、収率69%)を得た。
【0026】
元素分析結果を次に示す。
計算値(測定値)(%)
C 71.45(66.17)
H 12.51(12.71)
N 3.62(3.45)
【0027】
また、化合物の4水和物についての元素分析結果を次に示す。
計算値(測定値)(%)
C 65.36(66.17)
H 12.40(12.71)
N 3.31(3.45)
元素分析結果から、得られた生成物(化合物1)は、理論値と測定値との値が近似し、目的とする下記式[6]で示される化合物の高分子と考えられる。
【0028】
【化6】

(前記の一般式[1]において、RおよびRはメチル基であり、Rはオクタデシル基であり、XおよびXはいずれも水酸基である。)
【0029】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、示差走査熱量分析(DSC)測定を行った。その結果、結晶(K(Col))からカラムナー矩形液晶相(Col)への転移温度(TKCol)である101℃におけるエンタルピー変化△HKCol、エントロピー変化△SKCol値は、△HKCol=7.5kJmol−1、△SKCol=20JK−1mol−1であった。カラムナー矩形液晶相(Col)からスメクチックA液晶相(S)への転移温度(TColS)である123℃におけるエンタルピー変化△HColS、エントロピー変化△SColS値は、△HColS=0.4kJmol−1、△SColS=1.1JK−1mol−1であった。スメクチックA液晶相(S)から等方相(I)への相転移温度(TSI)である176℃におけるエンタルピー変化△HSI、エントロピー変化△SSI値は、△HSI=0.9kJmol−1、△SSI=2.0JK−1mol−1で、分解温度は206℃であった。
【0030】
以上のDSC測定、偏光顕微鏡観察から、得られた生成物は、約100〜約170℃の広い温度範囲で安定な液晶相を示すことが明らかとなった。また、約170℃以上で光学的異方性は消失した。次いで、生成物の液晶相構造を調べるため行った50℃(K相(Col))での粉末X線回折測定結果を図1および表1に示し、また粉末X線回折測定結果に基くカラムの規則配列を示す模式図を図2に示し、60℃(K相(Col))での粉末X線回折測定結果を実施例2の化合物2についての測定結果とまとめて図3に示し、150℃(S相)での粉末X線回折測定結果を図4および表2に示す。図1に示すように小角領域に斜方格子に特徴付けられる2本の回折ピークが観察された。この回折パターンから、化合物1は格子定数a=66.6Å、b=58.4Åの二次元斜方格子を有するカラムナー相を形成することがわかった。図2の模式図に示すように、カラムナー相は単位格子(図中に四角で枠取りされた範囲)の中に2個の高分子からなるカラムが存在している。また、123℃以上の温度域では二次格子が崩壊し、スメクチックA相様の液晶相に相転移することも明らかになった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
さらに、この化合物1について、薄膜を調製して、交流インピーダンス測定を行って電気伝導度を求めた。その結果を表3に、また化合物1の結果を実施例2の化合物2の電気伝導度の結果をまとめて図7に示す。その結果、液晶状態では10−6S/cm以上のイオン伝導性(特にプロトン伝導性)を示すことがわかった。観察されたイオン伝導性は、カラム内における分子間での連続した水素結合形成に起因していると考えられる。
【0034】
【表3】

【0035】
実施例2
実施例1と同様にして得られた双頭型アンモニウムブロマイドであるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジブロマイド(3.0mmol)をメタノール200mlに溶解した。一方、水100ml中にてL−(+)−リンゴ酸(アルドリッチ社)0.8g(6.0mmol)を水酸化カリウムを用いてカリウム塩にし、両液体を混合し、50℃で72時間攪拌して反応させた。次いで、この反応液を一昼夜放置し、沈殿した析出物をろ別した。析出物をクロロホルム100mlに溶解し、水で数回洗浄した後、クロロホルム層を濃縮することによって、目的とする粗生成物を得た。これを凍結乾燥ならびに減圧乾燥することによって、目的とする化合物(収量1.6g、収率67%)を得た。
【0036】
元素分析結果を次に示す。
計算値(測定値)(%)
C 73.15(61.61)
H 12.55(11.91)
N 3.71(3.23)
【0037】
また、化合物の4水和物についての元素分析値を次に示す。
計算値(%)
C 66.78
H 11.45
N 3.39
元素分析結果から、得られた生成物(化合物2)は、理論値と測定値の値が近似し、目的とする下記式[7]で示される化合物の高分子と考えられる。
【0038】
【化7】

(前記の一般式[1]において、RおよびRはメチル基であり、Rはオクタデシル基であり、XおよびXは片方が水素原子であって他方が水酸基である。)
【0039】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。その結果、結晶(K(Col))からカラムナー矩形液晶相(Col)への転移温度(TKCol)である44℃におけるエンタルピー変化△HKCol、エントロピー変化△SKCol値は、△HKCol=9.7kJmol−1、△SKCol=30.7JK−1mol−1であった。カラムナー矩形液晶相(Col)からスメクチックA液晶相(S)への転移温度(TColS)である90℃におけるエンタルピー変化△HColS、エントロピー変化△SColS値は、△HColS=1.0kJmol−1、△SColS=2.8JK−1mol−1であった。偏向顕微鏡(POM)観察により測定したスメクチックA液晶相(S)から等方相(I)への相転移温度(TSI)は150℃で、分解温度は187℃であった。
【0040】
以上のDSC測定、偏光顕微鏡観察から、得られた生成物は、44〜約150℃の広い温度範囲で安定な液晶相を示すことが明らかとなった。また、150℃以上で光学的異方性は消失した。次いで、液晶相構造を調べるため行った30℃(Solid相)および60℃(Col)の粉末X線回折測定結果を図5におよび表4に示し、化合物2のカラムの規則配列を示す模式図を図6に示し、また60℃(Col相)および120℃(S相)の粉末X線回折測定結果を図7におよび表5に示す。小角領域に斜方格子に特徴付けられる2本の回折ピークが観察された。回折パターンから、化合物は2格子定数a=65.4Å、b=54.9Åの二次元斜方格子を有するカラムナー相を形成することがわかった。また、97℃以上の温度域では二次格子が崩壊し、スメクチックA相様の液晶相に相転移することも明らかになった。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
さらに、この化合物2について、薄膜を調製して、交流インピーダンス測定を行って各温度における電気伝導度を求めた。その結果を表6に、また実施例1の化合物1の結果とまとめて図8に示す。その結果、液晶状態では10−5S/cm以上のイオン伝導性を示すことがわかった。観察されたイオン伝導性はカラム内における分子間での連続した水素結合形成に起因していると考えられる。
また、この化合物2を30℃から180℃まで加熱後、室温まで冷却し再度180℃まで加熱した場合の、各温度における電気伝導度を求めた。1回目の加熱と2回目の加熱による電気伝導度の変化を図9に示す。
【0044】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、実施例1で得られた化合物1の50℃(K相(Col))での粉末X線回折測定結果を示す。
【図2】図2は、実施例1で得られた化合物1の粉末X線回折測定結果に基くカラムの規則配列を示す模式図を示す。
【図3】図3は、実施例1で得られた化合物1と実施例2の化合物2の60℃(K相(Col))での粉末X線回折測定結果をまとめて示す。
【図4】図4は、実施例1で得られた化合物1の150℃(S相)での粉末X線回折測定結果を示す。
【図5】図5は、実施例2で得られた化合物2の30℃(Solid相)および60℃(Col)での粉末X線回折測定結果を示す。
【図6】図6は、実施例2の化合物2のカラムの規則配列を示す模式図である。
【図7】図7は、実施例2で得られた化合物2の60℃(Cold相)および120℃(S相)での粉末X線回折測定結果を示す。
【図8】図8は、実施例1の化合物1と実施例2の化合物2についての各温度における電気伝導度を比較したグラフである。
【図9】図9は、実施例2の化合物2についての1回目の加熱と2回目の加熱による電気伝導度の変化をグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示される、双頭型長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【化1】

(式中、RおよびRは炭素数1〜3のアルキル基であり、Rは炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、XおよびXは水素原子又は水酸基であって少なくとも片方が水酸基である。)
【請求項2】
対アニオンが酒石酸イオンである請求項1に記載の非共有結合高分子。
【請求項3】
対アニオンがリンゴ酸イオンである請求項1に記載の非共有結合高分子。
【請求項4】
前記一般式[1]においてRがオクタデシル基である請求項1に記載の非共有結合高分子。
【請求項5】
請求項1に記載の非共有結合高分子のカラムナー液晶性を利用する分子デバイス。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図6】
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