説明

非凝縮ガス処理装置

【課題】任意の地熱生産井において、新たに水を追加することなく、少ない動力で非凝縮ガスを還元井深部まで還元できるようにする。
【解決手段】地熱生産井から熱水10と共に生産される蒸気20から分離された非凝縮ガスGを、該熱水及び/又は該蒸気を凝縮して得られる凝縮水を含む還元水Hに供給管2の開口部2Aから供給・混合した後、該還元水と共に還元井4内を下降させて地下に還元する非凝縮ガス処理装置において、前記供給管の開口部を、該開口部から排出される非凝縮ガスが、還元水と混合された気液混相状態の下で、所定の気液体積比率以下となる水圧が加わる水深位置に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非凝縮ガス処理装置に係り、特に地熱発電において蒸気と共に噴出される非凝縮ガスを、還元井を通して地中に還元する際に適用して好適な非凝縮ガス処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地熱発電では、地下深部にある高温の地熱流体層に対して地上から生産井を掘削し、蓄積されている地熱流体をこの生産井を通じて地上に自噴させ、該地熱流体が保有している熱エネルギーでタービンを回転させることによって発電している。
【0003】
その際、地熱流体を気水分離器により蒸気と熱水とに分離し、該蒸気で蒸気タービンを直接回転させる場合もあれば、該蒸気と該熱水を他の作動媒体と熱交換させることによりその保有エネルギーを該作動媒体に受け渡し、該作動媒体でタービンを回転させる場合もある。また、熱水や蒸気が凝縮した復水は、還元井を介して地下に還元される場合が多い。
【0004】
このような地熱発電設備においては、気水分離された一方の蒸気に含まれる非凝縮ガスは発電の妨げになるため分離抽出されて大気放散されるのが一般的であるが、近年の環境意識の高まりから、他方の熱水と共に所定の圧力を保持したまま地下還元する方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、図1に示すように、垂直下降管からなる還元井101に対して、地下から排出された排水Qeをポンプ102により上部から供給すると共に、地表面103より上方の地上部分に非凝縮ガスQgを送風機104により供給し、排水(液相)に同伴させることにより、地下深部へ還元する技術が開示されている。この場合、非凝縮ガスの供給圧力は概略還元井の頂上圧となる。
【0006】
このように非凝縮ガスを排水に同伴させる場合には、非凝縮ガス(気相)が還元井内を上方に逆流してこないようにすることが肝要であり、そのために特許文献1では液相と気相の見掛けの流速を、それぞれ規定の関係に維持することにより、気液混合点以降の流動態様を図2に示すように、気相の体積が大きいフロス流からスラグ流、更には気相が細い気泡流となるようにして、下降する液相に気相を同伴させることができるようになるとしている。
【0007】
また、特許文献2には、還元井の地下深部まで非凝縮ガスを圧縮した状態で供給するために、図3に示すように、還元井201内を地下深部まで降下させたエジェクター202を介して還元層にできるだけ近い深い位置に注入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−101351号公報
【特許文献2】特開平9−177507号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】“Two-Phase Flow Patterns and Void Fractions in Downward Flow”, Int. J. Multiphase Flow Vol.11, No.6, 1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記特許文献1に開示されている技術には以下の問題がある。
【0011】
一般に、地熱生産井における蒸気、熱水、非凝縮ガスの各流量及びその比率は、発電所毎、更には各井戸毎にそれぞれ異なる値となるが、各井戸における時間的な変動は比較的少ないために、各井戸毎には概略決まった値となっている。
【0012】
従って、地下に還元する液相(還元水)の液量が決まっている場合、液相の還元流速は還元井の管径を適正に選ぶことにより規定流速以上に保つことは可能であるが、その際に同伴させる気相の流速は、前記特許文献1に開示されている技術の構成では、それぞれの井戸での地熱流体の比率(蒸気量、熱水量、非凝縮ガス量)で一義的に決まってしまうために、特許文献1に示されているような規定の関係を維持するように制御することは不可能である。
【0013】
特許文献1では排水の見かけの流速Veoを1m/s以上とし、さらにガスの見かけの流速VgoをVgo<1.33Veo−0.41の範囲に抑えるとしている。還元水の量に応じてガスの見かけの流速Vgo、即ち還元処理可能な非凝縮ガス量の上限が決まってしまうため、例えば非凝縮ガス量の比率が高い地熱発電所の場合には、前記規定の流速条件を満足することができないことになる。
【0014】
これを回避するためには、足りない分の水を追加して液相の流量を増やすことが考えられるが、地熱発電所の立地の制約上、井戸等から追加の水を確保することは容易ではないという別の問題が生じる。
【0015】
また、前記特許文献2の技術には、還元層にできるだけ近い深い位置に注入するとしているが、その位置が深ければ深いほど高い水圧がかかることになるため、非凝縮ガスを圧縮するために大きな動力を要することになるという問題がある。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、任意の地熱生産井において、新たに水を追加することなく、できるだけ少ない動力で非凝縮ガスを還元井深部まで還元することができる非凝縮ガス処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、地熱生産井から熱水と共に生産される蒸気から分離された非凝縮ガスを、還元水に供給管の開口部から供給・混合した後、該還元水と共に還元井内を下降させて地下に還元する非凝縮ガス処理装置において、前記供給管の開口部を、該開口部から排出される非凝縮ガスが、還元水と混合された気液混相状態の下で、所定の気液体積比率以下となる水圧が加わる水深位置に設置したことにより、前記課題を解決したものである。
【0018】
本発明においては、非凝縮ガスを気相、還元水を液相とすると、前記所定の気液体積比率が、気相容積/(気相容積+液相容積)≦20%であるようにしてもよい。又、前記還元井の上流位置に、前記非凝縮ガスを通過させ、該非凝縮ガスに含まれている被吸収成分を除去する吸収塔が配設されているようにしてもよく、その際には前記吸収塔が、物理吸収及び化学吸収の少なくとも一方の吸収能を有しているようにしてもよい。更に、前記還元水が、前記熱水及び/又は前記蒸気を凝縮して得られる凝縮水を含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、非凝縮ガスを還元井内の還元水に供給する供給管の開口部を、該開口部から排出・供給された非凝縮ガスを流下する還元水に確実に同伴させることが可能な気液の体積比率となる水深位置に設置するようにしたので、任意の気液比率の地熱流体、即ち任意の生産井から生産される地熱流体について、蒸気から分離される非凝縮ガスを、水を追加することなく、できるだけ少ない動力で確実に地下深部まで還元することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】特許文献1に開示されている還元井の概要を示す説明図
【図2】特許文献1による作用・効果を示す説明図
【図3】特許文献2に開示されている還元井の概要を示す説明図
【図4】本発明に係る一実施形態の非凝縮ガス処理装置を含む地熱発電設備の要部を示す概略構成図
【図5】水深を決める手順の一例を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図4は、本発明に係る一実施形態の非凝縮ガス処理装置の概要を、その周辺設備と共に示す概略構成図である。
【0023】
本実施形態の非凝縮ガス処理装置は、図示しない地熱生産井から熱水と共に生産される蒸気から分離された非凝縮ガスGを、該熱水を含む還元水Hに供給管2の開口部2Aから排出・供給した後、該還元水Hと共に還元井4内を下降させて地下に還元する機能を有している。
【0024】
本実施形態においては、前記生産井から生産される熱水10が、アルカリ溶液14が注加される混合槽16に供給されてアルカリ性混合水H’に調製された後、前記還元井4の上流に位置する、物理及び化学の両吸収能を有する吸収塔18に導入される。なお、ここでは、熱水10に加えて、二点鎖線で示すように追加水12を還元水の一部として追加してもよい。
【0025】
また、前記生産井から生産される蒸気20は、地熱発電設備22に設置されている、例えば2段式の熱交換機24A、24Bに順次供給され、発電用タービン(図示せず)を回転させるための、例えばペンタン等の有機溶媒からなる作動媒体を液体から気体にする熱源として使用された後、凝縮水H”となって熱交換器24Bから排出されるとともに、蒸気20に含まれていた非凝縮ガスG’は熱交換器24A内から抽気される。ここで、非凝縮ガスG’は被吸収成分を含有している。
【0026】
抽気された前記非凝縮ガスG’は、例えば0.6MPaのゲージ圧、160℃の下で前記吸収塔18に供給されている前記アルカリ性混合水H’中を通過され、物理吸収と化学吸収により二酸化硫黄や炭酸ガス、硫化水素等の被吸収成分が除去された非凝縮ガスGとして、圧縮機26により、例えば3.0MPaのゲージ圧の下で前記供給管2に上部から圧入して供給される。
【0027】
一方、前記凝縮水H”は復水として前記吸収塔18から排出される混合水H’と混合され、前記還元水Hとしてポンプ28により前記還元井4内に導入される。
【0028】
本実施形態においては、前記供給管2が、前記還元井4に導入されている還元水Hの水面下で水深Lの位置に、該還元水Hに非凝縮ガスGを排出・供給するための開口部2Aが一致するように該還元井4内に配設されている。
【0029】
従って、この供給管2の開口部2Aには、ヘッド圧として水深Lに相当する水圧が加わっているので、非凝縮ガスGはそのヘッド圧に抗して該開口部2Aから排出されることになるため、該ヘッド圧と同等以上に圧縮された状態で還元井4内に供給されることになる。
【0030】
本実施形態では、供給管2の開口部2Aの水深Lを、還元すべき非凝縮ガスGの標準状態における体積と還元水Hの体積の比率に応じて決定する。具体的には、非凝縮ガスGを気相、還元水Hを液相とした場合に、次式で表される気液の体積比率(ボイド率)で設定する。
【0031】
ボイド率=気相容積/(気相容積+液相容積) …(1)
【0032】
いま、ボイド率=αであったとしたときの水深Lの計算方法について説明する。
【0033】
水深が変化、即ち水圧が変化したとしても、気液混相状態を構成する液相の体積は変化しない。そこで、液相の体積を基準の1とし、この体積1の還元水(熱水+凝縮水)から分離された気相の水深Lにおける体積がVPであったとすると、前記(1)式は次式となる。
【0034】
P/(VP+1)=α …(2)
【0035】
この(2)式からVP=α/(1−α)となることから、ボイド率をα以下とするためには、水深Lでは気相の体積を液相のα/(1−α)以下にする必要がある。
【0036】
従って、仮に体積1の還元水から分離された気相の標準状態(1気圧=0.1013MPa)における体積がVSであったとすると、これを液相のα/(1−α)(=VP)に圧縮するための圧縮率n=(VS/VP)は、VP=VS/n=α/(1−α)から、n=VS(1−α)/αとなる。
【0037】
また、水圧は10m毎に1気圧増大することから、水深Lは次式で設定される。
【0038】
L=[VS(1−α)/α]×10[m] …(3)
【0039】
仮に1m3の還元水から標準状態で1m3の非凝縮ガスが分離されたとすると、前記開口部2Aは[(1−α)/α]×10mの水深以下に設置することになる。
【0040】
従って、任意の地熱発電所で生産された地熱流体から分離された非凝縮ガス(気相)については、図5のフローチャートにしたがって、ボイド率=αに対応する水深Lを決定することができる。
【0041】
先ず、生産された地熱流体を気相と液相(熱水+凝縮水)に分離し(ステップS1)、分離された単位体積当たりの液相に対する気相の標準状態下における体積VSを算出する(ステップS2)。
【0042】
次いで、ボイド率がαのときの気相の体積VPを前記(2)式から算出し(ステップS3)、求めたVPから圧縮率nを算出し(ステップS4)、その圧縮率から前記(3)式により水深Lを算出する(ステップS5)。
【0043】
次いで、具体例を挙げて説明する。
【0044】
ボイド率=20%以下に設定する場合には、前記(3)式は次の(3’)式となる。
【0045】
L=4VS×10[m] …(3’)
【0046】
これより、仮に1m3の還元水から標準状態で1m3の非凝縮ガスが分離されたとすると、前記開口部2Aは4×10mの水深以下に設置することになる。
【0047】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0048】
供給管2の開口部2Aから還元水Hに排出される非凝縮ガスGの容積(体積)は、ヘッド圧(水圧)に応じて小さくなる。従って、このヘッド圧により、液相中に排出された気相の液相に対する体積比率(ボイド率)を制御することができる。
【0049】
これは即ち、前記特許文献1に開示されている技術における気相の見掛け流速を制御することに相当する。従って、供給管2の開口部2Aの水深Lを適切に設定することにより、還元井4において非凝縮ガスGの逆流を生じさせることなく、気相(非凝縮ガスG)を気液混相状態で液相に同伴させつつ地下深部に還元することが可能となる。
【0050】
水深Lを適切に設定するとは、開口部2Aに気液の体積比率が、例えば20%以下になるようなヘッド圧(水圧)がかかる水深にすることであり、このように設定することにより前記特許文献1でいう気相の見掛け流速を十分に小さくすることが可能となり、流動状態として前記図2に示した(c)気泡流状態を維持できることになると考えられる。なお、気液体積比率が20%以下にすることが、気泡流状態の維持に有効であることは、例えば非特許文献1に記載されている。
【0051】
なお、気液体積比率を20%より小さくすればするほど非凝縮ガスGの逆流抑制には有効であり、例えば前記特許文献2に開示されている技術のように、還元井4の井戸底にかかる圧力まで非凝縮ガスGを圧縮すれば、ガス圧入によりそのまま地下還元することは当然可能であるが、この場合はガスを圧縮するために多大な動力を要することになる。そこで、気液体積比率は5%程度までを下限とすることが動力の過大な消費を回避する上で有効である。
【0052】
本実施形態では、各発電所、各井戸毎の地熱流体の流量と気液比率に応じて、非凝縮ガスGを気液混相状態で同伴下降搬送可能な水深の水圧程度に圧縮して還元水(液相)中に供給することにより、最小限の圧縮に留めることが可能となることから、ガス圧縮動力を削減しつつ、非凝縮ガス全量を地下還元することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態においては、圧縮機26の前段で非凝縮ガスの一部を物理吸収及び化学吸収するようにしているので、これにより炭酸ガス等の被吸収成分ガスを除去できることから、圧縮機26により処理するガス量を更に削減することができ、また前記(3)式におけるVSを削減することに相当することから圧縮率の低減にもつながり、圧縮動力を大幅に削減することが可能となっている。その上、腐食性の強いガス、例えば二酸化硫黄や硫化水素を前記物理/化学吸収工程で選択的に吸収するようにできることから、圧縮機26の腐食を抑制できるメリットも得られる。
【0054】
なお、前記実施形態では、熱水と凝縮水を還元水として用いる例を示したが、熱水のみもしくは凝縮水のみを還元水としてもよい。また、前記図4に二点鎖線で併記した追加水として井水などを加えてももちろんよい。また、還元井の上流、即ち圧縮機の前段に吸収塔を設ける例を示したが、これに限定されない。更には、生産される蒸気が、発電タービンを回転させる作動媒体の加熱に使用される例を示したが、該蒸気を直接発電タービンの回転に供する設備であってもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
2…供給管
2A…開口部
4…還元井
10…熱水
12…追加水
14…アルカリ溶液
16…混合槽
18…吸収塔
20…蒸気
22…地熱発電設備
24A、24B…熱交換機
26…圧縮機
28…ポンプ
G…非凝縮ガス
H…還元水
H’…アルカリ性混合水
H”…凝縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱生産井から熱水と共に生産される蒸気から分離された非凝縮ガスを、還元水に供給管の開口部から供給・混合した後、該還元水と共に還元井内を下降させて地下に還元する非凝縮ガス処理装置において、
前記供給管の開口部を、該開口部から排出される非凝縮ガスが、還元水と混合された気液混相状態の下で、所定の気液体積比率以下となる水圧が加わる水深位置に設置したことを特徴とする非凝縮ガス処理装置。
【請求項2】
非凝縮ガスを気相、還元水を液相とすると、前記所定の気液体積比率が、気相容積/(気相容積+液相容積)≦20%であることを特徴とする請求項1に記載の非凝縮ガス処理装置。
【請求項3】
前記還元井の上流位置に、前記非凝縮ガスを通過させ、該非凝縮ガスに含まれている被吸収成分を除去する吸収塔が配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の非凝縮ガス処理装置。
【請求項4】
前記吸収塔が、物理吸収及び化学吸収の少なくとも一方の吸収能を有していることを特徴とする請求項3に記載の非凝縮ガス処理装置。
【請求項5】
前記還元水が、前記熱水及び/又は前記蒸気を凝縮して得られる凝縮水を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の非凝縮ガス処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207605(P2012−207605A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74455(P2011−74455)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)