説明

非加熱性赤外線の照射による水クラスレートの生成法

【課題】 高圧、低温でのみ水クラスレートを生成させることができるという従来技術の制約を抜本的に改善し、常温常圧で平易に水クラスレートを生成し、クラスレートのサイズを任意に制御しクラスレートの持つ優れた性質を産業分野に簡易に利用できる水クラスレート生成方法を確立することを目的としている。
【解決手段】 本発明に係わる水クラスレート生成方法の特徴は、非加熱性赤外線(2μmから10μmの赤外線)を水に照射し、水分子のOH伸縮振動や変角振動を変化させることにより、水分子間の水素結合を切断し、水構造の再編を行うことにより水クラスレートを生成し、さらにそれによって生成された水クラスレートは非加熱性赤外線を遮断したX線回折法により容易に確認できることにある。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の水の構造を変化させることによる水クラスレートの生成に関わるもので、特に非加熱性赤外線(2μmから10μmの赤外線)の照射による水分子間の水素結合を切り、水構造の再配列による水クラスレートの生成技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術では、水クラスレートは高圧化、低温で生成し、常温常圧で生成する方法は皆無である。
【0003】
水クラスレートはメタン等の閉じ込め技術や二酸化炭素の回収等に応用され、これによる新たなエネルギー利用から、石油資源の枯渇に対処する技術が生まれ、また、大気汚染に対する強力な解決策を与えるが、高圧、低温でのみ生成するためその利用に大きな制約を与えている。
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高圧、低温でのみ水クラスレートを生成させることができるという従来技術の制約を抜本的に改善し、常温常圧で平易に水クラスレートを生成し、クラスレートのサイズを任意に制御しクラスレートの持つ優れた性質を産業分野に簡易に利用できる水クラスレート生成方法を確立することを目的としている。
【問題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係わる水クラスレート生成方法の特徴は、非加熱性赤外線(2μmから10μmの赤外線)を水に照射し、水分子のOH伸縮振動や変角振動を変化させることにより、水分子間の水素結合を切断し、水構造の再編を行うことにより水クラスレートを生成し、さらにそれによって生成された水クラスレートは非加熱性赤外線を遮断したX線回折法により容易に確認できることにある。
【0006】
ここで、非加熱性赤外線の水への照射は、珊瑚或いは貝殻等生物由来の炭酸カルシウム粉末とブラックシリカの双方、あるいはいずれかの粉末をステンレス或いはアルミニウム等非加熱性赤外線を透過させない金属製の外壁とパイレックスガラス、塩化ビニル、フッ素樹脂等の非加熱性赤外線を透過する内壁による、二重パイプの外側に充填し、内側のパイプに水を流入させることによって行う。
【0007】
ブラックシリカは北海道上ノ国町に特産する黒色の黒鉛珪石で、無機成分と有機成分を含み不完全な黒鉛様の構造を持つ炭素部分を有する鉱物で、赤外線を理想的な黒体放射に対し90%の効率で放射する機能を持つものである。生物由来の炭酸カルシウムも効率よく非加熱性赤外線を放射する。
【0008】
この非加熱性赤外放射管に水を流入し、赤外線の照射時間を10分から30分に調節することにより、流出した水が、水分子を46個から136個以上集合させた水クラスレート構造を有するものとなる。
【0009】
このようにして生成した水クラスレートは、非加熱性赤外線を遮断したX線回折法により、水分子の酸素原子の動径分布関数の変化として観測され、その解析から水クラスレートに集合している水の分子数を算出することができる。
【0010】
次ぎに前述した本実施形態における水クラスレート生成を実施例により説明する。
【実施例1】
【0011】
実施例1では、水に非加熱性赤外線を照射したものと照射しないものについての、X線回折結果を示す。図1において、縦軸はX線回折強度、横軸は回折角である。
(×)印で示したものはサンプルの水のカバーとして用いたポリエチレン樹脂のみのX線回折パターンであり、(△)印で示したものは非加熱性赤外線による照射をしなかった水のX線回折パターンであり、(○)印で示したものは非加熱性赤外線を5分間照射したもの、(●)印で示したものは30分照射したものである。中央の高い2本のピークはフッ素樹脂によるものである。非加熱性赤外線の照射により明らかにX線回折強度が増加し、水の構造に変化が現われていることが示される。
【0012】
実施例1のX線回折強度を解析し、クラスレート構造により得られる回折の位置と比較したものである。図2上図において黒線は非加熱性赤外線を5分照射したもの、赤線は30分照射したものである。図2下図は水分子46個によるクラスレートから得られる回折の位置(StI)、水分子136個によるクラスレートから得られる回折の位置(StII)、及び氷の状態から得られる回折位置(Ih)であり、上図の回折パターンは下図の回折位置の組み合わせとして再現ができる。これにより、非加熱性赤外線の照射により、水クラスレートが生成していることが示される。
【0013】
図3は、非加熱性赤外線照射後のX線回折強度の時間変化である。角度は30度に固定し、(○)印は5分照射のもの、(●)印は30分照射のものである。30分照射によって生成した水クラスレートは1000分後にも安定に存在し、5分照射によって生成した水クラスレートは約100分後に崩壊し照射前の構造にもどることが示される。
【発明の効果】
【0014】
水クラスレートはメタン等の通常気体の燃料をそのクラスレート内に封じ込めることができ、このようにして形態の変化した燃料は運送および貯蔵等がきわめて容易となり、石油資源の枯渇によるエネルギー利用の変換に大きく寄与するものとなる。
【0015】
また、水クラスレートは二酸化炭素を封じ込める機能があり、前述のメタンガス等の封じ込めと共に地球大気汚染対策、地球温暖化対策にも大きな寄与をする。
【0016】
本発明による常温常圧で水クラスレートを容易に生成する技術により、世界の経済及び地球規模の環境保全、さらに農業生産の天候等による停滞等、人類生存の基本的問題に対し多大な寄与をするものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わる水クラスレート生成によるX線回折強度の変化を示す図である。
【図2】 図1のX線回折パターンから、ここで生成した水クラスレートが水を46個集合集合したものと、水分子を136個集合したものの混合物であることを示す図である。
【図3】 非加熱性赤外線照射後の水クラスレートの安定性を示す図である。30分照射して生成した水クラスレートは1000分後も安定に存在することを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水に非加熱性赤外線(2μmから10μmの赤外線)を照射することにより、水分子が46個から136個以上集合した水クラスレートを、常温常圧のもとで生成することを特徴とする水クラスレート生成方法。
【請求項2】
請求項1において、10分から30分程度の赤外線の照射により、水分子のOH伸縮振動および変角振動に影響を与えて水分子間の水素結合を切断し、水分子構造の再配列により水クラスレート化することを特徴とする水クラスレート生成方法。
【請求項3】
請求項1及び2において、生成された水クラスレートは非加熱性赤外線を遮断したX線回折実験によって確認できるものであることを特徴とする水クラスレート生成法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−289335(P2006−289335A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170074(P2005−170074)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(505216818)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】