説明

非可燃性を有する気化性防錆剤

【課題】健康を害するニトロソアミンを生じる亜硝酸塩類を含有せず、鋳鉄からその他鉄鋼金属および銅、亜鉛、アルミニウムなどの非鉄金属にも優れた防錆性能を発揮するとともに、非可燃性を有する気化性防錆剤を提供する。
【解決手段】本発明の気化性防錆剤は、(A)無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させたアミン含有無機多孔質材、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾール、および、(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種を、所定の比率となるように含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非可燃性を有する気化性防錆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材の防錆対策として、防錆対象となる金属部材の表面に防錆油または防錆コーティング組成物を塗布して油膜またはコーティング層を形成し、発錆原因となる酸素や水分を遮断する方法が汎用されている。例えば特許文献1には、有機ポリマーなどのマトリックス材料と充填剤を所定量含有し、前記充填剤が内部に中空セルを持つ珪藻土などの充填材料と、前記中空セルに詰められた抑制剤などを含有する防錆コーティング組成物が開示されている。しかし、防錆油や前記特許文献1に記載されているような防錆コーティング組成物は、可燃性であり安全上好ましくない。また、防錆油または防錆コーティング組成物を使用する方法では、金属部材表面に形成された油膜やコーティング層の除去作業が煩雑である。
【0003】
そこで、最近では少量で優れた防錆効果を発揮し、かつ、用済み後は簡単に除去することができる気化性防錆剤が実用化されている。気化性防錆剤は、一般にVCI(Volatile Corrosion Inhibitor)と呼ばれている。鉄金属用の気化性防錆剤としては、例えばシクロへキシルアミンの炭酸塩(CHC)((C611NH)2HCO2)、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩(DIPAN)({(CH32CH}2NH・HNO2)、ジシクロへキシルアミン亜硝酸塩(DICHAN)((C6112NH・HNO2)、炭酸のアンモニウム塩が知られている。また、非鉄金属用の気化性防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール(BT)(C653)、トリルトリアゾール(TT)(CH3−C643)、3−メチル−5−ヒドロキシピラゾール(CH3−C322−OH)が知られている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、シクロヘキシルアンモニウムカーボネートを成分とする気化性防錆剤に、炭酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩を混合した気化性防錆剤が開示されている。特許文献3には、炭酸のアンモニウム塩を成分とする鉄鋼用気化性防錆剤が開示されている。特許文献4には、亜硝酸塩、pH緩衝剤、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体および樹脂粉末を含有する気化性防錆組成物が開示されている。特許文献5には、有機アミンおよび/または金属の亜硝酸塩と、無機酸および/または有機酸のアンモニウム塩と、炭酸水素金属塩と、保水性または水持続放出性助剤とを含有する気化性防錆剤が開示されている。特許文献6には、シクロへキシルアンモニウムカーボネートとベンゾトリアゾール又はトリルトリアゾールを所定の比率で含有する気化性防錆剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−281977号公報
【特許文献2】特公平6−60424号公報
【特許文献3】特公平5−51675号公報
【特許文献4】特開平10−114892号公報
【特許文献5】特開2001−31966号公報
【特許文献6】特公平2−54432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来種々の気化性防錆剤が知られている。しかし、シクロへキシルアミンの炭酸塩(CHC)は、アルカリ性であるため非鉄金属の防錆性に問題がある。また、CHCの原料であるシクロへキシルアミンは、毒性の指標である経口ラットLD50が11mg/kgと毒性が強く、化学物質管理促進法の一種指定化学物質に該当するものであり、健康面からその使用は忌避される傾向にある。ジシクロへキシルアミン亜硝酸塩(DICHAN)は、亜硝酸により非鉄金属の防錆性に問題がある。ジイソプロピルアミン亜硝酸塩(DIPAN)は、大気中に放置するとその一部が変質してジイソプロピル−N−ニトロソアミンを生成することが知られており、該ジイソプロピル−N−ニトロソアミンは、発癌性を有すること(H.DRUCKRW, R.PREUSSMANN, etc ; Zeitshrift fur Krebforschung 69,103-201,1967)が指摘され、健康面からその使用は忌避される傾向にある。
【0007】
また、気化性防錆剤では、防錆成分として配合される化合物が可燃性を有するため、火炎に近づけると容易に引火してしまうという問題がある。さらに、従来の気化性防錆剤には、引火した際に自己消火するための成分などは配合されておらず、一旦着火するとしばらく燃焼が継続してしまうという問題もある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、健康を害するニトロソアミンを生じる亜硝酸塩類を含有せず、鋳鉄からその他鉄鋼金属および銅、亜鉛、アルミニウムなどの非鉄金属にも優れた防錆性能を発揮するとともに、非可燃性を有する気化性防錆剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができた本発明の非可燃性を有する気化性防錆剤は、(A)無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させたアミン含有無機多孔質材、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾール、ならびに、(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し、前記(B)成分に対する前記アミン化合物(a2)の質量比((a2)/(B))が0.13以上10以下であり、前記(a2)成分に対する前記(C)成分と前記(a1)成分の合計量の質量比(((C)+(a1))/(a2))が6.00以上30以下であることを特徴とする。
【0010】
前記(a2)成分と(B)成分とを所定量含有することにより、鉄鋼金属および非鉄金属のいずれに対しても優れた防錆効果を発揮する。また、(a2)成分に対して(a1)成分および(C)成分を所定量含有させることにより、気化性防錆剤が非可燃性となる。
【0011】
前記(C)成分は、金属炭酸塩または金属水酸化物が好ましい。また、前記(C)成分の平均粒子径は1μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0012】
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計を100質量%としたとき、前記(a2)成分含有率が1質量%以上15質量%以下、前記(B)成分含有率が5質量%以上45質量%以下、前記(a1)成分と前記(C)成分の合計含有率が50質量%以上90質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記アミン化合物(a2)に対する前記(C)成分の質量比((C)/(a2))は3以上20以下であり、かつ、前記アミン化合物(a2)と前記(B)成分の合計量に対する前記(C)成分の質量比((C)/((a2)+(B)))は1以上10以下が好ましい。また、前記無機多孔質材(a1)に対する前記アミン化合物(a2)の質量比((a2)/(a1))は0.1以上2以下が好ましい。
【0014】
本発明には、上記気化性防錆剤を不織布または通気性発泡シートにより包装した防錆剤分包品も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、健康を害するニトロソアミンを生じる亜硝酸塩類を含有せず、鋳鉄からその他鉄鋼金属および銅、亜鉛、アルミニウムなどの非鉄金属にも優れた防錆性能を発揮するとともに、非可燃性を有する気化性防錆剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の非可燃性を有する気化性防錆剤は、(A)無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させたアミン含有無機多孔質材、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾール、および、(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し、前記(B)成分に対する前記アミン化合物(a2)の質量比((a2)/(B))が0.13以上10以下であり、前記(a2)成分に対する前記(C)成分と前記(a1)成分の合計量の質量比(((C)+(a1))/(a2))が6.00以上30以下であることを特徴とする。
【0017】
鉄鋼金属に対して優れた防錆能を有するアミン含有無機多孔質材は、火炎により容易に着火してしまう。また、鉄鋼金属および非鉄金属に優れた防錆能を有するベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールも、火炎により容易に着火してしまう。しかし、これらに所定量の金属酸化物などを配合することで、アミン含有無機多孔質材、ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールの表面が金属酸化物に被覆されるため、火炎による着火を抑制できる。さらに、所定量の金属酸化物などを配合することで、例えば、ベンゾトリアゾールが着火した場合でも、金属酸化物の自己消火作用により早期に鎮火する。
【0018】
まず、(A)無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させたアミン含有無機多孔質材について説明する。このように、アミン化合物を無機多孔質材に含浸させてアミン含有無機多孔質材とすることにより、液体状のアミン化合物を粉末体として取扱うことができ、操作性が向上する。
【0019】
前記無機多孔質材(a1)としては、アミン化合物を吸収できるものであれば特に限定されず、例えば、珪藻土、シリカゲル、ゼオライト、珪酸カルシウム、カオリナイトなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アミンの吸収量が大きいことから、珪藻土が好適である。
【0020】
前記無機多孔質材(a1)の粒子径は5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下である。なお粒子径の下限は特に限定されない。前記無機多孔質材(a1)のBET比表面積は1m2/g以上が好ましく、より好ましくは10m2/g以上である。無機多孔質材のBET比表面積は、材料の種類により異なるが、例えば、珪藻土は20m2/g程度、シリカゲルやゼオライトは600m2/g程度、酸化アルミニウムは10m2/g程度である。
【0021】
前記アミン化合物(a2)は、鉄鋼金属に対して優れた防錆効果を発揮する。前記アミン化合物(a2)としては、例えば、モノエタノールアミン(経口ラットLD50:1720mg、沸点:171℃(以下同様))、モノイソプロパノールアミン(1715mg、160℃)、2−ジメチルエタノールアミン(2000mg、135℃)、2−ジエチルエタノールアミン(1300mg、162℃)、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール(2130mg、159℃)などの水酸基含有アミン;モルホリン(1450mg、128℃)、N−メチルモルホリン(1960mg、115℃)、N−エチルモルホリン(1780mg、138℃)などの環式アミン;ジエチルアミン(540mg、55℃)、トリエチルアミン(460mg、90℃)、ジプロピルアミン(770mg、84℃)、トリプロピルアミン(72mg、157℃)、ジブチルアミン(189mg、138℃)、トリブチルアミン(540mg、216℃)、モノオクチルアミン(250mg、178℃)、ジオクチルアミン(595mg、297℃)、ジ−2−エチルヘキシルアミン(450mg、169℃)、ジメチルオクチルアミン(382mg、193℃)、ジシクロへキシルアミン(373mg、256℃)などのアルキルアミン;が挙げられる。これらのアミン化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、防錆効果が高く、かつ、物質の安全性を見る急性毒性の指標である半数致死量(LD50)の値が大きく安全性が高いことから、2−ジメチルエタノールアミン、3−ジメチルアミノ−1−プロパノール、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリンが好適である。
【0022】
前記無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させる方法は特に限定されず、無機多孔質材にアミン化合物を滴下して、密閉して混合する方法などを採用すればよい。充分に混合しても無機多孔質材の表面が濡れて粉末の流動性が悪い場合は、無機多孔質材を追加して混合すればよい。また、アミン化合物の粘度が高すぎる場合には有機溶剤で希釈してから、含浸させてもよい。
【0023】
前記無機多孔質材(a1)に対する(A)アミン化合物含有無機多孔質材中のアミン化合物(a2)の質量比((a2)/(a1))は0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.4以上であり、2以下が好ましく、より好ましくは1以下、さらに好ましくは0.8以下である。前記質量比((a2)/(a1))が0.1以上であれば、アミン化合物を吸収していない無機多孔質材の量を低減できるためより経済的となり、2以下であれば、無機多孔質材が多く、アミン化合物含有無機多孔質担体粉末の流動性が高くなるため、(B)金属酸化物などと混合しやすくなり、より非可燃性が向上する。
【0024】
(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールについて説明する。前記ベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールは、それ自身が気化性を有するものであり、銅、亜鉛、アルミニウムなどの非鉄金属に対して優れた防錆効果を発揮する。これらのベンゾトリアゾールおよびトリルトリアゾールは、単独で使用してもよいが、併用することが好ましい。これらを併用する場合、質量比(トリルトリアゾール/ベンゾトリアゾール)は0.1以上が好ましく、より好ましくは0.5以上であり、20.0以下が好ましく、より好ましくは10.0以下である。
【0025】
(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種について説明する。前記(C)成分は、上記アミン化合物(a2)や、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールへの火炎による着火を抑制するため、および、気化性防錆材に自己消火性能を付与するために配合する。
【0026】
前記(C)成分としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化チタンなどの金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムマグネシウム炭酸塩水和物などの金属水酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩;ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウムなどの金属ケイ酸塩;第二リン酸アルミニウム、第三リン酸アルミニウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウムなどの金属リン酸塩;などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、金属炭酸塩、金属水酸化物が好適である。
【0027】
前記(C)成分の平均粒子径は、15μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。平均粒子径が15μm以下であれば、前記(A)アミン化合物含有多孔質材や、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールの表面をより緻密に覆うことができ、気化性防錆剤の非可燃性がより向上する。前記(C)成分の平均粒子径の下限は特に限定されないが、通常1μm程度である。ここで、平均粒子径とは、レーザー回折法により測定される値である。
【0028】
本発明の気化性防錆剤は、上述した(A)アミン化合物含有無機多孔質材、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾールおよび(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種を、混合することで調製できる。なお、これらを混合する方法は特に限定されず、機械的に混合すればよい。
【0029】
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計を100質量%としたとき、(a2)成分の含有率は1質量%以上が好ましく、より好ましくは5質量%以上であり、15質量%以下が好ましい。前記(a2)成分の含有率が1質量%以上であれば、鉄鋼金属に対する防錆効果がより良好となり、また15質量%以下であれば、可燃性の揮発成分が少なくなり、気化性防錆剤がより非可燃性となる。また、前記(a2)成分の含有率が15質量%を超えると、相対的に(B)成分が少なくなるため、非鉄金属に対し悪影響をしめすおそれがある。
【0030】
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分含有率は5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上であり、45質量%以下が好ましい。前記(B)成分の含有率が5質量%以上であれば、非鉄金属に対する防錆効果がより良好となり、また45質量%以下であれば、可燃性の揮発成分が少なくなり、かつ相対的に(C)成分が多くなり、気化性防錆剤がより非可燃性となる。
【0031】
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計を100質量%としたとき、(a1)成分と(C)成分の合計含有率は50質量%以上が好ましく、90質量%以下が好ましい。前記(a1)成分と(C)成分の合計含有率が50質量%以上であれば、不燃物成分が多くなり気化性防錆剤の自己消火性能がより向上する、また90質量%以下であれば、相対的に防錆成分((a2)成分、(B)成分)の含有率が増加し、防錆効果がより良好となる。
【0032】
気化性防錆剤中の前記(B)成分に対する前記アミン化合物(a2)の質量比((a2)/(B))は0.13以上、好ましくは0.4以上であり、10以下、好ましくは3以下である。前記質量比((a2)/(B))が0.13未満では、相対的に(a2)成分が少なく、鉄鋼金属に対する防錆効果が劣る。そのため、鉄鋼金属に対して防錆効果を得るためには、気化性防錆剤を多量に用いる必要があり、経済的でない。一方、前記質量比((a2)/(B))が10を超えると、相対的に(B)成分が少なくなり、非鉄金属に対する防錆効果が劣る。また、(B)成分による非鉄金属に対する防錆効果を得るためには、気化性防錆剤の使用量を増加させる必要があるが、この場合、(a2)成分が過剰となり、非鉄金属に対して変色などの悪影響を及ぼすこととなる。
【0033】
気化性防錆剤中の前記(a2)成分に対する前記(C)成分と前記(a1)成分の合計量の質量比(((C)+(a1))/(a2))は6.00以上、好ましくは7.00以上であり、30以下、好ましくは15以下である。前記質量比(((C)+(a1))/(a2))が6.00未満では、可燃性の揮発成分である(a2)成分に対する不燃物成分量((C)成分、(a1)成分)が少ないため、気化性防錆剤が可燃性となってしまう。一方、前記質量比(((C)+(a1))/(a2))が30を超えると、相対的に防錆成分((a2)成分、(B)成分)の含有率が低下し、防錆効果が劣り、効果を出すためには防錆剤量が多く必要となり資源の無駄となる。
【0034】
気化性防錆剤中の前記アミン化合物(a2)に対する前記(C)成分の質量比((C)/(a2))は3以上が好ましく、より好ましくは5以上であり、20以下が好ましい。前記質量比((C)/(a2))が3以上であれば、気化性防錆剤の非可燃性をより向上でき、20以下であれば、配合される(C)成分のほぼ全てが気化性防錆剤の非可燃性向上に寄与することとなり、(C)成分の使用量を減らすことができ、無駄をなくすことができる。
気化性防錆剤中の前記アミン化合物(a2)と前記(B)成分の合計量に対する前記(C)成分の質量比((C)/((a2)+(B)))は1以上が好ましく、より好ましくは1.5以上であり、10以下が好ましく、より好ましくは5以下である。前記質量比((C)/((a2)+(B)))が1以上であれば、気化性防錆剤の非可燃性をより向上でき、また、10以下であれば、配合される(C)成分のほぼ全てが気化性防錆剤の非可燃性向上に寄与することとなり、無駄をなくすことができる。
【0035】
本発明の気化性防錆剤は、粉粒状のまま、あるいは顆粒状または錠剤状に成形したものを、不織布や通気性発泡シートにより包装して分包品として使用することが好ましい。このように分包品とすることにより、粉が飛散しないため、利便性が向上する。なお、気化性防錆剤は、ポリエチレンフィルムよりなる袋や金属缶に密封保存することで、有効成分が気化して消失することを防止できる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
(1)小ガス炎着火試験
危険物の試験及び性状に関する省令(平成元年二月十七日自治省令第一号)第2条に準じて小ガス炎着火試験を行った。
試験は、温度20℃、湿度50%、気圧一気圧(1013hPa)の無風の場所で行った。厚さが10mm以上の無機質の断熱板の上に気化性防錆剤(乾燥用シリカゲルを入れたデシケータ中に、温度20℃で24時間以上保存したもの)を、直径3cm半球状となるように置いた。
次に、液化石油ガスの火炎(先端が棒状の着火器具の拡散炎とし、火炎の長さが当該着火器具の口を上に向けた状態で70mmとなるように調節したもの)を、前記防錆剤に10秒間接触(火炎と気化性防錆剤の接触面積は2cm2とし、接触角度は30°とする。)させた。
火炎を気化性防錆剤に接触させてから気化性防錆剤が着火するまでの時間を測定し、気化性防錆剤が燃焼(炎を上げずに燃焼する状態を含む。)を継続するか否かを観察した。そして、火炎を気化性防錆剤に接触させている間に該気化性防錆剤のすべてが燃焼した場合、火炎を離した後10秒経過するまでの間に気化性防錆剤のすべてが燃焼した場合、または、火炎を離した後10秒以上継続して気化性防錆剤が燃焼した場合には、可燃物に該当すると判断した。可燃物に該当するものを「該当」、該当しないものを「非」とした。
【0038】
(2)防錆試験
気化性防錆剤(0.5g〜4g)を不織布に入れて気化性防錆剤分包品を作製した。この気化性防錆剤分包品と試験片金属とを、ポリプロピレン製の籠(28×13×17cm)の中に、一緒に吊り下げた。この籠を厚み100μmのポリエチレンフィルムからなる袋(50×50cm)に入れて、袋の端をたたんでテープで簡単に止めた。この際、袋の内容量は約8Lである。
【0039】
試験片の種類および寸法
鋳鉄板:JIS G 5501(1995) FC−200、50×50×6mm
炭素鋼:JIS G 4051(2005) S45C、30×30×8mm
冷間圧延鋼板:JIS G 3141(2009) SPCC、40×60×2mm
銅板:JIS H 3100(2006) C1100P、40×60×3.2mm
亜鉛板:旧JIS 第2種、40×60×2mm
アルミニウム合金ダイカスト:JIS H 5302(2006) ADC−12、35×65×1.5mm
試験片の前処理
鋳鉄板、炭素鋼および冷間圧延鋼板は、#240の研磨布で乾式研磨後、灯油、メタノール、アセトン中で洗浄脱脂して乾燥させた。銅板、亜鉛板およびアルミニウム合金ダイカストは、#320の耐水研磨紙を用いて脱イオン水を流しながら湿式研磨後、メタノール、アセトン中で洗浄脱脂して乾燥させた。
次に、試験片を入れた袋を環境試験機内に設置して、20℃・50%RH・16時間放置後、(1)15℃・8時間;(2)50℃・95%RH・8時間;を1サイクルとして、(1)〜(2)を13サイクルさせた後、試験片表面の錆および腐食、変色状態を評価した。
評価基準
◎:腐食無し、変色無し。
○:極僅かな腐食もしくは点さびが1〜3個、変色面積10%未満。
△:軽度の腐食もしくは点さびが4〜9個、変色面積10%以上30%未満。
×:明確な腐食もしくは点さびが10個以上、変色面積30%以上50%未満。
××:全面腐食、変色面積50%以上。
【0040】
防錆剤の調製
無機多孔質材としての珪藻土またはシリカゲルに、表1、2に示した配合となるように、アミン化合物を含浸させて、アミン含有無機多孔質材を得た。アミン化合物の含浸は、ポリエチレンの広口瓶に、無機多孔質材とアミン化合物を一緒に入れて充分に振り混ぜて調整した。得られたアミン含有無機多孔質材と、ベンゾトリアゾールまたはトリルトリアゾール、金属炭酸塩などを、表1、2に示す配合となるように混合し、防錆剤No.1〜14を得た。
【0041】
また、ジシクロへキシルアミン亜硝酸塩(DICHAN)、シクロへキシルアミンの炭酸塩(CHC)、DICHAN含有防錆剤、ベンゾトリアゾール、およびトリルトリアゾールを防錆剤No.15〜19とした。ここで、前記DICHAN含有防錆剤とは、特開2001−31966号公報(実施例1)に開示されたものであり、DICHAN50質量%、安息香酸アンモニウム30質量%、炭酸水素ナトリウム3質量%、セルロース1質量%、粉末樹脂16質量%を混合したものである。
得られた防錆剤について、小ガス炎着火試験、防錆試験を行った。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

表1および表2中、下線は本発明の規定範囲外であることを示す。
珪藻土RC417:昭和化学工業製、焼成珪藻土、(粒度1mm、BET比表面積20m2/g)
シリカゲル60N:関東化学製、破砕状、中性、(粒子径63〜200μm、シリカゲル600m2/g)
2−ジメチルエタノールアミン:関東化学製
N−エチルモルホリン:関東化学製
N−メチルモルホリン:関東化学製
3−ジメチルアミノ−1−プロパノール:関東化学製
ベンゾトリアゾール:キレスト製
トリルトリアゾール:キレスト製
炭酸マグネシウム金星:神島化学工業製、含水塩基性炭酸マグネシウム(平均粒子径7μm、粒径10μm以下67質量%、粒径10μm以上33質量%)
水酸化カルシウム:近江工業製、粉末石灰、(平均粒子径13μm、粒径10μm以下35質量%、粒径10μm以上65質量%)
DICHAN:キレスト製、ジシクロへキシルアミンの亜硝酸塩
CHC:キレスト製、シクロへキシルアミンの炭酸塩
【0044】
小ガス炎着火試験について
防錆剤No.1〜8、11、12および14は、気化性防錆剤中の(a2)成分に対する(C)成分と(a1)成分の合計量の質量比(((C)+(a1))/(a2))が6.00以上であり、いずれも非可燃性を有している。その他の防錆剤No.9、10、13、15〜19は、前記質量比(((C)+(a1))/(a2))が6.00未満であり、可燃物に該当し、防錆剤No.15〜19も(C)成分が入っていない為、可燃物に該当した。
【0045】
防錆試験について
防錆剤No.1〜8は、(B)成分に対する(a2)成分の質量比((a2)/(B))が0.13以上10以下であるが、これらはいずれも2gという少ない使用量で、鉄鋼金属および非鉄金属のいずれに対しても優れた防錆効果を発揮することがわかる。ここで、防錆剤No.1を4gと多量に使用すると、最も錆びやすい鋳鉄においても錆の発生を防ぐことができ、かつ、変色しやすい銅においても僅かに変色する程度であり、ブランクよりも変色が少なかった。また、防錆剤No.1の使用量を0.5gと少量にした場合でも、鋳鉄においてはブランクよりもはるかに錆を抑制でき、かつ、非鉄金属では錆も変色も生じなかった。
【0046】
防錆剤No.11は、前記質量比((a2)/(B))が10を超える場合であるが、(B)成分が少なすぎるため、非鉄金属に対して防錆効果が十分でなかった。なお、防錆剤No.11は(a2)成分が過剰であるため、使用量を増加させた場合、(B)成分による防錆効果が発揮されるが、(a2)成分の作用により非鉄金属が変色を生じることが考えられる。防錆剤No.12、14は、前記質量比((a2)/(B))が0.13未満の場合であるが、(a2)成分が少なすぎるため、鉄鋼金属に対して防錆効果が十分でなかった。なお、防錆剤No.12、14は、使用量を増加させることにより鉄鋼金属に対しても防錆効果を発揮することが予測されるが、使用量が膨大となり経済的でない。
【0047】
防錆剤No.15(DICHAN)は、鋳鉄に対する防錆効果が小さく、また、亜硝酸塩の影響で銅、亜鉛についてはブランクより悪い結果を示した。防錆剤No.16(CHC)は、シクロヘキシルアミンのアルカリ性で、鋳鉄に対しても防錆効果を示すが、そのシクロへキシルアミンの影響で銅、亜鉛についてはブランクより悪い結果を示した。防錆剤No.17(DICHAN含有防錆剤)は、複分解反応により亜硝酸アンモニウムが発生し、鋳鉄まで効果を示すが、亜硝酸塩の影響で銅、亜鉛についてはブランクより悪い結果を示した。防錆剤No.18、19は、非鉄金属に対しては防錆効果を発揮するが、鉄鋼金属に対しては防錆効果を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の防錆剤は、鉄鋼金属および非鉄金属の防錆に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機多孔質材(a1)にアミン化合物(a2)を含浸させたアミン含有無機多孔質材、(B)ベンゾトリアゾールおよび/またはトリルトリアゾール、ならびに、(C)金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩および金属リン酸塩よりなる群から選択される少なくとも1種を含有し、
前記(B)成分に対する前記アミン化合物(a2)の質量比が0.13以上10以下であり、
前記(a2)成分に対する前記(C)成分と前記(a1)成分の合計量の質量比が6.00以上30以下であることを特徴とする非可燃性を有する気化性防錆剤。
【請求項2】
前記(C)成分が、金属炭酸塩または金属水酸化物である請求項1に記載の気化性防錆剤。
【請求項3】
前記(C)成分の平均粒子径が1μm以上15μm以下である請求項1または2に記載の気化性防錆剤。
【請求項4】
前記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計を100質量%としたとき、
前記(a2)成分含有率が1質量%以上15質量%以下、
前記(B)成分含有率が5質量%以上45質量%以下、
前記(a1)成分と(C)成分の合計含有率が50質量%以上90質量%以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の気化性防錆剤。
【請求項5】
前記アミン化合物(a2)に対する前記(C)成分の質量比が3以上20以下であり、かつ、前記アミン化合物(a2)と前記(B)成分との合計量に対する前記(C)成分の質量比が1以上10以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の気化性防錆剤。
【請求項6】
前記無機多孔質材(a1)に対する前記アミン化合物(a2)の質量比が0.1以上2以下である請求項1〜5のいずれか一項に記載の気化性防錆剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の気化性防錆剤を、不織布または通気性発泡シートにより包装した気化性防錆剤分包品。