説明

非拡散植物ウイルスベクター

【課題】非拡散植物ウイルスベクター、植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システム及びその発現方法を提供する。
【解決手段】キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させることを特徴とする植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム、その発現方法。
【効果】ウイルス増殖に必要な遺伝子を導入した組換え植物においてのみ、ウイルスベクターの感染増殖が可能であり、意図せぬ組換えウイルスの拡散を回避できる新しい非拡散植物ウイルスベクター、植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システム及びその発現方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非拡散植物ウイルスベクターに関するものであり、更に詳しくは、ウイルスの植物体の細胞間移行に関する遺伝子を欠落させた植物ウイルスベクターと、別に植物体への細胞間移行に必要なタンパク質遺伝子を植物体に導入することにより、通常の植物に接種しても増殖できないが、上記細胞間移行に必要なタンパクを発現する植物体でのみ増殖可能な非拡散ウイルスベクター、植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システム及びその発現方法に関するものである。本発明は、土壌伝染、昆虫媒介、接触伝播等の無秩序なウイルスベクターの拡散が起きないようにした非拡散植物ウイルスベクター、植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システム及びその発現方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物RNAウイルスベクターの研究は、感染植物における増殖能が非常に高いタバコモザイクウイルス(Tobacco mosaic virus,TMV)とブロモモザイクウイルス(Bromo mosaic virus,BMV)の感染性クローンを用いて行われてきた。そして、この分野では、ウイルス遺伝子の発現様式の違いなどから、今までに、いくつかの外来遺伝子の発現方式が開発されている。
【0003】
ここで、それらを紹介すると、例えば、TMVやポティウイルス属(Potyvirus)では、ウイルスCP遺伝子と外来遺伝子が融合したタンパク質を発現するベクターが開発されている(非特許文献1〜2参照)。また、TMVと近縁のウイルス(Odontoglossum ringspot virus)のサブゲノミックプロモーターを導入することにより、サブゲノムを介して外来遺伝子を発現させるベクターも開発されている(非特許文献3参照)。
【0004】
ただ、これまでは、このようなウイルスベクターの開発には、主にTMVやポティウイルス属に代表される、棒状、ひも状のウイルスが使用されてきた。それは、棒状、ひも状のウイルスベクターは、球状ウイルスに比べ、挿入できる外来遺伝子の長さに物理的制限が少ないという利点があるからである。一方、球状ウイルスであるBMVにおける発現ベクターの系としては、1aタンパク質、2aタンパク質の複製酵素遺伝子を発現するタバコに、外来遺伝子をもつRNA3を接種するという方法が報告されている(非特許文献4参照)。
【0005】
また、CMVにおいても、ウイルスベクターについて、幾つかの研究がなされている。その一つは、complementation による4分節CMVベクターの開発である(非特許文献5参照)。CMVのRNA3にはMPとCPがコードされており、ウイルスの細胞間移行にはMPとCPの両方が必須である(非特許文献5参照)。
【0006】
そこで、これまでに、本発明者らは、RNA3分子を改変し、MP領域をGFP遺伝子に置換したRNA3AとCP遺伝子を持たないRNA3Bを構築し、complementation により細胞間移行するウイルスベクターを開発した。これを、RNA1、RNA2、RNA3A、及びRNA3Bの4分節のウイルスゲノムを持つCMVとして、ベンタミアーナに接種したところ、接種葉のminor veinでGFP蛍光が観察された。
【0007】
また、RNA3Bで欠失させたCP領域にマルチクローニングサイトを挿入し、そこに、GUS(bacterial−β−glucuronidase)遺伝子やBYMV(Bean yellow mosaic virus)のCP遺伝子を導入したところ、接種葉のminor veinにおいて、GUS活性やBYMV−CPが検出された。しかし、このRNA3A、RNA3Bが、互いにhomologous RNA recombinationを起こし、上葉では、導入遺伝子の発現は見られなかった。
【0008】
その他に、先行技術として、種々の異なった宿主植物に適用可能なキュウリモザイクウイルスベクターで各種タンパク質を生産すること等、各種の関連技術が開発されている(非特許文献7〜11)。
【0009】
【非特許文献1】Sugiyama,Y.,Hamamoto,H.,Takemoto,S.,Watanabe,Y.and Okada,Y.,Systemic production of foreign peptides on the particle surface of Tobacco mosaic virus,FEBS Letters 359,247−250(1995)
【非特許文献2】Fernandez−Fernandez,M.R.,Martinez−Torrecuadrada,J.L.,Casal,J.I.and Garcia,J.A.,Development of an antigen presentation system based on plum pox potyvirus,FEBS Letters 427,229−235(1998)
【非特許文献3】Donson et al.,Systemic expression of a bacterial gene by a tabacco mosaic virus−based vector,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7204−7208(1991)
【非特許文献4】Mori,M.,Kaido,M.,Okuno,T.and Furusawa,I.,mRNA amplification system by viral replicase in transgenic plants,FEBS Lett.336,171−174(1993)
【非特許文献5】Zhao,Y,,Hammond,J.Tousignant,M.E.and Hammond,R.W.,Development and evaluation of a complementation−dependent gene delivery system based on Cucumber mosaic virus, Archives of Virology 145,2285−2295(2000)
【非特許文献6】Canto,T.,Prior,D.A.,Hellward K.H.,Oparka,K.J.,Palukaitis,P.,Characterization of cucumber mosaic virus.IV.Movement protein and coat protein are both essential for cell−to−cell movement of cucumber mosaic virus,Virology 237,237−248(1997)
【非特許文献7】Matsuo,K,Hong,JS,Tabayashi,N,Ito,A,Masuta,C,Matsumura,T.Development of Cucumber mosaic virus as a vector modifiable for different host species to produce therapeutic proteins.Planta(2007)225:277−286
【非特許文献8】Baulcombe,DC,Chapman,S,Santa Cruz,S.Jellyfish green fluorescent protein as a reporter for virus infections.Plant J(1995)7:1045−1053
【非特許文献9】Wang,ZD,Ueda,S,Uyeda,I,Yagihashi,H,Sekiguchi,H,Tacahashi,Y,Sato,M,Ohya,K,Sugimoto,C,Matsumura,T.Positional effect of gene insertion on genetic stability of a clover yellow vein virus−based expression vector.J Gen Plant Pathol(2003)69:327−334
【非特許文献10】Mitsuhara,I,Ugaki,M,Hirochika,H,Ohshima,M,Murakami,T,Gotoh,Y,Katayose,Y,Nakamura,S,Honkura,R,Nishimiya,S,Ueno,K,Mochizuki,A,Tanimoto,H,Tsugawa,H,Otsuki,Y,Ohashi,Y.Efficient promoter cassettes for enhanced expression of foreign genes in dicotyledonous and monocotyledonous plants.Plant Cell Physiol(1996)37:49−59
【非特許文献11】Murashige,T,Skoog,F.A revised medium for rapid growth and bio assays with tobacco tissue cultures Physiol Plantarum(1962):15473−15497
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、従来の植物ウイルスベクターのように、無秩序に宿主植物に感染が成立し、意図せぬ組換えウイルスの遺伝子の拡散が引き起こされる、という問題を確実に解消することが可能な、拡散しない新しい非拡散植物ウイルスベクターを開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、ウイルスの植物体での細胞間移行に関与するタンパク質を発現させた特定の組換え植物体のみで感染、増殖が可能で、意図せぬウイルスベクターの無秩序な感染拡大が起こらない、新しい非拡散植物ウイルスベクターを開発することに成功し、本発明を完成させるに至った。本発明は、土壌伝染、昆虫媒介、接触伝播等の意図せぬウイルスベクターの無秩序な感染拡大が起こらない、新しい非拡散植物ウイルスベクターを提供することを目的とするものである。また、本発明は、植物体での細胞間移行に必要なタンパク質を別に発現させた特定の組換え植物体と、上記非拡散植物ウイルスベクターとを組み合わせて、植物を利用した物質生産技術を提供することを目的とするものである。
【0011】
従来のすべての植物ウイルスベクターは、無秩序に宿主植物に感染が成立し、意図せぬ組換えウイルス遺伝子の拡散が引き起こされ、特に昆虫によって伝播されるものによってはその危険度が高い。本発明は、ウイルス増殖に係る遺伝子を導入した特定の組換え植物体においてのみ、ウイルスベクターの感染、増殖を可能にして、昆虫や接触による意図せぬ組換えウイルスの拡散を回避可能にした植物ウイルスベクターの初めての選択的・特異的発現システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターであって、上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させる作用を有することを特徴とする植物ウイルスベクター。
(2)上記植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、前記(1)に記載の植物ウイルスベクター。
(3)上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では、感染及び増殖が成立しない、前記(1)又は(2)に記載の植物ウイルスベクター。
(4)キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させることを特徴とする植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(5)上記細胞間移行に係る遺伝子が、植物体の細胞間の原形質連絡糸の拡大あるいはウイルスゲノムとの結合によりウイルスの移行に関与する遺伝子である、前記(4)に記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(6)上記キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、前記(4)又は(5)に記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(7)上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物が、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を導入した形質転換体である、前記(4)から(6)のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(8)上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換体が、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として挿入した組換えベクターを導入した形質転換体である、前記(4)から(7)のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(9)上記非拡散植物ウイルスベクターが、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では感染及び増殖が成立しない、前記(4)から(8)のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
(10)キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対して選択的・特異的に感染及び増殖させることを特徴とする植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
(11)上記キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、前記(10)に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
(12)上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物が、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を導入した形質転換体である、前記(10)に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
(13)上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換体が、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として挿入した組換えベクターを導入した形質転換体である、前記(10)に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
(14)上記非拡散植物ウイルスベクターが、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では感染及び増殖が成立しない、前記(10)に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターであって、上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させる作用を有することを特徴とするものである。本発明において、キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子とは、ウイルスゲノムを隣接細胞に移行させるために、原形質連絡(高等植物の隣接細胞同士をつなげている細胞間橋)の排除分子量限界を拡大することのできる蛋白質(cell to cell movement protein)で、植物ウイルスゲノムにコードされる遺伝子として定義される。
【0014】
また、本発明は、上記植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システムであって、キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させることを特徴とするものである。
【0015】
更に、本発明は、上記植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法であって、キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対して選択的・特異的に感染及び増殖させることを特徴とするものである。
【0016】
本発明では、上記植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターであること、また、上記キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターであること、を好ましい実施の態様としている。
【0017】
また、本発明では、上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物が、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を導入した形質転換体であること、上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換体が、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として挿入した組換えベクターを導入した形質転換体であること、を好ましい実施の態様としている。
【0018】
本発明では、植物ウイルスが感染植物体内で細胞間移行するのに必要なゲノム遺伝子情報を欠落させた植物ウイルスベクターを構築する。一方で、当該ウイルスが細胞間移行に必要な遺伝子だけを発現させた組換え植物体を作出する。この組換え体に、当該植物ウイルスベクターを接種したときのみ、ウイルスベクターが全身に移行し、増殖可能となるが、他の植物体においては、細胞間移行に必要な遺伝子産物がないため、ウイルスベクターの増殖及び他植物体への伝播が起きない。
【0019】
従来のウイルスベクターは、接種、感染植物体から他の宿主植物対へ無秩序に感染が拡大する可能性がある。感染植物体内で移動するのに必要な遺伝子を欠落させたウイルス(ベクター)は、接種した植物では増殖ができない。欠失させた移動に必要な遺伝子を導入した形質転換植物体、あるいは、当該遺伝子を他のウイルスベクターで導入した植物体では、上記のウイルスベクターが増殖可能になる。しかし、このウイルスベクターは、普通の植物体では、増殖ができないため、従来のウイルスベクターのように、無秩序に感染が拡大することはない。
【0020】
本発明では、ウイルスの細胞間移行能力を欠失したウイルスベクターを構築した。植物ウイルスベクターとして、キュウリモザイクウイルスベクター(CMVベクター)を用いた。このCMVウイルスの植物体での細胞間移行に必要な遺伝子産物は、RNA3にコードされている3aタンパク質であり、CMVの3aタンパク質が、細胞間移行に関与している。そこで、CMVベクターの3a遺伝子を欠失させた3a遺伝子産物を発現しない△3aCMVベクターを構築した。
【0021】
CMVの遺伝子産物である3aタンパク質は、植物体細胞に侵入すると、となりの細胞に対して原形質連絡糸を拡げ、ウイルスの細胞間移行を可能にする。CMVの3aタンパク質遺伝子を欠失させたCMVベクターは、原形質連絡糸を拡げられないので、ウイルスの細胞間移行ができないことになり、ウイルスが植物体の全身に広がらず、無秩序にウイルスが拡散することはない。しかし、このままでは、ベクターとして役立たないことになる。
【0022】
そこで、本発明者らは、3aタンパク質を外から供給することで、△3aCMVベクターの増殖、細胞間移行を可能にするために、他のウイルスベクターでCMVの3aタンパク質を発現させるベクターを構築し、植物体におけるTissue printingによる△3aCMVベクターの感染の確認テストを試みた。その結果、他のウイルスベクターから供給された3aタンパク質がトランスに機能して、△3aCMVベクターの全身移行及び目的物質(抗Dx抗体)の発現を可能にすることが分かった。
【0023】
次に、3aタンパク質遺伝子を欠失させたベクター(△3a)でも、細胞間移行可能なCMV(△3a)用組換え植物を開発するために、CMVの3a遺伝子を組み込んだ他のベクターと、△3aCMVベクターをタバコに混合接種することを試みた。その結果、3a形質転換タバコでは、△3aCMVベクターが植物体全身に移行可能になることが分かった。その結果、ウイルスの細胞間移行に関する遺伝子を欠落させた植物ウイルスベクターは、単独では増殖できず、拡散、伝播できないか、別に細胞間移行可能なタンパク質を導入することで、△3aCMVベクターの全身感染が可能になり、ベクターとして機能させることができることが分かった。
【0024】
実際に用いた植物ウイルスベクターは、キュウリモザイクウイルスベクター(CMVベクター)である。このウイルスの細胞間移行に必要な遺伝子は、RNA3にコードされている3aタンパク質である。そこで、3a遺伝子産物を発現しないCMVベクター、即ち、△3aCMVベクターを構築した。このベクターを単独で宿主植物(タバコ)に接種しても感染が認められないことを確認した。
【0025】
一方、CMVの3a遺伝子を、他のウイルスベクターに組み込み、このベクターと△3aCMVベクターをタバコに混合接種すると、全身感染が認められた。具体的には、CMVの3a遺伝子をクローバー葉脈黄化ウイルスベクター(ClYVVベクター)等に組み込み、このベクターと△3aCMVベクターをタバコに混合接種すると、全身感染が認められた。即ち、CMVとは異なるウイルスベクターからCMVの3aタンパク質が接種植物体内でトランスに供給されることにより、△3aCMVベクターが細胞間移行して全身感染が成立したためである。
【0026】
この結果から、本発明の技術思想、即ち、ウイルスの細胞間移行に関する遺伝子を欠落させた植物ウイルスベクターは、単独では増殖できない、即ち、単独では拡散、伝播できないが、細胞間移行に必要なタンパク質を別途供給することで、全身感染が可能になり、ベクターとして機能させることができることが証明された。
【0027】
更に、3aタンパク質遺伝子を導入した組換えタバコを作出し、これに△3aCMVベクターを接種した場合、ウイルスベクターの細胞間移行、更には全身感染が確認できた。これらの結果から、△3aCMVベクターは、通常の植物に接種しても増殖できないが、3aタンパク質を発現する植物体でのみ増殖可能であること、即ち、△3aCMVベクター単独での無秩序なウイルスベクターの拡散は起きないこと、を証明できた。
【0028】
本発明は、非拡散植物ウイルスベクター、及び非拡散植物ウイルスベクターと特定の形質転換植物体とを組み合わせた当該非拡散植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現システムに係るものであり、本発明は、遺伝子組換え技術と同様に、個別的なベクター及び宿主植物体の種類に制限されず、昆虫媒介、接触伝播等を行う植物ウイルスベクターであれば、広く適用可能な一般的、普遍的な技術である。したがって、本発明においては、昆虫媒介、接触伝播等を行う植物ウイルスベクター及び宿主植物体の種類は、特に制限されるものではない。
【0029】
本発明において、特に、非拡散植物ウイルスベクターを利用した植物体の形質転換方法に係る発明は、方法に係る発明として、本発明の非拡散植物ウイルスベクターと、特定の形質転換植物体を組み合わせることで、植物ウイルスベクターが無秩序に宿主植物に感染が成立し、意図せぬ組換えウイルス遺伝子が拡散することを抑制するための新しい技術思想を提供するものであり、昆虫媒介、接触伝播等を行う個別な植物ウイルスベクターの種類、及び形質転換植物体の種類に制限されることなく、広く適用可能な一般的技術である。尚、後記する実施例に示したように、本発明では、植物ウイルスベクターとして、具体的には、キュウリモザイクウイルスベクター(CMVベクター)を用いて、非拡散植物ウイルスベクター及び形質転換植物体の選択的・特異的感染及び増殖系の成立を証明した。本発明は、CMVベクターに適用されるが、植物ウイルスベクターの使用の態様として、他の植物ウイルスベクターの場合についても同様に適用可能である。
【0030】
従来のウイルスベクターは、接種した感染植物体から意図せぬウイルスベクターの感染拡大は避けられなかった。本発明は、ウイルス移行に関与するタンパク質(CMV 3aタンパク質)を発現する組換え植物のみで、感染・増殖が可能であるため、意図せぬウイルスベクターの感染拡大が起こらない。即ち、野外等で使用しても、ウイルスベクターの拡散が起こらないため、ウイルスベクターの使用範囲を飛躍的に拡大することが可能になる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、次のような効果を奏するものである。
(1)無秩序に宿主植物に感染し、意図せぬ組換えウイルスの拡散リスクを回避することができる非拡散植物ウイルスベクターを提供することができる。
(2)ウイルス増殖に必要な遺伝子を導入した組換え植物においてのみ、ウイルスベクターの感染増殖が可能なため、意図せぬウイルスの拡散を回避できる新しい組換え植物のシステムを提供することができる。
(3)単独では、拡散、伝播できないが、細胞間移行に必要なタンパク質遺伝子を別に導入することで、全身感染が可能になり、ベクターとして機能させることができる、非拡散植物ウイルスベクターを提供することができる。
(4)野外等で使用しても、植物ウイルスベクターの拡散が起こらないため、植物ウイルスベクターの利用範囲が飛躍的に拡大する。
(5)本発明の植物ウイルスベクターを使用して組換え植物体を作出しても、ウイルスベクターの増殖、他の植物体への伝播は起きないことから、安全性を確保して、植物ウイルスベクターの利用を図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
(1)野生型供試植物の育成
ベンタミアーナ(N.benthamiana)の育成を、以下の方法により行った。Jiffy−7(サカタのタネ)を吸水させた後、1ポットにつき2−3粒程度の種子を播種し、高温条件を保った。植物体の生育ステージをそろえるために、間引きを行い、植物体は、12時間明条件(8,000lux)、12時間暗条件で生育させ、気温28℃で育てた。その後は、植物体の成長に合わせて施肥した。
【0034】
(2)ベクターの増殖に用いる植物の育成
ClYVVベクターの増殖に用いるソラマメの育成には、培養土(三共)を用いた。4号鉢に土を入れ、十分に水を含ませ、種子を1粒播種した。出芽後、10日たった植物体を、接種に用いた。
【0035】
(3)接種試験
接種には、播種後3−4週間ほど経過し、本葉が3−5枚展開したベンタミアーナ個体を使用した。接種源には、モザイクや縮葉などのウイルス病徴が見られる植物体の上葉の粗汁液、あるいは逆転写RNAを使用した。接種ステージに達した植物において、接種する葉全体にカーボランダム(Nacalai−メッシュ600−乾熱済み)を薄くふりかけた。ウイルス接種用粗汁液は、0.1Mリン酸緩衝液(pH8.0)1mlに、DIECA(N,Nジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム(Wako)、接種直前に添加)を終濃度10mMになるように加えて、接種源となる感染葉0.1gとともに、乳鉢で磨砕して調製した。
【0036】
接種用逆転写RNAは、後述する方法で合成し、その総量と等量の0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)を加えて調製した。いずれの接種においても、ラテックス製指サックに接種液を塗布し、指先で葉の表面を軽くなでるように塗布した。接種後は、直ちに葉面から余分な粗汁液とカーボランダムを水洗し、翌日まで遮光した。0.1Mリン酸カリウム緩衝液は、0.1Mリン酸水素カリウムと0.1Mリン酸二水素カリウムを混合し、pH8.0に調整したものを用いた。
【0037】
(4)コンピテントセルの調製
下記のSOB液体培地2mlに、大腸菌(Escherichia coli)JM109株(TaKaRa)を入れ、37℃で12〜14時間振盪培養した。SOB液体培地50mlに、前培養液を0.5ml接種し、37℃で約1時間半(OD550=0.4〜0.8)振盪培養した。氷上に10分間静置した後、チューブに移し、3500rpm、4℃、10分遠心した後、上清を捨て、氷冷した下記のTFB17mlで穏やかに懸濁した。
【0038】
氷上で20分間静置した後、再び3500rpm、4℃で10分間遠心した。上清を捨て、氷冷したTFB2mlを加え、液面で沈殿を穏やかに懸濁した。氷上で30分間静置した後、DMSO(ジメチルスルフォキシド−Nacalai)150μlを一滴ずつゆっくり加え、再度、氷上で10分間静置した。先太チップで、1.5mlチューブに100μlずつ分注し、−80℃で凍結保存した。
【0039】
SOB液体培地は、BactoTM Tryptone(Becton Dickinson)20g:BactoTM Yeast Extract(Becton Dickinson)5g:1M NaCl溶液10ml、1M KCl溶液2.5mlを混合し、蒸留水でメスアップし、1Lとした後、オートクレーブにより滅菌した。使用直前に濾過滅菌した1M MgCl 溶液(Nacalai)と、1M MgSO 溶液(Nacalai)を1/100量加えて調製した。
【0040】
また、TFB(形質転換緩衝液)は、35mM酢酸カリウム(Nacalai)、50mM CaCl(和光純薬)、45mM MnCl(Nacalai)、100mM RbCl(Nacalai)、15% ショ糖(和光純薬)−酢酸(和光純薬)の組成でpH5.8に調整し、濾過滅菌して調製した。
【0041】
(5)形質転換
緩やかに溶かしたコンピテントセル100μlに、プラスミド1μl(ライゲーション反応液の場合5μl程度)を加え、氷上で30分間静置して混合した。42℃のウォーターバスに45秒間入れ、ヒートショックを行った後、直ちに氷冷し、大腸菌内に組換えプラスミドを導入した。下記の2YT液体培地を加え、37℃で30分間静置培養した。その後、37℃で1時間振盪培養を行った。このうち、100μlを、下記のLB−amp培地に広げた。
【0042】
ブルーホワイトセレクションをする場合には、あらかじめ、2%X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(和光純薬)を、N,N−ジメチルホルムアミド(Nacalai)で2%濃度に溶解)50μl、100mM IPTG(イソプロピル−β−D(−)−チオガラクトピラノシド溶液(和光純薬)−濾過滅菌)10μlを、LB培地上に塗布した後、大腸菌培養液100μlを培地に播いた。12〜16時間、37℃のインキュベーター内で培養した。
【0043】
2YT液体培地は、BactoTM Tryptone16g、BactoTM Yeast Extract10g、NaCl10gを混合し、蒸留水でメスアップして1Lとし、オートクレーブして調製した。また、LB−amp培地は、BactoTM Tryptone10g、BactoTM Yeast Extract5g、NaCl10g、Agar(Wako)15gを混合し、蒸留水でメスアップして1Lとした後、オートクレーブし、50℃ぐらいに冷ましてから50mg/mlアンピシリンストック(Wako−濾過滅菌済み)を1/1000量加え、固まる前に滅菌シャーレに分注して調製した。
【0044】
(6)プラスミド抽出
濃度50mg/mlアンピシリンストック2μlを加えた2YT液体培地2mlの中に、形質転換によって得られた大腸菌のコロニーを、滅菌済み爪楊枝で、拾い入れ、37℃で12〜14時間振盪培養した。この培養液を1.5mlチューブに入れ、10000rpmで3分間遠心した。アスピレーターで、上清を取り除き、下記のSolution−1を100μlずつ加え、チューブミキサーで完全に懸濁した。これに、下記にSolution−2を200μlずつ加え、転倒混和した。
【0045】
次に、下記のSolution−3を、150μlずつ加え、再び、転倒混和した。これを、14000rpmで4℃、5分間遠心し、上清をとってチューブに移し、もう一度遠心(14000rpm 5分間)にかけ、タンパクを完全に除去した。上清を移し、回収した上清と同量のイソプロピルアルコール(Wako)を加え、転倒混和した。14000rpmで5分間遠心し、上清を捨てた。80%エタノール(Nacalai)を500μl加え、14000rpm、5分間遠心し、上清を捨てた。RNaseAを、TE(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA(pH8.0))で終濃度2μg/mlに希釈して、50μlずつ加え、軽くミキサーにかけ、37℃で30分間静置した。
【0046】
これに、下記のSolution−4を、30μl加え、ボルテックスミキサーで撹拌して、氷上で45分間静置した。14000rpmで10分間遠心し、上清を捨てた。80%エタノールを500μl加え、14000rpm、5分間遠心した。上清を捨て、5〜10分間減圧乾燥し、滅菌水30μlで懸濁した。このプラスミドサンプルは、−30℃で保存した。
【0047】
a)Solution−1:
25mM Tris(2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(Wako)−HCl(pH8.0)、10mM EDTA(エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラアセティックアシッド/同仁化学)、50mMグルコース(Wako)
【0048】
b)Solution−2:
0.2N NaOH(Wako)、1% SDS(ラウリル硫酸ナトリウム−Nacalai)
【0049】
c)Solution−3:
5M 酢酸カリウム溶液60ml、酢酸11.5ml、蒸留水28.5ml
【0050】
d)Solution−4:
20%PEG#6000(ポリエチレングリコール−Nacalai)、2.5M NaCl
【0051】
(7)基本的な遺伝子操作の方法
1)制限酵素処理
各メーカーの制限酵素0.5μlと、その添付バッファーを使用し、10μlの反応系で、指定の温度下において、1時間以上静置した。
2)電気泳動
目的のDNAの長さに適した濃度のTBE(89mM Tris−base、89mMホウ酸(Wako)、2mM EDTA)アガロース(Gene pure(登録商標)LE AGAROSE−BM)ゲルを用い、TBEを泳動緩衝液として、泳動を行なった。泳動後、エチジウムブロマイド溶液(終濃度0.5μg/ml)で染色した。
【0052】
3)フェノールクロロホルム抽出
サンプルDNA液に滅菌水を加え、100μlにし、50μlのTE飽和フェノール(ニッポンジーン)と、50μlのクロロホルム(Wako)を加え、チューブミキサーにかけて、1分撹拌して、タンパクを失活させた。14000rpmで、5分間遠心し、1.5mlチューブに水層だけを移した。
【0053】
4)エタノール沈殿
サンプルDNA液100μlに、3M酢酸ナトリウム(ニッポンジーン)10μl、100%エタノール250μlを加えて、撹拌して、14000rpmで、10分間遠心し、上清を取り除いた。500μlの80%エタノールを加え、14000rpmで、5分間遠心した。上清を取り除き、減圧風乾した。
【0054】
5)クローニング
ゲルからDNAを回収する場合、SeaKem(登録商標)GTC(登録商標)agarose(BMA)を使い、直接、EtBrを終濃度0.5μg/mlで入れたアガロースゲルを使用し、電気泳動を行った。目的のバンドを含むゲル片を切り出し、QIAEX(登録商標)II Gel Extraction kit 150(QIAGEN)でDNAを回収した。
【0055】
回収したDNA溶液を、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿した後、5μlの滅菌水に懸濁した。ベクターとインサートのライゲーションには、DNA Ligation Kit <Mighty Mix>(TaKaRa)を使用した。回収したDNA溶液と、等量のLigation Mix液を加えて、懸濁した。16℃で、30分間静置した後、ライゲーション反応液5μlを、E.coliのコンピテントセルに形質転換した。
【0056】
(8)感染性クローンのin vitro 転写
アルカリ−SDS法で抽出した感染性クローン4μlを、run−off転写に用いる制限酵素で線状化し、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿をした後、得られたペレットを3.5μlの滅菌水に懸濁した。転写反応液を、以下のように混合した。
【0057】
(転写反応液)
テンプレート溶液 3.5μl
50mM DTT 2μl
0.1% BSA 2μl
10×T7 RNA polymerase Buffer*11 2μl
2.5×Cap/NTP mix*12 8μl
RNase inhibitor*13 0.5μl
T7 RNA polymerase 2μl
【0058】
*11・・・T7 RNA polymerase(TaKaRa)に添付
*12・・・2.5×Cap/NTP mix(5mM m G(5’)ppp (5’) G RNA Capping Analog(Invitrogen)、3.8mM ATP、3.8mM CTP、3.8mM UTP、0.8mM GTP−Roche)
*13・・・Ribonuclease Inhibitor,recombinant,soln(Wako)
【0059】
37℃で、2時間静置した。RNAの転写は、電気泳動で確認した。すぐに接種しない場合、転写産物は−80℃で保存した。
【0060】
(9)RNA抽出
(フェノール−SDS法)
RNA抽出バッファー500μlと、TE飽和フェノール500μlで、試料0.1gを磨砕して、1.5mlチューブに移した。20秒ほど、ボルテックスミキサーにかけ、14000rpmで、5分間冷却遠心した。上清(水層)を別のチューブに移し、上清と等量のフェノールクロロホルム(1:1)を加え、ボルテックスミキサーにかけて、激しく撹拌した後、14000rpmで、5分間冷却遠心した。上清を別のチューブに移し、白いタンパクの層がなくなるまで繰り返し、フェノールクロロホルム抽出を行った。最後に、等量のクロロホルムでリンスした後、水層をとりわけ、1/10量の3M酢酸ナトリウム、3倍量の100%エタノールを加えた。
【0061】
ボルテックスをかけ、14000rpmで、5分間冷却遠心した。上清を捨て、80%エタノール500μlを加え、14000rpmで、5分間冷却、遠心した。5〜10分間減圧乾燥後、RNA用滅菌水50μlで懸濁し、14000rpmで、1分間ほど、遠心した。沈殿があった場合は、上清だけを、別のチューブに移しかえた。RNA抽出バッファーは、25mM Tris−HCl(pH7.5)、25mM MgCl、25mM KCl、1% SDSの組成である。
【0062】
(10)RT−PCR
1)逆転写反応
以下に示す反応溶液を調製した。
RNase Free dH*15 7.5μl
25mM MgCl *15 4μl
each 10mM dNTP Mixture*15 2μl
10×RNA PCR Buffer*15 2μl
RNase Inhibitor 0.5μl
3’プライマー 1μl
サンプルRNA 2μl
AMV Reverse Transcriptase XL(TaKaRa
)0.5μl
*15・・・RNA PCRTM kit(AMV)Ver.2.1(TaKaR
a)に添付
【0063】
これを、45℃で1時間静置した。その後、逆転写酵素を不活性化するため、これを、5分間ボイルし、5分間急冷した。
【0064】
2)PCR反応
以下のようなPCRミックスを調製した。
滅菌水 8.4μl
25mM MgCl *16 2μl
10×LA PCRTM BufferII(Mg2+free)*16 2μl
each 10mM dNTP Mixture 2μl
5’プライマー 0.2μl
3’プライマー 0.2μl
*16・・・TaKaRa LA TaqTMに添付
【0065】
これに、逆転写反応液5μlを加え、更に、TaKaRa LA TaqTM0.2μlを加え、PCRを行った。PCR産物を、1%アガロースゲルで電気泳動し、目的の断片が増幅されているのを確認した。
【0066】
(11)シークエンス
プラスミドを鋳型に配列を確認する際には、アルカリ−SDS法で抽出したサンプル100ngをシークエンス反応に用いた。また、ダイレクトシークエンスの際には、ゲル片から回収した目的のDNA10ngを、シークエンス反応に用いた。テンプレートDNAに、プライマー1pmol、BigDye(登録商標)Terminator v1.1 Cycle sequencing kit(Applied Biosystems)を1.3μl、添付のバッファーを3.4μl加え、蒸留水で20μlとしたサンプルをシークエンス反応液とし、下の条件でPCRをかけた。
【0067】
96℃ 1分 1サイクル
96℃ 10秒
50℃ 5秒
60℃ 4分 (96℃ 10秒 → 60℃ 4分:30サイクル)
10℃ ∞
【0068】
PCR反応後、100%エタノール64μl、蒸留水16μl加え、室温で15分静置し、14000rpmで、15分間遠心した。上清を取り除き、80%エタノール250μl加え、14000rpmで、10分間遠心した。上清を取り除き、減圧風乾した。HiDiホルムアミド(Applied Biosystems)25μl加え、溶解した後、95℃で3分間変成させ、急冷した。このサンプルを、ABI PRISM(登録商標)310 Genitic Analyzer(Applied Biosystems)にセットし、配列を解析した。
【0069】
(12)ティシュプリント
ろ紙を2枚平滑な面を上にし、その上に葉を置き、更に、平滑な面が葉側になるように、2枚ろ紙を重ね、ハンマーで叩き、葉の内容物をろ紙にブロットした。ろ紙が乾燥してから、プラスチック容器中に2%TritonX−100を加えて、30分間室温で振とうして、クロロフィルなどの色素を落とし、その後、PBST−スキムミルク液(10mM NaPO(pH7.2)、0.9% NaCl、0.1% Tween20、3%スキムミルク)を加えて、室温で30分間振とうすることで、ブロッキング処理を施した。
【0070】
そのろ紙に、アルカリフォスファターゼ(AP)標識抗CMV抗体を、5,000倍希釈したPBST−スキムミルク液を加えて、37℃で、1時間振とうして、抗体処理を行った。その後、PBST−スキムミルク液で、5分間振とうしながら、洗浄し、それを、3回繰り返した。
【0071】
APバッファー(0.1M Tris−HCl(pH9.5)、0.1M NaCl、5mM MgCl)で、5分間振とうし、ろ紙にしみ込んだPBST−スキムミルク液を除き、更に、APバッファーを加えて、30分間振とうして、緩衝液の交換が確実に行われるようにした。0.033%ニトロブルーテトラゾリウム(Wako)と0.0165% 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(Wako)を含むAPバッファー10mlを加えて、室温で振とうさせて発色させた。
【0072】
(13)ウエスタンブロット法
葉重量の5倍量のPBS(10mM NaPO(pH7.2)、0.9% NaCl)で磨砕し、12000rpmで、5分間遠心し、上清を、別のチューブに分注して、下記の2×サンプルバッファーを、等量加えた。これを、5分間95℃で、変性した後、5分間、室温で放置したサンプルを、泳動に用いた。泳動には、コンパクトPAGE(アトー株式会社)を用いた。下記の10×ランニングバッファー10mlに、蒸留水を90ml加えたものを、泳動バッファーとして用いた。
【0073】
c−PAGEL(登録商標)電気泳動用既製ゲル12.5%(アトー株式会社)で、泳動し、泳動終了後、コンパクトブロット(アトー株式会社)を使い、PVDFメンブレン(ミリポア)へブロッティングした。PVDFメンブレンは、事前にメタノールに数分浸した後、下記のブロッティングバッファーに浸しておいた。ブロッティング終了後、メンブレンをPBSTスキムミルクに入れ、30分振とう後、PBSTスキムミルク3mlで下記の1次抗体1μlを希釈し、1時間ハイブリバッグで反応させた。
【0074】
PBSTスキムミルクで、3回洗浄し、PBSTスキムミルク3mlで、AP標識抗マウス抗体(Bio−Rad、Goat Anti−Mouse(H+L)−AP conjugate)1μlを希釈し、1時間ハイブリバッグで反応させた。PBSTスキムミルクで、2回、APバッファーで2回、洗浄後、0.033%ニトロブルーテトラゾリウムと0.0165% 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸を含むAPバッファーにより、検出した。また、2次抗体にHRP標識抗マウス抗体(Amersham Biosciences;ECL Anti−mouse IgG,peroxidase−linked species−specific Whole antibody (from sheep))又は、HRP標識ウサギ抗体(Sigma;anti−rabbit IgG(Whole molecule peroxidase conhugate)を用いる際には、ECL−plus(GEヘルスケア)を使用した。
【0075】
1次抗体は、DxscFvの検出には、抗His−Tag抗体(Novagen、His・Tag(登録商標)Monoclonal antibody 0.2mg/ml)を、DHFRの検出には、抗FLAG抗体(SIGMA、ANTI−FLAG(登録商標)M2 Monoclonal antibody)を用いた。CMVの検出には、抗CMV−cp抗体(日植防)を用いた。
【0076】
2×サンプルバッファー:0.25M Tris−HCl(pH6.8)25mlに2−メルカプとエタノール5ml、SDS2g、Sucrose5g、Bromophenol Blue2μg加え、蒸留水で50mlとした。10×ランニングバッファー:Tris15.14g、Glycine72.067g、SDS5gに、蒸留水を加え、500mlとした。ブロッティングバッファー:Tris0.604g、Glycine2.88g、メタノール40mlに、蒸留水を加え、200mlとした。
【0077】
(14)CMV−Y 3aタンパク質の非発現ウイルスの作出
3a遺伝子を欠くベクター(3a−Stop)を作出するために、pCY3の3aタンパク質の4番目のアミノ酸グルタミンをコードするCAAコドンを、終止コドンであるTAAコドンに置換した。図1に、導入のプロセスを示す。pCY3を鋳型として、Y3−T7−5Bmプライマーと3a−Stop−3プライマー、3a−Stop−5プライマーとY3−3Hindプライマーで、それぞれ、PCR反応を行った。
【0078】
両PCR産物の増幅を確認後、1μlずつ混合した液を鋳型として、Y3−T7−5Bmプライマーと、Y3−3Hindプライマーで、再度、PCRし、産物のサイズを、泳動で確認した。この産物を、BamHI,HindIIIで処理し、pCY3のBamHI,HindIIIサイトにクローニングすることで、3a遺伝子を欠くベクターを作出した。
【0079】
(15)CMV−Y RNA2への外来遺伝子DHFRの導入
C2−H1ベクター(Planta vol.225 277−286,2007)のStuIサイトとMluI領域に、DHFRの配列を挿入した。図2に、C2−H1ベクターへの外来遺伝子(DHFR)の導入のプロセスを示す。PROTEIOS Plamid set(東洋紡)のpEU−DHFRを鋳型として、DHFR5プライマーと、DHFR−3Flgプライマーを用いて、PCRすることで、DHFRの3‘末端に、FLAGタグとMluIサイトを有するDHFR遺伝子が得られる。これを、MluIで処理し、C2−H1ベクターのStuIサイトとMluIサイトへ、クローニングした。
【0080】
(16)CMV−Y RNA2への外来遺伝子DxscFvの導入
C2−H1ベクターのStuIサイトとMluI領域に、DxscFvの配列を挿入した。図3に、CMV−Y RNA2への外来遺伝子(DxscFv)の導入のプロセスを示す。pBE2113−DxscFvをテンプレートとして、PCRを行い、DxscFv ORFの5′にStuIサイトを、3′にMluIサイトを付加した。次に、C2−H1ベクターのStuI−MluI領域に、DxscFv断片をクローニングし、H1:DxscFvを構築した。
【0081】
(16)PVX−3aベクター及びClYVV−3aベクターによる3aタンパク質の供給
PVXベクター(Plant J vol.7 1045−1053,1995)のClaIサイトとSalIサイト領域に、CMV−Y由来の3aタンパク質配列を挿入した。pCY3を鋳型に、Y3a−5ClプライマーGCATCGATATGGCTTTCCAAGGTACCAGと、Y3a−3XhプライマーCCGCTCGAGCTAAAGACCGTTAACCACCTでPCRすることで、ClaIとXhoIサイトを有する3a遺伝子断片を得た。
【0082】
これを、ClaI,XhoIで処理し、PVXベクターのClaI,XhoIサイトへクローニングした。得られたプラスミドを、SpeIで処理し線状化し、CMVのクローンと同様に転写して、接種に用いた。また、ClYVVベクター(J Gen Plant Pathol vol.69 327−334,2003)のEcoRIサイトとSalIサイト領域に、CMV−Y3a由来の3aタンパク質配列を挿入した。
【0083】
pCY3を鋳型に、Y3aLecoプライマーGGCTTTGAATTCATGGCTTTCCAAGGTACCと、Y3aRsalプライマーCAGGTTGTCGACAAGACCGTTAACCACCTGでPCRすることで、EcoRIとSalIサイトを有する3a遺伝子断片を得た。これを、ClYVVベクターのEcoRI,SalIサイトへクローニングした。
【0084】
このClYVVベクターは、35Sプロモーターを有することから、接種は、プラスミドを直接ソラマメの葉にカーボランダムでこすりつけることで行った。ウイルスの病徴が確認された上位葉を、接種源として用いた。
【0085】
図4に、ClYVV−3a/Y1/Y2/3a−Stop及びPVX−3a/Y1/Y2/3a―Stopを用いたティッシュプリントの結果を示す。前者は、ClYVV−3aの感染葉を用いて、野生型ベンタミアーナに接種し、接種3週間程度経過してから、Y1/Y2/3a−Stopの転写RNAを接種し、10日後に、ティッシュプリントにより、CMVを検出した。
【0086】
後者は、それぞれの転写RNAを混合接種し、5日後に、ティッシュプリントにより、CMVを検出した。また、図5に、PVX−3a/Y1/H1:DHFR(あるいはH1:DxscFv)/3a―StopのRNA転写産物を野生型ベンタミアーナに混合接種し、6〜12日後にウエスタンブロットにより、DHFR及びDxscFvを検出した結果を示す。いずれの結果からも、3aがトランスに供給されて、外来タンパク質が、ウイルスベクター接種植物体の上葉において、発現することを示している。
【0087】
3a遺伝子を欠くCMVが、再び3aを獲得していないことを確認するために、上位葉からRNAを抽出し、Y3−T7−5Bmプライマーと、Y3−3Hindプライマーを用いて、RT−PCRを行うことで、CMVの3a遺伝子を含むDNA断片を増幅した。この断片とY3−T7−5Bmプライマーでダイレクトシークエンスを行い、変異を導入した部位の配列を調べ、終止コドンが維持されていることを確認した。
【0088】
(17)3aタンパク質形質転換ベンサミアーナの作出
植物発現用ベクターであるpBE2113(plant cell physiology vol.37 49−59, 1996)のXbaIサイトとSacI領域にCMV−Y3a由来の3aタンパク質配列を挿入した。図6に、pBE2113への細胞間移行タンパク質(3a)の導入のプロセスを示す。
【0089】
pCY3をテンプレートとして、PCRを行い、PCR増幅産物(約840bp)を、pGEM−TEasy(Promega社製)に導入した。次に、SpeI及びSacI領域で、制限酵素処理を行って得られた3a断片を、pBE2113のXbaI及びSacI領域に導入して、植物発現用ベクターpBE2113−3aを作出した。
【0090】
これを、凍結溶解による直接導入法によって、Agrobacterium tumefaciens LBA 4404(Clontech社製)に導入した。具体的には、Agrobacterium tumefaciens LBA 4404を、50mLのLB液体培地中(1% Bacto tryptone ,0.5% Bacto Yeast Extracts,1%塩化ナトリウム)で、A600の吸光値が、約1.0になるまで、28℃で、振盪培養した後、氷上で冷却して、4℃で、3000gの遠心分離を行い、集菌した。
【0091】
菌体は、1mLの氷冷した20mM塩化カルシウム溶液に浮遊させ、これを、0.1mL毎にエッベンドルフチューブに分注した。これに、組換えプラスミドpBE2113−3aを、1μgを加え、液体窒素中で、急速に凍結した。次に、得られた凍結細胞を、37℃で溶解した後、5分間静置した。
【0092】
これに、1mLのLB培地を加え、28℃で、2〜4時間振盪培養を行った後、約10000gで、1分間、遠心分離を行い、集菌して、0.1mLのLB培地に浮遊させた。リファンピシン(100μg/mL)、カナマイシン(25μg/mL)及びストレプトマイシン(300μg/mL)を含むLB固形培地に、菌体を接種した。2〜3日間、28℃で培養して、pBE2113−3aが組み込まれた形質転換菌を得た。
【0093】
pBE2113−3aを組み込んだAgrobacterium tumefaciens LBA 4404は、LB液体培地で、28℃下で、振盪培養後、4℃で、3000gの遠心分離を行い、集菌して、MS液体培地〔Physiol,Plant.15:473(1962)〕中に浮遊させ、これを、植物の形質転換操作に用いた。形質転換操作は、上述した組換えアグロバクテリウムを用いて、リーフティスク法により行った。
【0094】
ベンタミアーナ葉を、1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で、15分間殺菌し、滅菌蒸留水で、6回洗浄した。この葉から、殺菌したコルクボーラーで直径約1cmの円形状にくり抜き、リーフディスクとした。このディスクを、上記で作出したpBE2113−3aを保有するAgrobacterium tumefaciens LBA 4404のMS液体培地懸濁液に15分間浸した。
【0095】
この後、MS固形培地〔3%蔗糖、B5ビタミン、0.8%寒天を含む(pH5.7)、BAP(6−ベンジルアミノプリン)1mg/L、NAA(ナフタレン酢酸)0.1mg/L〕上で、28℃で3日間培養後、ディスクを、抗生物質カナマイシン50μg/mL及びカーベニシリン500μg/mL(いずれもシグマ社製)を含むMS液体培地で洗浄した。洗浄後のディスクは、上記抗生物質を含むMS固形培地(3% 蔗糖を含む)上で、25℃下、2週間毎に継代培養した(16時間照明、8時間暗期)。培養4〜8週間目に、ディスク表面上に、カルスが形成され、更に、継代培養することにより、シュートが誘導された。
【0096】
このシュートを根本から切り取り、ホルモンを含まないMS固形培地〔3%蔗糖、カナマイシン50μg/mL、カーベニシリン500μg/mLを含む(PH5.7)〕上に移植し、培養した。2〜4週間後に発根してきた植物体は、培養土を入れたポットに移植し、閉鎖系組換え温室の中で、栽培して、次世代(T1)種子を得た。
【0097】
(18)供試形質転換植物の育成
上記で得た3a形質転換植物体のT1種子を、滅菌水で給水し、4日間4℃で低温処理を行った後、0.02%TritonX−100を添加した1.5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液で、5分間、種子表面を滅菌した後、125mg/mlカナマイシンを含む1/2MS培地〔1%蔗糖、B5ビタミン、1%寒天を含む(pH5.7)〕に無菌播種を行い、22℃で7−10日間培養後、カナマイシン耐性を示す芽生えを選抜して、Jiffy−7に移植し、閉鎖系組換え温室の中で栽培した。
【0098】
(19)3aタンパク質形質転換ベンタミアーナからの3aタンパク質の供給によるDxscFvの発現
プラスミドH1:DxscFvを鋳型にin vitro転写し、pCY1、pCY3あるいは3a−StopのRNA転写産物とともに、野生型ベンタミアーナあるいは3aトランスジェニックベンタミアーナに接種し、接種5日後の接種葉及び13日後の接種葉及び上葉のDxscFv発現をウエスタンブロット法を用いて検出した。図7に、Y1/H1:DxscFv/Y3(RNA転写産物)、又はY1/H1:DxscFv/3a−stop(RNA転写産物)の接種における野生型ベンタミアーナ及び3a形質転換ベンタミアーナでのDxscFv検出結果を示す。
【0099】
(20)結果
接種後5日目の接種葉及び13日目の接種葉及び上葉のDxscFvの発現を、ウエスタンブロット法で検出した結果、Y1/H1:DxscFv/3a−stop(RNA転写産物)を接種した3a形質転換体において、接種葉では、わずかに発現が認められ、上葉では、非常に高い発現量のDxscFvが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上詳述したように、本発明は、非拡散植物ウイルスベクターに係るものであり、本発明により、無秩序に宿主植物に感染し、意図せぬ組換えウイルスの拡散リスクを回避することができる非拡散植物ウイルスベクターを提供することができる。また、本発明は、ウイルス増殖に必要な遺伝子を導入した組換え植物においてのみ、ウイルスベクターの感染増殖が可能であるため、意図せぬウイルスの拡散を回避できる新しい組換え植物のシステムを提供することができる。また、本発明は、単独では、拡散、伝播できないが、植物体への全身移行に必要なタンパク質遺伝子を別に導入することで、全身感染が可能になり、ベクターとして機能させることができる、非拡散植物ウイルスベクターを提供することができる。また、本発明は、野外等で使用しても、植物ウイルスベクターの拡散が起こらないため、植物ウイルスベクターの利用範囲が飛躍的に拡大する。本発明は、植物ウイルスベクターを使用して組換え植物体を作出しても、ウイルスベクターの増殖、他植物体への伝播は起きないことから、安全性を確保して、植物ウイルスベクターの利用を図ることを実現可能にするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】pCY3の3aタンパク質の4番目のアミノ酸グルタミンをコードするCAAコドンを終止コドンであるTAAコドンに置換することにより、3a遺伝子を欠くベクター(3a−Stop)を作出するプロセスを示す。
【図2】C2−H1ベクターのStuIサイトとMluI領域に外来遺伝子(DHFR)の配列を挿入して、外来遺伝子を導入するプロセスを示す。
【図3】C2−H1ベクターのStuIサイトとMluI領域に、DxscFvの配列を挿入して、CMV−Y RNA2へ、外来遺伝子(DxscFv)を導入するプロセスを示す。
【図4】ClYVV−3a/Y1/Y2/3a−Stop及びPVX−3a/Y1/Y2/3a−Stopを用いたティッシュプリントの結果を示す。
【図5】PVX−3a/Y1/H1:DHFR(あるいはH1:DxscFv)/3a―StopのRNA転写産物を野生型ベンタミアーナに混合接種し、6〜12日後にウエスタンブロットにより、DHFR及びDxscFvを検出した結果を示す。
【図6】植物発現用ベクターであるpBE2113のXbaIサイトとSacI領域にCMV−Y3a由来の3aタンパク質の配列を挿入し、pBE2113への細胞間移行タンパク質(3a)を導入するプロセスを示す。
【図7】Y1/H1:DxscFv/Y3(RNA転写産物)又はY1/H1:DxscFv/3a−stop(RNA転写産物)の接種における野生型ベンタミアーナ及び3a形質転換ベンタミアーナでのDxscFvの検出結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターであって、上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させる作用を有することを特徴とする植物ウイルスベクター。
【請求項2】
上記植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、請求項1に記載の植物ウイルスベクター。
【請求項3】
上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では、感染及び増殖が成立しない、請求項1又は2に記載の植物ウイルスベクター。
【請求項4】
キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対する選択的・特異的感染及び増殖を成立させることを特徴とする植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項5】
上記細胞間移行に係る遺伝子が、植物体の細胞間の原形質連絡糸の拡大あるいはウイルスゲノムとの結合によりウイルスの移行に関与する遺伝子である、請求項4に記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項6】
上記キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、請求項4又は5に記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項7】
上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物が、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を導入した形質転換体である、請求項4から6のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項8】
上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換体が、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として挿入した組換えベクターを導入した形質転換体である、請求項4から7のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項9】
上記非拡散植物ウイルスベクターが、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では感染及び増殖が成立しない、請求項4から8のいずれかに記載の植物ウイルスベクター選択的・特異的発現システム。
【請求項10】
キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターと、欠落させた当該細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物体とを組み合わせて、上記非拡散植物ウイルスベクターを、上記形質転換植物体に対して選択的・特異的に感染及び増殖させることを特徴とする植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
【請求項11】
上記キュウリモザイクウイルス(CMV)ゲノムの細胞間移行に係る遺伝子を欠落させた非拡散植物ウイルスベクターが、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を欠落させた3a遺伝子産物を発現しないCMVベクターである、請求項10に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
【請求項12】
上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換植物が、キュウリモザイクウイルス(CMV)の植物体での細胞間移行に必要な3aタンパク質をコードするRNA3遺伝子を導入した形質転換体である、請求項10に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
【請求項13】
上記細胞間移行に係る遺伝子を導入した形質転換体が、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として挿入した組換えベクターを導入した形質転換体である、請求項10に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。
【請求項14】
上記非拡散植物ウイルスベクターが、上記細胞間移行に係る遺伝子を外来遺伝子として導入していない植物体では感染及び増殖が成立しない、請求項10に記載の植物ウイルスベクターの選択的・特異的発現方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−41932(P2010−41932A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206446(P2008−206446)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(390022954)ホクレン農業協同組合連合会 (14)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】