説明

非接触攪拌機

【課題】磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つ攪拌子を採用することにより、脱調することなく攪拌子を安定して磁気浮上させ非接触に回転支持することができ、また、簡単な構成、低コストかつ簡単な製造手順にて製造することができる非接触攪拌機を提供する。
【解決手段】非接触攪拌機は、攪拌子10と磁極構成物20を備えている。攪拌子10は、その磁場が回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されており、複数個の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されている。磁極構成物20は、超電導バルク体21が収容されて位置決め固定されている断熱された非磁性体の容器22と、超電導バルク体21を冷却する冷却体23と、冷却体23を冷却する冷凍機24とから構成される一体構造体であり、回転駆動源31によって回転軸Pまわりに回転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導バルク体を備えた非接触攪拌機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この非接触攪拌機としては、非磁性体の容器内に回転軸まわりに回転自在に収容されて独自の磁場を有する攪拌子と、容器の外側に配置されて、攪拌子と対向する位置に超電導バルク体を内蔵し、該超電導バルク体が攪拌子の磁場をピン止め力によって捕捉することにより攪拌子を磁気浮上させて支持する磁極構成物とを備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の図1、図4に示されている非接触攪拌機は、磁気浮上磁石2と、撹拌翼を有する被駆動磁石4(41)と、磁気浮上磁石2と被駆動磁石4(41)とを連結する回転軸3とからなる非接触回転部Bと、熱移動を遮断する真空室7内に設けられた冷凍部8と、冷凍部8によって冷凍が可能であり、かつ磁気浮上磁石2をピン止め力によって磁気浮上させる高温超電導体(超電導バルク体)1と、被駆動磁石4に磁気力で回転を付与する駆動磁石5(42)と、駆動磁石5(42)を回転させる駆動源6とを備えている。
【0004】
磁気浮上磁石2は高温超電導体1のピン止め力によって磁気浮上(磁気浮上は、空間をおいて支承する場合と懸垂する場合を含む)するので、非接触回転部Bは容器内周面に接触することなく支持されている。これにより、被駆動磁石4と駆動磁石5(42)も空間をおいて支持されている。そして、この状態で駆動源6の回転によって駆動磁石5(42)が回転すると、被駆動磁石4ひいては非接触回転部Bが回転する。このように、非接触回転部Bを磁気浮上させる機構(高温超電導体1および磁気浮上磁石2)を磁気浮上系といい、その非接触回転部Bを回転させる機構(非駆動磁石4および駆動磁石5(42))を磁気カップリング系という。
【0005】
また、特許文献1の図2、図7に示されている非接触攪拌機は、真空室7内に冷凍部8と固着したピン止め力の強い塊状の高温超電導体1と、その真空室7の一部を介して高温超電導体1と離間して対向する磁気浮上磁石22と、磁気浮上磁石22の外周に非磁性体23で支持された円筒外周面多極磁石24と、円筒外周面多極磁石24の円周面が適宜離間してステーター(コイル)25を有し、そのモーター機構を有するステーター25に電気を供給するドライバ27とからなるものである。磁気浮上磁石22、非磁性体23、円筒外周面多極磁石24からなる一体構造体は、密閉容器71に収容されている。この場合、一体構造体を磁気浮上させる機構(高温超電導体1および磁気浮上磁石22)を磁気浮上系といい、その一体構造体を回転させる機構(円筒外周面多極磁石24およびステーター25)を磁気カップリング系という。
【特許文献1】特開2000−124030号公報(第4−8頁、図1,2,4,5,7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の図1、図4に示されている非接触回転機において、非接触回転部Bを収容する容器が大型化し背が高くなると、その構造上、磁気浮上系と磁気カップリング系とを連結する回転軸3を長くする必要がある。その結果、非接触回転部Bが重くなり磁気浮上系の磁気浮上能力では支持できなくなり、容器内面に接触するおそれがあった。
【0007】
また、非接触回転部Bを収容する容器の大きさが異なると、その構造上、容器の高さに合わせて回転軸3を製造する必要があり、製造手順の標準化が容易でなく、また製造コストが上昇していた。
【0008】
また、非接触回転部Bの回転によって液体を攪拌する際に、回転速度、液体の粘度によっては液体からの反作用を受けて非接触回転部Bが回転軸3の軸方向(上下方向)に移動して、容器内面に接触するおそれがあった。
【0009】
また、非接触回転部Bの移動によって非駆動磁石4と駆動磁石5(42)との間の吸引力(磁気力)が低下し、駆動磁石5(42)から被駆動磁石4が外れてしまい駆動磁石5(42)が回転しても被駆動磁石4ひいては非接触回転部Bは回転しない(以降、脱調という。)という問題があった。
【0010】
また、上述した特許文献1の図2、図7に示されている非接触回転機において、密閉容器71が大型化し径方向に大型化すると、その構造上、磁気浮上系と磁気カップリング系とを連結する非磁性体23を長くする必要がある。その結果、一体構造体が重くなり磁気浮上系の磁気浮上能力では支持できなくなり、容器内面に接触するおそれがあった。
【0011】
本発明は、上述した各問題を解消するためになされたもので、磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つ攪拌子を採用することにより、脱調することなく攪拌子を安定して磁気浮上させ非接触に回転支持することができ、また、簡単な構成、低コストかつ簡単な製造手順にて製造することができる非接触攪拌機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、非磁性体の容器内に回転軸まわりに回転自在に収容されて独自の磁場を有する攪拌子と、容器の外側に配置されて、攪拌子と対向する位置に超電導バルク体を内蔵し、この超電導バルク体が攪拌子の磁場をピン止め力によって捕捉することにより攪拌子を磁気浮上させて支持する磁極構成物とを備えた非接触攪拌機において、攪拌子はその磁場が回転軸を中心とする同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されていることである。
【0013】
また請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、磁極構成物は、超電導バルク体が収容されて位置決め固定されている断熱された非磁性体の容器と、超電導バルク体を冷却する冷却体と、冷却体を冷却する冷凍機とから構成される一体構造体であり、回転駆動源によって回転軸まわりに回転されることである。
【0014】
また請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されていることである。ここで、浮上磁石は単一のものであり、複数極(異極)で構成されていてもよい。
【0015】
また請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は同一の磁極に着磁されていることである。ここで、浮上磁石は単一のものであり、複数極(異極)で構成されていてもよい。
【0016】
また請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は攪拌子の回転面に平行に対向し、かつ同心円上に距離を置いて配設されたことである。
【0017】
また請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至請求項4の何れか一項において、超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は攪拌子に平行に対向し、かつ、それら超電導バルク体のうち一つを中心にして他のものが同心円上に距離を置いて配設されたことである。
【0018】
また請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項5または請求項6において、各浮上磁石と各超電導バルク体とは同数設けられ、各浮上磁石と各超電導バルク体とは対向する位置にそれぞれ配置されることである。
【0019】
また請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項7の何れか一項において、超電導バルク体を挟んで攪拌子の反対側に磁性ヨークを配置したことである。
【発明の効果】
【0020】
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、攪拌子はその磁場が回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されているので、超電導バルク体はその不均一な磁場を捕捉することにより、攪拌子を磁気浮上させるだけでなく磁気カップリングして支持する。これにより、磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つ攪拌子を採用することにより、脱調することなく攪拌子を安定して磁気浮上させ非接触に回転支持することができ、また、簡単な構成、低コストかつ簡単な製造手順にて製造することができる非接触攪拌機を提供することができる。
【0021】
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、磁極構成物は、超電導バルク体が収容されて位置決め固定されている断熱された非磁性体の容器と、超電導バルク体を冷却する冷却体と、冷却体を冷却する冷凍機とから構成される一体構造体であり、回転駆動源によって回転軸まわりに回転されるので、磁極構成物を小型化して全体を回転させることができる。これにより、磁気構成物も磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つことにより、攪拌子を回転する機構を他に設けることなく、簡単な構成にて攪拌子を回転することができる。
【0022】
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されていることにより、簡単な構成にて回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成することができる。
【0023】
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は同一の磁極に着磁されていることにより、簡単な構成にて回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成することができる。
【0024】
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は攪拌子の回転面に平行に対向し、かつ同心円上に距離を置いて配設されたことにより、バランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングすることができる。
【0025】
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項2乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は攪拌子に平行に対向し、かつ、それら超電導バルク体のうち一つを中心にして他のものが同心円上に距離を置いて配設されたことにより、バランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングすることができる。
【0026】
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、請求項5または請求項6に係る発明において、各浮上磁石と各超電導バルク体とは同数設けられ、各浮上磁石と各超電導バルク体とは対向する位置にそれぞれ配置されることにより、さらにバランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングすることができる。
【0027】
上記のように構成した請求項8に係る発明においては、請求項1乃至請求項7の何れか一項において、超電導バルク体を挟んで攪拌子の反対側に磁性ヨークを配置したことにより、攪拌子が磁性ヨークに引き寄せられるので、確実に超電導バルク体に対して攪拌子を位置決めすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明による非接触攪拌機の一実施の形態について説明する。図1はこの非接触攪拌機を示す正面模式図であり、図2は攪拌子を示す平面図である。この非接触攪拌機は、攪拌子10と、この攪拌子10と対向する位置に超電導バルク体21を内蔵して攪拌子10を磁気浮上させて支持する磁極構成物20とを備えている。
【0029】
攪拌子10は、非磁性体の容器15内に回転軸Pまわりに回転自在に収容されて独自の磁場を有するものであり、その磁場が回転軸Pを中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されている。この攪拌子10は、図2に示すように、非磁性体で円盤状に形成された本体11と、この本体11に嵌め込まれた複数個(本実施の形態においては4個)の浮上磁石12a〜12dからなる浮上磁石群12と、本体11の外周面に設けられた複数の攪拌翼13とから構成されている。各浮上磁石12a〜12dは、回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されている。浮上磁石12は、着磁された希土類系永久磁石で円柱状に形成されている。角柱状に形成してもよい。攪拌翼13は非磁性体で形成されている。容器15内は、攪拌子10によって攪拌される液体である被攪拌液体を収容するものである。
【0030】
ところで、従来の浮上磁石は、特開2000−124030号公報に示されている磁気浮上磁石2のごとく着磁された円柱状の永久磁石を1つ使用しており、この場合、その磁場は図4に示すように回転軸Pを中心とする各同心円周上で均一な磁束分布を形成している。そして、高温超電導体(超電導バルク体)1がこのような磁場をピン止め力によって捕捉することにより、磁気浮上磁石2ひいては非接触回転部Bを磁気浮上する方向すなわち上下方向に位置決め固定する。しかし、磁束分布が同心円状でのみ均一であるため、回転方向に位置決め固定することはできなかった。
【0031】
一方、上述のように構成された攪拌子10は、図3に示すように、回転軸Pを中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成する。具体的には、各磁気浮上磁石12a〜12dは、それぞれ一端(上端)側が周方向にS、N、S、N極となるように配置されている。これにより、攪拌子10が形成する磁場は、円周方向にS、N、S、N、Sと変化する。すなわち、図3に示すように、磁気浮上磁石12aのS極には、隣り合う磁気浮上磁石12b,12dのN極および自身のN極から磁束が入り、磁気浮上磁石12aのN極からは、隣り合う磁気浮上磁石12b,12dのS極および自身のS極に磁束が出ていく。このように、各磁気浮上磁石のS極には、隣り合う磁気浮上磁石のN極および自身のN極から磁束が入り、各磁気浮上磁石のN極からは、隣り合う磁気浮上磁石のS極および自身のS極に磁束が出ていく。
【0032】
また、各磁気浮上磁石12a〜12dは、図5に示すように、隣り合う各一端側は同一の磁極に着磁されるように、すなわちそれぞれ一端(上端)側が同極(N極)となるように配置してもよい。これにより、攪拌子10が形成する磁場は、互いに隣り合う同極が斥けあうため円周方向に変化する。すなわち、図5に示すように、磁気浮上磁石12aのN極からは、隣り合う磁気浮上磁石12b,12dのN極から出る磁束と押し合いながら磁束が出ていくとともに自身のS極に磁束が出ていき、磁気浮上磁石12aのS極には、隣り合う磁気浮上磁石12b,12dのS極に入る磁束と押し合いながら磁束が入るとともに自身のN極から磁束が入る。このように、磁気浮上磁石のN極からは、隣り合う磁気浮上磁石のN極から出る磁束と押し合いながら磁束が出ていくとともに自身のS極に磁束が出ていき、磁気浮上磁石のS極には、隣り合う磁気浮上磁石S極に入る磁束と押し合いながら磁束が入るとともに自身のN極から磁束が入る。
【0033】
なお、磁気浮上磁石群12を構成する磁気浮上磁石の個数は、回転軸Pを中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成可能であれば2個以上であってもよい。この場合、回転性を考慮してバランスよく本体11に配置することが好ましい。
【0034】
また、攪拌子10の磁場を永久磁石によって形成するように構成したが、攪拌子10に電磁磁石を内蔵するようにしてその電磁磁石によって攪拌子10の磁場を形成するようにしてもよい。これによれば、永久磁石を使用する場合と比べて形成する磁場の設計自由度が広くなる。
【0035】
磁極構成物20は、容器15の外側に位置決め固定されるものである。この磁極構成物20は、超電導バルク体21が収容されて断熱された非磁性体の容器22と、超電導バルク体21を冷却する冷却体23と、冷却体23を冷却する冷凍機24とから構成される一体構造体であり、回転駆動源31によって回転軸Pまわりに回転されるものである。
【0036】
超電導バルク体21は、超電導状態下、予め記憶した磁場分布をピン止め力によって捕捉するものであり、攪拌子10の回転面(側面でなく上面または下面)に平行に対向するものである。容器22は、磁極構成物20の組み立てが完了した後に、図示しない真空管から真空引きされて封じられるので、真空状態すなわち断熱状態にある。冷却体23は、超電導バルク体21が磁性ヨーク27を介して上面に固定されているコールドステージ23aと、冷凍機24の冷却管24bに取り付けられて冷却されるコールドヘッド23bと、コールドステージ23aとコールドヘッド23bを連結する伝熱体23c,23dから一体的に構成されている。この冷却体23は、伝熱性がよく、かつ非磁性である金属材で形成されている。コールドヘッド23bが冷凍機24によって冷却されると、伝熱体23c,23dを介してコールドステージ23aが冷却され、そして磁性ヨーク27を介して超電導バルク体21が冷却されるようになっている。
【0037】
冷却機24は、スターリング型パルス管冷凍機であり、内蔵の電動モータ(図示省略)の駆動によって冷媒を圧縮して送出する圧縮機24aと、圧縮機24aから送出された冷媒が流通する冷却管24bとを備えている。圧縮機24aの電動モータには、外部の電源からケーブル25および回転体給電装置26を介して給電されるようになっている。回転体給電装置26は、ケーブル25の一端が接続されて電線にそれぞれ対応する各ブラシを備えたブラシ部26aと、各ブラシに対応してそれぞれ設けられ各ブラシが回転可能に当接する環状配線を備えた円筒状の回転部26bとを備えている。ブラシ部26aは図示しないフレームに固定されており、回転部26bは圧縮機24aの下部に一体に固定されている。これにより、磁極構成物20すなわち冷凍機24が回転しても、圧縮機24aの電動モータには外部の電源からケーブル25および回転体給電装置26を介して給電されるので、超電導バルク体21を冷却しながら磁気構成物20を回転させることができる。
【0038】
回転部26bの下部には回転シャフト31aを介して回転駆動源(例えば電動モータ)31が連結されており、回転駆動源31が回転すると、回転シャフト31a、回転部26bおよび磁極構成物20が一体で回転軸Pまわりに回転する。回転駆動源31は基台32の上面に固定されている。
【0039】
磁性ヨーク27は、強磁性体で円盤状に形成されたものである。磁性ヨーク27は熱伝導性がよい。この磁性ヨーク27は、超電導バルク体21を挟んで攪拌子10の反対側に配置されている。これにより、攪拌子10が磁性ヨーク27に引き寄せられるので、確実に超電導バルク体21に対して攪拌子10を位置決めすることができる。また、超電導バルク体21を冷却して超電導遷移する際に、攪拌子10の磁場が確実に磁性ヨーク27に引き寄せられ固定されるので、他の磁場の影響を受けることなく、磁場を安定することができる。
【0040】
このように構成した被接触攪拌機の超電導バルク体21に攪拌子10の磁場を記憶させるにあたっては、磁極構成物20の磁極面すなわち超電導バルク体21が近接する容器22の一面(上面)を、攪拌子10を攪拌させたい場所の容器15の一面(下面)に近接あるいは当接させて取り付け固定する。そして、攪拌子10を攪拌させたい場所にスペーサ35を設置(載置)して、その上に(内周面に沿って)攪拌子10を載置(設置)する。このとき、攪拌子10は磁性ヨーク27に吸着するので、確実に位置決め固定される。スペーサ35は、非磁性体で形成されている。
【0041】
このように超電導バルク体21が攪拌子10からの磁場(図3に示す)を受けている状態を維持したまま、冷凍機24に給電して作動させて超電導バルク体21を50乃至60K(ケルビン)に冷却すると、この冷却された超電導バルク体21には攪拌子10からの磁場が印加された状態で超電導遷移するため、その磁束を内部のピン止め点に捕捉して、その磁場を記憶する。
【0042】
なお、上述したように容器15とスペーサ35を使用して攪拌子10からの磁場を超電導バルク体21に記憶させたが、容器15およびスペーサ35を使用せずに超電導バルク体21から所望の隙間をおいて攪拌子10を位置決め固定して攪拌子10からの磁場を超電導バルク体21に記憶させてもよい。
【0043】
次に、このように磁場を記憶させた被接触攪拌機の作動について説明する。記憶させたときと同様に、磁極構成物20の磁極面すなわち超電導バルク体21が近接する容器22の一面(上面)を、攪拌子10を攪拌させたい場所の容器15の一面(下面)に近接あるいは当接させて取り付け固定する。冷凍機24に給電して作動を続けた状態では、超電導バルク体21は50乃至60K(ケルビン)に冷却されたままであり、記憶(捕捉)した磁場をそのまま保っている。そして、容器15内に攪拌子10を入れ超電導バルク体21の付近に持っていくと、超電導バルク体21および磁性ヨーク27に吸引されて位置決めされる。このとき、攪拌子10は図3に示すようにその磁場が回転軸Pを中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されているので、超電導バルク体21は予め記憶したその不均一な磁場を捕捉することにより、攪拌子10を磁気浮上させるだけでなく磁気カップリングして支持する。さらに、容器15に被攪拌液体を入れる。なお、攪拌子10と被攪拌液体の入れる順番は逆になってもよい。なお、磁気浮上とは、攪拌子10が超電導バルク体21の上方に位置する場合に、攪拌子10が重力に逆らって超電導バルク体21から浮上することだけでなく、攪拌子10が超電導バルク体21の下方に位置する場合に、攪拌子10が重力に逆らって超電導バルク体21から懸垂することもいう。また、磁気カップリングは、二つのものの間に磁気力によって相互作用をもたせて結びつけることをいい、特に回転方向において結びつけることをいう。
【0044】
そして、超電導バルク体21が攪拌子10を磁気浮上させ磁気カップリングして支持する状態で回転駆動源31が回転すると、磁極構成物20の全体が回転し、すなわち超電導バルク体21が回転しこれに追従して攪拌子10が同周期で一体的に回転する。この回転によって容器15内の被攪拌液体が有効に攪拌される。
【0045】
上述した説明から明らかなように、本実施の形態においては、攪拌子10はその磁場が回転軸Pを中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されているので、超電導バルク体21はその不均一な磁場を捕捉することにより、攪拌子10を磁気浮上させるだけでなく磁気カップリングして強固に支持する。これにより、攪拌子10の回転によって被攪拌液体を攪拌する際に、回転速度、液体の粘度の違いによって液体から反作用を受けても攪拌子10が回転軸Pの軸方向(上下方向)に移動したり、脱調したりするのを確実に防止するので、容器15内面に接触するおそれがなくなった。したがって、磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つ攪拌子10を採用することにより、脱調することなく攪拌子10を安定して磁気浮上させ非接触に回転支持することができる。
【0046】
また、被攪拌液体を収容する容器15が大型化しても、従来のように磁気浮上系と磁気カップリング系とを連結する部材(例えば回転軸3、非磁性体23)を長くする必要がないので、攪拌子10が重くなるのを防止してこれにともなう容器15内面への接触を防止することができる。したがって、簡単な構成、低コストかつ簡単な製造手順にて製造することができる。
【0047】
また、磁極構成物20は、超電導バルク体21が収容されて位置決め固定されている断熱された非磁性体の容器22と、超電導バルク体21を冷却する冷却体23と、冷却体23を冷却する冷凍機24とから構成される一体構造体であり、回転駆動源31によって回転軸まわりに回転されるので、磁極構成物20を小型化して全体を回転させることができる。これにより、磁気構成物も20磁気浮上機能と磁気カップリング機能を併せ持つことにより、攪拌子10を回転する機構を他に設けることなく、簡単な構成にて攪拌子10を回転することができる。
【0048】
また、冷凍機24はスターリング型パルス管冷凍機であり、圧縮器24aは対向型のリニア振動器を採用するのがよい。この場合、一体構造体(磁極構成物)をより小型にすることができ、さらに、磁極構成物に生じる振動を低減できるため、磁極構成物を回転させるのに有利である。
【0049】
また、攪拌子10は、複数個の浮上磁石12a〜12dから構成されており、それら浮上磁石12a〜12dは、回転軸P方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されていることにより、簡単な構成にて回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成することができる。
【0050】
また、攪拌子10は、複数個の浮上磁石12a〜12dから構成されており、それら浮上磁石12a〜12dは、回転軸P方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は同一の磁極に着磁されていることにより、簡単な構成にて回転軸を中心とする各同心円周上で不均一な磁束分布を形成することができる。
【0051】
なお、上述した実施の形態において、超電導バルク体21は複数個で構成し、それら超電導バルク体21は攪拌子の回転面に平行に対向し、かつ同心円上に距離を置いて配設されるようにしてもよい。これによれば、バランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングすることができる。
【0052】
また、上述した実施の形態において、超電導バルク体21は複数個で構成し、それら超電導バルク体21は攪拌子10に平行に対向し、かつ、それら超電導バルク体21のうち一つを中心にして他のものが同心円上に距離を置いて配設されるようにしてもよい。これにより、バランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングをより強固とすることができる。例えば、中央に配置した超電導バルク体に対向するその軸方向に着磁された浮上磁石によって安定な浮上力を得ることができ、周囲に配置された浮上磁石を回転軸方向にそれぞれ異なった磁極に交互に着磁し、それぞれの磁場に対向する超電導バルク体に捕捉させることによって、回転力の伝達と浮上力をともにより強固とすることができる。
【0053】
また、上述した実施の形態において、各浮上磁石と各超電導バルク体とは同数設けられ、各浮上磁石と各超電導バルク体とは対向する位置にそれぞれ配置されるようにしてもよい。これにより、さらにバランスよく磁気浮上するとともに磁気カップリングすることができる。
【0054】
また、上述した実施の形態においては、容器15を固定し、磁気構成物20を回転することにより、攪拌子10を回転して容器15内の被攪拌液体を攪拌するようにしたが、磁気構成物20を回転させないで固定し攪拌子10も磁気浮上および磁気カップリングしたままで回転させないで、容器15を回転させて容器15内の被攪拌液体を攪拌するようにしてもよい。
【0055】
また、上述した実施の形態において、冷凍機24はGMパルス管冷凍機、スターリング冷凍機で構成するようにしてもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態においては、攪拌子10は、複数個の浮上磁石12から構成されているが、これに代えて、複数極を有する単一の磁石から構成されるようにしてもよい。この場合、この磁石の磁極は、上述した複数個の浮上磁石12と同様に異極を交互に周方向に並べて同様な磁場を形成するようにすればよい。これによっても、上述した実施の形態と同様な作用・効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明による非接触攪拌機の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】図1に示す攪拌子を示す平面図である。
【図3】図2に示す攪拌子の磁界を示す3−3線に沿った断面図である。
【図4】従来技術による非接触回転部の磁気浮上磁石の磁界を示す断面図である。
【図5】本発明による非接触攪拌機の他の実施の形態の攪拌子の磁界を示す断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10…攪拌子、11…本体、12…浮上磁石群、12a〜12d…浮上磁石、13…攪拌翼、15…容器、20…磁気構成物、21…超電導バルク体、22…容器、23…冷却体、23a…コールドステージ、23b…コールドヘッド、23c,23d…伝熱体、24…冷凍機、24a…圧縮機、24b…冷却管、25…ケーブル、26…回転体給電装置、26a…ブラシ部、26b…回転部、27…磁性ヨーク、31…回転駆動源、32…基台。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体の容器内に回転軸まわりに回転自在に収容されて独自の磁場を有する攪拌子と、
前記容器の外側に配置されて、前記攪拌子と対向する位置に超電導バルク体を内蔵し、該超電導バルク体が前記攪拌子の磁場をピン止め力によって捕捉することにより前記攪拌子を磁気浮上させて支持する磁極構成物とを備えた非接触攪拌機において、
前記攪拌子はその磁場が前記回転軸を中心とする同心円周上で不均一な磁束分布を形成するように構成されていることを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項2】
請求項1において、前記磁極構成物は、前記超電導バルク体が収容されて位置決め固定されている断熱された非磁性体の容器と、前記超電導バルク体を冷却する冷却体と、前記冷却体を冷却する冷凍機とから構成される一体構造体であり、回転駆動源によって前記回転軸まわりに回転されることを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、前記回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は異なる磁極に着磁されていることを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記攪拌子は、複数個あるいは複数極の浮上磁石から構成されており、それら浮上磁石は、前記回転軸方向に平行に着磁され、かつ、隣り合う各一端側は同一の磁極に着磁されていることを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は前記攪拌子の回転面に平行に対向し、かつ同心円上に距離を置いて配設されたことを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項6】
請求項2乃至請求項4の何れか一項において、前記超電導バルク体は複数個であり、それら超電導バルク体は前記攪拌子に平行に対向し、かつ、それら超電導バルク体のうち一つを中心にして他のものが同心円上に距離を置いて配設されたことを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、前記各浮上磁石と前記各超電導バルク体とは同数設けられ、前記各浮上磁石と前記各超電導バルク体とは対向する位置にそれぞれ配置されることを特徴とする非接触攪拌機。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一項において、前記超電導バルク体を挟んで前記攪拌子の反対側に磁性ヨークを配置したことを特徴とする非接触攪拌機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−122785(P2006−122785A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312881(P2004−312881)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】