説明

非晶質合金の製造方法

[目的] 熱的安定性および過冷却液体状態を利用した成形加工性を向上させた非晶質合金を得る。
[構成] 非晶質単相組織を得るための冷却速度で製造された状態では、真正結晶化温度Tx未満でガラス遷移現象を示し、且つ真正結晶化温度Tx以上において一部結晶化を生じる少なくとも1回の1次発熱現象を発生し、その後全体が結晶化に至る2次発熱現象を発生する、といった特性を有する合金を得るための溶湯を用いる。その溶湯に前記冷却速度よりも遅い冷却速度で冷却処理を施すことにより、その冷却処理段階で前記1次発熱現象に対応する発熱現象を発生させて一部に結晶粒を生成させ、非晶質単相組織の非晶質合金(線a1 )の真正結晶化温度Txよりも見掛上の結晶化温度Tを高温側へ移行させた非晶質合金(線a2 )を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は非晶質合金、特に、一部に結晶粒を生成させた非晶質合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、非晶質合金としては、結晶化温度(以下、真正結晶化温度という)Tx未満でガラス遷移現象を示し、且つ真正結晶化温度Tx以上において一部結晶化を生じる少なくとも1回の1次発熱現象を発生し、その後全体が結晶化に至る2次発熱現象を発生する、といった特性を有する合金が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】非晶質合金の熱的安定性および過冷却液体状態を利用した成形加工性を向上させるためには、ガラス化温度Tgおよび真正結晶化温度Tx間の温度差の大きな合金が必要であるが、従来合金は前記温度差が小さいために前記要求を満たすことができない、という問題がある。
【0004】本発明は前記に鑑み、従来合金を得るための素材を用い、その素材に特定の発熱現象を発生させることによって、結晶化温度を真正結晶化温度Txよりも見掛上高温側へ移行させた非晶質合金を得ることのできる前記製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明に係る非晶質合金の製造方法は、真正結晶化温度Tx未満でガラス遷移現象を示し、且つ真正結晶化温度Tx以上において一部結晶化を生じる少なくとも1回の1次発熱現象を発生し、その後全体が結晶化に至る2次発熱現象を発生する、といった特性を有する合金を得るための素材に対し、前記1次発熱現象に対応する発熱現象を発生させて一部に結晶粒を生成させることを特徴とする。
【0006】
【実施例】Mg85Cu5 10(数値は原子%)といった非晶質合金組成の溶湯を、Ar雰囲気下で高周波溶解を行うことにより調製した。
【0007】次いで、単ロール法の適用下、厚さ0.02mm、幅1mmのリボン状非晶質合金A1 を製造した。製造条件は、次の通りである。石英ノズル:直径0.3mm;Cuロール:直径250mm;回転速度:4000rpm ;ギャップ:0.3mm;噴射圧:0.4kgf/cm2 ;雰囲気:Ar、−40cmHg。
【0008】図1は、非晶質合金A1 のX線回折図であり、非晶質特有のハローパターンが見られる。本図より非晶質合金A1 は非晶質単相組織であることが判る。
【0009】図2において、線a1 は非晶質合金A1 の示差熱量分析結果を示す。この非晶質合金A1 のガラス化温度Tgは435K、真正結晶化温度Txは463Kである。
【0010】図2、線a1 から明らかなように、非晶質合金A1は、非晶質単相組織を得るための冷却速度で製造された状態では、真正結晶化温度Tx未満でガラス遷移現象を示し、且つ真正結晶化温度Tx以上において一部結晶化を生じる少なくとも1回、本例ではピークp1 で示されるように1回の1次発熱現象を発生し、その後、ピークp2 で示されるように全体が結晶化に至る2次発熱現象を発生する、といった特性を有する。この一部結晶化の過程では、Mg結晶またはMg金属間化合物が生成される。
【0011】次に、前記溶湯を素材として用い、単ロール法の適用下、ギャップを0.5mmに、またCuロールの回転数を500rpm にそれぞれ設定し、他の条件は前記と同様に設定して、厚さ0.1mm、幅3mmのリボン状非晶質合金A2 を製造した。
【0012】図3は、非晶質合金A2 のX線回折図であり、一部結晶化に伴うピークp3 が見られる。
【0013】これは、溶湯に、非晶質合金A1 を得るときの冷却速度よりも遅い冷却速度で冷却処理を施したので、その冷却段階で前記1次発熱現象に対応する発熱現象が発生して、一部に結晶粒が生成されたことを示している。
【0014】図2、線a2 は、非晶質合金A2 の示差熱量分析結果を示す。線a2 から明らかなように、この非晶質合金A2 においては、1次発熱現象のピークp1 が現われない。そして、見掛上の結晶化温度Tは2次発熱現象に伴うピークp2 の基部側、したがって真正結晶化温度Txよりも高温側へ移行し、その見掛上の結晶化温度Tは475Kであった。また非晶質合金A2 は、1次発熱現象に対応する発熱現象発生下で得られたものであっても、ガラス化温度Tgを有し、見掛上の結晶化温度T未満でガラス遷移現象を示す。
【0015】かくして、非晶質合金A2 によれば、ガラス化温度Tgおよび見掛上の結晶化温度T間の温度差ΔT2 を、前記非晶質合金A1 の場合の温度差ΔT1 に比べて大きくすることができる。
【0016】次に、両非晶質合金A1 ,A2 の熱的安定性を調べるため、それら合金A1 ,A2 に加熱処理を施し、その後各合金A1 ,A2 について示差熱量分析を行い、ガラス化温度Tgが存在するかどうかを測定した。加熱処理温度は、ガラス化温度Tgおよび見掛上の結晶化温度T間の445Kに設定した。これは成形加工時の温度を想定したものである。
【0017】表1は、ガラス化温度Tgの測定結果を示す。表中、「○」は、ガラス化温度Tgが存在することを、また「×」はガラス化温度Tgが消滅していることをそれぞれ示す。
【0018】
【表1】


表1から明らかなように、非晶質合金A2 は非晶質合金A1 に比べて熱的安定性に優れ、一部結晶化に伴う不具合は生じていないことが確認された。
【0019】次に、両非晶質合金A1 ,A2 について、ガラス化温度Tg近傍における粘性変化を熱機械分析(TMA)により測定した。
【0020】図4は、測定結果を示し、線b1 が非晶質合金A1に、また線b2 が非晶質合金A2 にそれぞれ該当する。本図より、両非晶質合金A1 ,A2 が最終的に到達する粘性は同等であっても、そこに至るまでの粘性変化は、非晶質合金A2 の方が非晶質合金A1 に比べて緩慢であることが判る。
【0021】これは、非晶質合金A2 によれば、成形加工時に、軟化した一部分のみが選択的に変形することにより、全体の均一変形が妨げられる、といった不具合を解消し得ることを示している。
【0022】以上のように、非晶質合金A2 は、前記温度差ΔT2 の拡大に伴い、優れた熱的安定性と成形加工性とを有するもので、押出し加工、鍛造加工等を行う場合の素材として極めて有効である。この成形加工に当っては、非晶質合金の結晶化温度として、見掛上の結晶化温度Tが用いられる。
【0023】他の例として、前記溶湯を、直径0.4mmの石英ノズルからCu金型に注入して直径2mm、長さ30mmの非晶質合金を製造した。
【0024】この非晶質合金について示差熱量分析を行ったところ、図2、線a2 と同様の結果が得られた。これは、溶湯がCu金型によって、非晶質合金A1 を得るときよりも遅い冷却速度で冷却処理を施されたことに起因する。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、前記のように特定された素材に特定の発熱現象を発生させることによって、熱的安定性および過冷却液体状態を利用した成形加工性を向上させた非晶質合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】非晶質合金のX線回折図である。
【図2】非晶質合金の示差熱量分析図である。
【図3】非晶質合金のX線回折図である。
【図4】ガラス化温度Tgとの温度差と、粘度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶化温度Tx未満でガラス遷移現象を示し、且つ結晶化温度Tx以上において一部結晶化を生じる少なくとも1回の1次発熱現象を発生し、その後全体が結晶化に至る2次発熱現象を発生する、といった特性を有する合金を得るための素材に対し、前記1次発熱現象に対応する発熱現象を発生させて一部に結晶粒を生成させることを特徴とする非晶質合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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