説明

非水電解質二次電池及びその正極活物質の製造方法

【目的】 非水電解質二次電池の充放電特性とサイクル特性の向上を図る。
【構成】 負極3を構成する負極活物質としてリチウムもしくはリチウムを吸蔵放出可能な物質を用いる非水電解質二次電池において、正極5を構成する正極活物質としてLix y z 2 (但し、Mは遷移金属元素であり、Lは周期律表の IIIB,IVB及びVB族の非金属元素及び半金属元素、アルカリ土類金属元素及びZn,Cu,Ti等の金属元素の中から選ばれた1種または2種以上の元素)で示される層状構造の複合酸化物を用いる。
【効果】 充放電時の分極(内部抵抗)が低減され、有効な充放電容量が高まり、大電流充放電が容易になると同時に、サイクル劣化が改善される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、リチウムもしくはリチウムを吸蔵放出可能な物質を負極活物質とし、リチウムイオン導電性の非水電解質を用いる非水電解質二次電池に関するものであり、特に正極の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】負極活物質としてリチウムを用いる非水電解質電池は、高電圧、高エネルギー密度で、かつ自己放電が小さく長期信頼性に優れる等々の利点により、一次電池としてはメモリバックアップ用、カメラ用等の電源として既に広く用いられている。しかしながら、近年携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、電源としての電池に対して大電流出力を要求する機器が多種多様に出現し、経済性と機器の小型軽量化の観点から、再充電可能で、かつ高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。このため、高エネルギー密度を有する前記非水電解質電池の二次電池化を進める研究開発が活発に行われ、一部実用化されているが、エネルギー密度、充放電サイクル寿命、信頼性等々まだまだ不十分である。
【0003】従来、この種の二次電池の正極活物質としては、TiS2,MoS2,NbSe3 等の金属カルコゲン化物や、MnO2, MoO3,2 5, Lix CoO2,Lix NiO2, Lix Mn2 4 等の金属酸化物等々多種多様のものが提案されている。一般に、負極活物質として金属リチウムを用いる電池において、正極活物質として金属カルコゲン化物を用いたものは、その作動電圧が3V以下であり、その多くが2V以下である。これに対し、正極活物質として金属酸化物を用いたものでは3V以上の高電圧、高エネルギー密度のものが多く、5V以上の電源電圧を必要とする前述の機器の多くの用途においては電池を直列に接続する数が少なくて済み機器の小型、軽量化のために特に有利である。
【0004】一方、この種電池の負極活物質として金属リチウムを用いた場合には、充放電に伴い負極上にデンドライトや不働体化合物が生成し、充放電による劣化が大きく、サイクル寿命が短いという問題があった。この問題を解決するため、負極としてリチウムと他金属との合金、Liイオンを結晶中に含有する層間化合物あるいは挿入化合物、Liイオンをドープした導電性高分子等を用いることが提案されている。しかしながら、一般に負極活物質としてこのような金属リチウム以外のLiイオンを吸蔵放出可能な物質を用いた場合には、これらの物質の電極電位が金属リチウムの電極電位より貴であるため、電池の作動電圧が負極活物質として金属リチウムを用いた場合よりかなり低下するという欠点がある。例えば、LiとAl,Zn,Pb,Sn等の合金を用いる場合には0.2〜0.8V、炭素−リチウム層間化合物では0〜1V、MoO2 やWO2 等のLiイオン挿入化合物では0.5〜1.5V作動電圧が低下する。
【0005】このため、負極活物質としてこれらのLiイオンを吸蔵放出可能な物質を用い、サイクル特性が優れ、かつ高電圧、高エネルギー密度の二次電池を得るためには、Liに対する電極電位がより高い正極活物質が必要である。上記の正極活物質の中で、Lix CoO2 やLix NiO2 等のα−NaCrO2 型層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物Lix y 2 (x≦1、y≒1)は、リチウム負極に対して(2)式Lix1y 2 ⇔Lix1-x2 y 2 +x2 Li+ +x2 - …(2) (但し、x1 は充電前の、x1 −x2 は充電後のLi量xを表し、0<x1 ≦1、0<x1 −x2 ≦1である。)に示す電池反応をし、その作動電圧は4V以上の高電圧を示す。更に、充放電によりx=0〜1の範囲でLiイオンがデインターカレーション、インターカレーション可能とすると、理論エネルギー密度として1100Whr/kg以上の高エネルギー密度が期待され、また充放電サイクルによる劣化が比較的小さいという利点を有し、有望な物質である。
【0006】この層状構造を有するリチウム遷移金属酸化物Lix y 2 は、特開昭55−136131号公報に記載されているように、リチウム化合物(Li2 CO3,LiNO3, LiOH等)と遷移金属Mまたはその化合物(炭酸塩、硝酸塩等)とを所定の組成比で混合し、空気中もしくは酸素雰囲気中700〜900℃の温度で焼成することによって合成される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記のような従来のLix y2 を正極活物質とし、リチウムもしくはリチウムを吸蔵放出可能な物質を負極活物質とする電池の正極の充放電反応は、上述の(2)式に示すように、充電においては正極活物質Lix1y 2 の結晶構造中から電解質中にLiイオンがデインターカレーションし、負極に析出する。逆に、放電においては負極から生成するLiイオンが電解質中を通って正極活物質Lix1-x2 y 2 の結晶構造中にインターカレーションすることによって進行する。
【0008】理想的には、この充放電に際してLiイオンが可逆的にデインターカレーション、インターカレーションできる範囲、即ち充放電容量はできるだけ大きい方が好ましく、0≦x2 ≦1であるが、上記のような従来のLix y 2 を用いた電池においては、実用的な充電電圧及び電流密度では有効充放電容量が小さく、理論容量の50%以下であり、かつ電流が大きいほど小さくなるという問題があった。又、放電時の分極による作動電圧の低下が大きいという問題があった。
【0009】更に、一定の電圧範囲で充放電のサイクルを繰り返した場合に、充放電の繰り返しによる充放電容量の低下がみられ、かつ、充放電電流が大きいほど充放電容量の低下が大きいという問題があった。これらの原因は、充電によって正極のLix y 2 からLiイオンが引き抜かれるのに伴って(デインターカレーション)、Lix y 2 の電極電位が著しく上昇し、かつLiイオン導電性や電子導電性が低いことに起因する分極が大きいため、充電電圧が著しく上昇し、これらの電池に使用できる後述の電解質の分解電圧(金属Liに対し約4〜4.5V)や、電池ケース及び集電体等の酸化電位以下の実用的に安定な電圧では、充電される容量が著しく低下するためである。特に、Lix y 2 中のLi量xが約0.6以下の領域において電位上昇が著しいため実用的な充電電圧及び電流密度ではこの領域は実質的に利用できない。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記のような課題を解決するため、この種の電池の正極活物質として、式(1)
Lix y z 2 …(1)
(但し、Mは遷移金属元素、Lは周期律表 IIIB、IVB及びVB族の非金属元素及び半金属元素、アルカリ土類金属元素及びZn,Cu,Ti等の金属元素の中から選ばれた1種または2種以上の元素であり、x,y,zはそれぞれ 0<x≦1.15、0.85≦y+z≦1.3、0<z)で示される新規な層状構造の複合酸化物(以下層状複合酸化物と呼ぶ)を用いることを提起するものである。即ち、リチウムLi及び遷移金属Mと共に、周期律表 IIIB族のホウ素B,IVB族の炭素C、ケイ素Si,ゲルマニウムGe,VB族の窒素N,リンP,ヒ素As,アンチモンSb、ビスマスBi等の非金属元素及び半金属元素、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra等のアルカリ土類金属元素及びZn,Cu,Ti等の金属元素の中から選ばれた元素Lを少なくとも含む層状構造の複合酸化物を用いる。
【0011】本発明電池の正極活物質として用いられるリチウム、遷移金属、L元素の層状複合酸化物は次のようにして合成することができる。即ち、リチウムLi、遷移金属元素M、及びL元素の各々の単体またはその酸化物、水酸化物あるいは炭酸塩、硝酸塩などの塩あるいは有機化合物等々の化合物を所定比で混合し、空気中または酸素を有する雰囲気中600℃以上の温度、好ましくは700〜900℃の温度で加熱焼成することによって得られる。Li,M,L等の供給源としてそれらの酸化物、または、酸素を有する化合物を用いる場合には、不活性雰囲気中で加熱合成することも可能である。加熱時間は、通常4〜50時間で十分であるが、合成反応を促進し、均一性を高めるため、焼成、冷却、粉砕混合のプロセスを数回繰り返すことが有効である。
【0012】式(1)に於いて、Li量xは上記の加熱合成においては定比組成x=1が標準であるが、±15%程度の不定比組成も可能であり、又、電気化学的なインターカレーション、デインターカレーション等により0<x≦1.15が可能である。遷移金属元素Mとしては、Co,Ni,Fe,Mn,Cr,V等が好ましく、特にCo,Niが充放電特性が優れており好ましい。L元素量z及び遷移金属元素M量yとしては、0<zかつ0.85≦y+z≦1.3において充放電時の分極(内部抵抗)の低減、充放電容量の増加、サイクル劣化の低減等への効果が認められるのでこの範囲に限定される。一方、各サイクル毎の充放電容量は、一般にL元素量zが多すぎると逆に低下し、zの大きさにはL元素の種類によって著しく異なる最適範囲がある。例えば、L元素がZn,Cu,P等の場合には0<z≦0.25、B,Si等の場合には0<z≦0.5、Ti,Mg等の場合には0.05<z≦0.5において充放電容量が最大となるため、この範囲が特に好ましい。
【0013】一方、電解質としては、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、1、2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジメチルフォルムアミド等の有機溶媒の単独又は混合溶媒に支持電解質としてLiClO4, LiPF6, LiBF4,LiCF3 SO3 等のLiイオン解離性塩を溶解した有機電解液、ポリエチレンオキシドやポリフォスファゼン架橋体等の高分子に前記Li塩を固溶させた高分子固体電解質あるいはLi3 , LiI等の無機固体電解質等々のLiイオン導電性の非水電解質であれば良い。
【0014】
【作用】正極活物質として本発明の層状複合酸化物Lix y z 2 を用いた場合には、従来のLix y 2 を用いた場合に比べ、電解質の分解電圧や電池ケース、集電体等の酸化電位以下の実用的な充電電圧及び充放電電流密度においてLiイオンがインターカレーション、デインターカレーションできる範囲、即ち、有効な充放電容量が著しく増加する。又、これを用いた電池の分極(内部抵抗)が低減するため、充電時の電圧上昇及び放電時の作動電圧の低下が著しく改善され、より大電流での充放電が可能となる。
【0015】更に、充放電の繰り返しによる充放電容量の低下や電池内部抵抗の増加等のサイクル劣化が著しく軽減され、充放電サイクル特性が著しく改善される。このように充放電特性が改善される理由は、必ずしも明らかではないが、次のように推定される。即ち、本発明の新規な層状複合酸化物Lix y z 2 の基本結晶構造は後述の実施例に示すように、α−NaCrO2 型層状化合物Lix y 2 の遷移金属元素Mの一部がL元素で置換されたα−NaCrO2 型に類似の構造をしている。但し、L元素は又、結晶の格子間隙間やLiサイト(Liと置換)にも存在し得る。いずれにせよ、L元素の存在により、結晶構造及び電子構造が変化するため、Liイオン導電性が高まり、かつ電極電位が若干低下する。その結果、Liイオンのデインターカレーション及びインターカレーションが容易となり、充電時の電池電圧上昇、放電時の作動電圧低下が著しく抑制されるため、充放電の有効容量が著しく増加する。
【0016】又、充放電の繰り返しに伴うLiイオンのインターカレーション、デインターカレーションによる結晶破壊等の劣化がほとんど無いものと推定される。以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0017】
【実施例】
〔実施例1〕図1は、本発明の一例を示すコイン型電池の断面図である。図において、1は負極端子を兼ねる負極缶であり、外側片面をNiメッキしたステンレス鋼製の板を絞り加工したものである。2はステンレス鋼製のネットから成る負極集電体であり負極缶1にスポット溶接されている。負極3は、所定厚みのアルミニウム板を直径15mmに打ち抜き、負極集電体2に固着し、その上に所定厚みのリチウムフォイルを直径14mmに打ち抜いたものを圧着したものである。7は外側片面をNiメッキしたステンレス鋼製の正極缶であり、正極端子を兼ねている。5は後述の本発明に係わる正極であり、ステンレス鋼製のネットからなる正極集電体6と一体に加圧成形されている。4はポリプロピレンの多孔質フィルムからなるセパレータであり、電解液が含浸されている。8はポリプロピレンを主体とするガスケットであり、負極缶1と正極缶7の間に介在し、正極と負極との間の電気的絶縁性を保つと同時に、正極缶開口縁が内側に折り曲げられカシメられることによって、電池内容物を密封、封止している。電解質はプロピレンカーボネートとエチレンカーボネート及び1,2−ジメトキシエタンの体積比1:1:2混合溶媒に過塩素酸リチウムLiClO4 を1モル/1溶解したものを用いた。電池の大きさは、外径20mm、厚さ1.6mmであった。
【0018】正極5は次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と酸化亜鉛ZnOとをLi:Co:Zn=1:0.75:0.25のモル比で乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質aを作製した。又、比較のため、Znを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 を次のようにして作製した。即ち、水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 とを、Li:Co=1:1のモル比で混合し、この混合物を大気中850℃の温度で12時間焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して比較活物質r1を得た。
【0019】これらの生成物を正極活物質とし、これに導電剤としてグラファイトを、結着剤としてフッ素樹脂を重量比60:35:5の割合で混合して正極合剤とし、次にこの正極合剤をステンレス鋼製のネットからなる正極集電体6と共に2ton/cm2 で直径15mm、厚さ0.5mmのペレットに加圧成形した後、100℃で10時間の減圧加熱乾燥したものを正極とした。
【0020】このようにして作製された電池は、室温で1週間放置エージングされた後、後述の充放電試験が行われた。このエージングによって負極のリチウム−アルミニウム積層電極は電池内で非水電解液に触れることにより十分合金化が進行し、リチウムフォイルは実質的に全てLi−Al合金となるため、電池電圧は負極として金属リチウムを単独で用いた場合に比べて約0.4V低下した値となって安定した。
【0021】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質a、r1に対応し、電池A、R1と略記する。図2に、上記のようにして作製した正極活物質a、r1及び活物質aの合成に用いた原料の酸化亜鉛ZnO(qとする)のCuKα線を用いたX線回折図を示す。同図から明らかなように、比較活物質r1の回折パターンはASTMカードNo.16−427のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiCoO2 と一致している。一方、本発明による活物質aでは、α−NaCrO2 型層状化合物結晶からのピークと共に、原料ZnOからと推定される微小なピーク(例えば、2θ≒31.6、34.3、36.2、47.4°)も現れている。しかしながら、このZnOからのピーク強度は、原料ZnOが100%の回折図レファレンス(q)との測定感度を考慮した比較から、活物質aの合成時に添加したZnO量から期待されるピーク強度に比べ著しく小さい。従って、添加したZn原子のかなりの量はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有する複合酸化物Lix Coy Znz 2 を構成していると考えられる。即ち、本発明による活物質aは、α−NaCrO2 型に類似の層状構造を有する複合酸化物Lix Coy Znz 2 と少量の原料ZnOの未反応物とが共存する混合体であり、Lix Coy Znz 2 中のZn量zは合成時の添加量0.25モルより小さいが、かなり大きな値と推定される。又、活物質aのLix Coy Znz 2 からの回折ピークは、r1のLiCoO2 からのピークに比べやや低角側にシフトし、かつ、各ピークの相対強度に若干の違いが見られる他はほとんど変化が無いことから、Lix Coy Znz 2 中でのほとんどのZn原子はLiCoO2 におけるCo原子をZn原子で置換した位置に入っており、結晶格子間の隙間位置に入っているものは少なく、かつ、Lix Coy Znz 2 の層間間隔はLiCoO2の層間間隔に比べやや拡がっていると推定される。更に、LiとZnOとの電池反応電位は、公知のように2V以下であるので、後述の充放電試験において4〜2Vの範囲で反応する正極活物質は、全て層状複合酸化物Lix Coy Znz 2 であり、残存するZnOは反応に寄与しない。
【0022】これらの電池A,R1を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行い、そのときの1サイクル目の充電特性を図3に、放電特性を図4に示した。又、2サイクル目の充電特性を図5に、放電特性を図6に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図3〜6から明らかなように、本発明による電池Aは従来電池R1に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は0.2〜0.3V低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく改善され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように、本発明による電池Aの正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy Znz2 においては、LiCoO2 のCo原子の一部がZn原子で置換されることにより、結晶の層間間隔が拡がり、結晶構造、電子構造に変化が生じたためLiイオン導電性が高まると同時に、電極電位が0.1V前後低下したことによるものと考えられる。
〔実施例2〕本実施例は正極活物質を構成するL元素として銅Cuを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例1と同様にして同様な電池を作製した。
【0023】本実施例の正極活物質を次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と酸化銅CuOとをLi:Co:Cu=1:0.75:0.25のモル比で乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質bを作成した。又、比較のため、Cuを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 として実施例1のr1を用いた。
【0024】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質b,r1に対応し、電池B,R1と略記する。図7に、上記のようにして作製した正極活物質b,r1のCuKα線を用いたX線回折図を示す。図から明らかなように、比較活物質r1の回折パターンはASTMカードNo.16−427のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiCoO2 と一致している。一方、本発明による活物質bでは、α−NaCrO2 型層状化合物結晶からのピークと共に、原料CuOまたはCo,Li,Cuの他の酸化物からと推定される微小なピーク(例えば、2θ≒26.0、35.5、38.8°)も現れている。しかしながら、これらのピーク強度は、活物質bの合成時に添加したCuO量から期待されるピーク強度に比べ著しく小さい。従って、添加したCu原子のかなりの量はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有する複合酸化物Lix Coy Cuz 2 を構成していると考えられる。即ち、本発明による活物質bは、α−NaCrO2 型に類似の層状構造を有する複合酸化物Lix Coy Cuz 2 と少量の原料CuOまたは他のLi,Co,Cu酸化物とが共存する混合体であり、Lix Coy Cuz 2 中のCu量zは合成時の添加量0.25モルより小さいが、かなり大きな値と推定される。又、活物質bのLix Coy Cuz 2 からの回折ピークは、r1のLiCoO2 からのピークに比べやや低角側にシフトし、かつ、各ピークの相対強度に若干の違いが見られる他はほとんど変化がないことから、Lix Coy Cuz 2 中でのほとんどのCu原子はLiCoO2 におけるCo原子をCu原子で置換した位置に入っており、結晶格子間の隙間位置に入っているものは少なく、かつ、Lix Coy Cuz 2 の層間間隔はLiCoO2 の層間間隔に比べやや拡がっていると推定される。更に、Li−Alの合金負極とCuOとの電池反応電圧は公知のように2V以下であるので、後述の充放電試験において4〜2Vの範囲で反応する正極活物質は実質的に全て層状複合酸化物Lix Coy Cuz 2 であり、共存するCuO等は反応に寄与しない。
【0025】これらの電池B,R1を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの1サイクル目の充電特性を図8に、放電特性を図9に示した。又、2サイクル目の充電特性を図10に、放電特性を図11に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図8〜11から明らかなように、本発明による電池Bは従来電池R1に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は0.3V前後低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく低減され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように本発明による電池Bの正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy Cuz 2 においては、LiCoO2 のCo原子の一部がCu原子で置換されることにより、結晶の層間間隔が拡がり、結晶構造、電子構造に変化が生じたため、Liイオン導電性が高まると同時に電極電位が0.1V前後低下したことによるものと考えられる。
〔実施例3〕本実施例は正極活物質を構成するL元素としてチタンTiを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例1と同様にして同様な電池を作製した。
【0026】本実施例の正極活物質を次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と酸化チタンTiO2 とをLi:Co:Ti=1:0.75:0.25のモル比で乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返してLiCo0.75Ti0.252 の組成を有する層状複合酸化物を得た。これを本発明による正極活物質cとして用いた。又、比較のためTiを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2として実施例1のr1を用いた。
【0027】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質c,r1に対応し、電池C,R1と略記する。これらの電池C,R1を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの1サイクル目の充電特性を図12に、放電特性を図13に示した。又、2サイクル目の充電特性を図14に放電特性を図15R>5に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図12〜15から明らかなように、本発明による電池Cは従来電池R1に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は0.3V前後低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく低減され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように本発明による電池Cの正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy Tiz 2 においては、LiCoO2 のCo原子の一部がTi原子で置換されることにより、結晶の層間間隔が拡がり、結晶構造、電子構造に変化が生じたため、Liイオン導電性が増加し、Liイオンのインターカレーション、デインターカレーションが容易になったためと推定される。
〔実施例4〕本実施例は正極活物質を構成するL元素として周期律表 IIIB族の半金属元素であるホウ素Bを用いた場合である。正極以外は基本的に実施例1と同様にして同様な電池を作製した。
【0028】正極5は次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と酸化ホウ素B2 3 とをLi:Co:Bが所定のモル比となるように秤量し、乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質を合成した。本実施例では、Li:Co:Bのモル比が(d1)1:0.95:0.05(LiCo0.950.052 )及び(d2)1:0.8:0.2(LiCo0.8 0.2 2 )の2種類を作製した。又、比較のため、ホウ素Bを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 を次のようにして作製した。即ち、水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 とをLi:Co=1:1のモル比で混合し、この混合物を大気中850℃の温度で12時間焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して比較活物質(r2)を得た。
【0029】これらの生成物を正極活物質とし、これに導電剤としてグラファイトを、結着剤としてフッ素樹脂等を重量比60:35:5の割合で混合して正極合剤とし、次にこの正極合剤をステンレス鋼製のネットからなる正極集電体6と共に2ton/cm2 で直径15mm、厚さ0.5mmのペレットに加圧成形した後、100℃で10時間減圧加熱乾燥したものを正極とした。
【0030】このようにして作製された電池は、室温で1週間放置エージングされた後、後述の充放電試験が行われた。このエージングによって、負極のリチウム−アルミニウム積層電極は電池内で非水電解液に触れることにより十分合金化が進行し、リチウムフォイルは実質的に全てLi−Al合金となるため、電池電圧は負極として金属リチウムを単独で用いた場合に比べて約0.4V低下した値となって安定した。
【0031】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質d1,d2,r2に対応し、電池D1,D2,R2と略記する。図16に、上記のようにして作製した本発明による正極活物質d1,d2及び従来法による比較活物質r2のCuKα線を用いたX線回折図を示す。図から明らかなように、比較活物質r2の回折パターンはASTMカードNo.16−427のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiCoO2 と一致している。一方、本発明による活物質d1,d2の回折パターンは比較活物質LiCoO2 の回折パターンと極めて類似しており、各回折ピークの位置に明白な差は見られず、未知の新たな回折ピークも見られないが、各回折ピークの相対強度には差違が見られる。即ち、2θ≒18.9,38.3°等の六方晶c軸に垂直な(003)、(006)面等からの回折強度がそれら以外の面からの回折強度に比べ相対的に大きくなっており、ホウ素Bの含有量が多い程その傾向が強くなっている。従って、本発明による活物質d1,d2はα−NaCrO2 型の層状構造を有する酸化物LiCoO2 におけるCo原子の一部がホウ素原子Bにより置換された構造をしており、大部分のホウ素原子はこのCo原子と置換した位置にあり、結晶格子間の隙間位置やLiサイトに入っているものは少ないものと推定される。即ち、本発明による活物質d1,d2はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有し、それぞれLiCo0.950.052 及びLiCo0.8 0.2 2 の組成を有するリチウムホウ素遷移金属複合酸化物であると判断される。
【0032】これらの電池D1,D2,及びR2を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの2サイクル目の充電特性を図17に、放電特性を図18に示した。又、サイクル特性を図19に示した。なお、充放電サイクルは充電からスタートした。図17〜19から明らかなように、本発明による電池D1,D2は比較電池R2に比べて、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。又、充放電の繰り返しによる放電容量の低下(サイクル劣化)が著しく小さい。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は0.2〜0.3V低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく改善され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように本発明による電池D1,D2の正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy z 2 においては、LiCoO2 のCo原子の一部がB原子で置換されることにより、結晶構造、電子構造に変化が生じたためLiイオン導電性が高まり、Liイオンのインターカレーション、デインターカレーションが容易になったためと推定される。
【0033】尚、充放電容量は、ホウ素量zが多すぎると逆に低下し、0<z≦0.5において最大となるためこの範囲が好ましい。
〔実施例5〕本実施例は、正極活物質を構成する遷移金属元素MとしてニッケルNiを、L元素として周期律表 IIIB族の半金属元素であるホウ素Bを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例4と同様な方法で同様な電池を作製した。
【0034】本実施例の正極活物質を次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと酸化ニッケルNiOと酸化ホウ素B2 3 とをLi:Ni:Bが所定のモル比となるように秤量し、乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質を合成した。本実施例では、Li:Ni:Bのモル比が(e1)1:0.95:0.05(LiNi0.950.052 )及び(e2)1:0.8:0.2(LiNi0.8 0.2 2 )の2種類を作製した。又、比較のため、ホウ素Bを含まない従来法による層状酸化物LiNiO2 を次のようにして作製した。即ち、水酸化リチウムLiOH・H2 Oと酸化ニッケルNiOとをLi:Ni=1:1のモル比で混合し、この混合物を大気中850℃の温度で12時間焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して比較活物質(r3)を得た。
【0035】これらの生成物を正極活物質として用いた他は、全て実施例4と同様な方法で同様な電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質e1,e2及びr3に対応し、電池E1,E2及びR3と略記する。このようにして作製した電池についても実施例4と同様な1mA定電流充放電サイクルを行った。このときの2サイクル目の充電特性を図20に、放電特性を図21に示した。又、上記のようにして作製した正極活物質e1及びr3のCuKα線を用いたX線回折図を図16に同様に示した。
【0036】図16から明らかなように、比較活物質r3の回折パターンはASTMカードNo.9−63のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiNiO2 と一致している。一方、本発明による活物質e1の回折パターンは比較活物質r3の回折パターンと極めて類似しており、各回折ピークの位置に明白な差は見られず、未知の新たな回折ピークも見られないが、各回折ピークの相対強度には差が見られる。従って、本発明による活物質e1はα−NaCrO2 型の層状構造を有する酸化物LiNiO2 におけるNi原子の一部がホウ素原子Bにより置換された構造をしており、大部分のホウ素原子BはこのNi原子と置換した位置にあり、結晶格子間の隙間位置やLiサイトに入っているものは少ないものと推定される。即ち、本発明による活物質e1,e2はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有し、それぞれLiNi0.950.052 及びLiNi0.8 0.2 2 の組成を有するリチウムホウ素遷移金属複合酸化物であると判断される。
【0037】又、図20及び図21から明らかなように、本実施例においても本発明による電池E1は比較電池R3に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。一方、ホウ素含有量z=0.2の電池E2では充放電容量に改善が見られず、むしろやや低下していることから、遷移金属元素MがNiの場合にはホウ素Bの含有量zは0<z<0.2とすることが好ましい。
〔実施例6〕本実施例は正極活物質を構成するL元素として周期律表IVB族の半金属元素であるケイ素Siを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例4と同様にして、同様な電池を作製した。
【0038】本実施例の正極活物質を次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と二酸化ケイ素SiO2 とをLi:Co:Siが所定のモル比となるように秤量し、乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質を合成した。本実施例では、Li:Co:Siのモル比が(f1)1:0.95:0.05(LiCO0.95Si0.052 )及び(f2)1:0.8:0.2(LiCo0.8 Si0.2 2 )の2種類を作製した。又、比較のため、ケイ素Siを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 として実施例4のr2を用いた。
【0039】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質f1,f2,r2に対応し、電池F1,F2,R2と略記する。これらの電池F1,F2及びR2を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの2サイクル目の充電特性を図22に、放電特性を図23に示した。又、サイクル特性を図24に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図22〜24から明らかなように、本発明による電池F1,F2は比較電池R2に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。又、充放電の繰り返しによる放電容量の低下(サイクル劣化)が著しく小さい。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は0.2〜0.3V低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく改善され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように、本実施例による電池F1,F2の正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy Siz 2 においては、結晶構造中にケイ素Siを含有することにより、結晶構造、電子構造に変化が生じたため、Liイオン導電性が高まり、Liイオンのインターカレーション、デインターカレーションが容易になったためと推定される。
【0040】尚、充放電容量は、ケイ素量zが多すぎると逆に低下し、0<z≦0.5において最大となるため、この範囲が特に好ましい。また、本実施例ではLとしてIVB族の半金属元素であるSiについて説明したが、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)等の他のIVB族半金属元素についても本実施例と同様の効果が得られる。
〔実施例7〕本実施例は正極活物質を構成するL元素としてアルカリ土類金属のMgを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例4と同様にして同様な電池を作製した。
【0041】正極活物質は次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と酸化マグネシウムMgOとをLi:Co:Mgが所定のモル比となるように秤量し、乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質を合成した。本実施例では、Li:Co:Mgのモル比が(g1)1:0.95:0.05(LiCo0.95Mg0.052 )及び(g2)1:0.8:0.2(LiCo0.8 Mg0.2 2 )の2種類を作製した。又、比較のため、マグネシウムMgを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 として実施例4のr2を用いた。
【0042】このようにして作製した電池を、以下、それぞれの使用した正極活物質g1,g2,r2に対応し、電池G1,G2,R2と略記する。図25に、上記のようにして作製した本発明による正極活物質g1,g2及び従来法による比較活物質r2のCuKα線を用いたX線回折図を示す。図から明らかなように、比較活物質r2の回折パターンはASTMカードNo.16−427のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiCoO2 と一致している。一方、本発明による活物質g1,g2の回折パターンは比較活物質LiCoO2 の回折パターンと極めて類似しており、未知の新たな回折ピークは見られないが、回折ピークの位置は若干低角側にシフトしており、かつ、マグネシウムMgの含有量zの大きい活物質g2のほうがマグネシウムMgの含有量zの小さい活物質g1よりもシフトが大きくなっている。又、各回折ピークの相対強度にも差違が見られ、マグネシウムMgの含有量が多い程その差違が大きくなっている。従って、本発明による活物質g1,g2はα−NaCrO2 型の層状構造を有する酸化物LiCoO2 におけるCo原子の一部がMg原子により置換され、結晶格子間隔が拡がった構造をしており、大部分のMg原子はこのCo原子と置換した位置にあり、結晶格子間の隙間位置やLiサイトに入っているものは少ないものと推定される。即ち、本実施例による活物質g1,g2はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有し、それぞれLiCo0.95Mg0.052 及びLiCo0.8 Mg0.2 2 の組成を有するリチウムマグネシウム遷移金属複合酸化物であると判断される。
【0043】これらの電池G1,G2,R2を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの2サイクル目の充電特性を図26に、放電特性を図27に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図26及び図27から明らかなように、本発明による電池G1,G2は比較電池R2に比べ、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。又、全充放電領域に渡って充電電圧は低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく改善され、大電流充放電が容易なことが分かる。更に、これらの効果は、マグネシウムの含有量zに大きく依存し、zの小さい電池G1に比べ、0.05<zである電池G2において顕著である。これは上述のように、本発明による電池G1,G2の正極活物質である層状複合酸化物Lix CoyMgz 2 においては、マグネシウムを含有することにより結晶の格子間隔が拡がり、結晶構造、電子構造に変化が生じたためLiイオン導電性が高まり、Liイオンのインターカレーション、デインターカレーションが容易になったためと推定される。
【0044】尚、本実施例ではLとしてアルカリ土類金属のマグネシウムを説明したが、他のアルカリ土類金属Be,Ca,Sr,Ba,Raについても本実施例と同様の効果が得られる。
〔実施例8〕本実施例は正極活物質を構成するL元素として周期律表VB族の非金属元素であるリンPを用いた場合である。正極活物質以外は全て実施例4と同様にして同様な電池を作製した。
【0045】本実施例の正極活物質を次のようにして作製した。水酸化リチウムLiOH・H2 Oと炭酸コバルトCoCO3 と五酸化リンP2 5 とをLi:Co:Pが所定のモル比となるように秤量し、乳鉢を用いて十分混合した後、この混合物を大気中850℃の温度で12時間加熱焼成し、冷却後、粒径53μm以下に粉砕整粒した。この焼成、粉砕整粒を2回繰り返して本発明による正極活物質を合成した。
【0046】本実施例では、Li:Co:Pのモル比が(h1)1:0.95:0.05(LiCo0.950.052 )及び(h2)1:0.8:0.2(LiCo0.8 0.2 2 )の2種類を作製した。又、比較のため、リンPを含まない従来法による層状酸化物LiCoO2 として実施例4のr2を用いた。このようにして作製した電池を、以下それぞれの使用した正極活物質h1,h2,r2に対応し、電池H1,H2,R2と略記する。
【0047】図28に、上記のようにして作製した本発明による正極活物質h1及び従来法による比較活物質r2のCuKα線を用いたX線回折図を示す。図から明らかなように、比較活物質r2の回折パターンはASTMカードNo.16−427のα−NaCrO2 型層状構造を有するLiCoO2 と一致している。一方、本発明による活物質h1の回折パターンは比較活物質LiCoO2 の回折パターンと極めて類似しており、2θ≒37.3°の回折ピークの低角側にサテライトピークと推定される小さなピークが見られる他には、未知の新たな回折ピークは見られないが、各回折ピークの相対強度には顕著な差が見られる。即ち、2θ≒18.8,38.3°等の六方晶c軸に垂直な(003)、(006)面等からの回折強度がそれら以外の面からの回折強度に比べ相対的に小さくなっている。従って、本発明による活物質h1,h2はα−NaCrO2 型の層状構造を有する酸化物LiCoO2 におけるCo原子の一部がリン原子Pにより置換され、結晶構造中にP原子を含有する構造をしており、大部分のP原子はこのCo原子と置換した位置(Coサイト)にあり、結晶格子間の隙間位置やLiサイトに入っているものは少ないものと推定される。即ち、本発明による活物質h1,h2はα−NaCrO2 型に類似の層状構造を有し、それぞれLiCo0.950.052 及びLiCo0.8 0.2 2 の組成を有するリチウムリン遷移金属複合酸化物であると判断される。
【0048】これらの電池H1,H2,R2を1mAの定電流で、充電終止電圧4.0V、放電終止電圧2.0Vの条件で充放電サイクルを行ったときの5サイクル目の充電特性を図29に、放電特性を図30に示した。又、サイクル特性を図31に示した。尚、充放電サイクルは充電からスタートした。図29〜31から明らかなように、本発明による電池H1は比較電池R2に比べて、充放電容量が著しく大きく、充放電の可逆領域が著しく拡大することが分かる。又、充放電の繰り返しによる放電容量の低下(サイクル劣化)が著しく小さい。更に、全充放電領域に渡って充電電圧は低く、逆に放電の作動電圧は著しく高くなっており、電池の分極(内部抵抗)が著しく改善され、大電流充放電が容易なことが分かる。これは、上述のように、本発明による電池H1の正極活物質である層状複合酸化物Lix Coy z 2においては、結晶構造中にリンPを含有することにより、結晶構造、電子構造に変化が生じたためLiイオン導電性が高まり、Liイオンのインターカレーション、デインターカレーションが容易になったためと推定される。
【0049】一方、これらの効果は、リンPの含有量zに大きく依存し、充放電容量はリン量zが0.2の電池Bでは逆に低下しており、0<z<0.2において最大となるため、この範囲が好ましい。尚、実施例においては、負極としてリチウム−アルミニウム合金の場合のみを示したが、本発明は実施例に限定されず、金属リチウム、リチウムとZn,Sn,Pb,Bi等の他金属との合金、炭素やMoO2 ,WO2, Fe2 3 等のリチウム挿入化合物、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリアセン等のLiイオンをドープできる導電性高分子等々のリチウムを吸蔵放出する物質にも同様に適用できることは言うまでもない。
【0050】又、負極活物質は、必ずしも電池製造時にLiを含有している必要はなく、電池組立後、充電により電解質中のLiイオンもしくは正極活物質からデインターカレーションしたLiイオンを負極に吸蔵させる方法でもよい。更に、層状複合酸化物Lix y Z 2 の遷移金属元素MとしてCoとNiの場合のみを示したが、Cr,Fe,Mn,V等々の他の遷移金属の場合にも、上記の説明に基づき同様に適用できることは言うまでもない。
【0051】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明は非水電解質二次電池の正極活物質として、少くとも周期律表 IIIB,IVB及びVB族の非金属元素及び半金属元素、アルカリ土類金属元素及びZn,Cu,Ti等の金属元素の中から選ばれた1種または2種以上の元素Lを含有する新規な層状複合酸化物Lix y Z 2 (Mは遷移金属)を用いたものであり、充放電時のLiイオンのデインターカレーション、インターカレーションを容易にし、その結果有効な充放電容量を著しく高め、かつ、充電電圧を低減し、放電時の作動電圧を高め、大電流での充放電特性を著しく改善するとともに充放電の繰り返しによる充放電容量の低下等のサイクル劣化をも著しく低減する等々優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明において実施した電池の構造の一例を示した説明図である。
【図2】各種正極活物質の粉末X線回折図の比較を示した説明図である。
【図3】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図4】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図5】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図6】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図7】各種正極活物質の粉末X線回折図の比較を示した説明図である。
【図8】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図9】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図10】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図11】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図12】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図13】本発明による電池と従来電池の1サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図14】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図15】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図16】各種正極活物質の粉末X線回折図の比較を示した説明図である。
【図17】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図18】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図19】本発明による電池と従来電池のサイクル特性の比較を示した説明図である。
【図20】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図21】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図22】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図23】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図24】本発明による電池と従来電池のサイクル特性の比較を示した説明図である。
【図25】各種正極活物質の粉末X線回折図の比較を示した説明図である。
【図26】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図27】本発明による電池と従来電池の2サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図28】各種正極活物質の粉末X線回折図の比較を示した説明図である。
【図29】本発明による電池と従来電池の5サイクル目の充電特性の比較を示した説明図である。
【図30】本発明による電池と従来電池の5サイクル目の放電特性の比較を示した説明図である。
【図31】本発明による電池と従来電池のサイクル特性の比較を示した説明図である。
【符号の説明】
1 負極缶
2 負極集電体
3 負極
4 セパレータ
5 正極
6 正極集電体
7 正極缶
8 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】 リチウムLiもしくはリチウムを吸蔵放出可能な物質を活物質とする負極と、式(1)
Lix y z 2 …(1)
(但し、Mは遷移金属元素、Lは周期律表 IIIB、IVB及びVB族の非金属元素及び半金属元素、アルカリ土類金属元素及びZn,Cu,Ti等の金属元素の中から選ばれた1種または2種以上の元素であり、x,y,zはそれぞれ 0<x≦1.15、0.85≦y+z≦1.3、0<z)で示される層状構造の複合酸化物を活物質とする正極と、リチウムイオン導電性の非水電解質とを用いたことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】 リチウムLiと遷移金属元素MとL元素の各々の単体またはその化合物とを混合し、空気中または酸素を有する雰囲気中で加熱して式(1)で示される層状構造の複合酸化物を得ることを特徴とする非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】 式(1)で示される層状構造の複合酸化物を構成するL元素が、少くともホウ素B、ケイ素Si及びリンPの中から選ばれた1種または2種以上の非金属元素もしくは半金属元素を含むことを特徴とする請求項1及び2に記載の非水電解質二次電池及びその正極活物質の製造方法。
【請求項4】 式(1)で示される層状構造の複合酸化物を構成するL元素が、少くともマグネシウムMgを含むことを特徴とする請求項1及び2に記載の非水電解質二次電池及びその正極活物質の製造方法。
【請求項5】 リチウムLiの化合物として水酸化リチウムを用いたことを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】 水酸化リチウムが水和水酸化リチウムLiOH・H2 Oであることを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】 遷移金属元素Mの化合物としてMの炭酸塩または酸化物を用いたことを特徴とする請求項2、5及び6に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】 L元素の化合物としてLの酸化物または炭酸塩を用いたことを特徴とする請求項2、5、6及び7に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】 水酸化リチウムと炭酸コバルトとL元素の酸化物とを混合し、空気中600〜900℃の温度で加熱することを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】 水酸化リチウムと酸化ニッケルとL元素の酸化物とを混合し、空気中600〜900℃の温度で加熱することを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】 リチウムと合金化する金属またはリチウムと合金化する金属とリチウムとを積層一体化したものを負極活物質として用いることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項12】 リチウムと合金化する金属がアルミニウムであることを特徴とする請求項11に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図16】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図26】
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【図25】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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