説明

非経口アジュバントとしての細菌性ADP−リボシル化毒素の無毒化された変異体

【課題】免疫応答を惹起するためのワクチンの非経口的送達を可能にするアジュバントの提供。
【解決手段】非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化された変異体および少なくとも1つの選択された抗原を含む、非経口なアジュバント組成物であって、1つの実施形態において、上記非毒性アジュバントが、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、およびE.coli易熱性毒素(LT)からなる群から選択される無毒化された変異体である、組成物、または、別の実施形態において、上記無毒化された変異体が、細菌性ホロ毒素のAサブユニット中で、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む、組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生物体への抗原の投与に有用なアジュバントに関する。特に、本発明のアジュバントは、免疫応答を惹起するためのワクチンの非経口的送達を可能にする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組換えDNA技術の進歩は、サブユニットワクチンおよびDNAを基礎としたワクチンのような、種々のワクチンの生成を可能にしてきた。これらは、より伝統的に死滅または弱毒化させたワクチンとは別物である。抗原物質に対する免疫系の応答性を増強するアジュバントが知られている;しかし現在、ほとんどのアジュバントがヒトの使用に認可されておらず、さらなるアジュバントは前臨床研究および臨床研究にある。
【0003】
ADP-リボシル化細菌性毒素は、ヒトに対して強力な毒素の一群であり、ジフテリア毒素、百日咳毒素(PT)、コレラ毒素(CT)、E.coli易熱性毒素(LT1およびLT2)、Pseudomonas内毒素A、C.botulinumC2およびC3毒素、ならびにC.perfringens、C.spiriforma、およびC.difficile由来の毒素を含む。これらの毒素は、GTP結合タンパク質のADP-リボシル化を担う単量体の酵素的に活性なAサブユニット、および標的細胞表面のレセプターに結合し、そして細胞膜を横切ってAサブユニットを送達する非毒性のBサブユニットから構成される。
【0004】
CTおよびLTの場合、Aサブユニットは、標的細胞中の細胞内cAMPレベルを増加させることが知られており、一方、Bサブユニットは五量体であり、GM1ガングリオシドレセプターに結合する。(LT-Bはまたさらなるレセプターに結合する。)
以前に、CTが、十二指腸内(すなわち、粘膜表面)に投与された場合、それ自身に対する粘膜性および全身性の免疫を誘導し得ることを示す観察がなされた。CTの膜結合機能は、粘膜の免疫原性に必須であることが示されたが、コレラトキソイド(CTのBサブユニット(CT-B)としても知られる)は、単離されると不活性であった(PierceおよびGowans、J.Exp. Med. 1975;142:1550;Pierce、J. Exp Med. 1978;148:195-206)。
【0005】
続いて、ネイティブCTが、同時投与された抗原に対して免疫を誘導すること(Elson, Curr. Top. Microbiol. Immunol.,1989; 146:29;ElsonおよびEalding, J. Immunol. 1984; 133:2892-2897;ElsonおよびEalding,Ibid. 1984; 132:2736-2741;Elsonら、J. Immunol. Meth. 1984; 67:101-118;LyckeおよびHomgren,Immunology 1986; 59:301-339)、およびこれらの抗原がCTと組み合わされて皮膚に適用された場合、免疫応答は、ジフテリアまたは破傷風トキソイドに対して誘発され得ることが実証された。
【0006】
2つのアプローチが、CT毒性の問題に取り組むためにとられてきた。第1のアプローチは、粘膜のアジュバントとしてCT-Bの使用を含んだ。CT-Bは全て非毒性である。同時投与されたCT-Bに対するアジュバント効果は、多数の文献中で主張されてきた(Tamuraら、J.Immunol. 1992; 149:981-988;Hirabayashiら、Immunology 1992; 75: 493-498;Gizurarsonら、Vaccine 1991; 9:825-832;Kikutaら、Vaccine 1970; 8:595-599;Hirabayashiら、Ibid. 1990;8:243-248;Tamuraら、Ibid. 1989; 7:314-32-;Tamuraら、Ibid. 1989; 7:257-262;Tamuraら、Ibid.1988; 6:409-413;Hirabayashiら、Immunology 1991; 72:329-335;Tamuraら、Vaccine 1989;7:503-505)。
【0007】
しかし、上記の報告で観察された多数の局面は、完全に確信されなかった。例えば、CT-Bに基づくアジュバント効果がH-2(MHC)制限されなかったことが注目された。しかし、CTBに対する免疫応答はH-2(MHC)制限されることが知られている(ElsonおよびEalding、Eur.J. Immuno. 1987; 17:425-428)。さらに、主張されたアジュバント効果は、すでにCT-Bで免疫した個体においてさえ、観察された。
【0008】
他のグループは、CT-Bに帰する粘膜のアジュバント効果を観察することができなかった(LyckeおよびHolmgren、Immunology 1986; 59:301-308;Lyckeら、Eur. J. Immunol. 1992: 22:2277-2281)。組換えCT-Bを用いた実験(Holmgrenら、Vaccine 1993; 11:1179-1183)は、主張された効果は大部分が、独占的ではないにしても、CTを伴うCT-B調製物の低レベルの夾雑物に帰することを確証した。
【0009】
CTの毒性を除去する第2のアプローチは、その毒性を減ずるか、または除去するために、活性ホロ毒素を変異させることである。CTの毒性は、Aサブユニット中に存在し、そして、CTおよびその類縁体LT(Aサブユニット中に点変異を含む)に対する多数の変異体は、当該分野において公知である。例えば、国際特許出願WO92/19265を参照のこと。CTおよびLTが一般的に相互交換可能であり、有意な相同性を示すことは、当該分野において受け入れられている。ADP-リボシル化細菌性毒素変異体は、粘膜アジュバントとして機能することが示されている。国際特許出願WO95/17211を参照のこと。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化された変異体および少なくとも1つの選択された抗原を含む、非経口なアジュバント組成物。
(2)前記非毒性アジュバントが、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、およびE.coli易熱性毒素(LT)からなる群から選択される無毒化された変異体である、項目1に記載の組成物。
(3)前記無毒化された変異体が、細菌性ホロ毒素のAサブユニット中で、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む、項目2に記載の組成物。
(4)前記無毒化された変異体が、LT-K63、LT-R72.CT-S109、およびPT-K9/G129からなる群から選択される、項目3に記載の組成物。
(5)前記無毒化された変異体がLT-K63である、項目4に記載の組成物。
(6)前記無毒化された変異体がLT-R72である、項目4に記載の組成物。
(7)非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化された変異体および薬学的に受容可能な局所的ビヒクルを含む、非経口アジュバント組成物。
(8)前記非毒性アジュバントが、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、およびE.coli易熱性毒素(LT)からなる群から選択される無毒化された変異体である、項目7に記載の組成物。
(9)前記無毒化された変異体が、細菌性ホロ毒素のAサブユニットにおいて、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む、項目8に記載の組成物。
(10)前記無毒化された変異体が、LT-K63、LT-R72.CT-S109、およびPT-K9/G129からなる群から選択される、項目9に記載の組成物。
(11)前記無毒化された変異体がLT-K63である、項目10に記載の組成物。
(12)前記無毒化された変異体がLT-R72である、項目10に記載の組成物。
(13)少なくとも1つの選択された抗原をさらに含む、項目7〜12のいずれかに記載の組成物。
(14)非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体を、少なくとも1つの選択された抗原と組み合わせる工程を包含する、非経口アジュバント組成物を作製する方法。
(15)薬学的に受容可能な局所ビヒクルを、非経口アジュバントおよび抗原と組み合わせる工程をさらに包含する、項目14に記載の方法。
(16)非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体を、薬学的に受容可能な局所的ビヒクルと組み合わせる工程を包含する、非経口アジュバント組成物の作製方法。
(17)少なくとも1つの選択された抗原を、細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体、および薬学的に受容可能な局所的ビヒクルと組み合わせる工程をさらに包含する、項目16に記載の方法。
(18)免疫学的に有効な量の、以下:
a)薬学的に受容可能なビヒクルと組み合わせた細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体を含むアジュバント;および
b)少なくとも1つの選択された抗原。
を脊椎動物被験体に非経口的に投与する工程を包含する、脊椎動物被験体を免疫化するための方法。
(19) 非経口的に脊椎動物被験体を免疫化するために有用である医薬の製造のために、薬学的に受容可能なビヒクルと組み合わせた、細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体を含む、アジュバント組成物の使用。
(20)前記非毒性アジュバントが、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、およびE.coli易熱性毒素(LT)からなる群から選択される無毒化された変異体である、項目19に記載の使用。
(21)前記無毒化された変異体が、細菌性ホロ毒素のAサブユニットにおいて、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換を含む、項目20に記載の使用。
(22)前記無毒化された変異体が、LT-K63、LT-R72、CT-S109、およびPT-K9/G129からなる群から選択される、項目21に記載の使用。
(23)前記無毒化された変異体がLT-K63である、項目22に記載の使用。
(24)前記無毒化された変異体がLT-R72である、項目22に記載の使用。
(25)前記組成物が皮下投与、経皮的投与、または筋肉内投与に有用である、項目19に記載の使用。
(26)前記薬学的に受容可能なビヒクルが局所ビヒクルである、項目19に記載の使用。
(27)前記組成物が経皮的な投与に有用である、項目26に記載の使用。
発明の要旨)
従って、例えば、筋肉内、皮下、静脈内、経皮的、または皮内といった、非経口投与される場合に、抗原の免疫原性を増大させるために使用され得る活性アジュバントの必要性が残っている。本発明は、そのような非経口アジュバントを、非毒性ADP-リボシル化細菌性毒素の形態で提供する。毒性を欠くこのような変異体は、非経口アジュバントとして活性であり、高力価の抗体および/または細胞傷害性T-リンパ球(CTLs)の誘導を産生することが本明細書中で実証される。
【0011】
1つの実施態様において、次いで、本発明は、非経口アジュバント組成物に指向され、非経口アジュバントとしての細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体、および少なくとも1つの選択された抗原が含まれる。
【0012】
別の実施態様において、本発明は、非経口アジュバントとしての細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体および薬学的に受容可能な局所ビヒクルを含む、非経口アジュバント組成物に指向される。
【0013】
さらに別の実施態様において、本発明は、非経口アジュバントとしての細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化変異体、薬学的に受容可能な局所的ビヒクル、および少なくとも1つの選択された抗原を含む、非経口アジュバント組成物に指向される。
【0014】
別の実施態様において、本発明は、非経口アジュバントとしての細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化変異体を、少なくとも1つの選択された抗原と組み合わせる工程を含む、非経口アジュバント組成物を作製する方法に指向される。
【0015】
なおさらなる実施態様において、本発明は、非経口アジュバントとして細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化変異体を、薬学的に受容可能な局所的ビヒクルと組み合わせる工程を含む、非経口アジュバント組成物を作製する方法に指向される。
【0016】
別の実施態様において、本発明は、免疫学的に有効な量の、
a)薬学的に受容可能なビヒクルと組み合わせた細菌性ADP-リボシル化毒素の無毒化した変異体を含むアジュバント;および
b)少なくとも1つの選択された抗原
を脊椎動物被験体に非経口的に投与することを含む、脊椎動物被験体を免疫化するための方法に指向される。
【0017】
特に好ましい実施態様において、非毒性アジュバントは、コレラ毒素(CT)、百日咳毒素(PT)、およびE.coli易熱性毒素(LT)、特にLT-K63、LT-R72、CT-S109、およびPT-K9/G129からなる群から選択される無毒化された変異体である。
【0018】
本発明のこれらおよび他の実施態様は、本明細書の開示を考慮して、当業者によって容易に達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
本発明の実施は、他に示されない限り、当該分野の範囲内である、分子生物学、微生物学、組換えDNA、および免疫学の従来の技術を用いる。このような技術は、文献において十分に説明される。例えば、Sambrookら、MOLECULARCLONING; A LABORATORY MANUAL, 第2版 (1989); DNA CLONING, 第I巻および第II巻(D.N Glover 編.1985); OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS (M.J. Gait 編、1984); NUCLEIC ACID HYBRIDIZATION(B.D. HamesおよびS.J. Higgins 編. 1984); TRANSCRIPTION AND TRANSLATION (B.D. HamesおよびS.J.Higgins 編. 1984); ANIMAL CELL CULTURE (R.I. Freshney 編. 1986); IMMOBILIZEDCELLS AND ENZYMES (IRL Press, 1986); B. Perbal, A PRACTICAL GUIDE TO MOLECULARCLONING (1984); 双書、METHOD IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.); GENE TRANSFER VECTORSFOR MAMMALIAN CELLS (J.H. MillerおよびM.P. Calos 編. 1987, Cold Spring Harbor Laboratory)、METHOD IN ENZYMOLOGY 第154巻および第155巻(それぞれWuおよびGrossman、ならびにWu,編)、MayerおよびWalker、編.(1987)、IMMUNOCHEMICAL METHODS IN CELL AND MOLECULAR BIOLOGY (Academic Press, London), Scopes, (1987),PROTEIN PURIFICATION: PRINCIPLES AND PRACTICE, 第2版(Springer-Verlag, N.Y.)、およびHANDBOOK OF EXPERIMENTAL IMMUNOLOGY, 第I〜IV巻(D.M. WeirおよびC.C.Blackwell 編 1986)を参照のこと。
【0020】
本明細書および添付の請求の範囲において使用される場合、単数形「a」「an」および「the」は、内容が明確に他の方法で指図しなけれれば、複数形を含む。
【0021】
以下のアミノ酸の略語は、本文中の全体において使用される:
アラニン(Ala) A アルギニン(Arg) R
アスパラギン(Asn) N アスパラギン酸(Asp) D
システイン(Cys) C グルタミン(Gln) Q
グルタミン酸(Glu) E グリシン(Gly) G
ヒスチジン(His) H イソロイシン(Ile) I
ロイシン(Leu) L リジン(Lys) K
メチオニン(Met) M フェニルアラニン(Phe) F
プロリン(Pro) P セリン(Ser) S
スレオニン(Thr) T トリプトファン(Trp) W
チロシン(Tyr) Y バリン(Val) V
I.定義
本発明の記載において、以下の用語が使用され、そして下記のように定義されることを意図する。
【0022】
「非経口的」は、消化管以外の身体への導入(例えば、皮下投与、筋肉内投与、経皮的投与、皮内投与、または静脈内投与)を意味する。これは、例えば、口、鼻腔内、膣、直腸のような粘膜表面へ送達されるアジュバントと対比される。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「無毒化」は、問題の毒素の、完全に非毒性の変異体および低い残存性毒性の変異体の両方をいう。好ましくは、無毒化タンパク質は、天然に存在する毒素対応物の0.01%未満の毒性を保持し、より好ましくは、天然に存在する毒素対応物の毒性の0.001%未満を、さらにより好ましくは、天然に存在する毒素対応物の毒性の0.0001%を、保持する。毒性は、マウスCHO細胞で測定され得、または好ましくはY1細胞において誘導される形態変化を評価することにより、測定され得る。具体的には、Y1細胞は、CTまたはLTを含有する溶液で処理した場合に、顕著に、より円形になる、副腎腫瘍上皮細胞である(Ysamureら、CancerRes. (1996) 26:529-535)。CTおよびLTの毒性は、形態学的な変化と相関する。従って、変異毒素を、Y1細胞とインキュベートし、その細胞の形態学的な変化を評価し得る。
【0024】
用語「トキソイド」は、本明細書中で使用される場合、遺伝的に無毒化された毒素をいう。
【0025】
「抗原」により、抗原が産生された場合の細胞性抗原特異的免疫応答、または体液性抗体応答を生じる宿主免疫系を刺激する、1つ以上のエピトープ(直線的配置、立体配置的またはその両方の配置)を含有する分子を意味する。このようなエピトープは、約3〜約20以上のアミノ酸を含み得る。通常、B細胞エピトープは、少なくとも約5アミノ酸を含むが、3〜4アミノ酸の小ささでもあり得る。T細胞エピトープ(例えば、CTLエピトープ)は、少なくとも約7〜9アミノ酸を含み、そしてヘルパーTエピトープは少なくとも約12〜20アミノ酸を含む。この用語は、サブユニット抗原(すなわち、天然において抗原が結合する生物全体から分離および区別された抗原)、ならびに殺傷された、弱毒化された、または不活化された、細菌、ウイルス、寄生虫、または他の微生物の両方を表す。抗イディオタイプ抗体、またはそのフラグメント、および抗原または抗原決定基を模倣する合成ペプチドミモトープ(mimotope)のような抗体はまた、本明細書中で使用される抗原の定義のもとで捕捉される。
【0026】
本発明の目的のために、抗原は任意のいくつかの公知のウイルス、細菌、寄生虫および真菌に由来し得る。この用語はまた、任意の種々の腫瘍抗原を意図する。さらに、本発明の目的のために、「抗原」は、タンパク質が免疫応答を誘発する能力を維持する限り、例えば、ネイティブ配列に対する(一般的に天然において保存的な)欠失、付加および置換のような改変を含むタンパク質をいう。これらの改変は、部位特異的変異によってのように計画されたもの、または抗原を産生する宿主の変異によってのように偶発的なものであり得る。
【0027】
抗原または組成物に対する「免疫応答」は、被験体における、目的の組成物中に存在する分子に対する体液性および/または細胞性免疫応答の発生である。本発明の目的のために、「体液性免疫応答」は、抗体分子によって媒介される免疫応答をいい、一方、「細胞性免疫応答」は、Tリンパ球および/または他の白血球細胞によって媒介される免疫応答をいう。T細胞は、細胞表面上におけるCD8またはCD4タンパク質のいずれかの発現に基づき、CD8+ T細胞またはCD4+ T細胞と呼ばれる、2つの主要な群に分けられ得る。CD8+T細胞は、しばしば、細胞傷害性T細胞(CTL)と呼ばれ、そしてCD4+ T細胞は、しばしば、ヘルパーT細胞(Th)と呼ばれる。Th細胞は、さらにTh1およびTh2細胞に分けられ得る。B細胞とは対照的に、T細胞はネイティブ抗原を認識し得ないが、このような抗原の特異的なプロセッシングを必要とする。抗原のフラグメントは、抗原提示細胞(APC)によってT細胞に提示される。これらのフラグメントは、APC表面上の特異的タンパク質と会合する。CD8+T細胞は、MHC Iタンパク質によって提示されたフラグメントを認識するが、その一方で、CD4+ T細胞は、MHC IIタンパク質によって提示された抗原性フラグメントを認識する。
【0028】
細胞性免疫の1つの重要な局面は、CTLによる抗原特異的応答を含む。CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によりコードされ、そして細胞表面に発現するタンパク質と会合して存在するペプチド抗原に対する特異性を有する。CTLは、細胞内微生物の細胞内破壊、またはそのような微生物に感染した細胞の溶解の誘導および促進に役立つ。細胞性免疫の別の局面は、ヘルパーT細胞による抗原特異的応答を含む。ヘルパーT細胞は、非特異的なエフェクター細胞の、MHC分子と会合したペプチド抗原をその表面に示す細胞に対する機能を刺激し、そして活性の焦点を合わせることに役立つように作用する。「細胞性免疫応答」はまた、サイトカイン、ケモカインおよび活性化されたT細胞および/または他の白血球細胞(CD4+T細胞およびCD8+ T細胞由来の細胞を含む)により産生される他のそのような分子の産生をいう。
【0029】
細胞性免疫応答を誘発する組成物およびワクチンは、細胞表面におけるMHC分子と会合した抗原の提示による脊椎動物被験体の感作に役立ち得る。細胞媒介性免疫応答は、その表面に抗原を提示する細胞に、またはその近傍に向けられる。さらに、抗原特異的Tリンパ球は、免疫化宿主の将来における防御を可能にするように、産生され得る。
【0030】
特定の抗原が細胞媒介性免疫応答を刺激する能力は、多くのアッセイ(例えば、リンパ球増殖(リンパ球活性化)アッセイ、CTL細胞傷害性細胞アッセイ、または感作された被験体における抗原特異的Tリンパ球のアッセイ)により決定され得る。このようなアッセイは、当該分野において周知である。例えば、Ericksonら、J.Immunol.(1993)151:4189-4199; Doeら、Eur.J.Immunol.(1994) 24:2369-2376;および以下の実施例を参照のこと。
【0031】
従って、本明細書中で使用される免疫応答は、CTLの産生、および/またはヘルパーT細胞の産生または活性化を刺激するものであり得る。目的の抗原はまた、抗体媒介性免疫応答を誘発し得る。それ故、免疫応答は、1つ以上の下記の効果を含み得る:B細胞による抗体の産生;ならびに/あるいはサプレッサーT細胞および/またはγδT細胞(目的の組成物もしくはワクチン中に存在する抗原に特異的に指向する)の活性化。これらの応答は、感染力の中和に役立ち得、および/または抗体−補体依存性細胞傷害性もしくは抗体依存性細胞細胞傷害性(ADCC)を媒介し、免疫化宿主の防御を提供するのに役立ち得る。このような応答は、当該分野で周知である、標準的な免疫アッセイおよび中和アッセイを用いて決定され得る。免疫系および免疫機構の一般的な概要のために、例えば:Janeway,C.A.およびTravers,P.,IMMUNOBIOLOGY, 第2版、1996, Current Biology Ltd./Garland Publishing, New York, NYを参照のこと。
【0032】
本発明の細菌性ADPリボシル化毒素の無毒性変異体とともに、選択された抗原を含む組成物、または被験体アジュバントとともに同時投与されるワクチン組成物は、それが、アジュバントを伴わずに投与される等量の抗原によって惹起される免疫応答よりも、免疫応答を惹起するより大きな能力を有する場合に「増強された免疫原性」を示す。従って、ワクチン組成物は、「増強された免疫原性」を示し得る。なぜなら、抗原がより強力に免疫原性であるか、またはより低用量またはより少用量の抗原が、その抗原が投与される被験体において免疫応答を達成するために必要とされるからである。このような増強された免疫原性は、アジュバント組成物および抗原コントロールを動物に投与すること、および当該分野で周知の、放射免疫アッセイ、ELISA、CTLアッセイなどのような標準的なアッセイを用いて、その2つに対する抗体力価および/または細胞媒介性免疫を比較することによって決定され得る。
【0033】
本発明の目的のために、アジュバントの「有効量」は、同時投与される抗原に対する免疫学的応答を増強する量である。
【0034】
本明細書において使用される場合、「処置」とは、(i)伝統的なワクチンにおけるような、感染または再感染の予防、(ii)症状の低減または除去、および(iii)問題の病因の低減または完全な除去のいずれかをいう。処置は、予防的(感染前)または治療的(感染後)に行われ得る。
【0035】
「脊椎動物被験体」とは、脊索動物(cordata)亜門の任意のメンバーをいい、これには、限定されることなく、ヒトおよび他の霊長綱(チンパンジーおよび他のヒトニザルならびにサル種のような非ヒト霊長類);家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマ;家庭用哺乳動物(イヌ、およびネコ);実験用動物(齧歯類(例えば、マウス、ラット、およびモルモット));鳥類(家庭用、野生、および猟鳥(例えば、ニワトリ、シチメンチョウおよび他のキジ類、アヒル、ガチョウなど);ならびに魚類が含まれる。この用語は、特定の年齢を意味しない。従って、成体および新生の固体の両方が、網羅されることが意図される。上記に記載される系は、上記の脊椎動物種のいずれかにおける使用について意図される。なぜなら、これらの脊椎動物のすべての免疫系が同様に作用するからである。
【0036】

II.発明の実施の態様
本発明は、アジュバントが選択された抗原とともに投与される場合、CT、LT、およびPTのような細菌性ADPリボシル化毒素の無毒性変異体が非経口アジュバントとして脊椎動物被験体において体液性および/または細胞媒介性免疫応答を増強するように作用し得るという驚くべきかつ予想外の知見に基づく。本発明のアジュバントは、非経口的に投与される場合に機能するので、それらは、他の投与の態様に受け入れられない物質に免疫性を付与する簡便な方法を可能にする。従って、本発明の系は、広範で種々の抗原について有用であり、そして多数の感染を予防および/または処置するための強力なツールを提供する。
【0037】
本発明に関して、細菌性ADPリボシル化毒素の任意の無毒性変異体が非経口性アジュバントとして使用され得る。このような変異体は、必要に応じて、アジュバント性を保持しつつ低減した毒性を有する分子をもたらす、1つ以上のアミノ酸付加、欠失、または置換を含む。アミノ酸が野生型アミノ酸と置換される場合、このような置換は、天然に存在するアミノ酸とであり得るか、または改変または合成アミノ酸とであり得る。置換アミノ酸の立体効果を可能な限り保持しつつ、両性および疎水性を変える置換は、一般に好ましい。
【0038】
本発明の変異体は、好ましくは、ホロ毒素の形態であり、これは、変異されたAサブユニットおよびBサブユニットを含む。これは、野生型ホロ毒素におけるように、オリゴマーであり得る。Bサブユニットは、好ましくは変異されない。しかし、変異されたAサブユニットは、Bサブユニットから単離されて、本質的に純粋な形態または他の因子(これは、Bサブユニットおよび/またはその機能的寄与を置換し得る)と複合体化された形態のいずれかで使用され得る。
【0039】
上記のように、完全に非毒性のADPリボシル化細菌性毒素に加えて、残留毒性が、その天然に存在する対応物の、100分の1〜10,000分の1、またはそれ未満で見い出される毒素は使用され得る。
【0040】
ジフテリア毒素、CT、LT、またはPTの無毒性変異体が特に適切である;このような変異体は当該分野で公知である。例えば、本発明に従う特定の変異体LTは、Aサブユニットの以下の変異を有し得る:53位において、ValからAsp、GluまたはTyrへの置換;63位においてSerからLysへの置換(本明細書においてLT-K63と呼ぶ);72位において、AlaからArgへの置換(本明細書においてLT-R72と呼ぶ);97位において、ValからLys、またはTyrへの置換;104位において、TyrからLys、Asp、またはSerへの置換;106位において、ProからSerへの置換;192位において、ArgからGlyへの置換。
【0041】
CT-AおよびLT-Aのアミノ酸配列が実質的に保存されているので(図1A〜1Bを参照のこと(配列番号1〜4))、LTについて上記の変化もまた、CTにおける対応する位置においてなされ得る。特に好ましいCT変異体は、109位にSer置換を含む(CT-S109と呼ぶ)。
【0042】
Bordetellapertussisの好ましい無毒性変異体は、LysがArgをアミノ酸9位で置換し、そしてGlyがGluをアミノ酸129位で置換する二重変異体である(本明細書においてPT-K9/G129と呼ぶ)。多くのほかの適切な百日咳毒素(PT)変異体は、当該分野で公知である。
【0043】
CTおよび/またはLTの変異体の設計および産生のための方法は、当該分野で公知である。適切な方法は、国際特許出願WO93/13202、ならびにWO92/19265に記載されている。特に、このような変異体毒素は、従来のペプチド合成技術を用いて化学合成され得る。例えば、固相ペプチド合成技術については、J.M.StewartおよびJ.D.Young、Solid Phase Peptide Synthesis、第二版、Pierce Chemical Co.Rockford、IL(1984)およびG.BaranyおよびR.B.Merrifield、The Peptides:Analysis、Synthesis、Biology、E.GrossおよびJ.Meienhofer編、第二版、Academic Press、NewYork、(1980)、3〜254頁;ならびに古典的液体合成については、M.Bodansky、Principles of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Berlin(1984)およびE.GrossおよびJ.Meienhofer編、The Peptides:Analysis、Synthesis、Biology、前出、第一巻を参照のこと。
【0044】
あるいは、および好ましくは、変異は、従来の組換え技術(例えば、変異を含む合成オリゴヌクレオチドを調製すること、および変異された配列を野生型タンパク質をコードする遺伝子に、制限エンドヌクレアーゼ消化を用いて挿入することによる)を用いて,野生型配列に作製され得る。(例えば、Kunkel、T.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1985)82:448;Geisselsoderら、BioTechniques(1987)5:786を参照のこと。)あるいは、変異は、ミスマッチ二重鎖の融点温度よりも低い温度で野生型ヌクレオチド配列(一般に、RNA配列に対応するcDNA)にハイブリダイズするミスマッチプライマーを用いてもたらされ得る。プライマーは、プライマー長および塩基組成を比較的狭い制限内で維持すること、および変異体塩基を中心に位置するように維持することによって特異的に作製され得る。ZollerおよびSmith、Methods Enzymol.(1983)100:468.プライマー伸長は、DNAポリメラーゼを用いてもたらされ、クローニングされた産物およびプライマー伸長された鎖の分離によって得られた、変異されたDNAを含むクローンが選択される。選択は、変異体プライマーをハイブリダイゼーションプローブとして用いて達成され得る。この技術はまた、多重点変異を作製するのに適合している。例えば、Dalbie-MacFarlandら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79:6409を参照のこと。PCR変異誘発もまた、所望の変異をもたらすための用途を見出す。
【0045】
本発明のアジュバントは、好ましくは、少なくとも1つの免疫応答を惹起されることが所望される抗原との混合物で投与される。抗原およびアジュバントが混合物中に存在しない場合、それらは、お互いに比較的短い時間内に同じ投与部位に投与されることが好ましいが、5日までの遅延および2個所の注射部位レジメンが存在し得る。従って、アジュバントは、選択された抗原の前に、またはそれに続いて、あるいは同時に投与され得る。野生型CTによって提供されるアジュバント効果は、短命であることが観察されている(LyckeおよびHomgren、Immunology、1986:59:301-308を参照のこと)。
【0046】
別の実施態様において,本発明のアジュバントは、必要に応じて、他の抗原から単離されて、ワクチンの全身投与または粘膜投与後の追加免疫として、投与され得る。
【0047】
被験体が免疫され得る疾患は、免疫によって処置または予防され得るすべての疾患を含み、これには、ウイルス疾患、アレルギー性症状、細菌性または他の病原(例えば、寄生生物)によって生じた疾患、AIDS、自己免疫性疾患(例えば、全身性エリテマトーデス)、アルツハイマー病、およびガンが含まれる。送達に適したワクチン処方物は、本明細書以下に示されるように調製され得るが、さらなる処方物は、当業者には明らかである。
【0048】
従って、抗原は、被験体において免疫応答が惹起されることが所望される任意の抗原であり得る。適切な抗原には、病原性生物に由来する、細菌性抗原、ウイルス性抗原、真菌性抗原、および原生動物性抗原、ならびにアレルゲン、および腫瘍および自己抗原に由来する抗原が含まれる。代表的には、抗原は、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチド抗原であるが、別の抗原構造(例えば,核酸抗原、炭水化物抗原および生物全体または減弱化生物または不活化生物(例えば、細菌、ウイルス、または原生動物)も含まれる。
【0049】
本発明において有用な抗原の特定の例は、ヘルペスファミリーに由来する、広範で種々のタンパク質を含む。これには、単純ヘルペスウイルス(RSV)1型および2型に由来するタンパク質(例えば、HSV-1およびHSV-2糖タンパク質gB、gD、およびgH);水痘‐帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、およびサイトメガロウイルス(CMV)に由来する抗原(CMVgBおよびgH);ならびに他のヒトヘルペスウイルス(例えば、HHV6、およびHHV7)に由来する抗原が含まれる。(例えば、サイトメガロウイルスのタンパク質コード含量の概説について、Cheeら、Cytomegaloviruses(J.K.McDougall編、Springer--Verlag 1990)125〜169頁;種々のHSV-1コードタンパク質の議論について、McGeoghら、J.Gen.Virol.(1988)69:1531-1574;HSV-1およびHSV-2gBおよびgDタンパク質ならびにそれらをコードする遺伝子の議論について、米国特許第5,171,568号;EBVゲノムにおいてタンパク質をコードする配列の同定について、Baerら、Nature(1984):310:207-211;ならびにVZVの総説について、DavisonおよびScott、J.Gen.Virol.(1986)67:1759〜1816を参照のこと。)
本発明のアジュバント組成物はまた、ウイルスの肝炎ファミリー(A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、δ肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)、およびG型肝炎ウイルス(HGV)を含む)に由来する抗原を送達するのに使用され得る。例として、HCVのウイルス配列は公知であり、その配列を得る方法もまた公知である。例えば、国際公開番号WO89/04669;WO90/11089;およびWO90/14436を参照のこと。HCVゲノムは、いくつかのウイルスタンパク質をコードし、これには、E1(Eとしても知られる)、およびE2(E2/NSIとしても知られる)が含まれる。(E1およびE2を含むHCVタンパク質の議論について、Houghtonら、Hepatology(1991)14:381−388を参照のこと。)これらのタンパク質ならびにそれらの抗原性フラグメントの配列は、本発明の方法において利用される。同様に、HDVからのδ抗原についての配列は、公知であり(例えば、米国特許第5,378,814号を参照のこと)、そしてこの抗原はまた、本発明の方法において簡便に使用され得る。
【0050】
他のウイルスに由来する抗原、例えば、制限なく、とりわけ、ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルスなど);カルシウイルス科;トガウイルス科(例えば、風疹ウイルス、デング熱ウイルスなど);フラビウイルス科;コロナウイルス科;レオウイルス科;ビルナウイルス科;ラボドウイルス科(例えば、狂犬病ウイルスなど);フィロウイルス科;パラミクソウイルス科(例えば、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、RSウイルスなど);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルスA型、B型、およびC型など);ブンヤウイルス科;アレナウイルス科;レトロウイルス科(例えば、HTLV-I、HTLV-II;HIV-1(HTLV-III、LAV、ARV、hTLRなどとも呼ばれる))(これらは、単離物HIVIIIb、HIVSF2、HIVLAV、HIVLAI、HIVMNからの抗原を含むがこれらに限定されない);HIV-1CM235、HIV-1US4;HIV-2;サル免疫不全ウイルス(SIV)もまた、請求される方法において利用される。これらおよび他のウイルスの記載について、例えば、Virology、第3版(W.K.Joklik編、1988);Fundamental Virology、第2版(B.N.FieldsおよびD.M.Knipe編、1991)を参照のこと。
【0051】
例えば、本発明のアジュバントは、HIVSF2、HIV-1CM235、HIV-1US4、HIV-IIIIB、およびHIV-1LA1に由来するgp120エンベロープタンパク質とともに使用され得る。これらの、ならびに多数(HIVの種々の遺伝的サブタイプのメンバーを含む)のさらなるHIV-1およびHIV-2単離物についてのgp120配列は公知であり、そして報告されており(種々のHIV単離物のエンベロープ配列の比較について、例えば、Myersら、Los Alamos Database、Los Alamos National Laboratory、Los Alamos、New Mexico(1992);Myersら、Human Retroviruses and Aids、1990、 Los Alamos、New Mexico: Los Alamos National Laboratory;ならびにModrowら、J.Virol.(1987)61:570-578を参照のこと)、そしてこれらの単離物のいずれかに由来する配列は、本発明の方法において利用される。さらに、本発明は、種々のHIV単離物のいずれかに由来する他の免疫原性タンパク質(これには、gp160およびgp41、gag抗原(例えば、p24gagおよびp55gag)のような任意の種々のエンベロープタンパク質ならびにpol領域に由来するタンパク質を含む)にも等価に適用可能である。
【0052】
さらに、インフルエンザAのエンベロープ糖タンパク質HAおよびNAは、免疫応答を生成するために特に興味深い。インフルエンザAの多数のHAサブタイプが同定されている(Kawaokaら、Virology(1990)179:759-767;Websterら、「Antigenic variation among type A influenza viruses」127〜168頁、P.PaleseおよびD.W.Kingsbury(編)、Genetics of influenza viruses. Springer-Verlag、New York)。従って、これらの単離物のいずれかに由来するタンパク質もまた、本明細書において記載される技術において使用され得る。
【0053】
本明細書において記載される組成物および方法はまた、多数の細菌性抗原(例えば、ジフテリア、コレラ、結核、破傷風、百日咳、髄膜炎、および他の病原性状態を起こす生物由来のもの(これには、Bordetella pertussis、Neisseria meningitides(A、B、C、Y)、Hemophilus influenza B型(HIB)、およびHelicobacter pyloriを含むがこれらに限定されない))で用途を見い出す。寄生生物抗原の例には、マラリア、およびライム病を引き起こす生物に由来する抗原も含まれる。
【0054】
さらに、本明細書において記載される方法および組成物は、種々の悪性ガンを処置するための方法を提供する。例えば、本発明の系は、問題のガンに特異的な特定のタンパク質(例えば、ガン遺伝子、胎児性抗原、または活性マーカー)に対して体液性および細胞媒介性免疫応答の両方を惹起するように使用され得る。このような腫瘍抗原は、とりわけ、MAGE1,2,3,4などを含む種々のMAGE(黒色腫関連抗原E)Boon,T.Scientific American(1993年3月):82-89);種々のチロシナーゼ(tyrosinase)のいずれか;MART1(T細胞によって認識される黒色腫抗原)、変異体ras;変異体p53;p97黒色種抗原;CEA(ガン胎児性抗原)を含む。
【0055】
本発明が、広範で種々の疾患について、予防的(疾患を予防する)または治療的(感染後、疾患を処置する)に使用され得ることは容易に明白である。本明細書における組成物が疾患の予防または処置に有用であるのみならず、本発明の組成物はまた、例えば、診断目的のため、ならびにそれらが指向される特定の抗原の免疫沈降のために有用な抗体(ポリクローナルおよびモノクローナルの両方)を調製するのに使用され得る。
【0056】
ポリクローナル抗体が所望される場合、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)は、所望の抗原とともに本発明のアジュバント組成物で免疫される。免疫原性を増強するために、抗原は、免疫化の前にキャリアに連結され得る。抗体の産生のための免疫は、一般に、組成物を非経口的(一般に、皮下または筋肉内)に注射することによって行われる。動物は通常、2〜6週間後に、本明細書において記載されたアジュバント組成物とともにまたは別のアジュバントとともに抗原の1回以上の注射で追加免疫される。抗体はまた、インビトロ免疫によって、当該分野で公知の方法を用いて、生成され得る。次いで、ポリクローナル抗血清は、免疫した動物から得られ、そして公知の手順によって処理される。例えば、Jurgensら、(1985)、J.Chrom.348:363-370を参照のこと。
【0057】
モノクローナル抗体は、一般に、KohlerおよびMilstein、Nature(1975)256:495-96の方法、またはその改変を用いて、調製される。代表的には、マウスまたはラットは、上記に記載されるように免疫される。しかし、動物から採血して血清を抽出するよりは、脾臓(および必要に応じていくつかの大きなリンパ節)を取り出し、そして単一の細胞へと分離する。所望の場合、脾臓細胞は、(非特異的に接着性の細胞の除去後)細胞懸濁物をタンパク質抗原でコーティングされたプレートまたはウェルに適用することによってスクリーニングされ得る。抗原に特異的な膜結合性イムノグロブリンを発現するB細胞は、プレートに結合し、そして残りの懸濁物とともにはすすぎ出されない。次いで、得られたB-細胞またはすべての分離した脾臓細胞は、ミエローマ細胞と融合されてハイブリドーマを形成するように誘導され、そして選択培地(例えば、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン培地「HAT」)中で培養される。得られたハイブリドーマは、限界希釈によってプレートされ、そして免疫抗原に特異的に結合する(そして無関連の抗原に結合しない)抗体の産生についてアッセイされる。次いで、選択されたモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマは、インビトロ(例えば、組織培養ボトルまたは中空繊維反応器)または、インビボ(マウス中の腹水)のいずれかで培養される。例えば、M.Schreierら、Hybridoma Techniques(1980);Hammerlingら、Monoclonal Antibodies and T-cell Hybridomas(1981);Kennettら、Monoclonal Antibodies(1980)を参照のこと;米国特許第4,341,761号;同4,399,121号;同4,427,783号;同4,444,887号;同4,452,570号;同4,466,917号;同4,472,500号;同4,491,632号;および4,493,890もまた参照のこと。目的のホルモン、またはそのフラグメントに対して産生された1群のモノクローナル抗体は、種々の特性(すなわち、イソ型、エピトープ、アフィニティーなど)についてスクリーニングされ得る。
【0058】
本発明による組成物は、1つ以上の抗原を含み得る。さらに、水、生理食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノール等のような、1つ以上の「薬学的に受容可能な賦形剤またはビヒクル」が存在する。さらに、湿潤剤または乳化剤のような補助的物質、pH緩衝化物質などは、このようなビヒクル中に存在し得る。
【0059】
組成物が与えられる個体に有害な抗体の産生をそれ自体は、誘導しないキャリアが必要に応じて存在する。適切なキャリアは、代表的に、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、脂質凝集体(例えば、油の小滴またはリポソーム)、および不活性ウイルス粒子のような大きな、ゆっくりと代謝される巨大分子である。このようなキャリアは、当業者に周知である。さらに、これらのキャリアは、さらなる免疫刺激剤(「アジュバント」)として機能し得る。
【0060】
代表的に、組成物は、液体溶液または懸濁液のようないずれかの注射可能物質として調製される;注射の前に液体ビヒクル中に溶解または懸濁するのに適した固形形態もまた、調製され得る。調製物はまた、乳化され得るか、またはリポソームビヒクル中に活性成分がカプセル化され得る。さらに、局所的な使用に適する組成物もまた、処方され得る。例えば、アジュバント組成物は、軟膏、クリーム、ゲル、および乳濁液のような薬学的に受容可能な局所ビヒクルの形態において提供され得る。アジュバントを含む軟膏、クリームおよび乳濁液は、公知の技術を使用して調製され得る。種々の適切な薬学的軟膏基剤は、一般的に油性基剤、無水吸収基剤、および水中油型(o/w)基剤を含むことが知られる。油性基剤は、ワセリン、またはろうによって改変されたワセリン(例えば、ポリエチレンの添加によってゲル化された流動ワセリン)、および植物性固定油または動物脂肪(例えば、豚油、安息香豚油,オリーブ油、綿実油など)から調製された油性基剤を含む。無水基剤は、親水性ワセリン、無水ラノリンおよびラノリン誘導体を含む。水中油型基剤(例えば、乳濁液基剤またはクリーム)は、一般的に油相、乳化剤相および水相の3つの部分を含む。アジュバント、および必要に応じて抗原は、任意の1つの相に含まれ得るか、または形成された乳濁液に添加され得る。油相は、代表的にセチルアルコールまたはステリルアルコールのような1つ以上の高分子量アルコールを有するワセリンから構成される。水相は一般的に、保存剤、乳濁液系の水溶解性成分、湿潤剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール)、ならびに任意の安定剤、抗酸化物、緩衝剤などを含む。
【0061】
上記の薬学的軟膏は、細かく分割されたかまたは溶解したアジュバント、および必要に応じて1つ以上の選択された抗原を、ビヒクルまたは基剤を通して均質に分散させることによって形成される。クリーム、ローションおよび乳濁液は、2相加熱系によって形成され得、ここで、油相成分は、液化された均質系を提供するために加熱下で合わせる。水相成分を、熱を使用して別々に合わせる。次に、油相、および水相を、一定に攪拌しながら一緒に添加し、そして放冷する。この時点で、濃縮された薬剤が、スラリーとして添加され得る。揮発性または芳香性材料は、乳濁液が、十分に冷やされた後に添加され得る。このような薬学的組成物の調製は、当該分野の一般的な技術範囲内である。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania,18版,1990を参照のこと。
【0062】
アジュバントはまた、2相ゲル系を使用してゲル処方物中に取り込まれ得る。このような系は、一般的に、懸濁液または分散相および液相を提供するために液体により相互浸透した小さな別々の粒子のネットワークを含む。単相ゲル系を、分散相と液体相との間で見かけの境界が全く存在しないように、液体を通して均質に有機巨大分子を分散させることによって形成する。本明細書で使用されるのに適切なゲル化剤は、合成巨大分子(例えば、Carbomers(R)、ポリビニルアルコールおよびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー)、トラガカントのようなゴム、ならびにアルギン酸ナトリウム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシエチルセルロースを含む。均質なゲルを調製するために、アルコールまたはグリセリンのような分散剤が添加され得るか、あるいはゲル化剤は、粉砕、機械的混合もしくは攪拌またはそれらの組合わせによって分散され得る。
【0063】
ローション調製物は、一般的に、適切なビヒクル中にアジュバントおよび必要に応じて1つ以上の選択された抗原を含む液体または半流動体調製物である。ローションは、細かく分割された固体を水性媒体中に懸濁することによって形成される。任意の分散剤は、液体処方物および1つ以上の表面活性剤の調製を助けるために用いられ得る。
【0064】
本明細書の上記に記載したクリームおよび軟膏処方物において、任意の成分は、抗酸化剤、粘性モディファイヤー(例えば、パラフィンろう、またはラノリンろう)、および局所吸収速度モディファイヤーのような材料を含み得る。任意の上記処方物を調製する実際の方法は、当業者に公知であるか、または明らかである。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvania,18版,1990を参照のこと。
【0065】
ワクチンとして使用する免疫原性組成物は、アジュバントおよび抗原の免疫学的有効量、ならびに必要に応じて上記の任意の他の成分を含む。「免疫学的有効量」によって、単回用量または一連部分としてのいずれかでの個体に対するその量の投与が、投与された被験体において免疫応答を生じ得るようであることが意味される。正確な必要量は、他の因子の中でも、処置される被験体;処置される被験体の年齢および一般的状態;被験体の免疫系が抗体を合成する能力および/または細胞媒介免疫応答を上昇させる能力;所望される保護の程度;処置される状態の重篤度;選択される特定の抗原、ならびにその投与形態に依存して変化する。適切な有効量は、当業者によって容易に決定され得る。従って、「免疫学的有効量」は、日常的な試験により決定され得る、比較的広範囲に入る。一般的に、抗原の「免疫学的有効」量は、約0.1μg〜約1000μg、より好ましくは、約1μg〜約100μgのオーダーの量である。
【0066】
同様に、アジュバントは、抗原が、抗原単独のアジュバントなしの投与と比較して上記に定義された「増強された免疫原性」を示すような量で存在する。増強された免疫応答を惹起するのに有効な量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0067】
投薬処置は、単回用量スケジュールまたは多回用量スケジュールであり得る。ワクチンは、他の免疫調節剤と組合わせて投与され得る。
【0068】
さらなるアジュバントは、有効性を増強するために使用され得、そのようなアジュバントは以下を含むが、それらには限定されない:(1) 水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のようなアルミニウム塩(ミョウバン);(2)水中の油型乳濁液処方物(ムラミルペプチド(以下を参照のこと)または細菌細胞壁成分のような他の特定の免疫刺激剤を有するかまたは有さない)、例えば、(a)Model 110Yマイクロフルイダイザー(Microfluidics,Newton,KA)のようなマイクロフルイダイザーを用いてサブミクロン粒子に処方された、5%スクアレン、0.5%Tween 80、および0.5%Span 85を含む(必要ではないが、必要に応じてMTP-PEの種々の量を含む(以下を参照のこと))、MF59(PCT 公開番号WO90/14837) (b) サブミクロン乳濁液にマイクロフルダイズされたかまたはボルテックスされて 、大きな粒子の大きさの乳濁液を生じさせた10%スクアレン、0.4%Tween80、5%プルロニックブロック化ポリマーL121、およびthr-MDP(以下を参照のこと)を含むSAF、および(c)2%スクアレン、0.2%Tween80、ならびにモノホスホリリピドA(MPL)、トレハロースジミコール酸(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)からなる群からの1つ以上の細菌細胞壁成物(好ましくは、MPL+CWS(DetoxTM)を含むRibiTMアジュバント系(RAS)(Ribi Immunochem、Hamilton,MT)など;(3)StimulonTM(Cambridge Rioscience,Worcester,MA)のようなサポニンアジュバントが、使用され得るか、またはそれから生じた粒子(例えば、ISCOM(免疫刺激複合体));(4)完全Freundsアジュバント(CFA)および不完全Freundsアジュバント(IFA);(5)インターロイキン(例えば、IL-1、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-12など)、インターフェロン(例えば、γインターフェロン)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)等のようなサイトカイン;ならびに(6)組成物の有効性を増強する免疫刺激剤として作用する他の物質。ミョウバンおよびMF59が好ましい。ムラミルペプチドは、N-アセチル-ムラミル-L-トレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)等を含むが、それらには限定されない。
【0069】
本発明は、以下の工程を含むアジュバント化したワクチンの製造のための方法をさらに提供する:
a)細菌ADPリボシル化毒素のAサブユニットにおいてこの毒素を無毒化するために部位特異的変異誘発を実施する工程、および
b)非経口アジュバントとして機能するように、無毒化した毒素と抗原を合わせる工程。
【0070】

III.実験
以下は、本発明を実施するための特定の実施態様の例である。この例は、例示的な目的のために提供されるのみならず、いずれにおいても本発明の範囲を限定することを意図されない。
【0071】
努力が使用される数(例えば、量、温度など)に関して精度を保証するためになされてきたが、もちろんのこといくつかの実験的誤差および偏差は考慮されるべきである。
【実施例】
【0072】
実施例1
LT-K63の産生
以下の実験の使用のために、LT-K63を以下のように作製した。部位特異的変異誘発を、細胞結合活性を有するホロ毒素としてさらに組み立てる非毒性LT-変異体を構築するためにLTのAサブユニットの63位のSer残基をLysに置換するために使用した。変異タンパク質(LT-K63と称される)を精製し、そしていくつかのアッセイにおいてADPリボシルトランスフェラーゼおよび毒性活性について試験した。LT-K63はなお、GM1ガングリオシドレセプターに結合され得るが、公開されたデータ(Lobetら、Infect.Immun. 1991; 59:2870-2879)に一致する酵素活性の完全な損失を示した。さらに、LT-K63はマウス回腸ループアッセイおよびY1細胞におけるインビトロにおいて不活性であった。
【0073】
実施例2
マウスにおけるHSV qD2を有するLT-K63の非経口アジュバント活性
実施例1に記載される産物であるLT-K63変異体を、以下のように単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)gD抗原を有する非経口アジュバントとして試験した。
【0074】
a.マウスを、1ヶ月離して、10μg用量のLT-K63変異体および10μg用量のHSVgD2抗原免疫での筋肉内注射によって、2回免疫した。血清を二次免疫後(42日)0日および2週間で回収した。 HSV-2 gD2に対する抗体応答をELISAによって測定した。幾何平均力価およびまたはマイナス標準誤差を表1に列挙する。この実験は、マウスにおける免疫応答を生成する、LT-K63変異体のHSV-2gD2との組み合わせにおける能力を示す。
【0075】
【表1】

【0076】
b.マウスを、1ヶ月離して、10μgのHSV-2gD2での筋肉内注射によって2回免疫した。二次免疫後0日および2週間で、血清を回収した。 HSV-2 gD2に対する抗体応答をELISAによって測定し、そして幾何平均力価およびまたはマイナス標準誤差を表2に示す。LT-K63(13980)と組み合わせたHSV-2gD2と比較して90倍より低いHSV-2 gD2(150)によって生成した抗体応答は、HSV-2 gD2を有するLT-K63の非経口アジュバント活性を示す。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例3
マウスにおけるインフルエンザHAを有するLT-K63の非経口アジュバント活性
マウスを、1ヶ月離して、1μgのLT-K63(実施例1に記載されるように産生される)および1μgのA/TexasHA(赤血球凝集素)抗原または1μg のA/Texas HA単独での筋肉内注射によって2回免疫した。二次免疫後、2週間で血清を回収した。抗HA ELISA力価を、幾何平均力価プラスまたはマイナス標準誤差として表3に示す。HA抗原単独(6390)を受ける群と比較して、LT-K63変異体(70380)と組み合わせたHA抗原を受ける群において観察された11倍を超える抗体応答は、インフルエンザHA抗原を有する非経口アジュバントとしてのLT-K63の有効性を示す。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例4
マウスにおけるHIV p24 gagを有するLT-K63の非経口アジュバント活性
a.マウスを、1週間離して、10μgのLT-K63(実施例1に記載されるように産生される)および10μgのHIVp24 gagまたは10μg のHIV p24 gag単独での皮下注射によって、3回免疫した。HIV p24 gag特異的CTL活性を表4に示す。CTL活性を標準的なクロム放出アッセイで測定し、そして%特異的溶解として示す。特に、SVBalb(H-2d)およびMC57(H-2b)標的細胞を、5lCrおよび1μMp7gペプチドとともに1時間インキュベートした。エフェクター細胞(E)を、種々のE:Tの割合で標的細胞(T)とともに4時間インキュベートした。2組ウェルからの平均cpmを、パーセント特異的5lCr遊離を計算するために使用した。同種異系Mc57標的細胞および同系SyBalb標的細胞が、低いバックグラウンド殺傷を有した。HIVp24 gagエピトープペプチドp7gでパルスした同系SvBalb細胞は、HIV p24 gagについて50:1 E:Tの割合でLT-K63と69%の特異的溶解を有した。対照的に、HIVp24 gag単独は、同じ条件下でほんの29%の殺傷を誘導した。LT-K63を受ける群は、gag単独群と対照的に、より高度なCTL応答を有した。これは、HIVp24 gagによるCTL誘導についてのLT-K63のアジュバント活性を示す。
【0081】
【表4】

【0082】
b.マウスを、1ヶ月離して、10μgのLT-K63および10μgのHIVp24 gagの皮下注射によって2回免疫した。血清を二次免疫後2週間回集した。抗HIV p24 gag力価を、表5において、幾何学的平均力価プラスまたはマイナス標準誤差として示す。この実験は、マウスにおいて抗HIVp24 gag応答を生成する、HIV p24 gagとの組み合わせたLT-K63の能力を示す。
【0083】
【表5】

【0084】
実施例5
LT-K63およびLT-R72の経皮的アジュバント活性
以下の実験のために、LT野生型(LTwt)、LT-K63およびLT-R72変異体を記載されるように得た(Giulianiら、“Mucosal Adjuvanticity of LTR72, a Novel Mutant of Escherichia coli Heat-Labile Enterotoxin with Partial Knock-Out of ADP Ribosyltransferase Activity, ” J.Exp. Med. 187:印刷中)。使用された抗原であるCRM197は、十分に特徴づけられた非毒性ジフテリア毒素変異体である。例えば、Bixlerら、(1989)Adv. Exp. Med. Biol.251:175, Constantinoら、(1992) Vaccine; International Publication 第WO 96/14086号を参照のこと。
【0085】
経皮的免疫化のために、0日で、5匹のメスBALB/cマウスの群を、滅菌水中KetavetTM50(20%v/v)、RompunTM(3%v/v)、およびCombelenTM(3%v/v)の溶液の100μl/10g重量を腹腔内注射で麻酔した。次いでマウスの背中を剃毛して(約2cm2)、そして100μgのCRM197および50μgのLTwtまたはLT変異体を含む100μlのリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を、剃毛した皮膚へ徐々に適用した。マウスを麻酔下で約1時間保持し、次いで微温の水道水で洗浄し、そして乾燥させた。同じ手順を21日目に反復した。3度目および4度目の免疫を、それぞれ51日目と66日目に実施した。同じ日付に、5匹のマウスのコントロール群は、CRM197(10μgを)およびLTwt(1μg)を鼻腔内的(20μl容積)に受けた。
【0086】
血清サンプルを、−1日、20日、35日、65日および80日に取り出した。LTおよびCRMに対する抗体を標準的なELISA手順により決定した。
【0087】
抗CRM抗体応答は、検出されなかった。表6および図2で示されるように、経皮的免疫化は、1度目の免疫後非常に強度の抗LT抗体応答を誘導し(表6を参照のこと)、これを、2度目の免疫後追加免疫した(表6および図2を参照のこと)。従って、経皮免疫化(すなわち、皮膚における可溶性抗原および粘膜アジュバントの適用)は、特異的抗原の産生を誘導した。この結果は、免疫系がLTタンパク質に応答したことを示す。この結果は、これらのタンパク質が経皮的アジュバントとして有用であり得ることを証明する。
【0088】
【表6−1】

【0089】
【表6−2】

【0090】
従って、細菌性ADPリボシル化毒素の解毒化変異体を含む非経口アジュバントが開示される。本発明の被検体の好ましい実施態様はいくらか詳細に記載されているが、明白な改変が、添付の請求項によって定義されるような本発明の精神および範囲から逸脱することなく実施され得ることが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1A】図1A〜図1Bは、E.coli易熱性毒素(LT)由来の野生型サブユニットA(配列番号1および2)ならびにコレラ毒素(CT)(配列番号3および4)の、DNAおよび対応するアミノ酸配列を示す。
【図1B】図1A〜図1Bは、E.coli易熱性毒素(LT)由来の野生型サブユニットA(配列番号1および2)ならびにコレラ毒素(CT)(配列番号3および4)の、DNAおよび対応するアミノ酸配列を示す。
【図2】図2は、本発明の代表的なアジュバント組成物の経皮的投与に続く、抗LT血清の抗体応答を示す。丸は、個々のマウスからの力価を表す。1つの群において、5未満の丸が見える場合、2つ以上の値は同一であり、丸は上書きされる。黒三角形は、群あたりの平均力価±標準偏差を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の組成物。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−199717(P2006−199717A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122743(P2006−122743)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【分割の表示】特願平10−543271の分割
【原出願日】平成10年3月19日(1998.3.19)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】