説明

非金属無機質分散物質が分散されためっき金属材料

【課題】
基材金属及びめっき金属の持つ特性以外の機能を表面に付与可能なあるいは
付与した金属材料の提供。
【解決手段】
基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属材料であって、前記めっき金
属には、最大径が50μm以下の粒子である非金属微細粒子無機質分散物質が分散
されており、前記めっき金属の表面に位置している前記無機質分散物質の表面
の面積が、めっき金属の表面の面積の1%以上30%以下であることを特徴とす
る金属材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材金属およびめっき金属の持つ特性以外の機能を表面に付与し
たあるいは付与可能な金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属はその表面が孔質ではなくマクロな表面積とミクロな表面積に大差がな
いことから、異質物が金属表面と化学反応をすることなく、長期間にわたって
異物質が付着したり吸着することはほとんどない。この特性の結果、錆を発生
させない限り清潔にかつ美麗に表面を維持しうる材料である。特にステンレス
鋼は、通常の生活環境では錆の発生がほとんど希であるため、清潔さを要求さ
れる例えば医療や食品分野、美麗さを要求される自動車や家電分野、建材や装
飾品の分野に広く使用されている。
【0003】
しかし、金属は、加工性や質感等金属としての機能以外には特別な機能を付
与することはかなり困難である。例えば、塗装のように表面に機能性被膜を被
覆することで耐食性や色あるいは耐熱性などの特性を付与可能であるが、塗装
の結果表面は金属的な質感が損なわれるのでそれを要望する用途には適用がで
きない。
【0004】
また、液状であったり、揮発性であるような物質の場合、構造を工夫する以
外に付与被覆は全くできなかった。もちろん表面に塗りつけることで、付着さ
せることは可能であるが、もとより表面に液体物質などの保持機能がないこと
から、単なる付着であり長期間にわたる安定な付着はできない。
【0005】
逆に金属表面は、温度の差による結露現象は他の物質同様に起こるが、雰囲
気中の特別なガスを吸着して環境から除去するような機能はない。
【0006】
一方、金属の清潔さや美麗さに加えて各種の機能の付与が求められている。
例えば、食品分野ではもとよりステンレス鋼が広く使用されているが、どうし
ても湿気の多い環境であることから、黴の発生を抑制可能な機能が求められて
いる。また、医療分野では、有害菌の繁殖を防止するいわゆる抗菌性が求めら
れている。また、装飾品や建屋内の内装品の一部からは、室内の例えば木質系
建材から発生するホルムアルデヒドなどの有害化学物質や臭気の吸着あるいは
分解などの機能が求められたり、さらには一歩進んで芳香の発生や健康に寄与
する物質の放散などの機能も期待されている。
【0007】
これらの機能の大半は、材料や部材そのものではなく別の方法で対処されて
きた。黴の抑制には防黴材の塗布や噴霧が行われてきた。いわゆるシックハウ
ス症候群の原因とされるホルムアルデヒドなどの有害化学物質は、発生したも
のを除去するのではなく使用しない方向で努力されているが、完全不使用が困
難な場合には種々の吸着剤などが試されている。また、アロマテラピーのよう
な芳香の発生には、それ専用の容器や装置が使用されてきた。
【0008】
これらの対応は、もちろん相応に効果が認められるものではあるが、それ専
用の容器や構造物が必要となるなど用途や場所によっては審美観を阻害したり
問題点のある場合も少なくない。金属材料そのものがこれらの機能を有したり
付与可能であれば、その金属の加工物が機能を発揮することとなり、使用者は
なんら意識することなくこれらの機能を享受できることとなる。
【0009】
表面に異物質が存在しその機能を活用する金属材料は、特許文献1〜3に記
載されているように、撥水性や滑り性を有するPTFE(ポリテトラフルオロエチ
レン、デュポン社の商標名テフロン)などの弗素系高分子物質の微細粒子を分
散させためっき材料が公知で、所期の効果を発揮している。
【0010】
【特許文献1】特開昭60-077990号
【特許文献2】特開平10-226898号
【特許文献3】特開平14-317299号
【0011】
また、特許文献4〜7に記載されているように、抗菌剤あるいは抗黴剤を分
散めっきした材料が公開されている。
【0012】
【特許文献4】特開平6-10191号
【特許文献5】特開平7-228999号
【特許文献6】特開平9-157860号
【特許文献7】特開平10-68100号
【0013】
これらの材料は、相応の効果が認められる場合もあるが、安定して効果の認
められることが少なかった。本発明者らは、この理由については鋭意検討した
結果、表面に露出している抗菌剤の面積にばらつきがあり、その面積が極めて
少ない場合に効果が認められないことが多いことを見出した。特に特許文献6
および7に記載された発明では、抗菌剤の分散めっきの上から通常の金属めっ
きを施し、せっかくの抗菌剤を被覆しているためであることが判明した。
【0014】
Niの無電解めっきにおいて蛍光顔料を混在させてめっきする方法が特許文献
8に開示されている。
【0015】
【特許文献8】特開平6-272049号
【0016】
この方法によるめっき材料でも効果にばらつきがあることが経験されており
、その原因はやはり表面に露出した蛍光顔料の面積に起因するものと考えられ
る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本願発明は、金属特有の表面質感を維持しつつ、また金属の持つ特性加工性
を大きく阻害することなく、基材金属およびめっき金属の持つ特性以外の機能
、たとえば有彩色の着色や芳香発生、有害ガスの吸着などの機能を表面に付与
したあるいは付与可能な金属材料を提供することにある。
【0018】
一般に金属材料は、金属の質感や利点を殺すことなく金属の持つ特性以外の
機能を付与することは困難である。例えば、塗装のように着色することは可能
であるが、その場合には金属表面の持つ特有の質感が大きく阻害されている。
もちろん、その物質あるいは同じ機能を有する物質が金属あるいは金属表面に
必然的に存在する酸化物と反応したり結合することで、表面に付着せしめるこ
とは可能性として否定はできないが、付与しようとする機能を有する物質(機
能性物質)が金属ないし金属酸化物と反応できる可能性は極めて小さく、例え
、反応が可能であったとしても反応の結果特性が変化して所望の機能を発揮で
きなくなる可能性は高い。結果として、反応によって機能性物質を金属表面に
付与したり付着せしめることは極めて希でしかない。
【0019】
また、金属の表面は温度差による結露は生ずるが、特殊なガスを吸収吸着す
る事はほとんどない。しかし、例えば水蒸気などの吸着が可能であれば、かし
め内部のような狭い場所の水蒸気を吸収吸着し腐食環境を改善することが可能
となる。もちろんその際吸収ないし吸着した水分が金属に触れていると逆に錆
の発生源となることから、取り込んだ水分は金属部分から隔離する必要がある

【課題を解決するための手段】
【0020】
このような状況の中で、金属の質感など金属の特徴を生かしつつ表面に機能
を付与する方法として 非金属無機質分散物質を金属表面に多数配置すること
を想起した。前述したとおり機能性物質は反応で表面に付着することは困難で
あることから、めっき金属の表面に分散配置することを想定した。
即ち、請求項1の発明によれば、基材金属の表面にめっき金属をめっきした
金属材料であって、前記めっき金属には、最大径が50μm以下の粒子である非金
属無機質分散物質が分散されており、前記めっき金属の表面に位置している前
記無機質分散物質の表面の面積が、めっき金属の表面の面積の1%以上30%以
下であることを特徴とする金属材料が提供される。
【0021】
非金属無機質分散物質が機能を有する物質であって微細粒子の場合、めっき
金属中に分散配置することで機能を表面に付与できることが考えられる。また
、分散配置する微細粒子を多孔質の粒子とすることで、表面に雰囲気中のガス
を吸着することが可能となる。即ち、請求項2の発明によれば、前記非金属無
機質分散物質が、多孔質粒子である金属材料が提供される。金属の表面でのガ
スの吸着は全くないとはいえないものの、多孔質粒子を表面に配置することで
ミクロ的な表面積を圧倒的に大きくすることとなり、吸着するガス量が大きく
増加することとなる。
【0022】
また、前記機能性物質が液状の場合、めっき被膜中に分散配置することは不
可能である。しかしその場合は、触媒担体と同じ考え方に基づいて、液状機能
性物質を担持可能な多孔質粒子をめっき金属に分散配置することで、金属表面
に液状物質の持つ機能を付与できると考えた。即ち、請求項3の発明によれば
、前記多孔質粒子の孔内に、被担持物質(液状機能性物質)を担持させた金属
材料が提供される。液状物質の吸着は、当然のことながら、金属表面にも起こ
る。しかし、金属の表面はマクロ面積と大差がなく、吸着面積としては少ない
上に表面の摩耗によって脱落する可能性が高い。従って、付与した機能の寿命
を長時間維持できないことが懸念される。しかし、めっき膜中に分散配置した
多孔質粒子に担持させることによって、多量の機能性物質を保持させるだけで
なく、摩耗などによって脱落する懸念が大きく減少し長期間の機能保持が可能
となる。
このように、本発明は、
(1)基材金属と、基材金属の表面にめっきされた金属と、機能性を有する非
金属無機質分散物質の粒子がめっき金属に分散されている金属材料か、
(2)基材金属と、基材金属の表面にめっきされた金属と、機能性を有する非
金属無機質分散物質の多孔質粒子がめっき金属に分散されており、該多孔質の
孔内に第二の機能性を有する被担持物質が担持されている金属材料か、あるい

(3)基材金属と、基材金属の表面にめっきされた金属と、機能性を有しない
非金属無機質分散物質の多孔質粒子がめっき金属に分散されており、該多孔質
の孔内に機能性を有する被担持物質が担持されている金属材料であって、
前記非金属無機質分散物質の粒子の最大径が50μm以下であって、めっき金属
の表面に位置している粒子の表面の面積が、めっき金属の面積の1%以上30
%以下である金属材料である。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、付与しようとする機能を有する非金属無機質分散
物質(機能性物質)をめっき金属中に分散させたので、該機能性物質がめっき
金属から脱落することが無く、該機能を長時間保持した金属材料が得られる。
また、該非金属無機質分散物質の表面(材料表面における面)の面積が、めっ
き金属の表面の面積の1%以上30%以下とされているので、該機能を十分に発
揮すると共に、金属の質感を損なうことが無い。
また、非金属無機質分散物質が機能性を有しないとしても、多孔質の非金属
無機質分散物質に機能性物質を担持することにより、機能性を有した非金属無
機質分散物質がめっき金属から脱落することが無く、該機能を長時間保持した
金属材料が得られる。
このように、本発明により、金属表面に種々の機能を付与可能となった。基
材金属材料に機能を付与できることから、構造物の外部から付与する機能に比
べて構造物の隅々までその機能を発揮せしめることが可能である。例えば、黴
の発生は一般に表に出た平滑部分よりコーナーやかしめ部分などの通風の良く
ない部分で発生する。しかるに、かしめ等の加工後に噴霧や塗布によって抗黴
処理を施した場合、かしめ内部にはその効果が到達しにくい。ところが、本発
明による抗黴性を付与した金属材料を使用した場合、かしめの内部も抗黴効果
を発揮させることが容易に可能となる。同様に、多孔質物質が雰囲気の水蒸気
を吸着し雰囲気から除去することから、例えばかしめの内部に湿気が滞留し錆
の発生を抑制することが可能となる。
【0024】
また、本発明による金属表面に芳香剤を担持させた場合、金属材料から香り
を発生させることが可能となり、金属製の装飾品が単に目で見た美観だけでな
く、香りも含めた装飾品ものとなる。例えば、芳香を発するヒノキのような木
製の装飾品は、その香りも含めて珍重されているが、同じ事が本発明金属材料
を用いた金属製装飾品で可能となる。しかも、香りの種類は香料さえあれば原
則として無限であるし、木製品の香りには時間的に寿命があるが、本発明金属
材料による装飾品は担持処理を繰り返すことで原理的には無限の寿命を示す。
【0025】
請求項2の発明によれば、前記非金属分散物質がガス吸着機能を有する場合
には、吸着量が大きな金属材料が提供されることとなる。また、機能性物質が
液状物質であったとしても、該非金属分散物質が多孔質であるので、該液状物
質(被担持物質)を担持させることが可能となる。
【0026】
請求項3の発明によれば、機能性物質が液状物質であったとしても、これが
多孔質粒子に担持されているので、該機能性物質を安定してめっき金属に保持
することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第一の実施形態は、基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属
材料であって、前記めっき金属には、最大径が50μm以下の粒子である非金属無
機質分散物質が分散されており、めっき金属の表面に位置している前記無機質
分散物質の表面の面積(より詳細には、無機質分散物質の、材料表面における
面積)が、めっき金属の表面の面積の1%以上30%以下であることを特徴とする
、金属材料であり、非金属の無機質分散物質が付与しようとする機能を有する
場合には、その機能を有する金属材料である。
即ち、機能性を有する物質(非金属の無機質分散物質)を基材金属表面に多
数配置する手段として、その無機質分散物質を分散保持する金属被膜の被覆す
ることとした。
【0028】
めっき金属は、基材金属にめっきすることが可能なものであれば、その種類
を問わない。一般的に広く利用されているNi、Cr、Cu、Zn、Sn、Pbの単一金属
のめっきないしこれらの内1種または1種以上を主成分とする合金めっきが例
示される。また、Cu-Sn合金の中でBiやAgを適量含むPbフリーはんだ合金めっき
であってもよい。
【0029】
めっき金属よりなるめっき層の厚さは、非金属無機質分散物質を分散配置で
きる厚さであればよいことから、分散させたい非金属無機質分散物質の粒子の
サイズ以上の厚さがあれば問題がない。むしろ、めっき材料としてのめっき厚
さから必要に応じて限定されるものである。
【0030】
該めっき金属中には、非金属無機質分散物質の粒子が分散されており、該非
金属無機質分散物質の機能を基材金属に付与しようとするのが、本発明の第一
実施形態である。
【0031】
第一実施形態のみならず、本発明において「機能」とは、例えば、着色性、
蓄光性、ガス吸着性、比較触媒特性、抗菌性、消臭性、芳香性が挙げられる。
また、本発明が目的とするところの機能性物質は、非金属の無機質分散物質
であり、有機質分散物質は含まれない。また、めっき金属との間や基材金属と
の間で異種金属接触腐食を起こす可能性があるので、分散物質には金属は含ま
れない。
【0032】
該めっき金属中分散されている物質としては、例えば、界面活性剤等、分散
物質を分散させるのに必要な物質が含まれていても良い。
【0033】
非金属の無機質分散物質は、微細な粒子であることが必要である。微細粒子
であることにより、単位表面積が大きく、効果的に機能を発揮することとなる
。そして、非金属の無機質分散物質の粒子の最大径は、50μm以下であること
が必要である。めっき金属表面に存する非金属微細粒子の径が50μmを超えると
、金属を曲げたり塑性加工を実施した際、そこを基点として亀裂を発生したり
剥離を起こす懸念が生ずる上に、わずかな加工によって脱落してしまうからで
ある。
【0034】
また、好ましくは、非金属の無機質分散物質は、100nm以上の径を有すること
が好ましい。あまり小さいと、めっき金属に覆われやすくなってしまい、めっ
き金属表面に露出しないこととなったり、あまりに小さい故めっき金属内で凝
集してしまい、分散配置されず、機能を発揮してしなくなってしまう。但し、
このように非常に小さな粒子の場合、本発明の第二の実施形態により、その機
能性を付与することは可能となる。
【0035】
めっき金属中には、機能性を有する非金属無機質分散物質その他の分散物質
が分散されている。めっき金属層が分散物質の各粒子の大きさに比して厚い場
合、分散物質は、めっき金属層表面近くに分布してめっき金属層表面に出てい
るものもあれば、めっき金属層内に埋没しているものもある。本発明において
は、めっき金属の表面に分布している機能性を有する粒子を問題とする。めっ
き金属の表面に分布していなければ、その機能を発揮することができないから
である。
めっき金属の表面の面積に対する、めっき金属の表面に位置或いは露出して
いる前記機能性を有する非金属無機質分散物質の表面の面積(以下、「面積率
」という。)は、安定して機能を発揮するためには極めて重要な品質指標であ
り、該面積率は、1〜30%である。機能性を有する非金属の無機質分散物質
の種類や用途などで下限は異なるものであるが、少なくとも1%以上でないと
非金属無機質分散物質の機能性効果が現れない。非金属の無機質分散物質が機
能を発揮するためには、前記面積率が大きければ大きいほど、効果が大きくな
ると推測されるが、30%を超えると、めっき金属の被膜によって、金属の加工
性が劣化するだけでなく、金属としての質感がなくなることから、30%を上限
とした。
めっき金属の表面積に対して分散物質の表面積を1〜30%とするためには、
分散物質の濃度を調整すること等公知の技術により行えばよい。
【0036】
非金属無機質分散物質の粒子をめっき金属表面に分散させる方法は、特に限
定するものではないが、その方法の一つとして金属めっきと同時にめっき液中
に分散させた非金属無機質分散物質の粒子をめっき被膜中に付着させる分散め
っきが挙げられる。通常のめっきでも、わずかにめっき液中に混入した不純物
がめっき金属被膜中に埋め込んだ状態で付着することがあり、一般にはこのよ
うな現象はめっき欠陥として忌避されてきた。本発明は、従来忌避されてきた
この現象を積極的に活用することである。
【0037】
雰囲気中のガスを吸着するためには、マクロ表面積(微細孔を無視して金属
材料全体として見たときの表面積)に比べてミクロ表面積(微細孔や凹凸を考
慮して材料をナノメーターやミクロン等のオーダーで非常に拡大して観察して
見た場合の表面積)がきわめて大きい必要がある。このために、分散させる非
金属無機質物質の粒子を多孔質粒子とすることが好ましい。また、液状物質な
どの機能物質を表面に吸着しやすくするためには、同様にマクロ表面積に比べ
てミクロ表面積がきわめて大きい必要がある。
【0038】
多孔質粒子は、ガスの吸着量が大きくまたは機能性物質を多量に担持しやす
いミクロ表面積の大きいものであれば、その種類や構造は問わないが、入手の
しやすさや安全性、担持能力(重量当たりの細孔面積)の大きさから、ゼオラ
イト、シリカゲル、カオリナイトが好ましい。またこれらの多孔質粒子は、自
然鉱物でも人工の合成鉱物でもその効果に差異はないことから、どちらかに限
定する必要はない。
【0039】
分散させる非金属無機質物質の粒子が多孔質粒子である場合、その孔内に第
二の機能を有する物質(被担持物質)を吸着等により担持させておくことで、
金属材料に第二の機能を付与することが可能となる。この技術により、金属材
料に付与可能な機能性物質は、液体物質はもちろん金属表面には付着残留しに
くい微細粉末まで拡大できる。特に揮発性の物質の場合、単なる金属表面に比
較して格段に多量に、従って格段に長期間にわたって表面に留め置くことが可
能となり、従来全く想像だにされなかったあたらしい金属材料が具現化したの
である。
この場合、非金属無機質物質が機能性物質である場合には、非金属無機質物
質の機能に加えて、第二の機能が付加されることとなる。一方、非金属無機質
物質が機能性物質ではない場合であっても、金属材料には、この第二の機能が
付加されることとなる。即ち、本発明の第二の実施形態では、前記非金属無機
質物質が多孔質粒子であり、該多孔質粒子の孔内に、機能性物質が担持された
ものである。
【0040】
上記被担持物質は、非金属無機質物質の多孔質粒子の孔内に担持が可能であ
れば種類は問わず用途や効果、機能に応じて自由に選択が可能である。その
状態も、液体や気体であっても固体であってもかまわないし、有機物質でも無
機物質でも金属単体でも問題はない。担持するに当たり、溶媒が必要であれば
それが加わったとしても本発明の効果は十分に期待できる。
【0041】
例えば、イオン交換型の消臭剤を担持させることにより、金属材料に消臭機
能を付与することが可能となるし、アナターゼ型のTiO2を主体とする光触媒を担
持させることにより光触媒機能を付与することが可能となる。また、アロマテ
ィックオイルや天然物質由来の精油成分などの薬剤を担持させることにより、
芳香を発する金属材料の提供が可能となる。
特に、選択可能な芳香を発する金属など揮発性物質により従来思いも寄らな
い機能を発揮する金属材料は、歴史上はじめて具現化した材料である。
このように、被担持物質が揮発性物質はである場合に、この揮発性物質は、
もちろん種類は問わず用途や効果、機能に応じて自由に選択が可能である。例
えば、芳香を発する物質を担持させれば、芳香を発する金属材料となる。
【0042】
金属材料は基本的には臭いの発生しない材料である。但し、急激に腐食が進
行するような場合、特に酸に溶解するような場合、異臭が感じられる場合があ
るが(これは金属中のC等の固溶物質が反応して有機系の物質が生ずるためと
推定されている。)、発生する香りを自由に選択することは不可能であった。
【0043】
被担持物質を多孔質粒子の孔内に担持させる方法は、従来の粉末や粒状体へ
の担持と同じ方法で実施可能である。被担持物質が液体や気体の場合、液体に
浸漬したり、気体の環境に放置することで可能である。被担持物質が微細粒子
の場合、一般的には液体に分散した後浸漬することで多孔質物質の孔内に担持
させることができる。
【実施例】
【0044】
実施例1〜4、比較例1〜4:
0.5mm厚さのステンレス鋼板に厚さ約5μmのNiめっきを施した。その際、非金
属無機質分散物質として、めっき金属中に種々のサイズの、無機質鉱物たる青
色顔料(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社のC.I. Pigment blue)を、表
1に示す面積率で分散させた。分散面積および分散物質のサイズは、光学顕微
鏡でめっき表面を撮影し、青色部分の面積とサイズを画像解析により解析した
。表面の肉眼レベルの色の測定は、径10mmφの光束の反射光をL、a、b法により
解析して評価した。また、t/2曲げを行い、曲げ頂点の状況を確認した。結果を
表1に示す。
【0045】
表1に、めっき面における顔料の露出サイズと面積率、および色測結果と曲
げ結果を示した。本発明例は、比較の青色顔料を分散させないNiめっき面に比
べて色差が有為な差を示しており、明確な青色を呈しており、しかも曲げ加工
でも亀裂や脱落は認められなかった。
分散した顔料のサイズが露出部分で最大径が50μmを超える場合(比較例2)
、鮮やかに青色を呈色したが、t/2曲げで表面に存する顔料が脱落した。比較例
2より、非金属微細粒子の最大径が50μmを越えると、金属材料の加工性が悪
いものとなってしまうことが分かった。
分散面積が1%未満の場合(比較例3)、L、a、b法の色差では差異が算出さ
れたが、そのレベルは肉眼ではほとんど差異が感じられないレベル(色差値≦1
.5で概ね肉眼的差異なしと評価)と評価される程度であり、事実肉眼的には着
色は認められなかった。比較例3より、面積率が1%未満だと、非金属微細粒
子の機能性が発揮されないことが分かった。
逆に30%を超える面積の分散を行った場合(比較例4)、極めて鮮やかな青
色を呈したものの、金属的質感が減じ塗装のイメージが感じられるだけでなく
、曲げ加工でめっき面に亀裂を生じかつ分散した青色顔料が脱落した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例5〜7、比較例5〜6:
0.5mm厚さのステンレス鋼板に厚さ約5μmのNiめっきを施した。その際、めっ
き金属中に公称で10μm以下の種々の非金属無機質分散物質の粒子を分散させた
。分散面積は、概ね5〜10%とした。期待した効果は非金属無機質分散物質の種
類により異なるので、それぞれの期待した効果の有無を定性的に評価した。ま
た、分散材の耐食性をJIS-G0535による塩水噴霧試験により評価した。
【0048】
表2に試作材の分散物質種、効果とその評価結果およびJIS塩水噴霧試験の結
果を示した。非金属無機質分散物質が蓄光材の場合(実施例5)、蓄光効果が
認められ、耐食性も特に問題はなかった。非金属無機質分散物質が多孔質材料
であるゼオライト粉の場合(実施例6)、密閉容器中でのホルムアルデヒド吸
着効果が認められ、耐食性も特に問題はなかった。非金属無機質分散物質がア
ナターゼ型のTiO2光触媒粉の場合(実施例7)、紫外線下で赤インクの分解効果
が認められ、耐食性も特に問題はなかった。なお、何も分散させなかったNiめ
っき材(比較例6)は、蓄光効果もホルムアルデヒド吸着効果も紫外線下で赤
インクの分解効果も認められなかった。
しかし、非金属無機質分散物質が金属のCu粉の場合(比較例5)、わずかに
赤褐色に着色し、生ゴミの水切り皿に載せることでぬめりの発生を抑制できた
ものの、わずか1hの塩水噴霧試験で分散したCu粒子の周辺からNiの溶解が始ま
り、一部の分散Cu粒子の脱落が起きた。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例8〜10:
0.5mm厚さのステンレス鋼板に厚さ約5μmのNiめっきを施した。その際、めっ
き金属中に公称で10μm以下の種々のゼオライト微細粒子(非金属無機質分散物
質)を分散させた。分散面積は、概ね5〜10%とした。ゼオライトの微細孔内に
は、種々の被担持物質を吸着させた。期待した効果は吸着させた被担持物質の
種類により異なるので、それぞれの期待した効果の有無を定性的に評価した。
また、分散めっき材の耐食性をJIS-G0535による塩水噴霧試験により評価した。
【0051】
表3に各実施例の被担持物質の種類、効果とその評価結果およびJIS塩水噴霧
試験の結果を示した。実施例8のように、ゼオライト微細粒子に吸着させた物
質(被担持物質)が第4級抗菌剤の場合、抗菌効果が認められ、耐食性も特に
問題はなかった。実施例9のように、ゼオライト微細粒子に吸着させた物質(
被担持物質)が数〜10数nmのアナターゼ型のTiO2光触媒粉の場合、紫外線下で赤
インクの分解効果が認められ、耐食性も特に問題はなかった。また、実施例1
0のように、ゼオライト微細粒子に吸着させた物質(被担持物質)がイオン交
換性の消臭剤の場合、密閉容器中でアンモニアの減少が認められ、耐食性も特
に問題はなかった。
なお、ゼオライト微細粒子何も吸着させなかった単なるゼオライト分散Niめ
っき材は、抗菌効果も紫外線下で赤インクの分解効果も認められなかった。し
かし、実施例8〜12のように多様な機能性物質を吸着させることで、多様な
機能を付与することが可能である。
【0052】
本実施例の実施例8のように、付与したい機能を有する物質が液体であった
としても、ゼオライトなどの多孔質物質の孔内に間接的に保持せしめることで
、問題もなく期待どおりの効果が得られた。
実施例7(表2)にTiO2の微細粒子を直接分散させることによる光触媒効果を
有する材料を示したが、TiO2粒子が数〜数10nmのように極めて微細になるとめっ
き金属による分散保持が困難となることから、実施例7の例のように直接分散
させることが困難となる。この場合も実施例9に示したようにゼオライトなど
の多孔質微細粒子を分散させ、その孔内に吸着保持させることで効果を得るこ
とが可能となる。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例11及び12、比較例7:
0.5mm厚さのステンレス鋼板に厚さ約5μmのNiめっきを施した。その際、めっ
き金属中に公称で10μm以下の種々のゼオライト微細粒子(非金属無機質分散物
質)を分散させた。分散面積は、概ね5〜10%とした。ゼオライトにシナモンの
香り及び森の香りのするアロマティックオイル(被担持物質)を吸着させた。
このめっきを施したステンレス鋼は、その後数カ月以上にわたりこれら香りが
漂った。
比較のために、ゼオライト微細粒子を分散しない通常のNiめっきを施したス
テンレス鋼にシナモンの香りのするアロマティックオイルを付着せしめた(比
較例7)ところ、それでもシナモンの香りは残留したが、アロマティックオイ
ルの付着後、エタノールで洗浄すると香りはほとんど消失した。例え、洗浄を
しなくとも室内放置では概ね3日ほどで香りは失せた。
【0055】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材金属の表面にめっき金属をめっきした金属材料であって、
前記めっき金属には、最大径が50μm以下の粒子である非金属無機質分散物質
が分散されており、
前記めっき金属の表面に位置している前記無機質分散物質の表面の面積が、
めっき金属の表面の面積の1%以上30%以下であることを特徴とする金属材料

【請求項2】
前記非金属無機質分散物質が、多孔質粒子である、請求項1記載の金属材料

【請求項3】
前記多孔質粒子の孔内に、前記基材金属およびめっき金属とは異なる被担持
物質を担持させた、請求項2記載の金属材料。

【公開番号】特開2007−154245(P2007−154245A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349591(P2005−349591)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(591186718)高砂鐵工株式会社 (12)