説明

靴底および靴

【課題】摩耗の進行状態を視覚によって使用者に知覚させることができるとともに、耐滑性能の消失を知覚させることができる靴および靴底を提供することを課題とする。
【解決手段】 床面と接する接地ブロック内に、当該接地ブロックよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設けるとともに、当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする。また、充填物を設けた接地ブロックを、拇趾球下部領域、子趾球下部領域および踵部外方領域に相当する靴底面の全て若しくは何れか領域に相当する靴底面に設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スリップサインを設けた靴底および当該靴底を備えた靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、靴底の摩耗による使用限度を一見して正確に判別できるスリップサインを設けた射出成形ブーツが知られている(特許文献1)。当該射出成形ブーツは、使用の経過に伴って靴底の意匠形状がその靴底ベース厚面まで摩耗消滅すると、ブーツ本体側の下面に形成した突起の頂面が前記靴底ベース厚面に現れ、靴底との色の違いによって、一目で靴底が使用限度に達したことを認識させるというものである。
また、ハイヒールの踵に取り付けられる特許文献2記載のトップリフトが知られている。当該トップリフトは、嵌入軸部を介して靴の踵に固定されるようになっており、嵌入軸部をトップリフトよりも堅い素材で形成したものである。そして、嵌入軸部に着色することで、トップリフトが摩耗した際に嵌入軸部が表れ、摩耗を知らせることができるようになっている。
【特許文献1】実用新案登録第2567956号公報
【特許文献2】特開2005−304978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献記載の技術は、いずれも靴底の摩耗によってスリップサイン(嵌入軸部)が表れ、それにより靴底の摩耗状態を知覚することができるようになっているものである。しかし、スリップサインが表れるのと同時に靴の品質が保てなくなるよりも、段階を経て靴の品質低下を知覚できるようにすることが望ましい。
また、床面に接する靴底部よりもスリップサイン(嵌入軸部)が堅いと、スリップサイン(嵌入軸部)が摩耗せずに残存して滑りやすくなる。したがって、本来スリップサイン(嵌入軸部)は、主たる接地面を構成する靴底部と同じ若しくは靴底部よりも摩耗することによって、接地面が平坦を保ったまま摩耗することが望ましい。また、耐滑性能を特に高めた靴の場合には、上記のような硬いスリップサインを設けることはできない。
本発明は、上記課題に鑑み発明したものであって、摩耗の進行状態を視覚によって使用者に知覚させることができるとともに、耐滑性能の消失を知覚させることができる靴および靴底を提供することを課題とする。また、スリップサインを適所に配置した靴および靴底を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、
床面と接する接地ブロック内に、当該接地ブロックよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設けるとともに、当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底。
【0005】
また、本願請求項2記載の発明は以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、
前記接地ブロック内に、当該接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状が変化するように形成した表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、
当該孔若しくは凹部内に、前記ミッドソールの形成時による充填物を設けたことを特徴
とする靴底。
【0006】
また、本願請求項3記載の発明は以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、
前記接地ブロック内に、表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、
当該孔若しくは凹部内に、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化する充填物を設けたことを特徴とする靴底。
【0007】
また、本願請求項4記載の発明は以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールを有する靴底であって、
前記接地ブロック内に表裏貫通する孔若しくは表面または裏面側から設けた凹部を設けるとともに、前記孔若しくは凹部内に前記アウトソールよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設け、
当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底。
【0008】
また、本願請求項5記載の発明は以下の構成を備えたことを特徴とする。すなわち、
前記充填物を設けた接地ブロックを、拇趾球下部領域、子趾球下部領域および踵部外方領域に相当する靴底面の全て若しくは何れかの領域に相当する靴底面に設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の靴底。
【0009】
また、本願請求項6記載の発明は、床面と接する接地ブロック内に、当該接地ブロックよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設けるとともに、当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底を備えた靴である。
また、本願請求項7記載の発明は、床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、前記接地ブロック内に、当該接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状が変化するように形成した表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、当該孔若しくは凹部内に、前記ミッドソールの形成時による充填物を設けたことを特徴とする靴底を備えた靴である。
また、本願請求項8記載の発明は、 床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、前記接地ブロック内に、表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、 当該孔若しくは凹部内に、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化する充填物を設けたことを特徴とする靴底を備えた靴である。
また、本願請求項9記載の発明は、 床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールを有する靴底であって、前記接地ブロック内に表裏貫通する孔若しくは表面または裏面側から設けた凹部を設けるとともに、前記孔若しくは凹部内に、前記アウトソールよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設け、当該充填物を接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底を備えた靴である。
また、本願請求項10記載の発明は、前記充填物を設けた接地ブロックを、拇趾球下部領域、子趾球下部領域および踵部外方領域に相当する靴底面の全て若しくは何れか領域に相当する靴底面に設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の靴底を備えた靴である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る靴底および当該靴底を用いた靴は、床面と接する接地ブロック内に、当該接地ブロックよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設けたものである。したがって、接地ブロックが摩耗しても、充填物が接地ブロックの表面から突出することがなく、充填物を設けても靴底の耐滑性能が低下しないという効果を有している。
また、本発明に係る靴底および当該靴底を用いた靴は、前記充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したものである。これは、摩耗の進行状態を充填物の形態変化によって使用者に知覚させるものであり、靴の使用限度に達するまでの期間を予め予測させることができるという効果を有しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について説明する。
[第1実施例]
図1(a)は、本発明に係る靴底1の底面を部分的に表した説明図であり、図1(b)は、図1(a)に示したA−A’線の拡大断面図である。
本実施の形態に係る靴底1は、所謂2層底と称されている形態の靴底であり、床面に接するアウトソール2、中底3、および当該アウトソール2と中底3との間にミッドソール4を設けたものとなっている。当該2層底は、一般的な方法としてアウトソール2を成形型を用いて射出成形した後に、当該アウトソール2との間に空間を形成しつつ中底3を設けたアッパー(足を入れる部分)を金型に装着し、アウトソール2と中底3の間に形成されている空間内に発泡性の樹脂あるいはゴムを充填することにより形成される。
【0012】
そして、上記ミッドソール4はアウトソール2と比較して摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されている。例えば、アウトソール2を無発泡の弾性ゴム若しくは弾性樹脂で形成した場合には、ミッドソール4を発泡剤を混合したゴム若しくは発泡剤を混合したウレタンその他の樹脂によって形成する。また、アウトソール2を発泡剤を混合した発泡性ゴム若しくは発泡性樹脂で形成した場合には、ミッドソール4を当該アウトソール2よりも発泡率の高い(空間が多く密度が低い)状態となるような組成で形成する。
【0013】
前記アウトソール2を形成する際、所定位置に設けられた接地ブロック5の内部には中空部6が形成され、当該中空部の内部にもミッドソール4を形成する組成物が充填される。本実施の形態では、当該中空部6は貫通しない円形の凹部であり、接地面側からミッドソール4側に向かう同軸上に、小径部7と大径部8を設けた段差付きの凹部として形成されている。
図示した例では、接地ブロック5の高さは約5mmであり、肉厚2mmを残して内部に小径部7を形成し、当該小径部7の先端から約2mm程度ミッドソール4寄りの部分から大径部8を設けている。当該小径部7および大径部8に充填されたミッドソール4の組成物による充填物が、接地ブロック5の摩耗状態を表すスリップサイン9となる。
【0014】
図2(a)は、図1(a)に示した部位の外観斜視図を表しており、接地ブロック5が全く摩耗していない状態を表している。この状態から接地ブロック5が摩耗すると、次第にスリップサイン9として前述した小径部7の充填物が表出する。アウトソール2とミッドソール4は、同一の素材を使用したとしても発泡剤の混合割合を異ならせているので、コントラストの違いによって小径部7の形状をはっきりと視認できるようになっている(図2(b))。また、異なる素材を使用した場合にも、同様に小径部7の形状をはっきりと視認できる。
前記小径部7が表出してからさらに摩耗が進行すると、スリップサイン9が小径部7から大径部8に移行する(図2(c))。すなわち、摩耗の進行に伴ってスリップサイン9の外径が大きく見えるようになっている。
耐滑性能は靴底を形成する素材や接地ブロックの形状等によって異なるものであるので
、前記大径部8を表出させる接地ブロックの高さは、それぞれの靴が有する耐滑性能に応じて適宜設定することができる。そして、当該大径部8の表出と、摩耗に伴う靴の使用限度を一致させておくことで、靴の使用限度を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0015】
また、前述したように、ミッドソール4はアウトソール2よりも柔らかく摩耗しやすく形成されている。したがって、接地ブロックの摩耗によってスリップサイン9が表出しても、接地面よりも突出することはない。
耐滑性の高い靴は、接地ブロックの角に丸みが無く、接地面が平坦であることが要求される。これに対して本実施の形態に係る靴底1は、スリップサイン9が突出することで接地面の平坦性を阻害したり、スリップサイン9の突出による片摩耗によって接地ブロックの角に丸みを形成することが無い。したがって、本実施の形態に係る靴底1および当該靴底を用いた靴は、摩耗の進行に伴う耐滑性能の自然劣化が生じるまで、耐滑性能を維持することができるようになっている。
なお、上記中空部6は未摩耗の状態で接地ブロック表面に表出しないように形成したが、表面まで貫通するように形成してもよいものである。また、この場合前記小径部7、大形部8の他に直径の異なる部分をさらに加えたり、形状の異なる部位を形成し、摩耗の進行度合いを細かく表すようにしても差し支えない。
【0016】
[第2実施例]
図3および図4は、本発明に係る第2の実施例に関する説明図であり、 図3(a)は、本発明に係る靴底21の底面を部分的に表した説明図であり、図3(b)は、図3(a)に示したB−B’線における拡大断面図である。
本実施例に係る靴底21は、第1実施例と同様に2層底と称されている形態の靴底であり、床面との接地ブロック25を設けたアウトソール22と、底面に中底23を設けた足を入れるアッパー(図示せず)との間にミッドソール24を設けたものとなっている。
当該2層底は、第1実施例と同様に成形型によりアウトソール22を射出成形した後に、アウトソール22との間に空間を形成しつつ中底23を設けたアッパーを金型に装着し、アウトソール22と中底23の間に形成された空間内に発泡性の樹脂あるいはゴムを充填することにより形成される。
【0017】
そして、上記ミッドソール24はアウトソール22と比較して摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されている。そして、ミッドソール24は、本来の目的であるクッション性を有するように、柔軟性と弾力性を備えたものとなっている。
例えば、アウトソール22を無発泡の弾性ゴム若しくは弾性樹脂で形成した場合には、ミッドソール24を発泡剤を混合したゴム若しくは発泡剤を混合したウレタンその他の樹脂によって形成する。また、アウトソール22を発泡剤を混合した発泡性ゴム若しくは発泡性樹脂によって形成した場合には、ミッドソール24を前記アウトソール22よりも発泡率の高い(空間が多く密度が低い)状態となるように形成する。
【0018】
前記アウトソール22を形成する際、所定位置に設けられた接地ブロック25の内部には中空部26が形成される。
当該中空部26は接地ブロック25の表面(接地面)まで貫通しない円形の凹部であり、接地面側からミッドソール24側に向かう同軸上に、小径部27と大径部28を設けた段差付きの凹部として形成されている。
図示した例では、接地ブロック25の高さは約5mmであり、肉厚2mmを残して内部に小径部27を形成し、当該小径部27の先端から約2mm程度ミッドソール24寄りの部分以降に大径部28を設けている。
【0019】
そして、本第2実施例では、接地ブロック25の内部に形成した前記中空部26内に、
充填物として円柱状の中実体30を嵌入するようになっている。当該中実体30は、アウトソール22と同一若しくはアウトソール22よりも摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されたゴム若しくは樹脂性の成型物である。ただし、色彩若しくは光沢によってアウトソール22との視覚的な相違が明確となるように、組成の変更、塗料、染料等の混合等が行われる。
当該中実体30を前記中空部26内に嵌入した後当該中実体30の先端部を小径部27内に密着させると、大径部28との間に環状の隙間31が形成されるようになっている。そして、当該隙間31には、ミッドソール24の射出成型物が充填され中実体30に密着する。また、当該中実体30の下端は、中空部26内に嵌入された状態で、少なくとも接地ブロック25の付け根部よりも深い位置に存在するようになっている。当該中実体30は、接地ブロック25の摩耗によって表出するスリップサインであり、接地ブロック25が完全に磨り減ったとしても抜け落ちずに残存するようなっている。
【0020】
図4(a)は、図3(a)に示した部位の外観斜視図を表しており、接地ブロック25が全く摩耗していない状態を表している。この状態から接地ブロック25が摩耗すると、次第にスリップサインとして前述した中実体30が表出する。
中実体30は、その組成あるいは混合物によってアウトソール22と光沢、色彩若しくはコントラストが異なるように形成されている。したがって、使用者は接地ブロック25の表面からの中実体30の表出を明確に認識できるようになっている(図4(b))。
中実体30が表出してからさらに摩耗が進行すると、中実体30を嵌入した小径部27部分が摩耗によって消失し大径部28に移行する(図4(c))。この際、中実体30と大径部28との隙間31に充填されたミッドソール24の射出成型物によって輪状の模様が出現する。すなわち、摩耗の進行に伴ってスリップサインの形態に輪状の模様が加えられる。
なお、耐滑性能は靴底を形成する素材や接地ブロックの形状等によって異なるものであるので、前記輪を表出させる接地ブロックの高さは、それぞれの靴が有する耐滑性能に応じて適宜設定されるものである。そして、前記輪状模様の表出と、摩耗に伴う靴の使用限度を一致させておくことで、靴の使用限度を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0021】
また、前述したように、アウトソール22よりも中実体30およびミッドソール24は柔らかく摩耗しやすく形成されている。したがって、接地ブロック25の摩耗によってスリップサインが表出しても、スリップサインが接地面よりも突出することはない。
耐滑性の高い靴は、接地ブロックの角に丸みが無く、接地面が平坦であることが要求される。これに対して本実施の形態に係る靴底21は、スリップサインが突出することで接地面の平坦を阻害したり、スリップサインの突出による片摩耗によって接地ブロックの角に丸みを形成することが無く、これにより摩耗の進行に伴う耐滑性能の自然劣化が生じるまで、耐滑性能を維持することができるようになっている。
【0022】
[第3実施例]
図5および図6は、本発明に係る第3の実施例に関する説明図であり、 図5(a)は、本発明に係る靴底41の底面を部分的に表した説明図であり、図5(b)は、図5(a)に示したC−C’線における拡大断面図である。
本実施例に係る靴底41は、第2実施例と同様に2層底と称されている形態の靴底であり、床面に接するアウトソール42と、足を入れるアッパー(図示せず)の底を形成する中底43との間に中間層であるミッドソール44を設けたものとなっている。
当該2層底は、第2実施例と同様に成形型によりアウトソール42を射出成形した後に、アウトソール42との間に空間を形成しつつ中底43を設けたアッパーを金型に装着し、アウトソール42と中底43の間に形成された空間内に発泡性の樹脂あるいはゴムを充填することにより形成される。
【0023】
そして、上記ミッドソール44はアウトソール42と比較して摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されている。そして、ミッドソール44は、本来の目的であるクッション性を有するように、柔軟性と弾力性を備えたものとなっている。
例えば、アウトソール42を無発泡の弾性ゴム若しくは弾性樹脂で形成した場合には、ミッドソール44を発泡剤を混合したゴム若しくは発泡剤を混合したウレタンその他の樹脂によって形成する。また、アウトソール42を発泡剤を混合した発泡性ゴム若しくは発泡性樹脂で形成した場合には、ミッドソール44を前記アウトソール42よりも発泡率の高い(空間が多く密度が低い)状態となるように形成する。
【0024】
前記アウトソール42を形成する際、所定位置に設けられた接地ブロック45には、接地面である表面から内部に向かって貫通した円形孔46が形成される。当該円形孔46は、接地ブロック45の摩耗限度までの長さと同様の深さに形成した小径部47と、当該小径部47の下端から直径を大きくしてアウトソール42の下端面まで貫通する大径部48を設けた段差付きの孔として形成されている。
図示した例では、接地ブロック45の高さは約5mmであり、表面から4mmの深さまで直径4mmの小径部47を形成し、当該小径部27の下端からアウトソール42の下端面までの約4mmを直径6mmの大径部48として形成している。
【0025】
そして、本第3実施例では、接地ブロック45の内部に形成した前記円形孔46内に充填物として円柱状の中実体50を嵌入するようになっている。
当該中実体50は、アウトソール42と同一若しくはアウトソール42よりも摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されたゴム若しくは樹脂性の成型物である。また、色彩若しくは光沢によって、アウトソール42との視覚的な相違が明確となるように、組成の変更、塗料、染料等の混合等が行われている。さらに、当該中実体50は、白、黄色、赤等のように視覚によって識別可能な3種類の色彩層(第1層52、第2層53、第3層54)を積み重ねた形態を有している。すなわち、中実体50が磨り減って短くなると、それに応じて表面側から見える層が変化し、色によって摩耗の程度が判別できるようになっている。
【0026】
前記円形孔46内に嵌入された中実体50は、小径部47の内面と密着し大径部48との間に環状の隙間51を形成するようになっている。そして、当該隙間51には、ミッドソール44の射出成型物が充填される。また、当該中実体50の長さは、円形孔46内に嵌入された状態で、少なくとも下端が接地ブロック45の付け根部よりも深い位置に存在するように形成されている。当該中実体50は、前述した通り接地ブロック45の摩耗状態を表すスリップサインであり、接地ブロック45が完全に磨り減ったとしても抜け落ちずに残存するようなっている。
【0027】
図6(a)は、図5(a)に示した部位の外観斜視図を表しており、接地ブロック45が全く摩耗していない状態を表している。この状態で、すでに中実体50の表面(第1層52)が接地ブロック45の表面に表出している。
上記の状態から接地ブロック45の摩耗が進行すると、中実体50の第2層53が接地ブロック45の表面に表出する(図6(b))。
そして、第2層53が表出してからさらに摩耗が進行すると、中実体50を嵌入した小径部27部分が摩耗によって消失し大径部48に移行し、中実体50の第3層54が接地ブロック45の表面に表出する(図6(c))。本実施例では、この際、中実体50と大径部48との隙間51に充填されたミッドソール44の射出成型物によって、輪状の模様が出現する。すなわち、摩耗の進行に伴ってスリップサインに輪模様が付加される。
なお、耐滑性能は靴底を形成する素材や接地ブロックの形状等によって異なるものであるので、前記輪模様を表出させる接地ブロックの高さは、それぞれの靴が有する耐滑性能
に応じて適宜設定されるものである。そして、前記輪状模様の表出と、摩耗に伴う靴の使用限度を一致させておくことで、靴の使用限度を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0028】
また、前述したように、アウトソール42よりも中実体50およびミッドソール44は柔らかく摩耗しやすく形成されている。したがって、接地ブロック45の摩耗によってスリップサインが表出しても、スリップサインが接地面よりも突出することはない。
耐滑性の高い靴は、接地ブロックの角に丸みが無く、接地面が平坦であることが要求される。これに対して本実施の形態に係る靴底41は、スリップサインが突出することで接地面の平坦を阻害したり、スリップサインの突出による片摩耗によって接地ブロックの角に丸みを形成することが無く、これにより摩耗の進行に伴う耐滑性能の自然劣化が生じるまで、耐滑性能を維持することができるようになっている。
【0029】
[第4実施例]
図7および図8は、本発明に係る第4の実施例に関する説明図であり、 図7(a)は、本発明に係る靴底61の底面を部分的に表した説明図であり、図7(b)は、図7(a)に示したD−D’線における拡大断面図である。
本実施例に係る靴底61は、前述した各実施例と異なるものであって、所謂1層底と称されている形態の靴底である。当該靴底61は、床面に接するアウトソール62のみによって形成されたものであり、中底63を含む足を入れるアッパー(図示せず)の底面全体に接着若しくは射出成形によって取り付け若しくは形成されたものである。本実施例では、予め射出成形によって靴底61を形成し、当該靴底61をアッパーに接着するタイプの靴について説明する。
【0030】
床面と接する接地ブロック65を底面に設けたアウトソール62は、所定の金型を用いた射出成形によって形成される。また、アウトソール62は、無発泡の弾性ゴム若しくは弾性樹脂、あるいは発泡剤を混合した発泡性ゴム若しくは発泡性樹脂によって形成される。
前記アウトソール62を形成する際、所定位置に設けられた接地ブロック65には、接地面である表面から内部に向かって形成された有底の円形凹部66が形成される。当該円形凹部66は、接地ブロック65の摩耗限度までの長さと同等若しくはこれよりも深く形成されている。図示した例では、接地ブロック65の高さは約5mmであり、表面から4mmの深さまで直径4mmの円形凹部66を設けている。なお、当該円形凹部66に変えて、表裏貫通した貫通孔を設けても差し支えない。
【0031】
そして、本第4実施例では、接地ブロック65の内部に形成した前記円形凹部66内に円柱状の中実体70を充填物として嵌入し強固に接着するようになっている。
当該中実体70は、アウトソール62と同一若しくはアウトソール62よりも摩耗しやすい素材若しくは組成で形成されたゴム若しくは樹脂性の成型物である。また、色彩若しくは光沢によって、アウトソール62との視覚的な相違が明確となるように、組成の変更、塗料、染料等の混合等が行われている。さらに、当該中実体70は、白、黄色、赤等のように視覚によって識別可能な3種類の色彩層(第1層72、第2層73、第3層74)を積み重ねた形態を有している。すなわち、中実体70が磨り減って短くなると、それに応じて表面側から見える層が変化し、色によって摩耗の程度が判別できるようになっている。
【0032】
図8(a)は、図7(a)に示した部位の外観斜視図を表しており、接地ブロック65が全く摩耗していない状態を表している。この状態で、すでに中実体70の表面(第1層72)が接地ブロック65の表面に表出している。
上記の状態から接地ブロック65の摩耗が進行すると、中実体70の第2層73が接地
ブロック65の表面に表出する(図8(b))。
そして、第2層73が表出してからさらに摩耗が進行すると、アウトソール62の摩耗限度として、中実体70の第3層74が接地ブロック65の表面に表出する(図8(c))。
なお、耐滑性能は靴底を形成する素材や接地ブロックの形状等によって異なるものであるので、前記第3層74を表出させる接地ブロックの高さは、それぞれの靴が有する耐滑性能に応じて適宜設定されるものである。そして、第3層74の表出と、摩耗に伴う靴の使用限度を一致させておくことで、靴の使用限度を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0033】
また、前述したように、アウトソール62よりも中実体70は柔らかく摩耗しやすく形成されている。したがって、接地ブロック65の摩耗によってスリップサインが表出しても、スリップサインが接地面よりも突出することはない。
耐滑性の高い靴は、接地ブロックの角に丸みが無く、接地面が平坦であることが要求される。これに対して本実施の形態に係る靴底61は、スリップサインが突出することで接地面の平坦を阻害したり、スリップサインの突出による片摩耗によって接地ブロックの角に丸みを形成することが無く、これにより摩耗の進行に伴う耐滑性能の自然劣化が生じるまで、耐滑性能を維持することができるようになっている。
【0034】
次に、前記各実施例において説明したスリップサインを設けた接地ブロックの配置について説明する。
靴底の摩耗は靴底全面において均等に生じるわけではなく、荷重のかかりやすい位置、床面との摩擦量が多い箇所において摩耗が進行しやすい。またスリップサインを靴底の全面に配置することも可能ではあるが、摩耗しやすい部材を接地ブロックに内蔵することになるので、靴底全体の摩耗の進行を早めることになるので適切ではない。したがって、摩耗しやすい箇所にのみスリップサインを設けることで、靴全体の耐摩耗性を損ねることがなく、かつ摩耗の進行状態を知覚することができる靴底および靴を提供することができる。このような観点から、本発明では次に説明する箇所にスリップサインを設けている。
【0035】
図9は上記各実施例を適用することができる靴の一例を表したものであり、図9(a)は当該靴80の側面図、図9(b)は当該靴80の底面図を表している。また、図9(a)の一部に靴底の断面図を表している。以下、図9(b)に示した底面図を中心としてスリップサインの配置について説明する。
第一に、拇趾球下部に相当する位置にスリップサインを内蔵した接地ブロックを設ける。すなわち、図示した靴底領域81は、足裏の拇趾球下部によって荷重が加えられる部位であり、当該靴底領域81に1又は複数のスリップサインを設けた接地ブロック82を設ける。
拇趾球とは、足の親指の付け根付近にある突出部である。そして、この拇趾球の土踏まず側の領域は、歩行の際に大きな荷重がかかる部位であり、靴底の摩耗が比較的進行しやすい箇所である。本発明は、当該部位にスリップサインを設けることにより、靴底全体の摩耗に先立って摩耗の進行を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0036】
第2に、子趾球下部に相当する位置にスリップサインを内蔵した接地ブロックを設ける。すなわち、図示した靴底領域83は、足裏の子趾球下部によって荷重が加えられる部位であり、当該靴底領域83に1又は複数のスリップサインを設けた接地ブロック84を設ける。子趾球とは、足の小指の付け根付近にある突出部である。この子趾球部分も歩行の際に大きな荷重がかかる部位であり、靴底の摩耗が比較的進行しやすい箇所である。本発明は、当該部位にスリップサインを設けることにより、靴底全体の摩耗に先立って摩耗の進行を使用者に知覚させることができるようになっている。
第3に、踵部外方部に相当する位置にスリップサインを内蔵した接地ブロックを設ける
。すなわち、図示した靴底領域85に1又は複数のスリップサインを設けた接地ブロック86を設ける。踵は歩行時に最も大きな荷重がかかる場所であり、靴底の摩耗が進行しやすい箇所である。本発明は、当該部位にスリップサインを設けることにより、靴底全体の摩耗に先立って摩耗の進行を使用者に知覚させることができるようになっている。
【0037】
また、靴底の摩耗のしかたは、人それぞれに癖があり一様ではない。しかし、概ね上記3領域のいずれかが先行して摩耗する場合が多い。したがって、上記第1〜第4実施例記載のスリップサインを上記3領域の全て若しくは一部に配置することにより、大半の使用者に適したスリップサイン付きの靴を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、極めて滑りにくい高い耐滑性を備えた靴底および靴に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例に係る靴底の説明図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る靴底の摩耗状態を表した斜視図である。
【図3】本発明の第2実施例に係る靴底の説明図である。
【図4】本発明の第2実施例に係る靴底の摩耗状態を表した斜視図である。
【図5】本発明の第3実施例に係る靴底の説明図である。
【図6】本発明の第3実施例に係る靴底の摩耗状態を表した斜視図である。
【図7】本発明の第4実施例に係る靴底の説明図である。
【図8】本発明の第4実施例に係る靴底の摩耗状態を表した斜視図である。
【図9】本発明に係るスリップサインの配置に関する説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 靴底
2 アウトソール
3 中底
4 ミッドソール
5 接地ブロック
6 中空部
7 小径部
8 大径部
9 スリップサイン
21 靴底
22 アウトソール
23 中底
24 ミッドソール
25 接地ブロック
26 中空部
27 小径部
28 大径部
30 中実体
31 隙間
41 靴底
42 アウトソール
43 中底
44 ミッドソール
45 接地ブロック
46 円形孔
47 小径部
48 大径部
50 中実体
51 隙間
52 第1層
53 第2層
54 第3層
61 靴底
62 アウトソール
63 中底
65 接地ブロック
66 円形凹部
70 中実体
72 第1層
73 第2層
74 第3層
80 靴
81 靴底領域
82 接地ブロック
83 靴底領域
84 接地ブロック
85 靴底領域
86 接地ブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面と接する接地ブロック内に、当該接地ブロックよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設けるとともに、
当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底。
【請求項2】
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、
前記接地ブロック内に、当該接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状が変化するように形成した表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、
当該孔若しくは凹部内に、前記ミッドソールの形成時による充填物を設けたことを特徴とする靴底。
【請求項3】
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールと当該アウトソールに積層されるミッドソールを有した2層底構造の靴底であって、
前記接地ブロック内に、表裏貫通する孔若しくは表面まで貫通しない凹部を設けるとともに、
当該孔若しくは凹部内に、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化する充填物を設けたことを特徴とする靴底。
【請求項4】
床面と接する接地ブロックを形成したアウトソールを有する靴底であって、
前記接地ブロック内に表裏貫通する孔若しくは表面または裏面側から設けた凹部を設けるとともに、前記孔若しくは凹部内に前記アウトソールよりも摩耗しやすい素材によって形成した充填物を設け、
当該充填物を、接地ブロックの摩耗の進行に応じて形状、模様、色彩等の形態が変化するように形成したことを特徴とする靴底。
【請求項5】
前記充填物を設けた接地ブロックを、拇趾球下部領域、子趾球下部領域および踵部外方領域に相当する靴底面の全て若しくは何れかの領域に相当する靴底面に設けたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一項記載の靴底。
【請求項6】
請求項1記載の靴底を有する靴。
【請求項7】
請求項2記載の靴底を有する靴。
【請求項8】
請求項3記載の靴底を有する靴。
【請求項9】
請求項4記載の靴底を有する靴。
【請求項10】
請求項5記載の靴底を有する靴。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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