説明

【課題】歩行者が、歩行中、後方の足の蹴り出し時に該足の前足部の接地状態を明確に認識することができると共に、前方の足で体重を受けている際に、該足の膝を曲げることなく直立姿勢を意識的にとりやすい靴を提供する。
【解決手段】靴1の底面の前足部対応部分に、突出高1.5mm〜3mmの第1凸部12及び第2凸部13を設け、使用者が歩行時に後方の足を蹴り出す直前に、該後方の足裏から第1及び第2凸部12、13の存在を明確に認識することができるようにする。また、靴底面から下方に突出する踵部20を設け、該踵部20の底の面積を、靴本体踵対応部分の面積に比べて若干縮小させることで、前方の足で体重を受ける際に、該足の膝が曲がるような場合、姿勢が不安定になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢良く歩行するために使用する靴に関する。
【背景技術】
【0002】
猫背や反り腰等の極端に悪い姿勢のみならず一般的な歩行姿勢で歩き続けた場合でさえ、長期的に体に歪みが生じ、腰痛、肩こり、膝関節障害等、様々な整形外科的障害の原因となり得ることが分かっている。そのため、現在、上記障害を引き起こすことのない姿勢(本明細書中、このような姿勢を「美しい(歩行)姿勢」という。)での歩行が奨励されている。
【0003】
美しい歩行姿勢では、歩行中の前方の足(以下「前足」ともいう。)の踵が床面に接地した時点で(図4右側参照)、上半身の背筋が伸びて上半身の軸(背骨)が床面に対して垂直となり、かつ前後の足がまっすぐ伸びて、上半身の軸と前後の足の軸とが側方から見てほぼ二等辺三角形となっている。更に、この三角形の頂点付近に来る体の重心(もしくは腰)の高さと顔の高さが歩行中に上下せずほぼ一定に保たれる。これに対して、一般的な歩行では(図4左側参照)、前足の踵が床面に接地した時点で、後方の足(以下「後足」ともいう。)の膝が曲がり、また上半身が後方にわずかに倒れて、上記のような二等辺三角形はできない。
【0004】
美しい姿勢ではまた、前足の足裏全体が接地した時点で(図5右側参照)、後方の蹴り出し中の足の前足部がまだ接地した状態であるのに対し、一般の姿勢では(図5左側参照)、この時点で、後足が床面から離れようとしており、爪先のみが接するか接しない状態となっている。
【0005】
更にまた、後足が床面から離れて前足に体重が載った際、美しい姿勢では(図6右側参照)、前足と上半身が一直線状になって重心が前足の軸にかかるのに対し、一般の姿勢では(図6左側参照)、前足の膝が曲がり、重心が前足踵部を通る、床面に対する垂線上から後方にずれ、歩行時に重心(及び顔)の位置が上下してしまう。この前足の膝が曲がる原因は、一般歩行姿勢での後足の蹴り出し時間が美しい姿勢に比べて短く、腰(上半身)を前方へ押し出す力が弱くなるためであると考えられる。
【0006】
従って、美しい姿勢で歩行するためには、後方の足を蹴り出す際に該足裏の前足部を床面にわずかに長めに接地することと、前方の足裏全体が接地して該足に体重が載っている際に、前足の膝を曲げずに、体の重心が前足踵部を通る、床面からの垂線上に来るように直立姿勢をとることが必要がある。
【0007】
しかしながら、従来のウォーキングシューズでは、安定して長時間楽に歩行できるようにする観点から靴底接地面が爪先から踵までほぼ平坦とされている。そのため、後足の蹴り出し時に前足部を意図的にわずかに長めに接地させるようにしても、この接地状態を歩行者が明確に認識できないため、このような蹴り出し方を長時間意識し続けることが難しく、また、靴の接地面が平坦で安定しているため、逆に、膝が多少曲がっても歩行が不安定になるようなことはなくこれを許容してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に着目してなされたもので、その目的は、歩行者が、歩行中、後方の足の蹴り出し時に該足の前足部の接地状態を明確に認識することができる靴を提供することにある。
【0009】
本発明の別の目的は、歩行時に前方の足で体重を受けている際に、該足の膝を曲げることなく直立姿勢を意識的にとりやすい靴を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記課題を解決するため、靴の底面の前足部対応部分に、使用者が歩行時に後方の足を蹴り出す直前に、該後方の足裏からその存在を認識することができる少なくとも一つの下方に突出する凸部を備えたことを特徴とする靴が提供される。
【0011】
本発明では、靴の底面の前足部対応部分に少なくとも一つの下方に突出する凸部を設け、この凸部を、歩行者は、歩行中、靴で小石等の異物を踏んだ場合のように、靴の底部及び足裏を介して明確に認識することができる。更に詳しくは、凸部頂部が歩行面(地面もしくは床面)と接した際、靴の接地底面における凸部基端部周囲には歩行面と接触しない部分が生じ、この凸部付近の接触及び非接触部分の段差が靴底上面に現れ、これを歩行者が足裏で感じることができる。これにより、使用者は、歩行時の後方の足を蹴り出す直前に該靴の前足部対応部分の接地状態を明確に認識することができるため、蹴り出し時に後足靴の前足部対応部分を意識的に歩行面にわずかに長めに接地することが容易になり、更に、この歩行動作を歩行中ずっと続けることも容易となる。
【0012】
使用者が歩行時に凸部を認識するための上記凸部付近の接触及び非接触部分の段差は、靴の底面及び凸部をなす材料の硬度が低すぎると、不明確になるおそれがあるため、靴の底面及び凸部の材質としては、硬度(ショアA硬度)が約55〜75度程度の合成ゴム、天然ゴム、合成樹脂(ウレタンやナイロン等)、発泡合成樹脂(発泡ウレタン)等を好ましく使用することができる。なお、硬度が75度を超えると、靴底が固くなり、屈曲性が悪くなったり、あるいは摩擦係数が小さくなり、滑りやすくなる等の問題が生じ得る。
【0013】
本発明中、「前足部対応部分」とは、靴の底面における、足裏の土踏まずよりも前方の部分に対応する部分をいう。なお、凸部が一つの場合、該凸部は、該前足部対応部分の範囲のうち、母指球と小指球との間の屈曲部に対応する部分に設けることが望ましく、更に凸部をもう一つ加える場合、該二つ目の凸部は、上記屈曲部対応部分よりも前に設けることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記凸部の前記底面からの突出高が1.5mm〜3mmであることが望ましい。突出高が1.5mm未満の場合、使用者が歩行時に凸部を認識しづらくなり、他方、3mmを超えると、靴接地底面における上述した凸部周囲の接触及び非接触部分の段差が大きくなりすぎて、歩行の妨げとなるおそれがある。
【0015】
本発明では、靴が前記底面から下方に突出する踵部を備え、該踵部の底の面積を、前記底面の踵部対応部分の面積に比べて縮小させることができる。すなわち、歩行時に歩行面に接する靴の踵部の面積を、該踵部の基端の靴底面における土踏まずより後方の踵部対応部分(図2の直線Bと曲線Cとで囲まれた部分)の面積よりも小さくすることにより、踵部の安定感を若干低減するようにし、歩行時に後方の足を蹴り出して前方の足で体重を受ける際、膝が曲がるような悪い姿勢をとると姿勢を保ちにくくなるようにする。これにより、前足に体重がかかる際に意識的に美しい姿勢をとりやすくなる。なお、踵部接地面積を縮小しすぎると、不安定になりすぎて歩行に支障を来すため、縮小割合の上限を30%程度にすることが望ましい。また、踵部の突出高は5〜15mm程度が好ましいが、これに限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1及び図2は、本発明に係る靴1の側面図及び底面図であり、図3は、図2のA−A線に沿うアウトソール11の縦断面図である。
【0017】
靴1は、歩行姿勢矯正用のウォーキングシューズであり、底部10と、底部10に接合された甲被2とから基本的に構成され、使用時に靴紐で締め付ける型式のものである。底部10は、地面もしくは床面に接するアウトソール11(図3)と、アウトソール11上に積層されるミッドソール(図示せず)と、この上に積層されるインソール(図示せず)とからなる。
【0018】
靴1のアウトソール11の底面(以下「ソール底面」ともいう。)の前方には、該底面から下方に突出する二つの凸部、すなわち第1凸部12と第2凸部13とが設けられている。各凸部12、13のソール底面からの突出高は、1.5mm〜3mmとされるが、第2凸部13の突出高が第1凸部12よりもわずかに低くなっている。第1及び第2凸部12、13それぞれのソール底面における基端形状は、図2に示すように、左右に長い長円であり、第2凸部13の長円は第1凸部12のそれの約2/3程度の大きさとなる。第1凸部12の長円は、足裏前足部における母指球から小子球にかけての屈曲部に対応する部分にあり、第2凸部13の長円は、第1凸部12がある上記屈曲部よりも若干前にある。また、各凸部12、13の縦断面は部分円(円弧)状となる。なお、図2の参照番号14は、ソール底面に描いた長円形状の平面デザインであり、ソール底面から凸となるものではない。また、アウトソール11と凸部12、13は、ショアA硬度が約55〜75度の同一の合成ゴムから一体に成形される(図3参照)。
【0019】
アウトソール11の底面後方(ソール後底面11’)には、該後底面11’から下方に突出する踵部20が設けられている。なお、該後底面11’は、踵部20との接合のため凹状にされ、前方のソール底面の延長面(破線D参照)よりも若干上方にあってソール11が薄くされている。踵部20の後底面11’からの突出高は約5〜15mmである。踵部20は、ソール後底面11’に接合した圧縮EVA製の基部21と、基部21の底に接合した環状の合成ゴム製の接地部22とからなる。基部21は、ショアC硬度約50〜75度であり、接地部22は、ショアA硬度約55〜75度であり、基部21からの突出高が0.5〜5mmとされる。参照番号23は、環状の接地部22の中央開放部であり、ここから基部21が見える。
【0020】
図2を参照して、踵部20の接地部22の底面領域(中央部23を含む、接地部22のほぼ玉子形外郭線22’で囲まれる面積(P))は、ソール底面の踵部対応部分の全体領域(直線Bより後方(図において右方)の部分であって、直線線Bと甲被後部の外郭線Cとで囲まれる面積(W))に比べて縮小されている。換言すれば、接地部22の底面外郭線22’は、線Bと外郭線Cよりも内側に存在している。これは、詳細は後述するように踵部20の安定性を若干落とすためであるが、この安定性を落としすぎると、歩行に支障を来すため、好ましい、縮小割合((W−P)/W)は、約5〜30%、特に約20〜30%程度が望ましと考えられ、5%未満では、従来のウォーキングシューズとほぼ同様の安定感となり、後述する直立姿勢を意識しづらいと考えられる。
【0021】
以上の靴1では、ソール底面における第1及び第2凸部12、13の存在を歩行時に使用者が足裏から認識することができるため、後方の足を蹴り出す際に(図5参照)、靴1の前足部対応部分が接地状態にあることを、該凸部12、13の存在の認識を通じて明確に把握することができる。これにより、蹴り出し時に後足の靴1の前足部対応部分を意識的にわずかに長めに接地させて美しい歩行姿勢をとることを容易にすると共に、このような蹴り出し方を歩行中ずっと保ち続けることも容易となる。
【0022】
また、踵部20の接地領域が上述したように縮小されているため、歩行時あるいは歩行前の直立姿勢時において、重心が踵部20を通る、地面に対する垂線上から外れずと、該直立姿勢を保ち難くなり、逆に、重心が踵部20を通る垂線上にあると、該直立姿勢が非常に安定する。そのため、特に後足を蹴り出して前足で体重を受ける際(図6参照)、前足の膝が曲がったりすると、重心が上記垂線から外れ、前足で直立姿勢を維持しにくくなるため、歩行者は、この際、前足の靴1の踵部20により、直立姿勢を安定して維持できるように、前足の膝を曲げることなく、意識的に背筋を伸ばして重心が上記垂線上に来るように心がけ易くなる。そのため、靴1での歩行では、重心位置が上下せずに円滑に移動して、美しい姿勢での方向を長時間保ち易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る靴の側面図である。
【図2】本発明に係る靴の底面図である。
【図3】図2のA−Aに沿う、踵部を含むアウトソールの縦断面図である。
【図4】一般的な歩行姿勢と美しい歩行姿勢とを比較した図面代用写真である。
【図5】一般的な歩行姿勢と美しい歩行姿勢とを比較した図面代用写真である。
【図6】一般的な歩行姿勢と美しい歩行姿勢とを比較した図面代用写真である。
【符号の説明】
【0024】
1 靴
2 甲被
10 底部
11 アウトソール
12 第1凸部
13 第2凸部
20 踵部
21 基部
22 接地部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴の底面の前足部対応部分に、使用者が歩行時に後方の足を蹴り出す直前に、該後方の足裏からその存在を認識することができる少なくとも一つの下方に突出する凸部を備えたことを特徴とする靴。
【請求項2】
前記凸部の前記底面からの突出高は、1.5mm〜3mmである請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記凸部は、第1の凸部と、第1の凸部の前方の第2の凸部との二つからなる請求項1又は2に記載の靴。
【請求項4】
前記底面から下方に突出する踵部を備え、該踵部の底の面積は、前記底面の踵部対応部分の面積に比べて縮小する請求項1〜3のいずれか一に記載の靴。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−330469(P2007−330469A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165130(P2006−165130)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(592132442)株式会社ニューバランスジャパン (3)
【Fターム(参考)】