説明

音場可視化システム

【課題】音響空間内に放射される音の伝播状態を手軽に可視化することができるようにする。
【解決手段】発光部と、マイクロホンと、ストローブ信号に同期させて前記マイクロホンの出力信号の瞬時値をサンプルホールドし、サンプルホールドされた瞬時値に応じた輝度で発光部を発光させる発光制御部とを各々が有する複数の音/光変換器をマトリクス状に配列して音/光変換器アレイを構成する。この音/光変換器アレイを音響空間内に配置すするとともに、各音/光変換器を制御装置に接続し、上記複数の音/光変による可視化の対象となる音の発音に同期させてストローブ信号を生成して出力する処理を当該制御装置に実行させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場を可視化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より音場を可視化する技術が種々提案されている(例えば、非特許文献1および2参照)。非特許文献1には、1つのマイクロホンを音響空間内で上下、左右に移動させて複数の場所の各々における音圧をシーケンシャルに計測し、LED(Light Emitting Diode)等の発光体をその音圧に応じた輝度で発光させることで音場を可視化することが記載されている。一方、非特許文献2には、可視化対象の音が放射される音響空間内に複数のマイクロホンを配置して音圧を計測させ、その計測結果をコンピュータ装置で集計し、その音響空間における音圧分布をグラフ化して表示装置に表示させることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】西田公至、丸山 朗、“発光ダイオードを用いた音場の可視化測定法”、日本機械学会論文集(C編)51巻461号(1985年)
【非特許文献2】水野恵一郎、“騒音の可視化”、騒音制御:Vol.22,No.1(1999)pp20-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
音場を可視化する技術は、例えば鉄道車両の社内や航空機の機内の騒音分布を把握し騒音対策を行う際に重要な役割を果たす。しかしながら、音場を可視化する技術の有効性が期待される用途は、鉄道車両の車内や航空機の機内へ伝わる騒音の解析や低減への利用に限られるものではない。近年では、より心地よい受聴音の制御への音場可視化技術の有効性が期待されている。例えば、ホームシアターなどに代表される高性能な家庭用オーディオ機器の普及に伴い、それらオーディオ機器の配置やゲイン等の調整に音場の可視化技術を利用したいといったニーズが高まっており、音の可視化技術によればそのようなニーズに応えることができると期待される。何故ならば、リビングなどの音響空間内に放射される音の音圧分布やその移り変わり(すなわち、音波の伝播状態)を可視することができれば、その伝播状態を視覚を通じて確認しつつ、所望の伝播状態が得られるようにオーディオ機器の配置位置やゲイン等を適宜調整することが可能になり、オーディオに関する専門知識を持たないエンドユーザであっても、オーディオ機器の配置位置等の最適化を手軽に行えるようになると期待されるからである。また、会議室や楽器練習室などの音響空間においてフラッターエコーやブーミングと呼ばれるような音響障害を低減するような用途への適用も期待されている。さらに、楽器やスピーカ等の発音体の製品テスト(例えば、楽器がその設計通りに音を奏でているか否かのテスト)や設計補助、または商品の音響性能をエンドユーザに伝える為の手段としての音場の可視化技術の有効性も期待されている。
【0005】
しかし、非特許文献1に開示された技術では、1つのマイクロホンを音響空間内を移動させてシーケンシャルに音圧の計測を行うため、同一時刻における複数の場所の音圧を同時に可視化することはできない(つまり、音響空間内の音圧分布を可視化することはできない)。一方、非特許文献2に開示された技術では、音響空間における音の瞬時的な伝播状態を可視化することができるものの、各マイクロホンにより計測される音圧の集計およびグラフ化を行うコンピュータ装置が必要になり、大掛かりなシステムとなってしまう。このため、家庭で手軽に利用することができない、といった問題がある。また、非特許文献2に開示された技術のように、複数のマイクロホン(或いは、複数のマイクロホンにより構成されるマイクロホンアレイ)を用いて音場の可視化する技術には、システム全体が複雑になるといった問題に加えて、マイクロホンの設置による音場への影響(マイクロホンアレイの本体が与える影響やマイクロホンアレイと信号処理装置との間の配線が与える影響)が大きいといった問題、各マイクロホンの配置位置を表す位置情報を別の方法で取得する必要があるといった問題、一度決めたチャネル数の拡張が難しいといった問題、さらには、マイクロホンで収録した結果を別の表示装置に表示させる必要があるため、位置情報の同時性とリアルタイム性を失い直感的に音場を可視化できないといった問題もある。
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであり、音響空間に放射される音の伝播状態を手軽に可視化することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、マイクロホンと、発光部と、ストローブ信号に同期させて前記マイクロホンの出力信号の瞬時値を取得し、当該瞬時値に応じた輝度で前記発光部を発光させる発光制御部と、を含む音/光変換器を複数有するとともに、前記複数の音/光変換器による可視化の対象となる音の発音に同期させて前記ストローブ信号を生成して出力する制御装置を有することを特徴とする音場可視化システムを提供する。
【0007】
可視化対象の音が放射される音響空間内の互いに異なる位置に上記複数の音/光変換器を設置しておけば、可視化対象の音の発音に同期させて上記制御装置から出力されるストローブ信号に同期させてマイクロホンの出力信号の瞬時値を取得し、その瞬時値に応じた輝度で発光部を発光させる処理が各音/光変換器によって実行される。このため、上記ストローブ信号として矩形波信号を用い、前記複数の音/光変換器の各々に含まれる発行制御部には、ストローブ信号の立上がり、または立下りに同期させてマイクロホンの出力信号の瞬時値を取得させるとともに、前記制御装置には、前記ストローブ信号の立上げ周期を利用者の操作に応じて、または時間の経過とともに変化させるようにすれば、上記音響空間内における可視化対象の音の音圧分布およびその時間変化を視覚を通じて利用者に把握させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の音場可視化システム1Aの構成例を示す図である。
【図2】音/光変換器10(k)の構成例を示す図である。
【図3】音場可視化システム1Aに含まれる制御装置20の動作を説明するための図である。
【図4】同制御装置20から出力されるストローブ信号SSの出力態様を説明するための図である。
【図5】同制御装置20から出力されるストローブ信号SSの出力態様を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態を説明するための図である。
【図7】本発明の第3実施形態の音/光変換器30(k)を含む音場可視化システム1Bの構成例を示す図である。
【図8】同音/光変換器30(k)の構成例を示す図である。
【図9】同音場可視化システム1Bの使用例を説明するための図である。
【図10】本発明の第4実施形態の音/光変換器40を含む音場可視化システム1Cの構成例を示す図である。
【図11】同音/光変換器40の構成例を示す図である。
【図12】本発明の第5実施形態の音/光変換器50の構成例を示す図である。
【図13】本発明の第6実施形態の音/光変換器60の構成例を示す図である。
【図14】同音/光変換器60の変形例を示す図である。
【図15】本発明の第7実施形態の音/光変換器70の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(A:第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態の音場可視化システム1Aの構成例を示すブロック図である。図1に示すように、音場可視化システム1Aは、音/光変換器アレイ100、制御装置20、および音源3を含んでいる。音場可視化システム1Aを構成する音/光変換器アレイ100、制御装置20、および音源3は、例えばホームシアターが設置されるリビングルームなどの音響空間に設置される。この音場可視化システム1Aでは、制御装置20による制御の下で音源3に音波を放射させ、当該音波の特定の波面の伝搬状態が音/光変換器アレイ100によって可視化される。
【0010】
音/光変換器アレイ100は、音/光変換器10(k:k=1〜N,Nは2以上の整数)をマトリクス状に配列して構成される。音/光変換器アレイ100を構成する各音/光変換器10(k)には、制御装置20からストローブ信号SS(本実施形態では、矩形波信号)が供給される。音/光変換器10(k)の各々は、ストローブ信号SSの立上がりに同期させてその配置位置におけるその時点の音圧の瞬時値を計測し、次にストローブ信号SSが立上がるまで、当該瞬時値に応じた輝度の光を放射する処理を実行する。なお、本実施形態では、ストローブ信号SSの立上がりに同期させて音圧の計測等を行わせる場合について説明するが、ストローブ信号SSの立下がりに同期させてそれらの処理を実行させるようにしても勿論良く、ストローブ信号SSの立上がり(或いは立下り)以外の任意のタイミングに同期させて音圧を計測するようにしても良い。例えば、ストローブ信号SSとして矩形波信号を用いる場合には、予め定めた波形パターン(例えば、0101など)が現れたこと契機として音圧の計測を行う、といった具合である。また、本実施形態では、ストローブ信号SSとして矩形波信号を用いるが、三角波信号や正弦波信号をストローブ信号SSとして用いても勿論良い。
【0011】
図2は、音/光変換器10(k)の構成例を示すブロック図である。図2に示すように、音/光変換器10(k)は、マイクロホン110、発光制御部120、および発光部130を有している。図2では詳細な図示は省略したが、音/光変換器10(k)は、図2に示す各構成要素を一辺が1cm程の基板に集積されて構成されている(他の実施形態の音/光変換器についても同様)。マイクロホン110は、例えばMEMS(Micro Electro Mechanical
Systems)マイクロホンや小型ECM(Electret Condenser Microphone)であり、収音した音の波形を表す音信号を出力する。発光制御部120は、図2に示すように、サンプルホールド回路122と電圧電流変換回路124を含んでいる。これらサンプルホールド回路122および電圧電流変換回路124としては周知の構成のものを用いるようにすれば良い。サンプルホールド回路122は、ストローブ信号SSの立上がりを契機として、マイクロホン110から出力される音信号のサンプリングを行い、サンプリングされた瞬時値(電圧)を次にストローブ信号SSが立上がるまで保持するとともに、その電圧を電圧電流変換回路124に印加する。なお、ストローブ信号SSの立下がりに同期させて音圧の計測を行う態様の場合には、ストローブ信号SSの立下がりを契機として、マイクロホン110から出力される音信号をサンプリングし、次にストローブ信号SSが立下がるまでそのサンプリング結果を保持する処理をサンプルホールド回路122に実行させるようにすれば良い。音信号のサンプリングをストローブ信号SSの立上がりを契機として行うのか、それともストローブ信号SSの立下りを契機として行うのかについては音/光変換器アレイ100の工場出荷時点等で予め定めておけば良い。
【0012】
電圧電流変換回路124は、サンプルホールド回路122から印加される電圧に比例した電流値の電流を発生させ、発光部130に与える。発光部130は、例えば可視光LEDであり、電圧電流変換回路124から与えられる電流の大きさに応じた輝度の可視光を放射する。音場可視化システム1Aの利用者は、音/光変換器アレイ100における各音/光変換器10(k)の発光部130の発光輝度の分布やその時間変化を目視することによって、音源3から放射された音波の特定の波面の伝播状態を視覚を通じて把握することができるのである。
【0013】
制御装置20は、信号線などによって音/光変換器10(k)の各々と音源3に接続されており、音/光変換器10(k)および音源3の作動制御を行う装置である。制御装置20は、図示せぬ操作部に対して作動開始を指示する旨の操作が成されると、音源3を駆動するための駆動信号MSを出力し、さらに、駆動信号MSの出力に同期させてストローブ信号SSを出力する(立上げる)。なお、本実施形態では、ストローブ信号SSを立上げることで各音/光変換器10(k)に音圧の瞬時値のサンプリングを指示する場合について説明するが、ストローブ信号SSを立下げることで各音/光変換器10(k)に音圧の瞬時値のサンプリングを指示するようにしても勿論良い。
【0014】
駆動信号MSに応じてどのような音を音源3に放音させるのかについては種々の態様が考えられる。例えば、定常的な音を可視化対象とする場合には、図3(a)に示すような正弦波により音波形が表される音を音源3に放音させ続けるようにすれば良い。また、バースト的な音を可視化対象とする場合には、図3(b)に示すように、制御装置20には駆動信号MSを一定周期(図3(b)では、図3(a)に示す正弦波信号と同一の周期Tfを有する場合について例示されているが、当該正弦波信号の周期とは異なる周期であっても勿論良い)毎に出力させる一方、音源3には駆動信号MSが与えられたことを契機として時間長Ts(Ts<Tf)に亘って音を放射させ、時間Tsが経過した以降は後続の駆動信号MSが与えられるまで放音を停止させるようにすれば良い。なお、図3(b)に示すようにバースト的な音を順次放音させる態様においては、可視化対象の音が放射される音響空間における残響によって先に放射した音の波面が誤って可視化されることを避けるため、有音区間Tsにおいて音源3から出力された音波のエネルギーが時間長Tf−Tsの無音区間内に充分に減衰するように有音区間の時間長Tsおよび駆動信号MSの出力周期(図3(b)に示す例では、Tf)を定めておく必要がある。また、バースト的な音に換えてパルス的な音を用いるようにしても良い。
【0015】
本実施形態の特徴は、駆動信号MSの出力に同期させて制御装置20にストローブ信号SSを出力させるようにした点にある。ここで、ストローブ信号SSの出力態様およびストローブ信号SSの出力と駆動信号MSの出力との同期のさせ方については種々の態様が考えられる。具体的には、図4(a)に示すように、駆動信号MSの出力に同期させて一回だけストローブ信号SSを立上げる態様と、図4(b)および図4(c)に示すように、複数回に亘ってストローブ信号SSを立上げる態様とが考えられる。
【0016】
図4(a)には、音源3に定常的な音(音波形が周期Tfの正弦波で表される音)を放射させる駆動信号MSの出力を開始した時点から時間Tdが経過したときに一回だけストローブ信号SSを立上げる場合について例示されている。このような態様によれば、各音/光変換器10(k)では、駆動信号MSの出力から時間Tdが経過した時点の音圧の瞬時値がサンプリングされ、そのサンプリング結果に応じた輝度で発光部130を発光させる。これにより、可視化対象の音波についての放音開始から時間Tdだけ経過した時点の瞬間的な音圧分布を各音/光変換器10(k)の発光部130の発光輝度の分布により表す映像(スチル画のような映像)が観測者の眼に映るのである。
【0017】
図4(b)および図4(c)には、音源3に定常的な音を放射させる場合において、ストローブ信号SSを複数回立上げる場合について例示されている。より詳細に説明すると、図4(b)には、ストローブ信号SSを一定周期(図4(b)では、可視化対象の音の周期と同一の周期)で立上げる場合について例示されており、図4(c)には、ストローブ信号SSを立上げる時間間隔を徐々に長くする場合について例示されている。図4(b)に示すように、ストローブ信号SSとして可視化対象の音の周期と同一周期の信号を用いると、ストローブ信号SSが立上がる毎に上述したスチル画のような映像が得られることになる。これに対して、ストローブ信号SSの周期と可視化対象の音の周期とが一致していない場合には、音速で伝播する波面の伝搬状態を肉眼で観察可能なフレームレートに落として可視化することができる。例えば、可視化対象の音波の周波数fobs(=1/Tf)が500Hzである場合には、ストローブ信号SSとして周波数fstr(=1/Tss)=499Hzの信号を用いることにより、各音/光変換器10(k)の発光部130をfobs−fstr=1Hzの周波数で明滅させることができ、各音/光変換器10(k)の発光部130の明滅の様子を肉眼で把握することが可能になる。この場合、音速V=340m/sとすると、見かけの音速V´=V×(fobs−fstr)/fobs=68cm/sとなり、時間軸を500倍に伸張したように観測される。つまり、可視化対象の音の周波数fobsとストローブ信号SSの周波数fstrとの差分を適宜調整することによって、可視化対象の音波の伝搬状態を時間軸を適宜伸張して観測することが可能になるのである。
【0018】
図4(c)に示すように、ストローブ信号SSを立上げる時間間隔を一定としない態様においては、互いに隣あうサンプリングタイミングにおいて位相がずれた状態で音圧の瞬時値のサンプリングが行われ、各サンプリングタイミングにおける発光部130の発光輝度は当該位相のずれに応じて異なったものとなる。例えば、図4(c)に示すようにストローブ信号SSの立上げ間隔を一定量ΔTずつ長くする(換言すれば、Td(1)→Td(2)=Td(1)+ΔT→Td(3)=Td(2)+ΔT・・・といった具合に遅延時間Tdを一定量ΔTずつ長くする)態様では、観測者の眼にはフレーム毎に各音/光変換器10(k)の発光輝度が変化する動画のように映り、音源3から音響空間内に放射された音波の伝播状態を速度ΔTのスローモーションのように表すことができる。このように、ストローブ信号SSの立上げ間隔Tss(k)(或いは遅延時間Td(k):kは自然数)を適宜調整することによっても、可視化対象の音波の伝搬状態を時間軸を適宜伸張して観測することが可能になるのである。
【0019】
図5は、可視化対象の音がバースト的な音(図3(b)参照)である場合のストローブ信号SSの出力態様を説明するための図である。より詳細に説明すると、図5(a)には、図4(b)に示す場合と同様に、駆動信号MSの出力開始から時間Tdだけ経過した時点から一定周期(駆動信号MSの出力周期Tfと同一の周期)でストローブ信号SSを立上げる場合について例示されている。図5(a)に示す態様においては、図4(b)に示す場合と同様に、常に同じ位相において音圧の瞬時値がサンプリングされ、各サンプリングタイミングにおける音/光変換器10(k)の発光部130の発光輝度は同じになる。つまり、図5(a)に示す態様においては、バースト的な音波の特定の波面の音圧分布を表すスチル画がストローブ信号SSの立上がりタイミング毎に得られるのである。なお、ストローブ信号SSを一回だけ立上げる場合には、可視化対象の音波の特定の波面の当該立上げタイミングにおける音圧分布を表すスチル画が得られることは前掲図4(a)の場合と同様である。
【0020】
図5(b)には、図4(c)における場合と同様に、ストローブ信号SSの立上げ周期を一定としない場合(図5(b)に示す態様では、一定量ΔTずつ長くする場合)について例示されている。図5(b)に示す態様においては、図4(c)に示す態様と同様に、互いに隣あうサンプリングタイミングにおいて時間ΔTに応じた分だけ位相がずれた状態で音の瞬時値のサンプリングが行われる。このため、例えば、駆動信号MSの出力周期Tfを一般的な動画のフレームレートと同じ1/30としておけば、観測者の眼には1秒あたり30コマのフレーム毎に各音/光変換器10(k)の発光輝度が変化する動画のように映り、音源3から音響空間内に放射されるバースト的な音波の特定の波面の伝搬状態(当該波面が波紋のように広がりつつ通り過ぎる様子)を上記観測者に視覚的に把握させることができるのである。なお、1秒あたりのコマ(フレーム)数が30よりも多くても良いことは言うまでもない。
【0021】
また、Td(1)=LL/Vと定めておき、制御装置20に設けられた操作子に対する操作によって、Td(k)(k=2以上の自然数)が所定の時間区間Tr(駆動信号MSの出力開始から時間Tdが経過した時点を始点とし、駆動信号MSの出力開始から有音区間Tsの終端を終点とする時間区間)内に収まるように観測者に適宜調整させるようにすれば、音源3から距離LLだけ離れた位置に到達した瞬間付近の波面の伝播状態を進ませたり遅らせたりして観測させることができる。また、図5(c)に示すように、駆動信号MSに応じてバースト的な音波を出力する際の位相を手動または自動で変化させるようにしても同様の効果が得られる。図5(c)に示すように、駆動信号MSに応じてバースト的な音波を出力する際の位相を変動させる態様においては、サンプルホールド回路122の時間分解能の細かさに限界がある場合であっても、制御装置20側で上記位相を細かく制御することができるのであれば、より細かい時間分解能でバースト的な音波の波面の伝搬状態を可視化することが可能になる、といった効果が得られる。
【0022】
このように、本実施形態によれば、可視化対象の音が定常的な音であるのか、それとも、バースト的な音であるのかによらず、音響空間内に設置される音/光変換器10(k)の各々の発光部130の発光輝度の空間分布(或いは、当該空間分布の時間変化)によって当該可視化対象の音の伝播状態を観測者に視覚的に把握させることが可能になるのである。
【0023】
また、本実施形態の音場可視化システム1Aには、各音/光変換器10(k)によって計測される音圧を集計するコンピュータ装置は含まれておらず、ストローブ信号SSの立上げ間隔(または、遅延時間Td(k))を適宜調整することによって可視化対象の音波の伝搬状態を時間軸を適宜伸張して観測することができるため、高速度カメラ等も不要である。このため、家庭等における個人ユースにも適し、リビングなどに配置されるオーディオ機器等からそのリビング内に放音される音の特定の波面の伝播状態を手軽に可視化することが可能になり、それらオーディオ機器の配置位置やゲイン、スピーカバランスの調整に活用することができると期待される。
【0024】
さらに、本実施形態では、駆動信号MSの出力に同期させてストローブ信号SSを制御装置20に出力させるため、駆動信号MSに応じて音源3が放射する音の波面を精度良くサンプリングすることが可能になり、当該音波の伝播状態の再現精度も向上するといった効果が得られる。また、駆動信号MS(すなわち、可視化対象の音の放音開始を音源3に指示するための信号)とストローブ信号SSとの対応も明確であるため、各音/光変換器10(k)に位相差を判別する機構(例えばPLL)やトリガー発生器を組み込んでおく必要もない。
【0025】
(B:第2実施形態)
上述した第1実施形態では、複数の音/光変換器10(k)をマトリクス状に配列して音/光変換器アレイ100を構成したが、音場可視化システム1Aに含まれる複数の音光変換器10(k)の各々を音響空間内の互いに異なる位置に配置して音源3から放射される音波の伝播状態を可視化しても良い。ここで、各音/光変換器10(k)の配置の仕方には種々の態様が考えられる。以下、図6(a)〜(c)を参照しつつ音/光変換器10(k)の具体的な配置態様について説明する。
【0026】
図6(a)〜(c)は、音場可視化システム1Aが配置された音響空間2をその天井方向から見た俯瞰図である。図6(a)には、音源3と音/光変換器10(k)の各々とを同一平面(例えば、音響空間2の床面)上で一直線に並べる態様(以下、一次元的な配置態様)が例示されており、図6(b)および(c)には、音源3と音/光変換器10(k)の各々とを同一平面上には並べるものの、全ての音/光変換器10(k)が一直線上には並ばないように配置する態様(以下、二次元的な配置態様)が例示されている。また、音/光変換器10(k)を三次元的に配置する(例えば、音響空間2が立方体状であれば、その音響空間2の床および天井の各々の4隅の合計8箇所に配置する等)態様であっても良い。要は、可視化を所望する音の音源の方向、音響空間2の形状や大きさに応じて一次元的、二次元的および三次元的な配置態様のうちから適切なものを選択して音/光変換器10(k)を配置すれば良い。
【0027】
音源3および各音/光変換器10(k)の配置を終えると、音場可視化システム1Aの利用者は音源3および各音/光変換器10(k)を通信線等により制御装置20に接続し、制御装置20に対して駆動信号MSの出力を指示する操作を行う。制御装置20は、利用者によって与えられた指示に応じて駆動信号MSの出力を開始するとともに、駆動信号MSの出力に同期させて(例えば、図4(b)または図5(a)の出力態様等により)ストローブ信号SSの出力を開始する。すると、各音/光変換器10(k)は、ストローブ信号SSの立上がりに同期させて各々の配置位置における音圧をサンプリングし、その音圧に応じた輝度で発光部130を発光させる。例えば、図6(a)に示すように、音源3からの距離が音/光変換器10(1)→音/光変換器10(2)→音/光変換器10(3)の順に遠ざかるように音/光変換器10(k)を一次元的に配置すると、音/光変換器10(1)、10(2)および10(3)の各々の発光部130は、ストローブ信号SSの最初の立上がりの時点で音源3からの距離に応じて異なる輝度で発光し、その後、ストローブ信号SSが立上がる毎に各々の発光輝度が順次変化して行く。音場可視化システム1Aの利用者は、図6(a)に示すように配置された各音/光変換器10(k)の発光部130の発光輝度の時間変化を観測することによって、音源3から音響空間2へ放射される音波の伝播状態を視覚を通じて直感的に把握することができるのである。
【0028】
(C:第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態の音/光変換器30(k)を含む音場可視化システム1Bの構成例を示す図である。この音場可視化システム1Bは、まず、音/光変換器10(k)に換えて音/光変換器30(k)を有している点が異なる。また、図7を参照すれば明らかように、音/光変換器30(1)は制御装置20からストローブ信号SSを受け取り、音/光変換器30(k:k=2〜N)は音/光変換器30(k−1)からストローブ信号SSを受け取るように、制御装置20および音/光変換器30(k)が所謂デイジーチェーン方式で接続されている点が音場可視化システム1Aと異なる。以下、第2実施形態との相違点である音/光変換器30(k)を中心に説明する。
【0029】
図8(a)は、音/光変換器30(k)の構成例を示す図である。図8(a)と図2を対比すれば明らかように、音/光変換器30(k)は、ストローブ信号転送制御部140を有する点が音/光変換器10(k)と異なる。図8(a)に示すように、ストローブ信号転送制御部140は、外部から与えられるストローブ信号SSを発光制御部120に与えるとともに、遅延手段142を介して後段装置(本実施形態では、他の音/光変換器30(k))に転送する。遅延手段142は、例えば複数段のシフトレジスタからなり、与えられたストローブ信号SSをそのシフトレジスタの段数に応じた分だけ遅延させて出力する。
【0030】
図8(a)には、外部から受け取ったストローブ信号SSを一台の後段装置へ転送する構成が例示されているが、複数台の後段装置に転送することも可能である。例えば、2台の後段装置へストローブ信号SSを転送する場合には、図8(b)に示すように、ストローブ信号転送制御部140に2つの遅延手段(142aおよび142b)を設け、外部から音/光変換器30(k)に与えられるストローブ信号SSを3つに分流し、その一つを発光制御部120に与えるとともに、他の2つを各々遅延手段142aおよび142bを介して各々異なる後段装置に転送する処理をストローブ信号転送制御部140に実行させるようにすれば良い。
【0031】
例えば、音/光変換器30(k)を図9(a)に示すように一次元的に、或いは図9(b)に示すようにマトリクス状に配置する必要がある場合には、図8(a)に示す構成の音/光変換器30(k)で音場可視化システム1Bを構成することが好ましく、図9(c)に示すように音/光変換器30(k)を三角形状に配置する必要がある場合には、図8(b)に示す構成の音/光変換器で音場可視化システム1Bを構成することが好ましいと考えられる。音/光変換器間の信号線の配線および遅延時間の計算が容易になると考えられるからである。
【0032】
次いで、本実施形態の音場可視化システム1Bの使用例について説明する。
前述したように、本実施形態の音場可視化システム1Bに含まれる音/光変換器30(k)は、制御装置20の発生させたストローブ信号SSをデイジーチェーン方式で転送する点、および、その転送の際に遅延手段142によって遅延を付与する点が音/光変換器10(k)と異なる。この構成の相違によって、本実施形態によれば第2実施形態とは異なる効果が得られる。
【0033】
例えば、図9(a)に示すように、音源3からの距離が次第に遠くなるように音/光変換器30(1)、30(2)および30(3)を一次元的に配置し、音/光変換器30(1)の遅延手段142による遅延時間D1を音/光変換器30(1)と音/光変換器30(2)の間隔L1に応じた値(当該間隔L1を音速Vで除算して得られる値)とし、音/光変換器30(2)の遅延手段142による遅延時間D2を音/光変換器30(2)と音/光変換器30(3)の間隔L2に応じた値にすると、音源3から放射される音波の1つの波面の伝播状態を可視化することができる。また、音/光変換器30(k)を二次元的に配置する態様においては、所謂遅延制御方式のマイクロホンアレイにおける指向性制御と同様に、各音/光変換器30(k)の遅延手段142の遅延時間を調整することで特定の方向から到来する音の伝播状態を可視化するといった指向性制御を行うことが可能になる。このような指向性制御を行う態様によれば、音響空間2内に複数の音源3を設置してそれら音源3の駆動制御を制御装置20に行わせ、音響空間2内において予め定められたサービスエリアに向けて各音源3に音を放射させる場合において、そのサービスエリア内に各音/光変換器30(k)を設置して複数の音源3の各々を1つずつ駆動するようにすれば、各音源3から上記サービスエリアに向けて放射される音の伝播状態を音源3毎に可視化することが可能になる。
【0034】
以上本発明の第3実施形態について説明したが、遅延手段142は必ずしも必須ではなく、省略しても勿論良い。遅延手段142を省略したとしても第2実施形態の音場可視化システムと同一の効果が得られることには変わりはないからである。
【0035】
(D:第4実施形態)
図10は、本発明の第4実施形態の音/光変換器40を含む音場可視化システム1Cの構成例を示す図である。図10と図7を比較すれば明らかなように、音場可視化システム1Cは、音/光変換器30(1)に換えて音/光変換器40を設けた点と、この音/光変換器40が制御装置20に接続されていない点が音場可視化システム1Bと異なる。以下、第3実施形態との相違点である音/光変換器40を中心に説明する。
【0036】
図11は、音/光変換器40の構成例を示す図である。図11に示すように、音/光変換器40は、矩形波信号発生回路である信号発生部150を有し、この信号発生部150が発生させる矩形波信号をストローブ信号SSとして発光制御部120に与える点が音/光変換器30(k)と異なる。より詳細に説明すると、音/光変換器40では、マイクロホン110により収音される音の音圧(或いは特定の周波数成分の音圧)が所定の閾値を超えたことを契機として信号発生部150にストローブ信号SSを発生させ、これにより、可視化対象の音の発音に同期させてストローブ信号SSを発生させることを実現している。なお、マイクロホン110の出力信号から所定ピッチの信号成分を抽出するピッチ抽出処理を信号発生部150に実行させ、このピッチ抽出処理により得られる信号をストローブ信号SSとして用いるようにしても良い。このような信号発生部150を有するため、図10に示す音場可視化システムでは、音/光変換器40は制御装置20に接続されていないのである。このように本実施形態によっても、可視化対象の音(駆動信号MSに応じて音源3から放射される音)の瞬時値をサンプルホールドしその瞬時値に応じて発光部130を発行させる処理を音/光変換器40および音/光変換器30(k)に実行させるストローブ信号SSを、可視化対象の音の発音に同期させて生成することが可能になるのである。
【0037】
(E:第5実施形態)
図12は、本発明の第5実施形態の音/光変換器50の構成例を示す図である。
図12と図2とを対比すれば明らかように、音/光変換器50は、マイクロホン110と発光制御部120の間に介挿されたフィルタ処理部160を有する点が音/光変換器10(k)と異なる。このフィルタ処理部160は、例えばバンドパスフィルタであり、マイクロホン110から出力される音信号のうち、予め定められた周波数範囲(以下、通過域)の信号成分のみを通過させる。このため、音/光変換器50の発光部130は、マイクロホン110により収音された音のうち、上記通過域に属する信号成分の音圧に応じた輝度で発光するのである。したがって、図1の音場可視化システム1Aの音/光変換器10(k)を音/光変換器50に置き換えて音場の可視化を行えば、特定の周波数成分(すなわち、上記通過域に属する成分)の音の伝播状態のみを可視化することができる。
【0038】
このように、音響空間に放射される音のうち、特定の周波数成分の伝播状態のみを可視化することには以下のような利点がある。例えば、楽曲を構成する複数のパートのうちでその楽曲のセールスポイントとなるパート(例えば、ギターソロやソプラノソロなど)をその周波数帯域で特定し、そのパートの音の伝播状態のみを可視化するようにすれば、そのパートの音が音響空間の全体に亘って偏りなく伝播しているか否かを視覚を通じて直感的に把握することが可能になる。一般に、楽曲のセールスポイントとなっているパートは、音響空間のどの場所においても同様に聴き取れることが好ましいのであるから、その伝播状態に偏りがある場合にはその偏りを是正するようにオーディオ機器の配置位置等を調整する必要がある。本実施形態によれば、楽曲のセールスポイントとなっているパートの音の伝播状態を可視化して偏りの有無を直感的に把握させ、トライアンドエラー方式で最適な配置位置等を探し出すことが容易になる、といった利点がある。また、可聴帯域(具体的には、20Hzから20kHzまでの周波数帯域)よりも低い周波数帯域の音(所謂低周波音)を可視化することで、低周波音の伝播状況(どのような方向から伝播してくるのか等)を把握することが可能になる。低周波音に長期間に亘って曝され続けると頭痛や眩暈などの健康被害を生じさせる虞があるが、その音源の特定が難しいことが知られている。本実施形態の音/光変換器50を用いて低周波音の伝播状態を可視化すれば、その伝播方向を辿ることによってその音源を容易に特定することができると期待される。
【0039】
以上本実施形態では、図2に示す音/光変換器10(k)のマイクロホン110と発光制御部120の間にフィルタ処理部160を介挿して音/光変換器50を構成したが、図8(a)に示す音/光変換器30(k)或いは図8(b)に示す音/光変換器のマイクロホン110と発光制御部120の間にフィルタ処理部160を介挿しても良く、また、図11に示す音/光変換器40のマイクロホン110と発光制御部120の間にフィルタ処理部160を介挿しても良い。
【0040】
(F:第6実施形態)
図13は、本発明の第6実施形態の音/光変換器60の構成例を示す図である。
この音/光変換器60は、マイクロホン110と、フィルタ処理部170と、3つの発光制御部(120a、120bおよび120c)と、各々異なる色の光を発する3つの発光体(130a、130bおよび130c)を含む発光部130と、を有している。例えば、発光体130aは赤色の光を発するLEDであり、発光体130bは緑色の光を発するLED、発光体130cは青色の光を発するLEDである、といった具合である。
【0041】
音/光変換器60においては、マイクロホン110から出力される音信号はフィルタ処理部170に与えられる。図13に示すように、フィルタ処理部170は、バンドパスフィルタ174a、174bおよび174cを有しており、マイクロホン110からフィルタ処理部170に与えられる音信号はこれら3つのバンドパスフィルタの各々に与えられる。図13に示すようにバンドパスフィルタ174aは発光制御部120aに、バンドパスフィルタ174bは発光制御部120bに、バンドパスフィルタ174cは発光制御部120cに各々接続されている。
【0042】
バンドパスフィルタ174a、174bおよび174cは互いに重なり合わない通過域を有している。具体的には、バンドパスフィルタ174aは可聴帯域のうちの高域側(例えば、4kHzから20kHzの周波数帯域)を通過域としており、バンドパスフィルタ174cは同低域側(20Hzから1kHzの周波数帯域)を通過域としており、バンドパスフィルタ174bはそれらの間の周波数帯域(以下、中域)を通過域としている。このため、バンドパスフィルタ174aは、高域の信号成分のみを通過させて発光制御部120aに与える。同様に、バンドパスフィルタ174bは中域の信号成分のみを通過させて発光制御部120bに与え、バンドパスフィルタ174cは低域の信号成分のみを通過させて発光制御部120cに与える。つまり、バンドパスフィルタ174a、174bおよび174cは、マイクロホン110の出力信号を帯域分割する帯域分割フィルタの役割を果たすのである。
【0043】
図13に示すように、発光制御部120aには発光体130aが、発光制御部120bには発光体130bが、発光制御部120cには発光体130cが、各々接続されている。発光制御部120a、120bおよび120cの各々は、音/光変換器10(k)の発光制御部120(図2参照)と同一の構成を有しており、各々の接続先の発光体の発光制御を行う。例えば、発光制御部120aは、バンドパスフィルタ174aから与えられる音信号をストローブ信号SSの立上がり(或いは立下り)に同期させてサンプリングし、サンプリングした瞬時値に応じた輝度で発光体130aを発光させる。同様に、発光制御部120bはバンドパスフィルタ174bから与えられる音信号をストローブ信号SSの立上がり(或いは立下り)に同期させてサンプリングし、サンプリングした瞬時値に応じた輝度で発光体130bを発光させ、発光制御部120cはバンドパスフィルタ174cから与えられる音信号をストローブ信号SSの立上がり(或いは立下り)に同期させてサンプリングし、サンプリングした瞬時値に応じた輝度で発光体130cを発光させる。
【0044】
前述したように、バンドパスフィルタ174aは高域の信号成分のみを、バンドパスフィルタ174bは中域の信号成分のみを、バンドパスフィルタ174cは低域の信号成分のみを、各々通過させる。このため、音/光変換器60の発光体130aはマイクロホン110により収音された音の高域成分の音圧に応じた輝度で発光し、発光体130bは同中域成分の音圧に応じた輝度で発光し、発光体130cは同低域成分の音圧に応じた輝度で発光することになる。したがって、マイクロホン110により収音される音が所謂ホワイトノイズ(すなわち、低域から高域までの各信号成分を均等に含んだ音)である場合には、音/光変換器60の発光体130a、130bおよび130cの各々は略同じ輝度で赤色、緑色および青色の光を発光し、それらの合成光は白色光として観測される。これに対して、マイクロホン110により収音される音が高域側の信号成分が強いものである場合には上記合成光は赤味がかった色の光として観測され、逆に、低域の信号成分が強いものである場合には青味がかった色の光として観測される。このため、音/光変換器60を用いて音場可視化システムを構成し(具体的には、図1の音/光変換器10(k)を全て音/光変換器60に置き換えて音場可視化システムを構成する等)、可視化対象の音としてホワイトノイズを音源3に出力させる駆動信号MSを制御装置20から音源3に与え、音源3から放射される音(すなわち、ホワイトノイズ)の伝播状態を上記音場可視化システムを用いて可視化すれば、各周波数成分が均等に音響空間内を伝播しているか否かを把握することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、音響空間に放射される音の伝播状態、およびその音の各周波数成分が均等に伝播しているか否かを手軽に可視化することが可能になる。なお、本実施形態では、発光部130を互いに発光色の異なる3つの発光体で構成したが、互いに発光色の異なる2または4つ以上の発光体で発光部130を構成しても勿論良い。また、本実施形態では、発光体130a、130bおよび130cの各々が発する光の合成光が白色光であるか否かを基準に、各周波数成分が音響空間内を均等に伝播しているか否かを判断した。しかし、高域(或いは低域)の音の均等な伝播が他の周波数成分よりも優先される場合には、上記合成光が白色光よりも赤味(青味)の強い色であるか否かを基準に、高域(或いは低域)の音が音響空間内を均等に伝播しているか否かを判断するようにしても勿論良い。
【0046】
なお、上述した第6実施形態では、音響空間に放射される音の伝播状態をその帯域成分毎に可視化した。しかし、上記音響空間における各帯域成分の音圧分布のみの把握で十分な場合には、図14に示すようにフィルタ処理部170と発光部130の間に電圧電流変換回路124a、124bおよび124cを介挿して(換言すれば、発光制御部120a、120bおよび120cの各々からサンプルホールド回路122を省略して)音/光変換器を構成しても勿論良い。また、図13或いは図14に示す音光変換器にストローブ信号転送制御部140を設けても良く、さらに信号発生部150を設けても良い。
【0047】
(G:第7実施形態)
図15は、本発明の第7実施形態の音/光変換器70の構成例を示す図である。
図15と図1とを対比すれば明らかなように、音/光変換器70は、記憶部180を有している点と、発光制御部120に換えて発光制御部220を設けた点が音/光変換器10(k)と異なる。記憶部180は、例えばRAM(Random Access memory)などの揮発性メモリであっても良く、フラッシュメモリなどデータの書き換えが可能な不揮発性メモリであっても良い。発光制御部220は、サンプルホールド回路122および電圧電流変換回路124の他にデータ書き込み/読み出し制御部126を有している点が発光制御部120と異なる。このデータ書き込み/読み出し制御部126は、データの書き込み開始を指示する外部信号が与えられたことを契機としてサンプルホールド回路122によりホールドされた瞬時値を示すデータを記憶部180に順次書き込む処理を開始し、データの読み出し開始を指示する外部信号が与えられたこと(若しくは、記憶部180に格納されているデータが一定量に達したことまたはストローブ信号SSの入力が一定時間に亘って途絶えたこと)を契機として、それらデータをストローブ信号SSの周期と同じ周期でその書き込み順に順次読み出し、そのデータの示す瞬時値に応じた電圧を電圧電流変換回路124に印加する処理を実行する。
【0048】
このような構成としたため、本実施形態の音/光変換器70によれば、例えば、音源3から定常的な音(図3(a)に示すように周期Tfの正弦波により音波形が表される音)を放射させる場合には、周期Tss(≠Tf)のストローブ信号SSを用いることによって、任意の時点(すなわち、データの書き込み開始を指示する外部信号を与えた時点)からの当該音の伝搬状態を事後的に再現することが可能になる。例えば、音源3から放射される音の周波数が500Hzである場合には、ストローブ信号SSとして周波数499Hzのものを用いるようにすれば良い。また、図4(a)或いは図5(b)に示すように、立上がり間隔が徐々に長くなるストローブ信号SSを用いるようにしても同様の効果が得られる。
【0049】
また、データの書き込み開始を指示する外部信号が与えられたことを契機としてサンプルホールド回路122に高時間分解能でのサンプリングを行わせ、そのサンプリング結果を記憶部180に書き込む処理をデータ書き込み/読み出し制御部126に行わせるとともに、データの読み出し開始を指示する外部信号が与えられたこと(若しくは、記憶部180に格納されているデータが一定量に達したこと)を契機として、書き込み時の周期よりも長い周期(例えば、書き込み時の周期の1000倍の時間長の周期)でそれらデータをその書き込み順に順次読み出し、各データの示す瞬時値に応じた電圧を電圧電流変換回路124に印加する処理をデータ書き込み/読み出し制御部126に実行させるようにしても良い。このような態様によれば、音源3から音響空間に放射される音についての任意の時点からの伝播状態をより詳細に記録し、その記録内容をスロー再生することが可能になる。ただし、サンプルホールド回路122に高時間分解能でのサンプリングを行わせる際に、標本化定理を満たすようにサンプリング周期を十分短くすることが望ましいことは言うまでもない。なお、データの書き込み開始(読み出し開始)を指示する外部信号の役割をストローブ信号SSに担わせても良い。
【0050】
(H:変形)
以上本発明の第1から第7実施形態を説明したが、これら実施形態に以下の変形を加えても勿論良い。
(1)上述した実施形態では、音響空間内の各々異なる位置に配置される音/光変換器の発光部がどの程度の輝度で発光するのかを目視することでその音響空間における音波の伝播状態を利用者に把握させた。しかし、上記各発光部の発光の様子を一般的なビデオカメラ等により撮像して記録するようにしても勿論良い。その際、現場では観測できなくても記録されたもので観測されればいいようなアプリケーション(用途、方法)では赤外線LED等の非可視光のLEDの使用も考えられる。
【0051】
(2)上述した実施形態では、制御装置20と音/光変換器との間のストローブ信号SSの伝送を有線通信で行ったが、無線通信で行っても良い。また、各光/音変換器にGPS受信部を設け、このGPS受信部により受信した絶対時間情報に基づいてストローブ信号を各音/光変換器に発生させるようにしても良い。また、デイジーチェーン方式でストローブ信号SSを伝送する態様にあっては、発光部130の発する光をストローブ信号SSとして用いることも考えられる。また、音/光変換器50にストローブ信号転送制御部140を設ける態様においては、フィルタ処理部160の通過域を示すデータを付与してストローブ信号SSを後段装置に転送し、後段装置では、ストローブ信号SSに付与されているデータにしたがってフィルタ処理部160の通過域を設定するようにしても良い。このような態様によれば、音場可視化システムに含まれる全ての音/光変換器に対して逐一通過域の設定を行う必要がなくなり、その設定作業の手間を省くことができる。
【0052】
(3)上述した実施形態では、音源3から放射される直接音の可視化を行う場合について説明したが、音響空間2の壁や天井による反射音を可視化対象としても良い。このような間接音の可視化を行う際には、音場可視化システム1Cが好適である。具体的には、音/光変換器40の信号発生部150に以下の処理を行わせるのである。すなわち、マイクロホン110により収音される音の音圧が上昇から下降に転じるローカルピークを検出し、2つめ(或いは、2つめ以降)のローカルピークが検出されたことを契機としてストローブ信号SSを出力させる処理を信号発生部150に実行させるのである。ここで、2つめ(或いは、2つめ以降)のローカルピークの検出を契機としてストローブ信号SSを信号発生部150に発生させるようにしたのは、1つ目のローカルピークは直接音に対応しており、2つめ以降のローカルピークが一次反射音等の間接音に対応していると考えられるからである。
【0053】
(4)上述した各実施形態ではLEDなどの発光素子を発光体として用いて発光部130を構成したが、電球(或いは電球に色セロハンを貼り付けたもの)やネオン管を上記発光体として用いても勿論良い。ただし、反応速度や消費電力という観点からはLEDなどの発光素子を用いることが好ましいことは言うまでもない。
【0054】
(5)上述した各実施形態では、サンプルホールド回路122から出力される電圧値を電圧電流変換回路124によってその電圧値に比例した電流値の電流に変換して発光部130に与えた。これにより、マイクロホン110により収音される音の音圧と発光部130の発光輝度の線形性が担保されるのであるが、このような線形性を必要としない場合には、電圧電流変換回路124を省略しても勿論良い。また、電圧電流変換回路124に換えてPWM変調回路やPDM変調回路を用いるとより好ましい。なお、PWM変調回路やPDM変調回路としては周知の構成のものを用いることが考えられる。また、電圧電流変換回路124に換えてPWM変調回路やPDM変調回路を用いる態様においては、PWM変調回路やPDM変調回路の前段にA/D変換器を設けておくことが好ましい。また、上述した実施形態では、サンプルホールド回路122を用いてマイクロホン110の出力信号の瞬時値をサンプルホールドしたが、サンプルホールド回路122を省略し、ストローブ信号SSに同期させてマイクロホン110の出力信号の瞬時値を取得し、その取得結果に応じた輝度で発光部130を発光させても良く、また、マイクロホン110の出力信号を電圧電流変換回路124に常に印加するようにしても良い。また、マイクロホン110の出力信号の信号強度が所定の閾値を上回ったことを契機として、マイクロホン110の出力信号を電圧電流変換回路124に印加して発光部130を発光させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0055】
1A,1B,1C…音場可視化システム、2…音響空間、3…音源、10(k),30(k),40,50、60,70…音/光変換器、20…制御装置、100…音/光変換器アレイ、110…マイクロホン、120,220…発光制御部、122…サンプルホールド回路、124…電圧電流変換回路、126…データ書き込み/読み出し制御部、130…発光部,130a,130b,130c…発光体、140…ストローブ信号転送制御部、142…遅延手段、150…信号発生部、160,170…フィルタ処理部、174a,174b,174c…バンドパスフィルタ、180…記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンと、発光部と、ストローブ信号に同期させて前記マイクロホンの出力信号の瞬時値を取得し、当該瞬時値に応じた輝度で前記発光部を発光させる発光制御部と、を含む音/光変換器を複数有するとともに、
前記複数の音/光変換器による可視化の対象となる音の発音に同期させて前記ストローブ信号を生成して出力する制御装置を有する
ことを特徴とする音場可視化システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記複数の音/光変換器による可視化の対象となる音の音源を駆動するための駆動信号を出力するとともに、前記駆動信号の出力に同期させて前記ストローブ信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の音場可視化システム。
【請求項3】
前記ストローブ信号は矩形波信号であるとともに、前記複数の音/光変換器の各々に含まれる発光制御部は、前記ストローブ信号の立上がり、または立下りに同期させてマイクロホンの出力信号の瞬時値を取得し、前記制御装置は、前記ストローブ信号の立上げ周期、または立下げ周期を時間の経過とともに変化させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の音場可視化システム。
【請求項4】
前記ストローブ信号は矩形波信号であるとともに、前記複数の音/光変換器の各々に含まれる発光制御部は、前記ストローブ信号の立上がり、または立下りに同期させてマイクロホンの出力信号の瞬時値を取得し、前記制御装置は、前記ストローブ信号の立上げ周期、または立下げ周期を利用者の操作に応じて変化させる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の音場可視化システム。
【請求項5】
前記複数の音/光変換器の各々は記憶部を有し、
前記複数の音/光変換器の各々の発光制御部は、前記マイクロホンの出力信号の瞬時値を示すデータを前記記憶部に順次書き込む第1の処理と、前記記憶部に記憶されているデータを、前記ストローブ信号に同期させて、または前記第1の処理における書き込み周期よりも長い周期で、順次読み出し、そのデータの示す瞬時値に応じた輝度で前記発光部を発光させる第2の処理と、を実行することを特徴とする請求項1から4の何れか1に記載の音場可視化システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−93399(P2012−93399A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238032(P2010−238032)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)