説明

音階発生シート

【課題】音階の音を簡単に再生することができる音階発生シートを提供することにある。
【解決手段】本発明に係る音階発生シートは、基盤上に音階を現す複数の音発現領域が形成され、該音発現領域には、UV硬化性樹脂もしくはEB硬化性樹脂からなる線状の凸部が等ピッチで設けられ、凸部の幅と、凸部と凸部の間隔とを加えたものをピッチ間隔とし、前記凸部の幅を所定の幅で一定とし、隣接する前記音発現領域の前記ピッチ間隔を、順次1/1.059倍に狭くし、等速度の爪等のスクラッチにより半音上がる音階を発現することを特徴とする音階発生シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音階の音を簡単に再生することができる音階発生シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、物体の表面に凹凸部を設け爪先等で擦ることにより音を発生する方法は実施されていた。例えば、トーマス・エジソン蓄音機式の改良として、ヒュブナー・シュテファン氏による『垂直エンボス形成方式』が提案されている。
【0003】
また、エンボス加工によって音声情報を設ける方法が「エンボス型サウンドトラック」として提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
また、別方式として、音声スペクトルをオフセット印刷あるいはバブルジェット(登録商標)方式で設ける方法が『固有振動数素材の合成方式』として提案されている(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特表2001−510616公報
【特許文献2】WO00−72304公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の「エンボス型サウンドトラック」の方式は、エンボス賦型により凹凸形状が形成されるが、軟質な基材に賦型すると、経時で弾性変形して凹凸形状が崩れ易いため、基材がラッカー、コーティング、プラスチック、金属、セラミックス等に硬質なものに限定され、また、エンボス賦型用の型が高価であるため、コストの点で課題があり、更に、エンボス加工は生産性が低いといった課題がある。
【0006】
また、特許文献2の「音響発生装置及びその製造方法」の方式は、解像度に比例して再生音声が明瞭になるため、印刷する紙の素材に制約があるといった課題がある。また、共鳴効果の高い素材を選んだとしても、オフセット方式では、塗工可能なインク厚みは数μのため、再生音声の大きさには限界があり、インキジェット方式でも、UVインキ反応型ドロップオンディマンドシステムのようにインキを厚盛り出来るヘッドもあるが、スクリーン印刷並みの線巾及び厚み精度は再現できず、再生音声が不安定である。
【0007】
本発明は、上記の問題点を解消するためになされたものであり、音を発生する情報が組み込まれている音発現領域における凸部を、エンボス賦型ではなく、印刷方式で形成した音階発生シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の問題点を解決するための手段につき鋭意検討した結果、本発明は、基盤上に音階を現す複数の音発現領域が形成され、該音発現領域には、UV硬化性樹脂もしくはEB硬化性樹脂からなる線状の凸部が等ピッチで設けられ、凸部の幅と、凸部と凸部の間隔とを加えたものをピッチ間隔とし、前記凸部の幅を所定の幅で一定とし、隣接する前記音発現領域の前記ピッチ間隔を、順次1/1.059倍に狭くし、等速度の爪等のスクラッチにより半音上がる音階を発現することを特徴とする音階発生シートである。
【0009】
また、線状の凸部の高さを0.1〜0.6mmとすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の音階発生シートによれば、音を発生する情報が組み込まれている音発現領域を、エンボス賦型ではなく、UV硬化性樹脂もしくはEB硬化性樹脂のインキを使用してグラビア印刷法もしくはシルクスクリーン印刷法で凸部を形成できる。また、グラビア印刷方式やシルクスクリーン印刷方式で、凸部高さを0.1〜0.6mmの範囲とすることが可能なため、発現する音を大きくすることができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の音階発生シートの概略図である。
【図2】本発明の音階発生シートを構成する音発現領域の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の音階発生シート1は、図1に示すように、基盤10の上に複数の音発現領域20が形成され、この音発現領域20に、図2に示すように、凸部Tが形成された構成である。以下に、基盤10、音発現領域20、そして凸部Tについて説明する。
【0013】
まず、基盤は、凸部が印刷できるものであれば、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定できる。基盤10の例は、下記の通りである。
1.基材層11
2.基材層11+印刷層12
3.基材層11+印刷層12+保護層13
(基材層)
基材層11の材料は、板紙に限定されるものではなく、ポリプロピレン(以下PPと記す)シート、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと記す)シート、ポリ塩化ビニール(以下PVCと記す)シート、段ボール等が挙げられるが、音響の良さの点から、段ボール、嵩高原紙、トレーシングペーパー等、音の共鳴、伝導性の良いものが好ましい。厚みは実施例に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定できる。
(印刷層)
印刷層12は、絵柄を印刷している層であり、絵柄に応じてインキの種類を適宜設定することができる。
(保護層)
保護層13は、印刷層12を保護する層であり、材質は、PP、PET、ポリカーボネート、PVC等が挙げられるが、基材との密着の点から、PP、PVCが好ましい。厚みは5〜100μのものを使用することができる。
【0014】
つぎに、音発現領域20は、1つの音を発現する情報が組み込まれた領域であり、複数の線状の凸部Tが設けられている。この線状の凸部Tの本数は音の高さに応じて適宜設定することができる。また、凸部Tの幅をa、凸部Tと凸部Tの間隔をbとすると、ピッチ間隔のcは、a+bとなり、前記凸部の幅aを所定の幅で一定とし、隣接する音発現領域20のピッチ間隔cを順次1/1.059倍に狭くして、音階を表す複数の音発現領域20を形成する。この複数の音発現領域20を等速度でスクラッチすることによって、音階を発現することができる。
【0015】
音発現領域20には、線状の凸部Tが縦辺と平行に、かつ、各線状の凸部Tが平行になるように、適宜複数本設ける。
【0016】
また、凸部と凸部の間隔b及び音発現領域20と音発現領域20の間隔dは、人が爪などでスクラッチできる距離内で適宜設定することができる。具体的には、音階を発生させるためのピッチ間隔cの設定は、洋楽の場合、平均律で12音階からなっており、表1に示すように設定することができる。一般的に表示するのは8音階であり、ド(全音)レ(全音)ミ(半音)ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(半音)ドの8音階となる。
【0017】
さらに、音発現領域20の形状は、四角形、三角形、円形、楕円形等とすることができる。その他、星形などのデザインした形状とすることもできる。
【0018】
【表1】

ピッチ間隔の設定方法(ドを1mmとした場合)
さらに、音発現領域上には線状の凸部を設け、この線状の凸部に略直角方法に音発現領域を指の爪等でスクラッチすることにより固有の音が発生される。この凸部は、UV硬化性樹脂もしくはEB硬化性の樹脂を使用して、グラビア印刷法もしくはスクリーン印刷法により形成される。また、凸部の高さは0.1〜0.6mmの範囲で適宜設定することができ、0.1mm未満ではスクラッチしてもスクラッチするものが引っ掛からないため、音が発生しにくくなり、0.6mm以上ではスクラッチしたときに凸部が破損しやすくなり、形状安定性の点で好ましくない。凸部の幅aは目的に応じて適宜設定することができる。また、凸部の幅aは、0.1〜2.0mmの範囲で適宜設定することが好ましく、0.1mm未満ではスクラッチした時には、凸部が破損しやすくなり、2.0mm以上ではスクラッチした時に音が出にくくなる。
【0019】
凸部を設けるためのUV硬化型インキは、少なくともポリマー、モノマー、光重合開始剤を混合したものであり、ポリマーとしては、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート(以下、「メチルアクリレート」と「メチルメタクリレート」とを、「(メタ)アクリレート」と表記する。以下、同様。)、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、スチレンの如き1分子中に1個の重合性ビニル基を有する、いわゆる単官能モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートの如き1分子中に2個の重合性ビニル基を有する、いわゆる2官能のモノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートの如き1分子中に3個以上の重合性ビニル基を有する、いわゆる多官能モノマー、などがあげられる。
【0020】
さらに、オリゴマーとして、不飽和ポリエステル類、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどのオリゴマーを用いることもできる。
【実施例】
【0021】
本発明の具体的実施例について、以下説明する。
(実施例1)
まず、基材層である両面コート紙(99g/m2)に、UV硬化性インキ(UVカルトン;DICグラフィック(株)製)を使用して絵柄を印刷して印刷層を形成した。この印刷層の上にウレタン系接着剤を用いてPETフィルム25μm(P0−025;東レ(株)製)を貼り合わせて基盤を作成した。この基盤のPETフィルム上にUV硬化型スクリーンインキ(UV反応型高粘度クリアーニス;十条ケミカル(株)製)を使用して、シルクスクリーン印刷方式で線状の凸部の印刷し、音発現領域を形成し、音階発生シートを得た。
【0022】
つぎに、本実施例の音発現領域及び線状の凸部について、説明する。
【0023】
幅aを0.3mm、凸部と線状の凸部の間隔bを0.7mm、ピッチ間隔cを1.0mm、高さを0.2mm、長さを25mmとした線状の凸部を、縦辺の幅を25mm、横辺の幅を28mmの音発現領域に、線状の凸部が音発現領域の縦辺と平行に、且つ、各線状の凸部が平行になるように形成したものをドとし、音発現領域と音発現領域の間隔dを2.5mmとし、半音上がる毎に、順次ピッチ間隔を1/1.059倍に狭くすることにより、ド(全音)レ(全音)ミ(半音)ファ(全音)ソ(全音)ラ(全音)シ(半音)ドの8音階を表示した音階発生シートを作製した。(全音は半音の2倍)
(実施例2〜10および比較例1〜4)
同様の方法にて、線状の凸部形成方法、線状の凸部の幅、線状の凸部の高さは実施例1と同じにして、基盤の材質を変更して、実施例2〜6を作製した。また、同様の方法にて、線状の凸部形成方法、基盤の材質、線状の凸部の高さは実施例1と同じにして、線状の凸部の幅を変更して、実施例7、8を作製した。また、同様の方法にて、線状の凸部形成方法、基盤の材質、線状の凸部の幅は実施例1と同じにして、線状の凸部の高さを変更して、実施例9、10及び比較例1、2を作製した。また、基盤の材質、線状の凸部の幅、線状の凸部の高さは実施例1と同じにして、凸部形成方法を引用文献の方法で形成したものを、比較例3、4とした。
【0024】
【表2】

評価結果
(※1)指先で複数回スクラッチして音が認識できるか確認した。
(※2)ピンホールが発生してしまい、凸部が形成できなかった。
(※3)厚盛りすることができず、凸部が形成できなかった。
(※4)スクラッチしても、スクラッチするものが引っ掛からず、音が小さかったため、×とした。
(※5)複数回スクラッチすると凸部が破損したため、×とした。
【0025】
実際に、実施例1〜10及び比較例1〜4について、指先でスクラッチして音が発生するか確認した評価結果を、表2に示している。その結果、実施例1〜10においては、いずれの実施例においても、音の発現が実施された。それに対して、比較例1〜4においては、音の発生が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の音階発生シートは、文具、玩具、本・雑誌の表紙など広く利用することができる。また、音階発生シートの応用として、音階の音を並べ代えることによって、メロディーを再生する音声情報とすることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 音階発生シート
10 基盤
11 基材層
12 印刷層
13 保護層
20 音発現領域
T 凸部
a 凸部の幅
b 凸部と凸部の間隔
c ピッチ間隔
d 音発現領域の音発現領域の間隔
h 凸部の高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤上に音階を現す複数の音発現領域が形成され、該音発現領域には、UV硬化性樹脂もしくはEB硬化性樹脂からなる線状の凸部が等ピッチで設けられ、凸部の幅と、凸部と凸部の間隔とを加えたものをピッチ間隔とし、前記凸部の幅を所定の幅で一定とし、隣接する前記音発現領域の前記ピッチ間隔を、順次1/1.059倍に狭くし、等速度の爪等のスクラッチにより半音上がる音階を発現することを特徴とする音階発生シート。
【請求項2】
前記線状の凸部の高さを0.1〜0.6mmの範囲としたことを特徴とする請求項1に記載の音階発生シート。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−164223(P2011−164223A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24808(P2010−24808)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)