音響空間評価装置及び音響空間構造体
【課題】吸音手段の配置による音の低減についての評価をより効率よく行う。
【解決手段】音響空間評価装置は、吸音部材が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の領域によって囲まれた音響空間内にその領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶し、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音部材が配置されたときにその評価点に伝達する入力音の低減についての評価値を算出し、算出した評価値またはその評価値に応じた情報を出力する。
【解決手段】音響空間評価装置は、吸音部材が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の領域によって囲まれた音響空間内にその領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶し、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音部材が配置されたときにその評価点に伝達する入力音の低減についての評価値を算出し、算出した評価値またはその評価値に応じた情報を出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音手段の配置による入力音の低減を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内部には、車室内の静寂性を確保するために、防音材が配置されている。非特許文献1には、残響理論に基づいて、車室に吸音部材を設置する前後における騒音の低減効果を計算する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口 久弥、「音響材料とその適用技術の動向」、自動車技術、技術会通信、2003年、Vol.57,No.7,p88−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記非特許文献1に記載された方法は、残響理論が成立することを前提としているため、車室のように拡散音場の条件や残響理論が成立しない小空間において、車内に存在する騒音のような低周波数の入力音の低減効果を求めるのには適さない。また、上記非特許文献1に記載された方法では、低減効果の計算に必要な各種データを得るのに手間がかかるとともに、吸音部材間の伝達特性を用いる必要があるなど、その計算手順も複雑である。よって、車両の構造を細かい領域に分けて、高空間分解能で車内騒音の低減効果を計算するには不向きである。
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、吸音手段の配置による音の低減についての評価をより効率よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかがが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0006】
この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出するようにしてもよい。
【0007】
また、本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに当該領域を通じて入力される入力音が前記評価点に伝達するときの低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0008】
この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力される入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面入力音響指標値と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0010】
この音響空間評価装置において、前記算出手段は、特定の前記評価点が指定されない場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記音響空間内に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出するようにしてもよい。
【0011】
また、この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出することを特徴とする。
【0012】
上記のいずれの音響空間評価装置においても、前記記憶手段の記憶内容は、前記入力音の周波数帯域毎に分けられており、前記算出手段は、入力音の周波数帯域が指定された場合には、前記記憶手段に記憶されている当該周波数帯域に対応する内容を用いて、前記評価値を算出するようにしてもよい。
【0013】
また、上記音響空間評価装置のいずれにおいても、前記記憶手段の記憶内容は、前記音響空間の形状毎に分けられており、前記算出手段は、音響空間の形状が指定された場合には、前記記憶手段に記憶されている当該形状に対応する内容を用いて、前記評価値を算出するようにしてもよい。
【0014】
本発明は、上記音響空間評価装置によって出力された内容に基づいて前記音響空間に配置された前記吸音手段を備えることを特徴とする音響空間構造体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸音手段の配置による音の低減についての評価をより効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の原理を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る音響空間評価装置の構成を示すブロック図である。
【図3】上記音響空間評価装置が記憶する領域データベースの内容を説明する図である。
【図4】上記音響空間評価装置が記憶する音圧データベースの一例を示す図である。
【図5】上記音響空間評価装置が記憶する吸音率データベースの一例を示す図である。
【図6】本実施形態に係る吸音部材の構造を示す図である。
【図7】上記音響空間評価装置の動作を示すフロー図である。
【図8】上記音響空間評価装置にて表示される評価結果テーブルの一例を示す図である。
【図9】変形例に係る吸音率データベースの一例を示す図である。
【図10】変形例に係る吸音率データベースの別の一例を示す図である。
【図11】変形例に係る吸音率データベースの別の一例を示す図である。
【図12】変形例に係る評価装置にて表示される車両構造画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、図1を参照して、本実施形態の原理について説明する。
図1(a)は、車両100における車内騒音のモデル化を説明する図である。車内騒音とは、車両が走行する際に車室102内に存在する騒音であって、例えば路面とタイヤとの間に摩擦が生じることで発生する音や、車両が路面走行時に振動することによって車両の各部品から発生する音のほか、エンジンから発生する音や走行中の車両の風切り音などを含む。図中の評価点Pは、車室102内の運転席や助手席に座っている人間の耳の位置(音を聴取する位置)に相当し、車内騒音を低減させる対象となる場所を表している。領域Ii(i=1,2,・・・n)は、車室102を他の空間から区画する境界面(例えば車両100のシャーシの壁面や内装材の壁面)を複数に分割したときの各要素を表している。入力音圧Riは、ある領域Iiから車室120内に入力される車内騒音の音圧である。伝達関数HEiは、ある領域Iiから車室102内に入力される車内騒音の入力音圧Riに対する、その入力音圧Riが評価点Pに到達したときの音圧の応答を示す関数である。
【0018】
シャーシダイナモ110を用いて、車両100に走行状態と近似するような振動を加えると、車内騒音が発生する。この車内騒音は、前述した領域Iiから車室102内へと侵入する。このとき、車室102の評価点Pにおける音圧E(f)は、各領域Iiから車室102内に入力される車内騒音の入力音圧Ri(f)と、各領域Iiから評価点Pへと音圧が伝搬するときの伝達関数HEi(f)との積和である次式Iにより表される。なお、fは、音波(車内騒音)の周波数を意味している。
【数1】
なお、上記のΣは、領域Iiに関する和を表す(以下において同じ)。
次に、図1(b)に示すように、評価点Pにて発音し、この評価点Pから一定の音圧が車室102内に入力される場合を考える。この場合、音響空間を形成する車室102の形状や、シャーシ或いは内装材の材料などの諸条件に応じて、評価点Pから各領域Iiに至る音の音圧が領域Iiごとに異なる。この評価点Pから入力される音圧が或る領域Iiに到達するときの音圧が大きいほど、その領域Iiから評価点Pに到達する音の音圧も大きいことになる。従って、その領域Iiに吸音部材を配置するということは、評価点Pに対する車内騒音の低減への寄与が高いことになる。以下の説明では、評価点Pから領域Iiに音が到達するときの音圧を「相反音圧」と呼ぶ。つまり、相反音圧は、各々の領域Iiによって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域Iiにおける音響物理量の指標値(相反音響指標値)の一例である。ここで、評価点Pと領域Iiとの間で相反定理が成立すると仮定すれば、図1(a)に示した伝達関数HEiは、図1(b)に示す評価点Pから領域Iiへと音が伝達されるときの伝達関数HSiと等価となる。また、領域Iiから車室102内に入力される入力音圧Riと同じ量の音圧が評価点Pから車室102内に入力されるとしたときに、領域Iiで観測される音圧を相反音圧Oiとする。このとき、伝達関数HSi(f)は、評価点Pから入力された音圧Ri(f)に対する各領域Iiの相反音圧Oi(f)を用いた次式IIにより表される。
【数2】
【0019】
ここで、上述した入力音圧Riを、領域Iiに設置したマイクロホンによって計測する場合を考える。この場合、図1(c)に示すように、マイクロホンによって計測される音圧は、入力された車内騒音が車室102内の至るところを反射して戻ってきたときの反射音の音圧になる。以下の説明では、この反射音の音圧を「界面音圧」と呼ぶ。つまり、界面音圧は、各々の領域Iiによって囲まれた音響空間内に当該領域Iiを通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域Iiに戻ってきた反射音の音響物理量の指標値(界面音響指標値)の一例である。この界面音圧Si(f)は、領域Iiから入力された車内騒音が反射して元の領域Iiに伝達されるときの伝達関数HNi(f)と入力音圧Ri(f)との積である次式IIIにより表される。
【数3】
【0020】
このとき、伝達関数HNi(f)=k2(定数)であると仮定すれば、界面音圧Siは、入力音圧Riの比例した上述した式I〜IIIにより、評価点Pの音圧E(f)は、相反音圧Oi(f)と界面音圧Si(f)との積和である次式IVにより表される。
【数4】
【0021】
このようにして作成された車内騒音モデル(式IV)を利用することにより、例えば車両100の内装設計において、吸音部材を配置する最適な場所の選定に役立てることができる。例えば、界面音圧Siまたは相反音圧Oiの高い領域Iiに吸音部材を配置すれば、車内騒音を効率的に吸収できることがわかるため、吸音部材を配置する場所として界面音圧Siまたは相反音圧Oiの高い領域Iiを選定するといった利用が考えられる。
【0022】
さらに、各領域Iiに配置される吸音部材の吸音率を用いれば、次式Vにより、各領域Iiに吸音部材を設置したときの音響エネルギー(車内騒音)の総減衰量を求めることができる。
【数5】
これにより、各領域Iiに吸音部材を設置したときに、車内騒音が低減される程度がわかる。
【0023】
[構成]
次に、図2を参照して、入力音の低減を評価する音響空間評価装置1の構成について説明する。図2は、音響空間評価装置1の構成を示すブロック図である。この音響空間評価装置1は、コンピュータ装置であり、CPU(Central Processing Unit)11と、メモリ12と、記憶部13と、操作部14と、表示部15とを備えている。この実施形態では、算出手段としてCPU11を、記憶手段として記憶部13を、出力手段として表示部15を用いている。CPU11は、メモリ12又は記憶部13に記憶されているプログラムを実行して、各種の処理を行う。メモリ12は、ROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)などを備えており、CPU11によって実行されるプログラムや各種のデータなどを記憶している。記憶部13は、例えばハードディスクであり、領域データベース31、音圧データベース32、吸音率データベース33などを記憶している。操作部14は、例えばマウスとキーボードであり、評価者の操作を受け付け、その操作に応じた信号をCPU11に入力する。表示部15は、例えば液晶ディスプレイであり、CPU11により供給されたデータに応じた画像を表示する。
【0024】
次に、記憶部13に記憶されている各データベースの内容について説明する。以下に説明するように、記憶部13は、入力音の周波数帯域毎に、吸音部材が配置される各々の領域Iiを識別する領域番号と、各々の領域Iiによって囲まれた車室102内に当該領域から入力される入力音の音圧の指標値である界面音圧Siと、車室102内にて音圧を評価する点として決められた複数の評価点でそれぞれ発音したときの、各々の領域Iiにおける音圧の指標値である相反音圧Oiと、当該領域Iiに配置される吸音部材の吸音率とを対応付けて記憶している。まず、図3を参照して、領域データベース31の内容について説明する。図3は、車室102を他の空間から区画する境界面を複数の領域Iiに分割した様子を示す図であり、図中の三角形の領域の1つ1つが領域Iiである。この評価対象となる車両100には、吸音部材が配置されることになる。領域データベース31には、図中の各領域Iiの位置を表す位置情報と、各領域Iiを識別する領域情報である領域番号とが対応付けられて記述されている。この領域Iiの位置情報は、例えば3次元座標などを用いて表される。
【0025】
次に、図4を参照して、音圧データベース32の内容について説明する。図4は、音圧データベース32の一例を示す図である。同図に示すように、この音圧データベース32では、入力音の「周波数帯域」毎に、「領域番号i」と「界面音圧Si」と「相反音圧Oi」とが対応付けて記述されている。ここでいう「周波数帯域」とは、例えば160Hzというように、1つの周波数そのものを指定するものであってもよいし、150〜170Hzというように、周波数の範囲を指定するものであってもよい(以下において同じ)。「領域番号i」は、前述した各領域Iiを識別する領域情報である。「界面音圧Si」は、図3に示した各領域Iiにおいて、領域Iiから車室102内に入力される入力音圧Riに、この入力音圧Riが他の領域Iiで反射して戻ってきたときの反射音の音圧を加えた音圧である。「相反音圧Oi」は、図3に示した各領域Iiにおいて、「運転席」,「助手席」,「右後席」,「左後席」,「中後席」という各評価点から入力された音が領域Iiに到達するときの音圧である。界面音圧Si及び相反音圧Oiは、いずれも絶対的な値で表された音圧であってもよいし、他の領域Iiの音圧との相対的な量を表した値であってもよい。また特に、相反音圧Oiは、各評価点から入力された音が領域Iiに到達する割合を示す値であってもよい。要するに、界面音圧Si及び相反音圧Oiは、各領域Iiにおける音響エネルギーの違いを表現できるような指標値であればよい。
【0026】
ここで、音圧データベース32の界面音圧Si及び相反音圧Oiの値を得る方法について説明する。これらの値は、実測や数値解析により求めることができる。例えば、界面音圧Siの値は、次のようにして計測することができる。まず、評価対象となる車両100において、図3に示した各領域Iiにマイクロホンを設置する。続いて、シャーシダイナモなどを用いて、この車両100を走行状態にして、車内騒音を発生させる。この車内騒音は、各領域Iiに設置されたマイクロホンにより受音される。車内騒音を受音すると、マイクロホンは、その音圧を計測する。そして、各マイクロホンで計測された音圧を、そのマイクロホンが設置された領域Iiにおける界面音圧Siとする。このようにして、音圧データベース32に記述される界面音圧Siの値を得ることができる。
【0027】
相反音圧Oiの値は、次のようにして計測することができる。まず、上述と同様にして、図3に示した各領域Iiにマイクロホンを設置するとともに、評価対象となる車両100の各評価点に無指向性のスピーカを設置する。この例では、運転席、助手席、右後席、左後席、中後席という各評価点Pにスピーカが設置される。続いて、いずれかの1つの評価点に設置されたスピーカから音を発生させる。このスピーカから発生された音は、各領域Iiに設置されたマイクロホンにより受音される。スピーカから放出された音を受音すると、マイクロホンは、その音圧を計測する。そして、各マイクロホンで計測された音圧を、そのマイクロホンが設置された領域Iiにおけるその評価点についての相反音圧Oiとする。これを、全ての評価点について行うことにより、音圧データベース32に記述される相反音圧Oiの値を得ることができる。そして、このようにして得られた界面音圧Si及び相反音圧Oiの値が記述されることにより、図4に示した音圧データベース32が作成される。なお、この相反音圧Oiの値は、上記の手法以外に、例えば境界要素法(BEM)や有限要素法(FEM)やその他の数値解析法を用いて特定することもできる。
【0028】
次に、図5を参照して、吸音率データベース33の内容について説明する。図5は、吸音率データベース33の一例を示す図である。同図に示すように、吸音率データベース33では、入力音の「周波数帯域」毎に、「領域番号i」と「吸音率αi」とが対応付けて記述されている。「領域番号i」は、前述した各領域Iiを識別する領域情報である。「吸音率αi」は、図3に示した各領域Iiに配置される吸音部材の吸音率である。各々の領域Iiによって吸音率が異なるのは、領域Ii毎に設置し得る吸音部材の種類、大きさ或いは構造などが異なるためである。この吸音率αiの値は、領域Ii毎に設置し得る吸音部材を用いて吸音率を実測したり、或いは領域Ii毎に設置し得る吸音部材をモデル化して数値解析を行うことにより求めることができる。
【0029】
ここで、図6を参照して、吸音部材50の構造について説明する。本実施形態では、吸音手段として吸音部材50を用いている。図6(a)は、吸音部材50の外観を示す斜視図であり、図6(b)は、吸音部材50の断面図である。同図に示すように、吸音部材50は、板振動型の音圧駆動の吸音部材であり、開口部52を有する矩形状の筐体51と、開口部52を閉塞する振動板53と、筐体51内に画成される空気層54とを備えている。筐体51は、例えばABS樹脂などの合成樹脂材料によって形成されており、振動板53は、例えば無機充填材入りオレフィン系共重合体などの高分子化合物によってシート状に形成されている。この吸音部材50においては、振動板53に伝わる音圧と空気層54側の音圧との差(即ち、振動板53の前後の音圧差)によって振動板53が駆動される。これにより、吸音部材50に到達する音波のエネルギーは、この振動板53の振動により消費されて音が吸音されることになる。また、この吸音部材50は、吸音ピークの周波数が空気層54のバネ成分と振動板53の質量成分とにより決定されるバネマス系の共振周波数より低くなるように設定されており、車内騒音などの比較的低い周波数帯域の音を効率よく吸音することができる。
【0030】
[動作]
次に、図7を参照して、音響空間評価装置1の動作について説明する。図7は、音響空間評価装置1の動作を示すフロー図である。まず、評価者は、音響空間評価装置1の操作部14を操作して、車内騒音を低減させる対象である評価点と、低減させる車内騒音の周波数帯域とを、条件として指定する。ここでは、評価点として「運転席」が指定され、低減させる車内騒音の周波数帯域として「f1」が指定された場合を想定する。なお、車室102の全体において車内騒音を低減させたい場合には、評価点として「全体」が指定されることになるが、このように、評価点として「全体」が指定されるということは、全評価点のうちの或る特定の評価点が指定されないということである。つまり、騒音の低減対象として、特定の評価点に限定するのではなく、どの評価点で低減するかを問わずに領域全体で評価するという考え方である。
【0031】
このように、評価者の操作により、評価点及び周波数帯域が指定されると、これらの条件がCPU11に入力される(ステップS11)。条件が入力されると、CPU11は、指定された評価点が全体であるか否かを判断する(ステップS12)。仮に、評価点として「全体」が指定された場合、CPU11は、指定された評価点が全体であると判断し(ステップS12:YES)、ステップS13に進む。この場合、CPU11は、まず、記憶部13の音圧データベース32と吸音率データベース33から、指定された周波数帯域を含むレコードを抽出して音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶させる。この例では、図4に示した音圧データベース32から周波数「f1」を含むレコードが抽出されるとともに、図5に示した吸音率データベース33から周波数「f1」を含むレコードが抽出され、これらのレコードが音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報に含まれる各領域番号iについて、その領域番号iに対応付けられた界面音圧Siと吸音率αiとを乗算し、領域番号iによって識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときに車室102の全体に伝達する車内騒音の減衰量を評価値として算出する(ステップS13)。つまり、CPU11は、全評価点のうちの少なくともいずれか1つが指定されない場合には、記憶部13により各領域番号iに対応付けて記憶されている界面音圧と吸音率とをそれぞれ乗算して、当該領域番号iにより識別される領域に吸音部材が配置されたときに車室102内に伝達する音圧の低減量に応じた評価値を算出する。例えば、領域番号「1」については、図4,5に示すように、領域番号「1」と界面音圧「S1」,吸音率「α1」とが対応付けられているため、“界面音圧「S1」×吸音率「α1」”という評価値が算出される。領域番号「2」〜「1000」についても、同様に評価値が算出される。そして、算出された評価値は、メモリ12に記憶される。
【0032】
一方、この例では、評価点として「運転席」が指定されているため、CPU11は、指定された評価点が全体ではないと判断し(ステップS12:NO)、ステップS14に進む。この場合、CPU11は、まず、上述したステップS13と同様にして、記憶部13の音圧データベース32と吸音率データベース33から、指定された周波数帯域を含むレコードを抽出して音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶させる。このとき、CPU11は、音圧データベース32の相反音圧Oiについては、指定された評価点に対応する値だけを抽出する。この例では、図4に示す音圧データベース32の相反音圧Oiの値のうち、「運転席aOi」に対応する「aO1」〜「aO1000」が抽出される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報に含まれる各領域番号iについて、その領域番号iに対応付けられた界面音圧Siと相反音圧Oiと吸音率αiとを乗算し、領域番号iによって識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときの評価点に伝達する音圧の減衰量を評価値として算出する(ステップS14)。つまり、CPU11は、複数の評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、記憶部13により各領域番号に対応付けて記憶されている界面音圧と相反音圧と吸音率とを乗算して、当該領域番号により識別される領域に吸音部材が配置されたときに当該評価点に伝達する音圧の低減量に応じた評価値を算出する。例えば、領域番号「1」については、図4,5に示すように、領域番号「1」と界面音圧「S1」,運転席の相反音圧「aO1」及び吸音率「α1」とが対応付けられているため、“界面音圧「S1」×運転席の相反音圧「aO1」×吸音率「α1」”という評価値が算出される。領域番号「2」〜「1000」についても、同様に評価値が算出される。そして、算出された評価値は、メモリ12に記憶される。
【0033】
続いて、CPU11は、算出された評価値に基づいて、車内騒音の低減効果が高い領域Iiを特定する(ステップS15)。具体的には、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が大きい順に順位を付け、その順位が上から或る閾値までの領域番号iの領域Iiを特定する。例えば、閾値が10位である場合には、順位が1〜10位の領域番号iが特定される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成する(ステップS16)。そして、CPU11は、作成した評価結果テーブルTを表示部15に表示させる(ステップS17)。
【0034】
図8は、このときに表示される評価結果テーブルTの一例を示す図である。同図に示すように、この評価結果テーブルTには、車内騒音の低減効果が高いほうから順に閾値分(ここでは上位10個)の領域Iiの領域番号iがその順位に従って並べられている。また、各々の領域番号iには、その領域番号iの領域Iiの評価値と、界面音圧Siと、運転席を評価点としたときの相反音圧Oiとが対応付けられている。ここでは、表示部15において評価値そのものの値が出力されているが、出力の対象は評価値そのものではなく、この評価値に応じた情報、たとえば評価値を予め決められたランクで表現した情報や、評価値に何らかの演算を施した情報などであってもよい。同様に、界面音圧Siや相反音圧Oiも、CPU11がこれらの音圧そのものの値を算出・出力するのではなく、これらの値の指標となるような音響指標値を算出・出力するようにしてもよい。評価者は、この評価結果テーブルTの領域番号iを見ることにより、吸音部材50の配置による車内騒音の低減効果の高い領域Iiがわかるとともに、評価値を見ることにより、その領域Iiに吸音部材50を配置したときに運転席において車内騒音がどのくらい低減されるかを予測することができる。さらに、評価者は、界面音圧Siや相反音圧Oiを併せて見ることができる。そして、評価者は、例えばこの評価結果テーブルTに記述されている順位が高い領域Iiを、吸音部材50を配置する場所に選定すればよい。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、吸音部材の配置による車内騒音の低減についての評価を、相反定理に注目した、従来とは別の手法で行うことができる。また、各領域Iに吸音部材が配置されたときの車内騒音の低減についての評価を表す評価値を、前述した非特許文献1に比べて簡素な手順で効率よく計算することができる。
【0036】
[変形例]
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の各変形例を適宜組み合わせてもよい。
(変形例1)
上述した実施形態では、図5に示した吸音率データベース33を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、図9に示す吸音率データベース33Aのように、各々の領域番号iに対して、複数の吸音率αi,βi,γiが対応付けられていてもよい。これは、同一の領域Iiにおいて、種類、大きさ或いは構造の異なる複数の吸音部材50を配置し得る場合に有効である。この場合、CPU11は、上述した各領域Iiの評価値を各々の吸音率毎に算出する。
また、図10に示す吸音率データベース33Bのように、各吸音率αiに、吸音部材50のコストを表すコスト情報が対応付けられていてもよい。この場合、CPU11は、このコスト情報を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、吸音部材50のコストを考慮して、吸音部材50を配置する領域を検討することができる。
また、図11に示す吸音率データベース33Cのように、各吸音率αiに、吸音部材50の設置の難易度が対応付けられていてもよい。この難易度は、例えば作業者が実際に各々の吸音部材50を実験的に設置するときに要する時間やその作業者の主観的な作業難易度を数値化することにより特定しておけばよい。この場合、CPU11は、この設置の難易度を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、吸音部材50の設置の難易度或いは設置コストを考慮して、吸音部材50を配置する領域を検討することができる。
さらに、図10に示す吸音率データベース33Bと、図11に示す吸音率データベース33Cとを併用すれば、吸音部材50そのもののコストとその設置コストを含む生産コスト全体を検討することができる。
【0037】
(変形例2)
上述した実施形態では、図6に示した板振動型の吸音部材50を例に挙げて説明したが、吸音部材の種類乃至構造はこれに限らない。例えば、管共鳴型の吸音部材であってもよいし、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音部材であってもよいし、多孔質型の吸音部材であってもよい。また、これらの吸音部材を組み合わせてもよい。複数種類の吸音部材を組み合わせて配置する場合には、吸音率データベース33を次のように作成すればよい。まず、各領域Iiに設置される吸音部材の種類乃至構造を決定する。例えば、設置面積の広い領域Iiに対しては板駆動型の吸音部材50とし、入隅などの設置面積の狭い領域Iiに対しては管共鳴型又はヘルムホルツ共鳴器型の吸音部材とし、曲面で構成される領域Iiに対しては多孔質型の吸音部材とすることが考えられる。続いて、吸音率データベース33の各領域Iiの領域番号iに、決定した吸音部材の種類乃至構造とその吸音率とを対応付けて記述させる。この場合、CPU11は、吸音部材の種類乃至構造を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、領域Iiに配置すべき吸音部材の種類乃至構造を把握することができる。
【0038】
(変形例3)
上述した実施形態では、評価結果テーブルTを作成し、表示する例を挙げて説明したが、評価結果の出力形式はこれに限らない。例えば、CPU11が、記憶部13に記憶されている領域データベース31に基づいて、各領域Iiからなる車両100の構造を表す車両構造画像を作成し、それを表示部15に表示させてもよい。この場合、この車両構造画像においては、評価値が大きい領域番号iによって識別される領域Iiを表す領域画像と、評価値が小さい領域番号iによって識別される領域Iiを表す領域画像とが区別して表示される。図12は、このときに表示される車両構造画像F1,F2の一例を示す図である。同図に示すように、この車両構造画像F1,F2は、「天井」や「インパネ」といった車両100の各構造を表す二次元投影図であり、各領域Iiには界面音圧Siの値が配置されている。また、この車両構造画像F1,F2では、各領域Iiの表示色を、界面音圧Siの値の大きさに応じて異ならせている。なお、作成される車両構造画像は、図12に示すように二次元投影図であってもよいし、三次元図であってもよい。なお、図12は、簡易的に図示するため、図3に示した領域Iiの数より少ない領域Iiにおける界面音圧Siを表している。また、各領域Iiに配置される値は、図12に示すように界面音圧Siであってもよいし、相反音圧Oiや評価値であってもよい。また、領域Iiに配置される値の大きさに応じて、その値の表示サイズを異ならせてもよいし、矢印画像などを付加して強調表示を行ってもよい。
【0039】
(変形例4)
上述した実施形態において、領域データベース31、音圧データベース32、吸音率データベース33が車両の車種別に記憶されていてもよい。この車種としては、車両100の形状毎に分けられた細かい車種であってもよいし、セダン、ツーリングワゴンまたはワンボックスなどのように車両のタイプであってもよい。この場合、評価者は、上述した条件として車両の車種を指定する。車両の車種が指定されると、CPU11は、指定された車種に対応するデータベースを参照して上述した評価値の算出を行う。
【0040】
(変形例5)
上述した実施形態では、CPU11は、評価点の指定が無いときは“界面音圧Si×吸音率αi”を計算し、また、評価点の指定があるときは“界面音圧Si×相反音圧Oi×吸音率αi”を計算することにより、吸音手段が配置されたときに評価点に伝達する車内騒音の低減についての評価値を算出していた。評価値の算出方法はこれに限らず、例えば、CPU11は、“界面音圧Si”のみに基づいて評価値を算出してもよい。この場合、CPU11は、“界面音圧Si”そのものを評価値としてもよいし、 “界面音圧Si”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、界面音圧Siに応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“相反音圧Oi”のみに基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“相反音圧Oi”そのものを評価値としてもよいし、、“相反音圧Oi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、相反音圧Oiに応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“界面音圧Si×吸音率αi” に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“界面音圧Si×吸音率αi”そのものを評価値としてもよいし、“界面音圧Si×吸音率αi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“界面音圧Si×吸音率αi”に応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“相反音圧Oi×吸音率αi”に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“相反音圧Oi×吸音率αi”そのものを評価値としてもよいし、“相反音圧Oi×吸音率αi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“相反音圧Oi×吸音率αi”に応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“界面音圧Si×相反音圧Oi”そのものを評価値としてもよいし、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に応じた値を評価値としてもよい。吸音率を用いないで評価値を算出する方法は、主に吸音手段の配置場所を選定したいときに用いると好適であり、吸音率を用いて評価値を算出する方法は、主に入力音の低減効果を調べたいときに好適である。
また、例えば、CPU11は、次式VIにより、車内騒音の低減量そのものに相当する値ΔLを算出し、これを評価値としてもよい。
【数6】
【0041】
(変形例6)
上述した実施形態では、CPU11は、順位が閾値以上である領域番号iの領域Iiを車内騒音の低減効果が高い領域Iiとして特定していたが、入力音の低減効果が高い領域Iiを特定する方法はこれに限らない。例えば、CPU11は、評価値の平均値を算出し、評価値が平均値よりも高い領域番号iの領域Iiを低減効果が高い領域として特定してもよい。あるいは、最大の評価値との差が所定の数値以内である領域番号iの領域Iiを低減効果が高い領域Iとして特定してもよい。これらはいずれも評価値の相対的な関係に基づく考え方であるが、これ以外に、CPU11は、評価値の絶対値に基づいて、車内騒音の低減効果が高い領域Iiを特定してもよい。
また、上述した実施形態では、CPU11は、入力音の低減効果が高い領域Iiを特定していたが、この特定を行わずに、メモリ12の音圧・吸音率情報に含まれる全ての領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、車内騒音音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成してもよい。
【0042】
(変形例7)
上述した実施形態では、入力音の周波数として1つの周波数帯域が指定される場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、複数の周波数帯域が指定されてもよいし、全ての周波数帯域が指定されてもよい。この場合、CPU11は、記憶部13の音圧データベース32及び吸音率データベース33から、指定された各周波数帯域を含むレコードを抽出する。
また、このように複数の周波数帯域が指定された場合には、CPU11は、各々の周波数帯域に対応する評価値に重み付けを行ってもよい。例えば、車内騒音の周波数特性において、そのピークの周波数帯域と、ピーク以外の周波数帯域とが指定された場合には、CPU11は、ピークの周波数帯域に対応する評価値については、ピーク以外の周波数帯域よりも大きな重み付け(例えば2倍の重み付け)を行うといった具合にする。これにより、車内騒音に対して低減効果の高い領域Iiをより優先して評価者に提供することができる。
【0043】
(変形例8)
上述した実施形態では、評価対象となる領域Iiだけに吸音部材50が配置された場合の入力音の低減についての評価が行われていたが、他の領域Ij(i≠j)に配置された吸音部材50との相乗効果によって低減効果が変化する場合がある。例えば、吸音率Aの吸音部材の吸音効果がαであり、吸音率Bの吸音部材の吸音効果がβである場合に、それぞれを単独で用いたときの吸音効果はそれぞれα、βであるが、これらを同時に用いたときには、吸音効果がα+βでは無い場合がある。このような場合には、上述した相反音圧Oiを複数の吸音部材50が配置された配置パターン毎に全て計測して、音圧データベース32を作成すればよい。この場合、評価者は、上述した条件として吸音部材50の配置パターンを指定する。配置パターンが指定されると、CPU11は、指定された配置パターンに対応する相反音圧Oiを抽出して、上述した評価値の算出を行う。
【0044】
(変形例9)
上述した実施形態では、音響空間評価装置1の表示部15に評価結果テーブルTが表示されていたが、これに限らない。例えば、音響空間評価装置1が表示部15や操作部14を備えていないサーバ装置であり、クライアント装置と通信部によって通信可能に接続されている場合には、CPU11が、作成した評価結果テーブルTを通信部によってクライアント装置に送信してもよい。この場合には、通信部が出力手段として機能する。
【0045】
(変形例10)
上述した実施形態の動作説明では、特定の評価点が1つだけ指定される場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、指定される評価点が2つ以上であってもよい。この場合には、CPU11は、各々の評価点における評価値をそれぞれ別個に表示してもよいし、複数の評価点における評価値の合計値を算出し、その合計値が高い順に領域番号やその合計値などを並べて表示するようにしてもよい。
【0046】
(変形例11)
上述した実施形態で用いる吸音率は、垂直入射吸音率であってもよいし、残響室法吸音率(統計入射吸音率)であってもよいし、車室102内に形成された音響モードに対応する角度における斜入射吸音率であってもよい。また、音響エネルギーに対する吸音率であってもよいし、音圧に対する吸音率(1−音圧反射率)でもよい。要は、吸音率とは、音が減衰する量乃至割合を指標する値であればよい。
また、上述した実施形態では、吸音率を用いて評価値を算出していたが、必ずしも吸音率を用いなくてもよい。例えば、評価点Pが指定された場合には、CPU11は、各領域番号iに対応する界面音圧Siと相反音圧Oiとを乗算して、その領域番号iにより識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときにその評価点Pに伝達する車内騒音の低減についての評価値を算出し、特定の評価点Pが指定されない場合には、各領域番号iに対応する界面音圧Siに基づいて、その領域番号iにより識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときに車室102内に伝達する車内騒音の低減量に応じた評価値を算出してもよい。
また、車内騒音の低減対象として音圧を例に挙げて説明したが、これに限らず、粒子速度、音響エネルギー、音響エネルギー密度、音響パワー、音響インテンシティなどと呼ばれる音響の物理量を低減対象としてもよい。
なお、実施形態では、音波(車内騒音)の周波数fを用いて説明したが、これに変えて、音波(車内騒音)の角速度ω(=2πf)を用いてもよい。
【0047】
(変形例12)
本発明は、上述した音響空間評価装置1によって出力された内容に基づいて配置された吸音部材50を備える音響空間構造体としても特定し得る。この音響空間構造体としては、輸送機器車両や家電などの各種装置、楽器や音響機器の筐体、或いは音響室など、静寂性を確保したい構造体が考えられる。
【0048】
(変形例13)
上述した実施形態では、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が大きい順に順位を付け、その順位が上から或る閾値までの領域番号iの領域Iiを特定し、さらに、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成して表示していた。
上記とは逆に、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が小さい順に順位を付け、その順位が閾値以上の領域番号iの領域Iiを特定し、さらに、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成して表示するようにしてもよい。このように、音響性能の向上にあまり寄与しない領域を特定して提示することで、騒音低減の効果(寄与)が少ない領域であるならば、吸音効果が低くても安価な吸音部材をそこに配置し、その結果、コストダウンを図ることが可能となる。
【0049】
(変形例14)
上述した実施形態において、CPU11により実行されていた処理は、他のハードウェアとの協働により行われてもよいし、CPU11以外の1又は複数のハードウェアにより行われてもよい。また、CPU11によって実行される各プログラムは、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体、光ディスクなどの光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリなどの、コンピュータ装置が読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムを、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。また、このプログラムは、単体で流通するアプリケーションソフトウエアであってもよいし、このアプリケーションソフトウェアに付属するマクロと呼ばれるプログラムであってよい。
【符号の説明】
【0050】
1…音響空間評価装置、11…CPU、12…メモリ、13…記憶部、14…操作部、15…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音手段の配置による入力音の低減を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内部には、車室内の静寂性を確保するために、防音材が配置されている。非特許文献1には、残響理論に基づいて、車室に吸音部材を設置する前後における騒音の低減効果を計算する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】山口 久弥、「音響材料とその適用技術の動向」、自動車技術、技術会通信、2003年、Vol.57,No.7,p88−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記非特許文献1に記載された方法は、残響理論が成立することを前提としているため、車室のように拡散音場の条件や残響理論が成立しない小空間において、車内に存在する騒音のような低周波数の入力音の低減効果を求めるのには適さない。また、上記非特許文献1に記載された方法では、低減効果の計算に必要な各種データを得るのに手間がかかるとともに、吸音部材間の伝達特性を用いる必要があるなど、その計算手順も複雑である。よって、車両の構造を細かい領域に分けて、高空間分解能で車内騒音の低減効果を計算するには不向きである。
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、吸音手段の配置による音の低減についての評価をより効率よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかがが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0006】
この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出するようにしてもよい。
【0007】
また、本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに当該領域を通じて入力される入力音が前記評価点に伝達するときの低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0008】
この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出するようにしてもよい。
【0009】
また、本発明は、吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力される入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面入力音響指標値と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段とを備えることを特徴とする音響空間評価装置を提供する。
【0010】
この音響空間評価装置において、前記算出手段は、特定の前記評価点が指定されない場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記音響空間内に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出するようにしてもよい。
【0011】
また、この音響空間評価装置において、前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、前記算出手段は、複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出することを特徴とする。
【0012】
上記のいずれの音響空間評価装置においても、前記記憶手段の記憶内容は、前記入力音の周波数帯域毎に分けられており、前記算出手段は、入力音の周波数帯域が指定された場合には、前記記憶手段に記憶されている当該周波数帯域に対応する内容を用いて、前記評価値を算出するようにしてもよい。
【0013】
また、上記音響空間評価装置のいずれにおいても、前記記憶手段の記憶内容は、前記音響空間の形状毎に分けられており、前記算出手段は、音響空間の形状が指定された場合には、前記記憶手段に記憶されている当該形状に対応する内容を用いて、前記評価値を算出するようにしてもよい。
【0014】
本発明は、上記音響空間評価装置によって出力された内容に基づいて前記音響空間に配置された前記吸音手段を備えることを特徴とする音響空間構造体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、吸音手段の配置による音の低減についての評価をより効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の原理を説明する図である。
【図2】本実施形態に係る音響空間評価装置の構成を示すブロック図である。
【図3】上記音響空間評価装置が記憶する領域データベースの内容を説明する図である。
【図4】上記音響空間評価装置が記憶する音圧データベースの一例を示す図である。
【図5】上記音響空間評価装置が記憶する吸音率データベースの一例を示す図である。
【図6】本実施形態に係る吸音部材の構造を示す図である。
【図7】上記音響空間評価装置の動作を示すフロー図である。
【図8】上記音響空間評価装置にて表示される評価結果テーブルの一例を示す図である。
【図9】変形例に係る吸音率データベースの一例を示す図である。
【図10】変形例に係る吸音率データベースの別の一例を示す図である。
【図11】変形例に係る吸音率データベースの別の一例を示す図である。
【図12】変形例に係る評価装置にて表示される車両構造画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、図1を参照して、本実施形態の原理について説明する。
図1(a)は、車両100における車内騒音のモデル化を説明する図である。車内騒音とは、車両が走行する際に車室102内に存在する騒音であって、例えば路面とタイヤとの間に摩擦が生じることで発生する音や、車両が路面走行時に振動することによって車両の各部品から発生する音のほか、エンジンから発生する音や走行中の車両の風切り音などを含む。図中の評価点Pは、車室102内の運転席や助手席に座っている人間の耳の位置(音を聴取する位置)に相当し、車内騒音を低減させる対象となる場所を表している。領域Ii(i=1,2,・・・n)は、車室102を他の空間から区画する境界面(例えば車両100のシャーシの壁面や内装材の壁面)を複数に分割したときの各要素を表している。入力音圧Riは、ある領域Iiから車室120内に入力される車内騒音の音圧である。伝達関数HEiは、ある領域Iiから車室102内に入力される車内騒音の入力音圧Riに対する、その入力音圧Riが評価点Pに到達したときの音圧の応答を示す関数である。
【0018】
シャーシダイナモ110を用いて、車両100に走行状態と近似するような振動を加えると、車内騒音が発生する。この車内騒音は、前述した領域Iiから車室102内へと侵入する。このとき、車室102の評価点Pにおける音圧E(f)は、各領域Iiから車室102内に入力される車内騒音の入力音圧Ri(f)と、各領域Iiから評価点Pへと音圧が伝搬するときの伝達関数HEi(f)との積和である次式Iにより表される。なお、fは、音波(車内騒音)の周波数を意味している。
【数1】
なお、上記のΣは、領域Iiに関する和を表す(以下において同じ)。
次に、図1(b)に示すように、評価点Pにて発音し、この評価点Pから一定の音圧が車室102内に入力される場合を考える。この場合、音響空間を形成する車室102の形状や、シャーシ或いは内装材の材料などの諸条件に応じて、評価点Pから各領域Iiに至る音の音圧が領域Iiごとに異なる。この評価点Pから入力される音圧が或る領域Iiに到達するときの音圧が大きいほど、その領域Iiから評価点Pに到達する音の音圧も大きいことになる。従って、その領域Iiに吸音部材を配置するということは、評価点Pに対する車内騒音の低減への寄与が高いことになる。以下の説明では、評価点Pから領域Iiに音が到達するときの音圧を「相反音圧」と呼ぶ。つまり、相反音圧は、各々の領域Iiによって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域Iiにおける音響物理量の指標値(相反音響指標値)の一例である。ここで、評価点Pと領域Iiとの間で相反定理が成立すると仮定すれば、図1(a)に示した伝達関数HEiは、図1(b)に示す評価点Pから領域Iiへと音が伝達されるときの伝達関数HSiと等価となる。また、領域Iiから車室102内に入力される入力音圧Riと同じ量の音圧が評価点Pから車室102内に入力されるとしたときに、領域Iiで観測される音圧を相反音圧Oiとする。このとき、伝達関数HSi(f)は、評価点Pから入力された音圧Ri(f)に対する各領域Iiの相反音圧Oi(f)を用いた次式IIにより表される。
【数2】
【0019】
ここで、上述した入力音圧Riを、領域Iiに設置したマイクロホンによって計測する場合を考える。この場合、図1(c)に示すように、マイクロホンによって計測される音圧は、入力された車内騒音が車室102内の至るところを反射して戻ってきたときの反射音の音圧になる。以下の説明では、この反射音の音圧を「界面音圧」と呼ぶ。つまり、界面音圧は、各々の領域Iiによって囲まれた音響空間内に当該領域Iiを通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域Iiに戻ってきた反射音の音響物理量の指標値(界面音響指標値)の一例である。この界面音圧Si(f)は、領域Iiから入力された車内騒音が反射して元の領域Iiに伝達されるときの伝達関数HNi(f)と入力音圧Ri(f)との積である次式IIIにより表される。
【数3】
【0020】
このとき、伝達関数HNi(f)=k2(定数)であると仮定すれば、界面音圧Siは、入力音圧Riの比例した上述した式I〜IIIにより、評価点Pの音圧E(f)は、相反音圧Oi(f)と界面音圧Si(f)との積和である次式IVにより表される。
【数4】
【0021】
このようにして作成された車内騒音モデル(式IV)を利用することにより、例えば車両100の内装設計において、吸音部材を配置する最適な場所の選定に役立てることができる。例えば、界面音圧Siまたは相反音圧Oiの高い領域Iiに吸音部材を配置すれば、車内騒音を効率的に吸収できることがわかるため、吸音部材を配置する場所として界面音圧Siまたは相反音圧Oiの高い領域Iiを選定するといった利用が考えられる。
【0022】
さらに、各領域Iiに配置される吸音部材の吸音率を用いれば、次式Vにより、各領域Iiに吸音部材を設置したときの音響エネルギー(車内騒音)の総減衰量を求めることができる。
【数5】
これにより、各領域Iiに吸音部材を設置したときに、車内騒音が低減される程度がわかる。
【0023】
[構成]
次に、図2を参照して、入力音の低減を評価する音響空間評価装置1の構成について説明する。図2は、音響空間評価装置1の構成を示すブロック図である。この音響空間評価装置1は、コンピュータ装置であり、CPU(Central Processing Unit)11と、メモリ12と、記憶部13と、操作部14と、表示部15とを備えている。この実施形態では、算出手段としてCPU11を、記憶手段として記憶部13を、出力手段として表示部15を用いている。CPU11は、メモリ12又は記憶部13に記憶されているプログラムを実行して、各種の処理を行う。メモリ12は、ROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)などを備えており、CPU11によって実行されるプログラムや各種のデータなどを記憶している。記憶部13は、例えばハードディスクであり、領域データベース31、音圧データベース32、吸音率データベース33などを記憶している。操作部14は、例えばマウスとキーボードであり、評価者の操作を受け付け、その操作に応じた信号をCPU11に入力する。表示部15は、例えば液晶ディスプレイであり、CPU11により供給されたデータに応じた画像を表示する。
【0024】
次に、記憶部13に記憶されている各データベースの内容について説明する。以下に説明するように、記憶部13は、入力音の周波数帯域毎に、吸音部材が配置される各々の領域Iiを識別する領域番号と、各々の領域Iiによって囲まれた車室102内に当該領域から入力される入力音の音圧の指標値である界面音圧Siと、車室102内にて音圧を評価する点として決められた複数の評価点でそれぞれ発音したときの、各々の領域Iiにおける音圧の指標値である相反音圧Oiと、当該領域Iiに配置される吸音部材の吸音率とを対応付けて記憶している。まず、図3を参照して、領域データベース31の内容について説明する。図3は、車室102を他の空間から区画する境界面を複数の領域Iiに分割した様子を示す図であり、図中の三角形の領域の1つ1つが領域Iiである。この評価対象となる車両100には、吸音部材が配置されることになる。領域データベース31には、図中の各領域Iiの位置を表す位置情報と、各領域Iiを識別する領域情報である領域番号とが対応付けられて記述されている。この領域Iiの位置情報は、例えば3次元座標などを用いて表される。
【0025】
次に、図4を参照して、音圧データベース32の内容について説明する。図4は、音圧データベース32の一例を示す図である。同図に示すように、この音圧データベース32では、入力音の「周波数帯域」毎に、「領域番号i」と「界面音圧Si」と「相反音圧Oi」とが対応付けて記述されている。ここでいう「周波数帯域」とは、例えば160Hzというように、1つの周波数そのものを指定するものであってもよいし、150〜170Hzというように、周波数の範囲を指定するものであってもよい(以下において同じ)。「領域番号i」は、前述した各領域Iiを識別する領域情報である。「界面音圧Si」は、図3に示した各領域Iiにおいて、領域Iiから車室102内に入力される入力音圧Riに、この入力音圧Riが他の領域Iiで反射して戻ってきたときの反射音の音圧を加えた音圧である。「相反音圧Oi」は、図3に示した各領域Iiにおいて、「運転席」,「助手席」,「右後席」,「左後席」,「中後席」という各評価点から入力された音が領域Iiに到達するときの音圧である。界面音圧Si及び相反音圧Oiは、いずれも絶対的な値で表された音圧であってもよいし、他の領域Iiの音圧との相対的な量を表した値であってもよい。また特に、相反音圧Oiは、各評価点から入力された音が領域Iiに到達する割合を示す値であってもよい。要するに、界面音圧Si及び相反音圧Oiは、各領域Iiにおける音響エネルギーの違いを表現できるような指標値であればよい。
【0026】
ここで、音圧データベース32の界面音圧Si及び相反音圧Oiの値を得る方法について説明する。これらの値は、実測や数値解析により求めることができる。例えば、界面音圧Siの値は、次のようにして計測することができる。まず、評価対象となる車両100において、図3に示した各領域Iiにマイクロホンを設置する。続いて、シャーシダイナモなどを用いて、この車両100を走行状態にして、車内騒音を発生させる。この車内騒音は、各領域Iiに設置されたマイクロホンにより受音される。車内騒音を受音すると、マイクロホンは、その音圧を計測する。そして、各マイクロホンで計測された音圧を、そのマイクロホンが設置された領域Iiにおける界面音圧Siとする。このようにして、音圧データベース32に記述される界面音圧Siの値を得ることができる。
【0027】
相反音圧Oiの値は、次のようにして計測することができる。まず、上述と同様にして、図3に示した各領域Iiにマイクロホンを設置するとともに、評価対象となる車両100の各評価点に無指向性のスピーカを設置する。この例では、運転席、助手席、右後席、左後席、中後席という各評価点Pにスピーカが設置される。続いて、いずれかの1つの評価点に設置されたスピーカから音を発生させる。このスピーカから発生された音は、各領域Iiに設置されたマイクロホンにより受音される。スピーカから放出された音を受音すると、マイクロホンは、その音圧を計測する。そして、各マイクロホンで計測された音圧を、そのマイクロホンが設置された領域Iiにおけるその評価点についての相反音圧Oiとする。これを、全ての評価点について行うことにより、音圧データベース32に記述される相反音圧Oiの値を得ることができる。そして、このようにして得られた界面音圧Si及び相反音圧Oiの値が記述されることにより、図4に示した音圧データベース32が作成される。なお、この相反音圧Oiの値は、上記の手法以外に、例えば境界要素法(BEM)や有限要素法(FEM)やその他の数値解析法を用いて特定することもできる。
【0028】
次に、図5を参照して、吸音率データベース33の内容について説明する。図5は、吸音率データベース33の一例を示す図である。同図に示すように、吸音率データベース33では、入力音の「周波数帯域」毎に、「領域番号i」と「吸音率αi」とが対応付けて記述されている。「領域番号i」は、前述した各領域Iiを識別する領域情報である。「吸音率αi」は、図3に示した各領域Iiに配置される吸音部材の吸音率である。各々の領域Iiによって吸音率が異なるのは、領域Ii毎に設置し得る吸音部材の種類、大きさ或いは構造などが異なるためである。この吸音率αiの値は、領域Ii毎に設置し得る吸音部材を用いて吸音率を実測したり、或いは領域Ii毎に設置し得る吸音部材をモデル化して数値解析を行うことにより求めることができる。
【0029】
ここで、図6を参照して、吸音部材50の構造について説明する。本実施形態では、吸音手段として吸音部材50を用いている。図6(a)は、吸音部材50の外観を示す斜視図であり、図6(b)は、吸音部材50の断面図である。同図に示すように、吸音部材50は、板振動型の音圧駆動の吸音部材であり、開口部52を有する矩形状の筐体51と、開口部52を閉塞する振動板53と、筐体51内に画成される空気層54とを備えている。筐体51は、例えばABS樹脂などの合成樹脂材料によって形成されており、振動板53は、例えば無機充填材入りオレフィン系共重合体などの高分子化合物によってシート状に形成されている。この吸音部材50においては、振動板53に伝わる音圧と空気層54側の音圧との差(即ち、振動板53の前後の音圧差)によって振動板53が駆動される。これにより、吸音部材50に到達する音波のエネルギーは、この振動板53の振動により消費されて音が吸音されることになる。また、この吸音部材50は、吸音ピークの周波数が空気層54のバネ成分と振動板53の質量成分とにより決定されるバネマス系の共振周波数より低くなるように設定されており、車内騒音などの比較的低い周波数帯域の音を効率よく吸音することができる。
【0030】
[動作]
次に、図7を参照して、音響空間評価装置1の動作について説明する。図7は、音響空間評価装置1の動作を示すフロー図である。まず、評価者は、音響空間評価装置1の操作部14を操作して、車内騒音を低減させる対象である評価点と、低減させる車内騒音の周波数帯域とを、条件として指定する。ここでは、評価点として「運転席」が指定され、低減させる車内騒音の周波数帯域として「f1」が指定された場合を想定する。なお、車室102の全体において車内騒音を低減させたい場合には、評価点として「全体」が指定されることになるが、このように、評価点として「全体」が指定されるということは、全評価点のうちの或る特定の評価点が指定されないということである。つまり、騒音の低減対象として、特定の評価点に限定するのではなく、どの評価点で低減するかを問わずに領域全体で評価するという考え方である。
【0031】
このように、評価者の操作により、評価点及び周波数帯域が指定されると、これらの条件がCPU11に入力される(ステップS11)。条件が入力されると、CPU11は、指定された評価点が全体であるか否かを判断する(ステップS12)。仮に、評価点として「全体」が指定された場合、CPU11は、指定された評価点が全体であると判断し(ステップS12:YES)、ステップS13に進む。この場合、CPU11は、まず、記憶部13の音圧データベース32と吸音率データベース33から、指定された周波数帯域を含むレコードを抽出して音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶させる。この例では、図4に示した音圧データベース32から周波数「f1」を含むレコードが抽出されるとともに、図5に示した吸音率データベース33から周波数「f1」を含むレコードが抽出され、これらのレコードが音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報に含まれる各領域番号iについて、その領域番号iに対応付けられた界面音圧Siと吸音率αiとを乗算し、領域番号iによって識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときに車室102の全体に伝達する車内騒音の減衰量を評価値として算出する(ステップS13)。つまり、CPU11は、全評価点のうちの少なくともいずれか1つが指定されない場合には、記憶部13により各領域番号iに対応付けて記憶されている界面音圧と吸音率とをそれぞれ乗算して、当該領域番号iにより識別される領域に吸音部材が配置されたときに車室102内に伝達する音圧の低減量に応じた評価値を算出する。例えば、領域番号「1」については、図4,5に示すように、領域番号「1」と界面音圧「S1」,吸音率「α1」とが対応付けられているため、“界面音圧「S1」×吸音率「α1」”という評価値が算出される。領域番号「2」〜「1000」についても、同様に評価値が算出される。そして、算出された評価値は、メモリ12に記憶される。
【0032】
一方、この例では、評価点として「運転席」が指定されているため、CPU11は、指定された評価点が全体ではないと判断し(ステップS12:NO)、ステップS14に進む。この場合、CPU11は、まず、上述したステップS13と同様にして、記憶部13の音圧データベース32と吸音率データベース33から、指定された周波数帯域を含むレコードを抽出して音圧・吸音率情報としてメモリ12に記憶させる。このとき、CPU11は、音圧データベース32の相反音圧Oiについては、指定された評価点に対応する値だけを抽出する。この例では、図4に示す音圧データベース32の相反音圧Oiの値のうち、「運転席aOi」に対応する「aO1」〜「aO1000」が抽出される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報に含まれる各領域番号iについて、その領域番号iに対応付けられた界面音圧Siと相反音圧Oiと吸音率αiとを乗算し、領域番号iによって識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときの評価点に伝達する音圧の減衰量を評価値として算出する(ステップS14)。つまり、CPU11は、複数の評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、記憶部13により各領域番号に対応付けて記憶されている界面音圧と相反音圧と吸音率とを乗算して、当該領域番号により識別される領域に吸音部材が配置されたときに当該評価点に伝達する音圧の低減量に応じた評価値を算出する。例えば、領域番号「1」については、図4,5に示すように、領域番号「1」と界面音圧「S1」,運転席の相反音圧「aO1」及び吸音率「α1」とが対応付けられているため、“界面音圧「S1」×運転席の相反音圧「aO1」×吸音率「α1」”という評価値が算出される。領域番号「2」〜「1000」についても、同様に評価値が算出される。そして、算出された評価値は、メモリ12に記憶される。
【0033】
続いて、CPU11は、算出された評価値に基づいて、車内騒音の低減効果が高い領域Iiを特定する(ステップS15)。具体的には、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が大きい順に順位を付け、その順位が上から或る閾値までの領域番号iの領域Iiを特定する。例えば、閾値が10位である場合には、順位が1〜10位の領域番号iが特定される。続いて、CPU11は、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成する(ステップS16)。そして、CPU11は、作成した評価結果テーブルTを表示部15に表示させる(ステップS17)。
【0034】
図8は、このときに表示される評価結果テーブルTの一例を示す図である。同図に示すように、この評価結果テーブルTには、車内騒音の低減効果が高いほうから順に閾値分(ここでは上位10個)の領域Iiの領域番号iがその順位に従って並べられている。また、各々の領域番号iには、その領域番号iの領域Iiの評価値と、界面音圧Siと、運転席を評価点としたときの相反音圧Oiとが対応付けられている。ここでは、表示部15において評価値そのものの値が出力されているが、出力の対象は評価値そのものではなく、この評価値に応じた情報、たとえば評価値を予め決められたランクで表現した情報や、評価値に何らかの演算を施した情報などであってもよい。同様に、界面音圧Siや相反音圧Oiも、CPU11がこれらの音圧そのものの値を算出・出力するのではなく、これらの値の指標となるような音響指標値を算出・出力するようにしてもよい。評価者は、この評価結果テーブルTの領域番号iを見ることにより、吸音部材50の配置による車内騒音の低減効果の高い領域Iiがわかるとともに、評価値を見ることにより、その領域Iiに吸音部材50を配置したときに運転席において車内騒音がどのくらい低減されるかを予測することができる。さらに、評価者は、界面音圧Siや相反音圧Oiを併せて見ることができる。そして、評価者は、例えばこの評価結果テーブルTに記述されている順位が高い領域Iiを、吸音部材50を配置する場所に選定すればよい。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、吸音部材の配置による車内騒音の低減についての評価を、相反定理に注目した、従来とは別の手法で行うことができる。また、各領域Iに吸音部材が配置されたときの車内騒音の低減についての評価を表す評価値を、前述した非特許文献1に比べて簡素な手順で効率よく計算することができる。
【0036】
[変形例]
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の各変形例を適宜組み合わせてもよい。
(変形例1)
上述した実施形態では、図5に示した吸音率データベース33を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、図9に示す吸音率データベース33Aのように、各々の領域番号iに対して、複数の吸音率αi,βi,γiが対応付けられていてもよい。これは、同一の領域Iiにおいて、種類、大きさ或いは構造の異なる複数の吸音部材50を配置し得る場合に有効である。この場合、CPU11は、上述した各領域Iiの評価値を各々の吸音率毎に算出する。
また、図10に示す吸音率データベース33Bのように、各吸音率αiに、吸音部材50のコストを表すコスト情報が対応付けられていてもよい。この場合、CPU11は、このコスト情報を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、吸音部材50のコストを考慮して、吸音部材50を配置する領域を検討することができる。
また、図11に示す吸音率データベース33Cのように、各吸音率αiに、吸音部材50の設置の難易度が対応付けられていてもよい。この難易度は、例えば作業者が実際に各々の吸音部材50を実験的に設置するときに要する時間やその作業者の主観的な作業難易度を数値化することにより特定しておけばよい。この場合、CPU11は、この設置の難易度を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、吸音部材50の設置の難易度或いは設置コストを考慮して、吸音部材50を配置する領域を検討することができる。
さらに、図10に示す吸音率データベース33Bと、図11に示す吸音率データベース33Cとを併用すれば、吸音部材50そのもののコストとその設置コストを含む生産コスト全体を検討することができる。
【0037】
(変形例2)
上述した実施形態では、図6に示した板振動型の吸音部材50を例に挙げて説明したが、吸音部材の種類乃至構造はこれに限らない。例えば、管共鳴型の吸音部材であってもよいし、ヘルムホルツ共鳴器型の吸音部材であってもよいし、多孔質型の吸音部材であってもよい。また、これらの吸音部材を組み合わせてもよい。複数種類の吸音部材を組み合わせて配置する場合には、吸音率データベース33を次のように作成すればよい。まず、各領域Iiに設置される吸音部材の種類乃至構造を決定する。例えば、設置面積の広い領域Iiに対しては板駆動型の吸音部材50とし、入隅などの設置面積の狭い領域Iiに対しては管共鳴型又はヘルムホルツ共鳴器型の吸音部材とし、曲面で構成される領域Iiに対しては多孔質型の吸音部材とすることが考えられる。続いて、吸音率データベース33の各領域Iiの領域番号iに、決定した吸音部材の種類乃至構造とその吸音率とを対応付けて記述させる。この場合、CPU11は、吸音部材の種類乃至構造を含む評価結果テーブルを作成する。これにより、評価者は、領域Iiに配置すべき吸音部材の種類乃至構造を把握することができる。
【0038】
(変形例3)
上述した実施形態では、評価結果テーブルTを作成し、表示する例を挙げて説明したが、評価結果の出力形式はこれに限らない。例えば、CPU11が、記憶部13に記憶されている領域データベース31に基づいて、各領域Iiからなる車両100の構造を表す車両構造画像を作成し、それを表示部15に表示させてもよい。この場合、この車両構造画像においては、評価値が大きい領域番号iによって識別される領域Iiを表す領域画像と、評価値が小さい領域番号iによって識別される領域Iiを表す領域画像とが区別して表示される。図12は、このときに表示される車両構造画像F1,F2の一例を示す図である。同図に示すように、この車両構造画像F1,F2は、「天井」や「インパネ」といった車両100の各構造を表す二次元投影図であり、各領域Iiには界面音圧Siの値が配置されている。また、この車両構造画像F1,F2では、各領域Iiの表示色を、界面音圧Siの値の大きさに応じて異ならせている。なお、作成される車両構造画像は、図12に示すように二次元投影図であってもよいし、三次元図であってもよい。なお、図12は、簡易的に図示するため、図3に示した領域Iiの数より少ない領域Iiにおける界面音圧Siを表している。また、各領域Iiに配置される値は、図12に示すように界面音圧Siであってもよいし、相反音圧Oiや評価値であってもよい。また、領域Iiに配置される値の大きさに応じて、その値の表示サイズを異ならせてもよいし、矢印画像などを付加して強調表示を行ってもよい。
【0039】
(変形例4)
上述した実施形態において、領域データベース31、音圧データベース32、吸音率データベース33が車両の車種別に記憶されていてもよい。この車種としては、車両100の形状毎に分けられた細かい車種であってもよいし、セダン、ツーリングワゴンまたはワンボックスなどのように車両のタイプであってもよい。この場合、評価者は、上述した条件として車両の車種を指定する。車両の車種が指定されると、CPU11は、指定された車種に対応するデータベースを参照して上述した評価値の算出を行う。
【0040】
(変形例5)
上述した実施形態では、CPU11は、評価点の指定が無いときは“界面音圧Si×吸音率αi”を計算し、また、評価点の指定があるときは“界面音圧Si×相反音圧Oi×吸音率αi”を計算することにより、吸音手段が配置されたときに評価点に伝達する車内騒音の低減についての評価値を算出していた。評価値の算出方法はこれに限らず、例えば、CPU11は、“界面音圧Si”のみに基づいて評価値を算出してもよい。この場合、CPU11は、“界面音圧Si”そのものを評価値としてもよいし、 “界面音圧Si”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、界面音圧Siに応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“相反音圧Oi”のみに基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“相反音圧Oi”そのものを評価値としてもよいし、、“相反音圧Oi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、相反音圧Oiに応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“界面音圧Si×吸音率αi” に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“界面音圧Si×吸音率αi”そのものを評価値としてもよいし、“界面音圧Si×吸音率αi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“界面音圧Si×吸音率αi”に応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“相反音圧Oi×吸音率αi”に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“相反音圧Oi×吸音率αi”そのものを評価値としてもよいし、“相反音圧Oi×吸音率αi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“相反音圧Oi×吸音率αi”に応じた値を評価値としてもよい。また、CPU11は、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に基づいて評価値を算出してもよく、例えば、“界面音圧Si×相反音圧Oi”そのものを評価値としてもよいし、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に対して何らかの演算を行い、その結果得られた、“界面音圧Si×相反音圧Oi”に応じた値を評価値としてもよい。吸音率を用いないで評価値を算出する方法は、主に吸音手段の配置場所を選定したいときに用いると好適であり、吸音率を用いて評価値を算出する方法は、主に入力音の低減効果を調べたいときに好適である。
また、例えば、CPU11は、次式VIにより、車内騒音の低減量そのものに相当する値ΔLを算出し、これを評価値としてもよい。
【数6】
【0041】
(変形例6)
上述した実施形態では、CPU11は、順位が閾値以上である領域番号iの領域Iiを車内騒音の低減効果が高い領域Iiとして特定していたが、入力音の低減効果が高い領域Iiを特定する方法はこれに限らない。例えば、CPU11は、評価値の平均値を算出し、評価値が平均値よりも高い領域番号iの領域Iiを低減効果が高い領域として特定してもよい。あるいは、最大の評価値との差が所定の数値以内である領域番号iの領域Iiを低減効果が高い領域Iとして特定してもよい。これらはいずれも評価値の相対的な関係に基づく考え方であるが、これ以外に、CPU11は、評価値の絶対値に基づいて、車内騒音の低減効果が高い領域Iiを特定してもよい。
また、上述した実施形態では、CPU11は、入力音の低減効果が高い領域Iiを特定していたが、この特定を行わずに、メモリ12の音圧・吸音率情報に含まれる全ての領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、車内騒音音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成してもよい。
【0042】
(変形例7)
上述した実施形態では、入力音の周波数として1つの周波数帯域が指定される場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、複数の周波数帯域が指定されてもよいし、全ての周波数帯域が指定されてもよい。この場合、CPU11は、記憶部13の音圧データベース32及び吸音率データベース33から、指定された各周波数帯域を含むレコードを抽出する。
また、このように複数の周波数帯域が指定された場合には、CPU11は、各々の周波数帯域に対応する評価値に重み付けを行ってもよい。例えば、車内騒音の周波数特性において、そのピークの周波数帯域と、ピーク以外の周波数帯域とが指定された場合には、CPU11は、ピークの周波数帯域に対応する評価値については、ピーク以外の周波数帯域よりも大きな重み付け(例えば2倍の重み付け)を行うといった具合にする。これにより、車内騒音に対して低減効果の高い領域Iiをより優先して評価者に提供することができる。
【0043】
(変形例8)
上述した実施形態では、評価対象となる領域Iiだけに吸音部材50が配置された場合の入力音の低減についての評価が行われていたが、他の領域Ij(i≠j)に配置された吸音部材50との相乗効果によって低減効果が変化する場合がある。例えば、吸音率Aの吸音部材の吸音効果がαであり、吸音率Bの吸音部材の吸音効果がβである場合に、それぞれを単独で用いたときの吸音効果はそれぞれα、βであるが、これらを同時に用いたときには、吸音効果がα+βでは無い場合がある。このような場合には、上述した相反音圧Oiを複数の吸音部材50が配置された配置パターン毎に全て計測して、音圧データベース32を作成すればよい。この場合、評価者は、上述した条件として吸音部材50の配置パターンを指定する。配置パターンが指定されると、CPU11は、指定された配置パターンに対応する相反音圧Oiを抽出して、上述した評価値の算出を行う。
【0044】
(変形例9)
上述した実施形態では、音響空間評価装置1の表示部15に評価結果テーブルTが表示されていたが、これに限らない。例えば、音響空間評価装置1が表示部15や操作部14を備えていないサーバ装置であり、クライアント装置と通信部によって通信可能に接続されている場合には、CPU11が、作成した評価結果テーブルTを通信部によってクライアント装置に送信してもよい。この場合には、通信部が出力手段として機能する。
【0045】
(変形例10)
上述した実施形態の動作説明では、特定の評価点が1つだけ指定される場合を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、指定される評価点が2つ以上であってもよい。この場合には、CPU11は、各々の評価点における評価値をそれぞれ別個に表示してもよいし、複数の評価点における評価値の合計値を算出し、その合計値が高い順に領域番号やその合計値などを並べて表示するようにしてもよい。
【0046】
(変形例11)
上述した実施形態で用いる吸音率は、垂直入射吸音率であってもよいし、残響室法吸音率(統計入射吸音率)であってもよいし、車室102内に形成された音響モードに対応する角度における斜入射吸音率であってもよい。また、音響エネルギーに対する吸音率であってもよいし、音圧に対する吸音率(1−音圧反射率)でもよい。要は、吸音率とは、音が減衰する量乃至割合を指標する値であればよい。
また、上述した実施形態では、吸音率を用いて評価値を算出していたが、必ずしも吸音率を用いなくてもよい。例えば、評価点Pが指定された場合には、CPU11は、各領域番号iに対応する界面音圧Siと相反音圧Oiとを乗算して、その領域番号iにより識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときにその評価点Pに伝達する車内騒音の低減についての評価値を算出し、特定の評価点Pが指定されない場合には、各領域番号iに対応する界面音圧Siに基づいて、その領域番号iにより識別される領域Iiに吸音部材50が配置されたときに車室102内に伝達する車内騒音の低減量に応じた評価値を算出してもよい。
また、車内騒音の低減対象として音圧を例に挙げて説明したが、これに限らず、粒子速度、音響エネルギー、音響エネルギー密度、音響パワー、音響インテンシティなどと呼ばれる音響の物理量を低減対象としてもよい。
なお、実施形態では、音波(車内騒音)の周波数fを用いて説明したが、これに変えて、音波(車内騒音)の角速度ω(=2πf)を用いてもよい。
【0047】
(変形例12)
本発明は、上述した音響空間評価装置1によって出力された内容に基づいて配置された吸音部材50を備える音響空間構造体としても特定し得る。この音響空間構造体としては、輸送機器車両や家電などの各種装置、楽器や音響機器の筐体、或いは音響室など、静寂性を確保したい構造体が考えられる。
【0048】
(変形例13)
上述した実施形態では、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が大きい順に順位を付け、その順位が上から或る閾値までの領域番号iの領域Iiを特定し、さらに、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成して表示していた。
上記とは逆に、CPU11は、メモリ12に記憶された音圧・吸音率情報の各領域番号iに対して評価値が小さい順に順位を付け、その順位が閾値以上の領域番号iの領域Iiを特定し、さらに、メモリ12に記憶されている音圧・吸音率情報から、特定した領域Iiの領域番号iと、その領域番号iに対応する評価値、界面音圧及び相反音圧とを抽出して、評価結果テーブルTを作成して表示するようにしてもよい。このように、音響性能の向上にあまり寄与しない領域を特定して提示することで、騒音低減の効果(寄与)が少ない領域であるならば、吸音効果が低くても安価な吸音部材をそこに配置し、その結果、コストダウンを図ることが可能となる。
【0049】
(変形例14)
上述した実施形態において、CPU11により実行されていた処理は、他のハードウェアとの協働により行われてもよいし、CPU11以外の1又は複数のハードウェアにより行われてもよい。また、CPU11によって実行される各プログラムは、磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体、光ディスクなどの光記録媒体、光磁気記録媒体、半導体メモリなどの、コンピュータ装置が読み取り可能な記録媒体に記憶された状態で提供し得る。また、このプログラムを、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。また、このプログラムは、単体で流通するアプリケーションソフトウエアであってもよいし、このアプリケーションソフトウェアに付属するマクロと呼ばれるプログラムであってよい。
【符号の説明】
【0050】
1…音響空間評価装置、11…CPU、12…メモリ、13…記憶部、14…操作部、15…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響空間評価装置。
【請求項3】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに当該領域を通じて入力される入力音が前記評価点に伝達するときの低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の音響空間評価装置。
【請求項5】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力される入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面入力音響指標値と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項6】
前記算出手段は、特定の前記評価点が指定されない場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記音響空間内に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の音響空間評価装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の音響空間評価装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の音響空間評価装置によって出力された内容に基づいて前記音響空間に配置された前記吸音手段を備えることを特徴とする音響空間構造体。
【請求項1】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力された入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点のいずれかが指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の音響空間評価装置。
【請求項3】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに当該領域を通じて入力される入力音が前記評価点に伝達するときの低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の音響空間評価装置。
【請求項5】
吸音手段が配置される各々の領域を識別する領域情報と、各々の前記領域によって囲まれた音響空間内に当該領域を通じて入力される入力音及び当該入力音が当該音響空間内で反射して当該領域に戻ってきた反射音の音響物理量の指標値である界面入力音響指標値と、前記音響空間内にて音響物理量を評価する点として決められた複数の評価点にてそれぞれ発音したときの、各々の前記領域における音響物理量の指標値である相反音響指標値とを対応付けて記憶する記憶手段と、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合に、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する算出手段と、
前記算出手段によって算出された評価値または当該評価値に応じた情報を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする音響空間評価装置。
【請求項6】
前記算出手段は、特定の前記評価点が指定されない場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値に基づいて、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記音響空間内に伝達する前記入力音の低減についての評価値を算出する
ことを特徴とする請求項5記載の音響空間評価装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、各々の領域を識別する前記領域情報と、当該領域に配置される前記吸音手段の吸音率とを対応付けて記憶し、
前記算出手段は、
複数の前記評価点のうちのいずれかの評価点が指定された場合には、前記記憶手段により各領域情報に対応付けて記憶されている前記界面音響指標値と前記相反音響指標値と前記吸音率とを乗算して、当該領域情報により識別される領域に前記吸音手段が配置されたときに前記評価点に伝達する前記入力音の低減量に応じた評価値を算出する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の音響空間評価装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の音響空間評価装置によって出力された内容に基づいて前記音響空間に配置された前記吸音手段を備えることを特徴とする音響空間構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−68384(P2012−68384A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212264(P2010−212264)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
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