説明

音響装置

【課題】環境の変化に応じて最適なループゲインに調整する音響装置を提供することを目的とする。
【解決手段】音響装置1は、2台のスピーカSP1、スピーカSP2と持ち運び可能な1台のマイクMICとを備える。音響装置1は、マイクMICが収音して生成した音声信号に、自己相関性の高いPN符号を重畳してスピーカSP1、スピーカSP2へ出力する。また、音響装置1は、スピーカSP1、スピーカSP2からマイクMICの距離D1、距離D2に対応付けてループゲインを記憶部27に記憶しており、計測した距離D1、距離D2に対応するループゲインを記憶部27から閾値として取得して、推定したループゲインが閾値に近づくと、ハウリングが発生するとして、自装置のゲインを調整する。更に、音響装置1は、ハウリングが発生すると、距離D1、距離D2に対応付けてループゲインを記憶部27に登録する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハウリングを防止する音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
音響装置において、自装置のスピーカから放音した音声をマイクで収音することにより発生したハウリングを抑止する方法が各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の音声信号増幅回路では、ハウリングを検出すると、ハウリングを除去するためのローパスフィルタを動作させて、音声信号増幅回路のゲインを下げる。音声信号増幅回路は、所定間隔毎に、ローパスフィルタの動作を停止させてハウリングを検出するか否かを調べる。音声信号増幅回路は、ハウリングを検出しなくなるまで、ゲインを段階的に下げる。そして、音声信号増幅回路では、ハウリングを検出しなくなったゲインに固定する。
【特許文献1】特開平7−15788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、スピーカとマイクとの位置関係が変わると、音響伝達系が変化するため、ループゲインが変更になる。すなわち、ハウリングが発生するループゲインの閾値は、一意に決まらない。このため、通常は、ある程度マージンを見て、閉ループ内の各種機器のゲインを下げる必要があった。そこで、この発明は、環境の変化に応じて、最適なループゲインに調整する音響装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の音響装置は、ハウリングの発生を検出すると、その時の計測したスピーカからマイクまでの距離と、その時の推定したループゲインとを対応付けて記憶している。音響装置は、スピーカからマイクまでの距離に対応付けられたループゲインに、推定したループゲインが近づくと、ハウリングが発生するとみなして、例えば、音響装置のゲインを下げたり、警告メッセージを表示したりする。
【0006】
これにより、音響装置は、スピーカとマイクとの位置関係が変更しても(すなわち、環境が変更しても)、環境の変化に応じて最適なループゲインに調整することができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明の音響装置は、環境に応じて最適なループゲインに調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】音響装置を設置している環境の一例を示す図である。
【図2】音響装置の機能、構成を示すブロック図である。
【図3】マイクに入力される音声信号の時間軸特性を模式化したものである。
【図4】ゲインテーブルの一例を示す図である。
【図5】ゲイン地図の一例を示す図である。
【図6】他のゲインテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の第1実施形態に係る音響装置1について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、音響装置を設置している環境の一例を示す図である。図2は、音響装置の機能、構成を示すブロック図である。図3は、マイクに入力される音声信号の時間軸特性を模式化したものである。図4は、ゲインテーブルの一例を示す図である。
【0010】
図1に示すように、音響装置1は、居室4に設置されており、2台のスピーカSP1、スピーカSP2と1台のマイクMICとを備える。2台のスピーカSP1、スピーカSP2は、居室4内に固定して設置されており、マイクMICは、ユーザにより持ち運び可能となっている。以下、スピーカSP1からマイクMICまでの距離をD1とし、スピーカSP2からマイクMICまでの距離をD2とする。なお、スピーカ、及びマイクの数はそれぞれ1台以上であればよい。
【0011】
図2に示すように、音響装置1は、マイクMIC、LPF部11、ゲイン調整部12、スピーカSP1、スピーカSP2、加算部25、ハウリング検出部26、記憶部27、制御部28、及び表示部29を備える。更に、音響装置1は、チャンネルAに、信号発生部13A、HPF部14A、重畳部15A、HPF部21A、相関部22A、距離計測部23A、及びゲイン推定部24Aを備える。音響装置1は、チャンネルBに、信号発生部13B、HPF部14B、重畳部15B、HPF部21B、相関部22B、距離計測部23B、及びゲイン推定部24Bを備える。以下、チャンネルに対応して備える機能、構成については、信号発生部13A、HPF部14A、重畳部15A、スピーカSP1、HPF部21A、相関部22A、距離計測部23A、及びゲイン推定部24Aを例に挙げて説明する。
【0012】
マイクMICは、ユーザの発話音声を含む周囲の音声を収音して、音声信号を生成する。マイクMICは、生成した音声信号をLPF部11、HPF部21A、HPF部21B、及びハウリング検出部26へ出力する。
【0013】
LPF部11は、マイクMICから音声信号が入力されると、後述するPN符号をループさせないように、所定の周波数帯域未満(例えば20kHz未満)の音声信号のみを通過させて、ゲイン調整部12へ出力する。なお、LPF部11は必須の構成ではない。
【0014】
ゲイン調整部12は、後述する制御部28からの指示に基づいて、LPF部11から入力された音声信号のゲインを調整する。ゲイン調整部12は、ゲイン調整後の音声信号を重畳部15A、重畳部15Bへ出力する。
【0015】
信号発生部13Aは、定期的に疑似ノイズとして自己相関性の高いPN符号(M系列)を生成する。信号発生部13Aは、HPF部14A、及び相関部22AへPN符号を出力し、距離計測部23AへPN符号の生成タイミングを出力する。また、信号発生部13A、信号発生部13Bは、それぞれ異なるパターンのPN符号を出力する。なお、M系列に限らず、Gold系列等、他の乱数を用いてもよい。特に、Gold系列のPN符号を用いる場合、符号生成回路(シフトレジスタ)のタップ位置を切り替えることにより、多種類の符号系列を生成することが可能であるため、大規模なPAシステムにも対応することができる。また、PN符号の信号レベルは、聴感上違和感のない微弱なレベルとすればよいが、PN符号の相関のピーク(以下、相関ピークと称す。)を検出できる程度のレベルを確保する。
【0016】
HPF部14Aは、信号発生部13AからPN符号が入力されると、ユーザに聞こえ難い周波数帯域(例えば20kHz以上)のPN符号のみを通過させて、重畳部15Aへ出力する。なお、HPF部14Aは、本発明において必須の構成ではない。但し、HPF部14Aにより、PN符号の高域以外の音がカットされるため、スピーカSP1から放音されたとしても聴感上違和感がなくなる(ノイズが聞こえにくくなる)。
【0017】
重畳部15Aは、ゲイン調整部12からの音声信号にHPF部14AからのPN符号を重畳させて合成信号を生成し、該合成信号をスピーカSP1へ出力する。
【0018】
スピーカSP1は、重畳部15Aから入力された合成信号に基づいて、音声を放音する。スピーカSP1から放音された音声は、マイクMICにより収音され、マイクMIC、LPF部11、ゲイン調整部12、重畳部15A、及びスピーカSP1による閉ループが形成される。
【0019】
HPF部21Aは、マイクMICから音声信号が入力されると、PN符号が存在する周波数帯域(例えば、20kHz以上)の音声信号のみを通過させて相関部22Aへ出力する。
【0020】
相関部22Aは、HPF部21Aから入力された音声信号(マイクMICにて収音した音声信号にPN符号が含まれる)と、信号発生部13Aから入力されたPN符号と、の相関を求める。PN符号は、非常に高い自己相関性を有しているため、HPF部21Aから入力された音声信号に、同じPN符号が含まれていると、定期的に急峻な相関ピーク(所定の閾値以上のレベルを有する相関ピーク)が現れる。相関部22Aは、この相関ピークを算出したタイミングを距離計測部23Aへ出力し、この相関ピークを算出した時の相関値をゲイン推定部24Aへ出力する。
【0021】
距離計測部23Aは、信号発生部13AからPN符号の生成タイミングが入力されてから、相関部22Aにて相関ピークを算出したタイミングまでの時間差Tに基づいて、スピーカSP1からマイクMICまでの距離D1を算出する。距離D1は、音速Cと時間差Tとを乗算することで算出することができる。距離計測部23Aは、算出した距離D1を制御部28へ出力する。
【0022】
ゲイン推定部24Aは、相関値に基づいてループゲインを推定し、推定したループゲインを加算部25へ出力する。具体的には、図3に示すように、ゲイン推定部24Aは、PN符号を出力してから最初に検出した相関ピークの絶対値|A|を取得する。最初の相関ピークが検出されるタイミング周辺の波形は、マイクMICに帰還した直接音(直接波)とみなすことができる。ゲイン推定部24は、例えば、絶対値|A|をループゲインと推定する。
【0023】
また、具体的には、ゲイン推定部24Aは、最初の相関ピークから所定時間が経過するまでに(すなわち、信号発生部13Aが次のPN符号を出力するまでに)現れる相関ピークを取得する。ゲイン推定部24Aは、取得した相関ピークの中で、所定レベルL以上の相関ピークの絶対値|A|、絶対値|B|、及び絶対値|C|を選択する。スピーカSP1からマイクMICまでの空間放音系統の遅延時間は、マイクMICからスピーカSP1までの信号処理系統の遅延時間よりも大きい。このため、最初の相関ピークから更に所定時間が経過するまでの波形は、壁などの反射波と判断することができる。ゲイン推定部24Aは、直接波と反射波の相関ピークの絶対値を積分した結果|A|+|B|+|C|をループゲインと推定する。
【0024】
加算部25は、ゲイン推定部24A、ゲイン推定部24Bから入力されたループゲインを加算して、マイクMICの系統の閉ループのゲインとして、制御部28へ出力する。
【0025】
ハウリング検出部26は、マイクMICから音声信号が入力されると、ハウリングが発生しているか否かを検出する。例えば、ハウリング検出部26は、入力された音声信号の周波数成分毎のレベルを計測し他の周波数成分と比較して不自然に大きなレベルの周波数成分の有無を検出し、且つ所定時間以上継続して検出した場合に、ハウリングが発生したことを検出する。ハウリング検出部26は、ハウリングの発生を検出している間、ハウリングが発生していることを示す制御信号を制御部28へ出力する。
【0026】
記憶部27は、図4に示すゲインテーブル271を記憶している。ゲインテーブル271には、スピーカSP1からマイクMICへの距離D1とスピーカSP2からマイクMICへの距離D2とが閉ループのゲインに対応付けて登録される。
【0027】
また、ゲインテーブル271には、閉ループのゲインのデフォルト値が距離D1、距離D2に対応付けて予め登録されている。このデフォルト値には、ユーザの操作により入力されたループゲインや、予め計測しておいたループゲインが用いられる。
【0028】
制御部28は、ハウリング検出部26から制御信号が入力されると、距離計測部23A、距離計測部23Bから入力された距離D1、距離D2に対応付けて登録されているループゲインを閾値としてゲインテーブル271から取得する。この際、制御部28は、加算部25から入力されたループゲインが、閾値より小さい場合に、距離D1、距離D2に対応付けて、当該ループゲインをゲインテーブル271に更新登録する。そして、制御部28は、タイマを起動させる。制御部28は、内蔵タイマ(不図示)の起動から所定時間(例えば、1公演の所要時間や、1曲の所要時間等)経過すると、更新登録したループゲインをデフォルト値に戻す。なお、制御部28は、所定時間経過した際にループゲインがデフォルト値に戻るように、徐々にループゲインをデフォルト値に戻してもよい。この場合、音響装置1は、聴感上違和感のなく、ループゲインをデフォルト値に戻すことができる。
【0029】
また、制御部28は、距離計測部23A、距離計測部23Bからそれぞれ距離D1、距離D2が入力されると、ゲインテーブル271から、距離D1、距離D2に対応付けられたループゲインを閾値として取得する。制御部28は、加算部25から入力された閉ループのゲインが閾値に近づくと、ハウリングが発生するとみなして、ゲイン調整部12に対して、ゲインを下げるよう指示する。また、制御部28は、警告メッセージ「ハウリングが発生します。」をモニタである表示部29へ表示する。なお、制御部28は、ゲイン調整及び警告メッセージの表示の両方を指示してもよいし、どちらか片方のみを指示してもよい。
【0030】
以上より、音響装置1は、スピーカSP1、スピーカSP2とマイクMICとの距離に応じて、ハウリングが発生するループゲインの閾値を記憶している。このため、音響装置1は、スピーカSP1、スピーカSP2とマイクMICとの位置関係に応じて(環境の変化に応じて)、最適なループゲインを設定することができる。
【0031】
なお、複数のスピーカを備える場合は、図5に示すゲイン地図を表示部29に表示してもよい。図5は、ゲイン地図の一例を示す図である。この場合、音響装置1は、スピーカSP1、スピーカSP2、マイクMICの位置関係を表示し、ゲインテーブル271に記憶しているループゲインをマイクMICの位置毎に表示する。具体的には、記憶部27は、ゲインテーブル271の他に、スピーカSP1、スピーカSP2間の距離DSを記憶している。この距離DSは、予め設定した値でもよいし、ユーザの操作入力により登録してもよい。制御部28は、スピーカSP1、SP2を距離DS離して固定する。制御部28は、距離DSと、ゲインテーブル271に登録されている距離D1、距離D2とに基づいて、三角測量を用いてマイクMICの位置を算出する。そして、制御部28は、マイクMICの位置に対応付けて、その時の距離D1、距離D2に対応付けられているループゲインを表示する。この際、制御部28は、マイクMICの位置にある程度の領域を持たせてループゲインを表示してもよい。例えば、制御部28は、居室4を複数の領域に分割する等して、自装置の周囲に複数の領域を設定する。制御部28は、算出したマイクMICの位置が、居室4を分割したどの領域に該当するかを判断し、算出に用いた距離D1、距離D2に対応付けられているループゲインを該当する領域に割り当てる。制御部28は、ゲインテーブル271に登録されている全データに対して、上述の処理を行うことで、ゲイン地図を生成する。また、制御部28は、ゲインテーブル271に登録されているデータに基づくマイクMICの位置が該当する領域に、他のデータに基づくマイクMICの位置が該当する場合、これらのデータの中で、小さいループゲインを当該領域に割り当てる。
【0032】
なお、音響装置1は、ゲインテーブル271に代えて、図6に示すゲインテーブル272を記憶してもよい。図6は、他のゲインテーブルの一例を示す図である。ゲインテーブル272は、ハウリングが発生するとみなすループゲインの閾値を領域毎に記憶する。この場合、制御部28は、距離DSと、計測した距離D1,D2と、に基づいてマイクMICの位置を算出し、算出したマイクMIC位置が、どの領域に該当するかを判断して、閾値を取得したり、更新登録したりする。
【符号の説明】
【0033】
1…音響装置,11…LPF部,12…ゲイン調整部,13A,13B…信号発生部,14A,14B…HPF部,15A,15B…重畳部,21A,21B…HPF部,22A,22B…相関部,23A,23B…距離計測部,24A,24B…ゲイン推定部,25…加算部,26…ハウリング検出部,27…記憶部,271,272…ゲインテーブル,28…制御部,29…表示部,4…居室,C…音速,D1,D2,DS…距離,MIC…マイク,SP1,SP2…スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウリングの発生を検出する検出手段と、
ループゲインを形成するスピーカからマイクへの距離を計測する距離計測手段と、
前記ループゲインを推定するゲイン推定手段と、
前記スピーカから前記マイクへの距離とループゲインとを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記検出手段がハウリングの発生を検出すると、その時の前記距離計測手段が計測した距離と前記ゲイン推定手段が推定したループゲインとを対応付けて前記記憶手段に更新登録する制御手段と、を備えた音響装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記距離計測手段が計測した距離と対応付けられたループゲインを前記記憶手段から読み出し、当該ループゲインを閾値として、前記ゲイン推定手段が推定したループゲインが閾値に近づくと、ハウリングが発生するとみなす請求項1に記載の音響装置。
【請求項3】
ハウリングの発生を検出する検出手段と、
ループゲインを形成するスピーカからマイクへの距離を計測する距離計測手段と、
前記ループゲインを推定するゲイン推定手段と、
前記スピーカから前記マイクへの距離とループゲインとを対応付けて記憶する記憶手段と、
前記距離計測手段が前記距離を計測すると、当該計測した距離と対応付けられたループゲインを前記記憶手段から読み出し、当該ループゲインを閾値として、前記ゲイン推定手段が推定したループゲインが前記閾値に近づくと、ハウリングが発生するとみなす制御手段と、を備えた音響装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記検出手段がハウリングの発生を検出した時に、前記ゲイン推定手段が推定したループゲインが前記記憶手段において前記距離に対応付けて記憶されていた値より小さい場合に、当該推定したループゲインを前記距離に対応付けて前記記憶手段に更新登録する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の音響装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−66224(P2013−66224A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264871(P2012−264871)
【出願日】平成24年12月4日(2012.12.4)
【分割の表示】特願2008−309295(P2008−309295)の分割
【原出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】