説明

音響通信システム

【課題】変調装置と放音装置とを分割したシステムにおいて、変調装置と放音装置との間を狭帯域の伝送手段でつなぐことを可能にした音響通信システムを提供する。
【解決手段】変調装置は、データ符号を用いて伝送手段が伝送可能な帯域である中低音域の周波数スペクトルを有する拡散符号を変調する変調処理部と、変調された変調信号を前記伝送手段に出力する伝送出力部とを備え、放音装置は、伝送手段から変調信号を受信する伝送受信部と、受信した変調信号を伝送手段が伝送不可能な帯域を含む高い周波数帯域である高音域に周波数シフトする周波数シフト部と、周波数シフトされた変調信号を放音する放音部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音響を用いてデータ符号を伝送する音響通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、既に特許文献1に示すような音響通信システムを提案している。このシステムは、データ符号で拡散符号を変調し、この変調信号を高音域に周波数シフトして放音する送信装置、および、変調信号を含む音声を収音し、この変調信号と拡散符号との相関を検出してデータ符号を復号する受信装置を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/016589号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記システムにおいて、送信装置は、拡散符号の発生、拡散符号のデータ符号による変調、変調信号の周波数シフト、周波数シフトされた変調信号の放音を行う。この構成で、放音部を変調部から分離しようとする場合、周波数シフトされた変調信号を放音部から変調部へ伝送しようとすると、変調部と放音部とをつなぐ伝送部が広い伝送周波数帯域を持っていなければ周波数シフトされた変調信号を伝送することができない。したがって、ビットレートを高率に圧縮したオーディオストリーミング等を使用することができないという問題点があった。
【0005】
この発明は、変調装置と放音装置とを分割したシステムにおいて、放音装置を簡略な構成にし、且つ、変調装置と放音装置との間を狭帯域の伝送手段でつなぐことを可能にした音響通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明である音響通信システムは、音声信号帯域の信号を伝送する伝送手段と、データ符号を用いて、前記伝送手段が伝送可能な帯域である中低音域の周波数スペクトルを有する拡散符号を変調する変調処理部と、前記変調された変調信号を前記伝送手段に出力する伝送出力部と、を備えた変調装置と、前記伝送手段から前記変調信号を受信する伝送受信部と、受信した前記変調信号を前記伝送手段が伝送不可能な帯域を含む高い周波数帯域である高音域に周波数シフトする周波数シフト部と、周波数シフトされた変調信号を放音する放音部と、を備えた放音装置と、を含むことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、前記伝送手段は、ネットワークを介したオーディオストリーミングを行う手段であることを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、前記放音部によって放音された変調信号を収音する収音部と、前記収音部が収音した変調信号と前記拡散符号との相関値を検出する相関検出部と、前記拡散符号の1周期ごとに前記相関値のピークを検出するピーク検出部と、該ピーク検出部が検出したピーク値に基づいて前記変調信号に含まれるデータ符号を復調する符号判定部と、を備えた受信装置を、さらに含むことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明である変調装置は、データ符号を用いて、音声信号を伝送する伝送手段が伝送可能な帯域である中低音域の周波数スペクトルを有する拡散符号を変調する変調処理部と、前記変調された変調信号を前記伝送手段に出力することにより、前記変調信号を放音する放音装置に対して送信する伝送出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明である放音装置は、音声信号を伝送する伝送手段から、データ符号で変調された拡散符号である変調信号を受信する伝送受信部と、受信した前記変調信号を前記伝送手段が伝送不可能な帯域を含む高い周波数帯域である高音域に周波数シフトする周波数シフト部と、周波数シフトされた変調信号を放音する放音部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、データ符号で変調された拡散符号を放音する装置を変調装置と放音装置に分離したことにより、放音装置を簡略化することができ、簡略な装置でデータ符号で変調された拡散符号を放音することが可能になる。この場合に、変調装置から放音装置への変調信号の伝送をベースバンド帯域で行うことにより、狭帯域の伝送手段であっても伝送が可能である。また、放音装置でベースバンドの変調信号を高音域に周波数シフトすることにより、暗雑音や種々の可聴音声などの外乱を避けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明が適用される音響通信システムの構成を示す図
【図2】変調信号の周波数スペクトルを示す図
【図3】圧縮処理をした後の変調信号の周波数スペクトルを示す図
【図4】前記音響通信システムの受信装置の詳細構成を示す図
【図5】前記音響通信システムの放音装置の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照してこの発明の実施形態である音響通信システムについて説明する。図1は、この発明の実施形態である音響通信システムの構成を示す図である。この音響通信システムは、送信装置1および受信装置2で構成される。また、送信装置1は、変調装置3および放音装置4で構成される。
【0014】
送信装置1は、データ符号で変調された拡散符号(変調信号)を音響として放音する装置である。受信装置2は、送信装置1から放音された変調信号の音響を収音してデータ符号を復調する装置である。これにより、送信装置1−受信装置2間で音響を媒体としたデータ通信が可能になる。送信装置1は、人に聴こえにくく且つ一般のオーディオ機器で処理可能な周波数帯域である高音域(たとえば20kHz〜23kHz)を用いて変調信号を放音する。
【0015】
送信装置1の変調装置3は、データ符号を音声の中低音域の帯域を有する拡散符号で拡散変調し、この変調信号をベースバンドのままで狭帯域の伝送手段5を介して放音装置4に伝送する。上記の中低音域の帯域とは、データ符号を拡散変調したベースバンド信号が分布する中低音域の帯域は、拡散符号の周期およびチップレートに依存するが、たとえば0Hzより大きく3000Hz以下の帯域である。
【0016】
ここで、伝送手段5は、上記の変調信号の周波数帯域を伝送可能な手段であればよく、たとえば、24kbps程度のビットレートのオーディオストリーミングを適用することが可能である。サンプリング周波数が8kHzのモノラル信号の伝送であれば10kbps程度でも可能である。従って、伝送手段5は、広帯域の手段を利用する必要がなく狭帯域のものを利用できる。また、予め伝送手段5が定められている場合には、変調信号の周波数帯域がこの伝送手段5の伝送可能帯域に収まるように拡散符号の周期およびチップレートを決定すればよい。
【0017】
放音装置4は、変調装置3から受信した変調信号をオーディオ周波数帯域のなかで聴衆に聴こえにくい上述の高音域(たとえば20kHz〜23kHz)に周波数シフトして放音する装置である。なお、この高音帯域は、伝送手段5の伝送可能帯域外であって構わない。
【0018】
変調装置3は、拡散符号Mを発生する拡散符号発生部11、データ符号Dを拡散符号Mの周期に合わせて入力するデータ符号入力部12、拡散符号Mの位相をデータ符号Dのシンボル値に合わせて正転(そのまま)/反転して変調信号MDを生成する乗算部13、および、変調信号MDを伝送手段5を介して放音装置4に伝送する伝送出力部14を備えている。
【0019】
データ符号Dのシンボル値は通常1/0であるが、データ符号入力部12は、拡散符号Mを変調するために、データ符号Dの値を1/−1に置き換える。伝送出力部14は、入力された変調信号MDに対して高圧縮率のエンコードを行う。リニアPCMのビットレートはたとえば1.4Mbps程度であるが、このビットレートの変調信号MDをAACやMP3などの形式にエンコードすることにより24kbps程度に圧縮する。変調信号MDに高音成分が含まれていた場合、このエンコードによりその高音成分は除去されてしまう。
【0020】
ベースバンド帯域である中低音域では、暗騒音や音楽、会話音声等が空間内で優勢であり、変調信号MDに対して、これらの暗騒音等が外乱となる可能性が高い。そこで、放音装置4は、この変調信号MDをオーディオ機器が処理可能な周波数帯域のなかで聴衆に聴こえにくい高音域(たとえば20kHz〜23kHz)に周波数シフトして放音する。なお、以下に説明する楽音信号Sとの合成は必須ではない。
【0021】
放音装置4は、伝送手段5を介して変調装置3から変調信号MDを受信する伝送入力部21、変調信号MDに乗算されるキャリア信号を発生するキャリア信号発生部22、キャリア信号と変調信号MDとを乗算して周波数シフトされた変調信号PMDを生成する乗算部23、この周波数シフトされた変調信号PMDを、聴衆が聞き取り可能な楽音信号Sと加算合成する加算部24、この変調信号と楽音信号が合成された合成信号SPMDを増幅するアンプ25、および、増幅された合成信号SPMDを音響(音波)として放音する放音手段であるスピーカ26を有している。
【0022】
このように、放音装置4は拡散符号Mを発生する機能およびデータ符号Dを拡散符号Mで変調する機能を備えていない。これにより、音響データ伝送における放音装置4の処理負荷を軽くすることができる。また、放音装置4に拡散符号Mを設定する必要がないため、高いセキュリティを維持することが可能になる。
【0023】
図2は変調信号MDの周波数スペクトルの一例を示す図である。同図のMDはベースバンドの変調信号MDの周波数スペクトルであり、PMDは放音装置4で周波数シフトされた変調信号PMDの周波数スペクトルである。ベースバンドの変調信号MDの周波数スペクトルは0〜3000Hzに分布しており、パスバンドに周波数シフトされた変調信号PMDの周波数スペクトルは、両側波帯を合わせて17kHz〜23kHzに分布している。
【0024】
また、図3は変調信号MD,PMDをAAC(Advanced Audio Coding)で24kbpsに圧縮したときの周波数スペクトルを示している。ベースバンドの変調信号MDはほぼ圧縮前と同じスペクトルを維持しているが、パスバンドに周波数シフトした変調信号PMDは圧縮処理によってカットされて消えてしまっている。このようにベースバンド信号は圧縮耐性が高いと言える。
【0025】
受信装置2は、放音された合成信号SPMDを含む音声信号を収音する収音手段であるマイク31、収音した音声信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータ32、および、デジタル信号に変換された合成信号SPMDからデータ符号Dを復調する復調部33を備えている。
【0026】
受信装置2の復調部33の構成を図4に示す。図4において、復調部33は、ハイパスフィルタ(HPF)41、整合フィルタ42、ピーク検出部43および符号判定部44を備えている。HPF41は、A/Dコンバータ32から入力された合成信号SPMDから楽音信号Sの成分を除去し、周波数シフトされた変調信号SPMDの成分を取り出すフィルタである。HPF41のカットオフ周波数は、変調信号帯域の下限周波数に設定される。HPF41によって抽出された変調信号SPMDの成分は、整合フィルタ42へ入力される。
【0027】
整合フィルタ42は、変調装置3においてデータ符号Dの拡散に使用された拡散符号Mを係数に持つFIRフィルタで構成される。整合フィルタ42は、HPF41が出力した変調信号SPMD成分の波形と拡散符号Mとの畳み込み演算を実行し、その相関値を出力する。
【0028】
相関値は、拡散符号Mの周期で強い相関ピーク示し、そのピークの位相は、データ符号Dによって位相変調されているため、データ符号Dの1、−1に対応して、正のピーク、負のピークが現れる。整合フィルタ42の出力は、ピーク検出部43へ入力される。
【0029】
ピーク検出部43は、拡散符号Mの周期付近の大きなピークを検出し、相関ピークとする。検出された相関ピークは、符号判定部44へ入力される。符号判定部44は、ピーク位相からシンボルを復号し、これをデータ符号Dとして出力する。
【0030】
なお、周波数シフトの方式は、キャリア信号を乗算する方式に限定されない。たとえば、図5に示すようにヒルベルト変換を用いて複素領域で周波数をシフトすることにより、周波数シフトされた上側(または下側)のみの側波帯を生成することができ、パスバンド領域の帯域幅を半減させることができる。
【0031】
また、変調装置3は、データ符号Dで拡散符号Mを位相変調するのみならず、WO2010/016589に示すようにアップサンプリングや差動符号化を併用してもよい。
【0032】
また、伝送手段5は、ネットワーク(通信回線)を介したオーディオストリーミングを行う手段を一例として掲げているが、記憶メディアを介したデータの移送手段であってもよく、狭帯域のアナログまたはデジタルの伝送路を介したデータの伝送手段であってもよい。
【0033】
以上説明した音響通信システムでは、放音装置4に拡散符号発生部や乗算部を備える必要がなく且つ拡散符号Mを設定する必要がないため、放音装置4を簡略な装置とすることができる。したがって、wifiや3G通信を介して変調信号を取得可能な放音装置4をユーザが携帯し、据置の受信装置2に対して変調信号PMDを送信するようなシステムに適用することが可能になる。このように放音装置4を簡略な(携帯可能な)装置にすることを目的として本発明を適用する場合には、伝送手段5は必ずしも狭帯域でなくてもよい。また、放音装置4として携帯電話を適用することも可能である。
【0034】
なお、変調信号を放音するスピーカ26、収音するマイク31に代えて、それぞれ加振器、振動ピックアップを用いてもよい。すなわち、空気振動に代えて固体振動で変調信号を伝送するものにも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 受信装置
2 送信装置
3 変調装置
4 放音装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号帯域の信号を伝送する伝送手段と、
データ符号を用いて、前記伝送手段が伝送可能な帯域である中低音域の周波数スペクトルを有する拡散符号を変調する変調処理部と、前記変調された変調信号を前記伝送手段に出力する伝送出力部と、を備えた変調装置と、
前記伝送手段から前記変調信号を受信する伝送受信部と、受信した前記変調信号を前記伝送手段が伝送不可能な帯域を含む高い周波数帯域である高音域に周波数シフトする周波数シフト部と、周波数シフトされた変調信号を放音する放音部と、を備えた放音装置と、
を含む音響通信システム。
【請求項2】
前記伝送手段は、ネットワークを介したオーディオストリーミングを行う手段である請求項1に記載の音響通信システム。
【請求項3】
前記放音部によって放音された変調信号を収音する収音部と、
前記収音部が収音した変調信号と前記拡散符号との相関値を検出する相関検出部と、
前記拡散符号の1周期ごとに前記相関値のピークを検出するピーク検出部と、
該ピーク検出部が検出したピーク値に基づいて前記変調信号に含まれるデータ符号を復調する符号判定部と、
を備えた受信装置を、さらに含む請求項1または請求項2に記載の音響通信システム。
【請求項4】
データ符号を用いて、音声信号を伝送する伝送手段が伝送可能な帯域である中低音域の周波数スペクトルを有する拡散符号を変調する変調処理部と、
前記変調された変調信号を前記伝送手段に出力することにより、前記変調信号を放音する放音装置に対して送信する伝送出力部と、
を備えた変調装置。
【請求項5】
音声信号を伝送する伝送手段から、データ符号で変調された拡散符号である変調信号を受信する伝送受信部と、
受信した前記変調信号を前記伝送手段が伝送不可能な帯域を含む高い周波数帯域である高音域に周波数シフトする周波数シフト部と、
周波数シフトされた変調信号を放音する放音部と、
を備えた放音装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−222463(P2012−222463A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83975(P2011−83975)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)