説明

顎運動測定システム

【課題】簡易な検出器を取り付けて、正確に顎運動の測定を行うことができる顎運動測定システムを提供する。
【解決手段】3軸方向の加速度を検知する加速度センサ12、一端が前記加速度センサ12に接続されたフレキシブル配線14、前記フレキシブル配線14の他端に接続され且つ前記3軸方向の加速度データを出力する出力端子、及び前記加速度センサ12を下顎のオトガイ部18に装着する装着部を、少なくとも備えた加速度検出器10と、前記加速度検出器10から顎運動に応じた加速度データを取得し、取得された加速度データに対し前記加速度センサ12に起因する誤差を補正して、加速度波形で表される顎運動を測定する顎運動測定装置30と、を備えた顎運動測定システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顎運動測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
顎運動は、下顎窩を軸受けとする下顎頭の回転運動と、下顎頭が前方に移動する滑走運動とに分類される。例えば、咀嚼等で口や顎を小さく開閉する場合には、主に回転運動が発生する。一方、あくび等して口や顎を大きく開閉する場合には、回転運動だけでなく、滑走運動も発生する。これらの顎運動測定により、噛み合わせの不整合等、顎口腔機能の異常を診断することができる。適切な治療を行うためには、顎運動を対象者毎に正確に測定することが重要である。
【0003】
現在、一部の臨床家の間で普及している顎運動測定装置には、株式会社ジーシー(GC)製の「ナソヘキサ」等がある。この装置は、患者にヘッドギアと歯列に固定する器具を装着させて、咀嚼運動や開閉口運動などについて、三次元運動を測定する。即ち、下顎の相対位置を計測して、顎運動測定を行っている(非特許文献1参照)。他にも「キネジオグラフ」と呼ばれる装置が普及している。これは、磁石を下顎の歯列に固定をし、磁気をキャプチャーすることにより、顎運動を三次元的に測定するものである。現在の臨床現場において、顎運動を測定する装置としては、これら2つが代表的である。
【0004】
また、顎運動測定を簡易に行う技術として、下顎のオトガイ部等に加速度センサを取り付け、加速度センサの出力に基づいて被験者の口腔運動を測定する技術が種々提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】http://www.gcdental.co.jp/product/pdf/nasohekisa.pdf
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−18094号公報
【特許文献2】特開2008−18010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、市販の顎運動測定装置は、数百万円と高価であり汎用性に欠けるという問題がある。また、患者にヘッドギアを装着させて測定を行うなど、患者側の負担が大きいという問題がある。また、測定条件が厳しく、測定専用の部屋を準備する必要があり、導入できる医院も限られている。一方、従来の加速度センサを用いた顎運動測定装置は、皮膚やコードの振動を拾うおそれがあり、また、装着方向に再現性がないため、正確な測定が行えないという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたものであり、簡易な検出器を取り付けて、正確に顎運動の測定を行うことができる、顎運動測定システムを提供することを目的とする。また、上記目的に加え、本発明は、市販の顎運動測定装置に比べて、安価で汎用性の高い顎運動測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、3軸方向の加速度を検知する加速度センサ、一端が前記加速度センサに接続されたフレキシブル配線、前記フレキシブル配線の他端に接続され且つ前記3軸方向の加速度データを出力する出力端子、及び前記加速度センサを下顎のオトガイ部に装着する装着部を、少なくとも備えた加速度検出器と、前記加速度検出器から顎運動に応じた加速度データを取得し、取得された加速度データに対し前記加速度センサに起因する誤差を補正して、加速度波形で表される顎運動を測定する顎運動測定装置と、を備えた顎運動測定システムである。
【0010】
請求項2の発明は、前記加速度センサは、X軸方向が左右方向に対応し、Y軸方向が前後方向に対応し、且つZ軸方向が上下方向に対応するように、下顎のオトガイ部に装着され、前記顎運動測定装置は、X軸方向の加速度データが最小になるように、前記加速度センサの直交座標をZ軸周りに回転させる第1の補正と、Z軸方向の加速度データが最小になるように、前記加速度センサの直交座標をX軸周りに回転させる第2の補正とを行い、取得された加速度データに対し前記加速度センサの装着位置ずれに起因する誤差を補正する位置ずれ補正手段を備えた、請求項1に記載の顎運動測定システムである。
【0011】
請求項3の発明は、前記顎運動測定装置は、表示手段及び前記表示手段を制御する表示制御手段を更に備え、前記表示制御手段は、前記加速度検出器から取得された加速度データ、前記加速度センサの3軸の何れかを選択する軸選択部、及び選択された軸周りの回転角度を設定する角度設定部を、前記表示装置に表示し、前記位置ずれ補正手段は、前記軸選択部により選択されたZ軸周りに、前記角度設定部により設定された角度だけ加速度センサの直交座標を回転させて、X軸方向の加速度データを最小にする第1の補正を行い、前記軸選択部により選択されたX軸周りに、前記角度設定部により設定された角度だけ加速度センサの直交座標を回転させて、Z軸方向の加速度データを最小にする第2の補正を行う、請求項2に記載の顎運動測定システムである。
【0012】
請求項4の発明は、前記顎運動測定装置は、Y軸方向の電圧信号を積分して得られた速度波形が一定の振幅範囲で変動するように、前記加速度検出器から取得された加速度データに対し基線を設定して加速度波形のゼロ点を定める基線設定手段を更に備えた、請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の顎運動測定システムである。
【0013】
請求項5の発明は、前記顎運動測定装置は、前記表示制御手段が、前記加速度検出器から取得されたY軸方向の加速度データ、及び取得された加速度データに対し基線を設定する基線設定部を、前記表示装置に表示する第1の工程と、前記基線設定手段が、前記基線設定部により設定された基線に基づいてY軸方向の加速度データを積分する第2の工程と、前記表示制御手段が、Y軸方向の加速度データを積分して得られた速度波形を前記表示装置に表示する第3の工程と、を基線が確定されるまで繰り返し行って、前記加速度データに対し基線を設定して加速度波形のゼロ点を定める、請求項4に記載の顎運動測定システムである。
【0014】
請求項6の発明は、前記加速度センサは、下顎のオトガイ部の皮膚を下垂させない程度に、小型化且つ軽量化された請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の顎運動測定システムである。
【0015】
請求項7の発明は、前記フレキシブル配線は、前記加速度センサにより検知される加速度を変動させない程度に、可とう性が付与され且つ軽量化された請求項1から請求項6までの何れか1項に記載の顎運動測定システムである。
【0016】
請求項8の発明は、前記装着部は、前記加速度センサを保持すると共に皮膚の振動を吸収する緩衝部材と、前記緩衝部材を介して前記加速度センサを下顎のオトガイ部に接着する接着部材と、を備えた請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の顎運動測定システムである。
【発明の効果】
【0017】
各請求項に係る発明によれば、以下の効果がある。
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、簡易な検出器を取り付けて、正確に顎運動の測定を行うことができる、顎運動測定システムを提供することができる、という効果がある。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、加速度センサの装着位置ずれに起因する誤差を補正することができる、という効果がある。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、表示画面を見ながら、リアルタイムで加速度センサの装着位置ずれに起因する誤差を補正することができる、という効果がある。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、基線を設定して加速度波形のゼロ点を定めることができる、という効果がある。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、表示画面を見ながら、リアルタイムで基線を設定して加速度波形のゼロ点を定めることができる、という効果がある。
【0023】
請求項6、7、8に記載の発明によれば、加速度センサの振動によるノイズの発生を抑制することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る顎運動測定システムの構成を表す概略図である。
【図2】加速度センサの周辺部の構成を表す概略図である。
【図3】顎運動測定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】(A)は装着部材の構造を示す積層断面図である。(B)は装着部材により加速度センサがオトガイ部18に装着された様子を示す模式図である。
【図5】加速度センサの直交座標系と顎運動の方向との関係を示す図である。
【図6】(A)〜(C)は、下顎のオトガイ部に対する左右方向、前後方向、及び上下方向を表す図である。
【図7】補正角度設定画面を示す図である。
【図8】補正後の加速度データを表示する画面を示す図である。
【図9】(A)及び(B)は第1の補正の意義を説明する図である。
【図10】補正後の加速度データを表示する画面を示す図である。
【図11】(A)及び(B)は第2の補正の意義を説明する図である。
【図12】(A)及び(B)は顎運動と加速度センサの装着位置との関係を説明する説明図である。
【図13】基線設定画面を示す図である。
【図14】(A)〜(C)は基線の位置と速度波形の関係を示す図である。
【図15】顎運動測定画面を示す図である。
【図16】顎運動測定プログラムの処理ルーチンを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0026】
<顎運動測定装置>
(全体的な装置構成)
図1は本発明の実施の形態に係る顎運動測定システムの構成を表す概略図である。図1に示すように、顎運動測定システムは、加速度検出器10と、加速度検出器10の出力をアナログ/デジタル変換するインターフェース装置20と、インターフェース装置20を介して加速度検出器10と接続される顎運動測定装置30と、を含んで構成されている。加速度検出器10は、3軸方向の加速度を検知する加速度センサ12、一端が加速度センサ12に接続されたフレキシブル配線14、及びフレキシブル配線14の他端に接続されたコネクタ16を備えている。コネクタ16は、インターフェース装置20に接続される。加速度センサ12は、後述する装着部材を用いて下顎のオトガイ部18に装着される。
【0027】
加速度検出器10は、加速度センサ12により3軸方向の加速度に応じた電圧信号(以下、適宜、加速度又は加速度データという。)を検知する。検知された電圧信号は、フレキシブル配線14、及びコネクタ16を介してインターフェース装置20に入力され、アナログ信号からデジタル信号に変換される。デジタル信号に変換された加速度データは、顎運動測定装置30に入力される。顎運動測定装置30は、加速度検出器10から顎運動に応じた加速度データを取得し、取得された加速度データに対し加速度センサ12に起因する誤差を補正して、加速度波形で表される顎運動を測定する。
【0028】
(加速度センサ周辺)
図2は加速度センサの周辺部の構成を表す概略図である。図2に示すように、加速度センサ12としては、5mm×5mm程度の大きさの小型且つ軽量な3軸加速度センサが好適に用いられる。小型且つ軽量な加速度センサ12は、下顎のオトガイ部18の皮膚を下垂させないので、加速度センサ12の振動によるノイズの発生を抑制する。本実施の形態では、市販されている加速度センサ(浅草技研社製の3軸加速度センサ「AS-3ACC」)のセンサボードから取り外したチップを、加速度センサ12として使用している。
【0029】
また、フレキシブル配線14としては、折り曲げ可能なほど可撓性が高く且つ軽量なフレキシブル配線が好適に用いられる。可撓性が高く且つ軽量なフレキシブル配線14は、加速度センサ12により検知される電圧信号を変動させない。本実施の形態では、加速度センサ12のリード端子の数に応じて、複数本の細線14Aが束ねられたフレキシブル配線14が用いられている。図2では6本の細線14Aが束ねられている。細線14Aの各々は、絶縁被膜で被覆された電線であり、端部の被膜が除去されて、加速度センサ12のリード端子に直接半田付けされている。本実施の形態では、細線14Aとして、潤工社製の発泡PTFEで被覆された0.05mm径の電線を用いている。PTFEとは、四フッ化エチレン樹脂、いわゆるテフロン(登録商標)である。
【0030】
(顎運動測定装置)
図3は顎運動測定装置の構成を示すブロック図である。顎運動測定装置30は、例えば、顎運動測定プログラムがインストールされたコンピュータ及びその周辺機器により構成されている。顎運動測定装置30は、図3に示すように、装置全体の制御及び各種演算を行うCPU(中央処理装置; Central Processing Unit)32、OS(Operating Systems)等の各種プログラムを記憶したROM(Read Only Memory)34、プログラムの実行時にワークエリアとして使用されるRAM(Random Access Memory)36、各種情報を記憶するハードディスク(HD)38、入出力(I/O)ポート40、通信インターフェース(I/F)42、及び各種ドライブ44を備えている。これら各部は、バス46により相互に接続されている。
【0031】
I/Oポート40には、キーボードやマウス等の入力装置48と、ディスプレイ等の表示装置50と、が接続されている。通信I/F42は、有線又は無線の通信回線を介して、外部と各種情報の授受を行う。また、本実施の形態では、通信I/F42はインターフェース装置20とケーブルで有線接続されており、加速度検出器10から出力された電圧信号に対応するデジタル信号(加速度データ)が入力される。各種ドライブ44は、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な可搬性記録媒体52からデータを読み込んだり、それらに対してデータを書き込んだりする装置である。
【0032】
顎運動測定プログラムは、可搬性記録媒体52から読み取られて、ROM34又はハードディスク38に記憶される。或いは、インターネットを介して伝送され、通信I/F42により受信されて、ROM34又はハードディスク38に記憶される。また、ハードディスク38には、各種データベースを記憶するためのデータベース領域(図示せず)が設けられ各種の診療用データベースが記憶されている。
【0033】
CPU32は、プログラムをROM34又はハードディスク38から読み出し、RAM36にロードする。そして、RAM36をワークエリアとして使用し、入力装置48及び表示装置50を用いてユーザと対話をしながら、ロードされたプログラムを実行する。顎運動測定プログラムの処理ルーチンについては後述する。
【0034】
<加速度検出器の装着方法>
(オトガイ部への装着方法)
次に、加速度検出器の装着方法について説明する。図4(A)は装着部材の構造を示す積層断面図である。図4(B)は装着部材により加速度センサがオトガイ部18に装着された様子を示す模式図である。ここではフレキシブル配線14等の図示を省略する。図4(A)に示すように、加速度検出器10は、加速度センサ12を下顎のオトガイ部18に装着するための装着部材13を備えている。
【0035】
装着部材13は、加速度センサ12を保持すると共に皮膚の振動を吸収する緩衝部材22と、緩衝部材22を介して加速度センサ12を下顎のオトガイ部18に接着する接着部材24とを備えている。シート状の接着部材24は、緩衝部材22が設けられる面とは反対側の面が接着面とされている。緩衝部材22としては、厚さ1mm程度とやや厚めの両面接着テープ等を用いることができる。接着部材24としては、例えば、心電図測定に使用されるような、皮膚への密着性に優れる医療用の接着テープ等を用いることができる。
【0036】
図4(B)に示すように、装着部材13は、接着部材24の接着面が、オトガイ部18表面の皮膚に接着するようにして装着される。オトガイ部18は下顎の先端部であり、湾曲した形状を有しているが、加速度センサ12と接着部材24との間に厚めの緩衝部材22を介在させることで、皮膚の振動が吸収されるだけでなく、加速度センサ12の湾曲も防止される。
【0037】
(加速度センサの直交座標系との関係)
図5は加速度センサの直交座標系と顎運動の方向との関係を示す図である。加速度センサ12は、直交座標系のX軸、Y軸、Z軸の3軸方向の加速度を検知する3軸加速度センサである。人体の一部を構成する下顎のオトガイ部18には、左右方向、前後方向、及び上下方向の区別がある。加速度センサ12は、X軸方向が左右方向に対応し、Y軸方向が前後方向に対応し、且つZ軸方向が上下方向に対応するように、下顎のオトガイ部18に装着される。図面を参照して後述する通り、より詳細には、Y軸方向が下顎頭の回転軸周りの回転運動の接線方向(前後方向)に対応し、Z軸方向が上記回転軸と加速度センサ12とを結ぶ直線の延在方向(上下方向)に対応する(図12参照)。
【0038】
図6(A)〜(C)は、下顎のオトガイ部に対する左右方向、前後方向、及び上下方向を表す図である。加速度センサ12は、オトガイ部18の接線に沿って装着される。側方から見ると、加速度センサ12は斜めに傾けて配置されている。矢印で図示した方向の各々が、下顎のオトガイ部に対する左右方向、前後方向、及び上下方向に相当する。これが正しい装着位置であり、加速度センサ12がこの位置からずれた位置に装着されると、次に説明する通り、装着位置ずれに起因する誤差を補正する「位置ずれ補正」が必要となる。
【0039】
<装着位置ずれ補正>
(Z軸周りの回転 -第1の補正-)
加速度検出器10、インターフェース装置20、及び顎運動測定装置30を含む顎運動測定システムのセッティングが完了し、加速度検出器10の装着部材13により加速度センサ12の被験者へのオトガイ部18への装着が完了すると、顎運動測定装置30への加速度データの入力を開始する。また、顎運動測定装置30は、ROM34に記憶された「顎運動測定プログラム」を起動する。図16は、顎運動測定プログラムの処理ルーチンを表すフローチャートである。
【0040】
まず、被験者に、口や顎を略一定の間隔で開閉する「タッピング運動」を行わせる。顎運動測定装置30は、ステップ100で、タッピング時の加速度データを取得する。次のステップ102で、図7に示す補正角度設定画面60を、顎運動測定装置30の表示装置50に表示する。
【0041】
図7に示すように、補正角度設定画面60には、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の加速度データを表示する加速度データ表示部62、軸選択部64、及び角度設定部66が表示されている。軸選択部64は、X軸、Y軸、及びZ軸の何れかを選択可能に構成されている。角度設定部66は、例えば−4〜+4までの目盛上を、ポインタ78によりカーソル76を移動させて、補正角度θを設定可能に構成されている。補正角度設定画面60には、その外に、確定ボタン68、終了ボタン70、次の軸選択を指示する「次へ」ボタン72が表示されている。
【0042】
操作者は、加速度データ表示部62を見て、まず、X軸方向の加速度データを確認する。X軸方向の加速度データの振幅が大きいと判断した場合には、X軸方向の加速度データの振幅が最小(略ゼロ)になるように、軸選択部64を操作してZ軸を選択し、Z軸周りの補正角度θを設定して、確定ボタン68を選択する。
【0043】
顎運動測定装置30は、ステップ104で軸の選択が確認され、ステップ106で確定指示の入力が確認されると、次のステップ108で、設定された補正角度に基づいて、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の加速度データの補正値を演算する。そして、ステップ110で、補正後の加速度データを、補正角度設定画面60の加速度データ表示部62に表示する。図8に示すように、X軸方向の加速度データの振幅が略ゼロとなり、Y軸方向及びZ軸方向の加速度データの振幅が大きくなったデータ画面62Aが表示される。
【0044】
図9(A)及び(B)は第1の補正の意義を説明する図である。図9(B)に示すように、第1の補正は、加速度センサ12側から見れば、オトガイ部18において、X軸方向が左右方向に対し斜めに装着された加速度センサ12を、X軸方向が左右方向に対し平行になるように回転させた状態に相当する。図9(A)に示すように、第1の補正は、直交座標側から見れば、直交座標をZ軸周りに角度θだけ回転させた状態に相当する。これを三次元の回転行列で表すと、下記式(1)に従って、座標(x,y,z)が座標(x’,y’,z’)に変換されたことに相当する。なお、三次元座標における回転行列において、回転角度の正方向は右ネジの方向である。結果として、z’=zとなる。
【0045】
【数1】

式(1)
【0046】
(X軸周りの回転 -第2の補正-)
操作者は、補正後のデータ画面62Aが表示された加速度データ表示部62を見て、Z軸方向の加速度データを確認する。Z軸方向の加速度データの振幅が大きいと判断した場合には、「次へ」ボタン72を操作して次の軸を選択する。Z軸方向の加速度データの振幅が適正な場合には、終了ボタン70を操作して、位置ずれ補正を終了する。
【0047】
顎運動測定装置30は、ステップ112で、「次へ」指示の選択が確認されると、ステップ102に戻って、図7に示す補正角度設定画面60を、顎運動測定装置30の表示装置50に表示する。
【0048】
操作者は、Z軸方向の加速度データの振幅が最小(略ゼロ)になるように、軸選択部64を操作してX軸を選択し、X軸周りの補正角度θを設定して、確定ボタン68を選択する。この第2の補正により、Y軸方向が下顎頭の回転軸周りの回転運動の接線方向(前後方向)に対応し、Z軸方向が上記回転軸と加速度センサ12とを結ぶ直線の延在方向(上下方向)に対応するようになる(図12参照)。
【0049】
顎運動測定装置30は、ステップ104〜110と同様にして、設定された補正角度に基づいて、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の加速度データの補正値を演算し、補正後の加速度データを、補正角度設定画面60の加速度データ表示部62に表示する。図10に示すように、Z軸方向の加速度データの振幅が小さくなり、Y軸方向の加速度データの振幅が大きくなったデータ画面62Bが表示される。
【0050】
図12(A)及び(B)は顎運動と加速度センサの装着位置との関係を説明する説明図である。顎運動は、図12(A)に矢印で図示するように、下顎窩80を軸受けとする下顎頭82の回転軸83周りの「回転運動」と、下顎窩80に対し下顎頭82が前方に移動する「滑走運動」とに分類される。なお、下顎窩80と下顎頭82との間には、軟骨81が介在している。図12(B)に太い実線で図示するように、加速度センサ12は、Y軸方向が下顎頭の回転軸周りの回転運動の接線方向(前後方向)に対応し、Z軸方向が上記回転軸と加速度センサ12とを結ぶ直線の延在方向(上下方向)に対応するように、下顎のオトガイ部18に装着されている。
【0051】
従って、下顎頭82が左右同時に前方に移動する「滑走運動(左右同時)」の場合は、下顎のオトガイ部に対する上下方向(Z軸方向に対応)の動きが加わる(図6(C)参照)。下顎頭82が左右別々に前方に移動する「滑走運動(左右変位)」の場合は、下顎のオトガイ部に対する左右方向(X軸方向に対応)の動きが加わる(図6(A)参照)。
【0052】
口や顎を略一定の間隔で開閉する「タッピング運動」は、基本的には、図12(A)に示す回転運動であり、下顎のオトガイ部に対する前後方向(Y軸方向に対応)の動きが最も多くなる(図6(B)参照)。従って、本実施の形態では、タッピング運動を測定すると共に、X軸方向及びZ軸方向の加速度データの振幅が小さくなるように(換言すれば、Y軸方向の加速度データの振幅が大きくなるように)補正を行うのである。
【0053】
図11(A)及び(B)は第2の補正の意義を説明する図である。図11(B)に示すように、第2の補正は、加速度センサ12側から見れば、オトガイ部18において、Z軸方向が上下方向に対し斜めに装着された加速度センサ12を、Z軸方向が上下方向と平行になるように、X軸方向(左右方向)の周りに回転させた状態に相当する。図11(A)に示すように、第2の補正は、直交座標側から見れば、直交座標をX軸周りに角度θだけ回転させた状態に相当する。これを三次元の回転行列で表すと、下記式(2)に従って、座標(x’,y’,z’)が座標(x”,y”,z”)に変換されたことに相当する。結果として、x”= x’となる。
【0054】
【数2】

式(2)
【0055】
操作者は、補正後のデータ画面62Bが表示された加速度データ表示部62を見て、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の加速度データを確認する。各軸方向の加速度データの振幅が適正な場合には、終了ボタン70を操作して、位置ずれ補正を終了する。
【0056】
<基線設定>
顎運動測定装置30は、ステップ114で、終了指示の選択が確認されると、ステップ116に進み、図13に示す基線設定画面84を、顎運動測定装置30の表示装置50に表示する。基線設定画面84には、Y軸方向の加速度データを表示する加速度データ表示部86、及びY軸方向の加速度データを積分して得られた速度データを表示する速度データ表示部88が表示されている。
【0057】
加速度データ表示部86には、点線で図示した通り、基線の位置を設定するための基線設定ライン90が表示されている。基線設定ライン90は、ポインタ92により上下に移動させて、基線の位置を設定可能に構成されている。基線設定画面84には、その外に、確定ボタン94、終了ボタン96、基線の設定に戻ることを指示する「戻る」ボタン98が表示されている。
【0058】
操作者は、基線設定ライン90を移動させて所定位置に設定し、確定ボタン94を選択する。
【0059】
顎運動測定装置30は、ステップ118で、確定指示の入力が確認されると、次のステップ120で、設定された基線に基づいて、Y軸方向の加速度データを積分してY軸方向の速度データを演算する。そして、ステップ122で、基線設定後の速度データを、基線設定画面84の速度データ表示部88に表示する。
【0060】
図14(A)〜(C)は基線の位置と速度波形の関係を示す図である。加速度データは、加速度に比例した電圧信号として得られたものであり、ゼロ点は定まっていない。従って、これを積分して速度を求めても、正しい値は得られない。図14(A)に示すように、基線の位置が高い場合には、速度波形は右下がりになる。これに対し、図14(C)に示すように、基線の位置が低い場合には、速度波形は右上りになる。これは、いずれも基線の位置(即ち、加速度波形のゼロ点)が不適切であることを示す。一方、図14(B)に示すように、速度波形が一定の振幅範囲で変動するように平坦になれば、基線の位置は適切に設定されている。
【0061】
操作者は、速度データ表示部88の表示を見て、基線の位置が適切になるまで、「戻る」ボタン98を選択して、基線の設定を繰り返し行う。そして、基線の位置が適切になると、「終了」ボタン96を選択して、基線を確定させる。
【0062】
顎運動測定装置30は、ステップ124で、「戻る」指示の入力が確認されると、ステップ116に戻って、基線設定画面84を表示し、ステップ118〜122と同様にして、設定された基線に基づいてY軸方向の速度データを演算し、基線設定後の速度データを表示する。一方、ステップ126で、終了指示の入力が確認されると、ステップ128に進む。
【0063】
ステップ128では、図15に示すように、最後に設定された基線に基づいて表示された加速度データ102を含む顎運動測定画面100を表示する。即ち、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向の加速度波形を、加速度波形のゼロ点(基線)と共に表示する。これが顎運動の正確な測定結果を表す画面である。この顎運動測定画面100を表示して、顎運動測定プログラムの処理ルーチンを終了する。
【0064】
以上説明した通り、本実施の形態によれば、3軸加速度センサを備えた簡易な検出器を取り付けると同時に、加速度センサの装着位置ずれに起因する誤差を補正する「位置ずれ補正」や加速度波形のゼロ点を定める「基線設定」を行って、正確に顎運動の測定を行うことができる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、被験者と共に表示画面を見ながら、リアルタイムで「位置ずれ補正」や「基線設定」を行うことができる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、3軸加速度センサを備えた検出器を、小型且つ軽量な加速度センサ、可撓性が高く且つ軽量なフレキシブル配線、加速度センサを保持すると共に皮膚の振動を吸収する緩衝部材等を用いて構成することで、加速度センサの振動によるノイズの発生を抑制することができる。
【0067】
更に、上述したように、簡易な装置構成で顎運動を正確に測定できるようにしたことにより、種々の応用が可能となる。例えば、咬み合わせ診断等の早期接触の診断システムへの応用が可能になる。また、顎運動のなめらかさ(すなわち加速度を時間微分した値)を測定(、算出)することで、咀嚼運動を評価するための新たなパラメータの提案にも繋がる。また、軽量化、コードレス化することにより、要介護者の摂食状況や会話などの測定も可能となり、QOL(Quarity of Life)が客観的な数値として定量化されることが期待される。また、近年患者数が増加している緊張性頭痛や、かみ合わせ違和感、の直接的な原因と考えられているTooth Contacting Habbit(上下顎の歯牙を定常的に接触させる習慣)の確定診断機器としての応用も可能となる。
【0068】
なお、上記の実施の形態では、「位置ずれ補正」後に「基線設定」を行う例について説明したが、「基線設定」後に「位置ずれ補正」を行う場合もある。また、「Z軸周りの回転(第1の補正)」後に「X軸周りの回転(第2の補正)」を行う例について説明したが、「X軸周りの回転(第2の補正)」後に「Z軸周りの回転(第1の補正)」を行うこともできる。
【0069】
また、上記の実施の形態では、加速度センサがコンピュータ等で構成された顎運動測定装置に有線接続される例について説明したが、小型且つ軽量の加速度センサであれば、無線通信が可能な加速度センサを用いることもできる。この場合には、顎運動測定装置の通信I/Fに、加速度センサからの無線信号が入力される。
【符号の説明】
【0070】
10 加速度検出器
12 加速度センサ
13 装着部材
14 フレキシブル配線
14A 細線
16 コネクタ
18 オトガイ部
20 インターフェース装置
22 緩衝部材
24 接着部材
30 顎運動測定装置
50 表示装置
60 補正角度設定画面
62A データ画面
62B データ画面
62 加速度データ表示部
64 軸選択部
66 角度設定部
80 下顎窩
82 下顎頭
84 基線設定画面
86 加速度データ表示部
88 速度データ表示部
90 基線設定ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸方向の加速度を検知する加速度センサ、一端が前記加速度センサに接続されたフレキシブル配線、前記フレキシブル配線の他端に接続され且つ前記3軸方向の加速度データを出力する出力端子、及び前記加速度センサを下顎のオトガイ部に装着する装着部を、少なくとも備えた加速度検出器と、
前記加速度検出器から顎運動に応じた加速度データを取得し、取得された加速度データに対し前記加速度センサに起因する誤差を補正して、加速度波形で表される顎運動を測定する顎運動測定装置と、
を備えた顎運動測定システム。
【請求項2】
前記加速度センサは、X軸方向が左右方向に対応し、Y軸方向が前後方向に対応し、且つZ軸方向が上下方向に対応するように、下顎のオトガイ部に装着され、
前記顎運動測定装置は、X軸方向の加速度データが最小になるように、前記加速度センサの直交座標をZ軸周りに回転させる第1の補正と、Z軸方向の加速度データが最小になるように、前記加速度センサの直交座標をX軸周りに回転させる第2の補正とを行い、取得された加速度データに対し前記加速度センサの装着位置ずれに起因する誤差を補正する位置ずれ補正手段を備えた、
請求項1に記載の顎運動測定システム。
【請求項3】
前記顎運動測定装置は、表示手段及び前記表示手段を制御する表示制御手段を更に備え、前記表示制御手段は、前記加速度検出器から取得された加速度データ、前記加速度センサの3軸の何れかを選択する軸選択部、及び選択された軸周りの回転角度を設定する角度設定部を、前記表示装置に表示し、
前記位置ずれ補正手段は、前記軸選択部により選択されたZ軸周りに、前記角度設定部により設定された角度だけ加速度センサの直交座標を回転させて、X軸方向の加速度データを最小にする第1の補正を行い、前記軸選択部により選択されたX軸周りに、前記角度設定部により設定された角度だけ加速度センサの直交座標を回転させて、Z軸方向の加速度データを最小にする第2の補正を行う、
請求項2に記載の顎運動測定システム。
【請求項4】
前記顎運動測定装置は、Y軸方向の電圧信号を積分して得られた速度波形が一定の振幅範囲で変動するように、前記加速度検出器から取得された加速度データに対し基線を設定して加速度波形のゼロ点を定める基線設定手段を更に備えた、
請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の顎運動測定システム。
【請求項5】
前記顎運動測定装置は、
前記表示制御手段が、前記加速度検出器から取得されたY軸方向の加速度データ、及び取得された加速度データに対し基線を設定する基線設定部を、前記表示装置に表示する第1の工程と、前記基線設定手段が、前記基線設定部により設定された基線に基づいてY軸方向の加速度データを積分する第2の工程と、前記表示制御手段が、Y軸方向の加速度データを積分して得られた速度波形を前記表示装置に表示する第3の工程と、を基線が確定されるまで繰り返し行って、
前記加速度データに対し基線を設定して加速度波形のゼロ点を定める、
請求項4に記載の顎運動測定システム。
【請求項6】
前記加速度センサは、下顎のオトガイ部の皮膚を下垂させない程度に、小型化且つ軽量化された請求項1から請求項5までの何れか1項に記載の顎運動測定システム。
【請求項7】
前記フレキシブル配線は、前記加速度センサにより検知される加速度を変動させない程度に、可とう性が付与され且つ軽量化された請求項1から請求項6までの何れか1項に記載の顎運動測定システム。
【請求項8】
前記装着部は、前記加速度センサを保持すると共に皮膚の振動を吸収する緩衝部材と、前記緩衝部材を介して前記加速度センサを下顎のオトガイ部に接着する接着部材と、を備えた請求項1から請求項7までの何れか1項に記載の顎運動測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−200856(P2010−200856A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47257(P2009−47257)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)