説明

顔料油性分散液組成物およびその製造方法

【課題】顔料の油性分散液組成物として、各種記録や表示あるいは表示関連素子作成用インク等として十分な分散安定性と使用環境耐久性を有する、各種顔料を油性媒体とくにシリコンオイル中に特定分散剤を用いて均一に分散させた液組成物およびその製造方法を確立すること。
【解決手段】顔料の油性均一分散液組成物の必須成分の選択において、分散媒がジメチルポリシロキサンを主成分とするシリコンオイル、同分散質が無機または有機の顔料、かつ同分散剤がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールから選ばれることを特徴とする選択を行った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顔料の油性分散液組成物およびその製造方法に関するものであって、より詳しくは、各種顔料を油性媒体とくにシリコンオイル中に特定分散剤を用いて均一にかつ安定に分散させた液組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、静的表示あるいは動的表示のいずれにおいても、顔料等の使用環境耐久性に優れた物質の適用が望まれる分野が拡大してきている。静的表示とは古くからの印刷物や看板等である。動的表示とは電磁場の作用等で時間的に変化させうる表示であり、表示本体の場合か動的シャッターあるいはフィルタの場合がある。表示の作成には無彩色や有彩色の各種顔料が均一で安定な分散液組成物として供給される必要がある。また使用環境耐久性から分散媒はシリコンオイルの使用が望ましい。しかしながらシリコンオイル中に各種顔料粒子を均一かつ安定に分散させる技術は現在のところ未開発である。
【0003】
顔料を媒体中に直接分散することは難しいので、顔料を樹脂で被覆した樹脂粒子として分散性を確保することが提案されたことがある。樹脂エマルションやラテックスの安定分散技術を応用しようということである。例えば、特開昭53−94581号には疎水性ビニルモノマにカーボンブラックを分散させて加熱重合することで、カーボンブラックを疎水性ポリマで被覆し、非水系媒体へのカーボンブラックの分散性を向上させる方法が開示されている。しかし、この技術ではカーボンブラックをビニルモノマに分散させたうえで加熱重合したのちに、残留する未重合モノマの除去・精製する煩雑で難しい工程が必要なため実用性に乏しい。さらに、他の各種顔料やシリコンオイル媒体との組合せに本技術が有効か否かについて、あるいはそのような組合せにおける有効な分散剤の具体的記載も示唆もなされていない。
【0004】
特開昭54−146109号には内部に疎水性染料や顔料の液を含有する非水溶性ビニル重合体粒子が水性媒体中に分散したジェットインクと、その実現方法として水と実質的に混和しない溶剤に溶解した疎水性染料溶液を非水溶性ビニル重合体粒子の水性分散液と混合して、疎水性染料溶液をビニル重合体粒子中に移行・含浸させる方法を開示している。すなわち、分散の難しい顔料を分散させるには、顔料表面を非水溶性ビニル重合体で覆った粒子として水性媒体中に分散することを提案しているのである。同様の出願が特開昭58−2366号で媒体の規定、特開昭58−45272号で重合体粒子がポリウレタンの場合についてなされているが、顔料の場合の具体的記載がないのも前記特開昭54−146109号と同じである。特開昭59−120667号には水分散性加工顔料、水溶性樹脂、水溶性有機溶剤および水からなる水性顔料インクが開示されている。水分散性加工顔料とは顔料を水分散性樹脂すなわちエマルション樹脂で表面被覆した顔料であって、顔料やエマルション樹脂の種類や組成に特別の限定はなく、顔料と樹脂エマルションを顔料が一次粒子にまで分散し、エマルション粒子が破壊するように強く混練することでえられるとしている。水溶性樹脂はバインダ兼分散剤であってその種類や組成に特別の限定はない。いずれにせよ、これらの提案は分散媒が水性の場合であって、本発明が目的とする顔料の油性分散液組成物とは別種の技術である。
【0005】
また、特開平9−272831号には、顔料に重合体をグラフトさせる方法、特開平11−293165号にはカップリング剤で水可溶性樹脂を固定する方法、特開2000−95987号には、ビニルポリマーで変性する方法等、顔料表面を化学結合により修飾する方法が開示されているが、充分に細かい粒径で分散安定化できておらず顔料の含有量も少ないため着色力に劣っている。
【0006】
界面活性剤や樹脂分散剤を用いる顔料の水性分散液組成物は、インクジェット印刷用インク等の用途を想定して数多くの提案がなされてきた。しかるに油性媒体の系に関する提案はきわめて少なく、油性染料を油性媒体に溶解した場合が散見されるのみで、顔料粒子を直接油性媒体に均一かつ安定に分散させた液組成物の日本特許公開公報での提案は、少なくとも本発明の目的とする分野の調査では見あたらなかった。
【特許文献1】特開昭53−094581号公報
【特許文献2】特開昭54−146109号公報
【特許文献3】特開昭58−002366号公報
【特許文献4】特開昭59−120667号公報
【特許文献5】特開平09−272831号公報
【特許文献6】特開平11−293165号公報
【特許文献7】特開2000−095987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
顔料の油性分散液組成物として、各種記録や表示あるいは表示関連素子作成用インク等として十分な分散安定性と使用環境耐久性を有する、各種顔料を油性媒体とくにシリコンオイル中に特定分散剤を用いて均一に分散させた液組成物およびその製造方法を確立することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
顔料の油性均一分散液組成物の必須成分の選択において、分散媒がジメチルポリシロキサンを主成分とするシリコンオイル、同分散質が無機または有機の顔料、かつ同分散剤がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールから選ばれることを特徴とする選択を行った。
【0009】
請求項1は本発明の顔料の油性均一分散液組成物の基本的な構成の請求である。請求項2は請求項1記載の組成物の好適に実施される配合比を規定した副請求項である。請求項3は請求項2記載の組成配合に於ける分散剤の好適な構成比率比を規定した副請求項である。請求項4は本発明における分散剤のひとつであるポリビニルブチラールの好適な組成を規定した副請求項である。請求項5は本発明の顔料の油性均一分散液組成物の製造方法にかかわる請求である。
【0010】
本発明の顔料油性分散液組成物において必須成分である分散媒はジメチルポリシロキサンを主成分とするシリコンオイルである。これはジメチルポリシロキサン単独、または耐熱性を高めるためにその30wt%までの一部をメチルフェニルポリシロキサンで置換することが可能である。メチルフェニルポリシロキサンの使用量が過大では均一で分散安定性の良好な顔料油性分散液組成物が得られないので不適当である。なお、本発明の液組成物で均一とは、肉眼観察で固−液分離や液−液分離の認められない均質状態を指している。主成分であるジメチルポリシロキサンは鎖状重合体を主体にするが、当該の顔料油性分散液組成物の使用性、より具体的には粘性と耐熱性の観点から用途に応じて適度の分子量の鎖状重合体を選んで使用すればよい。その際ジメチルポリシロキサンの分子量が高すぎると、後述の分散剤ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体との相溶性が失われるので、均一な分散液組成物は出来ない。このような観点からも実験的に選んで使用する必要があるが、後述するように当該分野の技術者にとってこの選定は、従来公知の技術で容易になしうることである。本発明で好適に使用可能なジメチルポリシロキサンの実例としては、信越化学工業社製のジメチルシリコーンオイルKF96A−1、同KF96A−1.5、同KF96A−2、同KF96A−5、同KF96A−6、同KF96A−10等が挙げられる。より高分子量のジメチルシリコーンオイルである同KF96A−20や同KF96A−30等は、均一な分散液組成物製造の観点から不適当である。なお、組成物の粘性の調節のためにその一部を環状ジメチルポリシロキサンで置換することが可能である。
【0011】
本発明における顔料とは、カーボンブラックや金属酸化物等の無機顔料および有機顔料であって、無彩色あるいは有彩色のいずれであるかを問わないで実施可能である。各種製法によるカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化コバルト、酸化マンガン等の金属酸化物、あるいは金属の錯塩や複塩等である含金属無機顔料、アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系、チオインジゴ系、イソインドリノン系顔料等である。これら顔料の具体例は、便覧等に収録されていて周知である。顔料は単独または複数種の混合物で実施可能である。従来カーボンブラックおよび有彩色有機顔料の場合に比較して、金属化合物である無機顔料は比重が大であることとその表面特性から一時的に均一な分散はできても、経時的に安定な分散が実現できなかった。本発明では分散媒と分散剤の組合せが特定されていることにより、カーボンブラックや有機顔料のみでなく、金属化合物である無機顔料でも均一で安定な分散が実現するのである。これは本発明者らが今まで経験したことも見聞したこともない珍しい実例であった。金属酸化物である無機顔料が少量の他種物質をドープして改質されている場合も同様である。ここで安定な分散とは、分散液組成物中のサブミクロン粒径の顔料粒子が常温静置で1月間以上、あるいは50℃以上、例えば、80℃の高温静置で1週間以上経過しても凝集や沈降することなく、当初の分散状態を保っていることをいう。凝集や沈降は肉眼での観察や粒径測定で識別できる。またそのような現象が起こった場合には分散液組成物の粘性が変化するので組成物の粘度測定によっても検知可能であるし、実用上分散液組成物を用いての印刷・塗布等の過程に重大な支障をきたしてしまうのである。本発明における顔料は、分散安定性の、また記録や表示の観点から分散液組成物中でサブミクロンオーダの粒径で存在していることが好ましい。またカーボンブラックにおいて、塩基性カーボンブラックが他種カーボンブラックよりも分散安定性が一段と優れていることを見出しているが、このように顔料の由来による若干の相違があっても本質的な困難にはならないのである。各種使用顔料の特性により、分散媒や分散剤の配合内容を本発明の範囲内で選ぶことにより本発明の目的を達することが可能である。
【0012】
本発明では分散剤としてポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールを併用することを特徴としている。ポリオキシアルキレン・メチルポリシロキサン共重合体は水やアルコールに可溶性で、化粧品用物質を水中に分散させる能力があり化粧料分野ではすでに公知の物質である。より具体的には、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリ(オキシエチレン/プロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体、ポリプロピレン・メチルポリシロキサン共重合体が知られ、一般に市販されている。しかし、顔料をシリコンオイルに分散させる能力は不明であり、本発明者らの試験によると前記いずれの共重合体においてもその能力はない。ポリビニルブチラールも合わせガラスの中間膜用樹脂や難溶性染料あるいは顔料のアルコール性媒体またはアルコール水性媒体への分散剤として知られている。しかしシリコンオイルには不溶性であるし、各種顔料のシリコンオイルへの分散に分散剤として有効であるとは知られていない。実際に本発明者らの試験によると、かかる分散能力は認められないのである。本発明者らは本来親和性のないシリコンオイルと顔料の界面に介在して分散に有効な物質を探求し続けた結果、ポリオキシアルキレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールのある限られた特定の組合せのみに分散能力があることを見出して本発明に到達した。
【0013】
本発明で分散剤として使用するポリオキシアルキレン・メチルポリシロキサン共重合体はポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体である。ポリプロピレン・メチルポリシロキサン共重合体やポリ(オキシエチレン/プロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体では、その共重合割合を変えても、併用するもう一方の分散剤であるポリビニルブチラールの素性を種々変更しても、複数種の顔料で汎用的に安定な分散液組成物は得られなかった。ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体でHLBが4〜7の範囲にある共重合組成の場合にのみ多数種の顔料で均一で安定な分散液組成物は得られた。ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体でもHLBが上記以外の範囲にある共重合組成の場合には分散の安定性に難があり不適当である。なお、HLBが4〜7の範囲であってもポリプロピレン・メチルポリシロキサン共重合体やポリ(オキシエチレン/プロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体では分散安定性に難があり実用性の観点から不適当であった。本発明で好適に使用可能なポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体の実例としては、信越化学工業社製のポリエーテル変性シリコーンオイルKF6016、同KF6017が挙げられる。
【0014】
本発明でのもう一方の分散剤であるポリビニルブチラールは、ブチラール化度60〜80モル%の範囲内のものが使用される。ブチラール化度が低いと顔料の安定な分散が難しい。極端な例としてポリビニルブチラールの代わりにポリビニルアルコールを用いると分散それ自体が不可能であった。ブチラール化度のより高いポリビニルブチラールは入手困難である。ポリビニルブチラールとして均一で安定性の高い分散液組成物をえるためにもっとも好ましいのは、ブチラール化度63〜78モル%の場合であった。ポリビニルブチラールはポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体に難溶性である。ポリビニルブチラールの種類にもよるが、ポリビニルブチラールはポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体100重量部に対して高々5重量部であり、多くの場合1乃至2重量部あるいはそれ以下とごく僅かしか溶解しない。しかし、この小割合のポリビニルブチラールが顔料の分散とその安定性に劇的な効果を発揮することは驚くべきことであった。本発明で好適に使用可能なポリビニルブチラールの実例としては、積水化学工業社製のエスレックBL−S、同BL−SH、同BM−S、同BM−SH等が挙げられる。ポリビニルブチラールは難溶性であるが故に本発明の実施に当たっては、少量のポリビニルブチラールをポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体に加熱溶解し、冷却後未溶解ポリビニルブチラールを遠心分離や濾過等の従来公知の方法で分離し、得られた均一溶液を分散剤として分散媒であるシリコンオイル中に分散質である顔料を分散させるのが良い。未溶解物が顔料油性分散液組成物に紛れ込むと、その分散安定性および使用性に障碍をきたすので不都合である。本発明の顔料油性分散液組成物の製造に当たっては、予め顔料粉体を分散剤に分散してのち分散媒を加える方法、三者を一度に混合して分散させる方法等種々の方法が可能であり、分散操作や分散装置に関しても当該分野で従来公知の方法を適用して実施することが可能である。
【0015】
本発明の組成物における必須成分の配合比は、使用する顔料の種類や組成物の用途により異なるが、分散媒であるシリコンオイルが10〜90wt%、分散質である顔料が0.1〜50wt%、分散剤であるポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールが1〜50wt%の範囲から選ばれ、合計が100wt%の場合が好ましい。本発明の実施に当たっては、上記範囲を目安にして、使用材料や用途に適合する均一で安定な分散液組成物の好適配合比を実験的に定めて実施することになる。これは当該分野の技術者にとっては、従来公知の技術手段により容易に成しうることである。以上に掲げた配合比おいて、顔料の配合割合は記録や表示の用途からの要請に対応し、分散媒と分散剤の配合割合は分散の均一性と安定性の実用上の要請に対応しうる値である。なお、分散剤の内訳は先述した通りである。分散剤であるポリビニルブチラールの配合量が、従来の各種分散系における樹脂分散剤の使用量に較べて驚くほど少なくて有効であることは、本発明の組成物を記録剤や表示素子作成材料として印刷、塗布、充填する場合に、低粘度・低粘着性等の実用上のメリットがきわめて大きい。例えば、インクジェット印刷、各種のマーキング、表示装置におけるシャッターやカラーフィルタの作成の場合のように、顔料分散液組成物を対象物の表面や間隙に微小かつ高精度に付与する場合に格段の効果を発揮するのである。
【0016】
本発明の顔料油性分散液組成物において、上述の必須成分以外に実用上の観点から、当該分野で従来公知の表面張力調節剤、粘度調節剤、浸透剤、レベリング剤、防腐剤等を用途に応じて、かつ本発明の目的から許容される物質とその量を選んで追加配合することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、組成成分の選択により使用環境耐久性、分散安定性、使用性、汎用性等に優れた顔料の油性均一分散液組成物を実現することができた。
【実施例】
【0018】
以下に典型的な実施例を記して本発明のより具体的な説明とするが、本発明の実施の態様がこれらに限定されるものではない。以下において部とは重量部のことである。顔料油性分散液組成物中の顔料の粒子径はレーザードップラー方式の粒度測定器であるマイクロトラック社製UPA−150により測定した。インクの粘度はB型粘度計により測定した。分散安定性の試験は調製した顔料油性分散液組成物をガラス容器に入れ、密栓して常温の室内または所定温度の恒温槽内に所定時間静置したのち、内容物の状態変化を観察・計測した。
【0019】
(実施例1)ポリビニルブチラール(積水化学工業社製エスレックBL−S)6.0部とポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(信越化学工業社製ポリエーテル変性シリコーンオイルKF6016)300部を窒素雰囲気のガラス容器中、100℃の水浴で外部加熱した。未溶解ポリビニルブチラールの量が減少したと認められる段階で容器を水浴から取り出し室温まで冷却した。内容物を遠心分離して、ポリビニルブチラールの1.2部がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体100部に溶解した割合の分散剤溶液を得た。なお左記溶解濃度は未溶解残渣分の重量から決定した。この溶液100部と黒色顔料であるカーボンブラック(CIピグメントブラック7:三菱化学社製カーボンブラック#40)の100部を練り合わせたのち、0.5mm径のジルコニアビーズを用いるビーズミルで3時間の分散操作を行った。カーボンブラックは分散剤溶液中に微細粒子として均一に分散していた。この濃厚分散液の全量を300部のシリコンオイル(信越化学工業社製ジメチルシリコーンオイルKF96A−1)と合わせて攪拌すると顔料の油性均一分散液組成物がえられた。この分散液組成物を密閉ガラス容器中常温静置して1ケ月目と2ケ月目に観察した。また別の容器では80℃で高温静置して10日目と20日目に観察した。いずれの場合も顔料粒子の凝集や沈降は認められず、当初の分散状態を保っていた。各サンプルの粘度測定や顔料の粒度分布測定結果も、それらが均一で安定な分散組成物であることを示していた。また、いずれのサンプルもピアゾ素子で吐出するインクジェット印刷機にて、ダンボール紙上にバーコードを印刷したところ長時間安定に印刷することができた。この効果は湿度の影響を受けない油性媒体に顔料を均一かつ安定に微分散できた結果である。
【0020】
(比較例1)実施例1との比較のために同じ原材料を用いて行った各種実験の結果をまとめて記載する。 (1)シリコンオイルとカーボンブラックを練り合わせ、ビーズミルで分散操作を行った。操作直後は分散できたように見えたが、室温静置後短時間内にカーボンブラックの凝集や沈殿がはっきり認められた。 (2)ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とカーボンブラックを練り合わせ、ビーズミルで分散させた。しかし、分散液は室温静置数時間内にカーボンブラックの凝集や沈殿が生じた。シリコンオイルを併用しても同じ結果であった。 (3)シリコンオイル、カーボンブラック、およびポリビニルブチラールを練り合わせ、ビーズミルで分散操作を行ってみた。ポリビニルブチラールの変形片の混じった、しかも静置して短時間内にカーボンブラックの凝集や沈殿の起こる、およそ分散液とは言い難い代物しか得られなかった。 (4)実施例1におけるポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体をポリ(オキシエチレン/プロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体(信越化学工業社製ポリエーテル変性シリコーンオイルKF6008)に替えて実施例1の方法を繰り返したところ、分散安定性に難があり実用上不適当であった。
【0021】
(実施例2)実施例1の黒色顔料を青色有機顔料C.I.ピグメントブルー15−4(東洋インキ社製:リオノールブルー7400G)に替えて実施例1の方法を繰り返し、顔料の油性均一分散液組成物をえた。この分散液組成物は1ケ月の常温静置や2週間80℃の高温静置後も顔料粒子の凝集や沈降は認められず、当初の分散状態を安定に保っていた。各サンプルは粘度測定や顔料の粒度分布測定によっても均一で安定な分散組成物であると認めることかできた。また、いずれのサンプルもピアゾ方式のインクジェット印刷機にて、ダンボール紙上にバーコードを長時間安定に印刷することができた。
【0022】
(比較例2)実施例2との比較のため、実施例2におけるシリコンオイルをより高分子量のシリコンオイル(信越化学工業社製ジメチルシリコーンオイルKF96A−20)に替えて実施例2の方法を繰り返した。その前半段階である、ポリビニルブチラール、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体および顔料からの均一で濃厚な分散液の調製までは順調に行えた。しかしながら高分子量のシリコンオイルは前記の濃厚分散液と相溶性がなく均一な分散液組成物がえられなかった。
【0023】
(実施例3)ポリビニルブチラール(積水化学工業社製エスレックBM−S)6.0部とポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(信越化学工業社製ポリエーテル変性シリコーンオイルKF6017)300部を窒素雰囲気のガラス容器中、100℃の水浴で外部加熱した。未溶解ポリビニルブチラールの量が減少したと認められる段階で容器を水浴から取り出し室温まで冷却した。内容物を遠心分離して、ポリビニルブチラールの1.5部がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体100部に溶解した割合の分散剤溶液を得た。この溶液100部と赤色有機顔料C.I.ピグメント
レッド 238(山陽色素製:パーマネント カーミン 3810)の80部を練り合わせたのち、ペイントシェーカで1時間の分散操作を行った。赤色有機顔料は分散剤溶液中に微細粒子として均一に分散した。この濃厚分散液の全量を320部のシリコンオイル(信越化学工業社製ジメチルシリコーンオイルKF96A−2)と合わせて攪拌すると顔料の油性均一分散液組成物がえられた。この分散液組成物を密閉ガラス容器中常温静置して2ケ月間観察した。また別の容器では80℃で高温静置して3週間観察した。いずれの場合も顔料粒子の凝集や沈降は認められず当初の分散状態を保っていた。各サンプルの粘度測定や顔料の粒度分布測定結果も、それらが均一で安定な分散組成物であることを示していた。
【0024】
(比較例3)実施例3との比較において、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体をポリ(オキシエチレン/プロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体(信越化学工業社製ポリエーテル変性シリコーンオイルKF6008)に替えて実施例3の方法を繰り返したところ、得られた液組成物は分散安定性に難があり実用上不適当であった。またポリビニルブチラールをブチラール化度50%のものに替えて実施例3の方法を繰り返したところ、均一な分散液組成物が得られなかった。
【0025】
(実施例4)ポリビニルブチラール(積水化学工業社製エスレックBL−S)7.0部とポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体(信越化学工業社製ポリエーテル変性シリコーンオイルKF6016)300部を窒素雰囲気のガラス容器中、100℃の水浴で外部加熱した。未溶解ポリビニルブチラールの一部が溶解したと認められる段階で容器を水浴から取り出し室温まで冷却した。内容物を遠心分離して、ポリビニルブチラールの1.7部がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体100部に溶解した割合の分散剤溶液を得た。この溶液100部と白色顔料である酸化チタン(石原産業社製:CR−90)の100部を練り合わせたのち、ビーズミルで2時間の分散操作を行った。酸化チタンは分散剤溶液中に微細粒子として均一に分散していた。この濃厚分散液の全量を300部のシリコンオイル(信越化学工業社製ジメチルシリコーンオイルKF96A−1)と合わせて攪拌すると顔料の油性均一分散液組成物がえられた。この分散液組成物を密閉ガラス容器中常温静置して6週間観察した。また別の容器では80℃で高温静置して3週間観察した。いずれの場合も顔料粒子の凝集や沈降は認められず、当初の分散状態を保っていた。各サンプルの粘度測定や顔料の粒度分布測定結果も、それらが均一で安定な分散液組成物であることを示した。
【0026】
(比較例4)実施例4との比較として、酸化チタンをシリコンオイルやポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体にビーズミルで分散させたてみたが、ビーズミルから取り出した直後から酸化チタンの凝集・沈殿が始まった。
【0027】
(実施例5)実施例1のカーボンブラックを酸性カーボンであるコロンビアカーボン社製Laven1255に変更して実施例1の方法を繰り返した。均一で安定な分散液組成物が得られたが、常温静置の6週間目、高温静置の2週間目に初めて僅かながら顔料の凝集が認められるようになった。本発明の目的に適うものの実施例1の場合に比較して安定性が劣っていた。
【0028】
(実施例6)実施例1と実施例4で別個に得られたカーボンブラックおよび酸化チタンの油性分散液組成物を等量混合した。この混合分散液組成物も均一で安定性の高い分散体であった。表面に透明電極を付設した2枚のガラス板を、両電極面が外面となり、かつ、僅かな間隙を有するセルに仕立て上げ、その間隙に前記混合分散液をマイクロピペットで注入した。電極の一方に正の、他方に負の電圧をかけ、時間間隔を置いて極性を交互に変換すると、それに応じて電極面に垂直の方向からみたセルからの反射光が黒と白に変換した。この現象は電気泳動に基づくものであり、微細顔料粒子の均一で安定な油性分散液の効果のひとつである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分である分散媒がジメチルポリシロキサンを主成分とするシリコンオイル、同分散質が顔料であり、かつ同分散剤がポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体とポリビニルブチラールから選ばれたことを特徴とする顔料の油性均一分散液組成物。
【請求項2】
前記分散液組成物において、分散媒が10〜90wt%、分散質が0.1〜50wt%、分散剤が1〜50wt%の範囲から選ばれ、合計が100wt%の配合比であることを特徴とする請求項1記載の顔料の油性均一分散液組成物。
【請求項3】
前記分散液組成物における分散剤が、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体100重量部当たりポリビニルブチラールを0.1〜5.0重量部を溶解してなることを特徴とする請求項2記載の顔料の油性均一分散液組成物。
【請求項4】
前記分散剤におけるポリビニルブチラールがブチラール化度60〜80モル%の範囲内のものであることを特徴とする請求項3記載の顔料の油性均一分散液組成物。
【請求項5】
ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体にポリビニルブチラールの少なくとも一部を溶解し、その未溶解分を除去した溶液を分散剤として用いて、分散質を分散媒中に分散させることを特徴とする請求項2,3,4のいずれかに記載の顔料の油性均一分散液組成物の製造方法。