説明

風合の改良された人工毛髪用繊維及び繊維束

【課題】 ブレード用、エクステンション用をはじめとする人工毛髪用繊維であって、クリンプ加工での形状の付き易さ、三つ編み等の手作業時の扱い易さに優れ、しかも好ましい風合を有する人工毛髪用繊維を提供すること。
【解決手段】 重合体からなる合成繊維であって、断面形状が、長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の扁平形状で、かつ長軸が、その1箇所又は2箇所で、90°好ましくは120°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有し、単糸繊度が30〜70デニールの人工毛髪用繊維。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアー等に用いられる人工毛髪用繊維及び繊維束に関するものである。特に、ブレード、エクステンションヘアーとして用いられた場合には、従来の毛髪用繊維に比べて風合が改善されて、適度な光沢とソフトな感触を有するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、カツラやヘアピース等の人工毛髪用繊維としては、アクリル系合成繊維、或いは塩化ビニル系合成繊維が多く用いられている。従来、人工毛髪用繊維として、実開昭48−13277号、特公昭53−6253号、実公昭48−6940号、実開昭63−78026号、特開昭55−51802号等に開示されたものがある。これらは、人工毛髪用繊維としての風合いを改善するために、その断面形状を工夫したものである。例えば、実開昭48−13277号のかつら用フィラメントは、まゆ型断面形状における最長部分L、両端の円形部分の径W、及び中央部のくびれた部分の幅Cの長さを特定の範囲内に限定したものである。特公昭53−6253号の人造毛髪用合成繊維は、繊維横断面における重心を通る最大径(L)を所定の範囲に限定するとともに、前記最大径(L)と直交に交わる方向の繊維の横断面における外周と外周との間の最大長さ(W)と最大径(L)との比(L/W)を1/1〜1/5の範囲内に限定したものである。実開昭63−78026号のウィッグ及びブレード用フィラメントは、断面が略円形若しくは楕円形をなす四本の単位フィラメントが一本の単位フィラメントに対し他の三本の単位フィラメントを等間隔をもって放射状に隣り合った断面Y字形であって、隣接するもの同士の接点が、該単位フィラメントの半径に略等しい幅で接続したものである。又、特開昭55−51802号のかつら用フィラメントは、少なくとも2個の扁平円を部分的に重ねた断面形状を有し、その短軸の長さWと長軸の長さLとの比L/W、隣り合う2つの扁平円の中心間の距離C、更に2つの扁平円の中心間を結ぶ直線と扁平円の長軸のなす角度α等を限定したものである。
【0003】しかし、上記のような従来の人工毛髪用繊維として開発された繊維は、いずれも繊維断面形状の長さや角度が極めて限られた数値で限定された特異な形状を有しており、製造が必ずしも容易でないのに加えて、ブレード用やエクステンションヘアー用として用いた場合に必ずしも好ましい風合を有するものではなく、スタイルの保持やストレート性を重視するあまり、硬い触感の繊維となりがちであった。又、手作業時の扱い易さといった点でも充分ではなかった。
【0004】ところで、扁平繊維は、従来からパイル用途には広く用いられていたが、かつら等の人工毛髪用繊維としては、ヘタリ感等が敬遠され、人工毛髪用繊維としての用途には不向きと考えられていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、この扁平繊維について鋭意検討を重ねた結果、所定の扁平率、単糸繊維度を有する扁平繊維であるもの、好ましくは扁平な断面における長軸が所定の角度で屈曲した形状を含むものが、ブレード用、エクステンション用をはじめとする人工毛髪用繊維としての好ましい風合と、クリンプ加工での形状の付き易さや、三つ編み等の手作業時の扱い易さに優れていることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【課題を解決するための手段】即ち本発明は、重合体からなる合成繊維であって、図1に示すような断面形状が長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の範囲内にある扁平形状で、単糸繊度が30〜70デニール(以下、単にdと略記する。)の範囲であることを特徴とする人工毛髪用繊維である。又、請求項2に係る人工毛髪用繊維は、上記偏平繊維であって、しかも、その長軸が、90°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維である。更に、請求項3に係る人工毛髪用繊維は、前記長軸が、その2箇所で、90°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維である。そして、請求項4に係る人工毛髪用繊維は、上記偏平繊維であって、その長軸が、120°を超える角度で屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維である。更に、請求項5に係る人工毛髪用繊維は、前記長軸が、165°以上、180°未満の範囲で屈曲又は湾曲した断面形状を有するものである。
【0007】上記のような本発明に係る偏平繊維を人工毛髪用の繊維束として使用する場合、全繊維中に、断面形状が長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の範囲内にある扁平形状で、且つ、単糸繊度が30〜70デニールの範囲である繊維が、全体の繊維本数の90%以上含まれていることが好ましい。更に、前記繊維中、断面形状における長軸が、その1箇所又は2箇所で165°以上、180°未満の範囲で屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維が全体の繊維本数の50〜80%含まれていることが好ましい。
【0008】そして、前記のような繊維束を人工毛髪用として使用する場合、繊維に捲縮加工を施すことが好ましい。この繊維束は、ブレード、エクステンションヘアー用として好適に用いられる。
【0009】
【発明の実施の態様】以下に本発明を更に詳細に説明する。本発明に係る偏平な繊維のうち、長軸が屈曲又は湾曲した繊維の場合の長軸の長さLとは、図2に示すような繊維断面における屈曲又は湾曲した長軸の長さL1 とL2 の合計の長さ(L1 +L2 )をいう。従って、前記長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)とは、〔(L1+L2 )/W〕をいう。又、前記のような偏平繊維において、長軸の2箇所で90°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有するものにおける長軸の長さLとは、図3(a)、(b)に示すような繊維断面における2箇所で屈曲した長軸の長さL1 、L2 及びL3 の合計の長さ (L1 +L2 +L3 ) をいい、従って、前記長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)とは、〔(L1 +L2 +L3 )/W〕をいう。
【0010】前記屈曲した扁平繊維の長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)が7/1を超えて扁平なものでは、繊維の厚みが小さくなりすぎ、断面が裂けやすく、又、腰がなくなりすぎてクタクタになり、クリンプなどの形状の保持性が低下する。一方、長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)が3/1に満たないものでは、繊維の厚みが大きくなり、ソフトな触感が低下し、又、三つ編み等の手作業時の扱い易さのメリットが低下するので好ましくない。
【0011】又、長軸の屈曲部の角度θとは、図2に示す繊維断面における前記長軸LのL1 とL2 の角度のうち内角に相当する角度θ1 のことをいう。又、この長軸の2箇所で屈曲した繊維における長軸の屈曲部の角度θとは、図3(a)、(b)に示す繊維断面における前記長軸LのL1 とL2 との角度のうち内角に相当する角度θ1 、及びL2 とL3 との角度のうち内角に相当する角度θ2 のことをいう。そして、この屈曲部の角度θは90°を超える角度であることが好ましい。この屈曲角度が90°未満ではソフト感が低下する場合があり、好ましくは120°以上、より好ましくは150°以上、更に好ましくは165°以上である。一方、角度θが180°、即ち直線状であると、繊維表面の金属光沢が増す場合があるため、長軸の屈曲角度θは165°以上、180°未満の範囲であることが好ましい。尚、長軸における屈曲又は湾曲部の位置は特に限定はなく、適度に光沢を和らげる効果が出る位置で屈曲、又は湾曲していればよいが、長軸の長さの中間位置に近い方がより好ましい。
【0012】前記のように、繊維断面における長軸が2箇所で屈曲したものとしては、図3(a)に示すように、長軸が2箇所で互いに反対方向に屈曲する場合と、図3(b)に示すように同じ方向に屈曲する場合とがあるが、本発明の場合には、特に限定はなく、いずれか一方、若しくは両者の混合でもよい。
【0013】又、本発明の人工毛髪用繊維における単糸繊度は前記のように30〜70dである。繊度が30d未満であると柔らかすぎて腰がないばかりか、クリンプ等の形状保持性に劣り、商品価値が低下する。逆に70dを超えて太い場合は断面の長軸の長さが長くなりすぎて、太さ感が不自然となり、又、光沢も強く、ソフトな触感に乏しくなるため、適切な繊度を選択することが必要である。ソフトな触感を重視する意味では35〜55dの範囲がより好ましいが、繊維の素材によって剛性は異なるため、それぞれの素材に最適な繊度が選択されるべきである。
【0014】上記のような屈曲した扁平断面の繊維により人工毛髪用繊維束が作成されるが、その場合、必ずしも繊維束を構成する全ての繊維が屈曲した断面形状を有している必要はなく、断面形状が長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の範囲内にある扁平形状で、且つ、単糸繊度が30〜70dの範囲である繊維が、全繊維中に、全体の繊維本数の90%以上含まれていれば、本発明の目的とするソフトな風合いを付与し、しかもクリンプ加工等の加工性や手作業時の取り扱い性に優れたブレード用やエクステンションヘアー用をはじめとする人工毛髪用繊維束を得ることができる。更に好ましくは、前記長軸の1箇所又は2箇所で、165°以上、180°未満の範囲で屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維が、全繊維中に、全体の繊維本数の50〜80%含まれていることである。
【0015】本発明に係る人工毛髪用繊維を構成する重合体として、アクリル系重合体を用いる場合には、繊維の耐熱性の観点から、通常、アクリロニトリルを30重量%以上含有している重合体が用いられる。又、アクリロニトリルの他にこれと共重合しうるビニル系単量体を用いて共重合してもよい。共重合しうるビニル系単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、又はそれらのモノ、又はジアルキル置換体、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、スチレンスルホン酸、メタリルスルホン酸、メタクロイルオキシベンゼンスルホン酸、メタクロイルオキシプロピルスルホン酸、又はこれらの金属塩類、及びアンモニウムやアミン塩類、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等がある。この中でも、塩化ビニル、塩化ビニリデンが好ましい。
【0016】上記のような重合体を、有機溶剤、例えばアセトン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド等に溶解させて紡糸原液とする。尚、必要に応じて、耐光性等に効果のある安定剤等を添加してもよい。又、光沢の調整のために種々の添加剤を適量加えても差し支えない。更に、着色繊維とするために、適宜顔料、染料等を使用してもよい。
【0017】更に、前記重合体として、重合度600〜1500である塩化ビニル単体の重合体、又は該重合度で酢酸ビニル等の他の単量体と共重合した塩化ビニルを主体とする共重合体、又は両者の混合物を用いることができる。
【0018】又、本発明の人工毛髪用繊維は、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン、又はポリエステルから製造することもできる。
【0019】本発明の繊維を製造するにあたって、紡糸ノズルは、湿式紡糸法の場合には、図4(a)〜(c)に示すような孔形状のものを使用すれば良く、凝固浴での条件を適宜調整することにより、目的とする屈曲、湾曲を有する断面形状の繊維が得られる。又、乾式や溶融紡糸法の場合には、図5(a)〜(c)に示すような、扁平で、屈曲又は湾曲した目的とする繊維の断面形状に近い孔形状のものを使用することが好ましい。
【0020】上記のような本発明に係る人工毛髪用繊維を頭飾用繊維束とする場合には、繊維に捲縮加工を施すことが好ましい。本発明でいう捲縮加工とは、例えば、2本の歯車状のロールに繊維を挟んで連続的に波形形状を付与するギアークリンプ方式や、蒸気等で加熱した繊維をスタフィンボックス等に連続的に押し込んで波形形状を付与する方法を指すものである。これらの方法により、目的とする商品に合った波形形状を付与することで、ブレード、エクステンションヘアー等の加工性も向上し、繊維の光沢を適度に調節した繊維束が得られる。
【0021】上記のような本発明の人工毛髪用繊維及び繊維束は、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、ドールヘアー等の頭髪装飾用として用いるものであるが、ギアークリンプ等の捲縮加工を施した繊維束は、上記頭飾用繊維束の中でも、特にブレード、エクステンションヘアー等に好適である。
【0022】
【実施例】
<実施例1>アクリルニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して28.5重量%の紡糸原液を調製した。該原液を楕円型ノズル(長軸幅0.70mm、短軸幅0.35mm、孔数50ケ)を用いて、30重量%のアセトン水溶液中に湿式紡糸した。得られた繊維は50℃〜60℃の温水浴中で、2.2倍延伸し、次いで120℃で乾燥後、2.8倍の熱延伸を行い、更に145℃で緩和熱処理を施した。この繊維の単糸繊度は40dであり、又、この繊維の断面形状を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、長軸の一箇所で屈曲し、該繊維の平均屈曲角度が150°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(4.7/1)である繊維が、全繊維中に、全体の繊維本数の23%、長軸の2箇所で屈曲し、該繊維の平均屈曲角度が131.5°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2 +L3 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(4.9/1)である繊維が同じく58%、又、屈曲がなくほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=(5/1)である繊維が同じく11%、更にランダムに変形した断面の繊維が8%混在していた。
【0023】次に、上記のようにして得られた繊維に、直線距離100mmの間に山と谷の繰り返し単位で平均10個、山の高さと谷の深さとの合計が平均で7mmとなるギアークリンプ加工を施し、略波形の繊維束とした後、一般的なブレード商品である5g×30段の三つ編み商品を作成し、嵩、ソフト感、加工性の3項目について、5段階評価を行った。
【0024】<比較例1>アクリルニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して28.5重量%の紡糸原液を調製した。該原液を楕円型ノズル(長軸幅0.85mm、短軸幅0.10mm、孔数50ケ)を用いて、30重量%のアセトン水溶液中に湿式紡糸した。得られた繊維は50℃〜60℃の温水浴中で、2.2倍延伸し、次いで120℃で乾燥後、2.8倍の熱延伸を行い、更に145℃で緩和熱処理を施した。この繊維の単糸繊度は40dであり、又、この繊維の断面形状を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ屈曲が無くほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=(10/1)である繊維が、全繊維中、全体の繊維本数の95%存在していた。残りの5%は緩やかな角度で湾曲したり、長軸の端部で断面が破断したものである。得られた繊維を実施例1と同様の方法で三つ編み商品を作成し評価したが、繊維の腰がほとんどなく、クタクタの触感であり、光沢も強すぎて、商品性の低いものであった。
【0025】<比較例2>アクリルニトリル49重量%、塩化ビニル50重量%、スチレンスルホン酸ソーダ1重量%からなる共重合体樹脂をアセトンに溶解して28.5重量%の紡糸原液を調製した。該原液を楕円型ノズル(長軸幅0.424mm、短軸幅0.212mm、孔数72ケ)を用いて、30重量%のアセトン水溶液中に湿式紡糸した。得られた繊維は50℃〜60℃の温水浴中で、1.4倍延伸し、次いで120℃で乾燥後、2.5倍の熱延伸を行い、更に145℃で緩和熱処理を施した。この繊維の単糸繊度は35dであり、又、この繊維の断面形状を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、長軸の一箇所で屈曲し、該繊維の平均屈曲角度が120°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(2.5/1)である繊維が、全繊維中、全体の繊維本数の45%、長軸の2箇所で屈曲し、該繊維の平均屈曲角度が120°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2+L3 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(2.8/1)である繊維が同じく27%、又、屈曲がなくほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=(2.5/1)である繊維が同じく21%、更にランダムに変形した断面の繊維が同じく7%混在していた。得られた繊維は実施例1と同様の方法で三つ編み商品を作成し評価したが、光沢は自然であるものの繊維が硬く、ソフトな触感に乏しい商品となった。
【0026】<実施例2>極限粘度が0.53のポリエチレンテレフタレートを、溶融押し出し機にて紡糸した。使用ノズルは扁平型(長軸幅0.98mm、短軸幅0.20mm、孔数20ケ)を用いた。紡糸温度は270〜285℃で引き取り速度は400m/minで行った。得られた繊維を引き続き80℃熱水中にて2倍延伸し、更に85℃熱水中にて2.5倍延伸し、140℃ヒーターロールにて熱処理を施した。この繊維の単糸繊度は35dであり、又、この繊維の断面形状を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、屈曲が無くほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=(4.5/1)である繊維が、全繊維中、全体の繊維本数の98%存在していた。残りの2%は緩やかな角度で湾曲したりしたものである。得られた繊維は実施例1と同様の方法で三つ編み商品を作成し評価した。
【0027】<実施例3>重合度が1200であるポリ塩化ビニル樹脂をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解して20重量%の紡糸原液を調製した。該原液を扁平型ノズル(長軸幅0.85mm、短軸幅0.15mm、孔数50ケ)を用いて、60重量%のN,N−ジメチルホルムアミド水溶液中に湿式紡糸した。得られた繊維は50重量%のN,N−ジメチルホルムアミド水溶液中で2倍延伸し、50℃以上の温水で水洗した後、120℃で乾燥後、2倍の延伸を行ない、更に135℃で緩和熱処理を施した。この繊維の単糸繊度は45dであり、又、この繊維の断面形状を走査電子顕微鏡を用いて観察したところ、長軸の一箇所で屈曲し、該繊維の平均屈曲角度が170°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(5.5/1)である繊維が、全繊維中、全体の繊維本数の75%、又、屈曲がなくほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=6/1である繊維が同じく25%であった。又、前記長軸の一ケ所で屈曲したもののうち、その屈曲角度が165°以上180°未満の断面形状のものの本数が同じく71%であった。
【0028】<実施例4>MI(JIS K7210によるメルトインデックス)=10g/10minのポリプロピレンを、溶融押し出し機にて扁平型ノズル(長軸幅0.6mm、短軸幅0.2mm、孔数20ケ)を通して、紡糸筒へ溶融紡糸した。紡糸温度は240〜265℃で引き取り速度は200m/minであった。これを更に4倍延伸して得られた繊維は、断面がやや変形して長軸の1箇所で屈曲し、平均屈曲角度が172°で、且つ長軸の長さL(L1 +L2 )と短軸の長さWとの比(L/W)=(4.2/1)である繊維が、全繊維中、全体の繊維本数の70%、又、屈曲がなくほぼ扁平で、且つ長軸の長さLと短軸の長さWとの比(L/W)=(4.6/1)である繊維が同じく30%であった。この繊維の単糸繊度は35dであった。
【0029】以上の実施例1〜4、及び比較例1、2の結果を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】


【0032】
【発明の効果】上記のように、本発明に係る人工毛髪用繊維は、特定の断面形状を有しており、ブレード用、エクステンション・ヘアー用をはじめとする人工毛髪用繊維としての好ましい風合と、クリンプ加工等の加工性や、手作業時の扱い易さに優れたものである。
【0033】更に、これらの繊維にギアークリンプ等の捲縮加工を施した繊維束を用いることにより、嵩高性に優れたブレード、エクステンションヘアー用等の頭飾用商品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る人工毛髪用繊維の断面説明図であり、長軸の屈曲がほとんどない例を示すものである。
【図2】 本発明に係る人工毛髪用繊維の断面説明図であり、長軸が1箇所で屈曲した繊維の例を示す。
【図3】 (a)、(b)共に、本発明に係る人工毛髪用繊維の断面説明図であり、(a)は長軸が2箇所で互いに反対方向へ屈曲した例を示すものであり、(b)は長軸が2箇所で同じ方向へ屈曲した例を示すものである。
【図4】 本発明に係る人工毛髪用繊維を製造するための紡糸ノズルの孔形状を示す概略図であり、(a)〜(c)はいずれも湿式紡糸法で用いるものの例を示したものである。
【図5】 本発明に係る人工毛髪用繊維を製造するための紡糸ノズルの孔形状を示す概略図であり、(a)〜(c)はいずれも溶融紡糸法で用いるものの例を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重合体からなる合成繊維であって、断面形状が、長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の範囲内にある扁平形状で、単糸繊度が30〜70デニールの範囲であることを特徴とする人工毛髪用繊維。
【請求項2】 前記長軸が、90°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有する請求項1記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】 前記長軸が、その2箇所で、90°を超える角度θで屈曲又は湾曲した断面形状を有する請求項1記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】 長軸が、120°を超える角度で屈曲又は湾曲した断面形状を有する請求項2又は請求項3に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】 前記長軸が、165°以上、180°未満の範囲で屈曲又は湾曲した断面形状を有する請求項2又は請求項3に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項6】 前記重合体が、アクリロニトリルを30重量%以上含有するアクリル系重合体である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項7】 前記重合体が、重合度600〜1500である塩化ビニルの単独重合体、又は塩化ビニルを主体とする共重合体、又は両者の混合物である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】 前記重合体が、ポリオレフィンである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項9】 前記重合体が、ナイロンである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項10】 前記重合体が、ポリエステルである請求項1〜請求項5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項11】 頭髪装飾用である請求項1〜請求項10のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項12】 頭髪装飾が、かつら、ヘアピース、ブレード、エクステンションヘアー、又はドールヘアーである請求項11記載の人工毛髪用繊維。
【請求項13】 重合体からなる合成繊維からなる繊維束であって、全繊維中に、断面形状が長軸の長さLと短軸の長さWの比(L/W)が7/1〜3/1の範囲内にある扁平形状で、且つ、単糸繊度が30〜70デニールの範囲である繊維が、全体の繊維本数の90%以上含まれていることを特徴とする人工毛髪用繊維束。
【請求項14】 前記長軸が、その1箇所又は2箇所で、165°以上、180°未満の範囲で屈曲又は湾曲した断面形状を有する繊維が、全体の繊維本数の50〜80%含まれている請求項13記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項15】 繊維に捲縮加工を施して繊維束を形成してなることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の人工毛髪用繊維束。
【請求項16】 ブレード、エクステンションヘアー用である請求項13〜請求項15のいずれかに記載の人工毛髪用繊維束。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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