風向風速情報提供システム及び風向風速情報提供方法
【課題】 局地的な気象擾乱の存在を把握し、正確な風向、風速に関する気象情報を提供する。
【解決手段】 局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム1であって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置2と、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置4と、を含み、前記データ処理装置は、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部32と、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部34と、を含む。
【解決手段】 局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム1であって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置2と、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置4と、を含み、前記データ処理装置は、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部32と、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部34と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局地気象の予報を行ううえで有用な情報を把握、検出して、気圧傾度力の分布から風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム及び風向風速情報提供方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の民間気象会社の実施する気象情報システムサービスは、気象庁の作成する数値予報モデルの結果やアメダス等の広域的全国データを準用して、これらをコンピューター上で画像表示させたものである。すなわち、気象庁のスーパ−コンピューターによって作成される数値予報モデルを主体とした格子点値データ(Grid Point Value。以下、GPVデータと言う。)が予報の主流となっている。このGPVデータは日本列島域ばかりでなく日本を囲む沿岸海域を含めた広い範囲をカバーするものであるため、逆にこのような広範囲のデータからは狭い範囲の局地的気象の予測をすることは難しい。なぜならGPVデータの1番小さい格子でも1辺が30km位の広範囲のもの(例えば東京で言えば、東京−川崎の間が入ってしまう広さ。)で、例えば羽田飛行場、代々木公園といった局地の気象はこのモデルでは捕らえられず解析不可能だからである。そこで数値予報モデル結果から各ユーザーの局地予報を作成する場合には、予報作成の都度、気象技術者がコンピューター上のテクニックでさらに細分化してかつ地形的な修正データを加えて広域的モデル結果から狭義の局地予報に大気現象を翻訳するようにしていた。しかしこのように翻訳したとしても、元々このGPVデータには局地的・特異的データが含まれていないため正確なものとはなり得ない。
【0003】
ところで、積雲や積乱雲は、通常強い上昇気流によって形成されるということが知られているが、減衰期に入ると降水粒子が周囲の空気に摩擦効果を働きかけることで下降気流が発生する。この下降気流のうち、地上に災害を起こすほど極端に強いものをダウンバーストという。ダウンバーストは様々な(往々にして深刻な)被害を及ぼすことが多く、特に航空機にとっては深刻で最も注目すべき気象現象である。なお、下降気流の風速は、通常のものでも「強い台風」あるいはF1の竜巻並みの瞬間風速30(m/s)程度が観測され、稀にこの倍以上の風速に達する。
【0004】
ダウンバーストは地上付近に吹き降ろした後、地面にぶつかって水平方向に広がる。この広がりが約4km未満の比較的小型なダウンバーストはマイクロバースト、広がりが4km以上の大型のダウンバーストをマクロバーストと呼んでいる。普通、マクロバーストよりもマイクロバーストの方が、風速が速く、強い。
【0005】
また、ドップラーレーダーの観測においては、レーダーに対して離れる方向と近づく方向の2方向の風速の差(水平流の風速差にあたる)が10(m/s)以上のものをダウンバーストとしている。ただし、風速差の範囲があまりに大きいものはレーダーでの判別が難しいため、主に風速差の範囲が4km未満のマイクロバーストを対象としている。
【0006】
離着陸を行っている航空機にとって、このダウンバーストは墜落に直結する現象である。これは特に失速速度に近い速度で飛ぶ、機体姿勢の不安定な着陸時に強い下降流によって地面に機体が押されるためである。またダウンバーストと同時に起きる現象としてウインドシアがある。これはダウンバースト中心から下降流が地面に吹き付けるが、この下降流は地面に跳ね返されて乱気流となりダウンバースト中心から放射状に風向が変わる。つまり低高度で急激に風向が変わるのである。
【0007】
例えば着陸進入時に滑走路手前でダウンバーストが発生していたとすると、最初は強い向かい風が吹くために機体が浮き上がる。これに対してエンジン出力を絞るなどしてパイロットは着陸進入を続けるが、ダウンバースト(マイクロバースト)中心付近を通過すると一挙に機体が地面に向かって押された後で、今度は機体に対して強烈な追い風が吹く。このためエンジン出力を増して対気速度を上げる必要に迫られるが、民間機用のジェットエンジンはレシプロエンジンと違いパイロットの操作から出力上昇まで数秒のタイムラグがある。従って着陸時は元々失速速度までの余裕が少ないために、あっという間に失速に陥ってしまい低高度のため回復させる余裕もなく墜落してしまうことがある。墜落に至らなくても、ほとんど墜落に近いかなりの衝撃を伴った着陸となる。
【0008】
このような事故が1970年代から80年代に特に民間航空機の就航本数の多いアメリカ合衆国で多発した。そのため、近年では空港に気象用ドップラーレーダーを設置し、その発生を検知・予測し、墜落事故の防止を行う研究が進んでいる。また、航空機側でもウインドシアに対する対策は進められており、A320(登録商標)等ではウインドシアを感知した場合、警告を発すると共に自動的にゴーアラウンドに入って回避するプログラムが作動するようになっている。
【0009】
特許文献1には、「ニューラルネットワークを用いて過去の気象現象データをその周囲環境の変化に合わせて多数回学習させ、その学習結果にて算出した「しきい値」および「シナプス結合係数」をもって、局地的に特定した地点での気象を予測する局地的気象予測方法」が提案されている。
【0010】
これにより気象庁の数値予報モデルにこだわることなく、独自の気象ネットワークで局地に限定した精度の高い予測を作成することができる。
【0011】
特許文献2には、「低気圧の移動ベクトルを用いて気象予測結果を選定する方法であって、低気圧の移動ベクトルと、ある時点における気象データに基づき算出された複数の気象予測結果による複数の予測移動ベクトルとを比較するステップと、前記移動ベクトルとの差が最も小さい予測移動ベクトルに対応する気象予測結果を選定し、当該気象予測結果についてのデータを記憶装置に格納する予測結果選定ステップと、を含む気象予測結果選定方法」が提案されている。
【0012】
これにより、気象予測を適切に補正して気象予測の精度を向上させるための新規な技術を提供することができる。
【0013】
特許文献3には、航空機の進入経路中に発生するマイクロバーストを検出するマイクロバースト検出システムに関し、更に詳しくは、下降気流によって発生する地表上の圧力変化を圧力センサーによって検知してマイクロバーストの発生を予測するようにしたマイクロバースト検出システムに関する技術思想が記載されている。
【0014】
つまり、従来の手法と異なり、マイクロバーストの下降気流によって発生する地表上の圧力変化を直接圧力センサーによって検知し、マイクロバーストで生じるウインドシアによる危険性の度合いを予測するようにしたもので、気流中の反射体を必要とせず、航空機の位置や滑走路の周辺にある建物等の影響を受けないで、高い検出確度でクリーン・エアーでのマイクロバーストを含めて予想することのできるマイクロバースト検出システムを提供することを目的としている。
【0015】
特許文献4には、航空機用情報送受信システムが提案されている。従来、航空機の飛行には、少なくとも気象等の変動が比較的激しい低空域では数十m〜数百m刻みの比較的細かい範囲ごとの情報が必要であり、高度方向を含む3次元的な情報が必要となり、しかも、航空機が高速で飛行すること等を考慮して、全体として航空機の前方や左右方向には少なくとも100kmの範囲、高度方向には数千ft〜数万ftの範囲の情報の提供が要求される。このように、航空機に対しては、膨大な量のデータの配信が必要となり、しかも、リアルタイム性も要求されるため、情報を圧縮して高速に配信することが求められる。
【0016】
しかしながら、上記のように空域を3次元的に細分化した各小空間における各情報を、例えばJPEG圧縮等の情報圧縮技術を用いて圧縮して配信した場合、航空機では、各小空間における各情報を可逆的に正確に復元できない。そのため、例えば気象の状況が互いに異なる空間同士の境界が不鮮明になってしまい、情報が劣化して、航空機の飛行経路管理等に用いることができないものになってしまうという問題があった。
【0017】
そこで、このような問題を解決するために、「航空機用情報送受信システム1は、自らの管理空域Arealを飛行する航空機3に対して飛行に関する情報を配信する地上局2を備え、地上局2は、当該航空機3に飛行に関する情報を配信する領域Rを管理空域Areal内に設定し、飛行に関する情報を、飛行に関する情報の数値が変化する領域R内の位置を表す位置情報と、当該位置における数値の変化量を表す変化量情報とに分離し、変化量情報を圧縮し、位置情報と圧縮した変化量情報とを航空機3に配信する航空機用情報送受信システム」が提案されている。
【0018】
特許文献5には、任意の3次元格子点における気象データを一意的に推定できる装置及び方法が提案されている。従来、地形が複雑で比較的狭い範囲(50km四方程度)で、気象観測データを利用して、前述の客観解析法により3次元格子点上の気象データを推定する場合、対象範囲に含まれる気象観測地点が少ない、それらの位置が均等に分布していない、上空の風向速データがないなどの原因で、一部の格子点で各気象観測点から設定される観測データの重み係数がすべてゼロに近い微小値となり、数値的に重み付き平均を計算することができず、一次推定値が求められないため、客観解析が不可能になることが多い。その対策としては、仮想的な気象データを人為的に試行錯誤で追加するしかないため、初心者には気象データの客観解析を行うことが困難である。また、仮想的な気象データを追加して、結果が得られても、追加した仮想気象データの位置や数値に依存して、得られる結果が一意的ではないという問題があった。
【0019】
そこで、特許文献5では、気象観測データを利用して大気拡散予測や局地気象調査のためのシミュレーションを行う際に、対象範囲の選び方によらず、仮想的な気象データを追加することなく、対象範囲に含まれる気象観測データだけを用いて、任意の3次元格子点における気象データを一意的に推定できる装置及び方法を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平9−49884号公報
【特許文献2】特開2003−98271号公報
【特許文献3】特開平9−80166号公報
【特許文献4】特開2009−251730号公報
【特許文献5】特開2007−248355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1の手法は、例えば、羽田で観測した風向・風速・気圧の現在の実測値と、羽田を中心に東西南北の4つの観測地点である銚子・御前崎・八丈島・秋田の気圧の現在の実測値を用いて羽田の局地的な気象を予測するものであるが、把握したい気象現象のサイズが数kmであるのに対して観測地点間の距離が大きすぎる。そのため、局地的な気象変動の原因となる現象を捉えることができず、原理上、気象変動を的確に予測することはできない。
【0022】
また、特許文献2の手法でいう低気圧とは赤外線写真として天気図上に現れる低気圧のことであり、局地的に発達する積雲や積乱雲による小さな低気圧を捉えることができない。すなわち、赤外線写真から得られる低気圧に関する情報はそのサイズ的分解能が十分でなく、また、得られる情報のリアルタイム性が乏しい。
【0023】
ところで、近年、集中豪雨や竜巻のように甚大な被害をもたらす局地的な気象変動の発生件数が増えており、その発生位置をピンポイントに予測することが望まれている。集中豪雨や竜巻等の気象変動は、積乱雲の急速な発達に起因して発生することが知られている。
【0024】
特許文献1〜5に記載された装置やシステムは、センサー等の手段を用いて気象に関するデータを取得するものではあるが、集中豪雨や竜巻のように局地的に発生して短時間で消滅する気象変動をいかにして予測するかについては、有効な提案がなされていない。
【0025】
雨粒を捕捉できるレーダーやライダーを用いて集中豪雨を予測することも不可能ではないと考えられるが、仮に雨粒の塊を捉えることができたとしても集中豪雨の発生までに10分程度しかない場合もあり、有効な予測手法とはなり得ない。
【0026】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、局地的な気象擾乱(じょうらん)の存在を把握することで、正確な風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム及び風向風速情報提供方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(1)本発明は、局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システムであって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置と、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置と、を含み、前記データ処理装置は、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部と、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部と、を含む。
【0028】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置を含む。そして、気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して気圧傾度力分布を生成する。そして、気圧傾度力分布に基づいて、風向風速に関する気象情報(以下、風向風速情報)を得たい所与の位置における気圧傾度力を算出して、その位置における風向風速情報を生成する。ここで、所与の位置とは、例えば気圧の谷や山、特定の等圧線上の複数点等である。なお、所与の位置とは複数の地点であることが多いが、特定地域内の1つの地点であってもよい。
【0029】
気圧計測装置は、例えば圧力センサーであって局地的な特定地域に複数配置することができる。そのため、本発明に係る風向風速情報提供システムは、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の存在を把握して、正確な風向風速情報を提供できる。
【0030】
なお、本発明に係る風向風速情報提供システムは、実測された気圧データに基づいて風向風速情報を算出するので、一種の気象予測情報提供システムである。そして、風向風速情報に限らず、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の予測情報も同時に提供してもよい。また、風向風速情報は、風向と風速とを分離して個別に提供してもよい。ここで、風向とは風が吹いてきた方向をいう。例えば風向が北である場合には、風は北から南へと吹いている。
【0031】
(2)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記特定地域の緯度情報を含む緯度情報記憶部を含み、前記風向風速情報生成部は、前記緯度情報記憶部からの前記緯度情報に基づいて第1のコリオリ力を算出して、前記第1のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0032】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、緯度情報に基づいて算出したコリオリ力(第1のコリオリ力)を考慮して風向風速情報を生成する。
【0033】
第1のコリオリ力は地球の自転に起因するコリオリ力であり、北半球では吹く風(例えば北から南)に対して、それを直角右向き(例えば西)に曲げるように作用する。ここで、地球はほぼ球体であるため、コリオリ力の大きさは緯度によって異なる。そこで、本発明に係る風向風速情報提供システムは、緯度情報記憶部に例えば北緯35度といった局所的な特定地域における緯度情報を含む。
【0034】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、地球の自転によるコリオリ力の影響を大きく受ける規模の大きな低気圧又は高気圧に基づく風向風速について正確な情報を提供できる。ここで、低気圧、高気圧の規模が大きい(大規模)とは、例えばその直径が数十kmよりも大きい場合をいう。
【0035】
(3)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記特定地域の地形情報を含む地形情報記憶部を含み、前記風向風速情報生成部は、前記地形情報記憶部からの前記地形情報に基づいて摩擦力を算出して、前記摩擦力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0036】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、地形情報に基づいて算出した摩擦力を考慮して風向風速情報を生成する。
【0037】
風に対する摩擦は、地表面で最大となり上空にいくほど小さくなる。しかし、地表は平坦ではなく山、谷などの起伏を考慮しなければ正確に風向風速を計算することができない。そこで、本発明に係る風向風速情報提供システムは、地形情報記憶部に例えば標高といった特定地域における地形情報を含む。
【0038】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、地表の摩擦力の影響を大きく受ける高度1000m以下、すなわち大気境界層(摩擦層)の風向風速について正確な情報を提供できる。一方、高度1000mより上の自由大気の風向風速を計算する場合には、摩擦力の影響はないとして計算してもよい。
【0039】
(4)この風向風速情報提供システムにおいて、前記風向風速情報生成部は、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の範囲にある場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による第2のコリオリ力を算出して、前記第2のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0040】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、低気圧又は高気圧の規模を求め、その規模が予め決められた所定の範囲にある場合には、その低気圧又は高気圧の渦による第2のコリオリ力を算出する。そして、算出した第2のコリオリ力を考慮してより正確な風向風速情報を生成する。ここで、規模とは例えば低気圧又は高気圧の直径であり、所定の範囲とは例えば数百m以上、数十km未満等であってもよい。また、所定の範囲は、気圧計測装置が配置されている局所的な特定地域の大きさに応じて定められてもよい。例えば、同特定地域にすっぽりと含まれるような規模の小さい低気圧又は高気圧について第2のコリオリ力を算出してもよい。
【0041】
第2のコリオリ力は、低気圧、高気圧の渦の回転によるコリオリ力である。低気圧では反時計周りの渦が生じており、第2のコリオリ力は吹く風に対してそれを直角右向きに曲げるように作用する。一方、高気圧では時計周りの渦が生じており、第2のコリオリ力は吹く風に対してそれを直角左向きに曲げるように作用する。
【0042】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、渦によるコリオリ力(第2のコリオリ力)の影響を受ける規模の小さな低気圧、または高気圧に基づく風向風速について正確な情報を提供できる。
【0043】
(5)この風向風速情報提供システムにおいて、前記風向風速情報生成部は、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の値よりも小さい場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による遠心力を算出して、前記遠心力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0044】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、低気圧又は高気圧の規模を求め、その規模が予め決められた所定の値よりも小さい場合には、その低気圧又は高気圧の遠心力を算出する。そして、算出した遠心力を考慮して風向風速情報を生成する。
【0045】
ここで、所定の値とは例えば数kmであって、局所的な特定地域にすっぽりと含まれるような規模の小さい低気圧又は高気圧が対象であってもよい。このとき、前記の第2のコリオリ力だけでなく遠心力も考慮して正確な風向風速情報を生成する。また、所定の値とは例えば数百mであってもよい。このとき、特に、直径が数十m〜数百mである竜巻、つむじ風等が対象となる。
【0046】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、例えば規模の小さい竜巻といった気象現象までも把握して、遠心力の影響を加えた正確な風向風速情報を提供する。なお、風向風速情報提供システムは、気圧傾度力の時間的変化を見ることで、急激な上昇気流から竜巻等の発生を予測して、気象予報として風向風速情報を提供してもよい。
【0047】
(6)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記風向風速情報生成部が生成した前記風向、風速に関する気象情報に基づいて、前記特定地域の所与の位置における風向、風速を表示する表示部を含んでもよい。
【0048】
本発明によれば、表示部を含んでいるために、使用者は局所的な特定地域における風向風速情報を、視覚的に把握することが可能になる。例えば、局所的な特定地域の地表での風向風速情報が、表示部でベクトル表示されてもよい。
【0049】
(7)本発明は、局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供方法であって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップと、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップと、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成ステップと、を含む。
【0050】
本発明に係る風向風速情報提供方法では、例えば局地的な特定地域に複数の圧力センサーを配置して、これらが計測した気圧の情報を用いることができる。そのため、本発明に係る風向風速情報提供方法は、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の存在を把握し、正確な風向風速情報の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の風向風速情報提供システムの構成を示す図。
【図2】本実施形態の気圧センサーの構成例を示す図。
【図3】本実施形態の気圧計測装置の配置例を示す図。
【図4】図4(A)〜図4(B)は気圧傾度力の算出方法の例を示す図。
【図5】図5(A)は気圧傾度力と風との関係を説明するための図。図5(B)は表示部における風向風力情報の表示例を示す図。
【図6】図6(A)〜図6(C)は地衡風の計算について説明する図。
【図7】図7(A)、図7(B)はそれぞれ中規模の低気圧、高気圧に起因する風の計算について説明する図。
【図8】図8(A)、図8(B)はそれぞれ低気圧、高気圧に起因する地表付近の風の計算について説明する図。
【図9】小規模の強い低気圧に起因する風の計算について説明する図。
【図10】風向風速情報の計算に用いるデータをリスト化した図。
【図11】本実施形態のフローチャート。
【図12】本実施形態のフローチャート(気圧データ取得ステップ)。
【図13】本実施形態のフローチャート(気圧傾度力算出ステップ)。
【図14】本実施形態のフローチャート(風高風速情報生成ステップ)。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0053】
1.風向風速情報提供システムの概要
本実施形態の風向風速情報提供システムは、気圧傾度力分布を整理することによって風向風速情報を算出することができる。本実施形態の風向風速情報提供システムでは、局所的な地域に特有の地方風(局地風)についての風向風速情報も提供することができる。例えば、海岸地域における海陸風、盆地などにおける山谷風、河川や湖の周辺地域における川風や湖風等についてである。これらの風は、例えば地形に起因する摩擦力の影響等で地域に特有の風となっている場合が多い。
【0054】
さらに、本実施形態の風向風速情報提供システムは、局所的な地域における現象である竜巻やダウンバーストについての風向風速情報も提供可能である。従来のシステムでは、非常に狭い範囲で生じる竜巻等による風速を観測することはほとんどできなかった。
【0055】
ここで、本実施形態の風向風速情報提供システムは風向、風速に関する気象情報(風向風速情報)を提供する。風向は風が吹いてきた方向をいう。例えば、風向が北(北風)とは北から南に向かって吹く風のことである。風速は例えば秒速何mのように表される。本実施形態の風向風速情報提供システムは、通常は風向と風速の両方についての情報を生成するが、一方のみを生成することも可能である。また、風速に代えて風力(天気図で用いられる0〜12までの風速の尺度)を用いてもよい。
【0056】
2.風向風速情報提供システムの構成
図1は、本実施形態の風向風速情報提供システム1の構成を示す図である。本実施形態の風向風速情報提供システム1は、図1の構成要素の一部を省略してもよいし、他の構成要素を付加してもよい。
【0057】
本実施形態の風向風速情報提供システム1は、気圧計測装置2とデータ処理装置4を含む。気圧計測装置2は、風向風速情報提供システム1に複数含まれ、局所的な地域において互いに異なる位置に配置されている。一方、データ処理装置4は気圧計測装置2の各々が計測した気圧データを処理して風向風速情報を生成する。
【0058】
気圧計測装置2は、気圧データを計測する気圧センサー10と計測された気圧データを送信する送信部12とを含む。気圧センサー10は例えば大気圧を測定する。そして、測定された気圧データは送信部12へと送られ、所定のタイミングでデータ処理装置4へと送信される。
【0059】
このとき、気圧センサー10の測定タイミング、送信部12の送信タイミングは、例えばデータ処理装置4によって事前に指定されていてもよい。具体的にはデータ処理装置4の送信部80から、これらのタイミングを制御する信号が気圧計測装置2の受信部(図外)へと送られて設定がなされてもよい。
【0060】
気圧センサー10は、例えば、気圧に応じて共振周波数を変化させる感圧素子を有する周波数変化型のセンサーであってもよい。このとき、高分解能かつ高精度の周波数変化型のセンサーを用いることで、例えばPaオーダー以下の気圧変化を捉えることが可能になる。
【0061】
なお、風向風速情報提供システム1は複数の気圧計測装置2を含む。そして、データ処理装置4は、各気圧計測装置2からの気圧データを確実に受け取る必要がある。そのため、送信に用いる電波の周波数が各気圧計測装置2で異なるようにしてもよいし、各気圧計測装置2の送信タイミングを時分割してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、一辺が数km〜数十km程度の狭い範囲を観測対象である「局所的な特定地域」とする。例えば気圧計測装置2の間隔は数百m程度に設定されていてもよい。また、気圧計測装置間の距離は必ずしも一定でなくてもよい。
【0063】
データ処理装置4は、受信部20、処理部30、操作部40、ROM50、RAM60、表示部70、送信部80を含んで構成されている。
【0064】
受信部20は、各気圧計測装置2からの気圧データを受信し処理部30に出力する。処理部30は、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34を含む。気圧傾度力算出部32は、気圧データに基づいて互いに異なる気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、局所的な特定地域における気圧傾度力分布を生成する。風向風速情報生成部34は、気圧傾度力分布に基づいて局所的な特定地域における所与の位置の気圧傾度力を算出し、所与の位置の気圧傾度力に基づいて風向風速情報を生成する。
【0065】
ここで、本実施形態では、処理部30はCPU(Central Processing Unit)であるとする。処理部30(CPU)はプログラムに従い気圧傾度力算出部32として、気圧データに基づいて気圧傾度力分布を生成する。そして、処理部30(CPU)はプログラムに従い風向風速情報生成部34として、気圧傾度力分布に基づいて風向風速情報を生成する。このとき、処理部30のプログラムはROM50に記憶されていてもよい。なお、別の実施形態として、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34はハードウェアで構成されてもよい。また、本実施形態では、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34は区別されるが、必ずしも分離されている必要はなく、これらが一体となって演算処理をしてもよい。
【0066】
風向風速情報生成部34は、風向風速情報を生成するために緯度情報や地形情報を読み込んでもよい。緯度情報は局所的な特定地域の緯度の情報であって、コリオリ力を算出するのに必要な情報である。また、地形情報は風に対する摩擦力を算出するのに必要な情報である。本実施形態において、緯度情報はROM50の緯度情報記憶部52に記憶されており、地形情報はROM50の地形情報記憶部54に記憶されている。
【0067】
風向風速情報生成部34が生成した風向風速情報や所与の位置の気圧傾度力は、記憶部(RAM)60に記憶されてもよい。また、風向風速情報生成部34は、記憶部60から例えば過去の気圧傾度力を読み込んで、現在の気圧傾度力と比較することで上昇気流を検知し、その渦による遠心力を考慮して風向風速情報を算出してもよい。
【0068】
また、処理部30は、操作部40からの操作信号に応じた各種の処理を行ってもよい。具体例として、処理部30は表示部70に各種の情報を表示させる処理、受信部20及び送信部80を介した携帯端末等の外部装置とのデータ通信を制御する処理等を行ってもよい。
【0069】
3.気圧センサーの構成
図2は、本実施形態の風向風速情報提供システムにおける気圧計測装置が含む気圧センサー10の構成例を示している。なお、本実施形態の気圧センサー10は、図2の構成に限るものでなく、構成要素の一部が省略されていてもよいし、他の構成要素が付加されていてもよい。
【0070】
本実施形態の気圧センサー10は、圧力センサー素子100、発振回路110、カウンター120、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)130、MPU(Micro Processing Unit)140、温度センサー150、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)160、通信インターフェース(I/F)170を含んで構成されている。
【0071】
圧力センサー素子100は、振動片の共振周波数の変化を利用する方式(振動方式)の感圧素子を有している。この感圧素子は、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電材料で形成された圧電振動子であり、例えば、音叉型振動子、双音叉型振動子、AT振動子(厚みすべり振動子)、SAW共振子などが適用される。
【0072】
特に、双音叉型圧電振動子は、AT振動子(厚みすべり振動子)などに比べて、伸長・圧縮応力に対する共振周波数の変化が極めて大きく共振周波数の可変幅が大きいので、感圧素子として双音叉型圧電振動子を用いることで、わずかな気圧差を検出可能な高い分解能の気圧センサーを実現することができる。そのため、本実施形態の気圧センサー10は、感圧素子として双音叉型圧電振動子を用いている。なお、圧電材料として、Q値が高くかつ温度安定性に優れた水晶を選択することで、優れた安定性と最高水準の分解能および精度を実現することができる。
【0073】
そして、本実施形態の風向風速情報提供システムは、高分解能および高精度の気圧データをデータ処理装置で処理することで、正確な風向風速情報を提供できる。
【0074】
ここで、従来の風向風速情報提供システムでは、風自体を計測する風向風速計を設置する必要があった。しかし、風向風速計は例えばプロペラを内蔵しており、気圧センサー10を含む気圧計測装置に比べてサイズが大きい。そのため、風向風速計を細かい間隔で配置することは、場所の確保や費用の面から困難であった。
【0075】
しかし、小型で比較的安価な気圧センサー10を含む気圧計測装置を用いる本実施形態の風向風速情報提供システムは、局所的な特定地域において数百m程度の間隔で気圧計測装置を設置することを可能にする。
【0076】
4.気圧計測装置の配置例
本実施形態では、直径数km〜数十kmの円に収まる程度の狭小地域を観測対象の特定地域とし、例えば図3に示すように、当該特定地域に多数の気圧計測装置2がほぼ水平なXY平面に2次元のメッシュ状に固定して配置され、これにより細かい観測メッシュが形成されている。観測メッシュの一辺の長さ(気圧計測装置間の距離)は、数百m〜数km程度に設定される。ただし、気圧計測装置間の距離は一定でなくてもよい。すなわち、観測メッシュが一定のサイズにならなくてもよい。例えば、気圧計測装置2は、携帯電話等の基地局、コンビニエンスストア、スマートグリッドの電気メーターなどに設置することが考えられる。
【0077】
気圧計測装置間の距離(観測メッシュのサイズ)は、特定地域の特性に関連づけられる所与の基準に基づいて決定するようにしてもよい。ここで、特定地域の特性とは、例えば、建物の密集具合、地形などである。例えば、建物の密集具合の高い都市部ではビル風等による被害が大きくなり、地面がコンクリートで覆われている地域では風向風速の変化を含む気象変動が生じやすい。そのため、これらの地域では気象変動の予測精度を高めるために気圧計測装置間の距離を狭くしてもよい。すなわち、特定地域の特性に関連する所与の基準に基づいて、気圧計測装置2の密度を決定するようにしてもよい。
【0078】
このように、特定地域の特性に応じて気圧計測装置2の密度を変えることで、使用する気圧計測装置の数を最適化することができる。
【0079】
なお、本実施形態では特定地域に多数の気圧計測装置2が設置されるが、気圧計測装置2が2つだけ設置される構成も本発明の範囲に含まれる。
【0080】
5.気圧傾度力分布
気圧の差によって生ずる風を起こす力を気圧傾度力という。本実施形態の風向風速情報提供システムは、風向風速情報を生成するために、局所的な特定地域における気圧傾度力の分布(以下、気圧傾度力分布)を計算で求める。
【0081】
本実施形態の風向風速情報提供システムでは、処理部に含まれる気圧傾度力算出部(図1参照)が、気圧データに基づいて気圧傾度力分布を生成する。気圧傾度力分布は、例えば各気圧計測装置の位置における気圧傾度力をリスト化したものである。
【0082】
図4(A)は、1つの気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力の算出方法の例を示す図である。本実施形態では、気圧計測装置2Eを原点として、気圧計測装置2Eと2Fとを結ぶ直線をx軸、気圧計測装置2Eと2Bとを結ぶ直線をy軸としている。このxy平面上にx軸方向はdx、y軸方向はdyの間隔で気圧計測装置を配置している。図4(A)では図示を省略しているが、気圧計測装置2A〜2I以外にも気圧計測装置が前記の間隔で配置されているとする。
【0083】
本実施形態では、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する4つの気圧計測装置の気圧データも用いる。図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2Eの気圧データに加えて、気圧計測装置2B、2D、2F、2Hの気圧データも用いる。ここで、気圧計測装置2B、2D、2E、2F、2Hの気圧データをそれぞれ、PR2B、PR2D、PR2E、PR2F、PR2Hとする。
【0084】
気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力の成分を表すPBE、PED、PFE、PEHは式(1)〜式(4)のように表される。なお、算出される値の絶対値が大きさを表し、値がマイナスである場合には気圧傾度力の成分が図4(A)のx軸、y軸の負の方向を向いていることを表す。
【0085】
【数1】
ここで、mは空気塊の質量であり、気圧傾度力算出部における演算では単位量が用いられてもよい。また、ρは空気塊の密度であって、例えば気圧、気温に依存する。気圧傾度力算出部は温度センサー(図外)から受信部(図1参照)経由で気温データを得て、式(5)のようにρを計算してもよい。
【0086】
【数2】
ただし、式(5)のρの単位は[kg/m3]である。気温データ(式(5)のT)は単位を[℃]に換算し、気圧データ(式(5)のPR2E)は単位を[atm]に換算する。
【0087】
図4(B)では、式(1)〜式(4)の計算で得られた各成分がベクトルで表されている。このとき、これらの合力として、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力のベクトルPEが得られる。ここで、y軸の正方向が北を指すとすると、図4(B)の例では気圧計測装置2Eの北西側の気圧が高いことがわかる。
【0088】
このように、気圧傾度力算出部は、各気圧計測装置の位置における気圧傾度力を計算して局所的な特定地域における気圧傾度力分布を生成することができる。また、気圧傾度力算出部は、各気圧計測装置の気圧データを受け取るので、局所的な特定地域における等圧線を引くことができる。このとき、等圧線の情報も含めて気圧傾度力分布としてもよい。
【0089】
なお、本実施形態では各気圧計測装置はほぼ同じ高さに配置されているとするが、地形に基づく制約等により、高さに差が生じる可能性もある。このとき、気圧傾度力算出部は各気圧計測装置の標高のデータを取得して補正を行ってもよい。各気圧計測装置の標高のデータ(標高データ)をROM(図1参照)に保存しておき、標高データに基づいて各気圧計測装置の高さを揃える補正(例えば海面補正)を行ってもよい。このとき、さらに正確な気圧傾度力分布を生成することができる。
【0090】
ここで、例えば式(1)から、2つの気圧計測装置間の距離(dy)が一定ならば、気圧の差(PR2B−PR2E)が大きいほど気圧傾度力は大きい。また、気圧の差が一定ならば、2つの気圧計測装置間の距離が短いほど大きい。よって、天気図上では等圧線の間隔が狭いところほど、風を起こす力が強く働いている、すなわち強い風が吹いていることになる。
【0091】
なお、気圧傾度力算出部は、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する8つの気圧計測装置の気圧データを用いてもよい。このとき、より正確な気圧傾度力を求めることが可能になる。
【0092】
図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2A〜2Iの9つの気圧データを用いる。このとき、気圧計測装置2A、2C、2G、2Iとの間隔がdx、dyと異なることに注意が必要である。例えば、気圧計測装置2Cと2Eの気圧データに基づく気圧傾度力は、式(6)のようになる。
【0093】
【数3】
その他の計算手法として、気圧傾度力算出部は、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する2つの気圧計測装置の気圧データだけを用いてもよい。このとき、計算による負荷が軽減される。
【0094】
図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2E、2B、2Fの3つの気圧データだけを用いる。よって、式(1)、式(3)だけを計算すればよいので、早期に気圧傾度力分布を生成することが可能になる。
【0095】
また、これらの計算手法を要求される精度と処理時間に応じて選択できるようにしてもよい。例えば、気圧傾度力分布を生成する前に、使用者が操作部(図1参照)によって計算手法を選択してもよい。
【0096】
6.気圧傾度力と等圧線との関係
前記のように、気圧傾度力は気圧の差によって生ずる風を起こす力のことであるが、図5(A)を用いて再び説明する。図5(A)の200A〜200Dは等圧線である。そして、等圧線200A側の気圧は低く、等圧線200D側の気圧は高い。このとき、空気塊220には四方から力230〜233が加わる。
【0097】
このときの力の大きさは、気圧の高さに依存する。気圧が高いとは、相対的にその部分の空気が多くて重いことを意味する。逆に、気圧が低いとは、相対的にその部分の空気が少なくて軽いことを意味する。
【0098】
ここで、等圧線200Bと200Cとに挟まれた部分の気圧は等しい。そのため、空気塊を押す力231、233も等しく、等圧線に並行な方向において釣り合っている。
【0099】
一方、気圧の低い方の力230よりも、気圧の高い方の力232が空気塊を押す力が強い。そのため、232と230との合力が気圧傾度力になる。つまり、気圧傾度力は等圧線を垂直に横切る、気圧の高い方から低い方へと向かう力である。
【0100】
すると、局所的な特定地域における風速風向は、気圧計測装置からの気圧データに基づいて作成された等圧線の分布だけで決まるとも思える。しかし、実際には例えば地球の自転等によるコリオリ力、低気圧の規模によって考慮が必要な遠心力、地表の摩擦力等を考慮しなければ正確な風向風速情報を得ることができない。
【0101】
そこで、本実施形態の風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布から任意の地点の気圧傾度力を算出した上で、前記のコリオリ力、遠心力、摩擦力等を考慮して正確な風向風速情報を生成する。
【0102】
そして、本実施形態の風向風速情報提供システムでは、風向風速情報生成部が生成した風向風速情報に基づいて、例えば図5(B)のように表示部70に局所的な特定地域における風速風向を表示することが可能である。
【0103】
図5(B)の各格子は図4(A)の4つの気圧計測装置(例えば2A、2B、2D、2E)で作られる四角に対応する。そして、左側の「H」と記された等圧線200が閉じた部分が高気圧であり、右側の「L」と記された等圧線200が閉じた部分が低気圧である。また、風向風速210は矢印(ベクトル)で表示されており、矢印の逆向きが風向を示し、矢印の大きさが風速を表す。
【0104】
このように、局所的な特定地域において正確な風向風速情報を提供できれば、当該地域の気象予測をより正確なものとし、例えば従来の手法では予測が難しかったゲリラ豪雨や竜巻等の被害から人々を守ることが可能になる。
【0105】
以下に、風向風速情報生成部における風向風速情報の算出方法について図を用いながら詳細に説明する。
【0106】
7.風向風速情報生成部
7.1.気圧傾度力の取得
風向風速情報生成部(図1参照)は、気圧傾度力算出部(図1参照)からの気圧傾度力分布に基づいて特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出する。ここで、気圧傾度力分布は気圧計測装置の位置における気圧傾度力をリスト化した情報、又はその情報に等圧線の情報を加えたものである。したがって、風向風速情報生成部は、まず特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出する必要がある。
【0107】
再び、図4(A)を用いて説明する。風向風速情報生成部は、例えば図4(A)の位置L1の気圧傾度力を得る必要があるとする。このとき、風向風速情報生成部は演算の負担が重くならないように、最も近傍の気圧計測装置の位置における気圧傾度力を用いてもよい。図4(A)の例では、位置L1の気圧傾度力として、最も近傍の気圧計測装置2Eの気圧傾度力であるPEを用いる。この手法は、気圧計測装置間の距離dx、dyが十分短い場合(例えばdx=dy=100m)には、大きな誤差を生じることなく計算量を抑えられるため有効である。
【0108】
また、風向風速情報生成部は、近傍の2つの気圧計測装置(図4(A)の例では2E、2F)の位置における気圧傾度力を補間することで位置L1の気圧傾度力を算出してもよい。また、近傍の4つの気圧計測装置(図4(A)の例では2B、2C、2E、2F)の位置における気圧傾度力を補間することで位置L1の気圧傾度力を算出してもよい。補間の方法としては、線形補間を用いてもよいが他の手法でもよい。
【0109】
このように、風向風速情報生成部は、局所的な特定地域における任意の位置での気圧傾度力を気圧傾度力分布から算出することができる。そして、得られた気圧傾度力と後述するコリオリ力や遠心力等から任意の位置での風向風速を算出できる。
【0110】
7.2.地衡風
前記のように、風向風速情報生成部は、特定地域の所与の位置における気圧傾度力を演算によって求めることができるが、これだけでは実際の風向風速を予測することはできない。以下に、対象とする風に応じた計算方法の例を説明する。
【0111】
まず、風向風速情報生成部は、気圧計測装置を配置した特定地域を全て覆うような、比較的規模の大きな低気圧、高気圧が発生させる上空の風について風向風速情報を算出することができる。このような上空の風の例として地衡風がある。
【0112】
ここで、低気圧、高気圧は閉じた等圧線で囲まれている。風向風速情報生成部は、気圧傾度力算出部からの気圧傾度力分布に基づいて、上空の低気圧、高気圧が気圧計測装置を配置した特定地域を覆うほど大規模であるか否かについて判断することができる。
【0113】
図6(A)〜図6(C)は地衡風の計算について説明する図である。まず、図6(A)のように、等圧線200E、200Fに挟まれた部分で気圧の差が生じている。ここで、等圧線200Eは低圧側であり、等圧線200Fは高圧側であるとする。なお、上空における等圧線を等高度線ともいうが、等圧線の語を用いて説明する。
【0114】
上空での気圧の差によって、図6(A)の例では等圧線200Fから等圧線200Eに向かって気圧傾度力240が生じる。そして、空気塊はまず気圧傾度力240の向きに沿って動き出す。なお、等圧線が等間隔で平行ならば、この気圧傾度力240はどこでも一定である。気圧傾度力240しか作用しないならば、空気塊は等圧線に対して垂直に、等圧線200Fから等圧線200Eへと移動する(すなわち、風が吹く)ことになる。図6(A)の風242は、このときの様子を表している。
【0115】
しかし、図6(A)のように動き出した空気塊に対しては、北半球では進行方向右向きのコリオリ力244が働く。コリオリ力(転向力)は進行方向に対して直角右向きに、空気塊の速さ(すなわち風速)に比例して働く。
【0116】
こうして、気圧傾度力240によって空気塊はだんだん加速されていくが、加速されるとそれに比例してコリオリ力244もだんだん強くなる。このとき、図6(B)のように、空気塊はコリオリ力244の影響で右に曲がりながら加速される。つまり、風242の向きは気圧傾度力240とコリオリ力244の合力の方向に曲がっていく。
【0117】
そして、最終的には図6(C)のように、気圧傾度力240とコリオリ力244が正反対の向きになって、空気塊に働く力が釣り合うようになる。すると、この空気塊は一定の速さで等圧線と平行に吹く安定した風242になる。これが地衡風である。
【0118】
風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布に基づいて特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出できる。そして、それと釣り合うコリオリ力を求めることで、地衡風の風向風速を計算することが可能である。
【0119】
ここで、地衡風の計算に用いるコリオリ力は地球の自転によって生じる力である。そのため、コリオリ力の大きさは、地球の自転の角速度をω、緯度をφ(ファイ)、運動している物体(ここでは空気塊)の質量をm、風速をvとすると式(7)のようになる。
【0120】
【数4】
このとき、例えばωは7.27×10−5[rad/s]としてもよいし、mは空気塊の質量であって式(1)〜式(4)と同じであってもよい。また、φは例えば東京では35度としてもよい。ここで、Gを計算対象地点の気圧傾度(例えば、式(1)のGBEに対応)とすると、気圧傾度力Pは式(8)のようになる。そして、気圧傾度力Pと式(7)のコリオリ力FC1が等しいことから式(9)のように風速vを求められる。
【0121】
【数5】
このとき、地衡風の風向は気圧傾度力と直交する方向である。このように、風向風速情報生成部は、上空を吹く地衡風について正確に風向風速情報を算出することができる。なお、風向風速情報生成部は、式(7)、式(9)の緯度φを例えば緯度情報記憶部(図1参照)から得てもよい。
【0122】
ここで、地球の自転によるコリオリ力を、気圧の渦によって生じるコリオリ力と区別するために第1のコリオリ力とも表現する。地衡風の計算においては、規模の大きな低気圧、高気圧を前提としており、渦の回転によって生じるコリオリ力(第2のコリオリ力)や遠心力は考慮する必要がない。そして、図6(A)〜図6(C)では北半球を前提とした図示を行っている。また、図6(A)〜図6(C)に図示された矢印(ベクトル)の幅はそれぞれ異なるが見易さのためであって他意はない。
【0123】
7.3.傾度風
風向風速情報生成部は、気圧計測装置を配置した特定地域に含まれるような、中規模の低気圧、高気圧が発生させる上空の風について風向風速情報を算出することができる。このような上空の風の例として傾度風がある。
【0124】
このとき、局所的な特定地域の上空では、等圧線が曲がって弧を描いている。風向風速情報生成部は、低気圧、高気圧の遠心力も考えて風向風速を計算する必要がある。
【0125】
図7(A)は、中規模の低気圧の周りで風242(傾度風)が発生する様子を示している。なお、図6(A)〜図6(C)と同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0126】
低気圧は反時計周りに渦をまいている。そのため、遠心力Cは、計算対象位置における気圧の等圧線が作る円の半径をrとして、式(10)のように表される。
【0127】
【数6】
なお、式(10)のmは空気塊の質量、vは風速であって式(7)と同じである。図7(A)のように、気圧傾度力240(式(8)参照)と、コリオリ力244と遠心力246(式(10)参照)の合力が釣り合っているとして、風向風速情報生成部は風速vを計算する。
【0128】
このとき、図7(A)の例では、コリオリ力244は第1のコリオリ力244Aと第2のコリオリ力244Bとの合力になる。第1のコリオリ力244Aは地球の自転によるコリオリ力であって、地衡風の計算と同じように求められる(式(7)参照)。
【0129】
一方、第2のコリオリ力244Bは、低気圧の渦が回転することによって生じる。そのため、第2のコリオリ力の大きさは、低気圧の渦が回転する角速度をω´とすると式(11)のようになる。
【0130】
【数7】
なお、mは空気塊の質量、vは風速であって式(7)と同じである。風向風速情報生成部は、地球の自転によるコリオリ力のみでなく、中規模の低気圧の渦の回転により発生するコリオリ力も考慮して計算を行う。そのため、正確な傾度風の風向風速情報を生成することができる。地球の自転による第1のコリオリ力244Aと低気圧の渦により発生する第2のコリオリ力244Bが空気塊に作用することで、傾度風の風向きはより右側に曲げられる。
【0131】
図7(B)は、中規模の高気圧の周りで風242が発生する様子を示している。なお、図7(A)と同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0132】
高気圧は時計周りに渦をまいている。ここで、式(10)の遠心力Cが生じることは低気圧の場合と同じである。しかし、低気圧の場合とは渦の回転方向が反対であるため、第2のコリオリ力244Bが作用する方向は第1のコリオリ力244Aと逆方向になる。そして、これらの合力であるコリオリ力244と、気圧傾度力240と遠心力246の合力が釣り合うような風242(傾度風)が生じる。
【0133】
このように、風向風速情報生成部は、中規模の低気圧、又は高気圧によって発生する、上空を吹く傾度風についても正確に風向風速情報を算出することができる。ここで、中規模とは低気圧、高気圧の直径が例えば数百m以上、数十km未満であることでもよい。
【0134】
なお、図7(A)のように上空の低気圧による傾度風では、気圧傾度力240と、コリオリ力244と遠心力246の合力が釣り合う。そして、図7(B)のように上空の高気圧による傾度風では、気圧傾度力240と遠心力246の合力と、コリオリ力244が釣り合う。よって、気圧傾度力240の大きさが同じで、等圧線が作る円の半径rが同じならば、高気圧による傾度風の方が強い(風速が速い)ことがわかる。
【0135】
また、遠心力や第2のコリオリ力の影響が相対的に小さいときには、風向風速情報生成部は遠心力や第2のコリオリ力の計算を省略してもよい。
【0136】
例えば、計算対象とする場所が低気圧の中心から十分離れている場合、すなわち式(10)のrが十分大きな値である場合には、遠心力の影響が十分に小さいとして計算を省略してもよい。風向風速情報生成部は低気圧の中心部を気圧傾度力分布によって求めることが可能であり、前記のrの大きさを把握することができる。
【0137】
また、例えば遠心力と比較して第2のコリオリ力が十分に小さい場合には、第2のコリオリ力の計算を省略してもよい。例えば、小規模な低気圧においては、遠心力が支配的だとして、第2のコリオリ力(および第1のコリオリ力)の計算を省略してもよい。
【0138】
7.4.地表付近の風
地表付近の風は、低気圧、高気圧の規模にかかわらず、風と地表との摩擦の影響を考慮する必要がある。摩擦力は風を止めようとする向きに作用する。摩擦力の影響により、地表付近の風は等圧線を横切って吹く。等圧線を横切る角度は緯度や地表の様子によって異なるが、日本付近では海上で20°くらい、陸上で30°くらいである。例えば、地表の起伏が激しい場所では摩擦力が大きくなる。
【0139】
図8(A)は低気圧に起因する地表付近の風の計算について説明する図である。なお、図6(A)〜図7(B)と同じ要素については同じ符号を付しており説明を省略する。
【0140】
地表付近の風242(以下、風242とする)は、風を止めようとする摩擦力248の影響を受ける。そして、風向風速情報生成部は、摩擦力248とコリオリ力244との合力249が、気圧傾度力240と釣り合うような風242の風向風速を計算によって求める。ここで、図8(A)の例では、コリオリ力244は第1のコリオリ力だけであってもよいし、第1のコリオリ力と第2のコリオリ力との合力であってもよい。また、この例では遠心力を省略しているが、遠心力が考慮されてもよい。
【0141】
ここで、風向風速情報生成部は、摩擦力248を地形情報に基づいて計算してもよい。例えば山や丘といった風に対する障害物がある場所では、風を40%弱めるような摩擦力248が生じるとして計算を行ってもよい。一方、平地では風を10%弱めるような摩擦力248が生じるとしてもよい。なお、風向風速情報生成部は、地形情報を地形情報記憶部(図1参照)から得てもよい。
【0142】
図8(B)は高気圧の場合を説明する図である。高気圧の場合には、図8(A)の低気圧とは風の向きが逆になるが、摩擦力248等の作用する力については同様であるので説明を省略する。そして、風向風速情報生成部は、摩擦力248とコリオリ力244との合力249が、気圧傾度力240と釣り合うような風242の風向風速を計算によって求める。
【0143】
このように、風向風速情報生成部は、地形情報に基づいて摩擦力を考慮することで、地表付近の風についても正確に風向風速情報を算出することができる。
【0144】
7.5.旋衡風
台風よりも規模が更に小さい竜巻や塵旋風(つむじ風)の場合は、回転半径が小さく風速も大きいために遠心力が大きくなる。このとき、遠心力に比べてコリオリ力は相対的に小さくなるので計算する上で無視することができる。
【0145】
図9は、竜巻やつむじ風のような、小規模の強い低気圧に起因する風242の計算について説明する図である。このとき、図9のように気圧傾度力240と回転運動による遠心力246とが釣り合う。
【0146】
これらの力が釣り合っているとき(旋衡風平衡)には、式(8)、式(10)から式(12)が成り立つ。
【0147】
【数8】
なお、v、r、ρ、Gについては式(8)、式(10)と同じであり、説明を省略する。ここで、式(12)から旋衡風においては、低気圧であっても反時計回り(v>0)の風も、時計回り(v<0)の風も存在し得ることがわかる。
【0148】
このように、風向風速情報生成部は、旋衡風平衡が成り立つような風速vを計算し、竜巻やつむじ風のような旋衡風についても正確に風向風速情報を算出することができる。
【0149】
7.6.風向風速の演算
風向風速情報生成部は、前記のように気圧傾度力分布から任意の地点の気圧傾度力を得て、風向風速情報を得る対象の風に応じて、コリオリ力、遠心力、摩擦力等に基づいて演算を行い正確な情報を生成する。
【0150】
図10は、本実施形態の風向風速情報生成部が風向風速情報の計算に用いるデータをリスト化した図である。風向風速情報生成部は、気圧傾度力、第1のコリオリ力、第2のコリオリ力、遠心力、摩擦力の全てを常に考慮して演算を行い、風向風速情報を生成してもよい。しかし、前記の通り低気圧、高気圧の規模等によって、ほとんど風向風速情報に影響を与えない要素が存在する。そのような要素を演算対象から外すことによって、本実施形態の風向風速情報生成部は、効率的で高速な演算を行うことができる。
【0151】
例えば、地衡風は「大規模」な低気圧、高気圧で生じ、上空の「自由大気」において吹く。すると図10の「大規模」かつ「自由大気」の欄のように、本実施形態の風向風速情報生成部は、気圧傾度力240(図6(A)〜図6(C)参照)と第1のコリオリ力244A(図7(A)〜図7(B))だけを計算に用いて、効率的に風向風速情報を生成できる。
【0152】
また、摩擦力を考慮する必要のある地表付近の旋衡風(例えば、竜巻)については、図10の「小規模」かつ「摩擦層」の欄に従って、気圧傾度力、遠心力、摩擦力を計算することで、効率的に旋衡風についての風向風速情報を生成できる。
【0153】
このように、本実施形態の風向風速情報生成部は、対象となる風に応じて計算負荷の軽減を図りつつ正確な風向風速情報を生成することができる。
【0154】
8.フローチャート
図11〜図14は本実施形態の風向風速情報提供方法についてのフローチャートである。例えば本実施形態の風向風速情報提供システムの処理部(図1参照)は、図11〜図14のフローに従って、風向風速情報を提供する。まず、図11を用いてメインのフローチャートを説明した後に、図12〜図14を用いてサブのフローチャートを説明する。
【0155】
図11のように、まず、処理部は例えば操作部(図1参照)から測定タイミング設定を受け取る(S2)。測定タイミング設定とは、処理部が気圧データを更新する時間間隔の設定情報である。測定タイミング設定に従って、処理部は気圧計測装置が気圧データを測定するタイミングを設定してもよいし、処理部が気圧データを受け取るタイミングを設定してもよい。
【0156】
そして、処理部は例えば操作部から対象とする風や範囲の設定を受け取る(S4)。例えば傾度風についての風向風速情報を得る場合には、風向風速情報生成部(図1参照)が、気圧傾度力、第1および第2のコリオリ力、遠心力を算出するように設定する(図10の「中規模」「自由大気」参照)。また、例えば局所的な特定地域の一部だけを対象とするのであれば、気圧傾度力算出部(図1参照)が、一部の気圧計測装置のみから気圧データを受け取るように設定してもよい。
【0157】
次に、処理部は風向風速情報の処理の設定を受け取る(S6)。風向風速情報の処理の設定とは、例えば風向風速情報の送信先の設定や、表示部の風向風速の表示(図5(B)参照)を更新するタイミングの設定等である。
【0158】
そして、必要があれば、処理部は各気圧計測装置が気圧データを測定するタイミングを例えば送信部経由で設定する(S8)。
【0159】
これらの事前準備の後、処理部は、複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップ(S10)、特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップ(S20)、風向風速情報を生成する風向風速情報生成ステップ(S30)を実行する。
【0160】
そして、処理部は新たに得られた風向風速情報に基づいて、送信や表示といった必要な処理を実行する(S40)。その後、終了指示がなければ再びS10に戻り(S50N)、終了指示がある場合には終了する(S50Y)。
【0161】
図12は、気圧データ取得ステップ(S10)のフローチャートである。処理部は、所定のタイミングで気圧計測装置から気圧データを受け取る(S12)。所定のタイミングとは、例えば操作部によってS2で設定された測定タイミングである。
【0162】
そして、気圧傾度力分布を生成するのに必要な全てのデータが揃うまで、気圧データを受け取る(S14N)。そして、全てのデータが揃うと気圧データ取得ステップを終了する(S14Y)。
【0163】
図13は、気圧傾度力算出ステップ(S20)のフローチャートである。処理部のうち気圧傾度力算出部は、S20で気圧計測装置の位置における気圧傾度力を算出して気圧傾度力分布を生成する。
【0164】
気圧傾度力算出部は、まず異なる気圧計測装置間の気圧傾度力を算出する(S22)。例えば、前記の式(1)のような計算を行うことが対応する。そして、必要な全ての気圧傾度力を算出する(S24N)。例えば、各気圧計測装置の位置における気圧傾度力を得るために、前記の式(1)〜式(4)のような計算を繰り返すことが対応する。そして、必要な演算を全て行って(S24Y)、特定地域における気圧傾度力分布を生成する(S26)。
【0165】
図14は、風向風速情報生成ステップ(S30)のフローチャートである。処理部のうち風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布と必要な情報を取得する(S32)。必要な情報とは、例えば第1のコリオリ力の演算に必要な緯度情報や、摩擦力の演算に必要な地形情報等である。
【0166】
風向風速情報生成部は、必要ならば、特定の位置の気圧傾度力を演算で求める。このとき、気圧傾度力分布に基づいて、例えば線形補間のような補間処理が行われてもよい(S34)。そして、必要な気圧傾度力を全て演算で求める(S35N)。
【0167】
そして、必要な最新の気圧傾度力を得た後(S35Y)、記憶部(図1参照)から過去の気圧傾度力を取得する(S36)。過去の気圧傾度力との比較により、気圧傾度力の変化を把握するためである。このとき、例えば強い上昇気流等が生じているといった情報や、規模の小さな低気圧等の渦の回転の速さといった情報を得ることができる。そして、気圧傾度力とこのような情報に基づいて、正確な風向風速情報を生成する(S37)。
【0168】
その後、風向風速情報生成部は最新の気圧傾度力を記憶部に保存して(S38)、風向風速情報生成ステップを終了する。
【0169】
このように、図11〜図14のフローチャートに従って、本実施形態の風向風速情報提供システムの処理部は正確な風向風速情報を提供することができる。なお、S36のステップを含むことで、例えば上昇気流を検知することができる。このとき、局所的な特定地域における短時間の集中豪雨を予測して、風向風速情報に加えて有用な気象変動の情報も提供することが可能である。
【0170】
9.その他
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0171】
1…風向風速情報提供システム、2,2A〜2I…気圧計測装置、4…データ処理装置、10…気圧センサー、12…送信部、20…受信部、30…処理部、32…気圧傾度力算出部、34…風向風速情報生成部、40…操作部、50…ROM、60…RAM、70…表示部、80…送信部、52…緯度情報記憶部、54…地形情報記憶部、100…圧力センサー素子、110…発振回路、120…カウンター、130…TCXO、140…MPU、150…温度センサー、160…EEPROM、170…通信インターフェース、200,200A〜200F…等圧線、210…風向風速、220…空気塊、230〜233…力、240…気圧傾度力、242…風、244…コリオリ力、244A…第1のコリオリ力、244B…第2のコリオリ力、246…遠心力、248…摩擦力、249…合力
【技術分野】
【0001】
本発明は、局地気象の予報を行ううえで有用な情報を把握、検出して、気圧傾度力の分布から風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム及び風向風速情報提供方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の民間気象会社の実施する気象情報システムサービスは、気象庁の作成する数値予報モデルの結果やアメダス等の広域的全国データを準用して、これらをコンピューター上で画像表示させたものである。すなわち、気象庁のスーパ−コンピューターによって作成される数値予報モデルを主体とした格子点値データ(Grid Point Value。以下、GPVデータと言う。)が予報の主流となっている。このGPVデータは日本列島域ばかりでなく日本を囲む沿岸海域を含めた広い範囲をカバーするものであるため、逆にこのような広範囲のデータからは狭い範囲の局地的気象の予測をすることは難しい。なぜならGPVデータの1番小さい格子でも1辺が30km位の広範囲のもの(例えば東京で言えば、東京−川崎の間が入ってしまう広さ。)で、例えば羽田飛行場、代々木公園といった局地の気象はこのモデルでは捕らえられず解析不可能だからである。そこで数値予報モデル結果から各ユーザーの局地予報を作成する場合には、予報作成の都度、気象技術者がコンピューター上のテクニックでさらに細分化してかつ地形的な修正データを加えて広域的モデル結果から狭義の局地予報に大気現象を翻訳するようにしていた。しかしこのように翻訳したとしても、元々このGPVデータには局地的・特異的データが含まれていないため正確なものとはなり得ない。
【0003】
ところで、積雲や積乱雲は、通常強い上昇気流によって形成されるということが知られているが、減衰期に入ると降水粒子が周囲の空気に摩擦効果を働きかけることで下降気流が発生する。この下降気流のうち、地上に災害を起こすほど極端に強いものをダウンバーストという。ダウンバーストは様々な(往々にして深刻な)被害を及ぼすことが多く、特に航空機にとっては深刻で最も注目すべき気象現象である。なお、下降気流の風速は、通常のものでも「強い台風」あるいはF1の竜巻並みの瞬間風速30(m/s)程度が観測され、稀にこの倍以上の風速に達する。
【0004】
ダウンバーストは地上付近に吹き降ろした後、地面にぶつかって水平方向に広がる。この広がりが約4km未満の比較的小型なダウンバーストはマイクロバースト、広がりが4km以上の大型のダウンバーストをマクロバーストと呼んでいる。普通、マクロバーストよりもマイクロバーストの方が、風速が速く、強い。
【0005】
また、ドップラーレーダーの観測においては、レーダーに対して離れる方向と近づく方向の2方向の風速の差(水平流の風速差にあたる)が10(m/s)以上のものをダウンバーストとしている。ただし、風速差の範囲があまりに大きいものはレーダーでの判別が難しいため、主に風速差の範囲が4km未満のマイクロバーストを対象としている。
【0006】
離着陸を行っている航空機にとって、このダウンバーストは墜落に直結する現象である。これは特に失速速度に近い速度で飛ぶ、機体姿勢の不安定な着陸時に強い下降流によって地面に機体が押されるためである。またダウンバーストと同時に起きる現象としてウインドシアがある。これはダウンバースト中心から下降流が地面に吹き付けるが、この下降流は地面に跳ね返されて乱気流となりダウンバースト中心から放射状に風向が変わる。つまり低高度で急激に風向が変わるのである。
【0007】
例えば着陸進入時に滑走路手前でダウンバーストが発生していたとすると、最初は強い向かい風が吹くために機体が浮き上がる。これに対してエンジン出力を絞るなどしてパイロットは着陸進入を続けるが、ダウンバースト(マイクロバースト)中心付近を通過すると一挙に機体が地面に向かって押された後で、今度は機体に対して強烈な追い風が吹く。このためエンジン出力を増して対気速度を上げる必要に迫られるが、民間機用のジェットエンジンはレシプロエンジンと違いパイロットの操作から出力上昇まで数秒のタイムラグがある。従って着陸時は元々失速速度までの余裕が少ないために、あっという間に失速に陥ってしまい低高度のため回復させる余裕もなく墜落してしまうことがある。墜落に至らなくても、ほとんど墜落に近いかなりの衝撃を伴った着陸となる。
【0008】
このような事故が1970年代から80年代に特に民間航空機の就航本数の多いアメリカ合衆国で多発した。そのため、近年では空港に気象用ドップラーレーダーを設置し、その発生を検知・予測し、墜落事故の防止を行う研究が進んでいる。また、航空機側でもウインドシアに対する対策は進められており、A320(登録商標)等ではウインドシアを感知した場合、警告を発すると共に自動的にゴーアラウンドに入って回避するプログラムが作動するようになっている。
【0009】
特許文献1には、「ニューラルネットワークを用いて過去の気象現象データをその周囲環境の変化に合わせて多数回学習させ、その学習結果にて算出した「しきい値」および「シナプス結合係数」をもって、局地的に特定した地点での気象を予測する局地的気象予測方法」が提案されている。
【0010】
これにより気象庁の数値予報モデルにこだわることなく、独自の気象ネットワークで局地に限定した精度の高い予測を作成することができる。
【0011】
特許文献2には、「低気圧の移動ベクトルを用いて気象予測結果を選定する方法であって、低気圧の移動ベクトルと、ある時点における気象データに基づき算出された複数の気象予測結果による複数の予測移動ベクトルとを比較するステップと、前記移動ベクトルとの差が最も小さい予測移動ベクトルに対応する気象予測結果を選定し、当該気象予測結果についてのデータを記憶装置に格納する予測結果選定ステップと、を含む気象予測結果選定方法」が提案されている。
【0012】
これにより、気象予測を適切に補正して気象予測の精度を向上させるための新規な技術を提供することができる。
【0013】
特許文献3には、航空機の進入経路中に発生するマイクロバーストを検出するマイクロバースト検出システムに関し、更に詳しくは、下降気流によって発生する地表上の圧力変化を圧力センサーによって検知してマイクロバーストの発生を予測するようにしたマイクロバースト検出システムに関する技術思想が記載されている。
【0014】
つまり、従来の手法と異なり、マイクロバーストの下降気流によって発生する地表上の圧力変化を直接圧力センサーによって検知し、マイクロバーストで生じるウインドシアによる危険性の度合いを予測するようにしたもので、気流中の反射体を必要とせず、航空機の位置や滑走路の周辺にある建物等の影響を受けないで、高い検出確度でクリーン・エアーでのマイクロバーストを含めて予想することのできるマイクロバースト検出システムを提供することを目的としている。
【0015】
特許文献4には、航空機用情報送受信システムが提案されている。従来、航空機の飛行には、少なくとも気象等の変動が比較的激しい低空域では数十m〜数百m刻みの比較的細かい範囲ごとの情報が必要であり、高度方向を含む3次元的な情報が必要となり、しかも、航空機が高速で飛行すること等を考慮して、全体として航空機の前方や左右方向には少なくとも100kmの範囲、高度方向には数千ft〜数万ftの範囲の情報の提供が要求される。このように、航空機に対しては、膨大な量のデータの配信が必要となり、しかも、リアルタイム性も要求されるため、情報を圧縮して高速に配信することが求められる。
【0016】
しかしながら、上記のように空域を3次元的に細分化した各小空間における各情報を、例えばJPEG圧縮等の情報圧縮技術を用いて圧縮して配信した場合、航空機では、各小空間における各情報を可逆的に正確に復元できない。そのため、例えば気象の状況が互いに異なる空間同士の境界が不鮮明になってしまい、情報が劣化して、航空機の飛行経路管理等に用いることができないものになってしまうという問題があった。
【0017】
そこで、このような問題を解決するために、「航空機用情報送受信システム1は、自らの管理空域Arealを飛行する航空機3に対して飛行に関する情報を配信する地上局2を備え、地上局2は、当該航空機3に飛行に関する情報を配信する領域Rを管理空域Areal内に設定し、飛行に関する情報を、飛行に関する情報の数値が変化する領域R内の位置を表す位置情報と、当該位置における数値の変化量を表す変化量情報とに分離し、変化量情報を圧縮し、位置情報と圧縮した変化量情報とを航空機3に配信する航空機用情報送受信システム」が提案されている。
【0018】
特許文献5には、任意の3次元格子点における気象データを一意的に推定できる装置及び方法が提案されている。従来、地形が複雑で比較的狭い範囲(50km四方程度)で、気象観測データを利用して、前述の客観解析法により3次元格子点上の気象データを推定する場合、対象範囲に含まれる気象観測地点が少ない、それらの位置が均等に分布していない、上空の風向速データがないなどの原因で、一部の格子点で各気象観測点から設定される観測データの重み係数がすべてゼロに近い微小値となり、数値的に重み付き平均を計算することができず、一次推定値が求められないため、客観解析が不可能になることが多い。その対策としては、仮想的な気象データを人為的に試行錯誤で追加するしかないため、初心者には気象データの客観解析を行うことが困難である。また、仮想的な気象データを追加して、結果が得られても、追加した仮想気象データの位置や数値に依存して、得られる結果が一意的ではないという問題があった。
【0019】
そこで、特許文献5では、気象観測データを利用して大気拡散予測や局地気象調査のためのシミュレーションを行う際に、対象範囲の選び方によらず、仮想的な気象データを追加することなく、対象範囲に含まれる気象観測データだけを用いて、任意の3次元格子点における気象データを一意的に推定できる装置及び方法を提供することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平9−49884号公報
【特許文献2】特開2003−98271号公報
【特許文献3】特開平9−80166号公報
【特許文献4】特開2009−251730号公報
【特許文献5】特開2007−248355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、特許文献1の手法は、例えば、羽田で観測した風向・風速・気圧の現在の実測値と、羽田を中心に東西南北の4つの観測地点である銚子・御前崎・八丈島・秋田の気圧の現在の実測値を用いて羽田の局地的な気象を予測するものであるが、把握したい気象現象のサイズが数kmであるのに対して観測地点間の距離が大きすぎる。そのため、局地的な気象変動の原因となる現象を捉えることができず、原理上、気象変動を的確に予測することはできない。
【0022】
また、特許文献2の手法でいう低気圧とは赤外線写真として天気図上に現れる低気圧のことであり、局地的に発達する積雲や積乱雲による小さな低気圧を捉えることができない。すなわち、赤外線写真から得られる低気圧に関する情報はそのサイズ的分解能が十分でなく、また、得られる情報のリアルタイム性が乏しい。
【0023】
ところで、近年、集中豪雨や竜巻のように甚大な被害をもたらす局地的な気象変動の発生件数が増えており、その発生位置をピンポイントに予測することが望まれている。集中豪雨や竜巻等の気象変動は、積乱雲の急速な発達に起因して発生することが知られている。
【0024】
特許文献1〜5に記載された装置やシステムは、センサー等の手段を用いて気象に関するデータを取得するものではあるが、集中豪雨や竜巻のように局地的に発生して短時間で消滅する気象変動をいかにして予測するかについては、有効な提案がなされていない。
【0025】
雨粒を捕捉できるレーダーやライダーを用いて集中豪雨を予測することも不可能ではないと考えられるが、仮に雨粒の塊を捉えることができたとしても集中豪雨の発生までに10分程度しかない場合もあり、有効な予測手法とはなり得ない。
【0026】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、局地的な気象擾乱(じょうらん)の存在を把握することで、正確な風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システム及び風向風速情報提供方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0027】
(1)本発明は、局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システムであって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置と、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置と、を含み、前記データ処理装置は、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部と、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部と、を含む。
【0028】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置を含む。そして、気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して気圧傾度力分布を生成する。そして、気圧傾度力分布に基づいて、風向風速に関する気象情報(以下、風向風速情報)を得たい所与の位置における気圧傾度力を算出して、その位置における風向風速情報を生成する。ここで、所与の位置とは、例えば気圧の谷や山、特定の等圧線上の複数点等である。なお、所与の位置とは複数の地点であることが多いが、特定地域内の1つの地点であってもよい。
【0029】
気圧計測装置は、例えば圧力センサーであって局地的な特定地域に複数配置することができる。そのため、本発明に係る風向風速情報提供システムは、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の存在を把握して、正確な風向風速情報を提供できる。
【0030】
なお、本発明に係る風向風速情報提供システムは、実測された気圧データに基づいて風向風速情報を算出するので、一種の気象予測情報提供システムである。そして、風向風速情報に限らず、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の予測情報も同時に提供してもよい。また、風向風速情報は、風向と風速とを分離して個別に提供してもよい。ここで、風向とは風が吹いてきた方向をいう。例えば風向が北である場合には、風は北から南へと吹いている。
【0031】
(2)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記特定地域の緯度情報を含む緯度情報記憶部を含み、前記風向風速情報生成部は、前記緯度情報記憶部からの前記緯度情報に基づいて第1のコリオリ力を算出して、前記第1のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0032】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、緯度情報に基づいて算出したコリオリ力(第1のコリオリ力)を考慮して風向風速情報を生成する。
【0033】
第1のコリオリ力は地球の自転に起因するコリオリ力であり、北半球では吹く風(例えば北から南)に対して、それを直角右向き(例えば西)に曲げるように作用する。ここで、地球はほぼ球体であるため、コリオリ力の大きさは緯度によって異なる。そこで、本発明に係る風向風速情報提供システムは、緯度情報記憶部に例えば北緯35度といった局所的な特定地域における緯度情報を含む。
【0034】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、地球の自転によるコリオリ力の影響を大きく受ける規模の大きな低気圧又は高気圧に基づく風向風速について正確な情報を提供できる。ここで、低気圧、高気圧の規模が大きい(大規模)とは、例えばその直径が数十kmよりも大きい場合をいう。
【0035】
(3)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記特定地域の地形情報を含む地形情報記憶部を含み、前記風向風速情報生成部は、前記地形情報記憶部からの前記地形情報に基づいて摩擦力を算出して、前記摩擦力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0036】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、地形情報に基づいて算出した摩擦力を考慮して風向風速情報を生成する。
【0037】
風に対する摩擦は、地表面で最大となり上空にいくほど小さくなる。しかし、地表は平坦ではなく山、谷などの起伏を考慮しなければ正確に風向風速を計算することができない。そこで、本発明に係る風向風速情報提供システムは、地形情報記憶部に例えば標高といった特定地域における地形情報を含む。
【0038】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、地表の摩擦力の影響を大きく受ける高度1000m以下、すなわち大気境界層(摩擦層)の風向風速について正確な情報を提供できる。一方、高度1000mより上の自由大気の風向風速を計算する場合には、摩擦力の影響はないとして計算してもよい。
【0039】
(4)この風向風速情報提供システムにおいて、前記風向風速情報生成部は、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の範囲にある場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による第2のコリオリ力を算出して、前記第2のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0040】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、低気圧又は高気圧の規模を求め、その規模が予め決められた所定の範囲にある場合には、その低気圧又は高気圧の渦による第2のコリオリ力を算出する。そして、算出した第2のコリオリ力を考慮してより正確な風向風速情報を生成する。ここで、規模とは例えば低気圧又は高気圧の直径であり、所定の範囲とは例えば数百m以上、数十km未満等であってもよい。また、所定の範囲は、気圧計測装置が配置されている局所的な特定地域の大きさに応じて定められてもよい。例えば、同特定地域にすっぽりと含まれるような規模の小さい低気圧又は高気圧について第2のコリオリ力を算出してもよい。
【0041】
第2のコリオリ力は、低気圧、高気圧の渦の回転によるコリオリ力である。低気圧では反時計周りの渦が生じており、第2のコリオリ力は吹く風に対してそれを直角右向きに曲げるように作用する。一方、高気圧では時計周りの渦が生じており、第2のコリオリ力は吹く風に対してそれを直角左向きに曲げるように作用する。
【0042】
本発明に係る風向風速情報提供システムでは、特に、渦によるコリオリ力(第2のコリオリ力)の影響を受ける規模の小さな低気圧、または高気圧に基づく風向風速について正確な情報を提供できる。
【0043】
(5)この風向風速情報提供システムにおいて、前記風向風速情報生成部は、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の値よりも小さい場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による遠心力を算出して、前記遠心力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成してもよい。
【0044】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、風向風速情報生成部において、低気圧又は高気圧の規模を求め、その規模が予め決められた所定の値よりも小さい場合には、その低気圧又は高気圧の遠心力を算出する。そして、算出した遠心力を考慮して風向風速情報を生成する。
【0045】
ここで、所定の値とは例えば数kmであって、局所的な特定地域にすっぽりと含まれるような規模の小さい低気圧又は高気圧が対象であってもよい。このとき、前記の第2のコリオリ力だけでなく遠心力も考慮して正確な風向風速情報を生成する。また、所定の値とは例えば数百mであってもよい。このとき、特に、直径が数十m〜数百mである竜巻、つむじ風等が対象となる。
【0046】
本発明に係る風向風速情報提供システムは、例えば規模の小さい竜巻といった気象現象までも把握して、遠心力の影響を加えた正確な風向風速情報を提供する。なお、風向風速情報提供システムは、気圧傾度力の時間的変化を見ることで、急激な上昇気流から竜巻等の発生を予測して、気象予報として風向風速情報を提供してもよい。
【0047】
(6)この風向風速情報提供システムにおいて、前記データ処理装置は、前記風向風速情報生成部が生成した前記風向、風速に関する気象情報に基づいて、前記特定地域の所与の位置における風向、風速を表示する表示部を含んでもよい。
【0048】
本発明によれば、表示部を含んでいるために、使用者は局所的な特定地域における風向風速情報を、視覚的に把握することが可能になる。例えば、局所的な特定地域の地表での風向風速情報が、表示部でベクトル表示されてもよい。
【0049】
(7)本発明は、局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供方法であって、前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップと、前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップと、前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成ステップと、を含む。
【0050】
本発明に係る風向風速情報提供方法では、例えば局地的な特定地域に複数の圧力センサーを配置して、これらが計測した気圧の情報を用いることができる。そのため、本発明に係る風向風速情報提供方法は、気圧傾度力の変化にあらわれる局地的な気象擾乱の存在を把握し、正確な風向風速情報の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本実施形態の風向風速情報提供システムの構成を示す図。
【図2】本実施形態の気圧センサーの構成例を示す図。
【図3】本実施形態の気圧計測装置の配置例を示す図。
【図4】図4(A)〜図4(B)は気圧傾度力の算出方法の例を示す図。
【図5】図5(A)は気圧傾度力と風との関係を説明するための図。図5(B)は表示部における風向風力情報の表示例を示す図。
【図6】図6(A)〜図6(C)は地衡風の計算について説明する図。
【図7】図7(A)、図7(B)はそれぞれ中規模の低気圧、高気圧に起因する風の計算について説明する図。
【図8】図8(A)、図8(B)はそれぞれ低気圧、高気圧に起因する地表付近の風の計算について説明する図。
【図9】小規模の強い低気圧に起因する風の計算について説明する図。
【図10】風向風速情報の計算に用いるデータをリスト化した図。
【図11】本実施形態のフローチャート。
【図12】本実施形態のフローチャート(気圧データ取得ステップ)。
【図13】本実施形態のフローチャート(気圧傾度力算出ステップ)。
【図14】本実施形態のフローチャート(風高風速情報生成ステップ)。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0053】
1.風向風速情報提供システムの概要
本実施形態の風向風速情報提供システムは、気圧傾度力分布を整理することによって風向風速情報を算出することができる。本実施形態の風向風速情報提供システムでは、局所的な地域に特有の地方風(局地風)についての風向風速情報も提供することができる。例えば、海岸地域における海陸風、盆地などにおける山谷風、河川や湖の周辺地域における川風や湖風等についてである。これらの風は、例えば地形に起因する摩擦力の影響等で地域に特有の風となっている場合が多い。
【0054】
さらに、本実施形態の風向風速情報提供システムは、局所的な地域における現象である竜巻やダウンバーストについての風向風速情報も提供可能である。従来のシステムでは、非常に狭い範囲で生じる竜巻等による風速を観測することはほとんどできなかった。
【0055】
ここで、本実施形態の風向風速情報提供システムは風向、風速に関する気象情報(風向風速情報)を提供する。風向は風が吹いてきた方向をいう。例えば、風向が北(北風)とは北から南に向かって吹く風のことである。風速は例えば秒速何mのように表される。本実施形態の風向風速情報提供システムは、通常は風向と風速の両方についての情報を生成するが、一方のみを生成することも可能である。また、風速に代えて風力(天気図で用いられる0〜12までの風速の尺度)を用いてもよい。
【0056】
2.風向風速情報提供システムの構成
図1は、本実施形態の風向風速情報提供システム1の構成を示す図である。本実施形態の風向風速情報提供システム1は、図1の構成要素の一部を省略してもよいし、他の構成要素を付加してもよい。
【0057】
本実施形態の風向風速情報提供システム1は、気圧計測装置2とデータ処理装置4を含む。気圧計測装置2は、風向風速情報提供システム1に複数含まれ、局所的な地域において互いに異なる位置に配置されている。一方、データ処理装置4は気圧計測装置2の各々が計測した気圧データを処理して風向風速情報を生成する。
【0058】
気圧計測装置2は、気圧データを計測する気圧センサー10と計測された気圧データを送信する送信部12とを含む。気圧センサー10は例えば大気圧を測定する。そして、測定された気圧データは送信部12へと送られ、所定のタイミングでデータ処理装置4へと送信される。
【0059】
このとき、気圧センサー10の測定タイミング、送信部12の送信タイミングは、例えばデータ処理装置4によって事前に指定されていてもよい。具体的にはデータ処理装置4の送信部80から、これらのタイミングを制御する信号が気圧計測装置2の受信部(図外)へと送られて設定がなされてもよい。
【0060】
気圧センサー10は、例えば、気圧に応じて共振周波数を変化させる感圧素子を有する周波数変化型のセンサーであってもよい。このとき、高分解能かつ高精度の周波数変化型のセンサーを用いることで、例えばPaオーダー以下の気圧変化を捉えることが可能になる。
【0061】
なお、風向風速情報提供システム1は複数の気圧計測装置2を含む。そして、データ処理装置4は、各気圧計測装置2からの気圧データを確実に受け取る必要がある。そのため、送信に用いる電波の周波数が各気圧計測装置2で異なるようにしてもよいし、各気圧計測装置2の送信タイミングを時分割してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、一辺が数km〜数十km程度の狭い範囲を観測対象である「局所的な特定地域」とする。例えば気圧計測装置2の間隔は数百m程度に設定されていてもよい。また、気圧計測装置間の距離は必ずしも一定でなくてもよい。
【0063】
データ処理装置4は、受信部20、処理部30、操作部40、ROM50、RAM60、表示部70、送信部80を含んで構成されている。
【0064】
受信部20は、各気圧計測装置2からの気圧データを受信し処理部30に出力する。処理部30は、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34を含む。気圧傾度力算出部32は、気圧データに基づいて互いに異なる気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、局所的な特定地域における気圧傾度力分布を生成する。風向風速情報生成部34は、気圧傾度力分布に基づいて局所的な特定地域における所与の位置の気圧傾度力を算出し、所与の位置の気圧傾度力に基づいて風向風速情報を生成する。
【0065】
ここで、本実施形態では、処理部30はCPU(Central Processing Unit)であるとする。処理部30(CPU)はプログラムに従い気圧傾度力算出部32として、気圧データに基づいて気圧傾度力分布を生成する。そして、処理部30(CPU)はプログラムに従い風向風速情報生成部34として、気圧傾度力分布に基づいて風向風速情報を生成する。このとき、処理部30のプログラムはROM50に記憶されていてもよい。なお、別の実施形態として、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34はハードウェアで構成されてもよい。また、本実施形態では、気圧傾度力算出部32と風向風速情報生成部34は区別されるが、必ずしも分離されている必要はなく、これらが一体となって演算処理をしてもよい。
【0066】
風向風速情報生成部34は、風向風速情報を生成するために緯度情報や地形情報を読み込んでもよい。緯度情報は局所的な特定地域の緯度の情報であって、コリオリ力を算出するのに必要な情報である。また、地形情報は風に対する摩擦力を算出するのに必要な情報である。本実施形態において、緯度情報はROM50の緯度情報記憶部52に記憶されており、地形情報はROM50の地形情報記憶部54に記憶されている。
【0067】
風向風速情報生成部34が生成した風向風速情報や所与の位置の気圧傾度力は、記憶部(RAM)60に記憶されてもよい。また、風向風速情報生成部34は、記憶部60から例えば過去の気圧傾度力を読み込んで、現在の気圧傾度力と比較することで上昇気流を検知し、その渦による遠心力を考慮して風向風速情報を算出してもよい。
【0068】
また、処理部30は、操作部40からの操作信号に応じた各種の処理を行ってもよい。具体例として、処理部30は表示部70に各種の情報を表示させる処理、受信部20及び送信部80を介した携帯端末等の外部装置とのデータ通信を制御する処理等を行ってもよい。
【0069】
3.気圧センサーの構成
図2は、本実施形態の風向風速情報提供システムにおける気圧計測装置が含む気圧センサー10の構成例を示している。なお、本実施形態の気圧センサー10は、図2の構成に限るものでなく、構成要素の一部が省略されていてもよいし、他の構成要素が付加されていてもよい。
【0070】
本実施形態の気圧センサー10は、圧力センサー素子100、発振回路110、カウンター120、TCXO(Temperature Compensated Crystal Oscillator)130、MPU(Micro Processing Unit)140、温度センサー150、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)160、通信インターフェース(I/F)170を含んで構成されている。
【0071】
圧力センサー素子100は、振動片の共振周波数の変化を利用する方式(振動方式)の感圧素子を有している。この感圧素子は、例えば、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電材料で形成された圧電振動子であり、例えば、音叉型振動子、双音叉型振動子、AT振動子(厚みすべり振動子)、SAW共振子などが適用される。
【0072】
特に、双音叉型圧電振動子は、AT振動子(厚みすべり振動子)などに比べて、伸長・圧縮応力に対する共振周波数の変化が極めて大きく共振周波数の可変幅が大きいので、感圧素子として双音叉型圧電振動子を用いることで、わずかな気圧差を検出可能な高い分解能の気圧センサーを実現することができる。そのため、本実施形態の気圧センサー10は、感圧素子として双音叉型圧電振動子を用いている。なお、圧電材料として、Q値が高くかつ温度安定性に優れた水晶を選択することで、優れた安定性と最高水準の分解能および精度を実現することができる。
【0073】
そして、本実施形態の風向風速情報提供システムは、高分解能および高精度の気圧データをデータ処理装置で処理することで、正確な風向風速情報を提供できる。
【0074】
ここで、従来の風向風速情報提供システムでは、風自体を計測する風向風速計を設置する必要があった。しかし、風向風速計は例えばプロペラを内蔵しており、気圧センサー10を含む気圧計測装置に比べてサイズが大きい。そのため、風向風速計を細かい間隔で配置することは、場所の確保や費用の面から困難であった。
【0075】
しかし、小型で比較的安価な気圧センサー10を含む気圧計測装置を用いる本実施形態の風向風速情報提供システムは、局所的な特定地域において数百m程度の間隔で気圧計測装置を設置することを可能にする。
【0076】
4.気圧計測装置の配置例
本実施形態では、直径数km〜数十kmの円に収まる程度の狭小地域を観測対象の特定地域とし、例えば図3に示すように、当該特定地域に多数の気圧計測装置2がほぼ水平なXY平面に2次元のメッシュ状に固定して配置され、これにより細かい観測メッシュが形成されている。観測メッシュの一辺の長さ(気圧計測装置間の距離)は、数百m〜数km程度に設定される。ただし、気圧計測装置間の距離は一定でなくてもよい。すなわち、観測メッシュが一定のサイズにならなくてもよい。例えば、気圧計測装置2は、携帯電話等の基地局、コンビニエンスストア、スマートグリッドの電気メーターなどに設置することが考えられる。
【0077】
気圧計測装置間の距離(観測メッシュのサイズ)は、特定地域の特性に関連づけられる所与の基準に基づいて決定するようにしてもよい。ここで、特定地域の特性とは、例えば、建物の密集具合、地形などである。例えば、建物の密集具合の高い都市部ではビル風等による被害が大きくなり、地面がコンクリートで覆われている地域では風向風速の変化を含む気象変動が生じやすい。そのため、これらの地域では気象変動の予測精度を高めるために気圧計測装置間の距離を狭くしてもよい。すなわち、特定地域の特性に関連する所与の基準に基づいて、気圧計測装置2の密度を決定するようにしてもよい。
【0078】
このように、特定地域の特性に応じて気圧計測装置2の密度を変えることで、使用する気圧計測装置の数を最適化することができる。
【0079】
なお、本実施形態では特定地域に多数の気圧計測装置2が設置されるが、気圧計測装置2が2つだけ設置される構成も本発明の範囲に含まれる。
【0080】
5.気圧傾度力分布
気圧の差によって生ずる風を起こす力を気圧傾度力という。本実施形態の風向風速情報提供システムは、風向風速情報を生成するために、局所的な特定地域における気圧傾度力の分布(以下、気圧傾度力分布)を計算で求める。
【0081】
本実施形態の風向風速情報提供システムでは、処理部に含まれる気圧傾度力算出部(図1参照)が、気圧データに基づいて気圧傾度力分布を生成する。気圧傾度力分布は、例えば各気圧計測装置の位置における気圧傾度力をリスト化したものである。
【0082】
図4(A)は、1つの気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力の算出方法の例を示す図である。本実施形態では、気圧計測装置2Eを原点として、気圧計測装置2Eと2Fとを結ぶ直線をx軸、気圧計測装置2Eと2Bとを結ぶ直線をy軸としている。このxy平面上にx軸方向はdx、y軸方向はdyの間隔で気圧計測装置を配置している。図4(A)では図示を省略しているが、気圧計測装置2A〜2I以外にも気圧計測装置が前記の間隔で配置されているとする。
【0083】
本実施形態では、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する4つの気圧計測装置の気圧データも用いる。図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2Eの気圧データに加えて、気圧計測装置2B、2D、2F、2Hの気圧データも用いる。ここで、気圧計測装置2B、2D、2E、2F、2Hの気圧データをそれぞれ、PR2B、PR2D、PR2E、PR2F、PR2Hとする。
【0084】
気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力の成分を表すPBE、PED、PFE、PEHは式(1)〜式(4)のように表される。なお、算出される値の絶対値が大きさを表し、値がマイナスである場合には気圧傾度力の成分が図4(A)のx軸、y軸の負の方向を向いていることを表す。
【0085】
【数1】
ここで、mは空気塊の質量であり、気圧傾度力算出部における演算では単位量が用いられてもよい。また、ρは空気塊の密度であって、例えば気圧、気温に依存する。気圧傾度力算出部は温度センサー(図外)から受信部(図1参照)経由で気温データを得て、式(5)のようにρを計算してもよい。
【0086】
【数2】
ただし、式(5)のρの単位は[kg/m3]である。気温データ(式(5)のT)は単位を[℃]に換算し、気圧データ(式(5)のPR2E)は単位を[atm]に換算する。
【0087】
図4(B)では、式(1)〜式(4)の計算で得られた各成分がベクトルで表されている。このとき、これらの合力として、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力のベクトルPEが得られる。ここで、y軸の正方向が北を指すとすると、図4(B)の例では気圧計測装置2Eの北西側の気圧が高いことがわかる。
【0088】
このように、気圧傾度力算出部は、各気圧計測装置の位置における気圧傾度力を計算して局所的な特定地域における気圧傾度力分布を生成することができる。また、気圧傾度力算出部は、各気圧計測装置の気圧データを受け取るので、局所的な特定地域における等圧線を引くことができる。このとき、等圧線の情報も含めて気圧傾度力分布としてもよい。
【0089】
なお、本実施形態では各気圧計測装置はほぼ同じ高さに配置されているとするが、地形に基づく制約等により、高さに差が生じる可能性もある。このとき、気圧傾度力算出部は各気圧計測装置の標高のデータを取得して補正を行ってもよい。各気圧計測装置の標高のデータ(標高データ)をROM(図1参照)に保存しておき、標高データに基づいて各気圧計測装置の高さを揃える補正(例えば海面補正)を行ってもよい。このとき、さらに正確な気圧傾度力分布を生成することができる。
【0090】
ここで、例えば式(1)から、2つの気圧計測装置間の距離(dy)が一定ならば、気圧の差(PR2B−PR2E)が大きいほど気圧傾度力は大きい。また、気圧の差が一定ならば、2つの気圧計測装置間の距離が短いほど大きい。よって、天気図上では等圧線の間隔が狭いところほど、風を起こす力が強く働いている、すなわち強い風が吹いていることになる。
【0091】
なお、気圧傾度力算出部は、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する8つの気圧計測装置の気圧データを用いてもよい。このとき、より正確な気圧傾度力を求めることが可能になる。
【0092】
図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2A〜2Iの9つの気圧データを用いる。このとき、気圧計測装置2A、2C、2G、2Iとの間隔がdx、dyと異なることに注意が必要である。例えば、気圧計測装置2Cと2Eの気圧データに基づく気圧傾度力は、式(6)のようになる。
【0093】
【数3】
その他の計算手法として、気圧傾度力算出部は、1つの気圧計測装置の位置における気圧傾度力を求めるのに、近接する2つの気圧計測装置の気圧データだけを用いてもよい。このとき、計算による負荷が軽減される。
【0094】
図4(A)の例では、気圧計測装置2Eの位置における気圧傾度力を求めるのに、気圧計測装置2E、2B、2Fの3つの気圧データだけを用いる。よって、式(1)、式(3)だけを計算すればよいので、早期に気圧傾度力分布を生成することが可能になる。
【0095】
また、これらの計算手法を要求される精度と処理時間に応じて選択できるようにしてもよい。例えば、気圧傾度力分布を生成する前に、使用者が操作部(図1参照)によって計算手法を選択してもよい。
【0096】
6.気圧傾度力と等圧線との関係
前記のように、気圧傾度力は気圧の差によって生ずる風を起こす力のことであるが、図5(A)を用いて再び説明する。図5(A)の200A〜200Dは等圧線である。そして、等圧線200A側の気圧は低く、等圧線200D側の気圧は高い。このとき、空気塊220には四方から力230〜233が加わる。
【0097】
このときの力の大きさは、気圧の高さに依存する。気圧が高いとは、相対的にその部分の空気が多くて重いことを意味する。逆に、気圧が低いとは、相対的にその部分の空気が少なくて軽いことを意味する。
【0098】
ここで、等圧線200Bと200Cとに挟まれた部分の気圧は等しい。そのため、空気塊を押す力231、233も等しく、等圧線に並行な方向において釣り合っている。
【0099】
一方、気圧の低い方の力230よりも、気圧の高い方の力232が空気塊を押す力が強い。そのため、232と230との合力が気圧傾度力になる。つまり、気圧傾度力は等圧線を垂直に横切る、気圧の高い方から低い方へと向かう力である。
【0100】
すると、局所的な特定地域における風速風向は、気圧計測装置からの気圧データに基づいて作成された等圧線の分布だけで決まるとも思える。しかし、実際には例えば地球の自転等によるコリオリ力、低気圧の規模によって考慮が必要な遠心力、地表の摩擦力等を考慮しなければ正確な風向風速情報を得ることができない。
【0101】
そこで、本実施形態の風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布から任意の地点の気圧傾度力を算出した上で、前記のコリオリ力、遠心力、摩擦力等を考慮して正確な風向風速情報を生成する。
【0102】
そして、本実施形態の風向風速情報提供システムでは、風向風速情報生成部が生成した風向風速情報に基づいて、例えば図5(B)のように表示部70に局所的な特定地域における風速風向を表示することが可能である。
【0103】
図5(B)の各格子は図4(A)の4つの気圧計測装置(例えば2A、2B、2D、2E)で作られる四角に対応する。そして、左側の「H」と記された等圧線200が閉じた部分が高気圧であり、右側の「L」と記された等圧線200が閉じた部分が低気圧である。また、風向風速210は矢印(ベクトル)で表示されており、矢印の逆向きが風向を示し、矢印の大きさが風速を表す。
【0104】
このように、局所的な特定地域において正確な風向風速情報を提供できれば、当該地域の気象予測をより正確なものとし、例えば従来の手法では予測が難しかったゲリラ豪雨や竜巻等の被害から人々を守ることが可能になる。
【0105】
以下に、風向風速情報生成部における風向風速情報の算出方法について図を用いながら詳細に説明する。
【0106】
7.風向風速情報生成部
7.1.気圧傾度力の取得
風向風速情報生成部(図1参照)は、気圧傾度力算出部(図1参照)からの気圧傾度力分布に基づいて特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出する。ここで、気圧傾度力分布は気圧計測装置の位置における気圧傾度力をリスト化した情報、又はその情報に等圧線の情報を加えたものである。したがって、風向風速情報生成部は、まず特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出する必要がある。
【0107】
再び、図4(A)を用いて説明する。風向風速情報生成部は、例えば図4(A)の位置L1の気圧傾度力を得る必要があるとする。このとき、風向風速情報生成部は演算の負担が重くならないように、最も近傍の気圧計測装置の位置における気圧傾度力を用いてもよい。図4(A)の例では、位置L1の気圧傾度力として、最も近傍の気圧計測装置2Eの気圧傾度力であるPEを用いる。この手法は、気圧計測装置間の距離dx、dyが十分短い場合(例えばdx=dy=100m)には、大きな誤差を生じることなく計算量を抑えられるため有効である。
【0108】
また、風向風速情報生成部は、近傍の2つの気圧計測装置(図4(A)の例では2E、2F)の位置における気圧傾度力を補間することで位置L1の気圧傾度力を算出してもよい。また、近傍の4つの気圧計測装置(図4(A)の例では2B、2C、2E、2F)の位置における気圧傾度力を補間することで位置L1の気圧傾度力を算出してもよい。補間の方法としては、線形補間を用いてもよいが他の手法でもよい。
【0109】
このように、風向風速情報生成部は、局所的な特定地域における任意の位置での気圧傾度力を気圧傾度力分布から算出することができる。そして、得られた気圧傾度力と後述するコリオリ力や遠心力等から任意の位置での風向風速を算出できる。
【0110】
7.2.地衡風
前記のように、風向風速情報生成部は、特定地域の所与の位置における気圧傾度力を演算によって求めることができるが、これだけでは実際の風向風速を予測することはできない。以下に、対象とする風に応じた計算方法の例を説明する。
【0111】
まず、風向風速情報生成部は、気圧計測装置を配置した特定地域を全て覆うような、比較的規模の大きな低気圧、高気圧が発生させる上空の風について風向風速情報を算出することができる。このような上空の風の例として地衡風がある。
【0112】
ここで、低気圧、高気圧は閉じた等圧線で囲まれている。風向風速情報生成部は、気圧傾度力算出部からの気圧傾度力分布に基づいて、上空の低気圧、高気圧が気圧計測装置を配置した特定地域を覆うほど大規模であるか否かについて判断することができる。
【0113】
図6(A)〜図6(C)は地衡風の計算について説明する図である。まず、図6(A)のように、等圧線200E、200Fに挟まれた部分で気圧の差が生じている。ここで、等圧線200Eは低圧側であり、等圧線200Fは高圧側であるとする。なお、上空における等圧線を等高度線ともいうが、等圧線の語を用いて説明する。
【0114】
上空での気圧の差によって、図6(A)の例では等圧線200Fから等圧線200Eに向かって気圧傾度力240が生じる。そして、空気塊はまず気圧傾度力240の向きに沿って動き出す。なお、等圧線が等間隔で平行ならば、この気圧傾度力240はどこでも一定である。気圧傾度力240しか作用しないならば、空気塊は等圧線に対して垂直に、等圧線200Fから等圧線200Eへと移動する(すなわち、風が吹く)ことになる。図6(A)の風242は、このときの様子を表している。
【0115】
しかし、図6(A)のように動き出した空気塊に対しては、北半球では進行方向右向きのコリオリ力244が働く。コリオリ力(転向力)は進行方向に対して直角右向きに、空気塊の速さ(すなわち風速)に比例して働く。
【0116】
こうして、気圧傾度力240によって空気塊はだんだん加速されていくが、加速されるとそれに比例してコリオリ力244もだんだん強くなる。このとき、図6(B)のように、空気塊はコリオリ力244の影響で右に曲がりながら加速される。つまり、風242の向きは気圧傾度力240とコリオリ力244の合力の方向に曲がっていく。
【0117】
そして、最終的には図6(C)のように、気圧傾度力240とコリオリ力244が正反対の向きになって、空気塊に働く力が釣り合うようになる。すると、この空気塊は一定の速さで等圧線と平行に吹く安定した風242になる。これが地衡風である。
【0118】
風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布に基づいて特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出できる。そして、それと釣り合うコリオリ力を求めることで、地衡風の風向風速を計算することが可能である。
【0119】
ここで、地衡風の計算に用いるコリオリ力は地球の自転によって生じる力である。そのため、コリオリ力の大きさは、地球の自転の角速度をω、緯度をφ(ファイ)、運動している物体(ここでは空気塊)の質量をm、風速をvとすると式(7)のようになる。
【0120】
【数4】
このとき、例えばωは7.27×10−5[rad/s]としてもよいし、mは空気塊の質量であって式(1)〜式(4)と同じであってもよい。また、φは例えば東京では35度としてもよい。ここで、Gを計算対象地点の気圧傾度(例えば、式(1)のGBEに対応)とすると、気圧傾度力Pは式(8)のようになる。そして、気圧傾度力Pと式(7)のコリオリ力FC1が等しいことから式(9)のように風速vを求められる。
【0121】
【数5】
このとき、地衡風の風向は気圧傾度力と直交する方向である。このように、風向風速情報生成部は、上空を吹く地衡風について正確に風向風速情報を算出することができる。なお、風向風速情報生成部は、式(7)、式(9)の緯度φを例えば緯度情報記憶部(図1参照)から得てもよい。
【0122】
ここで、地球の自転によるコリオリ力を、気圧の渦によって生じるコリオリ力と区別するために第1のコリオリ力とも表現する。地衡風の計算においては、規模の大きな低気圧、高気圧を前提としており、渦の回転によって生じるコリオリ力(第2のコリオリ力)や遠心力は考慮する必要がない。そして、図6(A)〜図6(C)では北半球を前提とした図示を行っている。また、図6(A)〜図6(C)に図示された矢印(ベクトル)の幅はそれぞれ異なるが見易さのためであって他意はない。
【0123】
7.3.傾度風
風向風速情報生成部は、気圧計測装置を配置した特定地域に含まれるような、中規模の低気圧、高気圧が発生させる上空の風について風向風速情報を算出することができる。このような上空の風の例として傾度風がある。
【0124】
このとき、局所的な特定地域の上空では、等圧線が曲がって弧を描いている。風向風速情報生成部は、低気圧、高気圧の遠心力も考えて風向風速を計算する必要がある。
【0125】
図7(A)は、中規模の低気圧の周りで風242(傾度風)が発生する様子を示している。なお、図6(A)〜図6(C)と同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0126】
低気圧は反時計周りに渦をまいている。そのため、遠心力Cは、計算対象位置における気圧の等圧線が作る円の半径をrとして、式(10)のように表される。
【0127】
【数6】
なお、式(10)のmは空気塊の質量、vは風速であって式(7)と同じである。図7(A)のように、気圧傾度力240(式(8)参照)と、コリオリ力244と遠心力246(式(10)参照)の合力が釣り合っているとして、風向風速情報生成部は風速vを計算する。
【0128】
このとき、図7(A)の例では、コリオリ力244は第1のコリオリ力244Aと第2のコリオリ力244Bとの合力になる。第1のコリオリ力244Aは地球の自転によるコリオリ力であって、地衡風の計算と同じように求められる(式(7)参照)。
【0129】
一方、第2のコリオリ力244Bは、低気圧の渦が回転することによって生じる。そのため、第2のコリオリ力の大きさは、低気圧の渦が回転する角速度をω´とすると式(11)のようになる。
【0130】
【数7】
なお、mは空気塊の質量、vは風速であって式(7)と同じである。風向風速情報生成部は、地球の自転によるコリオリ力のみでなく、中規模の低気圧の渦の回転により発生するコリオリ力も考慮して計算を行う。そのため、正確な傾度風の風向風速情報を生成することができる。地球の自転による第1のコリオリ力244Aと低気圧の渦により発生する第2のコリオリ力244Bが空気塊に作用することで、傾度風の風向きはより右側に曲げられる。
【0131】
図7(B)は、中規模の高気圧の周りで風242が発生する様子を示している。なお、図7(A)と同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する。
【0132】
高気圧は時計周りに渦をまいている。ここで、式(10)の遠心力Cが生じることは低気圧の場合と同じである。しかし、低気圧の場合とは渦の回転方向が反対であるため、第2のコリオリ力244Bが作用する方向は第1のコリオリ力244Aと逆方向になる。そして、これらの合力であるコリオリ力244と、気圧傾度力240と遠心力246の合力が釣り合うような風242(傾度風)が生じる。
【0133】
このように、風向風速情報生成部は、中規模の低気圧、又は高気圧によって発生する、上空を吹く傾度風についても正確に風向風速情報を算出することができる。ここで、中規模とは低気圧、高気圧の直径が例えば数百m以上、数十km未満であることでもよい。
【0134】
なお、図7(A)のように上空の低気圧による傾度風では、気圧傾度力240と、コリオリ力244と遠心力246の合力が釣り合う。そして、図7(B)のように上空の高気圧による傾度風では、気圧傾度力240と遠心力246の合力と、コリオリ力244が釣り合う。よって、気圧傾度力240の大きさが同じで、等圧線が作る円の半径rが同じならば、高気圧による傾度風の方が強い(風速が速い)ことがわかる。
【0135】
また、遠心力や第2のコリオリ力の影響が相対的に小さいときには、風向風速情報生成部は遠心力や第2のコリオリ力の計算を省略してもよい。
【0136】
例えば、計算対象とする場所が低気圧の中心から十分離れている場合、すなわち式(10)のrが十分大きな値である場合には、遠心力の影響が十分に小さいとして計算を省略してもよい。風向風速情報生成部は低気圧の中心部を気圧傾度力分布によって求めることが可能であり、前記のrの大きさを把握することができる。
【0137】
また、例えば遠心力と比較して第2のコリオリ力が十分に小さい場合には、第2のコリオリ力の計算を省略してもよい。例えば、小規模な低気圧においては、遠心力が支配的だとして、第2のコリオリ力(および第1のコリオリ力)の計算を省略してもよい。
【0138】
7.4.地表付近の風
地表付近の風は、低気圧、高気圧の規模にかかわらず、風と地表との摩擦の影響を考慮する必要がある。摩擦力は風を止めようとする向きに作用する。摩擦力の影響により、地表付近の風は等圧線を横切って吹く。等圧線を横切る角度は緯度や地表の様子によって異なるが、日本付近では海上で20°くらい、陸上で30°くらいである。例えば、地表の起伏が激しい場所では摩擦力が大きくなる。
【0139】
図8(A)は低気圧に起因する地表付近の風の計算について説明する図である。なお、図6(A)〜図7(B)と同じ要素については同じ符号を付しており説明を省略する。
【0140】
地表付近の風242(以下、風242とする)は、風を止めようとする摩擦力248の影響を受ける。そして、風向風速情報生成部は、摩擦力248とコリオリ力244との合力249が、気圧傾度力240と釣り合うような風242の風向風速を計算によって求める。ここで、図8(A)の例では、コリオリ力244は第1のコリオリ力だけであってもよいし、第1のコリオリ力と第2のコリオリ力との合力であってもよい。また、この例では遠心力を省略しているが、遠心力が考慮されてもよい。
【0141】
ここで、風向風速情報生成部は、摩擦力248を地形情報に基づいて計算してもよい。例えば山や丘といった風に対する障害物がある場所では、風を40%弱めるような摩擦力248が生じるとして計算を行ってもよい。一方、平地では風を10%弱めるような摩擦力248が生じるとしてもよい。なお、風向風速情報生成部は、地形情報を地形情報記憶部(図1参照)から得てもよい。
【0142】
図8(B)は高気圧の場合を説明する図である。高気圧の場合には、図8(A)の低気圧とは風の向きが逆になるが、摩擦力248等の作用する力については同様であるので説明を省略する。そして、風向風速情報生成部は、摩擦力248とコリオリ力244との合力249が、気圧傾度力240と釣り合うような風242の風向風速を計算によって求める。
【0143】
このように、風向風速情報生成部は、地形情報に基づいて摩擦力を考慮することで、地表付近の風についても正確に風向風速情報を算出することができる。
【0144】
7.5.旋衡風
台風よりも規模が更に小さい竜巻や塵旋風(つむじ風)の場合は、回転半径が小さく風速も大きいために遠心力が大きくなる。このとき、遠心力に比べてコリオリ力は相対的に小さくなるので計算する上で無視することができる。
【0145】
図9は、竜巻やつむじ風のような、小規模の強い低気圧に起因する風242の計算について説明する図である。このとき、図9のように気圧傾度力240と回転運動による遠心力246とが釣り合う。
【0146】
これらの力が釣り合っているとき(旋衡風平衡)には、式(8)、式(10)から式(12)が成り立つ。
【0147】
【数8】
なお、v、r、ρ、Gについては式(8)、式(10)と同じであり、説明を省略する。ここで、式(12)から旋衡風においては、低気圧であっても反時計回り(v>0)の風も、時計回り(v<0)の風も存在し得ることがわかる。
【0148】
このように、風向風速情報生成部は、旋衡風平衡が成り立つような風速vを計算し、竜巻やつむじ風のような旋衡風についても正確に風向風速情報を算出することができる。
【0149】
7.6.風向風速の演算
風向風速情報生成部は、前記のように気圧傾度力分布から任意の地点の気圧傾度力を得て、風向風速情報を得る対象の風に応じて、コリオリ力、遠心力、摩擦力等に基づいて演算を行い正確な情報を生成する。
【0150】
図10は、本実施形態の風向風速情報生成部が風向風速情報の計算に用いるデータをリスト化した図である。風向風速情報生成部は、気圧傾度力、第1のコリオリ力、第2のコリオリ力、遠心力、摩擦力の全てを常に考慮して演算を行い、風向風速情報を生成してもよい。しかし、前記の通り低気圧、高気圧の規模等によって、ほとんど風向風速情報に影響を与えない要素が存在する。そのような要素を演算対象から外すことによって、本実施形態の風向風速情報生成部は、効率的で高速な演算を行うことができる。
【0151】
例えば、地衡風は「大規模」な低気圧、高気圧で生じ、上空の「自由大気」において吹く。すると図10の「大規模」かつ「自由大気」の欄のように、本実施形態の風向風速情報生成部は、気圧傾度力240(図6(A)〜図6(C)参照)と第1のコリオリ力244A(図7(A)〜図7(B))だけを計算に用いて、効率的に風向風速情報を生成できる。
【0152】
また、摩擦力を考慮する必要のある地表付近の旋衡風(例えば、竜巻)については、図10の「小規模」かつ「摩擦層」の欄に従って、気圧傾度力、遠心力、摩擦力を計算することで、効率的に旋衡風についての風向風速情報を生成できる。
【0153】
このように、本実施形態の風向風速情報生成部は、対象となる風に応じて計算負荷の軽減を図りつつ正確な風向風速情報を生成することができる。
【0154】
8.フローチャート
図11〜図14は本実施形態の風向風速情報提供方法についてのフローチャートである。例えば本実施形態の風向風速情報提供システムの処理部(図1参照)は、図11〜図14のフローに従って、風向風速情報を提供する。まず、図11を用いてメインのフローチャートを説明した後に、図12〜図14を用いてサブのフローチャートを説明する。
【0155】
図11のように、まず、処理部は例えば操作部(図1参照)から測定タイミング設定を受け取る(S2)。測定タイミング設定とは、処理部が気圧データを更新する時間間隔の設定情報である。測定タイミング設定に従って、処理部は気圧計測装置が気圧データを測定するタイミングを設定してもよいし、処理部が気圧データを受け取るタイミングを設定してもよい。
【0156】
そして、処理部は例えば操作部から対象とする風や範囲の設定を受け取る(S4)。例えば傾度風についての風向風速情報を得る場合には、風向風速情報生成部(図1参照)が、気圧傾度力、第1および第2のコリオリ力、遠心力を算出するように設定する(図10の「中規模」「自由大気」参照)。また、例えば局所的な特定地域の一部だけを対象とするのであれば、気圧傾度力算出部(図1参照)が、一部の気圧計測装置のみから気圧データを受け取るように設定してもよい。
【0157】
次に、処理部は風向風速情報の処理の設定を受け取る(S6)。風向風速情報の処理の設定とは、例えば風向風速情報の送信先の設定や、表示部の風向風速の表示(図5(B)参照)を更新するタイミングの設定等である。
【0158】
そして、必要があれば、処理部は各気圧計測装置が気圧データを測定するタイミングを例えば送信部経由で設定する(S8)。
【0159】
これらの事前準備の後、処理部は、複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップ(S10)、特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップ(S20)、風向風速情報を生成する風向風速情報生成ステップ(S30)を実行する。
【0160】
そして、処理部は新たに得られた風向風速情報に基づいて、送信や表示といった必要な処理を実行する(S40)。その後、終了指示がなければ再びS10に戻り(S50N)、終了指示がある場合には終了する(S50Y)。
【0161】
図12は、気圧データ取得ステップ(S10)のフローチャートである。処理部は、所定のタイミングで気圧計測装置から気圧データを受け取る(S12)。所定のタイミングとは、例えば操作部によってS2で設定された測定タイミングである。
【0162】
そして、気圧傾度力分布を生成するのに必要な全てのデータが揃うまで、気圧データを受け取る(S14N)。そして、全てのデータが揃うと気圧データ取得ステップを終了する(S14Y)。
【0163】
図13は、気圧傾度力算出ステップ(S20)のフローチャートである。処理部のうち気圧傾度力算出部は、S20で気圧計測装置の位置における気圧傾度力を算出して気圧傾度力分布を生成する。
【0164】
気圧傾度力算出部は、まず異なる気圧計測装置間の気圧傾度力を算出する(S22)。例えば、前記の式(1)のような計算を行うことが対応する。そして、必要な全ての気圧傾度力を算出する(S24N)。例えば、各気圧計測装置の位置における気圧傾度力を得るために、前記の式(1)〜式(4)のような計算を繰り返すことが対応する。そして、必要な演算を全て行って(S24Y)、特定地域における気圧傾度力分布を生成する(S26)。
【0165】
図14は、風向風速情報生成ステップ(S30)のフローチャートである。処理部のうち風向風速情報生成部は、気圧傾度力分布と必要な情報を取得する(S32)。必要な情報とは、例えば第1のコリオリ力の演算に必要な緯度情報や、摩擦力の演算に必要な地形情報等である。
【0166】
風向風速情報生成部は、必要ならば、特定の位置の気圧傾度力を演算で求める。このとき、気圧傾度力分布に基づいて、例えば線形補間のような補間処理が行われてもよい(S34)。そして、必要な気圧傾度力を全て演算で求める(S35N)。
【0167】
そして、必要な最新の気圧傾度力を得た後(S35Y)、記憶部(図1参照)から過去の気圧傾度力を取得する(S36)。過去の気圧傾度力との比較により、気圧傾度力の変化を把握するためである。このとき、例えば強い上昇気流等が生じているといった情報や、規模の小さな低気圧等の渦の回転の速さといった情報を得ることができる。そして、気圧傾度力とこのような情報に基づいて、正確な風向風速情報を生成する(S37)。
【0168】
その後、風向風速情報生成部は最新の気圧傾度力を記憶部に保存して(S38)、風向風速情報生成ステップを終了する。
【0169】
このように、図11〜図14のフローチャートに従って、本実施形態の風向風速情報提供システムの処理部は正確な風向風速情報を提供することができる。なお、S36のステップを含むことで、例えば上昇気流を検知することができる。このとき、局所的な特定地域における短時間の集中豪雨を予測して、風向風速情報に加えて有用な気象変動の情報も提供することが可能である。
【0170】
9.その他
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0171】
1…風向風速情報提供システム、2,2A〜2I…気圧計測装置、4…データ処理装置、10…気圧センサー、12…送信部、20…受信部、30…処理部、32…気圧傾度力算出部、34…風向風速情報生成部、40…操作部、50…ROM、60…RAM、70…表示部、80…送信部、52…緯度情報記憶部、54…地形情報記憶部、100…圧力センサー素子、110…発振回路、120…カウンター、130…TCXO、140…MPU、150…温度センサー、160…EEPROM、170…通信インターフェース、200,200A〜200F…等圧線、210…風向風速、220…空気塊、230〜233…力、240…気圧傾度力、242…風、244…コリオリ力、244A…第1のコリオリ力、244B…第2のコリオリ力、246…遠心力、248…摩擦力、249…合力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システムであって、
前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置と、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置と、を含み、
前記データ処理装置は、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部と、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部と、を含む風向風速情報提供システム。
【請求項2】
請求項1に記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記特定地域の緯度情報を含む緯度情報記憶部を含み、
前記風向風速情報生成部は、
前記緯度情報記憶部からの前記緯度情報に基づいて第1のコリオリ力を算出して、前記第1のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記特定地域の地形情報を含む地形情報記憶部を含み、
前記風向風速情報生成部は、
前記地形情報記憶部からの前記地形情報に基づいて摩擦力を算出して、前記摩擦力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記風向風速情報生成部は、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の範囲にある場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による第2のコリオリ力を算出して、前記第2のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記風向風速情報生成部は、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の値よりも小さい場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による遠心力を算出して、前記遠心力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記風向風速情報生成部が生成した前記風向、風速に関する気象情報に基づいて、前記特定地域の所与の位置における風向、風速を表示する表示部を含む風向風速情報提供システム。
【請求項7】
局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供方法であって、
前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップと、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップと、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成ステップと、を含む風向風速情報提供方法。
【請求項1】
局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供システムであって、
前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置と、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データを処理するデータ処理装置と、を含み、
前記データ処理装置は、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出部と、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成部と、を含む風向風速情報提供システム。
【請求項2】
請求項1に記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記特定地域の緯度情報を含む緯度情報記憶部を含み、
前記風向風速情報生成部は、
前記緯度情報記憶部からの前記緯度情報に基づいて第1のコリオリ力を算出して、前記第1のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記特定地域の地形情報を含む地形情報記憶部を含み、
前記風向風速情報生成部は、
前記地形情報記憶部からの前記地形情報に基づいて摩擦力を算出して、前記摩擦力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記風向風速情報生成部は、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の範囲にある場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による第2のコリオリ力を算出して、前記第2のコリオリ力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記風向風速情報生成部は、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域における低気圧、高気圧の規模を算出し、その規模が所定の値よりも小さい場合には、前記低気圧、高気圧の渦の回転による遠心力を算出して、前記遠心力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報提供システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の風向風速情報提供システムにおいて、
前記データ処理装置は、
前記風向風速情報生成部が生成した前記風向、風速に関する気象情報に基づいて、前記特定地域の所与の位置における風向、風速を表示する表示部を含む風向風速情報提供システム。
【請求項7】
局所的な特定地域において、風向、風速に関する気象情報を提供する風向風速情報提供方法であって、
前記特定地域の互いに異なる位置に配置された複数の気圧計測装置から気圧データを取得する気圧データ取得ステップと、
前記気圧計測装置の各々が計測した気圧データに基づいて、互いに異なる前記気圧計測装置間の気圧傾度力を算出して、前記特定地域における気圧傾度力分布を生成する気圧傾度力算出ステップと、
前記気圧傾度力分布に基づいて前記特定地域の所与の位置における気圧傾度力を算出して、前記所与の位置における気圧傾度力に基づいて前記風向、風速に関する気象情報を生成する風向風速情報生成ステップと、を含む風向風速情報提供方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−50417(P2013−50417A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189467(P2011−189467)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
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