説明

飛翔物体監視方法及び監視装置

【課題】天空を高速な角速度で移動する人工衛星やスペースデブリ等の飛翔物体に対しても、高精度な軌道情報を得ることができるとともに、恒星とその他の飛翔物体とを識別することが可能な飛翔物体監視方法及び監視装置を提供することを目的としている。
【解決手段】天空の飛翔物体32を探索するレーダ4と、光学望遠鏡6と、飛翔物体32から発せられる電波を受信する電波受信装置7と、レーダ探知情報24と望遠鏡探知情報25とから軌道情報を算出する軌道情報算出部8と、飛翔物体データベース11と、望遠鏡識別情報27と電波受信識別情報28とから判定した識別情報14を飛翔物体データベース11に登録する識別情報付加部9と、識別結果15を飛翔物体データベース11に登録する識別処理部10と、により構成されている。角度分解能が良く高精度な軌道情報の算出が可能であり、高速な角速度で移動する飛翔物体の検知及び追尾も容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上空の飛翔物体の位置を高精度に検出し、その軌道情報を得るとともに識別することが可能な飛翔物体監視方法及び監視装置に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、人工の地球周回軌道上浮遊物体であるスペースデブリや、隕石などの地球周辺の小天体に関して関心が高まっている。特に、スペースデブリは年々数が増え続けており、人工衛星が衝突する確率が増え続けている。このような衝突を避けるためには、スペースデブリや隕石、既に宇宙に存在している人工衛星の軌道を正確に把握することが求められる。また、人工衛星やスペースデブリを判別するため、宇宙の飛翔物体の高精度な軌道情報や識別情報のデータベースが必要である。
【0003】
従来は、上空の飛翔物体を全天にわたって検出、もしくは監視する装置として、低高度に対しては、レーダが使用されている。最近、レーダを宇宙の飛翔物体に対して適用するという動向がある。例えば、警戒管制レーダでの弾道ミサイルの検出・監視が行われている。しかし、レーダによって監視できる範囲は地上からせいぜい数百キロ程度であり、低軌道の人工衛星、スペースデブリは可能であるが、高軌道あるいは静止軌道の人工衛星、スペースデブリあるいは小惑星などの天体に対しては不向きである。また、レーダ単体では、視野角が広いため飛翔物体の検出が容易だが、角度分解能が悪いため高精度な軌道情報の算出は困難である。
【0004】
そこで、高軌道あるいは静止軌道の人工衛星、スペースデブリあるいは小惑星等の天体など天空を比較的低速に移動する物体の監視に対しては、一般的に光学望遠鏡が用いられる。角度分解能が非常に高く、天体の光学画像を得ることが可能である。
【0005】
従来の光学望遠鏡等の光学装置を使った監視方法では、観測できる視野が非常に狭く、天空のある範囲を走査観測する必要があり、非常に長い時間がかかり、また、未知の高軌道あるいは静止軌道の人工衛星、スペースデブリあるいは小惑星に対して、観測もれが発生する可能性があるという問題があった。さらに、走査観測では、光学望遠鏡を恒星追尾モードで駆動するのが一般的ではあるが、恒星は点像として撮影され、その他の天体は、ある程度恒星との相対運動が大きければ線状の像として撮影される。しかし、相対運動が小さいときは、形状による恒星との識別が困難になるという問題もある。
【0006】
このため、光学装置を使って自動的に観測もれを発生させずに監視する方法が提案されており、特許文献1に示される従来の飛翔物体の自動監視・検出方法と装置では、飛翔物体の自動監視・検出のため、地平線と交差する天球上の仮想線(例えば子午線)の設定範囲上を通過する物体を光学装置により観測し、該仮想線を通過した飛翔物体の画像と、該画像の観測時刻と、データ処理装置内に保持した恒星、人工衛星、小惑星等既知の天体等のデータとから、該処理装置により観測された位置、速度のデータを既知データと比較し、既知の天体のデータとそれ以外のデータに自動的に分類分けする。これにより、常時、自動的に、未知および既知の飛翔物体を検出すると共に、既知の天体および人工物体の運動を監視することができる監視・検出方法とそのための装置を実現している。
【0007】
また、光学装置を使用して恒星とその他の天体とを識別する方法が提案されており、特許文献2に示される従来の天体観測画像中の天体の識別方式では、恒星追尾モードで連続撮影した画像を得、得られたそれぞれの画像から天体の像を抽出する手段と、該抽出した天体の像の重心位置(x、y)、面積s、形状の特徴a/bを抽出する手段と、抽出され
た特徴、画像番号、累積カウンタをリストとして登録する手段と、既にリストに登録されていると判断されたデータに対しては、リスト中の累積カウンタ1を加算する手段とを含む。そして、主として累積カウンタの値から天体を恒星とその他の天体とを識別し、像の特徴、主として重心位置、形状などからスペースデブリを識別する。これにより、天球の広い範囲を常時監視し、観測した大量の観測画像から自動的に恒星とその他の天体の分離処理を行うことが可能な画像処理方法を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−220099号公報
【特許文献2】特開2002−310616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示される飛翔物体の監視・検出方法においては、光学望遠鏡単体では、角度分解能が良いため軌道情報を高精度で得ることが可能だが、視野角が狭いため天空を高速な角速度で移動する飛翔物体の発見及び追尾が困難である。光学望遠鏡による静止軌道上の飛翔物体を検出する例が挙げられているが、それは静止軌道上の飛翔物体が天空を高速な角速度で移動しないためである。そのため、天空を高速な角速度で移動する飛翔物体の軌道を監視する機能を有していないといった問題があった。
【0010】
また、特許文献2に示される天体の識別方式においては、未知の高軌道・静止軌道のスペースデブリや小惑星を識別することが可能であるが、天空を高速な角速度で移動する特定の飛翔物体に対して、光学望遠鏡単体では光学画像を得ることができず、識別することが困難であるといった問題があった。また、レーダ単体では、目標の回転運動によって生じるドップラ周波数を利用して得られる高い分解能を有する2次元画像であるISAR(逆合成開口レーダ:Inverse Synthetic Aperture Rader)画像の作成は技術的に可能であるが、計画的に軌道情報と関連づけてデータベース化する技術は存在していなかった。
【0011】
以上、記載したように、従来技術では宇宙に存在する人工衛星及びスペースデブリについての高精度な軌道情報や識別を可能とするような詳細なデータベース、及びその作成装置は存在しなかった。
【0012】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、天空を高速な角速度で移動する人工衛星やスペースデブリ等の飛翔物体に対しても、高精度な軌道情報を得ることができるとともに、恒星とその他の飛翔物体とを識別することが可能な飛翔物体監視方法及び監視装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の飛翔物体監視方法は、飛翔物体を探知するレーダ及び光学望遠鏡により得られた探知情報から飛翔物体の軌道情報を算出すると共に、その算出結果と飛翔物体データベースの既知飛翔物体の軌道情報とを照合し、飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別して識別情報を作成することを特徴とするものである。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の飛翔物体監視装置は、飛翔物体を探知するレーダと、飛翔物体を探知する光学望遠鏡と、飛翔物体の軌道情報及び識別情報を格納する飛翔物体データベースと、レーダ及び光学望遠鏡の探知情報から飛翔物体の軌道情報を算出する軌道情報算出部と、軌道情報算出部により算出された軌道情報と飛翔物体データ
ベースの軌道情報とを照合し、飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別して識別情報を作成する識別処理部と、を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レーダ及び光学望遠鏡を組み合わせて監視することにより、レーダ単体、光学望遠鏡単体では困難であった周回衛星等の低高度かつ高速な宇宙の飛翔物体に対しても高精度な軌道情報及び既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別する識別情報を提供することが可能であるといった顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態における飛翔物体監視装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】実施の形態における飛翔物体監視装置の観測全体のフェーズを示すフローチャートである。
【図3】実施の形態における飛翔物体監視装置の観測計画策定から観測準備フェーズを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態における飛翔物体監視装置の観測フェーズを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態における飛翔物体監視装置の各センサの探知処理フェーズを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態における飛翔物体監視装置の観測後フェーズを示すフローチャートである。
【図7】実施の形態における飛翔物体監視装置の軌道更新処理フェーズを示すフローチャートである。
【図8】実施の形態における飛翔物体監視装置の識別処理フェーズを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る飛翔物体監視装置について図1から図8に基づいて説明する。
【0018】
図1において、飛翔物体監視装置31は、天空の飛翔物体32の観測開始を指示する観測計画部1と、軌道予測部3と、観測計画部1からの軌道更新要求17をもとに軌道予測部3に軌道予測要求19を出し、軌道予測部3の計算結果である予測軌道情報20と未確認飛翔物体探知要求18からレーダ4、光学望遠鏡6及び電波受信装置7のセンサ中から各センサの組み合わせを決定し、各センサを制御する組合せ制御部2と、組合せ制御部2からのレーダ制御情報21により飛翔物体32を探索するレーダ4と、レーダ4が探知したリアルタイム探知情報29から軌道計算するリアルタイム制御部5と、組合せ制御部2からの望遠鏡制御情報22とリアルタイム制御部5の軌道計算からのリアルタイム制御情報30とにより飛翔物体32を探知する光学望遠鏡6と、組合せ制御部2からの電波受信制御情報23により飛翔物体32を探知し、飛翔物体32から発せられる電波を受信する電波受信装置7と、レーダ4と光学望遠鏡6のレーダ探知情報24と望遠鏡探知情報25とから軌道情報を算出する軌道情報算出部8と、軌道情報算出部8と軌道情報13をやり取りし、観測計画部1に軌道情報13及び識別情報14と識別結果15を提供し、軌道予測部3に軌道情報13を提供する飛翔物体データベース11と、レーダ4と光学望遠鏡6と電波受信装置7から送出されたレーダ識別情報26と望遠鏡識別情報27と電波受信識別情報28とから判定した識別情報14を飛翔物体データベース11に登録する識別情報付加部9と、外部軌道情報16と飛翔物体データベース11から軌道情報13と識別情報14を使用して識別を実施し、識別結果15を飛翔物体データベース11に登録する識別処理部10と、観測計画部1と識別処理部10と軌道予測部3に外部軌道情報16を提供する外部情報12と、により構成されている。
【0019】
次に、実施の形態における飛翔物体監視装置の動作について、図1を参照して、各構成部分のそれぞれの機能、動作の詳細を説明する。
【0020】
観測計画部1は、飛翔物体データベース11もしくは外部情報12に登録されている飛翔物体32を探知・識別する目的で軌道更新要求17を作成し、組合せ制御部2に通知する。また、未確認の飛翔物体32を待ち受ける目的で未確認飛翔物体探知要求18を作成し、組合せ制御部2に通知する。
例えば、飛翔物体データベース11の軌道情報13、もしくは外部情報12の外部軌道情報16から、観測したい飛翔物体32を選択する。選択の際、識別情報14や識別結果15がある場合は、選択の参考とすることを可能とする。選択した飛翔物体32の軌道更新時間、軌道更新優先度、要求精度、要求識別情報を入力し、軌道更新要求17として組合せ制御部に通知する。周期的に軌道を更新するために、周期的に軌道更新要求17を自動作成することを可能とする。また、待受方位、待受方位幅、待受仰角、待受仰角幅、待受距離、待受距離幅を入力し、未確認飛翔物体探知要求18として組合せ制御部2に通知する。
【0021】
組合せ制御部2は、観測計画部1からの軌道更新要求17、及び未確認飛翔物体探知要求18に従い、レーダ制御情報21をレーダ4に、望遠鏡制御情報22を光学望遠鏡6に電波受信装置制御情報23を電波受信装置7に通知する。
例えば、軌道更新要求17の選択飛翔物体番号と軌道更新時間から軌道予測要求19を作成し、軌道予測部3に通知する。軌道予測部3からの予測軌道情報20に基づいて、要求精度や要求識別情報を満たすように、軌道更新優先度の順番に従って、レーダ4、光学望遠鏡6、電波受信装置7の各センサの組合せを決定し、レーダ制御情報21、望遠鏡制御情報22、電波受信装置制御情報23を各センサに通知する。
【0022】
軌道予測部3は、組合せ制御部2からの軌道予測要求19に従って飛翔物体データベース11の軌道情報13、及び外部情報12の外部軌道情報16から予測軌道を計算し、予測軌道情報20を組合せ制御部2に通知する。
例えば、軌道予測要求19に含まれる選択飛翔物体番号を使用して、飛翔物体データベース11の軌道情報13もしくは外部情報12の外部軌道情報16から、該当する軌道を検索する。当該軌道に摂動係数が含まれている場合は、軌道の観測時間と軌道予測要求19の軌道更新時間との時間間隔に摂動係数を乗じて補正量を計算し、補正された軌道6要素を計算する。補正された軌道6要素を用いて各センサの位置および観測可能な領域から飛翔物体を観測できる時間を算出し、センサ毎の観測可能時間とする。ただし、光学望遠鏡6の観測可能時間は、太陽と地球と飛翔物体32の位置関係から、飛翔物体32に対して太陽光が照射され、観測可能であることを考慮する。その後、摂動係数が含まれている場合は、センサ毎の観測可能時間における補正量を計算し、補正された軌道6要素を再度計算する。軌道精度は、軌道の観測時間からの時間経過による精度劣化を計算する。なお、大型のソーラパネルを持つ軽量な人工衛星などの場合は、太陽風による摂動が大きいため、太陽風の影響を考慮することを可能とする。例えば、ソーラパネルの大きさ、重量、太陽放射の反射係数を入力可能とし、太陽や軌道、衛星の位置関係から補正量を計算し、軌道6要素の算出時に補正をかける方法が考えられる。
【0023】
レーダ4は、レーダ制御情報21に従って飛翔物体32をレーダ観測し、飛翔物体32を探知したら直ちにリアルタイム探知情報29をリアルタイム制御部5に通知する。また、レーダ探知情報24を軌道情報算出部8に通知する。さらに、レーダ識別情報26を識別情報付加部9に通知する。
例えば、レーダ制御情報21に含まれる待受の指示に従って、飛翔物体32を待ち受ける。飛翔物体32を探知した場合は、レーダ制御情報21に含まれる補正された軌道6要
素と相関の有無を判定し、相関がある場合は、選択飛翔物体番号と飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置と飛翔物体の位置精度をリアルタイム探知情報29としてリアルタイム制御部5に直ちに通知する。選択飛翔物体番号と飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置と飛翔物体の位置精度は、任意のタイミングでレーダ探知情報24として軌道情報算出部8にも通知する。また、レーダ制御情報21の識別要否で識別要となっていた場合は、観測と同時にISAR画像を取得し、選択飛翔物体番号とISAR画像をレーダ識別情報26として任意のタイミングで識別情報付加部9に通知する。補正された軌道6要素と相関がない場合は、未確認飛翔物体として飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置と飛翔物体の位置精度をレーダ探知情報17として任意のタイミングで軌道情報算出部8に通知する。
【0024】
リアルタイム制御部5は、光学望遠鏡6に精度の高い飛翔物体の位置を通知する目的で、レーダ4から受信するリアルタイム探知情報29をもとに軌道6要素を算出し、リアルタイム制御情報30を光学望遠鏡6に通知する。
例えば、リアルタイム探知情報29の飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置を複数使用して、軌道6要素を算出する。また、飛翔物体32の位置精度から軌道精度を計算して、光学望遠鏡6の観測視野角を算出する。上記で算出された軌道6要素、観測視野角を選択飛翔物体番号と共にリアルタイム制御情報30として光学望遠鏡6に通知する。通知するタイミングは、観測視野角が一定以下、つまり軌道の精度が一定以上となった時とする。
【0025】
光学望遠鏡6は、望遠鏡制御情報22、及びリアルタイム制御情報30に従って飛翔物体32を光学画像として観測し、得られた望遠鏡探知情報25を軌道情報算出部8に通知する。また、望遠鏡識別情報27を識別情報付加部9に通知する。
例えば、望遠鏡制御情報22に含まれる補正された軌道6要素、観測開始時刻、観測終了時刻、観測視野角に従って飛翔物体32を探索する。リアルタイム制御情報30を受信した場合は、リアルタイム制御情報30に含まれる選択飛翔物体番号の飛翔物体32をこれから探知する予定の場合に、補正された軌道6要素と観測視野角についてリアルタイム制御情報30のものにオーバーライド可能とする。すでに探知している、もしくは観測予定にない選択飛翔物体番号の場合は、受信したリアルタイム制御情報30を破棄する。飛翔物体32を探知した場合は、望遠鏡制御情報22に含まれる補正された軌道6要素、及びリアルタイム制御情報30の軌道6要素と相関の有無を判定し、相関がある場合は、選択飛翔物体番号と飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置と飛翔物体の位置精度を望遠鏡探知情報25として軌道情報算出部8に任意のタイミングで通知する。また、望遠鏡制御情報22の識別要否で識別要となっていた場合は、観測と同時に光学画像を取得し、選択飛翔物体番号と光学画像を望遠鏡識別情報27として、任意のタイミングで識別情報付加部9に通知する。軌道6要素と相関がない場合は、未確認飛翔物体として飛翔物体の時刻と飛翔物体の位置と飛翔物体の位置精度を任意のタイミングで軌道情報算出部8に通知する。
【0026】
電波受信装置7は、電波受信装置制御情報23に従って飛翔物体32から発せられる信号データを収集、解析し、電波受信装置識別情報28として識別情報付加部9に通知する。
例えば、電波受信装置制御情報23に含まれる補正された軌道6要素、観測開始時刻、観測終了時刻に従って飛翔物体32を探索する。信号データが得られた場合は、選択飛翔物体番号と信号データを電波受信装置識別情報28として任意のタイミングで識別情報付加部9に通知する。
【0027】
軌道情報算出部8は、レーダ探知情報24、及び望遠鏡探知情報25を用いて軌道情報13を算出し、飛翔物体データベース11を更新する。
例えば、同一の選択飛翔物体番号の飛翔物体について、レーダ探知情報24及び望遠鏡探知情報25に含まれる飛翔物体の時刻、飛翔物体の位置、飛翔物体の位置精度から軌道6要素を算出する。算出した軌道6要素について、飛翔物体データベースの軌道情報13
に含まれる軌道6要素、摂動係数、軌道精度を考慮して相関がある場合、軌道情報13を更新する。摂動係数は飛翔物体データベースの軌道6要素と算出した軌道6要素と時間間隔を使用して、単位時間当たりの摂動係数を計算する。軌道精度は、レーダ探知情報24、望遠鏡制御情報13に含まれる飛翔物体の位置精度やデータの個数を使用して算出する。選択飛翔物体番号が未確認飛翔物体を意味する特別に定められた番号であった場合、レーダ探知情報24、望遠鏡探知情報25の中から相関のあるものを抽出して軌道6要素を算出する。算出した軌道6要素について、飛翔物体データベース11の軌道情報13に含まれる軌道6要素、摂動係数、軌道精度を考慮して相関がある場合、飛翔物体データベース11を更新する。相関がない場合、軌道6要素を新規の軌道情報13として飛翔物体データベース11に登録する。なお、人工衛星の場合、ロケットモータを使用して軌道の変更を行うことがあり、自動で相関がとれない場合があるため、手動など別の方法による相関を可能とする。その場合、摂動係数の更新は行わない。また、軌道予測部3と同様に、大型のソーラパネルを持つ軽量な人工衛星の場合の太陽風による摂動を考慮することを可能とする。
【0028】
識別情報付加部9は、レーダ識別情報26のISAR画像、望遠鏡識別情報27の光学画像、電波受信装置識別情報28の信号データを、飛翔物体データベース11の当該飛翔物体番号の識別情報14に登録する。
【0029】
識別処理部10は、飛翔物体データベース11の軌道情報13、識別情報14、外部情報12の外部軌道情報16を使用して、当該飛翔物体32が何であるかを識別し、識別結果15を飛翔物体データベース11に登録する。
【0030】
飛翔物体データベース11は、飛翔物体毎に軌道情報13、識別情報14、識別結果15を保存可能なデータベースである。
【0031】
外部情報12は、外部軌道情報16を保存可能なデータベースである。
【0032】
次に、データの内容について説明する。
軌道情報13は、飛翔物体番号、軌道6要素、摂動係数、軌道精度を含む情報である。飛翔物体番号とは本装置内で飛翔物体を一意に特定するために割り振られる番号である。軌道6要素とは衛星の軌道やある時刻における位置を一意に特定できる表現であり、例えば、昇交点赤径、軌道傾斜角、軌道長半径、離心率、近地点引数、近地点通過時刻である。摂動係数とは、軌道6要素の摂動を規定する係数で、例えば、J2項による摂動、月/太陽による摂動、大気抵抗による摂動を規定する。軌道精度とは飛翔物体が一定以上の確率で存在する領域の表現で、観測した器材の位置、精度、探知回数により算出される。
【0033】
識別情報14は、飛翔物体番号、ISAR画像、光学画像、信号データを含む情報である。
【0034】
識別結果15とは、飛翔物体番号、飛翔物体の種類、飛翔物体の活動内容、衛星名称、外部情報との相関結果を含む情報である。飛翔物体の種類は、例えば、周回衛星、スペースデブリ、ミサイル等である。飛翔物体の活動内容とは、例えば、通信、偵察等である。
【0035】
外部軌道情報16とは飛翔物体の軌道やある時刻における位置を含む情報であり、例えば、TWO LINE ELEMENTがある。ここで、TWO LINE ELEMENTとは、ケプラー軌道要素を2行で記述するテキスト形式のフォーマットであり、軌道6要素と等価な軌道情報の他、衛星名、国際識別番号などを付加した情報が記述されている。TWO LINE ELEMENTは、地球を周回しているすべての飛翔物体をモニターしているアメリカ航空宇宙局(NASA)や北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NOR
AD)が現在でも使用しており、インターネットで公開されている。
【0036】
軌道更新要求17は、選択飛翔物体番号、軌道更新時間、軌道更新優先度、要求精度、要求識別情報を含む情報である。要求識別情報にはISAR画像、光学画像、信号データがある。
【0037】
未確認飛翔物体探知要求18は、待受方位、待受方位幅、待受仰角、待受仰角幅、待受距離、待受距離幅を含む情報である。
【0038】
軌道予測要求19は、選択飛翔物体番号、軌道更新時間を含む情報である。
【0039】
予測軌道情報20は、選択飛翔物体番号、補正された軌道6要素、軌道精度、センサ毎に観測可能時間を含む情報である。なお、センサとは、レーダ4、光学望遠鏡6、電波受信装置7をまとめた呼称である。
【0040】
レーダ制御情報21は、選択飛翔物体番号、補正された軌道6要素、待受開始時刻、待受終了時刻、待受方位、待受方位幅、待受仰角、待受仰角幅、待受距離、待受距離幅、識別要否を含む情報である。
【0041】
望遠鏡制御情報22は、選択飛翔物体番号、補正された軌道6要素、観測開始時間、観測終了時間、観測視野角、識別要否を含む情報である。
【0042】
電波受信装置制御情報23は、選択飛翔物体番号、補正された軌道6要素、観測開始時間、観測終了時間を含む情報である。
【0043】
レーダ探知情報24は、選択飛翔物体番号、飛翔物体の時刻、飛翔物体の位置、飛翔物体の位置精度を含む情報である。
【0044】
望遠鏡探知情報25は、選択飛翔物体番号、飛翔物体の時刻、飛翔物体の位置、飛翔物体の位置精度を含む情報である。
【0045】
レーダ識別情報26は、選択飛翔物体番号、ISAR画像を含む情報である。
【0046】
望遠鏡識別情報27は、選択飛翔物体番号、光学画像を含む情報である。
【0047】
電波受信装置識別情報28は、選択飛翔物体番号、信号データを含む情報である。
【0048】
リアルタイム探知情報29は、選択飛翔物体番号、飛翔物体の時刻、飛翔物体の位置、飛翔物体の位置精度を含む情報である。
【0049】
リアルタイム制御情報30は、選択飛翔物体番号、軌道6要素、観測視野角を含んだ情報である。
【0050】
図2から図8に飛翔物体監視方法及び飛翔物体監視装置の運用を説明するフローチャートを示す。
【0051】
角度分解能が良く軌道情報を高精度で得ることが可能な光学望遠鏡であるが、視野角が狭いため天空を高速な角速度で移動する飛翔物体の発見及び追尾が困難であるという欠点を視野角が広く飛翔物体の検出が容易なレーダと組み合わせることにより、レーダの欠点である高軌道あるいは静止軌道の人工衛星、スペースデブリあるいは小惑星などの天体に
対しても角度分解能が良く高精度な軌道情報の算出が可能であり、高速な角速度で移動する飛翔物体の発見及び追尾も容易となる。
【0052】
このように、実施の形態における飛翔物体監視方法及び監視装置では、レーダ、光学望遠鏡及び電波受信装置を組み合わせて飛翔物体を監視することにより、レーダ単体、光学望遠鏡単体では困難であった周回衛星等の低高度かつ高速な宇宙の飛翔物体の高精度な軌道情報及び識別情報を有するデータベースの作成が可能であり、人工衛星が他の人工衛星やスペースデブリとの衝突を避ける情報を提供することが可能となるとともに、人工衛星であるかスペースデブリであるか等の識別が可能となるといった顕著な効果を奏するものである。
【0053】
なお、上記のレーダ制御情報、各探知情報、各識別情報の選択飛翔物体番号は、未確認飛翔物体に関する場合は、特別に定められた番号とする。
【0054】
また、上記実施の形態で、軌道を決定するものとして軌道6要素としているが、一例であり、軌道を特定できるものであれば飛翔物体の時刻と位置と速度などを使用しても良い。
【0055】
また、レーダ4、光学望遠鏡6、電波受信装置7については、複数台で構成することも可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 観測計画部、2 組合せ制御部、3 軌道予測部、4 レーダ、
5 リアルタイム制御部、6 光学望遠鏡、7 電波受信装置、
8 軌道情報算出部、9 識別情報付加部、10 識別処理部、
11 飛翔物体データベース、12 外部情報、13 軌道情報、14 識別情報、
15 識別結果、16 外部軌道情報、17 軌道更新要求、
18 未確認飛翔物体探知要求、19 軌道予測要求、20 予測軌道情報、
21 レーダ制御情報、22 望遠鏡制御情報、23 電波受信装置制御情報、
24 レーダ探知情報、25 望遠鏡探知情報、26 レーダ識別情報、
27 望遠鏡識別情報、28 電波受信装置識別情報、
29 リアルタイム探知情報、30 リアルタイム制御情報
31 飛翔物体監視装置、32 飛翔物体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔物体を探知するレーダ及び光学望遠鏡により得られた探知情報から前記飛翔物体の軌道情報を算出すると共に、その算出結果と飛翔物体データベースの既知飛翔物体の軌道情報とを照合し、前記飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別して識別情報を作成することを特徴とする飛翔物体監視方法。
【請求項2】
飛翔物体が発する電波を探知する電波受信装置により得られた識別情報を参照して、前記飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別することを特徴とする請求項1に記載の飛翔物体監視方法。
【請求項3】
飛翔物体を探知するレーダと、
前記飛翔物体を探知する光学望遠鏡と、
飛翔物体の軌道情報及び識別情報を格納する飛翔物体データベースと、
前記レーダ及び前記光学望遠鏡の探知情報から前記飛翔物体の軌道情報を算出する軌道情報算出部と、
前記軌道情報算出部により算出された軌道情報と前記飛翔物体データベースの軌道情報とを照合し、前記飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別して識別情報を作成する識別処理部と、
を備えたことを特徴とする飛翔物体監視装置。
【請求項4】
飛翔物体が発する電波を探知する電波受信装置を備え、
前記識別処理部は、前記電波受信装置により得られた識別情報を参照して、前記飛翔物体が既知飛翔物体であるか未確認飛翔物体であるかを識別するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の飛翔物体監視装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−157030(P2011−157030A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22061(P2010−22061)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)