説明

食しやすい納豆の製造方法および該方法により製造された納豆

【課題】 納豆の持つ好ましい風味を損なうことなく、特有の臭い、粘り、苦味を調節でき、食しやすい納豆を製造する方法および該方法により製造された納豆を提供する。
【解決手段】 原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程において、前記浸漬工程と蒸煮工程の間にアルカリ処理を行う食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆および納豆の製造方法に関し、特に、納豆特有の臭い、粘りあるいは苦味を調節でき、食しやすい納豆を製造する方法および該方法により製造された納豆に関するものである。
【背景技術】
【0002】
納豆は消化性がよく栄養価の高い、非常に優れた食品である。このような栄養価の高い納豆の消費拡大を図るため、納豆の新規用途として幅広い惣菜類の具材として利用することは極めて有効な手段である。
【0003】
以下に、従来の納豆の製造工程について説明する。
【0004】
図4は、従来の納豆の製造工程を示す図である。
【0005】
すなわち、まず原料となる大豆を洗浄し(洗浄工程11)、水に浸漬して給水させる(浸漬工程12)。浸漬後、水を切って蒸煮釜中に入れ、蒸煮する(蒸煮工程13)。続いて得られた蒸煮大豆を冷却した後、納豆菌を接種し、発酵させて(発酵工程14)、納豆(n)を得る。各工程の温度、時間等の条件は、通常の方法に従い、特に限定されるものではない。
【0006】
しかしながら、納豆は独特の臭い(アンモニア様臭)、粘り、苦味といった特性を持つため、納豆を敬遠する人も多く、その特性が貴重な食材の消費拡大の障害となっている。また、納豆特有の粘りは、惣菜類の具材として加工する際に取扱いを困難にしている。
【0007】
これらの納豆が敬遠される原因を取り除くために従来から多くの提案が為されてきた。
【0008】
例えばアンモニア様臭を低減する方法として、茶葉やカテキン化合物を添加して納豆の臭いを軽減する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、納豆の粘りを除去するために、納豆に水又は食用粉末を添加し、これを媒介として粘質物を除去する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
さらに、加熱により納豆特有のにおいや通常糸と云われる粘着力が除去若しくは緩和された納豆のつつみ揚げが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平8−173077号公報
【特許文献2】特開平8−84569号公報
【特許文献3】特開平9−322743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法においては、茶葉やカテキン化合物を添加することにより、納豆の持つ特有のアンモニア様臭を軽減することができるが、粘りを調節することはできない。また苦味を調節することもできない。
【0012】
また、上記特許文献2に記載された方法においては、納豆の持つ特有の粘りを除去することができるが、臭いや苦味を調節することはできない。また、納豆の粘りの原因である粘質物が納豆に水または澱粉等の食用粉末を添加することで除去されるため、処理後の納豆は、納豆表面が濡れた状態または納豆表面に食用粉末が付着した状態で得られることとなり、処理後の納豆を惣菜類の具材へ利用する場合に相応しくないという問題がある。
【0013】
さらに、上記特許文献3に記載された方法においては、加熱により臭いや粘着力がある程度軽減されるが、その程度は不十分であるといった問題がある。また苦味を調節することができない。
【0014】
本発明は、このような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的とする処は、納豆の持つ好ましい風味を損なうことなく、特有の臭い、粘りあるいは苦味を調節でき、食しやすい納豆を製造する方法および該方法により製造された納豆を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記の技術的構成により前記目的を達成できたものである。
【0016】
(1)原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程において、前記浸漬工程と蒸煮工程の間にアルカリ処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【0017】
(2)原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程において、前記浸漬工程と蒸煮工程の間にアスコルビン酸塩処理またはアスコルビン酸処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【0018】
(3)原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【0019】
(4)前記(1)に記載された食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【0020】
(5)前記(2)に記載された食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、納豆の持つ好ましい風味を損なうことなく、特有の臭い、粘りあるいは苦味を調節でき、食しやすい納豆を製造する方法および該方法により製造された納豆を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
以下に本発明に係るアルカリ処理について説明する。図1は、実施例1に係る納豆の製造工程を示す図である。
【0024】
実施例1に係るアルカリ処理(A)以外は上記従来の納豆の製造方法によって行うため、アルカリ処理(A)以外の工程は同一の符号を付し、説明は省略する。
【0025】
本処理は、納豆の苦味を調節するために行うものである。
【0026】
アルカリ処理(A)は、従来の納豆の製造工程の浸漬工程を経た後に行う。すなわち、原料となる大豆を水に浸漬処理した後、重曹(炭酸水素ナトリウム:NaHCO)を添加した90〜95℃の水に入れ、30から60秒間ブランチングする。水と原料となる大豆の割合は、水5に対して大豆1である。
【0027】
上記処理を行った結果得られた納豆(n1)について官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
アルカリ処理時の前記水のpHが7.7以上で、苦味を軽減、除去することができた。しかしながら、pHが7.95を越えると納豆の持つ好ましい風味を損なうため、特にpH7.7から7.95の範囲が好ましい。実施例1においては、水のpHを調節するために重曹を添加したが、これに限定されるものではない。
【0030】
前記アルカリ処理(A)により、納豆の持つ好ましい風味を損なうことなく、特有の苦味を調節することができる。
【0031】
実施例1で得られた納豆(n1)は、更に以下に説明する酸処理および加熱処理を行ってもよい。
【実施例2】
【0032】
以下に、本発明に係るアスコルビン酸塩処理について説明する。図2は、実施例2に係る納豆の製造工程を示す図である。
【0033】
実施例2に係るアスコルビン酸塩処理(B)以外は、上記従来の納豆の製造方法によって行うため、アスコルビン酸塩処理(B)以外の工程は同一の符号を付し、説明は省略する。
【0034】
本処理は、納豆の苦味を調節するために行うものである。
【0035】
アスコルビン酸塩処理(B)は、実施例1のアルカリ処理と同じタイミングで行う。すなわち、原料となる大豆を水に浸漬処理した後、沸騰した水に大豆、アスコルビン酸塩としてのアスコルビン酸Naを添加し、60秒間沸騰させる。水と原料となる大豆の割合は、水5に対して大豆1である。
【0036】
上記処理を行った結果得られた納豆(n2)について官能試験を行った。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
アスコルビン酸Na濃度が0.05%以上で苦味に変化がみられた。特に0.15%以上で苦味を好適に軽減、除去できた。しかしながら、0.25%以上では、納豆の持つ好ましい風味を損なってしまうため、特に0.15から0.25%の濃度範囲が好ましい。
【0039】
アスコルビン酸塩処理(B)により、納豆の持つ好ましい風味を損なうことなく、特有の苦味を調節することができる。
【0040】
本実施例においてはアスコルビン酸塩を用いたが、アスコルビン酸を使用してもよい。その場合アスコルビン酸濃度は、0.13から0.23%の範囲が好ましい。
【0041】
実施例2で得られた納豆(n2)は、更に以下に説明する酸処理および加熱処理を行ってもよい。
【実施例3】
【0042】
以下に、本発明に係る酸処理および加熱処理について説明する。図3は、実施例3に係る納豆の製造工程を示す図である。
【0043】
酸処理および加熱処理に用いられる納豆は、実施例1のアルカリ処理あるいは実施例2のアスコルビン酸塩処理がなされたもの(n1あるいはn2)でも、なされていないもの(n)でもよい。本実施例ではアルカリ処理(A)あるいはアスコルビン酸塩処理(B)のなされていない納豆(n)を用いた。
【0044】
実施例3に係る酸処理(C)および加熱処理(D)は、納豆の臭いおよび粘りを調節するために行うものである。
【0045】
納豆(n)に、有機酸を添加し、所定時間放置後100℃の蒸気で加熱した。
【0046】
本実施例では、添加する有機酸として市販の米酢(4.2%)を用いたが、特にこれに限定されることはなく、クエン酸、酢酸、乳酸、りんご酸、グルコン酸等の食品として通常用いられるものが含まれる。
【0047】
加熱は、100℃の蒸気で中心温度が90℃の状態で5〜10分間行った。
【0048】
上記処理を行った結果得られた納豆(n3)について官能試験を行った。官能試験は、納豆(n)に米酢を添加、箸で50回攪拌、続いて5分間放置、品質評価、加熱、放置冷却、品質評価の流れで行った。その結果を表3(加熱時間5分)、4(加熱時間10分)に示す。また対照区として、酸処理のみを行い加熱処理を行わなかった納豆についての結果を表5に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
表5より、加熱処理(D)を行わない場合には粘りを調節することができないことがわかった。また、米酢添加量が5%の場合でもアンモニア様臭が残り、一方、米酢添加量が2%以上で酢の臭いが残り、3%以上で酸味を感じるという不都合が生じた。
【0053】
表3より、加熱時間が5分の場合、米酢添加量が3%以上でアンモニア様臭がなくなり、粘りも減少した。また酢の臭いも残らず、酸味も僅かに感じられる程度であった。
【0054】
表4より、加熱時間が10分の場合、米酢添加量が1%以上でアンモニア様臭がなくなり、粘りも減少した。また酢の臭いも残らず、酸味も3%以上で僅かに感じられる程度であった。
【0055】
以上より、加熱温度は90℃〜100℃が好ましい。加熱温度が90℃以下の場合には、粘りおよび臭いを軽減、除去できるまでに時間がかかり過ぎ、大豆の質感が損なわれてしまうため好ましくない。また、100℃以上の場合は温度が高すぎて、大豆の質感が損なわれてしまうので好ましくない。
【0056】
加熱時間は、5分以上が好ましい。しかしながら、10分以上加熱した場合には、納豆の持つ好ましい風味もなくなってしまうため、5〜10分が特に好ましい。
【0057】
米酢添加量は3%以上、すなわち酸添加量としては0.126%以上が特に好ましい。
【0058】
以上説明したように、酸処理(C)および加熱処理(D)により、納豆の粘りおよび臭いを調節することができる。
【0059】
また、この納豆は、粘りが軽減あるいは除去されているため、惣菜類の具材として利用する際の加工において、取扱いが非常に容易になり、納豆の使用効率が増加するという効果も得られる。
【0060】
なお、アルカリ処理(A)あるいはアスコルビン酸塩処理(B)のなされた納豆(n1、n2)を用いて酸処理(C)および加熱処理(D)を行った場合には、臭い、粘り、苦味の調節された食しやすく、加工の際の取扱いが容易な納豆(n1a、n2a)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1に係る納豆の製造工程を示すブロック図
【図2】実施例2に係る納豆の製造工程を示すブロック図
【図3】実施例3に係る納豆の製造工程を示すブロック図
【図4】従来の納豆の製造工程を示すブロック図
【符号の説明】
【0062】
11 洗浄工程
12 浸漬工程
13 蒸煮工程
14 発酵工程
A アルカリ処理
B アスコルビン酸塩処理
C 酸処理
D 加熱処理

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程において、前記浸漬工程と蒸煮工程の間にアルカリ処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項2】
原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程において、前記浸漬工程と蒸煮工程の間にアスコルビン酸塩処理またはアスコルビン酸処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項3】
原料大豆を洗浄する洗浄工程、水に浸漬して給水させる浸漬工程、水を切って蒸煮する蒸煮工程、納豆菌を接種し発酵させる発酵工程を含む納豆の製造工程により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載された食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載された食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆に、酸処理および加熱処理を行うことを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ処理における溶液のpHが、7.7から7.95の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の食しやすい納豆の製造方法。
【請求項7】
前記アスコルビン酸塩処理におけるアスコルビン酸塩濃度が、0.15%から0.25%の範囲であり、前記アスコルビン酸処理におけるアスコルビン酸濃度が0.13%から0.23%の範囲であることを特徴とする請求項2に記載の食しやすい納豆の製造方法。
【請求項8】
請求項3ないし5のいずれか一項に記載の酸処理における酸添加量が、0.126%以上であることを特徴とする食しやすい納豆の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理における加熱温度が90から100℃であり、加熱時間が5分から10分であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか一項に記載の食しやすい納豆の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に記載の食しやすい納豆の製造方法により製造された納豆。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−149306(P2006−149306A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346393(P2004−346393)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(392011002)コックフーズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】