説明

食品の冷却・冷凍保存方法及び冷却・冷凍装置

【課題】−5℃以下では過冷却乃至冷凍状態となるので、冷蔵保存する場合にはその管理が難しい。また、冷凍する場合には解凍時に原状回復させることは難しかった。
【解決手段】水分を含む食品、例えば注入豆腐Tを、膨張を抑制する物理的な拘束下において、超音波振動を加えながら過冷却乃至冷凍させる。例えば、非圧縮性の流体(アルコールA)、または粒状集合物Pを満たした密閉容器9を食品の拘束用に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、特に水分を含む食品の冷却保存方法とその方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野菜、魚介類、肉類、さらにはこれらの加工した食品は、−5℃以下では細菌増殖し難く、また、組織の化学反応が純化することから、長期保存する場合には、−5℃以下の冷蔵保存や冷凍することで腐食や劣化を防止することが推奨されている。
しかしながら、−5℃以下では通常過冷却乃至冷凍状態となり、冷蔵保存する場合にはその管理が難しい。また、冷凍する場合には含有する水分の結晶化の際の密度の急激な低減に伴う膨張により、組織が容易に損傷して、解凍時にドリップが流れ出したり氷痕ができたりしてしまうため管理が難しい。
特に比較的水分を多く含むもの、例えば豆腐のようなものを解凍時に原状回復させることは難しかった。
【0003】
冷凍する場合には、組織の損傷を防止する方法として、食品を冷却しながら磁場或いは高電圧エネルギー等の環境の中におき微弱エネルギーを与えることで細胞中の水分子を振動させることにより過冷却状態に保ち、その後瞬時に冷凍させることにより水分の結晶化を抑えることができると説明されている冷凍方式が紹介されている。而して、この方法でも、水分を比較的多く含む豆腐等の食品については原状回復が不十分であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それ故、本発明は、上記課題を解決するために、新規且つ有用な、水分を含む食品の冷却や冷凍保存に適した方法及びその方法を実施する装置を提案することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
超音波の利用の仕方としては、物体に付着した異物を超音波の周波数に共振させて剥離させて除去したり、混和し難い液体どうしを混和させたりすることが知られているが、本発明者は、食品の冷却に、超音波振動を加えると共に食品を物理的拘束下におくことで、
(1)凍結温度を下げて過冷却状態を安定的に維持できること、
(2)冷凍させる場合でも、氷晶が微細化して組織の損傷が抑えられ、原状回復し易いことを見出した。
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
本発明の請求項1の発明は、水分を含む食品を、膨張を抑制する物理的な拘束下において、超音波振動を加えながら過冷却乃至冷凍させることを特徴とする冷却・冷凍保存方法である。
請求項2の発明は、請求項1に記載した冷却・冷凍保存方法において、超音波振動及び/または拘束を解除することで冷凍させることを特徴とする冷却・冷凍保存方法である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した冷却・冷凍保存方法を実施する装置において、非圧縮性の流体または粒状集合物を満たした密閉容器を食品の拘束用に備えたことを特徴とする冷却・冷凍装置である。
請求項4の発明は、請求項1または2に記載した冷却・冷凍保存方法を実施する装置において、食品の形状に対応する凹部を有する型を食品の拘束用に備えたことを特徴とする冷却・冷凍装置である。
請求項5の発明は、請求項4に記載した冷却・冷凍装置において、型は放熱性熱伝導率の高い多孔性素材で構成されていることを特徴とする冷却・冷凍装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、食品を冷蔵保存する場合でも従来の方法より安定的に過冷却状態を維持でき、また、冷凍保存する場合には原状回復し易い。
商品の流通事情を考慮すると冷凍保存する場合が多いが、本発明の方法によれば、豆腐等のように比較的水分が多く含まれ、従来は冷凍保存するのに適さなかったものでも、処理対象とできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1タイプの冷却・冷凍装置のイメージ図である。
【図2】本発明の第2タイプの冷却・冷凍装置のイメージ図である。
【図3】実施例1の結果報告図である。
【図4】実施例1の結果報告図である。
【図5】実施例1の商品の比較写真である。
【図6】実施例2の結果報告図である。
【図7】実施例2の商品の比較写真である。
【図8】実施例3の商品の比較写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
処理対象とする食品は、水分を含むものであり、例えば、野菜、魚介類、肉類、これらの加工した食品、例えば豆腐、プリン等が挙げられる。
食品がそれ自体で成形品としての形態を維持できるものである場合には、単独で、豆腐やプリン等のように維持が難しかったり不可能なものであったりする場合には、容器に入れて成形させた上で処理に供することになる。なお、ここでの成形性は取り扱い可能な程度でとの意味であり、変形しても構わない。
【0011】
本発明では、食品に対して、膨張を抑制する物理的な拘束下において、超音波振動を加えながら過冷却させる。そして、冷凍まで至らしめる場合には、超音波振動または拘束、或いは両方を解除する。
【0012】
加える超音波振動の周波数には特に制限は無く、一般的な範囲である15〜200kHzが全て含まれるが、処理対象とする食品に含まれる水分との共振をし易くするため、食品の種類に応じて最適な範囲は異なる。
超音波振動は、処理対象とする食品に直接加えてもよいが、食品を伝搬媒体で囲ませてこの媒体を介して加えるのが効率的である。媒体を通すことで超音波の作用が食品に万遍無く行き渡り易くなるからである。
食品を冷却乃至冷凍する場合には、通常、冷媒に接触させて熱交換することから、この冷媒で上記した伝搬媒体を兼用させるのが好都合である。例えば冷却系でブラインとして通常使用できるものであれば、本発明でも使用可能である。
【0013】
食品を物理的に拘束するには、以下の手段が考えられる。
(1)食品を非圧縮性の流体または粒状集合物を満たした密閉容器に入れる。
この流体または粒状集合物は、上記した伝搬媒体や冷媒としての機能も果たし得るものとする。例えば、流体としてはアルコール、2.5%ニガリ溶液、3.3%食塩水等のブラインが挙げられ、粒状集合物としては、ガラス粒子またはショットブラスト金属粒が挙げられる。粒状集合物だけで上記した伝搬媒体や冷媒としての機能を担わせるのは効率が悪いが、密閉容器内と限定された範囲であれば可能であろう。
【0014】
本発明の方法の実施に利用できる装置は、上記した超音波振動、冷媒との熱交換、食品の物理的拘束を同時に可能とするものであり、図1は、冷却・冷凍装置1をイメージ化したものである。仮に処理対象とする食品は注入豆腐Tとなっている。
この冷却・冷凍装置1では、装置本体3の底部に超音波発振子5とヒーター7が取り付けられている。この装置本体3には密閉容器9が収容される。この密閉容器9は上側の蓋部を開けて出し入れできるようになっているが、一旦密閉されると、中から加圧を受けても容易には開かない。密閉容器9は放熱性と超音波伝搬性の良いアルミニウム材で構成されている。装置本体3内はアルコールAで満たされており、密閉容器9内は図1(1)では同じくアルコールAで満たされ、図1(2)では粒状集合物Pが充填されて満たされている。
【0015】
この冷却・冷凍装置1では、ヒーター7をON/OFFしてブラインを制御するようになっている。
注入豆腐Tには、超音波振動が超音波発振子5から、アルコールAと密閉容器9を介して伝搬され、熱交換はアルコールAと密閉容器9を介して行われる。
【0016】
(2)食品の形状に対応する凹部を有する型を製造しておき、処理の際には食品をその型に装着させる。
型は放熱伝導性の高い多孔性素材、例えば多孔質アルミニウムの平板材を孔開けしたもので構成して超音波の浸透を考慮する。
【0017】
図2は、上記した拘束手段を備えた冷却・冷凍装置11をイメージしたものであり、一例として処理対象とする食品は注入豆腐Tとなっている。この冷却・冷凍装置11では、上記した冷却・冷凍装置1の密閉容器9に代わってアルミニウム製の多孔質型13が備えられており、この型13に注入豆腐Tが装填されている。型13は多孔質で、アルコールAと熱交換し易く超音波が浸透するように考慮されている。
【実施例】
【0018】
(実施例1:注入豆腐)
上記した構成の冷却・冷凍装置1は、図3に示すように、針状のCH1(芯温センサ)、CH2(抵抗値センサ)、CH3(冷媒温度センサ)を挿し込んで、冷却乃至冷凍させる実験を行った。
抵抗値センサにより被冷凍品の抵抗値の変化を測定・記録するが、−10℃目盛りで凍結が開始し、−15℃で完全凍結に至ることを示している。
この実施例では、過冷却では芯温が約−5℃を維持するように、アルコールAの温度を制御した。また、超音波振動は40kHzに設定した。また、対照用に、図4に示すように注入豆腐Tをそのまま装置本体3内に入れたものでも実験を行った。
【0019】
過冷却保存させたときは、図3(本発明)装置では、抵抗値が−5℃目盛り前後を示し過冷却状態が安定しているが、図4(対照(従来技術))装置では、抵抗値が−15℃目盛り以下が更に下がり、しかも、下がり方が急激、すなわち凍結速度が速く、比較的直ぐ凍結状態に入ってしまったことを示している。
また、冷凍させたときは、図3(本発明)装置では、凍結速度が比較的緩慢であった。
【0020】
図5は、超音波振動と物理的拘束を解除し、氷水に浸して解凍したものの写真である。図3(本発明)装置で処理したものは、艶や、弾力性が有り、滑らかであった。一方、図4(対照(従来技術))装置で処理したものは、氷痕が残る上に、弾力性が失われ、ザラツキ感が有った。これは、氷晶の発達により網目構造が破壊されたためと思われる。
【0021】
(実施例2:冷凍ミカン)
上記した構成の冷却・冷凍装置1を使用し、図6に示すように、密閉容器の代わりにミカンをフリーザーバック15に入れて真空パックし、針状のCH1(芯温センサ)、CH2〜CH4(抵抗値センサ)を挿し込んで、過冷却乃至冷凍させる実験を行った。この実施例では、超音波振動は40kHzに設定した。また、対照用に、超音波振動を加えない、すなわち加振無しの条件でも実験を行った。
加振有りでは、抵抗値の変化に現われたように、凍結速度は遅くなり、しかも凍結の進行は部位により差が出た。一方、加振無しでは、凍結速度は比較的速く、しかも、凍結の進行は部位に関係なく一律であった。
また、図7に示すように、解凍後は、加振有りでは果皮の「ぬれ」が少なかったが、加振無しでは果皮の「ぬれ」がかなり見られた。この「ぬれ」の多少は解凍時のドリップ量の多少に対応しており、この結果から加振有りではドリップ量がかなり抑えられたことが分かる。
【0022】
(実施例3:マグロの切り身)
実施例2と同様にして、過冷却乃至冷凍させる実験を行った。その後、氷水に浸して解凍したところ、図8に示すように、解凍後は、本発明の方法ではドリップが殆ど出なかったが、従来の対照品(従来技術)ではドリップがかなり出たことが確認された。
【0023】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記で開示した冷却・冷凍装置は、いずれも実験室レベルのものであり、実際に市販されるものとは具体的な構造は異なるであろう。しかしながら、市販される冷却・冷凍装置も、本発明のアイデアが全て具現化されている限りは本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
水分が多い商品でも解凍後に原状回復またはそれに近い状態まで戻せることから、冷凍保存する対象となり得る商品は増える。例えば、学校給食のような場所でも冷奴のようものの提供も期待できる。
【符号の説明】
【0025】
1…冷却・冷凍装置(第1タイプ) 3…装置本体
5…超音波発振子 7…ヒーター
9…密閉容器
11…冷却・冷凍装置(第2タイプ) 13…多孔質型
15…フリーザーパック
A…アルコール P…粒状集合物 T…注入豆腐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む食品を、膨張を抑制する物理的な拘束下において、超音波振動を加えながら過冷却乃至冷凍させることを特徴とする冷却・冷凍保存方法。
【請求項2】
請求項1に記載した冷却・冷凍保存方法において、超音波振動及び/または拘束を解除することで冷凍させることを特徴とする冷却・冷凍保存方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した冷却・冷凍保存方法を実施する装置において、非圧縮性の流体または粒状集合物を満たした密閉容器を食品の拘束用に備えたことを特徴とする冷却・冷凍装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した冷却・冷凍保存方法を実施する装置において、食品の形状に対応する凹部を有する型を食品の拘束用に備えたことを特徴とする冷却・冷凍装置。
【請求項5】
請求項4に記載した冷却・冷凍装置において、型は放熱性の高い多孔性素材で構成されていることを特徴とする冷却・冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−100965(P2013−100965A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245681(P2011−245681)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000125680)株式会社ケーイーコーポレーション (9)