説明

食品検査用X線遮蔽カーテン

【課題】食品用X線検査装置に用いるX線遮蔽用カーテンの改良を行い、その寿命および変形の抑制、強度の維持を目的とする。また、食品衛生法に伴う特性を満たし、かつ、熱湯消毒にも耐えるカーテンを提供する
【解決手段】食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテンが、結晶化度が20%以上70%以下であるオレフィン系エラストマー中にタングステン粉末が分散しており、かつ電子線照射による架橋組織を有した板状X線遮蔽体からなり、かつ食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)におけるヘプタン溶出基準(150ppm以下)に適合することを特徴とする食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテンとすることにより、課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を用いて食材に混入した混入や付着した石、砂、プラスチック、金属、包装フィルムの破片などの異物を検出する装置に用いる、食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテンに関する。
【背景技術】
【0002】
製造中の食品中に混入や付着した石、砂、プラスチック、金属、包装フィルムの破片などの異物は、X線透過にて発見することができる。食品検査の過程にて、微弱なX線を食品にあて、石、砂、プラスチック、金属、包装フィルムの破片が存在する場合は検知し、その流出を防ぐことができる。この金属は原材料に付着しているものや、製造の途中にその装置の一部などから混入する場合があり、完全になくすことは難しい。
【0003】
そこで、多くの場合は食品をコンベアに載せ、X線照射装置の中を通過させ、微弱なX線を照射し、その結果を付属のモニタなどで確認する方法が取られている。このような方法は特許文献1に記載がある装置と、基本的には同一の形態である。
【0004】
この方法を取ることにより、金属の異物はほぼ確実に検知可能になったが、検査の効率を考えると、コンベア上に被検査食品を流し、X線照射領域の前後を暖簾状のX線遮蔽カーテンで覆い、装置近辺の人に対する被爆を防ぐという方法が取られてきた。これにより、被爆については解決されている。
【0005】
ところが、遮蔽材であるX線遮蔽カーテンは、その多くは鉛板や鉛毛をゴムや樹脂中に分散した素材や、その両広面をフィルムで被覆したカーテン形状などからなる素材を使用している。鉛は安価であり放射能遮蔽能力が高く有用である。しかし、人体、特に口から入る摂取は有害であり、有害直接食品やその容器に接触させるのは避けられるべきである。
【0006】
これらの問題を解決するために、X線遮蔽カーテンにタングステンやモリブデンなどの遮蔽能力の高い重金属板を用いることは可能だが、焼結体は変形しにくく、カーテンの役割は果たせない。そこで、特許文献2に示されるような、タングステンやモリブデンなどの遮蔽能力の高い金属を、樹脂やゴム中に分散した柔軟性と遮蔽能力を併せ持ったシートが開示されている。
【0007】
また、特許文献3に示す文献には、エラストマーやゴム中に金属を分散した板状の材料の、片面あるいは両面にプラスチックなどの有機物フィルムを貼り、長寿命を目指した技術が開示されている。
【0008】
これらの方法により磨耗や変形はある程度改善されるが、実施例に示されている、樹脂やゴム中に金属を分散した板状の材料と有機フィルムの厚さの比では、柔軟性が不足し、被検査物の通過に伴って全体での変形が比較的起こりにくい。そのために、カーテン部材の一箇所でのみ大きく変形が繰り返されるために、その部分で有機フィルムが剥離したり、樹脂やゴム中に金属を分散した板状の材料が折れるまたは割れるという不具合が発生したりする。
【0009】
また、食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)における基準であるが、酢酸、アルコール、鉛などについて溶出の基準量が設けられている。
【0010】
通常、直接ゴムやエラストマーが食品に触れると、特に油分を含む食品に対して溶出が起こるという問題がある。例えば、オレフィン系エラストマーであるエチレン・α‐オレフィン共重合体(結晶化度10%、架橋処理なし、フィルムなし)であると、この数値は800〜1200ppmとなる。同法での基準では150ppm以下である。
【0011】
このように、一般的なのエラストマーなどの有機物は常温(25℃)でのヘプタンへの溶出が基準以上に起こるために、食品衛生法「ポリエチレンおよびポリプロピレンを主成分とする合成樹脂性の器具又は容器包装(平成18年度厚生労働省告示第201号)」の基準を満たしていない。この値は、特許文献3に記載のように、X線遮蔽体の広面にフィルムを備えることでいくらかは減少させられるが、端面や側面からの溶出によりやはり基準値をきるのは難しい。これを防ぐために、例えば大きな板状材料から切り出して製造する場合には、切り出した面の複数個所にフィルムを別に密封して設ける必要があるために、構造が複雑になり製造費用もかさむために好ましくない。
【0012】
さらに別の問題点もある。X線遮蔽用カーテンは、使用していくうちに当然汚れるために、1日おきや早いもので数時間おきには洗浄および消毒を行なう必要がある。洗浄および消毒には、確実でそれ自体に害がない水(熱湯)を用いた消毒が行なわれる。この熱湯に対して、先行技術で挙げたX線遮蔽体中のエラストマーはきわめて弱い。
【0013】
これらに熱湯をかけるとX線遮蔽体は軟化し、フィルムを張っている場合にはそれと剥離し、板状X線遮蔽体の変形や伸びが大きく生じる。そのために、前記消毒後に続けて使用することは困難となる。

【特許文献1】特開2003−050216号公報
【特許文献2】再表2003/029343号公報
【特許文献3】再表2004/084234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
食品用X線検査装置に用いるX線遮蔽用カーテンの改良を行い、その寿命および変形の抑制、強度の維持を目的とする。また、食品衛生法に伴う特性を満たし、かつ、熱湯消毒にも耐えるカーテンを提供する。
【0015】
本発明では、柔軟性や遮蔽能力など、他の特性を犠牲にすることなく、前記課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項に記載の本発明は、食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテンが、
結晶化度が20%以上70%以下であるオレフィン系エラストマー中にタングステン粉末が分散しており、かつ電子線照射による架橋組織を有した板状X線遮蔽体からなり、
かつ食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)におけるヘプタン溶出基準(150ppm以下)に適合することを特徴とする食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテンである。また、前記板状X線遮蔽材の片面または両面にポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリプロピレン系のいずれかの有機物からなる保護フィルムが密着していることを特徴とするX線遮蔽用カーテンである。
【0017】
本発明のカーテンは、X線遮蔽用カーテンについて、現在ある様々な課題を解決する。
【0018】
本発明のカーテンは大きく「板状X線遮蔽材」または「板状X線遮蔽材とそれに密着した保護フィルム」のいずれかからなる。
【0019】
板状X線遮蔽材はオレフィン系エラストマーとタングステンの粉末からなり、オレフィン系エラストマー中にタングステンが分散している状態である。オレフィン系エラストマーとタングステン粉末は濡れ性が高くないために、あらかじめタングステン粉末にカップリング処理をすることもできる。
【0020】
タングステン粉末や、カーテン表面の粒子にごく微量に起こりえるタングステンの酸化物などのタングステン化合物は人体に対する毒性はきわめて低く、例えば少量を誤飲した場合でも特に問題はない。また、タングステンの密度は19.2Mg/mと11.3Mg/mである鉛に対して約1.7倍ときわめて高い。一般にX線の遮蔽能力は遮蔽体の密度に比例するために、タングステンは遮蔽能力に優れている。ただし、タングステン単体である焼結体では、柔軟性が得られないために、粉末状態でオレフィン系エラストマー中に分散するような手段をとる。タングステン粉末とオレフィン系エラストマーは、加熱ニーダーなどの混練機を使用して、両者が隙間なく混合、分散するように処理する。その後に押し出し成形などにより、板状X線遮蔽体を得ることができる。
【0021】
タングステン粉末とオレフィン系エラストマーの比については、タングステン粉末を増やすと密度が増すが柔軟性は低下する。逆にオレフィン系エラストマーが多ければ柔軟性には優れるが密度は低下する。そのため用途によってオレフィン系エラストマーとタングステン粉末の適した比を決める必要がある。カーテンに用いる場合はタングステン粉末を80〜98%、残部をオレフィン系エラストマーとする範囲が密度と柔軟性共に特に適している。タングステン粉末が98%を超えれば、密度は上げることができるが柔軟性の低い混合物となり、適さないことがある。また、80%未満であれば、X線遮蔽能力が低下するために、同じ厚さでは遮蔽能力が不足することがあり、厚さに制限のある用途では使用は制限されることがある。厚さを厚くすればX線遮蔽能力は確保できるが、厚くなるに伴い柔軟性の確保が難しくなる。
【0022】
よりいっそうの耐久性や、被検査物とX線遮蔽体の直接の接触を小さくするために、保護フィルムとして有機物のフィルムを貼ることもできる。この保護フィルムは様々なものを使用できるが、最も適しているのはポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリプロピレン系のいずれかの樹脂からなる保護フィルムである。保護フィルムと板状X線遮蔽材を貼り付ける方法は大きく2種類あり、ひとつが接着剤を用いて貼り付ける方法、もう一方が板状X線遮蔽材の温度を上げて若干軟化したところで表面に保護フィルムをくっつける方法である。これらの方法はどちらを用いてもよい。
【0023】
貼り付ける保護フィルムの厚さは、厚ければ強度が高くなる一方で柔軟性が低下し、薄ければ柔軟性は向上するが被検査物の形状や材質などによっては亀裂などが入りやすくなる。放射線遮蔽カーテンとして最も適しているのは、保護フィルムの厚さが片側10〜200μmであり、X線遮蔽用カーテン全厚さと比較して0.047〜0.142の範囲がよい。この範囲であれば、内部の板状X線遮蔽材が長時間保護されたまま、柔軟性も損なわずに使用が可能である。
【0024】
また、本発明のカーテンはまず、従来の鉛材とは異なり、食品の包装はもとより、食品そのものに接触しても無害である。これは、鉛材と違い、オレフィン系エラストマーと金属タングステン、保護フィルムが人体に対して極めて害が少ないことによる。また、オレフィン系エラストマーは一般にヘプタンに対する溶出が食品衛生法の定める数値150ppm(ヘプタン中、25℃、60min。昭和34年厚生省告示第370号)を超えるが、本発明では結晶化度が20%以上70%以下の、オレフィン系エラストマーを用いさらに電子線架橋を行なっているために、エラストマー組織が強化されており、化学変化しにくいために溶出もしにくく、溶出量は基準値内に収まっている。また、保護フィルムをも用いる場合も板状X線遮蔽材と同様にあわせて保護フィルムにも電子線架橋を行なっており、後述する表3に溶出試験の結果を示すとおり、溶出量は基準値内に収まっている。なお、ヘプタンは油中に含まれるために、油を有する食品などではそれに対する溶出が、食品安全上重要な因子となる。
【0025】
溶出するヘプタン量については、少なくとも後で述べる結晶化度が前記範囲で、かつ一定の条件化で電子線架橋したものであれば問題ないが、X線遮蔽体材中のエラストマーの種類も影響を与える。本発明ではオレフィン系エラストマーを使用することにより、溶出量が低いカーテンを得ることができる。これに対して同じオレフィン系エラストマーでも結晶化度が低い場合は溶出量が高くなるために、たとえ後述する電子線架橋した場合でも使用は不適合となる。
【0026】
次に電子線照射(架橋)について述べる。本発明のカーテン材はすべて電子線照射したX線遮蔽体または、X線遮蔽体および保護フィルムからなる。電子線照射することにより、オレフィン系エラストマーおよび保護フィルムの樹脂は、分子同士の結びつきが強くなり、変形や化学変化などが極めて起きにくくなる。
【0027】
照射の適当な量はその材種や形状ごとに異なるが、走査型電子線照射装置((株)MHVコーポレーション。商品名EPS)を使用したが、80〜300kGyが適当である。また、他の設定としては、加速電圧800kV,電子流6mA、空気中である。80kGyよりも電子線量が少なければ、十分な架橋が起こらずに、溶出や強度の面で十分とはいえない。また、300kGyより多量の電子線を照射すると、材料の強度は向上するが柔軟性が低下するために適していない。
【0028】
熱湯消毒に対しても、本発明のカーテンは問題がない。
【0029】
本発明のカーテンは、板状X線遮蔽材または一体化した板状X線遮蔽材と保護フィルムに対して前記電子線照射によるオレフィン系エラストマーおよび保護フィルムの架橋強化処理を行なっている。そのために、熱湯による消毒を一定時間行っても、変形や保護フィルムとの剥離といった問題は生じない。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
実施例の資料として表1、2に示す資料を準備し、以下のA〜Fの6項目について試料1〜18および比較試料*21〜*31ついて評価を行なった。オレフィン系エラストマーとしては、代表的なエチレン・α‐オレフィン共重合体、スチレン・α‐オレフィン共重合体、プロピレン・α‐オレフィン共重合体の3種を用いた。また、有機物からなる保護フィルムには、ポリエチレン系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリプロピレン系フィルムの3種類を用いた。
【0031】
なお、表中の「エラストマー(質量%)」で示した値の残部がWの粉末の質量%となる。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表2の*印のついた試料は、本発明の範囲外の比較試料である。
【0035】
A 有害性(鉛)
B 耐ヘプタン性
C 柔軟性
D X線遮蔽能力(試料No.1の値を100とする相対値)
E 板状X線遮蔽材の破壊、
F 保護フィルムの折れ曲がり、
G 熱湯消毒試験

試料1〜*31の各材料にて短冊形に切断した形状を作製し、それを複数枚用意して、X線検査装置用カーテンとして梱包前の洋菓子を検査する用途に使用した。
【0036】
それぞれ、X線遮蔽体の厚さは2mm、保護フィルムを使用した試料では厚さ20μmのものを両面に貼り付けて用いた。
実験の詳細および結果を表3、4および以下に記す。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
表4の*印のついた試料は、本発明の範囲外の比較試料である。
【0040】
A 有害性(鉛)
検査後の洋菓子のカーテンに触れた部分を、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて元素分析を行なった。
【0041】
本発明の試料1〜18および比較試料24〜31は、鉛はEPMAの検出限界以下の値であった。
【0042】
これに対して比較試料*21は数100ppmの鉛が検出された。また、鉛粉または鉛毛をエラストマー中に分散した、その両広面に保護フィルムを貼り付けた比較試料*22および23でも20ppmを越える量の鉛が検出された。

B 耐ヘプタン性
検体である洋菓子には脂分を含む。そのため、油脂への成分溶出の基準である、食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)におけるヘプタン溶出基準への適合、不適合の試験を行なった。試験は基準に基づき、25℃のn−ヘプタンに1時間浸漬することにより、溶出量が150ppm未満または150ppm以上のしきい値で合否を判定した。
【0043】
その結果、本発明の範囲内である試料1〜18は30〜60ppm程度であり、すべて合格した。比較試料21〜23はすでに鉛で有害ということが前記実験にて判明しているために、本試験は行なっていない。
【0044】
比較試料*24は溶出が起こらなかった。試料*25〜*28は、表面の保護フィルムの被覆の有無にかかわらず電子線架橋を行なっておらず、溶出量は150ppmを超える結果となった。
【0045】
比較試料*29、*30は、本発明の範囲を下回るエラストマーの結晶化度を有すために、溶出量が多く、いずれも150ppmを超えた。比較試料*31は高い結晶化度と電子線架橋により溶出用は基準値内であった。

C 柔軟性
本発明の試料1〜18および比較試料*22、*23、*25〜*30は、洋菓子の検体に準じて柔軟に動き、1万個通過時もその特性に変化はなかった。また、X線遮蔽体および保護フィルムに折れ曲がり、亀裂や、「カタ」が付いてもおらず、使用以前と変化はなかった。
【0046】
比較試料*21の鉛材は、一般的な単体金属よりは柔軟性があるものの、同試験にて洋菓子の形状への追従性は悪く、カーテンの付け根から曲がる状態となり、繰り返しの動きにて付け根部分に疲労が起こり、亀裂が入った。また、比較試料*31は、使用したエラストマーの結晶化度が高すぎるために、柔軟性が低くなり、繰り返しにより亀裂が入った。また、保護フィルムは亀裂付近で剥離し、折れ曲がった
試料*14は、変形せずに使用できなかった。
【0047】
また、いずれの試料についても、食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)におけるヘプタン以外の溶出基準についてはいずれも満たしていた。

D X線遮蔽能力
X線遮蔽能力は、X線源とセンサの中間に飼料を挟み、その減少量を測定するという簡単な試験を行ない、試料1で得られた値を100として相対的に数値を表した。この実験では、試料の厚さをすべて同じ2mmとした。数値が高いほど遮蔽能力が高く、全く遮蔽されていないと0となる。
【0048】
本発明の試料1〜18は、そのタングステン粉末含有量に応じて変化はあるものの、いずれも十分な水準にあった。
【0049】
比較試料*21は本発明の資料1〜18よりも高い値を示した。*22の鉛を使った試料は、試料1などと比較して能力が高くはないが、使用はできる範囲であった。比較試料*23は、鉛毛ということに加え、エラストマーに分散しているために、試料1などと比較して低い値を示した。また、*比較試料14は最も高い値を示した。

E 板状X線遮蔽体の破壊
前記試験Cと同様に洋菓子が1万個通過した後に観察した。
【0050】
本発明の試料1〜18および比較試料*22、*23、*25〜*30は、板状X線遮蔽体には、切断や亀裂などは発生せず、使用前と変わらず十分な柔軟性を有していた。
【0051】
比較試料*21は、柔軟性が足りないために、前記実験Cで述べたように疲労により亀裂が入った。比較試料*31は、エラストマーの結晶化度が高すぎるために、断裂が起こった。

F 保護フィルムの折れ曲がり
保護フィルムを貼り付けた試料および比較試料について、前記試験Cと同様に洋菓子が1万個通過した後に観察した。比較試料*31を除く試料は、折り目などはついておらず、正常であった。比較試料*31は内部のX線遮蔽体の亀裂の発生に伴い、保護フィルムも折れ曲がった。

G 熱湯消毒試験
熱湯消毒試験は、沸騰した湯の入った容器に、短冊状の試料の片端を保持して縦長の状態で全体を浸け、1分間たったところで引き出し、吊り下げたまま常温まで冷却した。
【0052】
冷却後に試料の変形や保護フィルムとの剥離が発生しているかどうかを調査した。
【0053】
その結果、本発明の試料1〜18および比較試料の試料*21〜*23、*31については、変形(長辺の0.5%以上の変化)は見られず、また、保護フィルムとの剥離もなく良好であった。
【0054】
一方、電子線架橋処理を行なっていない比較試料*25〜*30では、長辺が3%以上伸びており、保護フィルムを設けたものは、保護フィルムとの剥離が見られた。また、保護フィルムを有していない比較試料*28は、全体が融けて固まった後が見られ、縦寸法が約10%増加し、ねじれた形状に変形していた。
【0055】
以上の実験の結果として、本発明のX線遮蔽体は、食品を扱うX線遮蔽カーテンとして非常に適しているといえる。

(実施例2)
実施例1で用いた試料は、X線遮蔽体の厚さは2mm、保護フィルムの厚さ20μmで行なった。
【0056】
X線遮蔽体と保護フィルムの厚さに柔軟性などは影響されるために、どの範囲がより適当かを調査した。
【0057】
試料は、遮蔽体がエチレン・α‐オレフィン共重合体5%と残部分散したタングステンの粉末からなり、電子線照射を行なった結晶化度30%のものを用いた。また、保護フィルムとしてはポリスチレン系フィルムを用いた。両者の接合は、接着剤にて行なった。
【0058】
両者の厚さの比を、
( 保護フィルムの厚さの計)/( (保護フィルムの厚さの計)+(遮蔽体の厚さ) )
として表示した。
【0059】
試料101〜113で、厚さやその比を変化させて違いを調べた。結果を表5に示す。
【0060】
全試料とも柔軟性を有したが、特に容易に折り重ね(180°の曲がり)が容易にできる試料は◎で表する試料101〜108、111、112、115であった。これに適するフィルム厚さ及び比はフィルムの厚さの合計が10〜200μm、比は0.047〜0.142の範囲であった。
この範囲にすることで、特に柔軟性の高いX線遮蔽カーテンを作ることができる。
【0061】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品検査用X線装置に用いるX線遮蔽用カーテンが、
結晶化度が20%以上70%以下であるオレフィン系エラストマー中にタングステン粉末が分散しており、かつ電子線照射による架橋組織を有した板状X線遮蔽体からなり、
かつ食品衛生法の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)におけるヘプタン溶出基準(150ppm以下)に適合することを特徴とする
食品検査用X線装置のX線遮蔽用カーテン。
【請求項2】
前記板状X線遮蔽体は、タングステン粉末を80〜98質量%と残部オレフィン系エラストマーからなる請求項1に記載のX線遮蔽用カーテン。
【請求項3】
板状X線遮蔽体の片広面または両広面にポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリプロピレン系のいずれかの有機物からなる保護フィルムが密着していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線遮蔽用カーテン。
【請求項4】
前記有機保護フィルムの厚さは1枚または2枚合計で10〜200μmであり、
保護フィルムの厚さをカーテン全厚さで割った比が0.047〜0.142の範囲である請求項3に記載のX線遮蔽用カーテン。

【公開番号】特開2010−237039(P2010−237039A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85420(P2009−85420)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)