説明

食細胞活性化剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、オゴノリ属の海藻から抽出される物質を有効成分とする食細胞活性化剤に関する。
【0002】
【従来の技術】人体にそなわった最も重要な生体防御機能である免疫能を高めることにより疾患の治療に役立てる免疫賦活剤が種々研究され提案されている。この免疫賦活剤は一般に毒性や副作用が少なく、安全性の点で優れるという利点がある反面、薬効の面で今1つ不満なものが多い。
【0003】一方、海藻類は古くより我国では体によい食品として食されてきたが、近年その中に含まれている種々の生理活性物質が注目され、抗ウイルス剤や抗腫瘍製剤の開発研究が行われるようになってきた。例えば、特開昭63−316732号公報には紅藻由来の抗ウイルス剤が記載され、又特開昭64−66126号公報には紅藻由来の抗腫瘍剤が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし海藻、特にオゴノリ属に属する海藻から免疫能を高める成分を単離し、それを有効成分にした食細胞活性化剤は未だ開発されていない。本発明は、そのオゴノリ属海藻由来の食細胞活性化剤を提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決するため、オゴノリ属の海藻の抽出法について種々検討し、そのうち、特に熱水抽出によって抽出し、精製した物質が食細胞の働きを高める作用を有し、それによって免疫能を活性化することを見出しこの知見にもとづいて本発明を完成した。すなわち本発明はオゴノリ属に属する海藻より水性溶媒で抽出される物質を有効成分とする食細胞活性化剤を提供するものである。以下本発明を詳細に説明する。
【0006】本発明で用いるオゴノリ属(Gracilaria)の海藻としては、オゴノリ(Gracilaria verrucosa)、ツルシラモ(G.chorda)、シラモ(G.compressa)、オオオゴノリ(G.gigas)、ミゾオゴノリ(G.incurvata)、カバノリ(G.textorii)等が挙げられ、特にオゴノリが好ましい。これらの海藻はそのままでも用いられるが、水洗し汚れを除き、乾燥した後、粉砕して乾燥粉末として用いるのが好ましい。
【0007】さらに、海藻粉末も最初から水性溶媒で抽出してもよいが、油分、少糖類、油溶性色素等を除く意味でこれらを溶解し得る有機溶媒でまず海藻を洗浄することが好ましい。洗浄用有機溶媒としては例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルカノール、アセトン等の低級アルカノン等を用いることができる。また、これらの溶媒と少量の水(80:20v/v 程度まで)との混合物であってもよい。メタノール、エタノール及びこれらと水との混合溶媒を室温以上に加温して用いるのが好ましい。
【0008】洗浄した該海藻粉末は水性溶媒を加えて加温下に抽出操作を行う。水性溶媒としては水が好ましいが、水に酸又は塩基等を添加した酸性水溶液又は塩基性水溶液として用いることもできる。
【0009】抽出温度は室温以上〜系の沸騰温度であるが、系の沸騰温度例えば沸騰水溶中で抽出されることが好ましい。抽出時間は通常5分以上であるが、30分〜20時間が好ましい。又、抽出操作は1回でもよいが、2回以上繰り返して行うことが好ましい。抽出液は遠心分離、濾過、デカント等により固形分を除去する。
【0010】以上によって得られた抽出液はそのままもしくは必要に応じ中和、脱塩、濃縮して免疫賦活剤として使用することもできるが、通常さらに一般の精製処理に付すのがよい。精製処理としては有機溶媒による沈澱、塩析、透析、限外濾過、逆浸透処理、ゲル濾過等が使用可能であり、これらは2種以上組み合わせて行ってもよい。
【0011】有機溶媒による沈澱は通常活性成分を溶解しないか少ししか溶解しない親水性有機溶媒を添加して有効成分を沈澱させることにより行う。かかる有機溶媒としては通常メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルカノール、アセトン等の低級アルカノン等を用いることができる。メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の低級アルカノールが好ましく、特にエタノールが好ましい。
【0012】塩析工程に用いる塩析剤は硫安、食塩、塩化カリ、炭酸バリウム、塩化セチルピリジニウム等が用いられる。透析は通常セロファン膜、コロジオン膜などの半透膜を用いて行う。ゲル濾過はデキストラン又はポリアクリルアミドゲルなどを充填したカラムを用いて行う。セファデックス、バイオゲルの名称で販売されている充填剤が通常用いられる。
【0013】限外濾過、逆浸透圧法はいずれも加圧下で膜を用いて分画する方法である。前者は0.5〜5kg/cm2 、後者は20〜35kg/cm2 で行うのが通常である。又、上記操作に加えて必要に応じイオン交換処理を行ってもよい。
【0014】以上の精製操作で得られる活性成分固体はそのまま食細胞活性化剤又はその有効成分として用いることができるが、通常さらに乾燥(噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、熱風乾燥等)する。上記のようにして得られたオゴノリ属に属する海藻の水性溶媒による抽出物はそれ自体で又は製薬上許容される種々の担体と混合した種々の剤型で食細胞活性化剤として用いることができる。
【0015】経口投与の場合には、それに適用される錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などは、通常それらの組成物中に製剤上一般に使用される結合例、包含剤、賦形剤、潤滑剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加物を含有する。又経口用液体製剤として用いる場合は、内用水剤、振盪合剤、懸濁液剤、乳剤、シロップ剤の形態であってもよく、又使用する前に再溶解させる乾燥生成物の形態であってもよい。さらに、このような液体製剤は通常用いられる添加剤、保存剤のいずれを含有していてもよい。
【0016】注射用の場合には、その組成物は通常安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤などの添加剤を含有し、通常単位投与量アンプル又は多投与量容器の形態で提供される。なお、上記組成物は水溶液、懸濁液、溶液、油性又は水性ビヒクル中の乳液のような形態であってもよく、一方活性成分は使用する前に適当なビヒクルたとえば発熱物質不含の滅菌した水で再溶解させる粉末であってもよい。
【0017】本発明の食細胞活性化剤は人間及び動物に経口的又は非経口的に投与される。経口的投与は舌下投与を包含する。非経口的投与は注射例えば皮下、筋肉、静脈注射、点滴などを含む。また、本発明の食細胞活性化剤は食品に添加し、健康食品的に摂取することもできる。
【0018】本発明の食細胞活性化剤の投与量は動物か人間により、又年齢、個人差、病状などに影響されるので、場合によっては下記範囲外の量を投与する場合も生ずるが、一般に人間を対象とする場合の経口投与量は活性成分固形物量として大人1日体重1kg当り0.5〜1000mg、好ましくは1〜300mgであり、1回から3回に分けて投与する。なお、本抽出物(乾燥物として)の急性毒性はいずれもLD50(ICR系マウス、経口投与)>3g/kgであった。
【0019】
【実施例】以下実施例で本発明を説明する。
実施例1オゴノリ塩蔵品を十分に水洗し、凍結乾燥後粉砕してオゴノリ乾燥粉末を得た。この粉末50gを85%(v/v)温メタノールで洗浄後、残渣に1リットルの蒸留水を加え沸騰水浴中で30分加温した。
【0020】遠心分離により抽出液を回収し、残渣は再度1リットルの蒸留水で加温抽出した。同様の処理によって回収した抽出液を合わせ、ヌッツエで吸引濾過し、固形分を完全に除去した。得られた濾液に4倍量の99.5%エタノールを加え良く攪拌した後1晩放置し沈澱を十分に析出させた。沈澱を回収し、蒸留水に膨潤溶解後、凍結乾燥して乾燥物5.4gを得た(これを試料Aとする)。
【0021】実施例2実施例1と同様にして調製したオゴノリ乾燥粉末50gに蒸留水1.5リットルを加え沸騰水浴中で30分加温抽出した。実施例1と同様にして抽出を繰り返し、抽出液を回収した。回収液をセロファン膜を用いて水に対して透析した後、凍結乾燥し乾燥物9.6gを得た(これを試料Bとする)。
【0022】実施例3オゴノリの乾燥品を十分量の水で洗浄し、再度減圧下60℃で乾燥後粉砕した。この粉末50gを実施例1と同様の操作で熱水抽出し、得られた抽出液にエタノールを加えて実施例1と同様にしてエタノール沈澱物を得た。この沈澱物を減圧下60℃で乾燥し、乾燥物9.1gを得た(これを試料Cとする)。
【0023】実施例4実施例1〜3で得た試料A〜Cを分析した結果を表1に示す。なお、分析項目中の全糖はフェノール硫酸法を用い、ガラクタンと仮定して換算した値であり、蛋白質はローリー法を用いて分析した。又硫酸エステルは試料を1規定塩酸で分解後、イオンクロマトグラフィーによって測定し、3,6−アンヒドロガラクトースはW.Yapheらの方法により分析した。
【0024】
【表1】


【0025】実施例5(オゴノリ抽出試料のin vivo食細胞系に対する作用)
カーボンクリアランス法を用いてマウスの食細胞系の活性化作用を検討した。マウス(C57BL/6N、雄性、6週齢)に、リン酸緩衝食塩水(PBS)に所定の濃度になるように溶解した試料A及びザイモザンA(市販の免疫賦活剤、サッカロミセス・セレビシエ由来細胞壁多糖成分(シグマ社製))をそれぞれ24時間毎に3回、体重g当り0.03ml腹腔内投与し、最終投与24時間後にカーボンクリアランスを測定した。
【0026】すなわち、マウス尾静脈に1%ゼラチンを加えPBSで6.25倍に希釈したカーボンインク(ペリカン フォント インディア)を体重g当り0.01ml投与し、投与5分後に10μl採血し、2mlの0.1%炭酸ナトリウムに溶解して、その660nmの吸光度を測定した。1群7匹とし、食細胞系の活性をコントロール群(PBS投与群)のOD値を100とした時の試験群のOD値として求めた。図1に結果を示す。
【0027】実施例6(貪食指数)
マウス(ICR、雌性、7週齢)を3群(1群6匹)に分け、試料Aを各群に125,250,375mg/kg投与した。5日後に実施例5と同様にしてカーボンインクを静注し、投与5及び12分後に採血して吸光度を測定し、次式により貪食指数Kを求めた。その結果を図2に示した。
【0028】
【数1】


【0029】実施例7(マクロファージの貪食能)
マウス(C57BL/6N、雌性、7週齢)に試料Aを腹腔内投与し、4日後の腹腔マクロファージを常法により採取した。採取したマクロファージを10%牛胎児血清含有RPMI1640培地(FCS−RPMI)に分散した後、5×105 コ/ウェルとなるよう96穴プレートに分注し、CO2 インキュベーター内で30分培養し、プレートの底面に細胞を付着させた後、蛍光ビーズを加えてさらに30分培養した。培養後浮遊しているビーズをハンクス液で洗浄しプレートに残存した蛍光を測定しマクロファージの貪食能とした。結果を図3に示した。
【0030】実施例8(in vitroマクロファージ活性化作用)
常法によりプロテオースペプトンにて誘導したマウスの腹腔細胞を採取し、2×106 コ/ウェルとなるよう96穴プレートに分注し、1時間培養してマクロファージを付着させた。浮遊細胞を除去した後、FCS−RPMI培地に溶解した試料を加え72時間培養後、培養上清を採取し、その残存グルコース濃度及び亜硝酸濃度を測定し、マクロファージ活性化の指標とした。対象としてマクロファージ活性化物質であるリポポリサッカライド(LPS)及びラミナリンを用いた。結果を表2に示した。
【0031】
【表2】


【0032】実施例9(カプセル剤)
試料A 200gトウモロコシデンプン 150gタルク 80gステアリン酸マグネシウム 30g上記成分を充分混和し、60メッシュの金網を通過させて粒度を調整した後、1000個のゼラチンカプセルに充填する。
【0033】実施例10(坐剤)
試料B 140gカカオ脂 1200gカカオ脂を50℃に加熱して溶解し、これに乾燥物Bを加えて均一にし、ついでコンテナー中に流し込み、冷却固化して坐剤1000個を製造する。
【0034】実施例11(注射剤)
試料C 400gポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 500g注射用蒸留水 全量10リットル上記成分を用い常法により注射剤を調製し、1アンプルに5mlずつ充填する。
【0035】
【発明の効果】本発明の食細胞活性化剤は、従来より食品として利用してきたオゴノリ属の海藻から得られるのであるから、極めて安全性の高いものであり、食細胞系を活性化させる作用によって免疫能を賦活せしめる効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】試料Aのカーボンクリアランス活性化作用を示す図。
【図2】試料Aの投与量と貪食指数の関係を示す図。
【図3】試料A投与によるマクロファージの蛍光ビーズ貪食能を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 オゴノリ属に属する海藻より水性溶媒で抽出される物質を有効成分とする食細胞活性化剤。
【請求項2】 オゴノリ属に属する海藻を熱水抽出した後濾過し、その濾液にアルコールを加えて析出せしめた析出物を精製、乾燥して得た物質を有効成分とする食細胞活性化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3412159号(P3412159)
【登録日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【発行日】平成15年6月3日(2003.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−329870
【出願日】平成3年11月19日(1991.11.19)
【公開番号】特開平5−139988
【公開日】平成5年6月8日(1993.6.8)
【審査請求日】平成10年11月18日(1998.11.18)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【出願人】(000191146)新日本化学工業株式会社 (2)
【参考文献】
【文献】特開 昭64−66126(JP,A)
【文献】吉沢康子,日本食品工業学会誌,日本,1994年,Vol.41,No.8,pp.557−560