説明

飲食品の温度履歴インジケータ

【課題】流通過程において、加熱による飲食品の温度履歴を簡便かつ的確に表示できる、飲食品の温度履歴インジケータを提供することを目的とする。
【解決手段】温度履歴インジケータは、飲食品の包装に添付され、その飲食品の保存温度の履歴を示すインジケータであって、染料として少なくともメチルエローと、有機酸および/または有機酸の金属塩と、導電性付与物質とを含有するインクで印刷された記号、図形または文字が変色することにより飲食品の温度履歴が表示される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流通過程において、加熱による飲食品の保存温度の履歴を示すインジケータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】医療用具を滅菌する手法の一つに、高圧蒸気処理による滅菌がある。かかる高圧蒸気処理では、滅菌、すなわち加熱が十分に行き渡ったかを調べるには、不可逆的に加熱変色する物質を医療用具の間に混在させ、滅菌の後、取り出せばその変色により確認できる。
【0003】例えば特開平4−1280号公報、特開平8−3494号公報には、このような高圧蒸気処理の加熱度合いを確認するのに適したインク組成物が開示されている。このインク組成物は、加熱により変色する染料を含んでいる。インク組成物で印刷したものを医療用具とともに高圧蒸気滅菌すると、印刷物が熱によって変色し、滅菌が完了したことを視覚的に確認できる。
【0004】一方、飲食品は、流通過程で過誤により高温条件に放置されたり、直射日光に曝されたりすると、熱により腐敗や変質が起こり食べられなくなる。また、飲料缶やファーストフード等のように流通過程で加熱保存される飲食品は、必要以上に加熱されると品質の低下を招き、飲食できなくなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】そのため、これらの飲食品の温度の履歴の確認が重要である。このような温度の履歴の確認に用いられるインジケータが待ち望まれていた。
【0006】本発明は前記の課題を解決するためなされたもので、流通過程において、加熱による飲食品の温度の履歴を、簡便かつ的確に表示できる飲食品の温度履歴インジケータを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するためになされた本発明の飲食品の温度履歴インジケータは、以下のとおりである。
【0008】本発明を適用するインジケータは、飲食品の包装に添付され、その飲食品の保存温度の履歴を示すインジケータであって、染料として少なくともメチルエロー(C6H5-N=N-C6H4-N(CH3)2 )と、有機酸および/または有機酸の金属塩と、導電性付与物質とを含有するインクで印刷された記号、図形または文字が変色することにより飲食品の温度履歴を表示するものである。
【0009】本発明のインジケータは、記号、図形または文字がインクジェットプリンタで印刷されていることが好ましい。
【0010】有機酸は、サリチル酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも一種からなり、その金属塩は亜鉛塩、ナトリウム塩、またはアルミニウム塩であることが好ましい。
【0011】導電性付与物質は、インクジェットプリンタでの印刷を容易にするために必要な帯電性をインクに付与し、インクの粒子化および帯電偏向を良好にするものである。例えば、チオシアン酸アンモニウム、チオシアン酸ナトリウム、硝酸リチウム、ヨウ化カリウムが挙げられる。
【0012】なお、印字の色や加熱後の発色を保つために、耐熱性が良好で湿熱により変色しない油溶性染料であるC.I.42595を添加すると一層よい。このような染料を添加することにより、変色後も印字内容が残るため、製造年月日などのロット管理のために使用することができる。
【0013】このインジケータを高温条件に曝すと、インク中のメチルエローが有機酸の作用により変色する。変色は、加熱時間と温度に依存して進行するので、温度履歴に応じて異なった色相が表示される。このインジケータは40〜80℃の温域での加熱でも、変色色差が大きく、目認が容易である。
【0014】加熱前後にインジケータが示す変色色差を、色彩色差計で測定すると、さらに正確に温度履歴が表示される。
【0015】飲食品の管理すべき温度履歴に応じて、インクの組成を調整し、変色速度や変色完了に要する時間の調節が可能である。
【0016】印刷された文字等が示した所定の色相は、飲食物が所定の加熱時間と温度が経過したことを示しているので、飲食品の過剰加熱による品質低下の確認に利用できる。このとき、飲食品ごとに品質程度を示す標準色を添付しておくと好ましい。飲食品メーカーの品質管理者や販売店の店員等は、印刷された文字などが所定の色相を示したものは品質が低下していると判断できる。
【0017】インジケータは、インクを飲食品の包装に直接印刷したものでもよく、紙や樹脂シートに印刷し飲食品等に貼付したものでもよい。
【0018】飲食品の包装には、金属缶、紙容器、プラスチック容器、ガラス容器を用いることが好ましい。
【0019】
【実施例】以下、本発明のインジケータを詳細に説明する。
【0020】インジケータとして、以下のようにして飲料缶に前記インクを印刷したものを試作し、温度履歴を表示する実験をした。
【0021】インクは以下のようにして試作した。表1に示す実施例1の配合組成に従い、溶剤に染料、有機酸、導電性付与物質を加えて十分に撹拌した後、樹脂を加えて約2時間撹拌、混合した。混合した組成物を 0.5μmのガラス繊維濾紙を用いて吸引濾過し、不溶物を除去してインクを調製した。インクジェットプリンタを用いて、このインクを先の飲料缶の側面にマークを印字し、試料缶を試作した。
【0022】
【表1】


【0023】以下に、試作した試料缶により、温度履歴を表示する実験の例を示す。
【0024】試料缶を室温で保管している間、マークは変色しなかった。試料缶を40、50、60、70℃の恒温槽に入れ、マークの変色が完了するまでの日数を測定した。表2に加熱温度と変色完了日数、および変色前と変色完了後の色相を示す。実施例1では、マークは変色前は赤であったが、変色が完了すると黄色を示し、その変化は容易に目認できた。また、表2に示すとおり、温度に依存して変色完了日数が短くなった。
【0025】表1の実施例2〜6のインク組成にしたこと以外は、実施例1と同様にしてインクを調製し試料缶を試作した。実施例1と同様に温度履歴を表示する実験を行い、結果を表2に示す。実施例1と同様に良好なインジケータであることが示された。
【0026】なお、染料は、メチルエロー(オリエント化学工業社製、オイルエローGG)、C.I.42595(保土谷化学社製、Aizen Blue -4)を使用した。樹脂は、ポリアミド樹脂(三洋化成工業(株)製)、ロジン変性マレイン酸樹脂、(日立化成ポリマー(株)製)、キシレン樹脂(三菱ガス化学(株)製)、フェノール樹脂(日立化成工業(株)製)、ブチラール樹脂(積水化学工業(株)製)を使用した。
【0027】
【表2】


【0028】次に、実施例2、3、4のインクを用いて試作した試料缶を60℃で加熱し、時間経過前後のマークの変色色差を、色彩色差計で測定した。図1は、経過日数を横軸に、経過前後の色差(ΔE)を縦軸に示した図である。色差は、色彩色差計CR−100(ミノルタカメラ(株))により測定したものである。
【0029】図1に示すとおり所定の温度で保存すると加熱時間の経過と共に徐々に色差ΔEは増加することが分かった。このように色差ΔEによっても温度履歴を正確に表示することができた。
【0030】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明のインジケータは、流通過程の飲食品の温度履歴を簡便かつ正確に表示することができる。しかも色差が大きいので、目認が容易である。したがって、食品の加熱保存による変質の確認、流通過程における食品の品質の低下の確認ができる。
【0031】飲食品メーカーの品質管理者や販売店の店員等は、自動販売機の飲料缶の温度履歴の確認や、レトルト食品や缶詰等の品質の確認ができるので、消費者に高品質の飲食品を提供することができる。また消費者も品質が確認できるため安心して飲食品を食することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インジケータの加熱時間と、色差の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 飲食品の包装に添付され、その飲食品の保存温度の履歴を示すインジケータであって、染料として少なくともメチルエローと、有機酸および/または有機酸の金属塩と、導電性付与物質とを含有するインクで印刷された記号、図形または文字が変色することにより飲食品の温度履歴が表示されることを特徴とするインジケータ。
【請求項2】 前記記号、図形または文字が、インクジェットプリンタで印刷されていることを特徴とする請求項1に記載のインジケータ。
【請求項3】 前記有機酸は、サリチル酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも一種からなり、前記金属塩は亜鉛塩、ナトリウム塩、またはアルミニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載のインジケータ。

【図1】
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【公開番号】特開平11−296086
【公開日】平成11年(1999)10月29日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−106085
【出願日】平成10年(1998)4月16日
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)