説明

飽和主鎖および熱可逆性のウレタン架橋点をもつリサイクル可能な架橋ポリマー

本発明は、以下の必須成分a)〜d):a)飽和分子主鎖をもつ熱可塑性ポリマー成分;b)ポリマー鎖に結合するかまたはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在する、イソシアネート基を含む成分;c)ポリマー鎖に結合するかまたはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在する、ヒドロキシル基を含む成分;d)ウレタン結合の可逆的な生成および熱解離を促進する触媒パッケージを含む、熱可逆性のウレタン架橋をもつ熱可塑性架橋ポリマー化合物であって、成分b)およびc)の少なくとも一方がポリマー鎖に結合し、化合物中に存在する添加剤の少なくとも1つが、1より多い機能的に独立したプロセスにおいて役割を果たす多機能性であることを特徴とする化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移温度(アモルファスポリマーの場合)を超えるおよび/または結晶相の融点(半結晶性ポリマーの場合)を超える高い耐熱性のある飽和主鎖ポリマーであって、従来の溶融加工法によって高温でリサイクルすることができ、ガラス領域または融点領域を超えるがポリマーの熱分解の開始を下回る温度で解離する架橋サイトとしての熱可逆性のウレタン結合によって熱安定性がもたらされるポリマーに関する。
【発明の背景】
【0002】
普通、熱可塑性材料の耐熱性は、その軟化によって制限され、軟化(アモルファスポリマーの場合)は巨大分子またはその大きなフラグメントの可動性が急激に増すガラス転移温度(Tg)を超えて起こる。その温度未満では材料は硬いガラスとしてふるまい、ガラス転移温度を超えると材料は徐々に軟らかくなり(粘弾性の「ゴム」材料になる)、さらに高温では粘性のある溶液になる。「ゴムプラトー」の幅は平均的な分子の大きさに依存する。しかし、ガラス状ポリマーの有用性はその硬さおよび脆さによって制限される。他の材料、たとえば飽和ポリオレフィン(ポリエチレン、アイソタクティックおよびシンジオタクティックポリプロピレン、ポリイソブチレンなど)は、2つの特徴的な転移を示す。すなわち、ガラス転移点(Tg)と結晶相の融点(Tm)である(後者は常に前者よりも高温であり、通常はTg=0.6〜0.8Tmである)。これらの分子は、十分なシンメトリーおよび柔軟性を示し微小な結晶を成長させるが、モビリティの制限により完全な結晶状態までは成長し得ない。これらの材料は、2つの転移温度の間で興味深い「革のような」構造を示す。この構造では、小さな結晶粒子が、高いモビリティをもつあまり組織化されていない(「アモルファスの」)ポリマー鎖によってつながれている。これらの半結晶性材料は、微結晶が「物理的な架橋」として作用するので、純粋なアモルファスポリマーに対して優れた機械的性質を示し、その変形は制限される(ただし、応力が、たとえば「応力白化」の場合のように微結晶を破壊するほど高くないものとする)。しかし、温度が結晶相の融点(微結晶サイズの分布のために幅がある)に近づくと、モビリティが増加し、機械的性質(弾性率および強度)は急激に低下する(通常、変化がかなり緩やかであるガラス−ゴム転移と比べるとなおさら急激である)。
【0003】
しかし、半結晶性材料からなる製品がその時間の大半をガラス転移温度と溶融温度との間の温度で過ごすが、ときおり熱的過負荷が起こりうる用途があり、これらの場合には材料は溶融および流動してはならず、ある程度の機械抵抗を示すことが要求される。2つの典型的な例は、ケーブル絶縁材料(過負荷条件下)と床暖房に使用される送水管である。この問題は、材料の化学(または放射線)架橋によって部分的には解決することができる(たとえば K. Kircher: Chemical Reactions in Plastics Processing, Hanser Publishers, Munich, 1987 を参照のこと)。架橋は結晶化度にある程度影響を与えるかもしれないが、それをなくするものではない(たとえば I. Chodak: Properties of Crosslinked Polyolefin-Based Materials, Prog. Polym. Sci., 20, 1165-1199 (1995) を参照のこと)。架橋した半結晶性材料は、結晶相の融点と網目構造の熱分解温度との間で柔らかいゴムのような挙動を示す。この温度範囲での機械的性質は、融点とガラス転移温度との間で示される性質に対してかなり劣っているが、材料の流動を防ぎ、さらにある程度の強度を残すには十分である。しかし、架橋サイトの存在(網目構造の形成)は、このような材料からなる製品のリサイクルの可能性を著しく制限する。
【0004】
架橋したポリマーは、破砕/粉砕(時には極低温で)によって、または高温での熱機械的分解(ランダム分断)によってのみ再加工することができる(たとえば特開平11−189670号公報を参照のこと)。前者の方法は、価格が比較的高価な限定的な価値の有機フィラーを生じさせ、後者は強く分岐した分子と広範な分子量分布をもつ融液を生じさせる。これは単独では再利用することができず、バージンの熱可塑性樹脂との組み合わせのみである(たとえば特開平10−230520号公報を参照のこと)。高温での熱機械分解(たとえば特開平11−100448号公報を参照のこと)は、大きなエネルギー消費(熱分解およびせん断分解)を伴い、再加工材料中での高い欠陥濃度をもたらす。したがって、結晶相の融点以上で向上した性質を示すが、通常の溶融技術によって再加工することができる材料を開発することが望ましい。
【技術の現状】
【0005】
永久的な架橋の欠点をなくす1つの明白な方法は、(熱的に)可逆性の架橋を形成することである。この方法の比較的初期のレビュー(R. W. Rees: Cross-linking, reversible, in: Encyclopaedia of Polymer Science and Engineering, ed. H. F. Mark, N. M. Bikales, C. G. Overberger, G. Menges, Wiley Interscience, New York (1986), pp. 395-416)は、以下の可能性を挙げている。
【0006】
−アイオノマー生成
−アミン塩
−可逆ディールスアルダー反応(シクロペンタジエン、無水マレイン酸で開環する)
−ニトロソ基の二量化
−可逆的なエステル化
−無水物架橋
−錯体生成
−ジスルフィド架橋。
【0007】
全てのこれらの架橋サイトは、熱の影響下で、または、ある場合には、ある種の化学物質の存在下で、多かれ少なかれ可逆的な解離を受ける(たとえばUS6,090,862を参照のこと)。
【0008】
環状無水物とポリオールとの間での可逆的なエステル化反応に基づくいくつかの特許出願が提出されている(たとえばスチレン系樹脂に関する特開平11−181200号公報またはUS3678016、ポリオレフィン系樹脂に関する特開平11−106578号公報または特開平07−094029号公報)。
【0009】
特開平10−338711号公報は、酸と結合したヒンダードアミノ基含有化合物を使用する熱可逆性の架橋系を記載している。この特許の全ての例はアクリル樹脂からなる。
【0010】
US5654368は、ポリマーの物理的性質を損なわずに繰り返し液化および再成形することができる、エラストマー状またはゴム状の、リサイクル可能な架橋ポリマーを提供する。このポリマーは、溶融可能な架橋されたオリゴマー単位と、それを介してオリゴマー単位が連結してポリマーの主鎖を構成する結合単位とを含む。可逆性の架橋サイトはジスルフィド結合に基づき、酸化還元反応中に切断および再生成しうる。この特許において言及されている他の架橋サイトは、エステル結合、フラン無水マレイン酸ディールスアルダーアダクト、Si−Si結合、光二量化クマリンおよびアントラセン環単位を含む。
【0011】
US4882399は、熱可逆性の架橋をもつエポキシ系を記載している。これはジスルフィド架橋を含み、これは適当な溶剤中で開裂し、温和な酸化条件下で再生成することができる。
【0012】
US3890253は、ポリマーおよびコポリマーに付与した可逆性の架橋、特に繰り返しジシクロペンタジエン結合によるビニル、オレフィン、および酸化オレフィンタイプのものを記載している。二官能性のジシクロペンタジエン化合物は、重合して直接的にホモポリマーにするか、またはコモノマーと重合してコポリマーを生成することができる。代わりに、シクロペンタジエン置換基をもつポリマーを調製し、シクロペンタジエン基の二量化をin situで行い、架橋を生じさせることができる。ジシクロペンタジエン架橋は十分な温度まで加熱すると開裂するので、このポリマーおよびコポリマーは、それらの通常の架橋網目構造にもかかわらず、熱可塑性を示す。
【0013】
DE10046024は、(なかでも)以下の結合に基づく熱可逆性の架橋点をもつ広範囲のエラストマーを記載している。
【0014】
−酸無水物基とアルコール基
−カルボキシル基とビニルエーテル基
−アルキルハロゲン化物基と3級アミン基
−イソシアネート基とフェノール基
−アズラクトン基とフェノール基
−二量化ニトロソ基
−N−含有複素環の間の相互作用。
【0015】
この特許は、エラストマーをTgが25℃未満(好ましくは10℃未満)のポリマーとして定義している。それは、ゴム弾性をもち、適切な化学物質によって加硫してゴム状網目構造を形成できるあらゆる天然または合成ポリマーでありうる。それらは、天然ゴム、熱可塑性エラストマーまたはさらに飽和ポリオレフィンたとえばポリイソブチレン、エチレン−プロピレン−ジエンゴムまたはさらにクロロスルホン化ポリエチレンを含んでいてもよい。これらのポリマーの大部分は残留二重結合(不飽和)を含み、硫黄による標準的な加硫を可能にする。この特許によれば、架橋サイトを形成する官能基はともにポリマー成分上に位置しうるか、または一方がポリマーに結合することができ他方が架橋剤として作用する低分子化合物でありうる。この特許は、ポリマー鎖に官能基を結合させる方法を制限しておらず、共重合、グラフトなどによって行うことができる。もっとも、例においては、残留二重結合に対する直接付加反応(たとえば無水マレイン酸の場合)またはメルカプト官能化モノマー(たとえばメルカプトフェノール)を経由した付加反応が言及されている。溶液系および「ドライ」法たとえば混練の両方によって反応を行うことができるが、大部分の例は溶液系の方法について述べている。イソシアネート+フェノール結合の例では、たとえばイソプレンゴムを最初にキシレン溶液中でメルカプトフェノールと反応させ、次に、それを沈殿、乾燥させ、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とともに混練機中で混合する。架橋形成官能基の含量は0.1モル%未満が好ましい。典型的には、熱可逆性の架橋をもつゴムは150〜170℃で流動し始め、このことは溶融リサイクルを可能にする。
【0016】
イソシアネートとアルコールの反応によって生成されるウレタン結合の熱可逆性もまたよく知られており、ポリウレタンのリサイクルにおいて、および特に適切に選択された触媒の存在下で熱の影響下でのみ反応するブロックイソシアネートの開発において利用される(Polyurethane Handbook, Ed.: G. Oertel, Hanser Publishers, Munich 1985, pp., 8, 10, 15, 78, 84, 522, 533, 540)。様々な種類のウレタン結合に関する典型的な「復帰(reversion)」温度は以下のとおりである(上記に引用した参考文献の84頁を参照のこと)。
【0017】
n−アルキル−NH−COO−n−アルキル 〜250℃
アリール−NH−COO−n−アルキル 〜200℃
n−アルキル−NH−COO−アリール 〜180℃
アリール−NH−COO−アリール 〜120℃
フェノールブロックイソシアネートは広く使用されてきたが、後にデブロッキング反応中に毒性フェノール化合物の生成を防止するより優れたブロッキング剤(たとえばオキシム、カプロラクタム、マレイン酸エステル、アセチルアセトン誘導体または他のCH酸)が開発され、または、デブロッキングするときに揮発性の反応生成物を発生しない高分子フェノール(たとえばクマロン−インデン樹脂など)が使用された。ブロックイソシアネートのデブロッキング反応は大量のアルコール基の存在下で行われ、エステル交換反応および/またはウレタン生成を触媒する一般に知られる触媒によって触媒される。これらは3級アミン、ルイス酸(特に、スズ化合物、たとえばカルボン酸のスズ(II)塩、カルボン酸のジアルキルスズ塩、中鎖および長鎖脂肪酸のBi,Pb,Zn,Zr塩、種々の金属アセチルアセトネート)を含む(たとえば Polyurethane Handbook, Ed.: G. Oertel, Hanser Publishers, Munich 1985 および K. Kircher: Chemical Reactions in Plastics Processing, Hanser Publishers, Munich, 1987 を参照のこと)。
【0018】
WO0192366は、イソシアネートとベンジルOH基の間で生成したウレタン基に基づく熱可逆性の結合をもつポリウレタン系を記載している。
【0019】
すなわち、上記の要素から、熱可逆性のウレタン結合を導入することによってポリオレフィンおよび他の飽和分子主鎖の熱可塑性ポリマーを開発できるようである。上記に引用したおおよその分解温度を考慮すると、マトリックスがポリエチレン(融点110〜135℃)である場合には溶融法によって処理される可逆性の架橋には芳香族イソシアネートとフェノールの組み合わせが最適であり、ポリプロピレン系マトリックス(150℃を超える融点)には脂肪族イソシアネートとフェノールの組み合わせが最適であるように見える。もっとも、実際の復帰温度は、他の要因たとえば媒質の極性、触媒の存在および種類などに依存する。これらのポリマーは、ガラス転移温度以上または結晶相の融点以上で高い耐熱性を示すが、ウレタン結合の熱解離温度より高いが主鎖を構成する結合の熱分解より低い温度で、通常の溶融法によって再加工することができる。それにもかかわらず、解決しなければならず、かつこれまで公開された特許において記載されていないいくつかの問題がある。
【0020】
これらの問題は以下のとおりである。
−フェノール基とイソシアネート基の可逆反応は、希釈した非極性環境中で行わなければならない。
【0021】
−中程度のまたは高い極性の可動性試薬(フェノール基および/またはイソシアネート基をもつ化合物)を非極性の高粘性媒質中に分散させるべきであり(溶融状態で。溶液法はその複雑さ、高い価格および環境上の問題のために避けるべきであるため)、反応中の相分離を避けるべきである。
【0022】
−フェノール基および/またはイソシアネート基をラジカルグラフトによって飽和主鎖に結合させ(典型的なエラストマーの場合のようにチオール付加を可能にする残留二重結合がない様に)、熱的に不可逆なC−C架橋サイトを形成しないようにすべきである。これは、過酸化物(または他のラジカル源)の思慮深い選択およびグラフトされる化合物の濃度および反応性の適切な選択を必要とする。
【0023】
−非極性マトリックスと親和性があり、揮発性ではなく、熱解離後にウレタン結合の繰り返し再生成を可能にする適切な触媒パッケージを見出すべきである。
【0024】
−必要な添加成分の数を減少させるために、触媒パッケージおよびフェノール成分をできる限り選択すべきである(これは多機能添加剤を使用することによって達成することができる)。
【0025】
これらの重要な問題を解決し、上記の性質をもつ組成物およびその製造のための方法を提供することが我々の目的である。主要な用途の応用範囲は、連続加硫(CV)法によって製造されるケーブル絶縁体および/または防食層または油入り(OC)ケーブルにおけるケーブル絶縁体である。
【発明の詳細な説明】
【0026】
1つの態様において、本発明は、
a)飽和分子主鎖をもつ熱可塑性ポリマー成分(ホモポリマー、コポリマーまたはポリマー混合物)
b)ポリマー鎖に結合するか(共重合、グラフトによって、またはポリマーアナログ反応によって)またはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在するイソシアネート基
c)ポリマー鎖に結合するか(共重合、グラフトによって、またはポリマーアナログ反応によって)またはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在するフェノール性(オプションで脂肪族、または脂環式)ヒドロキシル基
d)ウレタン結合の可逆的な生成および熱解離を促進する触媒パッケージ
e)オプションで、化合物中における極性活性成分および/または触媒の均一な分散を促進する加工助剤を含む、熱可逆性のウレタン結合をもつ熱可塑性ポリマー化合物であって、
イソシアネート基が主鎖に結合している場合、ヒドロキシル成分は少なくとも2の平均官能基数を示し;ヒドロキシル成分が主鎖に結合している場合、イソシアネート成分は少なくとも2の平均官能基数を示すか、または両成分が主鎖に結合している場合、官能化されたポリマー分子自体が少なくとも2の平均官能基数を示し、イソシアネート基とヒドロキシル基との反応によって生成したウレタン結合は、熱可塑性ポリマーのガラス転移温度または融点と熱可塑性ポリマーの熱分解温度との間の温度で可逆的な熱解離を受ける熱可逆性のウレタン結合をもつ熱可塑性ポリマー化合物を提供する。
【0027】
本発明において使用されるポリマーマトリックスは、飽和主鎖ビニルポリマーおよびコポリマー(たとえばエチレン−ビニルアセテート/EVA/、エチレン−アクリル酸/EAA/、エチレン−エチルアクリレート/EEA/など)であり、好ましくはポリオレフィンである。ポリオレフィンは、全ての種類のポリエチレン(高密度、低密度、線状、メタロセンなど)、ポリプロピレンおよびそれらのコポリマー(ランダムまたはブロック)およびブレンド(動的に加硫された熱可塑性エラストマーを含む)を含む。我々の主要な関心は、低密度ポリエチレン(LDPE)の耐熱性を向上することである。これは、中圧および高圧ケーブル絶縁体に広く使用される。この場合、連続使用温度は90℃であるが、ときおり温度は110℃以上に上昇することがある(短絡状態)。これまで、この耐熱性はXLPE(架橋ポリエチレン)またはEPDM(エチレン−プロピレン−ジエンモノマーコポリマー)絶縁体によってのみ達成することができたが、いずれも従来法によってリサイクルすることができない。LDPEの代わりに、より高融点のHDPE(高密度ポリエチレン)またはPP(ポリプロピレン)またはPE−PPコポリマーを使用することは、これらの代替材料の低い機械的(剛性)または電気的(破壊)特性によって妨げられてきた。もっとも、最近の特許(たとえばWO0041187を参照のこと)は、このルートの実行可能性を示している。しかし、熱可逆性の架橋点をもつLDPEグレードは、ケーブル絶縁体においてだけでなく、様々な他の領域(たとえば、耐熱性水管、パッケージング、熱収縮性材料など)においても使用することができる。
【0028】
形式的には、可逆性のウレタン結合を調製する少なくとも3つの異なる方法がある:
a)ヒドロキシルおよびイソシアネート成分の両方を、ポリマーの主鎖に結合する。
【化1】

【0029】
b)イソシアネート成分をポリマーに結合し、可動性(揮発性ではない)の形態のポリオール成分を加える。
【化2】

【0030】
c)ヒドロキシル成分をポリマーにカップリングし、可動性(揮発性ではない)の形態のポリイソシアネートを加える。
【化3】

【0031】
原理的には、ヒドロキシル基および/またはイソシアネート基は、共重合によって主鎖に組み込むことができる(この可能性は本発明から排除されない)が、主鎖に対して反応性基をカップリングする好ましい方法はラジカル誘導グラフトによるものであり、これは別個の合成工程を必要とせず、既存の商業的に入手可能なポリマーグレードの使用を可能にする(主鎖がポリプロピレンまたはエチレン−プロピレンコポリマーである場合には、過酸化物の存在下で起こるかもしれない過度の主鎖の切断を避けるように気をつけなければならない)。
【0032】
イソシアネート成分を、二重結合を介して主鎖にグラフトしてもよい。これは、少なくとも1つのイソシアネート基および少なくとも1つのオレフィン二重結合を含む任意のモノマー、たとえばイソシアナト−エチル−アクリレートもしくは−メタクリレートまたはイソシアナト−プロピル−アクリレートもしくはメタクリレート、によって行うことができる。イソシアネート基を主鎖にグラフトした場合、可動性のヒドロキシル成分は任意の低揮発性のポリフェノール、たとえばジヒドロキシおよびトリヒドロキシベンゼン、またはフェノール基を含む任意のオリゴマーまたはポリマー(ノボラック樹脂、他のフェノールホルムアルデヒド樹脂、クマロン−インデン樹脂など)でよい。ポリフェノールは、オレフィン樹脂中において一般的に使用される多価フェノール酸化防止剤または熱安定剤(たとえばIrganox 1010,Santonox Rなど)でもよい。しかし、この場合、立体障害があまり強くないフェノールを選択すべきであり、ウレタン結合の生成を個別にチェックすべきである。フェノール基の立体障害は、生成したウレタン結合の熱解離温度にも影響を与えることがあり、この効果を利用してウレタン結合の分解温度を「微調整」することができる。酸化防止剤を使用してウレタン結合を生成する場合、安定剤パッケージを設計するときに酸化防止剤群の低い濃度を考慮すべきである。この手法は、多機能添加剤を使用することによって必要な添加成分の数を減少させる。
【0033】
また、脂肪族アルコール基を熱可塑性ポリマーの主鎖に結合させ、それをジイソシアネートおよびポリフェノールを含む2以上の官能基数を有するプレポリマーと反応させることもできる。この場合、脂肪族アルコール−イソシアネート反応で生成するウレタン結合は、イソシアネート−フェノール反応で生成するものよりも高温で解離するだろう。この最後の系の例は、ヒドロキシ−エチルメタクリレートを熱可塑性ポリマーの主鎖にグラフトし、それをMDI−フロログルシノールプレポリマーと反応させるものである。
【0034】
(フェノール性)ヒドロキシル成分を主鎖にグラフトする場合、オレフィン側基を含む任意のフェノール、たとえばアリル−フェノール、ヒドロキシ−スチレン、ビニル−ヒドロキシナフタレンなどを使用してもよい。また、たとえばチオビスフェノール類に属するある種のフェノール酸化防止剤(たとえばSantonox R)は、ラジカル開始剤の存在下でポリエチレン主鎖に容易にグラフトできることがよく知られている(おそらく切れた硫黄結合を介して)。Santonox Rはケーブル絶縁体の酸化防止剤として広く使用されているので、グラフト可能なフェノール成分(多機能添加剤)としてのその使用は、やはり必要な添加成分の数を減少させる。しかし、酸化防止剤活性における活性フェノール成分の減少(ウレタン生成による)を考慮すべきである。いったんフェノール基を主鎖に結合すると、ポリウレタン工業で一般的に使用されている任意のジイソシアネートまたはポリイソシアネートのモノマーまたはプレポリマーたとえばトルイレン−ジイソシアネート(TDI)、メチレンジフェニル−ジイソシアネート(MDI)、およびこれらの二量体、三量体、プレポリマーなどによって架橋を実現することができる(より完全なリストについては、 Polyurethane Handbook, Ed.: G. Oertel, Hanser Publishers, Munich 1985 および K. Kircher: Chemical Reactions in Plastics Processing, Hanser Publishers, Munich, 1987 を参照のこと)。好ましくは、低蒸気圧の芳香族ジイソシアネートを使用する。
【0035】
もちろん、上述した不飽和イソシアネートまたはフェノール含有分子を使用して、フェノールおよびイソシアネート基の両方を主鎖上にグラフトしてもよい。
【0036】
本発明の適切な反応パートナーの実現のためには、(ウレタン)触媒、(グラフト、ウレタン生成および復帰のための)反応条件および加工技術を見出さなければならない。
【0037】
ウレタン触媒パッケージは、有効で、熱安定性があり、不揮発性で、ポリマーと親和性がなければならず、かつポリマーの最終的な性質(たとえばケーブル絶縁体の絶縁性)に影響を与えてはならない。ポリウレタン化学において使用されるだけでなく、ポリオレフィンのような熱可塑性ポリマーにおいても周知で定評のある触媒を使用することが賢明である。一般的に使用されるウレタン触媒は、3級アミン、ルイス酸(特にスズ化合物、たとえばカルボン酸のスズ(II)塩、カルボン酸のジアルキルスズ塩、中鎖および長鎖脂肪酸のBi,Pb,Zn,Zr塩、種々の金属アセチル−アセトネート)を含む(Polyurethane Handbook, Ed.: G. Oertel, Hanser Publishers, Munich 1985 および K. Kircher: Chemical Reactions in Plastics Processing, Hanser Publishers, Munich, 1987 を参照のこと)。通常は金属塩と3級アミンとの組み合わせを使用する。1つの興味ある可能性(本発明の一部である)は、アミン触媒としてヒンダードアミン安定剤(一般にHALS安定剤として知られている)を使用することである。これらは高圧ケーブル絶縁体において酸化防止剤および/または電圧安定剤(ラジカル捕捉剤)の役割を果たすことができ、したがって多機能添加剤を使用することによって添加剤の数を減少させることができるからである。長鎖脂肪酸の金属塩を助触媒として使用することが有利である。これらの化合物はポリオレフィン中における潤滑剤(やはり多機能添加剤)として広く使用されているからである。特に、触媒−助触媒系としてHALS(ヒンダードアミン系光安定剤)−Znステアレートを使用することが有利である。
【0038】
グラフト条件は主鎖のラジカル(R・)濃度が再結合(R−R)を避けるのに十分に低くなるように選択すべきであり、イソシアネート基および/またはヒドロキシル基含有分子と主鎖ラジカルとの反応性を十分に高くすべきである。このことは、ラジカル発生種(通常は過酸化物、アゾ−ビス−イソブチロ−ニトリル、AIBNまたは他のラジカル開始剤)および反応温度の適切な選択によって達成することができる。ラジカル発生種と、グラフトされるヒドロキシル成分またはポリオレフィンマトリックス中に存在する酸化防止剤および熱安定剤との間の相互作用を考慮して、安定剤の劣化を避けるべきである。
【0039】
他の態様においては、本発明は、上に記載した化合物を調製する方法であって、以下の工程:
a)グラフトされるモノマー(イソシアネート成分またはヒドロキシル成分でありうる)およびラジカル源(たとえば過酸化物)および(オプションの)加工助剤を含む第1の添加剤パッケージを、加工助剤を初めにラジカル源と、次に他の成分と混合することによって調製する工程と、
b)他方のウレタン生成成分(ヒドロキシル成分が第1のパッケージ中に存在する場合にはイソシアネート成分、イソシアネート成分が第1のパッケージ中に存在する場合にはヒドロキシル成分)、加工助剤、ウレタン触媒、およびヒドロキシルおよびイソシアネート成分の両方をグラフトする場合にはラジカル源(たとえば過酸化物)を含む第2の添加剤パッケージを、加工助剤を初めに固体成分と、次に他の成分と混合することによって調製する工程と、
c)熱可塑性樹脂ポリマーを溶融する工程と、
d)第1の添加剤パッケージを、グラフト反応が数分以内に完了する温度で、溶融ポリマーと混合する工程と、
e)第2の添加剤パッケージを、ウレタン生成反応(および必要であればグラフト反応)が数分以内に完了する温度で、溶融ポリマーと混合する工程と、
f)適切な成形(たとえば押出/造粒、射出など)後に化合物を冷却する工程と
からなる方法を提供する。
【0040】
これまで、ポリマーマトリックス中における成分の分散およびウレタン結合の生成の問題は議論されてこなかった。マトリックスの極性と異なる極性をもつ低分子添加物が相分離してポリオレフィンの結晶粒界またはアモルファス相中に蓄積する傾向があり、このことが問題(不均一な架橋分布、高圧絶縁体における破壊点の形成、酸化または熱水分解環境における弱点の形成など)を招くことがあることはよく知られている。また、ヒドロキシル成分およびイソシアネート成分を個々にグラフトおよび分散させ、ウレタン基の凝集を避けることが賢明である。これらの問題は、個々の添加剤パッケージの形態で成分を加えることによって都合よく解決することができ、これは本発明の重要な特徴である。成分の一方のみをグラフトする場合(たとえばヒドロキシルまたはイソシアネート成分)、グラフトされた成分を第1のパッケージとしてのラジカル源と化合させ、他の成分を第2の添加剤パッケージとしてのウレタン生成触媒と化合させ、その後ポリマー中に分散させるべきである。両ウレタン成分をグラフトする場合、第2のパッケージもラジカル源を含むべきである。多機能添加剤(フェノール安定剤(架橋剤として利用してもよい)またはHALS安定剤(ウレタン助触媒として利用してもよい))が修飾されるポリオレフィン化合物中にすでに存在していれば、添加剤パッケージの調製はより単純になるだろう。
【0041】
少量の低分子またはオリゴマーの添加剤を溶融ポリマー中に均一に分散させる場合、加工助剤たとえば大表面積すなわち多孔質の鉱物添加剤を使用することが有用であろう。これは、添加剤パッケージの調製段階で添加剤を吸収し、処理段階でこれらを放出するであろう(また、このことは、過酸化物をラジカル開始剤として使用する場合に、爆発の危険性を減少させる)。このような材料の例は、ゼオライトまたは他の微孔性シリケートおよび様々な層状シリケート、たとえばモンモリロナイト、ベントナイト、クレー、タルクまたはマイカを含む。このような鉱物と有機添加剤との親和性を高めるために、様々な表面処理たとえばシラン修飾などによって親有機性を与えてもよい。特に、商業的に入手可能な親有機性ベントナイト/モンモリロナイト(たとえば例において言及されているもの)を使用することが有利である。添加剤および処理条件を適切に選択すれば、これらの親有機性クレーの部分的または完全な剥離によってマトリックス樹脂の機械的性質、燃焼性、熱的性質などをさらに向上させるかもしれない(ナノコンポジットの形成)。添加剤パッケージの1またはそれ以上の成分が液体である場合、ペーストを調合してポリマーに都合よく加えることができる。いずれの成分も液体でない場合、溶剤を使用して加工助剤による成分の吸収を促進してもよく、後にこの溶剤を蒸留または乾燥によって除去することができる。
【0042】
化合物の調製を様々な溶融混合装置たとえば混練機、混合機、配合押出機、Buss共混練機などで行い、その後に直接成形または造粒してもよい。特に、固体/液体/ペースト添加剤のための複数の入口を有するマルチポート配合押出機を使用することが有利である。この場合、様々な成分の個々の添加およびグラフトを連続法で実現することができる。後に、造粒生成物を、任意の好都合な溶融加工技術たとえば圧縮成形、射出成形、押出、フィルムブローなどによって加工することができる。
【0043】
本発明を以下に挙げた例によって説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。当業者にはいくつかの代替的な可能性が自明であり、これらは特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲および精神の範囲内にある。
【0044】
実験
ポリウレタン触媒(例1および2を参照のこと)を最適化するために用いた反応を目視で評価した。
反応条件を最適化し、ウレタン架橋生成の可逆性を証明するために用いたグラフト/架橋パラフィン混合物の粘度をHoppler型の標準落球粘度計によって測定した。ここでは、温度を循環浴槽によって調節した。
【0045】
溶融加工実験(例3〜11)を、内部混合チャンバー(有効体積は250cm3)を備えた Brabender Plastograph PL 2000 型で行った。同じ装置を利用して架橋混合物の再加工性をモニターした。
【0046】
また、溶融加工サンプル中の架橋点のブレークダウンを検出するために、マイクロ熱分析(μTA)の方法を用いた(TA Instruments, Inc.)。この方法は熱反応を測定して従来の熱分析から得られる情報と同様の情報を提供する。熱プローブは、銀シースによって覆われた小さな白金フィラメントからなっている。ワイヤを成形してプローブにし、銀をエッチング除去して白金先端部を出す。レーザービームをプローブから光検出器へミラーによって反射する。プローブ位置の変化が光検出器の電圧の変化を生じさせるであろう。また、μTAは表面付近の熱伝導性および熱拡散率を画像化する。プローブは抵抗発熱体として作用し温度を測定する手段を提供する。プローブに適用する温度プログラムは調節することができる。LTA(局所的熱分析)実験では、プローブによってサンプルを加熱し、光検出器上でレーザー信号の動きを検出することによって熱膨張または軟化効果をモニターすることができる。この測定結果を用いて膨張、軟化、溶融またはガラス転移を決定することができる。また、プローブを加熱しているときに、表面領域近傍の熱導電率および熱拡散率の変化を測定することもできる。架橋の存在および架橋の熱解離を検出するために、LTA分析機能を適用した。0.5×5×5mmサイズの化合物の新しい切断薄片を装置のテーブル上に接着した。プローブをサンプル表面上に56nN荷重で載せた後に、熱プローブを30〜200℃の温度範囲で10℃/sの速度で加熱した。
【0047】
例1
ポリウレタン触媒の選択と可逆反応の証明
ウレタン触媒の選択およびウレタン反応の可逆性を証明するために、溶融反応よりも容易に調査およびスクリーニングすることができる溶液条件を採用した。溶剤Diphyl(商業的に入手可能な熱媒、ジフェニルオキシドとジフェニルの混合物)を使用したとき(融点12.2℃、沸点265℃)、低揮発性なので、成分を溶解して広範な温度範囲での反応速度の調査を可能にする。反応速度の調査のために、イソシアネート成分としてTDI(トルイレン−ジイソシアネート)を、フェノール成分としてチモールを選択した(表1を参照のこと)。
【表1】

【0048】
スクリーニングした触媒を下記の表2に載せる。
【表2】

【0049】
わかるように、両方のカテゴリーにおいて、我々は従来のウレタン触媒だけでなく熱可塑性樹脂において知られた他の添加剤(たとえばHALS安定剤または金属石けん潤滑剤)を用いることを試みている。これらは、効果的な触媒であることが予想され、かつポリオレフィンマトリックスと親和性があることが知られている。
【0050】
成分(表3に示した重量部での相対量)を秤量してストッパ付き試験チューブに入れた。成分を激しく均質化した後、試験チューブをCaCl2チューブでキャップし、反応を起こすまで(ただし最長で60分間)、100℃のオイルバスに浸漬した。反応混合物を冷却して室温まで戻した。最後に、サンプルをふたたび加熱したが、今度は135℃で15分間維持した。加熱および冷却している間の色、粘度および相転移の変化を観察した(表3を参照のこと)。
【表3】

【0051】
表3のデータは、a)ウレタン生成の可逆性およびb)触媒(ジブチル−Sn(II)−ジラウレートを除く)は、100℃で数分以内(ポリオレフィンの典型的な加工時間)ではウレタン結合の生成を促進するほど十分な有効ではないことを証明している。したがって、次の実験(表4を参照のこと)においては、アミン型の触媒を金属系触媒と組み合わせてウレタン生成に関する助触媒の効果を調べた。
【表4】

【0052】
これらの結果は、触媒の組み合わせがウレタン生成を促進する有効な方法であることを明確に示している。特に、ヒンダードアミン系安定剤とステアリン酸亜鉛潤滑剤との組み合わせ(両方ともにポリオレフィン加工で使用される周知の添加剤)は効果的な触媒/助触媒系を生じさせることが注目に値する。
【0053】
例2
パラフィンモデル系におけるグラフト/架橋条件の最適化。グラフトされた脂肪族アルコールとポリフェノール−ジイソシアネートプレポリマーによる架橋
架橋/グラフト条件の予備的な最適化をモデル系で行った。ここでは、ポリエチレンマトリックスを液体パラフィン(以下PARFと略記する。飽和炭化水素の混合物であって、炭素数n<15、沸点<350℃)で置き換えた。この低分子マトリックスは、希釈した非極性媒質中での架橋効率(液体/ゲル)の容易なスクリーニングを可能にした。
【0054】
この実験では、以下のようにすることによって架橋を形成した。以下の反応に従って、脂肪族アルコール基を含む不飽和化合物(ヒドロキシエチルメタクリレート、HEMA)を飽和パラフィン主鎖上にグラフトした。
【化4】

【0055】
そして、グラフトされたアルコールと芳香族ポリオール−芳香族ジイソシアネートプレポリマー(フェノールブロックポリイソシアネートとみなすことができる)を反応させた。
【化5】

【0056】
ここで、Ph1はジイソシアネートに属する芳香族基であり、Ph2は(フェノール性)ポリオールに属する別の芳香族基である(Ph1が2つのイソシアネートで置換され、Ph2が3つのフェノール基で置換されるように試薬を選択し、イソシアネート基とフェノール基の濃度が等しくなるようにPh1とPh2のモル比を選択する)。以下の模式的反応に従って架橋を生成する。
【化6】

【0057】
ここで、熱可逆性のウレタン結合は、Ph1基とPh2基との間に位置しているものであり、Ph2のフェノール性OH置換基の一部が反応中に解離する。このような結合は(130℃付近の)温度で熱的に解離することができ、ここ場合グラフトされたパラフィン/PARF−OH/と他の芳香族イソシアネート基との間の他方のウレタン結合はそのまま残る。架橋の度合を検出するにはレオロジー的な測定(Hoppler粘度計)を適用した。
【0058】
ラジカル源としてLuperox F90P(1,3 1,4−ビス(terc−ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、シリカ表面上の粉末、濃度90%、商業的に入手可能なAtofina(フランス)の製品、この活性剤を以下Perox TBと略記する)を使用した。予備実験において、0.5,1.0,2.0,4.0および8.0phrのPerox TBを20cm3のパラフィンに加え、130℃で10分間熱処理した。2.0phr未満の過酸化物の添加では粘度は増加ではなく減少していることがわかり、これは主鎖の切断が架橋よりも目立つことを示している。2.0〜8.0phrの過酸化物の範囲では、粘度は徐々に(約50%ずつ)増加している。主鎖の切断を補うために、次の一連の実験では、同量の過酸化物をパラフィンに添加したが、2/3モルのトリアリルイソシアヌレート(周知の3官能性の架橋助剤、Degussa AG(ドイツ)の商品、以下TAICと略記する、Perox TB 1モルに対して2/3モル)と組み合わせて架橋実験を繰り返した。この場合、粘度は濃度範囲全体で増加し、たとえば4phrのPerox TB+TAICでは粘度は非架橋系と比較して3倍になった。4phrのPerox TBとTAICで架橋したパラフィンのアレニウスプロット(logη−1/T)を図1に示す。曲線の傾き(粘性流動の活性化エネルギーに比例する)は調べた全温度範囲でかなり一定であり、流動のメカニズムに大きな変化がないことを示している。8phrのPerox TBとTAICで架橋した系はゲルであり、粘度を測定することはできなかった。
【0059】
次に、我々は表5に示す化学物質を使用して、パラフィンモデルに関してグラフト/架橋条件を最適化することに着手した。
【表5】

【0060】
これらのうち、HEMAは可逆性の架橋サイト(PHLとTDIからなる)を固定するために使用し、Perox TBはHEMAをグラフトするために使用し、ZnStおよびChS994はウレタン生成触媒であり(例1を参照のこと)、一方Benotne SBは特殊な役割(加工助剤)を果たす。最初の実験は、様々な成分の間で混和性の問題が起こるかもしれないが、この問題は様々な成分を少量の親有機性モンモリロナイトによって吸収すれば大幅に取り除くことができることを示した。
【0061】
表6に記載したサンプルを以下の2工程法に従って調製した。最初に、1phrのBentoneを試験チューブに入れた後、Peroxide TBおよびHEMAを秤量してBentoneに加えた。成分を激しく均質化し、その後、激しく均質化している間に20cm3のPARF油で徐々に希釈した。グラフト化を130℃で10分間にわたり混合せずに行った。第2の試験チューブの中に1phrのBentoneを入れた後、TDI、PHLおよび触媒を入れ、激しく均質化し、その後、激しい均質化を加えながら上記で調製し、グラフトし、冷却したPARF油で希釈した。ウレタン生成を、130℃での10分間にわたる熱処理により混合せずに行った。
【表6】

【0062】
加熱時および冷却時にサンプル粘度の変化をモニタリングすることによって、熱可逆性のウレタン結合の切断を間接的に検出した。構造変化は粘性流動の活性化エネルギーにおける相対的に急な変化によって示される。図2は0.5phrのPerox TBおよびその他の添加剤を用いて調製したサンプルについての粘度のアレニウスプロットを示し、一方、図3は2phrのPerox TBを用いて調製したサンプルについての同様の結果を示す。明らかなように、0.5phrサンプルは流動のメカニズム(および活性化エネルギー)の変化のいかなる兆候も示していないが、2phrサンプルは加熱時および冷却時の両方で粘性流動の活性化エネルギーにおける急な変化を示しており、熱可逆性の架橋を示している。
【0063】
例3−5
熱可逆性のウレタン架橋をもつLDPE系化合物。グラフトされた脂肪族アルコールとポリフェノール−TDIプレポリマーによる架橋
本発明による化合物を2工程グラフト/架橋法によって調製した。用いた材料を表7に記載し、組成を表8に載せる。
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
250cm3有効容量のチャンバーを備えた Brabender PL 2000 型の実験用インターナルミキサー(混練機)中でサンプルの成分を均質化した。混合パラメータを表9に載せる。
【表9】

【0066】
混合処理の過程における温度プロファイルは、以下の表10のとおりである。
【表10】

【0067】
適量のLDPEをチャンバー内に供給してこのポリマーを溶融した。第1の工程において、Bentone−Perox TB−HEMAの混合物(第1の添加剤パッケージ)をポリマーに添加した。第1の添加剤パッケージは、最初にBentoneをガラスビーカーに入れ、次に過酸化物、最後に液体HEMAを入れることによって調製した。高粘度のペーストが得られるまで、成分をガラス棒で激しく均質化した。このペーストを、135℃での連続混合の間に、溶融LDPEに徐々に加えた。また、連続混合プロセスの間にグラフト化を10分間行った。第2の工程において、Bentone−TDI(またはMDI)−PHL−触媒の混合物(第2の添加剤パッケージ)をポリマーに添加した。第2の添加剤パッケージは第1のものと同様に調製した。すなわち、別のガラスビーカーに、最初にBentoneを入れ、次にPHL、触媒(ZnSt、ChS944)、そして最後に液体イソシアネート成分(TDI)を入れた。ペーストが得られるまで、成分をガラス棒で激しく撹拌し、その後、145℃のBrabenderミキサー中で10分間さらに均質化を行いながら、ペーストを上記のグラフトされたLDPEに添加した。HEMAヒドロキシルとのウレタン架橋の生成はすでにこの温度で起こるが、芳香族ヒドロキシルとイソシアネートとのウレタン生成は130℃未満でのみ起こる。
【0068】
例6−8
熱可逆性のウレタン架橋をもつLDPE系化合物。グラフトされた脂肪族アルコールとポリフェノール−MDIプレポリマーによる架橋
本発明による化合物を、例3〜5について記載したのと同一の2工程グラフト/架橋法によって調製したが、TDI(トルイレン2,4−ジイソシアネート)の代わりに、MDI(メチレン−ジフェニル−ジイソシアネート、ONGRONAT HS−44、BorsodChem Rt(ハンガリー)の商品)をイソシアネート成分として使用した。組成を表11に載せる。
【表11】

【0069】
例9−11
熱可逆性のウレタン架橋をもつLDPE系化合物。グラフトされたフェノールとグラフトされたイソシアネートによる架橋
本発明による化合物を、例3〜5について記載したのと同様の2工程グラフト/架橋法によって調製したが(プロセスパラメータは表9および10に記載したものと同じである)、材料および添加剤パッケージは異なっている。用いた材料を表12に、サンプル組成を表13に記載している。
【表12】

【0070】
【表13】

【0071】
適量のLDPEをチャンバー内に供給してこのポリマーを溶融した。第1の工程において、Bentone−Perox TB−アリルフェノール(APh)の第1の添加剤パッケージをポリマーに添加した。添加剤パッケージは、最初にBentoneをガラスビーカーに入れ、次に過酸化物、そして最後に液体APhを入れて調製した。高粘度のペーストが得られるまで、成分をガラス棒で激しく均質化した。このペーストを、135℃での連続混合の間に溶融LDPEに徐々に加えた。また、連続混合の間にグラフト反応を10分間で完了した。第2の工程において、Bentone−イソシアナト−エチル−メタクリレート(IEM)−触媒の添加剤パッケージをポリマーに添加した。このパッケージは第1のものと同様に調製した。すなわち、別のガラスビーカーに、最初にBentoneを入れ、次にPerox TB、触媒(ZnSt,ChS944)、そして最後に液体イソシアネート成分(IEM)を入れた。ペーストを形成するまで、成分をガラス棒で激しく均質化し、その後、145℃のBrabenderミキサー中で10分間さらに均質化を行いながら、ペーストを上記のグラフトされたLDPEに添加した。
【0072】
例3−11で調製した化合物の評価
図4,5および6は、それぞれ、例3−5,6−8および9−11で調製した化合物のマイクロ熱分析曲線を示す。比較のために非架橋PEサンプルのμTA曲線も各々の図に示す。融点に至るまで、熱膨張が正の動きによって検出されている。溶融領域(非架橋サンプルでは112〜116℃)においてサンプルは軟らかくなり、プローブがサンプル表面に侵入する。融点は、傾きの交点によって見積もることができる。可逆性の架橋を含むサンプルの場合、傾きの変化として溶融転移も現れるが、架橋が存在するために、溶融ポリマーは流動せず、エラストマーの網目構造はこの侵入に対してある程度の抵抗を示す。ウレタン結合が解離し始めると(130〜145℃の領域において)傾きはさらに増し、サンプルは非架橋サンプルと同様に軟らかくなる。1つの例外がある。すなわち、曲線02−46は、2phr過酸化物とMDI系ポリフェノール−イソシアネートプレポリマーを用いて調製したサンプルに相当し、ここではさらに加熱しても全く軟化しない。この場合、2phr過酸化物はすでにLDPEサンプルに真の架橋を形成しており、すなわち熱可逆性のウレタン結合に加えて不可逆のC−C架橋を形成しているように思われる。また、適切な添加剤パッケージの選択はデリケートな作業であることも示している。いずれにせよ、1phrの過酸化物と対応する他の添加物を用いて調製した3種の化合物の全ては許容できるように思われる。
【0073】
本発明に従って(全て1phrの過酸化物とこれに対応する添加物を用いている、例4、7および10に従って)調製した3つの化合物の実際のリサイクル性を Brabender Plastograph の混練チャンバー中で様々な温度(110および140℃)でトルクを測定することによって調べ、非架橋LDPEと比較した。結果を表14にまとめている。
【表14】

【0074】
データによって示されるように、110℃では非架橋サンプルのみが溶融加工でき、熱可逆性の架橋を含む残りはウレタン結合の解離温度を超えるより高温でのみ加工できる。また、非架橋LDPEサンプルは140℃で1.5分以内に溶融するが、架橋サンプルは2.5〜7分以内に溶融するという事実によっても架橋の存在を示している。また、例10の場合には、繰り返し加工サイクルも行い、本発明によるポリマー化合物の繰り返し加工性を証明した。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】TAICの存在下(3モルのPerox TBに対して2モルのTAIC)、2phrのPerox TBによって架橋したパラフィンサンプルの粘度のアレニウスプロット(略語については表5を参照のこと)。
【図2】0.5phrのPerox TB−HEMA(1モルのPerox TBに対して2モルのHEMA)によってグラフトし、TDI−PHLアダクトによって架橋したパラフィンサンプルの、加熱時および冷却時の粘度のアレニウスプロット(さらなる詳細については表5および6を参照のこと)。
【図3】1.0phrのPerox TB−HEMA(1モルのPerox TBに対して2モルのHEMA)によってグラフトし、TDI−PHLアダクトによって架橋したパラフィンサンプルの、加熱時および冷却時の粘度のアレニウスプロット(さらなる詳細については表5および6を参照のこと)。
【図4】非架橋PEサンプル(サンプルNo.02−33)ならびに例3,4および5に従って調製した熱可逆性の架橋をもつ3つのサンプルのマイクロ熱分析曲線(サンプルの表記については表8を参照のこと)。
【図5】非架橋PEサンプル(サンプルNo.02−33)ならびに例6,7および8に従って調製した熱可逆性の架橋をもつ3つのサンプルのマイクロ熱分析曲線(サンプルの表記については表11を参照のこと)。
【図6】非架橋PEサンプル(サンプルNo.02−33)ならびに例9,10および11に従って調製した熱可逆性の架橋をもつ3つのサンプルのマイクロ熱分析曲線(サンプルの表記については表13を参照のこと)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の必須成分a)〜d):
a)飽和分子主鎖をもつ熱可塑性ポリマー成分;
b)ポリマー鎖に結合するかまたはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在する、イソシアネート基を含む成分;
c)ポリマー鎖に結合するかまたはポリマーマトリックス中に可動性の形態で存在する、ヒドロキシル基を含む成分;
d)ウレタン結合の可逆的な生成および熱解離を促進する触媒パッケージ
を含む、熱可逆性のウレタン架橋をもつ熱可塑性架橋ポリマー化合物であって、
成分b)およびc)の少なくとも一方がポリマー鎖に結合し、化合物中に存在する添加剤の少なくとも1つが、1より多い機能的に独立したプロセスにおいて役割を果たす多機能性であることを特徴とする化合物。
【請求項2】
イソシアネート基を含む成分b)が、共重合、グラフトまたはポリマーアナログ反応によってポリマー主鎖に結合している請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
成分c)が、フェノール性、脂肪族または脂環式ヒドロキシル基を含む請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
成分c)が、フェノール性ヒドロキシル基を含む請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
ヒドロキシル基を含む成分c)が、共重合、グラフトまたはポリマーアナログ反応によってポリマー鎖に結合している請求項1ないし4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
イソシアネート基が主鎖に結合している場合、ヒドロキシル成分は少なくとも2の平均官能基数を示す請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
ヒドロキシル成分が主鎖に結合している場合、イソシアネート成分は少なくとも2の平均官能基数を示す請求項1または6に記載の化合物。
【請求項8】
両成分が主鎖に結合している場合、官能基を付加されたポリマー分子自体が少なくとも2の平均官能基数を示す請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
熱可塑性ポリマーはポリオレフィンである請求項1ないし8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
イソシアネート基および/またはヒドロキシル基がラジカルグラフト反応によって主鎖に結合し、不可逆C−C架橋点が実質的に全く形成されないか、または少なくともそれらの存在が熱可逆性のウレタン架橋点の熱解離後にゲル化を引き起こさない請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
イソシアネート成分が熱可塑性成分の主鎖に化学的に結合し、ヒドロキシル基が低分子の可動性のポリフェノール中にまたはプレポリマー/オリゴマー中に存在する請求項9または10に記載の化合物。
【請求項12】
ヒドロキシル基が熱可塑性成分の主鎖に結合し、イソシアネート成分が低分子の可動性のポリイソシアネート中にまたはプレポリマー/オリゴマー中に存在する請求項9または10に記載の化合物。
【請求項13】
イソシアネート基およびヒドロキシル基の両方が、熱可塑性成分の主鎖に化学的に結合している請求項9または10に記載の化合物。
【請求項14】
ヒドロキシル基がポリフェノール中に存在し、同時に酸化防止剤および/または熱安定剤として作用し、オプションでポリマー主鎖にグラフトされている請求項9に記載の化合物。
【請求項15】
熱可塑性ポリマーは、エチレン、プロピレンもしくは他のα−オレフィンのホモポリマーもしくはコポリマー、またはこのようなホモポリマーもしくはコポリマーの混合物である請求項9に記載の化合物。
【請求項16】
触媒パッケージが、不揮発性(Tb>150℃)3級アミンと、少なくとも10の炭素原子をもつ直鎖または分枝鎖の一塩基または多塩基カルボン酸の遷移金属塩とからなる請求項1ないし15のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項17】
金属塩は、ステアリン酸亜鉛である請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
不揮発性アミン化合物は、ヒンダードアミン系光安定剤である請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
ポリマーマトリックス中での添加剤の均一な分散を促進してその巨視的な相分離を防ぐ、層状シリケートまたは層状シリケートの混合物からなる加工助剤をさらに含む請求項1ないし8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項20】
層状シリケートは、親有機性モンモリロナイト、ベントナイト、フルオロヘクトライト、クレー、タルクまたはマイカから選択される請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
請求項19ないし20のいずれかに記載の熱可塑性化合物を調製する方法であって、以下の工程:
a)グラフトされる成分b)およびc)のうち一方のモノマー、ラジカル源、および加工助剤を含む第1の添加剤パッケージを、加工助剤を初めにラジカル源と、次に他の成分と混合することによって調製する工程と、
b)第1の添加剤パッケージ中に存在しない他方のウレタン生成成分、加工助剤、ウレタン触媒、およびヒドロキシル成分およびイソシアネート成分の両方をグラフトする場合にはラジカル源(たとえば過酸化物)を含む第2の添加剤パッケージを、加工助剤を初めに固体成分と、次に他の成分と混合することによって調製する工程と、
c)熱可塑性ポリマーを溶融する工程と、
d)第1の添加剤パッケージを、グラフト反応が数分以内に完了する温度で、溶融ポリマーと混合する工程と、
e)第2の添加剤パッケージを、ウレタン生成反応が数分以内に完了する温度で、工程d)で得られた溶融ポリマーと混合する工程と、
f)続いて、化合物を適切に成形(たとえば押出/造粒、射出など)および冷却する工程と
からなる方法。
【請求項22】
全ての成分が最初に固体である場合に、工程a)および/またはb)において少なくとも1つの有機溶剤を使用して加工助剤と添加剤とを混合する請求項21に記載の方法。
【請求項23】
混合プロセスをマルチポート押出機で行い、添加剤パッケージを後の供給ポートでシステムに加える請求項21または22に記載の連続的方法。
【請求項24】
請求項1ないし20のいずれか1項に記載の熱可塑性化合物で作られたプラスチック半完成品およびプラスチック製品。
【請求項25】
請求項21ないし23のいずれか1項に記載の方法によって調製された熱可塑性化合物で作られたプラスチック半完成品およびプラスチック製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−503952(P2006−503952A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546209(P2004−546209)
【出願日】平成15年10月22日(2003.10.22)
【国際出願番号】PCT/HU2003/000084
【国際公開番号】WO2004/037901
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】