説明

養毛料

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、育毛効果及び養毛効果、脱毛予防、ふけ防止等の効果に優れた養毛料に関する。
【0002】
【従来の技術】脱毛症は血行の不全、毛母細胞活性の低下や性ホルモンのアンバランスなど様々な要因が複雑に絡みあって生じていると考えられているが、発生機作が未だ充分に解明されていないのが現状である。従来より、各種の薬剤を配合した養毛料が脱毛の予防や治療に用いられてきているが、脱毛を抑制して発毛、養毛を促すに充分有効な薬剤は未だ見出されていない。
【0003】本発明の養毛料の原料に用いる附子は、古来中国において神農本草経に記載され、漢方医学上種々の漢方処方中に汎用される重要な生薬として知られるもので、キンポウゲ科(Ranunculaceae)のトリカブト属植物(Aconitum species)の塊根から調製される。特開平3−271213号に、この基原植物であるトリカブトの根、茎又は葉の抽出物を含有することを特徴とした発毛、育毛剤が提案されているが、トリカブトの抽出物単独使用であり、発毛、育毛効果は不充分であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸よりなる群から選択される少なくとも一種と附子の抽出物とを配合することによって、安全性が高く、マウス毛成長促進、ヒト頭髪毛成長促進に優れた効果を示し、更に、ふけ防止効果にも著効を呈することを見出して本発明を完成するに至った。即ち、本発明の目的は、育毛、養毛、脱毛予防、ふけ防止等の効果に優れた養毛料を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸よりなる群から選択される少なくとも一種と附子の抽出物とを配合してなる養毛料である。
【0006】本発明の養毛料に使用する原料生薬の附子は、キンポウゲ科(Ranunculaceae)のトリカブト属植物(Aconitum species)の塊根から調製されたものであればよく、その基原及び産地を限定するものではない。また、一般に、トリカブト属植物には猛毒性アコニチン系アルカロイドを含有しており、その使用に際しては注意を要するものであるため、より好ましくは加熱処理等の減毒調製がなされた加工附子と称するものを用いるのがよい。
【0007】附子の基原植物としては、例えば、中国四州省産の栽培種カラトリカブト(Aconitum carmichaeli Debx)、中国各地の野性種(Aconitum kusnezoffii Reichb.)など、朝鮮産のミツバトリカブト(Aconitum triphyllum Nakai)、キバナトリカブト(Aconitum coreanum Rap.)、日本産のオクトリカブト(Aconitum japonicum Thunb.)、ハナトリカブト(Aconitum chinense Paxt.)などが挙げられる。特に中国四州省産のカラトリカブトが、一定の栽培法で、品質の安定性および供給の面で好ましい。
【0008】また減毒加工法としては、特許公告昭37−18498号に提案されている、塊根をオートクレーブ中で100〜130℃、圧力1.0〜1.5kg/cm220〜40分間加圧、加熱処理して調製する方法が、簡便で、有効かつ安全な生薬を安定に生産できることから特に好ましい方法である。この方法で調製された例として、日本薬局方外規格品の商品名「加工ブシ末」が挙げられる。また主に中国で行われている方法として、水洗した塊根を苦汁液に数日間浸漬して乾燥するか、あるいは、更に蒸す、煮沸などの処理をくり返した後乾燥して調製する方法または塊根を水洗し縦割りして鮮時に灰中に埋没させ、加熱、加圧等を施し乾燥して調製する方法などがある。この方法で調製した例としては中国四州省産の附子瓣(日本では炮附子と称する)として市販されているものが一定の品質で充分減毒されており好ましい。
【0009】本発明の附子の抽出物は、附子を溶剤で抽出した場合に附子から溶剤に移行し、た成分を言い、この抽出物は溶剤を除去した後の乾燥物の状態で使用することもでき、また溶剤に溶解した状態で使用することもできる。後者の場合には抽出溶剤は本発明の養毛料中で基剤の一部を構成する。
【0010】溶剤としては水、アルコール類、例えばメタノール、エタノール、ブタノールエーテル類、例えばジエチルエーテル、ジオキサン、ケトン類、例えばアセトン、脂肪属炭化水素類、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、エステル類、例えば酢酸エチル等を使用することができる。抽出物を溶剤除去して乾燥物として使用する場合には、上記の任意の溶剤を単独でまたは混合して使用することができる。しかしながら抽出物を溶剤に溶解した状態で使用する場合には人体に有害な作用を有しない水、エタノール、またはこれらの混合物を用いるのが好ましい。
【0011】抽出に際して、附子はそのまま使用することもでき、また破砕または粉砕して使用し、溶剤との接触を改良することもできる。附子と溶剤との比率は特に限定されないが、抽出効率及び便利さの観点から附子100g当たり100〜5000mlの溶剤を使用するのが好ましい。抽出温度は室温〜常圧下での溶剤の沸点の範囲とするのが便利であり、抽出時間は抽出温度、攪拌の有無等により異なるが、30分〜2週間の範囲とするのが好ましい。
【0012】一方、本発明の養毛料に用いるヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸は、いずれも殺菌剤あるいは角質溶解剤として公知の物質であり、広く化粧品に利用されているものである。
【0013】本発明者は、養毛料中に配合する上記構成成分に関して鋭意研究した結果、本発明のヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸よりなる群から選択される少なくとも一種と附子の抽出物とを組み合わせて配合した養毛料は、その相乗効果によって、優れた育毛効果、養毛効果、脱毛予防、ふけ防止効果などの効果を有することを見出した。
【0014】本発明の附子の抽出物とヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸等の配合割合は、当該養毛料の剤型などにより適宜選択されるものであるが、養毛料の総量を基準として、附子の抽出物は、0.0001〜20.0wt%(乾燥物換算)、ヒノキチオール等は、0.01〜5.0wt%であればよく、各々の配合量の下限未満では、本発明の目的とする効果に充分でなく、一方、上限を超えてもその増加分に見合った効果の向上は望めないものである。
【0015】本発明の養毛料は、常法に従って、ヘアートニック、ヘアーローション、ヘアークリーム、シャンプー、リンス、ヘアーフォーム、ヘアージェル等の剤型にすることが可能である。
【0016】本発明の養毛料には、色素、香料、防腐剤、抗炎症剤、抗アンドロゲン剤、養毛剤、ビタミン類、抗酸化剤、清涼剤、他の生薬抽出物等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合することができる。
【0017】
【実施例】以下、実施例および比較例に基づいて本発明を詳説する。なお、実施例に記載のマウス毛成長促進効果試験法、ヒト頭髪毛成長促進効果試験法および実用試験法を下記に示す。
【0018】(1)マウス毛成長促進効果試験C3Hマウス(雄・7週齢)の背部中央の体毛をバリカン及びシェーバー等で毛刈し、試料を毛刈り部位に1日1回、一匹当り0.2ml塗布した。一試料に対して動物は一群10匹使用した。実験開始後15日目にマウス背部の写真撮影を行い、毛刈り面積及び発毛面積を算出し、発毛率(%)を求め10例の平均値により、毛成長促進効果を判定した。
【0019】(2)ヒト頭髪毛成長促進効果試験法男性型脱毛症患者である被試験者10名の頭部の耳の上5cmの位置の頭髪を左右2カ所において直径1cmの円型状に剃毛した被験部位に、実施例または比較例の試料を左側に毎日朝夕2回、約3ml塗布し、無処置の右側と比較した。効果の判定は、試験開始後28日目に、左右の被験部位の毛髪各々20本ずつを剃毛し、左側(実施例または比較例を塗布)の毛20本の長さの平均値(B)を右側(無処置)の毛20本の長さの平均値(A)で除した値を求めて評価した。判定結果は、被試験者10名の(B)/(A)の平均値で示した。
【0020】(3)実用試験法男性型脱毛症患者である被試験者20名の頭部に毎日朝夕2回、連続6カ月間試料を塗布した後の効果を評価した。試験結果は、育毛効果、脱毛予防効果、ふけ防止効果の各項目に対して、「生毛が剛毛化したあるいは生毛が増加した」、「脱毛が少なくなった」、「ふけが少なくなった」と回答した人数で示した。
【0021】製造例1(附子の抽出物の調製)
(1)中国四州省産附子(川烏頭、または干附子として市販のもの)の乾燥塊根の破砕物をオートクレーブ中で100〜130℃、1〜1.5kg/cm2 に調製し、40分間加圧、加熱処理する。加工処理した附子100gを1500mlの70v/v%エタノール(以降、v/v%を%に略記する)に、常温(20〜25℃)にて16時間浸し、上澄液をろ取して、45℃、減圧下にて3時間濃縮し、溶媒を溜去して、褐色の抽出物を11.7g得た。
【0022】(2)製造例1(1)と同様に加工処理した中国四州省産附子100gを1500mlの40%エタノールに、常温(20〜25℃)にて16時間浸し、上澄液をろ取して45℃、減圧下にて4時間濃縮し、溶媒を溜去して、褐色の抽出液を13.4g得た。
【0023】(3)中国四州省産の炮附子(附子瓣として市販のもの)を50gを500mlの70%エタノールに、常温(20〜25℃)にて16時間浸し、上澄液をろ取し、45℃で減圧下にて2時間濃縮し、溶媒を溜去した後、褐色の抽出物5.3gを得た。
【0024】(4)日本薬局方外規格品加工ブシ末50gを500mlの40%エタノールに、常温(20〜25℃)にて10時間浸し、上澄液をろ取し、45℃、減圧下にて3時間濃縮し、溶媒を溜去した後、褐色の抽出物6.1gを得た。
【0025】実施例1〜12、比較例1〜11(ヘアートニック)
下記に記載の成分組成において、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸等と、製造例1で調製した附子の抽出物とを配合して各々のヘアートニックを調製し、前記の諸試験を実施した。
【0026】
(1)組成 成 分 配合量(wt%)
─────────────────────────────────── エタノール 60.0 附子の抽出物、ヒノキチオール等 表1、表2記載 プロピレングリコール 1.0 香料 0.1 精製水 総量を100.0とする残量 ───────────────────────────────────
【0027】(2)調製法附子の抽出物、ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、レゾルシン、サリチル酸及び香料をエタノール中に、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、プロピレングリコールを精製水にそれぞれ溶解し、各溶液を攪拌しながら均一に混合して各々のヘアートニックを調製した。
【0028】(3)特性各ヘアートニックの諸試験を実施した結果は、表1、表2に示す如く、本発明の附子の抽出物単独配合である比較例1〜4やヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸等を単独配合である比較例5〜11は毛成長促進効果が低く、また養毛、ふけ防止効果が認められなかった。これに対して本発明の附子の抽出物とヒノキチオール等とを同時に配合した実施例1〜12の本発明の養毛料は、マウスおよびヒトにおいて高い毛成長促進効果を示し、実用試験の結果も良好な結果を示した。尚、実施例1〜12はヒト皮膚での諸試験において皮膚刺激は生じなかった。
【0029】
【表1】


【0030】
【表2】


【0031】
【発明の効果】以上記載の如く、本発明が、顕著な毛成長促進効果を示し、育毛効果、脱毛予防、およびふけ防止効果に優れる養毛料を提供することは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒノキチオール、イソプロピルメチルフェノール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、レゾルシン、サリチル酸よりなる群から選択される少なくとも一種と附子の抽出物とを配合してなる養毛料。

【特許番号】特許第3309916号(P3309916)
【登録日】平成14年5月24日(2002.5.24)
【発行日】平成14年7月29日(2002.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−108625
【出願日】平成4年3月31日(1992.3.31)
【公開番号】特開平5−279229
【公開日】平成5年10月26日(1993.10.26)
【審査請求日】平成9年9月22日(1997.9.22)
【審判番号】不服2000−10069(P2000−10069/J1)
【審判請求日】平成12年7月5日(2000.7.5)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 平3−271213(JP,A)
【文献】特開 平3−161425(JP,A)
【文献】特開 平3−133919(JP,A)
【文献】特公 昭42−20399(JP,B1)