説明

香りのする水彩絵具

【課題】 香りのついた水彩絵具を提供する。
【解決手段】 油性香料を添加した水彩絵具、油性香料と乳化剤を添加した水彩絵具、および油性香料と乳化剤と防腐剤を添加した水彩絵具により、香りのする水性の液状の水彩絵具を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は香りをつけた水彩絵具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の香りをつけた絵具としては、油性のものとしては絵画用保香剤として、油性香料を油性溶媒に熔解させた保香剤を、油性絵具に添加させたものがある(特許文献1参照)。この油性香料を油性溶媒に溶解させた絵画用保香剤では、ラベンダー系やローズ系の香料は精神安定やリラックスした雰囲気を醸し出すために、またレモン系やジャスミン系の香料は気分を高揚させるのに用いられると書かれている。
【0003】
また、香りをつけた絵具としては、視覚障害者が付き添い人の補助なしで絵画などを描くために、液状の絵具の各色に色を特定させるための香料を添加し、色の識別を容易にした視覚障害者用香り付き絵具がある(特許文献2参照)。この絵具は密閉型の瓶に入っており容器には点字で色の名称が表現され、さらに添加する香料の成分は、誰にとっても心地よい香り、たとえばフルーツやハーブの香りとし、白はシナモン、赤はイチゴなどで、容易に色を連想して識別できるような香りにするのが好ましいと書かれている。この絵具では色を混ぜ合わせると新たな香りが発生し、微妙な色の変化を香りの変化に関連づけることが出来ると書かれている。
【0004】
また、香りをつけた絵具として、ターナー色彩株式会社が1998年に発売した商品で、アロマティークカラー(登録商標)という名称の香る固形の水彩絵具がある(非特許文献1および2参照)。これは10色の固形の水彩絵具が、ペット樹脂から出来ているプラスチック製の透明のパレット型の容器にセットされて入っている。そしてこの商品では2種類の香りのつけられたものが発売されているが、1つのケースの中の10色の固形の水彩絵具はすべて1つの香りで統一されており、たとえば天然と合成の香料をまぜて作られたラベンダーの香りがつけられている。
【特許文献1】特開2000−127699号
【特許文献2】特開2000−239611号
【非特許文献1】http://www.turner.co.jp/info/enkaku.html


【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
香りによる癒し効果やアロマテラピーや美術作品の制作に役立てるなどの目的を持った香りをつけた絵具としては、従来の絵具では次のような問題点があった。
【0006】
まず、特許文献1の油性香料を油性溶媒に溶解させた保香剤を油性絵具に添加させ、香りをつけた絵具では、この絵具はあくまで油性のものであって、油性の油絵具を水性の水彩絵具として利用、代用することは出来ない。この絵具で紙に描くと絵具の中に含まれる油が、水彩画用の支持体である紙にしみだし、作品の紙に汚れがつく。この香りのついた油性絵具では水彩用の紙には描けないということである。また、油絵具自体に独特の油臭さがあり、その匂いがきついため、本来的な香り自体を楽しむ癒し効果をこの油性の絵具に求めるには無理がある。
【0007】
油絵具による制作では、油絵具や油絵具に加える画溶液や筆洗液の臭気、特に石油系の溶剤による石油臭などが気になり、不快で制作に支障があるなど、匂いに敏感な使用者の声を反映して、最近では不快な臭いをかなり取り除いた油絵用の画溶液の製品も出ている。たとえば画溶液の中に含まれる芳香族炭化水素を取り除いた製品としては、ホルベイン工業株式会社のオドレスペンチングオイル(登録商標)、オドレスルソルバン(登録商標)、オドレスパンドル(登録商標)、オドレスペトロール(登録商標)がある。このように油絵具では、絵具に香りをつける以前に、油絵具ならではの独特の油臭い臭いがある。このような絵具では、油臭さを全く気にせず、本来的な香りの機能を生かし、香りを楽しめる絵具として使用するには無理がある。また、絵画の初心者にとって、一般的に油絵具は水彩絵具ほどには使いやすくない。
【0008】
したがって、たとえばアロマテラピーなどの香りの効果も取り入れつつ、趣味的に絵画を楽しむ、あるいは絵画療法などの作業を行うなどといった場合は、この油絵具では難点がある。
【0009】
次に、特許文献2の視覚障害者用の香り付き絵具は、色の種類別に、色を連想させて識別出来る特定の香りをつけてあり、色を混ぜ合わせると新たな香りになるとされているが、単にある香りとある香りを実際に混ぜ合わせると、調香のバランスがくずれることがあり、よい香りというよりはむしろ変な匂いになることが多い。したがって、混色後の匂いのバランスが悪いため、香りを楽しみつつ作品を制作するには不十分で無理がある。さらに、視覚障害者用の香り付き絵具は、容器が瓶であり、液状の絵具を取り出す場合には、スプーン等のさじを必要とし、一色ごとにスプーンを用意したり、スプーンを取り替える、あるいは洗うといった作業を必要とし面倒である。
【0010】
次に、非特許文献1および2の香る固形の水彩絵具であるが、この絵具はあくまでも固形であり、水性の液状のチューブ入りの絵具ではなく、使い勝手が悪いという点で不利がある。なぜなら、固形の水彩絵具は少量ずつ絵具を溶いて使うのには支障があまりなくかまわないが、チューブ入りの絵具のように多くの絵具を一度に混色することが出来ず不都合があった。
【0011】
また、この絵具ではアロマテラピーなどに使われる天然の香料である精油を用いて香り付けするには、このような固形の絵具の状態では、容器が透明かつ気密性がないということもあり、空気や光の影響で香りが酸化したり品質が衰えたり、また精油は揮発性のため香りがとんでしまうという難点があった。さらに、香り付けの精油が原液に近い濃度であると、この固形の水彩絵具の樹脂製の容器を劣化させるなどの不具合があった。また、香りのする固形水彩絵具は、使用中に固形の絵具の部分の全体が常にむき出しのため、匂いがきつすぎるなどの苦情もあり、使用者の好みの濃度にまで薄められないという難点もあった。
【0012】
以上、述べてきたように、従来の香りのついた絵具には、特許文献1,特許文献2、非特許文献1および2に挙げられているような絵具しかなく、それぞれに香りを生かした、また水彩絵具ならではの持ち味や特色を生かした絵具として使用するには不十分な問題点があった。
【0013】
さらに、油性の香料、特にアロマテラピーなどに使われる、植物から採れる天然の精油は、油ということもあり、たとえば水性である液状の水彩絵具に添加すると混ざらない可能性、また支持体の紙に油じみをつくる可能性があった。水性のものに油性のものを混ぜるという、もともと混ざりにくいものを混ぜるという事柄を解決するため、香りのついた水彩絵具作りについての試行錯誤を必要とした。
【0014】
以上のような問題点を解消し、絵具自体の独特のいやな臭いのない、芳香による癒し効果があって、香りに持続性があり、また水彩絵具本来の描画材としての持ち味をそこなわない手軽に使える水彩絵具が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、これらの課題を解決するために、油性香料を添加した水彩絵具、また、油性香料と乳化剤を添加した水彩絵具、また油性香料と乳化剤と必要に応じて防腐剤も添加した水彩絵具を提供するものである。
【0016】
まず、油性香料を水性の液状の水彩絵具の中に添加した絵具を提供する。このことにより、従来の香りのする絵具が持っていた問題点は解決した。つまり、油性のものは混ざらない、混ざりにくいと考えられていた、水性の液状の水彩絵具には油性の香料はほぼ良好に混ざり、絵具が使いにくい、使えないという状態にはならなかった。そしてこの絵具の特徴は次のような点にある。まず、この絵具を用いて紙に描いた場合の描き味もほぼ良好であるということである。また、たとえば、添加する香料の例としては合成香料も考えられるが、その他に天然の精油を添加した水彩絵具は、近年人気の高まっているアロマテラピーにも役立ち、その目的に応じて芳香のある油性香料を水彩絵具に添加した場合、視覚のみならず嗅覚にも同時に訴えかける絵具となる。また香料を用いているため、描画使用中も作品乾燥中も、絵具自体から、また画面からも芳香が立ち上るということである。
【0017】
アロマテラピーにも用いられるこれらの天然の精油は、植物から水蒸気蒸留法などによって得られる。水彩絵具に添加する油性香料として、これらの天然の精油の人体への作用例としては、ラベンダーやローズウッドやサイプレスの精油は鎮静作用があり、ネロリやジャスミンやイランイランやクラリセージの精油は抗うつ作用があり、ローズの精油は肌のしわやたるみに、カモミールの精油は頭痛によいとされ、ローズマリーの精油は頭脳明晰化によいとされている。またレモンの精油はリフレッシュ効果が、オレンジの精油はリラックス効果があるとされている。またペパーミントやレモングラスの精油は鎮痛作用があるとされている。またサンダルウッドやマンダリンの精油には強壮作用があるとされている。さらに乳香やティートリーの精油には免疫促進の作用があるとされている。
【0018】
さて、以上のように、油絵具のような絵具自体に使用中どうしてもある、油本来の不快臭のない、使い勝手の悪い固形でもない、混色すると変な匂いになったりすることのない、また水彩絵具の描画剤としての描き味をそこなわず、支持体の紙に油じみを作ることもなく、使いたい量の絵具を手軽に水溶きし、手軽にアロマテラピーに接することが出来る水彩絵具が提供出来た。
【0019】
また、水性の水彩絵具の中に油性香料と乳化剤を添加した絵具を提供する。この油性香料と乳化剤を添加した水彩絵具では、乳化剤を添加することで、さらに油性香料の混ざり具合がよくなり、のびのよい液状の香りのついた水彩絵具が提供出来た。この絵具の特徴としては、乳化剤を添加することで、絵具の厚塗り、盛り上げ等がしやすくなり、幅広い表現技法にこたえられる絵具となる。また、支持体に塗る絵具の層が厚いだけ、紙などへの支持対への香料の滞留時間も長くなり、よい香りをゆっくりと楽しむことが出来、一層のアロマテラピー効果が期待できる絵具となる。また、描画後の乾燥中の紙から立ちのぼる香りの持続時間も長くすることが出来る。
【0020】
ここで、添加する乳化剤の例としては、石油が原料のものや、他には例えば植物が原料の植物性乳化ワックスや植物性レシチンなどが考えられる。植物性乳化ワックスとしては、セチルアルコールとポリソルベート60から作られたワックスや、セトステアリルアルコールとソルビタン脂肪酸エステルから作られたワックスなどがある。また植物性レシチンは大豆が原料の天然の植物性乳化剤である。これらの乳化剤のうち人体に比較的安全な低毒性の乳化剤を用いることで、人体への安全性も確保できる絵具となる。
【0021】
さらに、水性の水彩絵具の中に油性香料と乳化剤と必要に応じて防腐剤を添加した絵具を提供する。この絵具の特徴としては、防腐剤を添加することにより、絵具の品質保持期間、保存期間を長くすることが出来る。
【0022】
添加する防腐剤の例としては、たとえば天然の防腐剤として、グレープフルーツの種子や果肉から採れるグレープフルーツシードエクストラクト、ローズマリーから採れるローズマリーエクストラクト、ローズヒップから採れるローズヒップシードオイル、さらに天然ビタミンEオイルなどがある。たとえばこれらの人体にも比較的安全性の高い防腐剤を添加することで、品質保持期間がある程度保たれる絵具が提供出来る。
【0023】
以上のような香りのついた水彩絵具を提供することで、上記のような従来の香りのついた絵具の持っていた欠点を解消出来た。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、水性の液状の芳香のする水彩絵具で、視覚のみならず嗅覚にも訴えうる絵具となり、使い勝手がよく、この絵具を用いて作品の制作中も、また制作後の作品からも芳香がし、特に加える油性香料が植物性の芳香精油(エッセンシャルオイル)であった場合は、心が癒される、気分がよくなるなどのアロマテラピーも楽しめる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の香りのする水彩絵具は、あらかじめ適度な濃度に香り付けられた絵具として、チューブなどの容器に入れられた液状の水彩絵具として、持ち運びに便利な状態にして利用する。香りのする水彩絵具を使用する場合には、パレットなどの上に絵具を移し、混色や水を加えて絵具の濃度を調整して制作に用いる。
【実施例】
【0026】
本発明を実施するにあたっては、油性香料と乳化剤と防腐剤の3つを添加した水彩絵具にするのが、香りのする水彩絵具として用いるには最も望ましい。
【0027】
最初に添加する油性香料について述べる。添加する油性香料は、単に香りを楽しむだけのものであるなら合成の油性香料でもかまわないが、出来ればアロマテラピーで用いられる天然の芳香精油によって、アロマテラピーの効果を上げるのが好ましい。たとえばアロマテラピーの目的別に精油を用いるとよい。これには単品で添加することも考えられるが、天然の精油は数種をブレンドして使った方が香りの持つ力が強くなるので、いくつか組み合わせて、なるべく誰からも好まれやすい香りにして水彩絵具に添加して用いる方がよい。
【0028】
さて、天然の油性香料である精油の組み合わせ例としてはいくつかあるが、肌のしわやたるみを防ぎ、細胞の更新力があるとされる精油を用い、健康でいつまでも若々しい肌を保ちたいというアンチエイジング(抗老化や健康長寿)的目的からは、ローズ、フランキンセンス、サンダルウッド、ラベンダー、ネロリの精油を適度な濃度で添加するのが好ましい。
【0029】
また、天然の香料をブレンドしたり、天然の香料と合成の香料をブレンドし、花の香りや森林の香り、草原の香りやフルーツの香り、海の香り、ロマンティックな感じの香り、アンティークな感じの香り、都市のイメージを表現した香りなど、水彩絵具で描きたい対象の雰囲気やイメージを彷彿とさせる手助けとなる香りを調香し、添加するとよい。たとえば植物画を描く時の香りとしては花やハーブの香りが、山などの風景画を描く時には森林の香りが考えられる。制作者や鑑賞者の心にいっそうイメージをひろげさせたり、制作意欲を向上させたり、また制作を楽しませる香りを水彩絵具に添加するのがよい。
【0030】
次に、添加する乳化剤としてはいろいろあるが、たとえば先に挙げたセチルアルコールとポリソルベート60からつくられた植物性乳化ワックスなどが好ましい。この乳化剤であれば滑らかな乳液状の絵具が得られ、油性香料も水彩絵具に良好に溶け、厚塗りもしやすくなる。また、このポリソルベート60は比較的安全な乳化剤で、化粧品や、また欧米では食品や医薬品にも利用されるもので、この乳化剤自体は人体についても安全性が高く、香りのする水彩絵具に使用するのが望ましい。
【0031】
さて次に、添加する防腐剤としてはいろいろあるが、天然の防腐剤として先に挙げたグレープフルーツシードエクストラクトが好ましい。人体にも安全であるし、この防腐剤自体に嫌な匂いもない。天然の防腐剤を添加する場合には、防腐効果が弱い場合もあるので、絵具としての品質が保たれている間に使用することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明による香りをつけた水彩絵具は、視覚のみならず嗅覚にも訴える水性の液状の水彩絵具として、使用者にアロマテラピー効果や制作意欲の向上を期待出来、また美術用教材などにも有効に利用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性香料を添加した水彩絵具
【請求項2】
油性香料と乳化剤を添加した水彩絵具
【請求項3】
油性香料と乳化剤と防腐剤を添加した水彩絵具

【公開番号】特開2006−169485(P2006−169485A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382474(P2004−382474)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(505019301)
【Fターム(参考)】