説明

駆動力伝達用チェーン

【課題】駆動力の伝達効率の低下を極力抑制しつつ、弦振動を抑制することのできる駆動力伝達用チェーンを提供する。
【解決手段】サイレントチェーン100は、一対の挿入孔を備えた複数の噛合リンク10A,10Bと、同挿入孔にそれぞれ挿入される複数の連結ピン20とを備え、同連結ピン20により各噛合リンク10A,10Bを互いに回動可能に連結することによって環状に形成されている。噛合リンク10Bには、同一の連結ピン20によって回動可能に連結された噛合リンク10Aとの相対的な屈曲角度が所定角度θ未満である場合に噛合リンク10Aに係合してこれら噛合リンク10A,10Bの間に作用する摩擦力を増大させる一方、相対的な屈曲角度が所定角度θ以上である場合にその係合が解除される係合部13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対の挿入孔を備えた複数のリンク部材と、同挿入孔にそれぞれ挿入される複数の連結ピンとを備え、同連結ピンにより各リンク部材を互いに回動可能に連結することによって環状に形成されるとともに、複数のスプロケットに巻き掛けられて各スプロケットの間で駆動力を伝達する駆動力伝達用チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
こうした駆動力伝達用チェーンにあっては、チェーンとスプロケットとの噛合が解除され、一対のスプロケットの間でチェーンがスプロケットから離間した状態となる領域、いわゆる軸間領域においてチェーンが振動することがある。このようなチェーンの弦振動は、スプロケットとチェーンとの噛み合い時、及びその解除時に生じるチェーンの上下動と、チェーンの固有振動数との関係によって生じる共振に起因するものであり、騒音の一因となっている。
【0003】
そこで、こうした弦振動を抑制すべく、特許文献1には各リンク部材の間にばね部材を介在させ、このばね部材の弾性力によって隣接する各リンク部材間の摩擦力を増大させるようにしたものが記載されている。特許文献1に記載のチェーン1は、図9に示されるように各リンク部材2に形成された噛合片3がスプロケット4に噛合するサイレントチェーンである。そして、図10に示されるように板厚方向に積層された状態で連結ピン5によって連結された複数のリンク部材2の間には、ばね部材6が介装されている。これにより、各リンク部材2にはばね部材6の弾性力によって図10に矢印で示されるように押圧力が作用し、各リンク部材2の間で作用する摩擦力が増大するようになる。このように各リンク部材2の間に作用する摩擦力を増大させることにより、リンク部材2の回動抵抗を増大させ、図9に示されるようにスプロケット4から離間した状態となる軸間領域におけるチェーン1の弦振動を抑制することができるようになる。
【特許文献1】特開平10‐54445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のようにばね部材6をリンク部材2の間に介装して隣接するリンク部材2の間に作用する摩擦力を増大させると、図9において二点鎖線で囲んだ部分Aのようにチェーン1が軸間領域からスプロケット4に巻き付くとき、また部分Bのようにチェーン1がスプロケット4から離脱して軸間領域へと進行するときのリンク部材2の回動抵抗までもが増大してしまい、駆動力の伝達効率が低下してしまう。
【0005】
尚、こうした課題は上記のようにリンク部材2に形成された噛合片3を介してスプロケット4と噛合するサイレントチェーンに限らず、リンク部材を連結する連結ピンに外嵌されたローラを介してスプロケットと噛合するローラチェーンにあっても概ね共通するものである。
【0006】
この発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は駆動力の伝達効率の低下を極力抑制しつつ、弦振動を抑制することのできる駆動力伝達用チェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、一対の挿入孔を備えた複数のリンク部材と、同挿入孔にそれぞれ挿入される複数の連結ピンとを備え、同連結ピンにより各リンク部材を互いに回動可能に連結することによって環状に形成されるとともに、複数のスプロケットに巻き掛けられて各スプロケットの間で駆動力を伝達する駆動力伝達用チェーンにおいて、前記リンク部材に、同一の連結ピンによって回動可能に連結された他のリンク部材との相対的な屈曲角度が所定角度未満である場合に前記他のリンク部材に係合してこれらリンク部材の間に作用する摩擦力を増大させる一方、前記相対的な屈曲角度が所定角度以上である場合にその係合が解除される係合部が設けられていることをその要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、あるスプロケットとの噛合が解除されて他のスプロケットに巻き付くまでの軸間領域においてチェーンが略直線状になり、同一の連結ピンによって連結されたリンク部材の相対的な屈曲角度が小さくなっているときには、係合部が同一の連結ピンによって連結された他のリンク部材に係合し、リンク部材間の摩擦力が増大した状態となる。一方、チェーンがスプロケットに巻き付き始め、屈曲角度が所定角度以上になった場合には、この係合部の係合が解除されてリンク部材間に生じる摩擦力が減少するため、リンク部材が容易に回動するようになる。すなわち、上記請求項1に記載の発明によれば、軸間領域ではリンク部材の回動抵抗を増大させる一方、チェーンがスプロケットに巻き付くときには回動抵抗を低下させることができるようになり、駆動力の伝達効率の低下を極力抑制しつつ、弦振動を抑制することができる。
【0009】
尚、上記所定角度は、チェーンがスプロケットに巻き付いて噛合しているときのリンク部材の屈曲角度よりも小さな値に設定される。また、この所定角度を小さな値に設定するほど、リンク部材が連結ピンを軸として回動する際、係合部の係合が解除された状態となる範囲が広くなるため、駆動力の伝達効率の低下を抑制する効果が大きくなる。そのため、伝達効率の向上を図る上では上記所定角度を極力小さな値に設定することが望ましい。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、前記リンク部材は、交互に積層された状態で前記連結ピンにより回動可能に連結されるとともに、前記スプロケットと噛合可能でありその歯幅が先端側ほど狭い形状を有する噛合片を有し、前記係合部は前記噛合片の先端部に位置するとともに同噛合片からこれに隣接する他の噛合片に向かって突出するように形成されてなることをその要旨とする。
【0011】
サイレントチェーン、すなわちリンク部材を交互に積層した状態で連結ピンにより回動可能に連結するとともに、スプロケットと噛合可能に突出する噛合片を各リンク部材に形成するようにしたチェーンにあっては、上記請求項2に記載の構成のように噛合片の先端部からこれに隣接する噛合片に向かって突出するように係合部を形成することにより、リンク部材の回動中心である連結ピンの軸心から離間した位置に係合部を形成することができる。これにより、係合部が係合している場合には、係合部位に作用する摩擦力によってより大きな回動抵抗が発生するようになり、好適にチェーンの弦振動を抑制することができる。
【0012】
また、上記構成によれば、スプロケットに噛合可能でありその先端側ほど歯幅が狭くなる噛合片に係合部を設け、これを隣接する噛合片と係合させるようにしているため、リンク部材の回動に伴って係合が生じる部位はこれら噛合片の重なり合う範囲に限定される。また、噛合片はその先端ほど歯幅が次第に狭くなる形状を有しているため、上記構成のように噛合片の先端部に係合部を設けることにより、リンク部材の回動に伴って係合が生じる部位を歯幅の狭い先端部が重なり合うより狭い範囲に限定することができる。すなわち上記請求項2に記載の構成によれば、係合部の係合が解除された状態となる範囲が広くなり、駆動力の伝達効率の低下を好適に抑制することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、前記係合部は前記噛合片の先端部をこれに隣接する噛合片の先端部に向かって屈曲させた形状を有してなることをその要旨とする。
【0014】
上記請求項2に記載の発明のように噛合片の先端部から隣接する噛合片に向かって突出する係合部を設ける場合には、請求項3に記載の発明によるように噛合片の先端部を隣接する噛合片に向かって屈曲させることにより係合部を形成することができる。このように噛合片の先端部を屈曲させることにより係合部を形成する構成であれば、リンク部材をプレス機等で打ち抜いて作成する際に併せて係合部を形成することができるようになる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて前記リンク部材は、交互に積層された状態で前記連結ピンにより回動可能に連結されるとともに前記スプロケットと噛合可能でありその歯幅が先端側ほど狭い形状を有する噛合片を有する噛合リンクと、同噛合リンクとともに前記連結ピンによって回動可能に連結されて前記スプロケットと係合することにより同スプロケットと前記噛合リンクとのずれを抑制するガイドリンクとを含み、前記係合部は前記ガイドリンクにおいて前記噛合片の先端部に対向して位置し、同ガイドリンクから前記噛合片の先端部に向かって突出するように形成されてなることをその要旨とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2又は請求項4に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、前記係合部が前記隣接する噛合リンクにおける前記噛合片の先端部に向かって突出するように形成された凸部であることをその要旨とする。
【0017】
上記請求項4に記載の発明のようにリンク部材として、スプロケットと噛合可能な噛合片を備える噛合リンクに加え、この噛合リンクと連結ピンによって回動可能に連結されてスプロケットと係合することにより噛合リンクがスプロケットからずれるのを抑制するガイドリンクを備える場合にあっては、ガイドリンクに係合部を形成する構成を採用することもできる。こうした構成を採用する場合には、上記請求項4に記載の構成のように、ガイドリンクから隣接する噛合片の先端部に向かって突出するように、この先端部と対向する位置に係合部を形成することにより、上記請求項2に記載の発明と同様に軸間領域では係合部を噛合片の先端部に係合させてリンク部材の回動抵抗を増大させる一方、チェーンがスプロケットに巻き付き始めるときにはこの係合を解除して、回動抵抗を低下させることができるようになる。
【0018】
また、係合部の具体的な構成としては、上記請求項5に記載の発明のように隣接する噛合リンクにおける噛合片の先端部に向かって突出する凸部を形成し、これを係合部とすることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、前記凸部は前記屈曲角度が小さくなるほど前記隣接する噛合リンクとの間に作用する摩擦力が大きくなるようにその表面が傾斜してなることをその要旨とする。
【0020】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、前記凸部が半球状の突起からなることをその要旨とする。
上記請求項6に記載の構成によれば、同一の連結ピンに連結されたリンク部材の屈曲角度が小さくなるのに伴って滑らかに係合が開始され、次第に係合部の作用による摩擦力が増大するようになるとともに、屈曲角度が大きくなるのに伴ってこの摩擦力が次第に低下し、滑らかに係合が解除されるようになる。これにより、係合部の係合とその解除動作にかかるチェーンの振動を抑制することができる。
【0021】
具体的には、上記請求項7に記載の発明によるようにリンク部材の表面に半球状の突起を形成することにより、リンク部材の屈曲角度が小さくなるほどリンク部材に作用する摩擦力が大きくなるように傾斜した表面を有する凸部を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1の実施形態)
以下、この発明にかかる駆動力伝達用チェーンを、リンク部材に形成された噛合片を介してスプロケットと噛合するサイレントチェーンに具体化した第1の実施形態について、図1〜3を参照して説明する。尚、図1は本実施形態のサイレントチェーン100の上面図を示している。また、図2(a),(b)はサイレントチェーン100を構成するリンク部材としての噛合リンク10A,10Bの斜視図であり、図2(a)は噛合リンク10Aの斜視図、図2(b)は噛合リンク10Bの斜視図である。
【0023】
図1に示されるようにサイレントチェーン100は、一対の挿入孔11がそれぞれ形成された複数の噛合リンク10A、及び噛合リンク10Bを連結ピン20によって互いに回動可能に連結することにより形成されている。尚、本実施形態のサイレントチェーン100にあっては、図1に示されようにサイレントチェーン100の幅方向(図1における上下方向)における内側の部分に噛合リンク10Aが配設され、最も外側の部分に噛合リンク10Bが配設されている。
【0024】
図2(a),(b)に示されるように、噛合リンク10A,10Bは薄板状をなし、挿入孔11がそれぞれ2つずつ形成されている。また、噛合リンク10A,10Bは、その歯幅Wが先端側(図2における下方)に向かって次第に狭くなる山型の噛合片12を2つずつ備えている。
【0025】
また、図2(b)に示されるように噛合リンク10Bにあってはこの一対の噛合片12の先端部が互いに同じ方向に折り曲げられおり、この部分が図1に示されるように噛合リンク10Aと重ね合わされた状態において、隣接する噛合リンク10Aの噛合片12に向かって突出する係合部13とされている。
【0026】
尚、これら噛合リンク10A,10Bは、プレス機によって金属の薄板を打ち抜くことにより製造される。そして、噛合リンク10Bにおける係合部13は、このプレスの際に噛合片12の先端部を折り曲げることによって形成される。
【0027】
こうして形成された噛合リンク10A,10Bは、図1に示されるように交互に重ね合わされた状態で連結ピン20によって回動可能に連結される。
本実施形態のサイレントチェーン100にあっては、噛合リンク10Bの2つの噛合片12の先端部が折り曲げられて係合部13とされているため、図3の右側に示されるようにサイレントチェーン100が略直線状になっている部分ではこの噛合リンク10Bに形成された係合部13が隣接する噛合リンク10Aの噛合片12に係合するようになる。これにより、噛合リンク10Bの係合部13と噛合リンク10Aの噛合片12との間には摩擦力が作用するようになり、噛合リンク10Aと噛合リンク10Bとの間の回動抵抗が増大する。
【0028】
また、このように係合部13が係合することにより、図1に矢印で示されるように各噛合リンク10Aには押圧力が作用し、この押圧力によって、係合部13を有する噛合リンク10Bとこれが直接係合している噛合リンク10Aとの間のみならず、各噛合リンク10A間の回動抵抗も増大するようになる。
【0029】
一方、図3の左側に示されるようにサイレントチェーン100が屈曲し、同一の連結ピン20で連結された噛合リンク10A,10Bの相対的な屈曲角度が所定角度θ以上になっている部分では、噛合リンク10Aにおける噛合片12の先端部と噛合リンク10Bにおける係合部13とが重ならなくなり、噛合リンク10Bの係合部13と噛合リンク10Aの噛合片12との係合が解除されるようになる。
【0030】
これにより、噛合リンク10Aと噛合リンク10Bとの間の回動抵抗が低下するとともに、各噛合リンク10Aに作用していた押圧力が低下し、この押圧力によって増大していた各噛合リンク10A間の回動抵抗も低下するようになる。
【0031】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)軸間領域においてサイレントチェーン100が略直線状になり、同一の連結ピン20によって連結された噛合リンク10A,10Bの相対的な屈曲角度が小さくなっているときには、係合部13が隣接する噛合リンク10Aに係合し、噛合リンク10A,10B間の摩擦力が増大した状態となる。一方、サイレントチェーン100がスプロケットに巻き付き始め、屈曲角度が所定角度θ以上になった場合には、この係合部13の係合が解除されて噛合リンク10A,10B間に生じる摩擦力が減少するため、噛合リンク10A,10Bが容易に回動するようになる。すなわち、本実施形態のサイレントチェーン100によれば、軸間領域では噛合リンク10A,10Bの回動抵抗を増大させる一方、サイレントチェーン100がスプロケットに巻き付くときには回動抵抗を低下させることができるようになり、駆動力の伝達効率の低下を極力抑制しつつ、弦振動を抑制することができる。
【0032】
尚、上記所定角度θは、サイレントチェーン100がスプロケットに巻き付いて噛合するときの噛合リンク10A,10Bの屈曲角度よりも小さな値に設定される。また、この所定角度θを小さくするほど、噛合リンク10A,10Bが連結ピン20を軸として回動する際、係合部13の係合が解除された状態となる範囲が広くなるため、駆動力の伝達効率の低下を抑制する効果が大きくなる。そのため、伝達効率の向上を図る上では上記所定角度θが小さくなるように係合部13の大きさ等を調整することが望ましい。
【0033】
(2)噛合リンク10Bにおける噛合片12の先端部をこれに隣接する噛合リンク10Aの噛合片12に向かって突出する係合部13としているため、噛合リンク10A,10Bの回動中心である連結ピン20の軸心からより離間した位置に係合部13が形成されている。これにより、係合部13が係合している場合には、係合部位に作用する摩擦力によってより大きな回動抵抗が発生するようになり、好適にチェーンの弦振動を抑制することができる。
【0034】
また、その先端側ほど歯幅Wが狭くなる噛合片12に係合部13を設け、これを隣接する噛合片12と係合させるようにしているため、噛合リンク10A,10Bの回動に伴って係合が生じる部位はこれら噛合片12の重なり合う範囲に限定される。また、噛合片12はその先端ほど歯幅Wが次第に狭くなる形状を有しているため、噛合片12の先端部に係合部13を設けることにより、噛合リンク10A,10Bの回動に伴って係合が生じる部位を先端部が重なり合うより狭い範囲に限定することができる。すなわち係合部13の係合が解除された状態となる範囲が広くなり、駆動力の伝達効率の低下を好適に抑制することができる。
【0035】
(3)リンク部材の間にばね部材を介装させてリンク部材間に作用する摩擦力を増大させ、弦振動を抑制するサイレントチェーンが知られているが、このようにばね部材を介装させる構成にあっては、リンク部材を連結ピンによって連結する作業をする際には、リンク部材の間にばね部材を挟み込んだ状態でリンク部材を押圧し、ばね部材を変形させながら連結ピンを挿入する必要がある。そのため、ばね部材の弾性力によってリンク部材の位置がずれやすくなる。これに対して本実施形態のサイレントチェーン100にあっては、噛合リンク10A,10Bを連結ピン20によって連結する作業をする際には、隣接する噛合リンク10Aと噛合リンク10Bとを挿入孔11を中心に屈曲させた状態で連結ピンを挿入することにより、係合部13を噛合片12に係合させずに組み付けることができる。そのため、噛合リンク10A,10Bの位置がずれにくくなり、組み付けを容易に行うことができる。
【0036】
(4)噛合片12の先端部を隣接する噛合片12に向かって屈曲させることにより係合部13を形成するようにしている。このように噛合片12の先端部を屈曲させることにより係合部13を形成する構成であれば、上述のように噛合リンク10Bをプレス機等で打ち抜いて作成する際に併せて係合部13を形成することができるようになり、リンク部材の製造工程を簡素化することができる。
【0037】
尚、上記第1の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、噛合リンク10Bにおける噛合片12の先端部を屈曲させることにより隣接する噛合リンク10Aの噛合片12に向かって突出する係合部13とする構成を示したが、図4(a)に示されるように噛合片12の先端部に半球状の突起からなる凸部113を形成することによりこれを係合部とする構成を採用することもできる。
【0038】
こうした構成を採用した場合には図4(b)に示されるように凸部113が傾斜した表面を有する形状となる。これにより、噛合リンク10A,10Bの屈曲角度が小さくなるのに伴い、図4(b)に二点鎖線で示されるように噛合リンク10Aが凸部113に乗り上げるよう移動して係合が開始されるときには、屈曲角度が小さくなるのに伴って滑らかに係合が開始され、次第に係合部の作用による摩擦力が増大するようになる。一方、屈曲角度が大きくなる場合には、これに伴って滑らかに係合が解除されるようになる。これにより、上記第1の実施形態にかかる(1)、(2)、(3)の効果に加えて、凸部113の係合動作と、その解除動作にかかるサイレントチェーン100の振動を抑制することができるようになる。
【0039】
・また、凸部113の形状は上記のような半球状に限定されるものではない、半球状の他、例えば断面三角形状、断面台形状等、噛合リンク10A,10Bの屈曲角度が小さくなるほど隣接する噛合リンク10Aとの間に作用する摩擦力が大きくなるようにその表面が傾斜した形状を有していればよい。
【0040】
・また、上記のように凸部113が傾斜した表面を有していなくても、少なくとも隣接する噛合リンク10Aにおける噛合片12の先端部に向かって突出するように形成されていれば、噛合リンク10A,10Bの屈曲角度によってこれら噛合リンク10A,10B間に作用する回動抵抗を変化させることができる。
(第2の実施形態)
以下、図5及び図6を参照してこの発明にかかる駆動力伝達用チェーンを具体化した第2の実施形態のサイレントチェーンについて説明する。尚、第1の実施形態と同様の部材については同一の符号を付すのみとしてその詳細な説明を割愛し、両者の相違点を中心に説明する。また、図5は、本実施形態にかかるサイレントチェーン200の正面図、図6(a)は同サイレントチェーン200の図5におけるa‐a線方向の断面図、図6(b)は図5におけるb‐b線方向の断面図である。
【0041】
図5に示されるように本実施形態のサイレントチェーン200にあっては、第1の実施形態における噛合リンク10Bに替えて、アウターガイドリンク30を設けている。アウターガイドリンク30は、第1の実施形態における噛合リンク10Bと同様に薄板状をなすとともに、一対の挿入孔が形成されており、サイレントチェーン200の外側の部分に配設されている。
【0042】
アウターガイドリンク30は、図5に示されるように噛合片を有しておらず、噛合リンク10Aの噛合片12を覆うようにスプロケット40側に向かって延びている。そのため、アウターガイドリンク30は、図6(a)に示されるようにサイレントチェーン200がスプロケット40に巻き付いた状態において、その側面がスプロケット40の側面と対向するようになる。これにより、サイレントチェーン200にあっては、アウターガイドリンク30がスプロケット40の側面と係合することにより、サイレントチェーン200がスプロケット40からずれて脱落することが抑制される。
【0043】
また、図5及び図6(b)に示されるようにアウターガイドリンク30には、アウターガイドリンク30と噛合リンク10Aとの屈曲角度が略零、すなわちサイレントチェーン200が略直線状になったときに、隣接する噛合リンク10Aにおける噛合片12の先端部と対向する位置に半球状の凸部33が設けられている。尚、図5にあっては説明の便宜上、凸部33を大きめに図示しているが、この凸部33は、噛合片12との係合範囲が狭くなるように極力小さくすることが望ましい。
【0044】
上記のようにアウターガイドリンク30に凸部33が形成されていることにより、本実施形態のサイレントチェーン200にあっては、図5の右側に示されるようにサイレントチェーン200が略直線状になっている部分ではこのアウターガイドリンク30に形成された凸部33が隣接する噛合リンク10Aの噛合片12に係合するようになる。これにより、凸部33と噛合リンク10Aの噛合片12との間には摩擦力が作用するようになり、噛合リンク10Aとアウターガイドリンク30との間の回動抵抗が増大する。
【0045】
また、このように凸部33が係合することにより、図6(b)に矢印で示されるように各噛合リンク10Aには押圧力が作用し、この押圧力によって、アウターガイドリンク30とこれが直接係合している噛合リンク10Aとの間のみならず、各噛合リンク10A間の回動抵抗も増大するようになる。
【0046】
一方、図5の左側に示されるようにサイレントチェーン200が屈曲し、同一の連結ピン20で連結されたアウターガイドリンク30と噛合リンク10Aとの相対的な屈曲角度が所定角度以上になっている部分では、噛合リンク10Aにおける噛合片12の先端部とアウターガイドリンク30における凸部33とが重ならなくなり、凸部33と噛合リンク10Aの噛合片12との係合が解除されるようになる。
【0047】
これにより、噛合リンク10Aとアウターガイドリンク30との間の回動抵抗が低下するとともに、各噛合リンク10Aに作用していた押圧力が低下し、この押圧力によって増大していた各噛合リンク10A間の回動抵抗も低下するようになる。
【0048】
以上説明した第2の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)リンク部材としてのアウターガイドリンク30と噛合リンク10Aとの屈曲角度が所定角度未満になり、サイレントチェーン200が略直線状となっているときに係合する係合部として、アウターガイドリンク30から隣接する噛合リンク10Aにおける噛合片12の先端部に向かって突出するように、これと対向する位置に凸部33を形成している。これにより、軸間領域では凸部33を噛合片12の先端部に係合させてアウターガイドリンク30と噛合リンク10Aとの回動抵抗を増大させる一方、サイレントチェーン200がスプロケット40に巻き付き始めるときにはこの係合を解除して、回動抵抗を低下させ、上記第1の実施形態における(1)〜(3)に準ずる効果を得ることができる。
【0049】
尚、上記第2の実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記第2の実施形態では、図5及び図6(a),(b)に示されるようにアウターガイドリンク30に凸部33を形成する構成において、サイレントチェーン200の両側面に設けられるアウターガイドリンク30の双方に凸部33を設ける構成を示した。これに対して、一方のアウターガイドリンク30のみに凸部33を設ける構成を採用することもできる。
【0050】
・上記第2の実施形態ではサイレントチェーン200における外側の部分にアウターガイドリンク30が配設されたアウターガイド型のサイレントチェーン200を例示した。これに対して、図7に示されるようにスプロケット40にガイド溝41を形成するとともに、アウターガイドリンク30に替えて噛合リンク10Aの間に介装されるインナーガイドリンク50を設けたインナーガイド型のサイレントチェーンに本願発明を適用することもできる。具体的には、こうしたインナーガイド型のサイレントチェーンにあっては、インナーガイドリンク50の側面に噛合リンク10Aの噛合片12の先端部と係合する係合部を設けることにより、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
・また、上記のようにガイドリンクを備えるサイレントチェーンであっても、ガイドリンクに係合部を設けずに、上記第1の実施形態と同様に噛合リンクに係合部を設ける構成や、ガイドリンクと噛合リンクの双方に係合部設ける構成を採用することもできる。
【0052】
尚、上記第1及び第2の実施形態は、上記の変更例の他、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・係合部の配設態様は適宜変更することができる。例えば、上記第1及び第2の実施形態ではサイレントチェーンの外側に位置するリンク部材の側面から内側に位置するリンク部材に向かって突出する係合部を設ける構成を示したが、サイレントチェーンの内側に位置するリンク部材の側面から隣接するリンク部材に向かって突出する係合部を設ける構成を採用することもできる。また、係合部同士が互いに対向するように隣接するリンク部材の双方に係合部を設ける構成を採用することもできる。
【0053】
・また、全てのリンク部材に係合部を設ける等、係合部の数を適宜変更することもできる。
・また上記第1及び第2の実施形態ではリンク部材がスプロケット40に向かって突出する噛合片12を有し、この噛合片12を介してスプロケットと噛合するサイレントチェーンを例示したが、本願発明は、こうしたサイレントチェーンに限定されるものではない。例えば、リンク部材を連結ピンによって連結するとともに、同連結ピンに外嵌されたローラを介してスプロケットと噛合するローラチェーンにあっても本願発明を適用することができる。ローラチェーンに本願発明を適用する場合には、例えば図8に示されるように、アウターリンク210Bの外周部分に凸部213を有する係合部212を設けるとともに、インナーリンク210Aの外周部分にこの係合部212の凸部213と係合する被係合部214を設けるといった構成を採用することができる。こうした構成を採用すれば、リンク部材の屈曲角度が所定角度未満の場合には、図8において二点鎖線で囲まれた部分Yのようにこれら係合部212の凸部213と被係合部214とが係合し、インナーリンク210Aとアウターリンク210Bとの回動抵抗が増大するようになる。一方で、屈曲角度が所定角度以上の場合には、部分Xのように係合部212の凸部213と被係合部214との係合が解除され、インナーリンク210Aとアウターリンク210Bとの回動抵抗が低下するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の第1の実施形態にかかるサイレントチェーンの上面図。
【図2】(a),(b)は同実施形態にかかるサイレントチェーンを構成する噛合リンクの斜視図。
【図3】同実施形態にかかるサイレントチェーンの正面図。
【図4】(a)は第1の実施形態の変更例としての噛合リンクの正面図、(b)は同噛合リンクの断面図。
【図5】この発明の第2の実施形態にかかるサイレントチェーンの正面図。
【図6】(a),(b)は同実施形態にかかるサイレントチェーンの断面図。
【図7】第2の実施形態の変更例にかかるサイレントチェーンの断面図。
【図8】この発明の変更例にかかるローラチェーンの正面図。
【図9】ばね部材が介装されたサイレントチェーンの正面図。
【図10】同サイレントチェーンの上面図。
【符号の説明】
【0055】
10A,10B…噛合リンク、11…挿入孔、12…噛合片、13…係合部、20…連結ピン、30…アウターガイドリンク、33…凸部、40…スプロケット、41…ガイド溝、50…インナーガイドリンク、100…サイレントチェーン、110…噛合リンク、111…挿入孔、112…噛合片、113…凸部、200…ローラチェーン、210A…インナーリンク、210B…アウターリンク、212…係合部、213…凸部、214…被係合部、220…連結ピン、230…ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の挿入孔を備えた複数のリンク部材と、同挿入孔にそれぞれ挿入される複数の連結ピンとを備え、同連結ピンにより各リンク部材を互いに回動可能に連結することによって環状に形成されるとともに、複数のスプロケットに巻き掛けられて各スプロケットの間で駆動力を伝達する駆動力伝達用チェーンにおいて、
前記リンク部材に、同一の連結ピンによって回動可能に連結された他のリンク部材との相対的な屈曲角度が所定角度未満である場合に前記他のリンク部材に係合してこれらリンク部材の間に作用する摩擦力を増大させる一方、前記相対的な屈曲角度が所定角度以上である場合にその係合が解除される係合部が設けられている
ことを特徴とする駆動力伝達用チェーン。
【請求項2】
前記リンク部材は、交互に積層された状態で前記連結ピンにより回動可能に連結されるとともに、前記スプロケットと噛合可能でありその歯幅が先端側ほど狭い形状を有する噛合片を有し、
前記係合部は前記噛合片の先端部に位置するとともに同噛合片からこれに隣接する他の噛合片に向かって突出するように形成されてなる
請求項1に記載の駆動力伝達用チェーン。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、
前記係合部は前記噛合片の先端部をこれに隣接する噛合片の先端部に向かって屈曲させた形状を有してなる
ことを特徴とする駆動力伝達用チェーン。
【請求項4】
前記リンク部材は、交互に積層された状態で前記連結ピンにより回動可能に連結されるとともに前記スプロケットと噛合可能でありその歯幅が先端側ほど狭い形状を有する噛合片を有する噛合リンクと、同噛合リンクとともに前記連結ピンによって回動可能に連結されて前記スプロケットと係合することにより同スプロケットと前記噛合リンクとのずれを抑制するガイドリンクとを含み、
前記係合部は前記ガイドリンクにおいて前記噛合片の先端部に対向して位置し、同ガイドリンクから前記噛合片の先端部に向かって突出するように形成されてなる
請求項1に記載の駆動力伝達用チェーン。
【請求項5】
請求項2又は請求項4に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、
前記係合部が前記隣接する噛合リンクにおける前記噛合片の先端部に向かって突出するように形成された凸部である
ことを特徴とする駆動力伝達用チェーン。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、
前記凸部は前記屈曲角度が小さくなるほど前記隣接する噛合リンクとの間に作用する摩擦力が大きくなるようにその表面が傾斜してなる
ことを特徴とする駆動力伝達用チェーン。
【請求項7】
請求項6に記載の駆動力伝達用チェーンにおいて、
前記凸部が半球状の突起からなる
ことを特徴とする駆動力伝達用チェーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−138802(P2009−138802A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313642(P2007−313642)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)