説明

骨形成促進剤

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、骨形成促進剤に関する。さらに詳細には、本発明はビスホスホン酸またはその塩を有効成分とする骨形成促進剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビスホスホン酸は、生体内に存在するピロ燐酸の誘導体で、強力な骨吸収抑制作用を有し〔Fleisch H., Bisphosphonates−history and experimental basis, Bone 1987, 8(suppl.1); S23−S28〕、パジェット(Paget’s)病(Kanis JA. Drags used for the treatment of Paget’s disease of bone,London ,Martin Dunitz Ltd.,1991,159,216 )、がんの骨転移や悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(Fleisch H., Bisphosphonates:pharmacology and use in the treatment of tumour−induced hypercalcaemic and metastatic bone disease,Drugs 1991,42,919−944) および骨粗鬆症(Watts NB, Harris ST,Genant HK,et al.,Intermittent cyclical etidronate treatment of postmenopausal osteoporosis,N.Engl.J.Med.1990,323,73−79等)における骨溶解の制御または骨量減少の抑制に効果的に使われてきた。
【0003】
そのようなビスホスホン酸の一つである4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸(アレンドロネート)もまた強力な骨吸収抑制剤であることが、in vitro(Sato M,Grasser W.,Effects of bisphosphonates on isolated rat osteoclasts as examined by reflected light microscopy,J.Bone Miner. Res.,1990,5,31−40)、実験動物(Thompson DD,Seeder JG,Quartuccio H,et al.,The bisphosphonate,alendronate,prevents bone loss in ovariectomized baboons,J.Bone Miner.Res.,1992,7,951−960等)、パジェット病(O’Doherty DP,Gertz BJ,Tindale W,et al.,Effects of five daily 1h infusions of alendronate in Paget’s desease of bone ,J.Bone Miner. Res. 1992,7,81−87等、特公平2−13645号公報、特開平4−211015号公報)、および骨粗鬆症患者(Harris ST,Gertz BJ,Genant HK,et al.,The effect of short term treatment with alendronate on vertebral density and biochemical markers of bone remodeling in early postmenopausal women, J.Clin. Endocrinol. Metab.,1993,76,1399−1406)において確認されている。
【0004】
ビスホスホン酸は、骨吸収に対して重要な作用を有しているため、これまでその研究の多くはこの骨吸収抑制作用に焦点をあてたものであった(Sato M.,Grasser W.,Endo N.,et al, Bisphosphonate action: Alendronate localization inrat bone and effects on osteoclast ultrastructure, J. Clin. Invest 1991, 88 :2095−2105 )
【0005】
これに対して、ビスホスホン酸の骨形成に対する直接作用に関する報告として、骨芽細胞において骨形成抑制作用が認められたこと(Lemkes HHPJ,Reitsma PH,Frijlink W.,et al.,A new diphosphonate, Dissociation beteen effects on cells and mineral in rats and a preliminary trial in Paget’s disease,Adv. Exp. Med. Biol.,1978,103,459−469)、骨芽細胞においてその機能の上昇作用が認められたこと(Felix R,Fleisch H. Increase in alkaline phosphatase activity in calvaria cells cultured with diphosphonates,Biochem. J.,1979,183,73−81等)があるが、その骨形成促進作用については何の記載もなされていない。
【0006】
一方、Tenenbaum HC,Torontali M.,Sukhu B.,Effects of bisphosphonates and inorganic pyrophosphate on osteogenesis in vitro,Bone,1992,13,249−255 およびHankel LS,McBride DJ,Shapiro JR.,Bisphosphonates enhance mineralization in a chick osteoblast cell culture system(abstract),Bone Miner.Res.,1992,7(suppl.1)s722 では、いずれもニワトリの骨芽細胞において、ビスホスホン酸の骨形成に対する作用の検討を試みている。
【0007】
しかしながら、Tenenbaum らでは、高濃度(3×10−8M以上)のパミドロネート、エチドロネートで石灰化の促進作用と抑制作用という相反する結果が得られているにすぎない。また、Hankelらでは、高濃度のエチドロネート等で石灰化促進作用が認められたものの、コラーゲンには変化が認められておらず、これらの結果から、ビスホスホン酸に臨床的に骨形成促進作用が認められるというには、必ずしも十分とはいえない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、新規な骨形成促進剤を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ヒト骨芽細胞様細胞を用いて、ビスホスホン酸、特にアレンドロネートについて、in vitro石灰化および骨基質タンパク合成に対する影響を検討し、その結果、到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、下記式(I)
【0011】
【化2】



〔式中、RはHN−(CH−(nは2〜5の整数を表す)またはCH−を表し、Rは−OHを表す。〕で示されるビスホスホン酸またはその塩を有効成分とする骨形成促進剤である。
【0012】
本発明の骨形成促進剤とは、例えば骨芽細胞の石灰化促進作用および/または骨基質産生促進作用に基づくものをいい、前者としては、例えば、類骨層へのカルシウムおよびリンの沈着を促進することにより、後者としては、例えば、骨基質タンパクであるオステオカルシンおよび/またはコラーゲンなどの合成を促進することによる。なかでも、骨芽細胞の石灰化促進作用および骨基質産生促進作用に基づく骨形成促進剤を好ましいものとして挙げることができる。
【0013】
さらに、例えば1α,25−ジヒドロキシビタミンDのような骨芽細胞の石灰化を促進する因子(以下、骨形成促進因子と略する)の作用を促進および/またはこれと協調的に作用するという意味で、本発明の骨形成促進剤の骨形成促進が1α,25−ジヒドロキシビタミンD依存性のものであるものも本発明の範囲に含まれる。すなわち、本発明の骨形成促進剤として好ましいものとして、この1α,25−ジヒドロキシビタミンD 依存性と上記骨芽細胞の石灰化促進作用および/または骨基質産生促進作用と組み合わされた作用に基づくものも挙げることができる。
【0014】
前記式(I)で示されるビスホスホン酸としては、例えば、6−アミノ−1−ヒドロキシヘキシリデン−1,1−ビスホスホン酸、5−アミノ−1−ヒドロキシペンチリデン−1,1−ビスホスホン酸、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸(アレンドロネート:alendronate )、3−アミノ−1−ヒドロキシプロピリデン−1,1−ビスホスホン酸(パミドロネート:pamidronate)、エチドロネート(etidronate) が挙げられるが、これらのなかでも、アレンドロネート、パミドロネート、エチドロネートが好ましく、特に、アレンドロネートを好ましいものとして挙げることができる。
【0015】
本発明のビスホスホン酸の塩としては、薬学的に許容される塩、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、塩酸塩等の無機酸塩、クエン酸、アミノ酸塩等の有機酸塩等が挙げられ、なかでも水溶性に優れている点からアレンドロネートのモノナトリウム塩・トリハイドレートを好ましいものとして挙げることができる。
【0016】
本発明の前記式(I)で示されるビスホスホン酸はいずれも公知化合物であって、例えば、特公平2−13645号公報、特開昭61−109794号公報、特開平3−101684号公報、特開平5−132492号公報、特開平4−211015号公報等に記載された方法によって、アレンドロネートまたはそのモノナトリウム塩・トリハイドレート、カリウム塩、カルシウム塩等の塩を得ることができ、また、例えば西独特許第2130794号明細書、米国特許第4327039号明細書等に記載された方法によって、パミドロネートまたはその塩を、米国特許3468935号、第3400147号、または第3475486号明細書等に記載された方法によって、エチドロネートまたはその塩を得ることができる。
【0017】
本発明のビスホスホン酸またはその塩は、経口的、または注射剤等の非経口的投与用の適切な薬理学的単体のいずれかと共に投与することができる。投与量は、被投与者の年令、健康状態、体重、もし行っているとすれば併用療法の種類、治療の頻度および望まれる効果の種類に依存する。
【0018】
一般に、活性成分化合物の全身的日量は、骨芽細胞レベルにおいて、10−13 〜10−7Mであり、約0.001μg/kg〜1mg/kg、好ましくは体重kg当たり、0.01μg〜0.1mgである。通常経口投与の場合、50ng/日〜50mg/日、非経口投与の場合、0.5ng/日〜0.5mg/日である。また、必要に応じて、例えば1α,25−ジヒドロキシビタミンD〔1α,25(OH)〕、1α−ヒドロキシビタミンD等の活性型ビタミンD類、エストロゲン等のホルモン剤と併用することもできる。
【0019】
本発明の骨形成促進剤は、経口投与の場合、錠剤、カプセル、粉末小包、液体溶液、懸濁液またはエリキシルのような投与形で、非経口的使用の場合、溶液または懸濁液のような処方用無菌液として使用することができる。
【0020】
かかる場合の賦形剤としては、例えば、糖、例えば、サッカロース、グルコース、ラクトース、スターチ、セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースなど、ゴム類、脂肪酸およびその塩、ポリオール、例えばプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、ポリエチレングリコールなど、タルク、芳香族エステル、水、生理食塩水、アルコール類、例えばエチルアルコール、脂肪族アルコール、トリグリセリド、脂肪酸エステル等と組み合わせて好適に製剤化される。
【0021】
本発明の骨形成促進剤は単独で、あるいは本発明の目的に反しない限りにおいて、他の薬物を混合して、あるいは各別に製剤化、投与することができる。そのような他の薬物として、前記した骨形成促進因子、例えば、1α,25−ジヒドロキシビタミンDやビタミンK、IL−4、IGF−IまたはTGF−β等のサイトカインを挙げることができ、かかる場合のこれら因子の投与量としては、通常これらの因子を薬物として投与する場合の処方量の範囲を挙げることができる。
【0022】
かくして本発明の骨形成促進剤が得られるが、本発明の骨形成促進剤は、前記のように石灰化促進作用、骨基質産生促進作用を有するので、例えば骨軟化症、骨形成不全症、骨粗鬆症、二次性副甲状腺機能亢進に基づく骨異栄養症、腎性骨異栄養症、歯周病の予防、治療および骨折の治療促進、歯科矯正に有用である。
【0023】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
なお、用いた骨芽細胞様細胞、測定法などは次のとおりである。
(1)細胞培養
ヒト骨膜由来骨芽細胞様細胞として、10歳男児の大腿骨由来の細胞(東京都老人総合研究所、腰原康子博士より)を用いた。すなわち、α−グリセロ燐酸−2Na(α−GP)〔東京化成工業(株)製〕および1α,25(OH)との培養により、高いアルカリフォスファターゼ(alkaline phosphatase:ALP)活性を示し、オステオカルシン(BGP)産生および石灰化がおこるものである。
【0025】
細胞の調製、培養法については、Biochem. Biophys. Res. Commun.,1987,145,651−657 ,In Vitro Cell. Biol.,1989,25,37−43 ,Connect. Tiss. ,1993,24.217−231 (いずれも、Koshihara Y,et al., の著) に従って行った。具体的には、細胞集団倍化数(population doubling level,PDL)19(以下、19PDL)の細胞を6または12−well culture plate) を用いて10%ウシ胎児血清(FBS)(アービンサイエンテイフィック製)を含む Eagle’s α−minimum essential medium (α−MEM)(ライフテクノロジーズ社製)中で培養(37℃、5%CO/95%air )した。コンフルエント到達(20PDL)2〜3日後、2mMのα−GP存在下に1α,25(OH)を添加または非添加でさらに所定期間培養した。1α,25(OH)はエタノール溶液として−20℃で保存し、エタノールの最終濃度が0.1%(v/v)となるように培養系に添加した。ビスホスホン酸はそれぞれphosphate−buffered saline (PBS)溶液として4℃で保存し、PBSの最終濃度が0.1%(v/v)となるように培養系に添加した。培養液は週3回交換した。
【0026】
(2)RT−PCR(reverse transcription−polymerase chain reaction)
ヒト骨芽細胞様細胞よりtotal RNAをAGPC法(Anal.Biochem.,1987,162,156−159)により調製した。total RNA1μgから、cDNAを合成した(37℃、60分)。Pro α1(I)collagen遺伝子およびBGP遺伝子に対する特異的プライマーとして、それぞれHCOLA−1A(5’−CCA CCG ACC AAG AAA CCA−3’) およびHCOLA−1B(5’−GCT CAC CAG GAC GAC CAG−3’) とHBGP−1A(5’−CCT CAC ACT CCTCGC CCT ATT−3’)およびHBGP−1B(5’−ATA GGC CTC CTG AAA GCC GAT−3’)を用いて、thermocycler oven (MiniCycler PTC−150;MJリサーチ製) 中でPCR増幅を行った。最初に2分間の変性(denaturation) を行った後、94℃、1分間の変性、55℃(BGP)または60℃〔pro α1(I)collagen〕、2分間のannealing 、72℃、3分間のextension を30サイクル行った。アガロースゲル上で電気泳動後、PCR産物をethidium bromideで染色して写真に撮影した(Polaroid ACMEL M−085 Auto)。
【0027】
(3)カルシウム(Ca) 、リン(Pi)、ALP活性、BGP、collagen、DNAの定量
ALP活性はMaio and de Carli(Nature 1962, 196, 600−601)の方法により、p−ニトロフェニルフォスフェート〔シグマ化学(株)製〕を基質として測定した。すなわち、培養終了後に細胞を生理食塩液で3回洗い、10mMp−ニトロフェニルフォスフェート−1mMMgCl−0.1Mカーボネートバッファー(pH10.0)を加えて15〜20分間反応させた。反応液を移し、415nmにおける吸光度を測定した。
【0028】
ALP活性測定反応後の細胞を再度生理食塩液で洗った後、5%過塩素酸(PCA)を加えてCaおよびPiを抽出(氷水中で15分間)する操作を2回繰り返して行った。CaおよびPiの含量はそれぞれo−cresolphthalein compexone(OCPC)法(Anal. Biochem. 1967, 18, 521−531) およびChenらの方法(Anal.Chem., 1956,28,1756−1758)で定量した。
【0029】
BCPは細胞を20%ギ酸中で超音波破砕して抽出し、凍結乾燥したのち測定まで−80℃に保存した。測定は、Gla−Osteocalcin 測定キット〔宝酒造(株)製〕を用いた酵素免疫測定法によった。
【0030】
細胞層のcollagen量は6N塩酸で加水分解(オートクレーブ中、130℃、30分間)したのち、Kivirikko らの方法(Anal. Biochem.,1967,19,249−255) に従ってハイドロキシプロリンを測定して定量した。
【0031】
DNA含量は、PCA抽出したのち、Burton法(Biochem. J.,1956,62,315−323)により測定した。
【0032】
(実施例1)ビスホスホン酸のヒト骨芽細胞様細胞の石灰化に及ぼす影響
コンフルエントに到達した20PDLのヒト骨芽細胞様細胞に、図1に示した濃度(10−12 M〜10−5M)のアレンドロネートまたはエチドロネートを添加し、1α,25(OH)(100ng/ml)および2mMα−GP存在下に7日間培養した。
【0033】
対照例としては、1α,25(OH)単独のものを用い、前記カルシウム定量法に従って7日間培養後のヒト骨芽細胞様細胞層のCa含量を定量した。結果を図1に示した。図1において、各カラムは平均値±標準誤差(例数3)を示す。対照との統計学的有意差は、*:P<0.05、**:P<0.01、***:P<0.001である。
【0034】
図1から、アレンドロネートが10−12 〜10−7Mの濃度では、100ng/mlの1α,25(OH)存在下で7日間培養したヒト骨芽細胞様細胞のCa沈着(石灰化)を促進し、10−6M以上の濃度ではこれを逆に抑制することが判る。石灰化促進作用は、10−9M付近で最大となったが、1α,25(OH)の非存在下ではこのような促進効果は認められなかった(データ示さず)。
【0035】
エチドロネートも同様に、低濃度(10−10 〜10−8M)ではヒト骨芽細胞様細胞の石灰化を促進し、10−6M以上ではこれを抑制した。石灰化促進作用におけるエチドロネートの最小有効濃度はアレンドロネートのそれに比べて少なくとも100倍高かったが、高濃度側における石灰化抑制作用の発現濃度は両ビスホスホン酸でほとんど差がなかった。なお、データには示さないが、アレンドロネートおよびエチドロネートによるPi含量の変化も石灰化促進作用と同様であった。
【0036】
(実施例2)アレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞の石灰化に及ぼす影響
コンフルエントに到達した20PDLのヒト骨芽細胞様細胞に、図2に示した濃度(10−14 M〜10−9M)のアレンドロネートを添加し、1α,25(OH)(100ng/ml)および2mMα−GP存在下に14日間培養した。対照例としては1α,25(OH)単独のものを用い、実施例1と同様にして14日間培養後のヒト骨芽細胞様細胞層のCa含量を定量し、結果を図2に示す。図2において、各カラムは平均値±標準誤差(例数6)を示す。対照との統計学的有意差は、*:P<0.05、***:P<0.001である。
【0037】
図2から、1α,25(OH)(100ng/ml)を加えて細胞を14日間培養する条件下では、アレンドロネートによる石灰化促進作用は10−14 Mではほとんど認められないが、10−13 Mから明らかに発現することが判る。
【0038】
(実施例3)アレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞のBGP産生およびcollage産生に及ぼす影響
コンフルエントに到達した20PDLのヒト骨芽細胞様細胞に、アレンドロネートを添加し、2mMα−GP存在、かつ1α,25(OH)(10ng/ml)存在または非存在下に10日間培養した。対照例としてはアレンドロネート非添加のものを用い、前記の方法に従って細胞層のBGPおよびcollagen量を定量し、結果を図3および図4に示す。図3および4において、各カラムは平均値±標準誤差(例数4)を示す。対照との統計学的有意差は、*:P<0.05、**:P<0.01である。アレンドロネートは、石灰化促進作用における最小有効濃度(10−13 M)および最大効果発現濃度以下の濃度(10−11 M)を用いた。
【0039】
図3から、アレンドロネートが1α,25(OH)存在下で顕著にBGP産生を促進することが判る。また、図4から、アレンドロネートがcollagen産生を1α,25(OH)存在下で有意に促進することが判る。
【0040】
(実施例4)アレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞のBGPおよびpro α1(I)collagenの遺伝子発現に及ぼす影響
コンフルエントに到達した20PDLのヒト骨芽細胞様細胞に、実施例3で用いたのと同じ濃度のアレンドロネートを添加し、2mMα−GPおよび1α,25(OH) (10ng/ml)存在下に3、7または14日間培養した。対照例としては1α,25(OH)単独のものを用い、前記方法に従って細胞のtotal RNAを抽出し、BGPおよびpro α1(I)collagenの遺伝子発現を検討した。結果を図5(a)(BGP遺伝子発現)および(b)〔pro α1(I)collagen遺伝子発現)に示す。
【0041】
図5(a)からは、いずれの時点においてもアレンドロネートが1α,25(OH)によって強力に誘導されたBGP遺伝子発現をさらに促進するとは確認できなかったが、1α,25(OH)単独で既に強力にBGP遺伝子の発現が誘導されていることから、この測定系では、アレンドロネートによるそれ以上の発現を十分に検出できなかったものと考えられる。一方、図5(b)からは、アレンドロネートが1α,25(OH)によって誘導されたpro α1(I)collagenの遺伝子発現をすべての時点で濃度依存的にさらに促進することが判る。
【0042】
以上のとおり、これまでビスホスホン酸の作用としてよく知られている骨吸収抑制作用の発現濃度よりもさらに低濃度で、また、アレンドロネートおよびエチドロネートは、1α,25(OH)存在下でヒト骨芽細胞様細胞の石灰化を促進した。アレンドロネートによる石灰化促進に骨基質タンパクであるBGPおよびcollagenの産生とpro α1(I)collagenのmRNA発現の促進を伴っていたことから、ビスホスホン酸の物理化学的性質によるものではないと考えられた。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるビスホスホン酸のヒト骨芽細胞様細胞の石灰化に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】実施例2におけるアレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞の石灰化促進作用を示すグラフである。
【図3】実施例3におけるアレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞のBGP産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】実施例3におけるアレンドロネートのヒト骨芽細胞様細胞のcollagen産生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】実施例4におけるアレンドロネートのBGP(a)およびpro α1(I)collagen(b) 遺伝子発現に及ぼす影響を示す、電気泳動後の染色写真のバンドの位置を示す図である。
各レーンは以下のとおり:(0)BRL100塩基対ラダー、(1)、(2)、(3)無処置−3、7、14日、(4)、(5)、(6)1α,25(OH)単独−3、7、14日、(7)、(8)、(9)1α,25(OH)加アレンドロネート10−13 M−3、7、14日、(10)、(11)、(12)1α,25(OH)加アレンドロネート10−11 M−3、7、14日

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】



〔式中、RはH2 N−(CH2 n −(nは2〜5の整数を表す)またはCH3−を表し、R1は−OHを表す。〕で示されるビスホスホン酸またはその塩を有効成分とする骨軟化症治療剤。
【請求項2】
下記式(I)
【化2】



〔式中、RはH2 N−(CH2 n −(nは2〜5の整数を表す)またはCH3−を表し、R1は−OHを表す。〕で示されるビスホスホン酸またはその塩を有効成分とする腎性骨異栄養症治療剤。
【請求項3】
下記式(I)
【化3】



〔式中、RはH2 N−(CH2 n −(nは2〜5の整数を表す)またはCH3−を表し、R1は−OHを表す。〕で示されるビスホスホン酸またはその塩を有効成分とする骨形成不全症治療剤。
【請求項4】
RがH2 N−(CH2 3 、またはCH3 である請求項1記載の骨軟化症治療剤。
【請求項5】
RがH2 N−(CH2 3 、またはCH3 である請求項2記載の腎性骨異栄養症治療剤。
【請求項6】
RがH2 N−(CH2 3 、またはCH3 である請求項3記載の骨形成不全症治療剤。
【請求項7】
ビスホスホン酸またはその塩が、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸モノNa塩・トリハイドレートである請求項1記載の骨軟化症治療剤。
【請求項8】
ビスホスホン酸またはその塩が、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸モノNa塩・トリハイドレートである請求項2記載の腎性骨異栄養症治療剤。
【請求項9】
ビスホスホン酸またはその塩が、4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン−1,1−ビスホスホン酸モノNa塩・トリハイドレートである請求項3記載の骨形成不全症治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3566984号(P3566984)
【登録日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【発行日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−121258
【出願日】平成6年6月2日(1994.6.2)
【公開番号】特開平7−330613
【公開日】平成7年12月19日(1995.12.19)
【審査請求日】平成12年5月30日(2000.5.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【参考文献】
【文献】特開平07−048261(JP,A)
【文献】特開平04−211015(JP,A)
【文献】国際公開第94/005297(WO,A1)
【文献】国際公開第95/029679(WO,A1)