説明

骨材及びコンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法

【課題】骨材の乾燥収縮ひずみを簡便に推定する方法、及び当該骨材の乾燥収縮ひずみの推定値を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを精度良く推定する方法を提供する。
【解決手段】骨材の乾燥収縮ひずみを推定する方法は、骨材の吸湿率を測定し、当該吸湿率に基づいて骨材の乾燥収縮ひずみを推定する。具体的には、絶乾状態の骨材の質量(絶乾質量)と、所定の条件下で吸湿させた骨材の質量(吸湿質量)とを測定し、それらの質量に基づいて下記式により骨材の吸湿率を求める。
吸湿率(%)=(吸湿質量−絶乾質量)/絶乾質量×100

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨材及びコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント等の水硬性組成物は、その水和反応に伴い硬化し、コンクリート硬化体は、自己収縮や乾燥収縮等により収縮して、収縮ひずみを生じる。
【0003】
コンクリート硬化体に収縮ひずみが生じると、それによりひび割れが生じることがある。発生したひび割れは、コンクリート硬化体の美観を損なうだけではなく、コンクリート硬化体の水密性を低下させたり、コンクリート硬化体内に配置された鋼材の腐食を招いたりするなど、コンクリート硬化体で建造された構造物の耐久性を阻害する要因となる。
【0004】
そのため、コンクリート硬化体を製造しようとする場合には、ひび割れ抑制手段を講じるために、コンクリート硬化体の収縮ひずみを事前に把握する必要がある。
【0005】
コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを把握する方法として、試験による方法と、推定式を用いる方法がある。試験による方法としては、一般に、材齢7日まで標準養生(20℃水中)した10×10×40cm角柱供試体を温度20℃・相対湿度60%の条件下で保管し、JIS−A1129の長さ変化試験が知られている。
【0006】
しかしながら、上記試験による方法は、通常の試験期間が6か月であることや、試験の手間・費用が発生すること等の問題があるため、コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを精度良く推定できる方法が望まれていた。
【0007】
また、推定式を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定する手法として、製造しようとするコンクリート硬化体の配合(使用材料の種類、配合量等)に基づいて、下記式(2)による方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0008】
【数1】

【0009】
式(2)中、εsh(t,t)は「乾燥開始材齢tにおける材齢t日の収縮量推定値(×10−6)」を、Wは「単位水量(kg/m)」を、Cは「単位セメント量(kg/m)」を、Gは「単位粗骨材量(kg/m)」を、hは「相対湿度(%)」を、Vは「体積(mm)」を、Sは「外気に接する表面積(mm)」を、並びにγ、γ及びγはそれぞれ「骨材の種類の影響」、「セメントの種類の影響」及び「混和材の種類の影響」を表す修正係数(表1参照)を示す。
【0010】
【表1】

【0011】
一方で、コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみには、骨材の種類や性質(物性)が影響を及ぼすことが知られており、特に骨材自体の乾燥収縮ひずみやヤング係数が影響するとされている。そのため、これらの骨材物性を考慮することによってコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを高い精度で推定することが可能となり、その推定式として下記式(1)が知られている(非特許文献2参照)。
【0012】
【数2】

【0013】
式(1)中、εは「コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「セメントペーストの乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「細骨材の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「粗骨材の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εs∞は「細骨材の乾燥収縮ひずみ推定値(×10−6)」を、εg∞は「粗骨材の乾燥収縮ひずみ推定値(×10−6)」を表し、Eは「セメントペーストのヤング係数(kN/mm)」を、Eは「細骨材のヤング係数(kN/mm)」を、Eは「粗骨材のヤング係数(kN/mm)」を表し、Vは「細骨材の骨材体積比」を、Vは「粗骨材の骨材体積比」を表し、tは「乾燥期間(乾燥材齢)」を表し、W/Cは「水セメント比(%)」を表し、hは「相対湿度(%)」を表し、Vは「体積(mm)」を表し、Sは「外気に接する表面積(mm)」を表し、Rは「コンクリート中の骨材及びセメントペースト成分のそれぞれの乾燥収縮の進行速度の比率を表す定数」である。また、α、β、λ、δ、γ及びηは、セメントの種類に応じて定まる係数であり、下記表2に示す数値である。
【0014】
【表2】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「鉄筋コンクリート造建築物の収縮ひび割れ制御設計・施工指針(案)・同解説」,日本建築学会,2006年2月
【非特許文献2】「複合モデルを基盤としたコンクリートの乾燥収縮予測式」,日本建築学会構造系論文集,第602号,p.21〜28,2006年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したように、コンクリート硬化体の乾燥収縮は、骨材自体の物性の影響を受けるため、上記式(1)を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することで推定精度の向上が見込まれる。しかしながら、この方法によれば、骨材の乾燥収縮ひずみやヤング係数を測定する必要があり、実際のコンクリートの製造現場でこれらを測定することは煩雑であったり、特別な測定機器を要したりする等の問題がある。また、細骨材は寸法が小さいため、乾燥収縮ひずみやヤング係数を測定することは極めて困難であるという問題がある。
【0017】
一方、上記式(2)を用いる方法によれば、コンクリートの配合や材料の種類を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみの推定値を算出することができるものの、骨材に関するパラメータが限定的であるため、使用する骨材によっては推定値と実測値とが乖離してしまうという問題がある。そのため、上記非特許文献1に記載の方法により算出された乾燥収縮ひずみの推定値よりも、実際に製造されたコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみが推定値を大幅に超えてしまうことがあり、結果として、コンクリート硬化体にひび割れが生じてしまうことがあるという問題がある。
【0018】
そこで、本発明は、骨材の乾燥収縮ひずみを正確にかつ簡便に推定する方法、及び当該骨材の乾燥収縮ひずみの推定値を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを精度良く推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、骨材の乾燥収縮ひずみを推定する方法であって、前記骨材の吸湿率を測定し、当該吸湿率に基づいて前記骨材の乾燥収縮ひずみを推定することを特徴とする骨材の乾燥収縮推定方法を提供する(請求項1)。
【0020】
本発明者らの鋭意研究の結果、骨材の乾燥収縮ひずみと吸湿率との間に高い相関関係があることが判明した。そのため、上記発明(請求項1)によれば、乾燥収縮の推定対象である骨材の吸湿率を求めるだけでよいため、骨材の乾燥収縮ひずみを簡便に推定することができる。なお、本発明において、単に骨材というときには、粗骨材及び細骨材が含まれるものとする。
【0021】
上記発明(請求項1)においては、絶乾状態の前記骨材の質量(絶乾質量)と、所定の条件下で吸湿させた前記骨材の質量(吸湿質量)とを測定し、それらの質量に基づいて下記式により前記骨材の吸湿率を求めるのが好ましい(請求項2)。
吸湿率(%)=(吸湿質量−絶乾質量)/絶乾質量×100
【0022】
上記発明(請求項2)によれば、乾燥収縮の推定対象である骨材について2回の質量測定だけで吸湿率を求めることができるため、骨材の乾燥収縮ひずみを簡便に推定することができる。
【0023】
また、本発明は、コンクリート硬化体の乾燥収縮を推定する方法であって、前記コンクリート硬化体に含まれる骨材のヤング係数と、上記発明(請求項1,2)に係る骨材の乾燥収縮推定方法により推定された骨材の乾燥収縮ひずみ推定値とに基づいて、前記コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することを特徴とするコンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法を提供する(請求項3)。
【0024】
上記発明(請求項3)によれば、骨材の物性(ヤング係数、乾燥収縮ひずみ)を求めることだけで、当該骨材を含むコンクリート硬化体の乾燥収縮を推定することができ、しかも、コンクリート硬化体の乾燥収縮に影響を及ぼすことが知られている骨材のヤング係数及び乾燥収縮ひずみに基づいて推定することができるため、コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを精度良く推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、骨材の乾燥収縮ひずみを正確にかつ簡便に推定する方法、及び当該骨材の乾燥収縮ひずみの推定値を用いてコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを精度良く推定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】粗骨材の吸湿率と乾燥収縮ひずみとの関係を示すグラフである。
【図2】粗骨材のヤング係数と吸水率との関係を示すグラフである。
【図3】試験例2におけるコンクリート供試体の乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との関係を示すグラフである。
【図4】試験例3におけるコンクリート供試体の乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
〔骨材の乾燥収縮推定方法〕
本実施形態に係る骨材の乾燥収縮推定方法においては、まず、推定対象としての骨材の吸湿率を測定する。
【0028】
推定対象の骨材としては、粗骨材であってもよいし、細骨材であってもよい。また、骨材の種類も特に限定されるものではなく、天然骨材であってもよいし、人工骨材であってもよく、例えば、砂、砂利、砕砂、砕石、珪砂等が挙げられる。さらに、天然骨材である場合において、骨材の岩種や産地等も特に限定されるものではない。
【0029】
骨材の吸湿率を測定するにあたり、まず、骨材を絶乾状態とし、絶乾状態における骨材の質量(絶乾質量)を測定する。次に、所定の条件下で骨材に吸湿させて、吸湿状態における骨材の質量(吸湿質量)を測定する。
【0030】
骨材に吸湿させる条件(方法)としては、骨材における吸湿量が飽和状態となり得る条件(方法)であれば特に限定されるものではないが、例えば、相対湿度99%で湿度コントロールした環境下に骨材を24時間載置する方法等が挙げられる。
【0031】
最後に、絶乾状態における骨材の質量(絶乾質量)と吸湿状態における骨材の質量(吸湿質量)とから、下記式に基づいて骨材の吸湿率を求める
吸湿率(%)=(吸湿質量−絶乾質量)/絶乾質量×100
【0032】
このようにして求められた骨材の吸湿率のうち粗骨材の吸湿率は、後述する実施例において明らかなように、粗骨材の乾燥収縮ひずみとの間で高い相関性を有する。そのため、予め複数種類の粗骨材(例えば、産地や岩種等の異なる複数種類の骨材等)についてその吸湿率と乾燥収縮ひずみ(乾燥収縮ひずみ)との関係(関係式)を求めておけば、乾燥収縮ひずみの推定対象である粗骨材の吸湿率を求めるだけで、それに基づいて、その粗骨材の乾燥収縮ひずみを簡便に推定することができる。なお、細骨材の乾燥収縮ひずみを測定することは極めて困難であるが、後述の実施例において明らかなように、粗骨材の吸湿率と乾燥収縮ひずみとの関係式をそのまま細骨材についても適用することが可能であると推察される。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る骨材の乾燥収縮推定方法によれば、これまで非常に測定が煩雑であった骨材の乾燥収縮ひずみを、簡便に推定することができる。そのため、かかる骨材の乾燥収縮推定値を用いて、当該骨材を使用して作製されるコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを正確に推定することが可能となる。以下、コンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法について説明する。
【0034】
〔コンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法〕
本実施形態においては、骨材の乾燥収縮ひずみとヤング係数とに基づいて、当該骨材を含むコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定する。
【0035】
本実施形態において乾燥収縮推定対象としてのコンクリート硬化体の原料たるセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント等の各種混合セメント;都市ゴミ焼却灰及び/又は下水汚泥焼却灰を原料として製造した焼成物の粉砕物と石膏とからなるセメント(エコセメント)等が挙げられる。
【0036】
なお、後述するように、下記式(1)においては、当該式を使用して乾燥収縮ひずみを推定し得るセメントの種類として普通ポルトランドセメント、高炉セメントB種及びフライアッシュセメントが挙げられているが(下記表3参照)、これら以外のセメントであっても、当該セメントペーストの乾燥収縮ひずみ及びヤング係数を予め測定しておけば、セメントの種類にかかわらず、それらの測定値を用いて上記式(1)によりコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することが可能となる。
【0037】
セメントペーストの乾燥収縮ひずみ及びヤング係数は、一般的な試験により測定することができ、例えば、乾燥収縮ひずみは、供試体寸法4×4×16(cm)、20℃水中−7日間、以後20℃−相対湿度60%条件で保管したときの長さ変化測定により求めることができ、ヤング係数は、φ5×10(cm)の円柱供試体を用いて、圧縮載荷時の縦ひずみを測定することにより求めることができる。
【0038】
また、コンクリート硬化体に含まれる骨材の種類も特に限定されるものではなく、天然骨材であってもよいし、人工骨材であってもよく、例えば、砂、砂利、砕砂、砕石、珪砂等を使用することができる。
【0039】
さらに、コンクリート硬化体には、通常のコンクリートに配合され得る混和材が含まれていてもよく、例えば、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、膨張材等が所望により含まれていてもよい。
【0040】
さらにまた、コンクリート硬化体には、通常のコンクリートに配合され得る混和剤が含まれていてもよく、例えば、リグニン系、ナフタリンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系等の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE剤(空気量調整剤)、凝結調整剤、防錆剤、収縮低減剤等が所望により含まれていてもよい。
【0041】
本実施形態におけるコンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法において、骨材の乾燥収縮ひずみは、上記本実施形態に係る骨材の乾燥収縮推定方法により求められた骨材の乾燥収縮推定値を用いる。
【0042】
一方、骨材のヤング係数は、実測された数値であってもよいが、骨材のヤング係数の測定は決して簡便な手法ではない。その一方で、骨材のヤング係数は、骨材の吸水率と非常に高い相関性を有することが後述の実施例においても明らかである。そのため、骨材の吸水率に基づいて推定されたヤング係数推定値を、骨材のヤング係数として用いることができる。これにより、簡便にコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することができる。
【0043】
具体的には、上記骨材の乾燥収縮推定値と、骨材のヤング係数(ヤング係数推定値)とに基づいて、例えば、下記式(1)によりコンクリート硬化体の乾燥収縮推定値を算出することができる。
【0044】
【数3】

【0045】
式(1)中、εは「コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「セメントペーストの乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「細骨材の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εは「粗骨材の乾燥収縮ひずみ(×10−6)」を、εs∞は「細骨材の乾燥収縮ひずみ推定値(×10−6)」を、εg∞は「粗骨材の乾燥収縮ひずみ推定値(×10−6)」を表し、Eは「セメントペーストのヤング係数(kN/mm)」を、Eは「細骨材のヤング係数(kN/mm)」を、Eは「粗骨材のヤング係数(kN/mm)」を表し、Vは「細骨材の骨材体積比」を、Vは「粗骨材の骨材体積比」を表し、tは「乾燥期間(乾燥材齢)」を表し、W/Cは「水セメント比(%)」を表し、hは「相対湿度(%)」を表し、Vは「体積(mm)」を表し、Sは「外気に接する表面積(mm)」を表し、Rは「コンクリート中の骨材及びセメントペースト成分のそれぞれの乾燥収縮の進行速度の比率を表す定数」である。また、α、β、λ、δ、γ及びηは、セメントの種類に応じて定まる係数であり、下記表3に示す数値である。
【0046】
【表3】

【0047】
このように、本実施形態におけるコンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法によれば、簡便に推定された骨材の乾燥収縮ひずみと、ヤング係数(実測値又は推定値)とに基づいて、コンクリート試験を実施することなく精度良くコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することができる。
【0048】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
〔試験例1〕骨材の吸湿率の測定
下記表4に示す粗骨材(GL,GS1〜5,GA,GR)及び細骨材(S1,S2)の吸湿率を測定した。各骨材の絶乾密度・吸水率(JIS−A1109、JIS−A1110に準じて測定)、ヤング係数(各粗骨材と同一産地の原石からφ32×64mmの円柱コアを採取し、圧縮載荷時の応力−縦ひずみ関係から算出)、乾燥収縮ひずみ(粗骨材を7日間吸水させた後、温度20℃・相対湿度60%の条件下にて12日間乾燥したときのひずみを電気抵抗線ひずみゲージで測定)を表5に示す。
【0051】
吸湿率の測定においては、まず、各骨材を絶乾状態として質量(絶乾質量)を測定した。その後、相対湿度99%に湿度コントロールした容器内(20℃)に24時間載置して十分に吸湿させ、吸湿後の質量(吸湿質量)を測定した。そして、それらの質量測定値に基づいて、下記式により吸湿率を算出した。吸湿率(%)の算出結果を表5にあわせて示す。
吸湿率(%)=(吸湿質量−絶乾質量)/絶乾質量×100
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
上記のようにして測定された粗骨材の吸湿率と乾燥収縮ひずみとの関係を図1のグラフに示す。なお、図1に、粗骨材の吸水率と乾燥収縮ひずみとの関係をあわせて示す。また、粗骨材のヤング係数と、吸水率との関係を図2のグラフに示す。
【0055】
図1のグラフから明らかなように、各粗骨材の吸湿率と乾燥収縮ひずみとは、極めて高い相関関係を有することが判明した。この結果から、粗骨材の吸湿率を測定することで、粗骨材の乾燥収縮ひずみを推定可能であることが確認された。その一方で、各粗骨材の吸水率と乾燥収縮ひずみとは、必ずしも相関関係を有しないことが判明した。
【0056】
また、図2のグラフから明らかなように、各粗骨材の吸水率とヤング係数とは、極めて高い相関関係を有することが判明した。この結果から、粗骨材の吸水率に基づいて、粗骨材のヤング係数を推定可能であることが分かった。
【0057】
〔試験例2〕コンクリート硬化体の乾燥収縮の推定及び粗骨材の乾燥収縮推定方法の細骨材への適用
上記各骨材(粗骨材,細骨材)とセメントとを20秒間混練した。その後、水及び混和剤を投入して60秒間混練し、掻落し後にさらに60秒間混練して、型枠に打設してコンクリート供試体(試料1〜6)を作製した。各コンクリート供試体の作製に使用したセメント及び混和剤の種類を表6に、各コンクリート供試体の配合を表7に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
【表7】

【0060】
上述のようにして得られたコンクリート供試体(試料1〜6)を標準水中養生し、JIS−A1129に準拠して、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみを測定した。
【0061】
一方で、上記式(1)により試料1〜6に相当するコンクリート硬化体の乾燥期間6か月における乾燥収縮推定値を算出した。式(1)で用いる骨材の乾燥収縮ひずみ及びヤング係数に関し、粗骨材については、実際に測定した乾燥収縮ひずみ及びヤング係数を用いた。なお、細骨材については、粗骨材における乾燥収縮ひずみ及び吸湿率、並びにヤング係数及び吸水率についてのそれぞれの関係式をそのまま適用し、細骨材の吸湿率及び吸水率からそれぞれ乾燥収縮ひずみ及びヤング係数を推定した。上記乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との関係を図3のグラフに示す。なお、図3中の破線は、乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との乖離幅(±100μ)を示すものである。また、比較として、上記式(2)により試料1〜6に相当するコンクリート硬化体の乾燥期間6か月における乾燥収縮推定値を算出した。当該推定値との関係を、図3のグラフにあわせて示す。
【0062】
図3に示すように、上記式(1)により算出された乾燥収縮推定値は、乾燥収縮実測値とほぼ一致した。一方、上記式(2)により算出された乾燥収縮推定値は、使用する骨材の種類によっては、実測値との間で乖離する場合があり、特に実測値が大きい範囲(800×10−6程度以上)で乾燥収縮ひずみを小さく見積る傾向にあった。この結果から、細骨材の吸湿率に基づいて推定された細骨材の乾燥収縮推定値及び吸水率に基づいて推定された細骨材のヤング係数推定値を用いても、上記式(1)に基づいて精度良くコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定可能であると推認することができた。すなわち、細骨材の吸湿率に基づいて乾燥収縮ひずみを精度よく推定することができ、吸水率に基づいてヤング係数を精度よく推定することができるものと推察された。
【0063】
〔試験例3〕コンクリート硬化体の乾燥収縮の推定
乾燥収縮ひずみ及びヤング係数が未知である、下記表8に示す骨材(細骨材・粗骨材)、水、セメント(普通ポルトランドセメント,密度:3.16g/cm,太平洋セメント社製)、AE減水剤及び高性能AE減水剤を用い、表9に示す配合に従い、試験例2と同様にしてコンクリート供試体(試料7〜12)を作製した。
【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【0066】
上述のようにして得られたコンクリート供試体(試料7〜12)を標準水中養生し、JIS−A1129に準拠して、乾燥期間6か月における乾燥収縮ひずみを測定した。
【0067】
一方で、上記コンクリート供試体(試料7〜12)の乾燥収縮ひずみを推定するために、まず、当該骨材の吸湿率を試験例1と同様にして算出し、骨材の乾燥収縮推定値を算出した。次に、当該骨材の吸水率をJIS−A1109及びJIS−A1110に準拠して測定し、当該吸水率に基づいて骨材のヤング係数推定値を算出した。
【0068】
上記のようにして算出された骨材の乾燥収縮推定値及びヤング係数推定値を用いて、上記式(1)によりコンクリート供試体(試料7〜12)の乾燥収縮推定値を算出した。
【0069】
上記乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との関係を図4のグラフに示す。なお、図4中の破線は、乾燥収縮ひずみの実測値と推定値との乖離幅(±100μ)を示すものである。また、比較として、上記式(2)により試料7〜12に相当するコンクリート硬化体の乾燥期間6か月における乾燥収縮推定値を算出した。当該推定値との関係を、図4のグラフにあわせて示す。
【0070】
図4に示すように、上記式(1)により算出された乾燥収縮推定値は、実測値とほぼ一致した。一方、上記式(2)により算出された乾燥収縮推定値は、実測値との間で乖離する場合があった。この結果から、乾燥収縮ひずみ及びヤング係数が未知の骨材であっても、その骨材の吸湿率に基づいて推定された骨材の乾燥収縮推定値及び骨材の吸水率に基づいて推定された骨材のヤング係数推定値を用いて、上記式(1)に基づいて精度良くコンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定可能であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の骨材の乾燥収縮推定方法は、骨材の乾燥収縮ひずみを推定する簡便な手法であり、この方法により推定された乾燥収縮ひずみを用いて精度良くコンクリート硬化体の乾燥収縮を推定することができるため、当該コンクリート硬化体の管理手法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨材の乾燥収縮を推定する方法であって、
前記骨材の吸湿率を測定し、当該吸湿率に基づいて前記骨材の乾燥収縮ひずみを推定することを特徴とする骨材の乾燥収縮推定方法。
【請求項2】
絶乾状態の前記骨材の質量(絶乾質量)と、所定の条件下で吸湿させた前記骨材の質量(吸湿質量)とを測定し、それらの質量に基づいて下記式により前記骨材の吸湿率を求めることを特徴とする請求項1に記載の骨材の乾燥収縮推定方法。
吸湿率(%)=(吸湿質量−絶乾質量)/絶乾質量×100
【請求項3】
コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定する方法であって、
前記コンクリート硬化体に含まれる骨材のヤング係数と、請求項1又は2に記載の骨材の乾燥収縮推定方法により推定された骨材の乾燥収縮推定値とに基づいて、前記コンクリート硬化体の乾燥収縮ひずみを推定することを特徴とするコンクリート硬化体の乾燥収縮推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2764(P2012−2764A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140012(P2010−140012)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)