説明

骨材/セメント混合割合設計方法

【課題】骨材の粒度分布が大きく変化した場合であっても、セメントと骨材との混合割合を画一的に求めることができる骨材/セメント混合割合設計方法を提供する。
【解決手段】骨材/セメント混合割合設計方法における骨材量とセメント量との混合割合は、各骨材15の表面17におけるセメントペースト14の厚みを略一定と仮定し得るように、骨材15の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定め、標準化比率(S/C)は、骨材量とセメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に予め基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材15の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることで算出される。比表面積比率(R)は、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することで算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に複数の空隙が形成されたセメント硬化物の骨材量とセメント量との混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然骨材と中品質再生骨材とから形成された混合骨材に、所定量の水分を含有するセメントペーストを混合したセメント混合物を養生することで作られたセメント硬化物がある(特許文献1参照)。天然骨材と中品質再生骨材との混合割合は、それら骨材の吸水率を考慮した所定の計算式を用いて求めている。なお、セメントと混合骨材との混合割合は、セメント混合物から作られる素材によって異なり、その都度適宜の方法で設計される。セメントと混合骨材との混合割合を求める手法の一例としては、セメントの重量と骨材の重量との重量比率を用いる場合、セメントの体積と骨材の体積との体積比率を用いる場合がある。
【特許文献1】特開2002−241164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
セメントと骨材との混合割合は、それら骨材の粒度分布の変化が小さい等の骨材の物性が略一定の場合に前記重量比率や前記体積比率を用いて求めることができる。しかし、骨材の粒度分布が大きく変化すると、セメントと骨材との混練時における性状が著しく変化するから、同じ重量比率や同じ体積比率による混合条件によってセメントと骨材との混合割合を設計することはできない。したがって、骨材の粒度分布が大きく変化する場合は、セメントと骨材との混合割合の設計に重量比率や体積比率を用いることはできず、セメントと骨材との混合割合を画一的に求めることができない。骨材の粒度が大きく変化した場合におけるセメントと骨材との混合割合の設計には、現場における設計者の経験と感覚とに頼らざるを得なかった。
【0004】
なお、セメントと骨材との混練時における性状変化の一例として、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が小さくなる(細粒分が多い)と、骨材の表面のぬれ性が減少し、セメントと骨材との接着強度が不十分となり、セメント硬化物の圧縮強度が低下する場合がある。また、セメントと骨材との混合割合が同一であって骨材の粗粒率が大きくなる(細粒分が少ない)と、骨材の表面のぬれ性が増加し、たとえばセメント硬化物を吸音パネルとして使用する場合、セメント硬化物に形成されるべき空隙がセメントによって塞がれ、吸音率が著しく低下する場合がある。このような現象が生ずる原因の1つとして、骨材の粒度分布が変化することにより、骨材の単位質量当たりの表面積(比表面積)が変化し、骨材表面を包被するセメントペーストの厚みが不均一になるためと考えられる。
【0005】
本発明の目的は、骨材の粒度分布が大きく変化した場合であっても、セメントと骨材との混合割合を画一的に求めることができる骨材/セメント混合割合設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の前提は、所定量の水分を含有するセメントペーストと所定範囲の粒度を有する骨材とを混合した混合物を養生することで作られ、内部に複数の空隙が形成されたセメント硬化物の骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計方法である。
【0007】
前記前提における本発明の特徴は、この骨材/セメント混合割合設計方法における混合割合が、各骨材表面におけるセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、その標準化比率S/Cが、S/C=S/(C・R),R=SW2/SW1によって算出されることにある。ここで、S/Cは骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率、SW1はあらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの比表面積(第1比表面積)(m/kg)であり、SW2は骨材の粒度分布の変化に対する見かけの比表面積(第2比表面積)(m/kg)、Rは第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率である。標準化比率(S/C)は、前記式に示すように、骨材量とセメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出される。比表面積比率(R)は、前記式に示すように、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することによって算出される。
【0008】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の一例としては、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とが、SW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4.π・ri/3)・niによって算出される。ここで、Siは粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)、riは前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)であり、niは単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)である。Piは単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)であり、Mは前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)である。
【0009】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の他の一例としては、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にある。
【0010】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の他の一例としては、骨材の粗粒率が2.0〜5.0の範囲にある。
【0011】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の他の一例としては、骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、それら骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90%以上を占めている。
【0012】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の他の一例としては、セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある。
【0013】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法の他の一例としては、骨材がクリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる骨材/セメント混合割合設計方法によれば、各骨材表面を包被するセメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいてセメントと骨材との混合割合が定められるから、それら骨材の粒度分布が変化することによって、各骨材の比表面積が大きく変化した場合であっても、セメントと骨材との混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができる。骨材/セメント混合割合設計方法は、骨材の粒度分布の変化にともなう骨材の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材の粒度分布の変化に対応したセメントと骨材との混合割合を確実かつ容易に算出することができる。骨材/セメント混合割合設計方法は、粒度分布の異なる骨材において算出した各標準化比率(S/C)が略同一の値になることから、設計者の経験と感覚とに頼ることなく、現場においてセメントと骨材との混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。この骨材/セメント混合割合設計方法は、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0015】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とがSW1=SW2=ΣSi,Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri),Pi=M・(4.π・ri/3)・niの式で算出される骨材/セメント混合割合設計方法は、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを求めることができるから、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、現場において手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。骨材/セメント混合割合設計方法は、前記式に基づいて第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とを算出するとともに、算出した第1および第2比表面積(SW1,SW2)を使用して標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)に基づいてセメントと骨材との混合割合を設計するから、現場においてセメントと骨材との混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。この骨材/セメント混合割合設計方法は、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0016】
第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m/kg)の範囲で定められ、第1比表面積(SW1)を10×10(m/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)が2.0〜4.0の範囲にある骨材/セメント混合割合設計方法は、その範囲の第2比表面積(SW2)を用いて標準化比率(S/C)を算出し、算出した標準化比率(S/C)に基づいてセメントと骨材との混合割合を設計するから、現場においてセメントと骨材との混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。この骨材/セメント混合割合設計方法は、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、多様な粒度分布を有する骨材を使用したとしても、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0017】
骨材の粗粒率が2.0〜4.0の範囲にある骨材/セメント混合割合設計方法は、粒度分布が略一定の範囲にある骨材を使用しつつ、算出した標準化比率(S/C)(%)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、骨材とセメントとの混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0018】
骨材の粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材がすべての骨材のうちの90%以上を占めている骨材/セメント混合割合設計方法は、粒径が前記範囲にあるとともに10mm以下の粒径の骨材が90%以上を占める骨材を使用しつつ、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計するから、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0019】
セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が30〜80(%)の範囲にある骨材/セメント混合割合設計方法は、水セメント比が前記範囲にあるから、骨材表面に対するセメントペーストの厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペーストと骨材との混練時における性状を略一定に維持することができる。この骨材/セメント混合割合設計方法は、算出した標準化比率(S/C)を一定とするように骨材とセメントとの混合割合を設計しつつ、水セメント比(W/C)を前記範囲にすることで、必要かつ十分な圧縮強度と耐衝撃性とを有するとともに、所定の空隙が形成されたセメント硬化物を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
添付の図面を参照し、本発明に係る骨材/セメント混合割合設計方法の詳細を説明すると、以下のとおりである。図1は、一例として示すセメント硬化物10の斜視図であり、図2は、図1のA−A線断面を拡大して示す部分拡大図である。セメント硬化物10は、上壁11および下壁12と、上下壁11,12の間に位置する各側壁13とを有する六面体である。セメント硬化物10は、セメントペースト14(図2では硬化したセメント14として示す)と所定範囲の粒度を有する複数の骨材15とを混合した混合物を養生することで作られている。
【0021】
セメント硬化物10の内部には、図2に示すように、セメント14や骨材15が存在しない複数の不規則な空隙16(空間)が形成されている。セメント硬化物10では、それら空隙16が互いに独立して存在する場合、それら空隙16どうしが互いにつながることで空隙16が所定方向へ連続して存在する場合がある。骨材15の表面17は、略均一の厚みを有するセメント14によって包被されている。セメント硬化物10では、骨材16が単独でセメント14に包被される場合、または、隣接する骨材16どうしが部分的に接触した状態でそれら骨材16がセメント14に包被される場合がある。セメント14は、骨材16の表面17に接した状態で骨材16と結合している。空隙16の間では、セメント14どうしが互いに結合することで、セメント硬化物10の形状が保持されている。
【0022】
このセメント硬化物10を製造する手順の一例は、セメントペースト14と骨材15とを混合して混合物を作り、その混合物を所定形状の型枠(図示せず)に流し込み、充填直後に型枠を外すか、または、型枠を付けたまま混合物が硬化するまで養生する。なお、セメント硬化物10を図示の四角柱状に限定するものではなく、型枠の形状によって円柱状や多角柱状等の他のあらゆる形状に成形することができる。セメントペースト14は、原料セメントと水とを所定の割合で混合することで作られ、所定の粘度を有する。原料セメントと水との混合やセメントペースト14と骨材15との混合には、リボンミキサー,パドルミキサー,攪拌ホッパー,ポニミキサー,パワーミキサー等を使用することができる。
【0023】
原料セメントには、固化対象物に有効に作用する固化材が添加されている。ゆえに、セメントでは、カルシウムイオン交換による土粒子の凝集団粒化、また、水を取り込んで水和反応を生じ、針状結晶エトリンガイト(CA・3CaSO・32HO)を含む多くの水和鉱物の生成等の複数の固化反応を連続的に促進する。原料セメントには、プレミックスセメント,ポルトランドセメント,高炉セメント,フライアッシュセメント,シリカセメントのうちの少なくとも1つが使用されている。原料セメントには、それらのうちのいずれかを単独で用いてもよく、それらを所定の割合で混合した混合セメントを用いてもよい。水には、水道水や地下水、河川水等を使用する。
【0024】
骨材15には、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちの少なくとも1つが使用されている。それら骨材15は、その形状が一定ではなく、多種多様な立体形状を有する骨材の集合物である。骨材15としては、クリンカアッシュ,溶融スラグ,廃ガラスのうちのいずれかを単独で用いてもよく、それら骨材15を所定の割合で混合した混合骨材を用いてもよい。クリンカアッシュは、石炭火力発電所において微粉砕した石炭をボイラで燃焼させることによって作ることができる。ボイラの内部では、燃焼によって生じた石炭灰の粒子が相互に凝縮し、多孔質な塊となってボイラ底部のクリンカホッパに落下堆積する。その堆積物を粉砕機によって砂状に粉砕して所定粒度のクリンカアッシュを作る。クリンカアッシュは、高温(約1300℃)で焼成されているから、化学的に安定し、締め固まり難く、締圧に強いという性質を有するとともに、優れた通気性と保水性とを有する。
【0025】
溶融スラグは、1200℃以上の高温条件下において加熱された焼却灰等が溶融した後、冷却固化してできるガラス質の物質である。このガラス質の物質を粉砕機によって粉砕して所定粒度の溶融スラグを作る。溶融スラグは、二酸化ケイ素,酸化アルミニウム,酸化カルシウムを主成分とし、重金属類(水銀,鉛,カドミウム等)の含有量が極めて少ない。溶融スラグに残存する重金属類は、溶融スラグの主成分である二酸化ケイ素のSi−O2の網目構造に包被されるから、その溶出が防止される。なお、焼却灰に含まれるダイオキシン類は、焼却灰溶融時の高温条件によって熱分解するから、溶融スラグ中に残存しない。廃ガラスは、使用済みのガラスを粉砕機によって所定粒度に粉砕して作ることができる。廃ガラスは、ガラスを一次粉砕した後、金属類を除き、さらに、二次粉砕して作られる。廃ガラスは、ふるい機で粒度毎に区分される。粉砕機には、ジョークラッシャ,ジャイレトリークラッシャ,コーンクラッシャ,ハンマークラッシャ,ロールクラッシャ等の粗粉砕機やボールミル,媒体攪拌ミル,ローラミル等の微粉砕機を使用することができる。
【0026】
原料セメントと骨材15とを用意した後は、骨材量(S)(kg)とセメント量(C)(kg)との混合割合を検討し、骨材15と原料セメントとの混合割合を設計する。なお、骨材量とセメント量との混合割合一定の条件下において、骨材15の粒度分布が変化すると、各骨材15の単位質量当たりの比表面積が変化し、骨材15の表面17を包被するセメントペースト14の厚みが不均一になる。したがって、骨材15の粒度分布の変化とそれに伴う骨材15の比表面積の変化とに対応させて、骨材15と原料セメントとの混合割合を補正することにより、骨材15の表面17を包被するセメントペースト14の厚みを略一定にすることができる。これをふまえ、セメント硬化物10を作る場合の骨材量とセメント量との混合割合は、セメントペースト14と骨材15とを混合した後、各骨材15の表面17におけるセメントペースト14の厚みを略一定と仮定し得るように、骨材15の比表面積を補正して求めた標準化比率S/Cに基づいて設計される。標準化比率S/Cは、以下の式によって算出される。
(1)S/C=S/(C・R
(2)R=SW2/SW1
(a)S/C:骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率
(b)SW1:あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの比表面積(第1比表面積)(m/kg)
(c)SW2:骨材の粒度分布の変化に対する見かけの比表面積(第2比表面積)(m/kg)
(d)R:第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率
【0027】
標準化比率S/Cは、前記式に示すように、骨材量(S)とセメント量(C)との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の単位質量当たりにおける見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材15の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を乗ずることによって算出される。比表面積比率(R)は、前記式に示すように、第2比表面積(SW2)を第1比表面積(SW1)で除することによって算出される。
【0028】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とは、以下の式によって算出される。
(3)SW1=SW2=ΣSi
(4)Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
(5)Pi=M・(4.π・ri/3)・ni
(e)Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材(実際に用いる骨材)における見かけの比表面積(m/kg)
(f)ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
(g)ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
(h)Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
(i)M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
【0029】
第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との計算では、骨材15の形状を球形と仮定して計算する。骨材15の平均半径は、骨材15の粒径幅両端間長さの中間を2で除した値とする。たとえば、骨材15の粒径が0.6〜1.2mmの場合における平均半径(ri)は、ri=[〔{(0.6+1.2)/1000}/2〕/2]=0.00045(m)となる。また、同種類の骨材15であれば、同じ粒径範囲の比表面積は同じであると仮定し、粒度10mm以上の骨材15は、その粒度を10〜20mmとして計算する。このように定義した第1および第2比表面積(SW1,SW2)は、骨材15の実際の比表面積とは同一の値ではないが、比表面積に比例した値であると考えられるから、標準化比率S/Cを決定するパラメータとして利用することができる。
【0030】
それら式による標準化比率(S/C)の算出、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率の算出、第1比表面積(SW1)の算出には、CPUとメモリとを有するパーソナルコンピュータ(コンピュータ資源)(図示せず)が利用される。コンピュータのメモリには、前記式に基づいた各種の計算をコンピュータに実行させるためのアプリケーションプログラムが格納されている。アプリケーションプログラムは、それを記憶した記憶媒体からコンピュータのメモリにインストールされる。CPUは、ハードディスクに記憶されたオペレーティングシステムによる制御に基づいて、メモリからアプリケーションプログラムを起動し、起動したアプリケーションプログラムに従って、第1および第2比表面積(SW1,SW2)を算出し、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)との比表面積比率を算出するとともに、標準化比率(S/C)を算出する。なお、それらの算出に必要な各数値は、コンピュータに接続されたキーボードやマウス等の入力装置を介してコンピュータに入力する。
【0031】
この骨材/セメント混合割合設計方法では、第2比表面積(SW2)が2×10〜20×10(m/kg)の範囲で定められる。また、第1比表面積(SW1)が10×10(m/kg)に設定されている。第1比表面積(SW1)を10×10(m2/kg)に設定しつつ、第2比表面積(SW2)を2×10〜20×10(m2/kg)の範囲で定めた場合における標準化比率(S/C)は、2.0〜4.0の範囲にある。このように、粒度分布の異なる骨材15においてそれぞれ算出した各標準化比率(S/C)の値は略同一となる。第2比表面積(SW2)が2×10(m/kg)未満かつ20×10(m/kg)を超過すると、骨材周囲のセメントペーストの形成状態や空隙の形成状態が大きく変化し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができず、骨材15と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができない。なお、第1比表面積(SW1)を10×10(m/kg)以外の数値に設定することもできる。
【0032】
この骨材/セメント混合割合設計方法は、第2比表面積(SW2)を前記範囲に設定することで、標準化比率S/Cの値が略一定し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができ、骨材15と原料セメントとの適正な混合割合を確実に設計することができる。さらに、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、骨材15の表面17に対するセメントペースト14の厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペースト14と骨材15との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0033】
セメントペースト14を形成する水と原料セメントと混合割合(W/C)(%)は、30〜80%の範囲にある。水セメント比が30%未満では、セメント14と骨材15との結合力やセメント14どうしの結合力が弱く、セメント硬化物10の圧縮強度が低下するから、耐衝撃性に優れた硬化物10を作ることができない。水セメント比が80%を超過すると、セメントペースト14によってセメント硬化物10の空隙16が塞がれ、硬化物10に所定の空隙16を作ることができない。この骨材/セメント混合割合設計方法では、前記標準化S/Cを採用しつつ、水セメント比(W/C)(%)を前記範囲にすることで、必要かつ十分な圧縮強度と耐衝撃性とを有するとともに、所定の空隙16が形成されたセメント硬化物10を作ることができる。
【0034】
それら骨材15は、その粒径中央値が0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、骨材15のうちの10mm以下の粒径を有する骨材15がすべての骨材15のうちの90%以上を占めている。この骨材/セメント混合割合設計方法では、適切な粒度の骨材15を用いることで、所定の空隙率を有するセメント硬化物10を作ることができ、かつ、骨材15どうしを確実に連結させることができる。粒度は、JIS A 1102「骨材の篩い分け試験」によって試験し、その結果を粒度曲線や粗粒率等で表す。篩い分け試験は、0.15,0.3,0.6,1.2,2.5,5.0mmの網ふるいを使用し、各ふるいにおける骨材試料の通過量または残留量を求める。
【0035】
骨材15は、その粗粒率が2.0〜4.0の範囲にある。骨材15の粗粒率が2.0未満かつ4.0を超過すると、骨材15の粒度分布が大きくなり、骨材周囲のセメントペーストの形成状態や空隙の形成状態が大きく変化し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができず、骨材15と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができない。粗粒率は、80,40,20,10,5,2.5,1.2,0.6,0.3,0.15mmのふるいの一組を用いて篩い分け試験を行った場合、各ふるいを通らない全部の量の全骨材試料に対する質量百分率(整数)の和を100で除した値である。この骨材/セメント混合割合設計方法は、骨材15の粗粒率が前記範囲にあるから、標準化比率S/Cの値が略一定し、骨材量とセメント量との混合割合を画一的に求めることができ、骨材15と原料セメントとの適正な混合割合を設計することができる。さらに、多様な粒度分布を有する骨材15を使用したとしても、骨材15の表面17に対するセメントペースト14の厚みを略一定に保持することができるとともに、セメントペースト14と骨材15との混練時における性状を略一定に維持することができる。
【0036】
図3は、セメント硬化物10を取り付けた壁18の斜視図である。この骨材/セメント混合割合設計方法を利用して作られたセメント硬化物10は、防音壁を形成する吸音材、保水性コンクリート、断熱材として使用することができる。セメント硬化物10は、図3に示すように、壁材19の内側に配置され、壁材19に接着剤やビス(図示せず)によって固着されている。なお、セメント硬化物10は、壁材19の外側に配置された状態で壁材19に接着剤やビスによって固着されていてもよく、壁材19の間に収納した状態でそれら壁材19に固着されていてもよい。また、セメント硬化物10を床や天井に取り付けることもできる。このセメント硬化物10は、その内部に複数の空隙16が形成されているから、優れた吸音性と断熱性とを有する。骨材15にクリンカアッシュを使用する場合は、クリンカアッシュが優れた通気性や保水性を有するから、セメント硬化物10を保水性コンクリートとして最適に使用することができる。
【0037】
この骨材/セメント混合割合設計方法は、各骨材15の表面17を包被するセメントペースト17の厚みを略一定と仮定し得るように、骨材15の表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて骨材15と原料セメントとの混合割合が設計されるから、それら骨材15の粒度分布が変化することによって、各骨材15の単位質量当たりの比表面積が大きく変化した場合であっても、骨材15と原料セメントとの混合割合を所定の計算手順によって画一的に求めることができる。
【0038】
骨材/セメント混合割合設計方法は、骨材15の粒度分布の変化にともなう骨材15の比表面積の変化の補正値として、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と骨材15の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(R)を使用し、その比表面積比率(R)をセメント量(C)に乗ずることによって標準化比率(S/C)を求めるから、骨材15の粒度分布の変化に対応した骨材15と原料セメントとの混合割合を確実かつ容易に算出することができる。
【0039】
骨材/セメント混合割合設計方法は、粒度分布の異なる骨材15において算出した各標準化比率(S/C)が略同一の値になることから、設計者の経験と感覚とに頼ることなく、現場において原料セメントと骨材15との混合割合を容易に設計することができ、現場における作業効率を向上させることができる。骨材/セメント混合割合設計方法は、第1比表面積(SW1)と第2比表面積(SW2)とが前記式に基づいて算出されるから、簡易な篩い分け試験によって得られる粒度分布から第1および第2比表面積(SW1,SW2)を求めることができ、複雑な試験や複雑な計算を必要とせず、現場において手間と時間とをかけずに第1および第2比表面積(SW1,SW2)を計算することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】一例として示すセメント硬化物の斜視図。
【図2】図1のA−A線断面を拡大して示す部分拡大図。
【図3】セメント硬化物を取り付けた壁の斜視図。
【符号の説明】
【0041】
10 セメント硬化物
14 セメントペースト(セメント)
15 骨材
16 空隙
17 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の水分を含有するセメントペーストと所定範囲の粒度を有する骨材とを混合した混合物を養生することで作られ、内部に複数の空隙が形成されたセメント硬化物の骨材量(kg)とセメント量(kg)との混合割合を設計する骨材/セメント混合割合設計方法において、
前記混合割合が、各骨材表面における前記セメントペーストの厚みを略一定と仮定し得るように、前記骨材の比表面積を補正して求めた標準化比率(S/C)に基づいて定められ、前記標準化比率(S/C)が、前記骨材量と前記セメント量との実際の比率(S/C)における該セメント量(C)に、あらかじめ基準として定めた基準骨材の見かけの第1比表面積(SW1)(m/kg)と前記骨材の粒度分布の変化に対する見かけの第2比表面積(SW2)(m/kg)との比表面積比率(RS)を乗ずることによって算出され、前記比表面積比率(RS)が、前記第2比表面積(SW2)を前記第1比表面積(SW1)で除することによって算出されることを特徴とする骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項2】
前記第1比表面積(SW1)と前記第2比表面積(SW2)とが、
W1=SW2=ΣSi
Si=(4・π・ri)・ni=3・Pi/(M・ri)
Pi=M・(4.π・ri/3)・ni
Si:粒度1番〜n番の中から任意に抽出したi番目の粒度の骨材における見かけの比表面積(m/kg)
ri:前記i番目の粒度の骨材における平均半径(m)
ni:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の粒子数(個/kg)
Pi:単位質量当たりに含まれる前記i番目の粒度の骨材の質量(kg)
M:前記i番目の粒度の骨材の表乾密度(kg/リットル)
によって算出される請求項1記載の骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項3】
前記第2比表面積(SW2)が、2×103〜20×10(m/kg)の範囲で定められ、前記第1比表面積(SW1)を10×10(m/kg)に設定しつつ、前記第2比表面積(SW2)を前記範囲で定めた場合における前記標準化比率(S/C)が、2.0〜4.0の範囲にある請求項1または請求項2に記載の骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項4】
前記骨材の粗粒率が、2.0〜5.0の範囲にある請求項1ないし請求項3いずれかに記載の骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項5】
前記骨材の粒径中央値が、0.6〜2.5(mm)の範囲にあり、前記骨材のうちの10mm以下の粒径を有する骨材が、すべての骨材のうちの90%以上を占めている請求項1ないし請求項4いずれかに記載の骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項6】
前記セメントペーストを形成する水とセメントと混合割合(W/C)(%)が、30〜80(%)の範囲にある請求項1ないし請求項5いずれかに記載の骨材/セメント混合割合設計方法。
【請求項7】
前記骨材が、クリンカアッシュ、溶融スラグ、廃ガラスのうちの少なくとも1つである請求項1ないし請求項6いずれかに記載の骨材/セメント混合割合設計方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−100884(P2008−100884A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286143(P2006−286143)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000235543)飛島建設株式会社 (132)