説明

高モル比珪酸ソーダの製造方法

【課題】長期保存性(調製後100時間を経過しても実質的に変化が認められない)に優れた高モル比珪酸ソーダの製造方法を提供する。
【解決手段】珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮することにより当該混合液のSiO濃度を17質量%以上に調整することを特徴とする高モル比珪酸ソーダの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高モル比珪酸ソーダの製造方法に関し、特に長期安定性に優れた高モル比珪酸ソーダの製造方法に関する。高モル比珪酸ソーダは、地盤改良用注入材、接着剤、無機塗料等の含有成分として有用である。
【背景技術】
【0002】
高モル比珪酸ソーダの製造方法としては、例えば、特許文献1に、珪酸アルカリ水溶液に無定形シリカを加えて加熱反応せしめることを特徴とする高モル比珪酸アルカリ水溶液の製造方法が記載されている。特許文献1の第1頁右下欄には、当該製造方法によりSiO/NaOで表されるモル比を3〜6程度まで調整でき、しかも約100時間程度は安定である高モル比珪酸ソーダが得られると記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の高モル比珪酸ソーダは、モル比は3〜6程度まで調整可能とされているが、粘ちょうであり、高モル比珪酸ソーダを安定に維持できる時間も約100時間程度と短いため、液体として取り扱いやすい程度の粘性で、長期安定性に優れた高モル比珪酸ソーダを容易に製造する技術の開発が求められている。
【0004】
なお、長期保存性に優れ、しかも十分に低アルカリ化された低アルカリ水ガラス溶液の製造方法が特許文献2に記載されている。その請求項1には、アルカリ金属珪酸塩水溶液を電気透析により低アルカリ化した後、NF膜又はUF膜で膜分離処理してシリカ濃度を向上させるとともに低アルカリ化することを特徴とする低アルカリ水ガラス溶液の製造方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の低アルカリ水ガラス溶液は、SiO/NaOで表されるモル比が6以上であり([0019]段落)、試験例1〜7で製造された低アルカリ水ガラス溶液(濃縮液)のモル比は、何れも10以上と高モル比である。引用文献2は、このようにモル比が6以上、好ましくは10以上の低アルカリ水ガラス溶液を得ることを目的としているが、このような高モル比の溶液はもはやコロイダルシリカの領域であると考えられるため、高モル比珪酸ソーダとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−147500号公報
【特許文献2】特開2004−323326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、長期保存性(調製後100時間を経過しても実質的に変化が認められない)に優れた高モル比珪酸ソーダの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定条件下で珪酸ソーダと活性珪酸とを混合して混合液を調製後、当該混合液を濃縮する場合には、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の高モル比珪酸ソーダの製造方法に関する。
1.珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮することにより当該混合液のSiO濃度を17質量%以上に調整することを特徴とする高モル比珪酸ソーダの製造方法。
2.前記濃縮後の前記混合液のSiO濃度が17〜23質量%である、上記項1に記載の製造方法。
3.前記珪酸ソーダに前記活性珪酸を添加することにより前記混合液を調製する、上記項1又は2に記載の製造方法。
4.前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3〜5であり、且つ、SiO濃度が10〜30質量%である、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5.前記活性珪酸は、SiO濃度が3〜6質量%である、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6.上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる、SiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3であり、SiO濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ。
7.前記SiO濃度が17〜23質量%である、上記項6に記載の高モル比珪酸ソーダ。
8.前記モル比が3.8〜5.2であり、前記SiO濃度が18〜22質量%であり、調製後100日経過後において変化が認められない、上記項6又は7に記載の高モル比珪酸ソーダ。
9.前記モル比が4.8〜5.2である、上記項6〜8のいずれかに記載の高モル比珪酸ソーダ。
【0010】
以下、本発明の高モル比珪酸ソーダの製造方法について詳細に説明する。
【0011】
本発明の高モル比珪酸ソーダの製造方法は、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮することにより当該混合液のSiO濃度を17質量%以上に調整することを特徴とする。
【0012】
上記特徴を有する本発明の高モル比珪酸ソーダの製造方法は、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合してSiO/NaOで表されるモル比(以下「モル比」と略記する)が3.8〜5.3である混合液を調製し、当該混合液を濃縮することによりSiO濃度を17質量%以上に設定することにより、調製後100時間を経過しても実質的に変化が認められない長期安定性の優れた高モル比珪酸ソーダを製造することができる。特に本発明の好ましい実施態様では、調製後100日経過後も実質的に変化が認められない程度の優れた長期安定性が得られる。本発明の製造方法では、特に珪酸ソーダに活性珪酸を添加して混合液を調製する場合には、混合液は中性を経ることなく(アルカリ性のままで)モル比を調整することができるため、混合液のモル比をより確実に調整することができる。
【0013】
本発明の製造方法で使用する珪酸ソーダとしては限定されず、市販品やそれに水を加えて希釈した希釈溶液を使用できる。
【0014】
珪酸ソーダのモル比(SiO/NaO)は限定されないが、3〜5程度が好ましく、汎用の珪酸ソーダが使えるため、3.1〜3.8程度がより好ましい。
【0015】
珪酸ソーダに含まれるシリカ濃度としては、10〜30質量%程度が好ましく、20〜30質量%程度がより好ましい。
【0016】
本発明の製造方法で使用する活性珪酸としては特に限定されず、例えば、上記珪酸ソーダの水希釈液をイオン交換又は電気透析により脱アルカリ処理することにより得られる珪酸コロイド溶液が使用できる。なお、本発明で用いる活性珪酸は完全に脱アルカリされているものだけでなく、アルカリが一部残存しているものでもよい。
【0017】
上記活性珪酸のSiO濃度は限定的ではないが、3〜6質量%程度が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法では、上記珪酸ソーダ(水希釈液も含む)と上記活性珪酸を混合することによりモル比が3.8〜5.3(好ましくは4.8〜5.3)である混合液を調製する。ここで、特に珪酸ソーダに活性珪酸を添加する態様によれば、混合液を中性領域にすることなくモル比をより確実に調整することができる点で好ましい。
【0019】
次いで、混合液を濃縮して混合液のSiO濃度を17質量%以上に調整する。濃縮の程度は最終製品の用途に応じて適宜設定できるが、安定性と取扱性とを考慮すると、17〜23質量%が好ましく、18〜22質量%がより好ましい。濃縮後のSiO濃度が23質量%を超える場合には、粘性が高くなり取扱性が低下するおそれがある。
【0020】
濃縮方法は限定されないが、例えば、加温下(好ましくは40〜60℃程度)でロータリーエバポレーターを用いて濃縮すればよい。
【0021】
上記濃縮により得られる本発明の高モル比珪酸ソーダは、長期安定性が優れており、調製後100時間を経過しても実質的に変化が認められない長期安定性の優れた高モル比珪酸ソーダである。特に本発明の好ましい実施態様では、調製後100日経過後も実質的に変化が認められない程度の優れた長期安定性が得られる。
【0022】
特にモル比が4.8〜5.2であり、SiO濃度が18〜22質量%である場合には、試験例の結果からも明らかなように、調製後100日経過後において変化が認められない。
【0023】
本発明の高モル比珪酸ソーダは、その用途は限定されないが、長期安定性が優れており、各種分野に応じて応用することができる。例えば、代表的な用途としては、地盤改良用注入材、接着剤、無機塗料等の含有成分として有用である
【発明の効果】
【0024】
本発明の高モル比珪酸ソーダの製造方法は、珪酸ソーダと活性珪酸とを混合してモル比が3.8〜5.3である混合液を調製し、当該混合液を濃縮することによりSiO濃度を17質量%以上に設定することにより、調製後100時間を経過しても実質的に変化が認められない長期安定性の優れた高モル比珪酸ソーダを製造することができる。特に本発明の好ましい実施態様では、調製後100日経過後も実質的に変化が認められない程度の優れた長期安定性が得られる。本発明の製造方法では、特に珪酸ソーダに活性珪酸を添加して混合液を調製する場合には、混合液は中性を経ることなく(アルカリ性のままで)モル比を調整することができる。そのため、混合液のモル比をより確実に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】試験例9、19、24、29、34のサンプル(20日程度経過したもの)の29Si−NMRスペクトルを示す図である。
【図2】試験例9、19、24のサンプル(270日程度経過したもの)の29Si−NMRスペクトルを示す図である。
【図3】表3の結果をまとめた図であり、調製100日経過時点での高モル比珪酸ソーダの安定領域及び不安定領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は試験例に限定されない。
【0027】
試験例1〜35
(高モル比珪酸ソーダの調製)
5号珪酸ソーダ(SiO濃度:24.00質量%,NaO濃度:6.62質量%,モル比:3.74)を水で希釈してシリカ濃度を5.0質量%とし、陽イオン交換樹脂を通して活性珪酸を調製した。活性珪酸のSiO濃度は約4.7質量%であった。
【0028】
5号珪酸ソーダ(上記原液)に上記活性珪酸を撹拌しながら添加して濃縮前の高モル比珪酸ソーダを5種類調製した。具体的には、モル比4.8(SiO濃度12質量%)、モル比5.0(SiO濃度12質量%)、モル比5.1(SiO濃度12質量%)、モル比5.2(SiO濃度11質量%)、モル比5.3(SiO濃度11質量%)の5種類の高モル比珪酸ソーダ(濃縮前)を調製した。
【0029】
モル比が4.8である高モル比珪酸ソーダ(濃縮前:SiO濃度12質量%)を、SiO濃度が13質量%、14質量%、15質量%、16質量%、17質量%、18質量%、19質量%、20質量%、22質量%となるように1%ずつ濃縮した。濃縮前を試験例1とし、SiO濃度ごとに順に試験例2〜10のサンプルとした。
【0030】
モル比が5.0である高モル比珪酸ソーダ(濃縮前:SiO濃度12質量%)を、SiO濃度が13質量%、14質量%、15質量%、16質量%、17質量%、18質量%、19質量%、20質量%、21質量%となるように1%ずつ濃縮した。濃縮前を試験例11とし、SiO濃度ごとに順に試験例12〜20のサンプルとした。
【0031】
モル比が5.1である高モル比珪酸ソーダ(濃縮前:SiO濃度12質量%)を、SiO濃度が18質量%、19質量%、20質量%、21質量%となるように濃縮した。濃縮前を試験例21とし、SiO濃度ごとに順に試験例22〜25のサンプルとした。
【0032】
モル比が5.2である高モル比珪酸ソーダ(濃縮前:SiO濃度11質量%)を、SiO濃度が18質量%、19質量%、20質量%、21質量%となるように濃縮した。濃縮前を試験例26とし、SiO濃度ごとに順に試験例27〜30のサンプルとした。
【0033】
モル比が5.3である高モル比珪酸ソーダ(濃縮前:SiO濃度11質量%)を、SiO濃度が18質量%、19質量%、20質量%、21質量%となるように濃縮した。濃縮前を試験例31とし、SiO濃度ごとに順に試験例32〜35のサンプルとした。
【0034】
濃縮は、ロータリーエバポレーターを使用して45〜55℃で実施した。
【0035】
モル比が4.8でSiO濃度が12質量%であるサンプルはMR4.8-12%と表記する。試験例番号と各サンプルの対応は次の通りである。
【0036】
【表1】

【0037】
(成分分析)
試験例1〜35で得られた高モル比珪酸ソーダ(各サンプル)の20℃付近の比重は、基本的に浮きばかりで測定したが、粘性が高くて測定できない場合はメスシリンダーに秤取り、重量と体積より算出した。20℃付近の粘度はB型粘度計で測定した。
【0038】
成分分析は濃縮前サンプルの中和滴定によるアルカリ濃度と1000℃の強熱残分を測定し、強熱残分からアルカリ(NaO)含有率と別途測定した不純物(金属酸化物)含有率を差し引いてシリカ濃度とした。濃縮後のサンプルについてはアルカリ濃度のみを測定し、モル比が変化しない前提でシリカ濃度を算出した。
【0039】
各サンプルの成分分析結果を表2に示す。
(経時変化)
各サンプルをポリ容器に密封して室温(20〜35℃程度)で保存し、100日後までの経時変化を肉眼で観察した。変化レベルは0〜5の6段階に分けて評価した。各変化レベルの判断基準を表3に示す。調製5日後において、試験例32、33のサンプルでは変化レベルの低い白濁が確認されたが、いずれも調製100時間経過時点において、変化は認められなかった。調製100日経過時点での高モル比珪酸ソーダの安定領域及び不安定領域を図3に示す。図3から明らかなように、モル比が4.8〜5.3でありSiO濃度が17〜23質量%である場合には、適度な流動性を確保しながら長期間にわたる保存安定性を維持できることが分かる。
29Si−NMR測定)
各モル比のSiO濃度が20質量%サンプル(20日程度経過したもの)の29Si−NMRスペクトルを測定した(JEOL LAMBDA 400を使用した)。測定したスペクトルを図1に示す。図1から明らかなように、どのスペクトルもQ〜Qの明確なピークを示しており、低分子量の珪酸種を多く含んでおり、コロイダルシリカではなく珪酸ソーダに属することが分かる。Qに関しては、モル比の上昇に伴いやや幅が広くなり、高磁場側にピークトップがシフトしている。これはコロイド領域のシリカ粒子の粒径がモル比の上昇とともに大きくなることが理由と考えられる。また、モル比が4.8、5.0及び5.1であってSiO濃度が20質量%サンプル(270日程度経過したもの)の29Si−NMRスペクトルを図2に示す。270日程度経過後であっても、Q〜Qの明確なピークを示しており、低分子量の珪酸種を多く含んでおり、コロイダルシリカではなく珪酸ソーダに属することが分かる。
【0040】
試験例36
5号珪酸ソーダ(上記原液)に上記活性珪酸を撹拌しながら添加して濃縮前の高モル比珪酸ソーダ(モル比4.0、SiO濃度19質量%)を調製した。これを、SiO濃度が23質量%となるまで濃縮した。
【0041】
濃縮液の分析値は、NaO:6.09wt%、比重:1.276、粘度:41.0mPa・sであった。調製から100日経過後の濃縮液を観察したところ、実質的に変化は認められなかった。
【0042】
試験例37
5号珪酸ソーダ(上記原液)に上記活性珪酸を撹拌しながら添加して濃縮前の高モル比珪酸ソーダ(モル比4.5、SiO濃度15質量%)を調製した。これを、SiO濃度が18質量%となるまで濃縮した。
【0043】
濃縮液の分析値は、NaO:4.25wt%、比重:1.209、粘度:13.2mPa・sであった。調製から100日経過後の濃縮液を観察したところ、実質的に変化は認められなかった。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸ソーダと活性珪酸とを混合することによりSiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3である混合液を調製後、当該混合液を濃縮することにより当該混合液のSiO濃度を17質量%以上に調整することを特徴とする高モル比珪酸ソーダの製造方法。
【請求項2】
前記濃縮後の前記混合液のSiO濃度が17〜23質量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記珪酸ソーダに前記活性珪酸を添加することにより前記混合液を調製する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記珪酸ソーダは、SiO/NaOで表されるモル比が3〜5であり、且つ、SiO濃度が10〜30質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記活性珪酸は、SiO濃度が3〜6質量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる、SiO/NaOで表されるモル比が3.8〜5.3であり、SiO濃度が17質量%以上である高モル比珪酸ソーダ。
【請求項7】
前記SiO濃度が17〜23質量%である、請求項6に記載の高モル比珪酸ソーダ。
【請求項8】
前記モル比が3.8〜5.2であり、前記SiO濃度が18〜22質量%であり、調製後100日経過後において変化が認められない、請求項6又は7に記載の高モル比珪酸ソーダ。
【請求項9】
前記モル比が4.8〜5.2である、請求項6〜8のいずれかに記載の高モル比珪酸ソーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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