説明

高分子ゲルおよびその製造方法

【課題】引張り応力による伸びが良好な高分子ゲルを製造できるようにする。
【解決手段】架橋網目構造を有する第1のポリマーと液体を含む第1のゲルを調製する工程と、該第1のゲルを凍結乾燥した後、粉砕して乾燥ゲル微粒子を得る工程と、第2のモノマーを含有する溶液中に前記乾燥ゲル微粒子を浸漬させて前駆体液を得る工程と、前記前駆体液中の第2のモノマーを重合させる工程を有することを特徴とする高分子ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子ゲルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、高分子が架橋されることで三次元的な網目構造を形成し、その内部に液体を吸収して膨潤した構造を有するゲルであり、特に液体が水であるものをハイドロゲルという。
ハイドロゲルは、柔軟性や保水性等に優れるという特性を有することから注目を集めている有用な素材であり、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連などの多岐にわたる分野に対する利用が期待されている。この様なハイドロゲルの利用を可能にするための課題として、ハイドロゲルの機械物性の向上が挙げられる。
【0003】
ハイドロゲルの機械的強度を向上させる方法として、本発明者等は、まず成形型内で第1のモノマー成分を重合して第1の網目構造を有するゲルを成形し、次いでこのゲルを第2のモノマー成分を含有する溶液に浸漬させてゲル内に該溶液を拡散させた後、ゲルを取り出し、該ゲル中の第2のモノマー成分を重合させることにより、架橋網目構造を有するポリマー同士、または架橋網目構造を有するポリマーと直鎖ポリマーとが互いに絡み合った構造を有するハイドロゲルを製造する方法を提案した(特許文献1)。
【0004】
下記特許文献2は、温度等の刺激によって体積変化を示す粒子を含有する高分子ゲル組成物に関するものであるが、モノマーと架橋剤と開始剤と溶媒を含有する溶液に、単独で体積変化を示す高分子ゲル粒子を分散させて分散液を得、該分散液を重合して高分子ゲル組成物を製造する方法が記載されている。該方法の実施例では、粒子化重合法により感熱応答性の高分子ゲル粒子を製造し、この高分子ゲル粒子の水分散液と、架橋性高分子の水溶液またはモノマー成分を含有する水溶液とを混合して粒子を分散させた分散液を得、該分散液を一対の基板間に導入した状態で重合させる方法が記載されている。また、高速ゲル粒子における体積変化速度を高速にするために膨潤した高分子ゲルを凍結乾燥する方法等で多孔質化できることが記載されている。
【特許文献1】国際公開第03/093337号パンフレット
【特許文献2】特開2004−285203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法で得られるゲルは引張り応力による伸びが不足しやすい。
特許文献2に記載されている高分子ゲル組成物は、例えば一対の基板間に挟持されて光学素子を構成するものであって、引張り応力よる伸びは全く考慮されていない。
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、引張り応力による伸びが良好な高分子ゲルを製造できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明の高分子ゲルの製造方法は、架橋網目構造を有する第1のポリマーと液体を含む第1のゲルを調製する工程と、該第1のゲルを凍結乾燥した後、粉砕して乾燥ゲル微粒子を得る工程と、第2のモノマーを含有する溶液中に前記乾燥ゲル微粒子を浸漬させて前駆体液を得る工程と、前記前駆体液中の第2のモノマーを重合させる工程を有することを特徴とする。
【0007】
第2のモノマーを含有する溶液が、第2のモノマーと架橋剤を含有しており、該第2のモノマーの含有量に対する架橋剤の含有量の割合が0.001〜5.0mol%であることが好ましい。
前記第2のモノマーを含有する溶液における第2のモノマーの含有量が0.5〜10mol/Lであることが好ましい。
前記第2のモノマーを含有する溶液中に前記乾燥ゲル微粒子を浸漬させる際に、第2のモノマーを含有する溶液を、乾燥ゲル微粒子の1gに対して5〜500ml使用することが好ましい。
前記前駆体液に対して真空脱気を行った後に、前記第2のモノマーを重合させる工程を行うことが好ましい。
前記前駆体液が加圧された状態で、前記第2のモノマーを重合させる工程を行うことが好ましい。
前記第1のゲル中に存在する架橋剤の未反応部位を、凍結乾燥する前に不活性化する工程を有することが好ましい。
【0008】
また本発明は、第2のモノマーを重合して得られる第2のポリマーからなる連続相と、該連続相中に均一に分散している、第1のポリマーからなる粒子と、該連続相および該粒子に共通して含まれる液体とを有し、前記第1のポリマーからなる粒子内に、前記第2のポリマーの分子鎖が存在していることを特徴とする高分子ゲルを提供する。
本発明の高分子ゲルにおいて、隣接している第1のポリマーからなる粒子同士が密接して存在していることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、引張り応力による伸びが良好な高分子ゲルが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の高分子ゲルは、第2のポリマーからなる連続相中に、第1のポリマーからなる粒子が分散して存在している構成を有する。
【0011】
[第1のモノマー・第2のモノマー]
本発明において、第1のポリマーを構成する第1のモノマー、および第2のポリマーを構成する第2のモノマーとしては、以下の化合物が例示される。
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリルアミド(AAm)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルピリジン、ヒドロキシエチルアクリレート、酢酸ビニル、ジメチルシロキサン、スチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、トリフルオロエチルアクリレート(TFE)、スチレンスルホン酸(SS)またはジメチルアクリルアミド等。
また、2,2,2−トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3−(ペルフルオロブチル)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレンまたはフッ化ビニリデン等のフッ素含有モノマーも使用できる。
さらに、ジェラン、ヒアルロン酸、カラギーナン、キチンまたはアルギン酸等の多糖類;あるいはゼラチンやコラーゲン等のタンパク質を使用することもできる。
【0012】
本発明において「第1のポリマー」および「第2のポリマー」はいずれもホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。したがって、第1のモノマーおよび第2のモノマーはそれぞれ1種でもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また粒子を構成する「第1のポリマー」が1種のポリマーからなっていてもよく、2種以上のポリマーの混合物からなっていてもよい。
同様に「第2のポリマー」が1種のポリマーからなっていてもよく、2種以上のポリマーの混合物からなっていてもよい。
【0013】
第1のモノマーおよび第2のモノマーのいずれか一方が、正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーを含有し、他方が電気的に中性である不飽和モノマーを含有することが好ましい。これにより、第1のポリマーからなる粒子内への、第2のポリマーの分子鎖の侵入が生じ易くなる。第1のモノマーが正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーを含有し、第2のモノマーが電気的に中性である不飽和モノマーを含有することがより好ましい。
【0014】
正又は負に荷電し得る基を有する不飽和モノマーとしては、酸性基(例えば、カルボキシ基、リン酸基またはスルホン酸基)や塩基性基(例えば、アミノ基)を有する不飽和モノマーが好ましい。具体例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)、メタクリル酸又はそれらの塩を挙げることができる。
電気的に中性である不飽和モノマーとしては、例えば、ジメチルシロキサン、スチレン(St)、アクリルアミド(AAm)、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチル−アクリルアミド、ビニルピリジン、スチレン、メチルメククリレート(MMA)、フッ素含有不飽和モノマー(例えば、トリフルオロエチルアクリレート(TFE))、ヒドロキシエチルアクリレート又は酢酸ビニルを挙げることができる。
【0015】
[第1のポリマー]
第1のポリマーは架橋網目構造を有する。第1のポリマーは第1のモノマーを重合開始剤および架橋剤の存在下に重合させて調製することが好ましい。重合方法は熱重合でもよく、光重合でもよい。光重合が好ましい。
重合開始剤は特に限定されず、モノマーの種類および重合方法に応じて公知のものを適宜用いることができる。例えば、AMPS、AAmまたはAAを光重合する場合は、α−ケトグルタル酸を好適に用いることができる。
架橋剤も特に限定されず、モノマーの種類に応じて公知のものを適宜用いることができる。例えばモノマーとしてAMPS、AAmまたはAAを用いる場合には、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)を好適に用いることができる。
【0016】
[第2のポリマー]
第2のポリマーは架橋網目構造を有するポリマーであってもよく、直鎖状ポリマーであってもよい。架橋網目構造を有することが好ましい。
第2のポリマーが架橋網目構造を有するポリマーである場合、第2のモノマーを重合開始剤および架橋剤の存在下に重合させて調製することが好ましい。重合方法、重合開始剤および架橋剤は第1のポリマーと同様である。
第2のポリマーが直鎖状ポリマーである場合は、架橋剤を使用せず、第2のモノマーを重合開始剤の存在下に重合させて調製することが好ましい。重合方法および重合開始剤は第1のポリマーと同様である。
【0017】
[高分子ゲルの製造方法]
本発明の高分子ゲルを製造するには、まず、架橋網目構造を有する第1のポリマーと液体を含む第1のゲルを調製する。
具体的には、媒体中で、第1のモノマーを重合開始剤および架橋剤の存在下に重合させて第1のゲルを得る方法が好ましい。具体的には、第1のモノマー、重合開始剤、架橋剤および媒体を含有する溶液(以下、第1の溶液ということもある。)を調製し、該第1の溶液中で第1のモノマーを重合させることによって第1のゲルが得られる。媒体は特に限定されない。例えば水が好ましい。
第1の溶液における第1のモノマーの含有量(仕込みモル濃度)は、ゲルの好ましい硬さを得るうえで、0.5〜4mol/Lが好ましく、1〜2mol/Lがより好ましい。
第1の溶液における架橋剤の含有量は、第1のモノマーの量に対して多すぎるとゲルが変形に対して脆くなりやすく、少なすぎると荷重に対して弱くなりやすい。したがって第1の溶液中の第1のモノマーの含有量に対して1〜20mol%が好ましく、2〜10mol%がより好ましい。なお、本明細書において「架橋密度」は、モノマーの仕込みモル濃度に対する架橋剤のモル濃度の比をパーセントで表した値を意味する。
第1の溶液における開始剤の含有量は、第1のモノマーの量に対して多すぎると分子量が小さくなるためゲルが弱くなりやすく、少なすぎるとゲル化しないおそれがある。したがって第1の溶液中の第1のモノマーの含有量に対して0.001〜5mol%が好ましく、0.01〜1mol%がより好ましい。
【0018】
第1のゲルは、次工程の凍結乾燥に供される際には粒状であることが好ましい。第1のゲルが粒状であると、凍結乾燥を短時間で行うことができるほか、凍結乾燥後の粉砕工程が容易になる。したがって、得られた第1のゲルを必要に応じて物理的に破壊することが好ましい。
または、蒲池ら(蒲池幹治、遠藤剛監修、「ラジカル重合ハンドブック」、1999年、エヌ・ティー・エス発行)に記載されるような、粒子状のポリマーを製造する一般的な方法である乳化重合法、懸濁重合法又は分散重合法などによって第1のモノマーを重合させることによって、粒状の第1のポリマーと液体を含む第1のゲルを調製してもよい。
【0019】
次いで第1のゲルを凍結乾燥した後、粉砕して乾燥ゲル微粒子を得る。凍結乾燥は公知の方法で行うことができる。凍結乾燥条件は、例えば圧力0.2Paで、含水率10質量%以下になるまで行うことが好ましい。
粉砕は公知の方法で物理的に粉砕すればよい。例えば乳鉢と乳棒を用いて砕く方法でもよい。粉砕して得られる乾燥ゲル微粒子の粒子径は5〜100μmの範囲内が好ましい。また、光学顕微鏡を用いて数枚撮影し、写っている微粒子のサイズを測定して測定値の平均をとる方法で得られる平均粒子径は20〜70μmが好ましく、45〜55μmがより好ましい。
【0020】
次に、第2のモノマーを含有する溶液(以下、第2の溶液ということもある。)を調製し、その中に粉砕後の乾燥ゲル微粒子を浸漬させて前駆体液を得る。具体的には、適宜の容器内に乾燥ゲル微粒子を入れておき、これに第2の溶液を徐々に加えて混合し、乾燥ゲル微粒子を充分に膨潤させることが好ましい。第2の溶液は、第2のモノマーを含む水溶液が好ましい。
前駆体液は、次工程で第2のモノマーを重合させる前に、真空脱気を行うことが好ましい。真空脱気を行うことによって、第2のモノマーを重合させる際に、酸素の存在による悪影響が生じるのを防止することができる。
【0021】
第2の溶液における第2のモノマーの含有量(仕込みモル濃度)は、高すぎるとしなやかさに欠け、低すぎると強度を発揮しない。したがって0.5〜10mol/Lが好ましく、0.5〜8mol/Lがより好ましく、1〜4mol/Lがさらに好ましく、2〜4mol/Lが特に好ましい。
第2のポリマーが架橋網目構造を有するポリマーである場合、第2の溶液における架橋剤の含有量は、第2のモノマーの量に対して多すぎると強度を著しく欠き、少なすぎると第1のポリマーからなる粒子をつなぎとめることができない。したがって第2の溶液中の第2のモノマーの含有量に対して0.001〜5mol%が好ましく、0.001〜1mol%がより好ましく、0.005〜0.3mol%がさらに好ましく、0.01〜0.03mol%が特に好ましい。
第2の溶液における開始剤の含有量は、第2のモノマーの量に対して多すぎると強度を欠き、少なすぎるとゲル化しないおそれがある。したがって第2の溶液中の第2のモノマーの含有量に対して0.005〜0.5mol%が好ましく、0.01〜0.1mol%がより好ましい。
【0022】
第2の溶液中に乾燥ゲル微粒子を浸漬させる際に、使用する第2の溶液の量は、少なくとも、前駆体液において該乾燥ゲル微粒子が充分に膨潤しており、さらに膨潤した粒子間が液で満たされている状態となる量であることが必要である。第2の溶液の量の上限は特に限定されないが、多すぎると得られる高分子ゲル中における、第1のポリマーからなる粒子の分散均一性が低下しやすい。
例えば、乾燥ゲル微粒子の1gに対して5〜500mlの範囲内が好ましく、50〜100mlがより好ましい。
特に前駆体液に対して真空脱気を行う場合には、真空脱気によって減少する溶媒量を加味することが好ましく、例えば第2の溶液の使用量を、乾燥ゲル微粒子の1gに対して79.2〜81.8mlとすることが好ましい。
【0023】
次いで、前駆体液中の第2のモノマーを重合させることにより高分子ゲルが得られる。このとき、前駆体液が加圧された状態で第2のモノマーを重合させることが、ゲルの強度を向上させるうえで好ましい。具体的には、成形型内に、該成形型の容積より若干多い量の前駆体液を充填して蓋で密閉するなどして、前駆体液が加圧された状態として重合を行うことが好ましい。
あるいは、前駆体液を適宜の基体の表面上にコーティングした後に、該前駆体液中の第2のモノマーを重合させることにより高分子ゲルからなる被覆層を形成することもできる。
また前駆体液に、顔料や細片状の金属箔を含有させて成型してもよい。
【0024】
[高分子ゲル]
こうして得られる高分子ゲルは、第2のモノマーを重合して得られる第2のポリマーからなる連続相と、該連続相中に均一に分散している、第1のポリマーからなる粒子と、該連続相および該粒子に共通して含まれる液体とを有し、前記第1のポリマーからなる粒子内に、前記第2のポリマーの分子鎖が存在している構成を有する。
より具体的には、前駆体液中には、架橋網目構造を有する第1のポリマーからなる粒子が分散されており、該粒子には第2の溶液が含浸されているため、該前駆体液中の第2のモノマーを重合させると第1のポリマーの網目構造内に、第2のポリマーの分子鎖が侵入した構成が得られる。これにより、該粒子が第2のポリマーによってつなぎ合わされた構造が形成される。また第1のポリマーからなる粒子の外部には第2のポリマーからなる連続相が形成される。
本発明の高分子ゲルに含まれる液体は特に限定されないが、好ましくは水である。すなわち本発明の高分子ゲルは、好ましくはハイドロゲルである。
【0025】
本発明の高分子ゲルにおいて、第1のポリマーからなる粒子は均一に分散している。ここでの「均一」とは、高分子ゲル中において粒子が偏在することなく、粒子間の隙間の大きさがほぼ均等であることをいう。
本発明の高分子ゲルにおいて、第1のポリマーからなる粒子がより密に存在し、隣接する粒子間の隙間がより小さいことが、強度を向上させるうえで好ましい。さらに、第1のポリマーからなる微粒子同士が密接することが、強度発現のためには好ましい。
本発明では、第1のゲルを凍結乾燥した後に破砕するため、粒子径が小さい乾燥ゲル微粒子が得られやすい。粒子径が小さい方が、高分子ゲル中における粒子の分散均一性が向上する。また粒子径が小さい方が隣接する粒子間の隙間が小さくなりやすい。また第2の溶液中に乾燥ゲル微粒子を浸漬させる際に、使用する第2の溶液の量を、膨潤した粒子間が液で満たされるに必要な範囲で、できるだけ少なくすることによって、高分子ゲル中において粒子をより密に存在させることができる。
【0026】
本発明の高分子ゲルは、後述の実施例に示されるように、第1のゲルを粒子状とせずに第2のモノマー成分を含有する溶液に浸漬させて製造される従来のゲルと比べて、引張り応力による伸びが向上する。また従来のゲルと同程度の引き裂き強度を得ることもできる。
また、第1のゲルを微粒子化して用いるため、第1のゲルの取り扱い性が良く、成型の自由度も高い。すなわち、従来は第1のゲルが非常に脆く、簡単に亀裂が入ったり、破損したりしてしまうため、複雑な形状に成型することは難しかった。
さらに、本発明では第1のゲルを凍結乾燥後に粉砕して乾燥ゲル微粒子とするため、該乾燥ゲル微粒子は保存が可能である。また粒子状であるため、第2の溶液に浸漬させて膨潤させる際に、膨潤に要する時間が短くてすむ。
さらに乾燥した粒子であるため、既に水分で膨潤している粒子に比べて、第2の溶液をより多く吸収できる。したがって、より多くの第2のモノマーを粒子内に含有させることができ、これによって高分子ゲルの強度をより向上させることができる。
【0027】
[架橋剤の未反応部位の不活性化]
本発明において、第1のゲル中に存在する架橋剤の未反応部位を、凍結乾燥する前に不活性化することが好ましい。ここでの「不活性化」とは、予め未反応部位を反応させておいて、第2のモノマーを重合させる際に該未反応部位が反応しない状態にすることをいう。これにより引張り応力による伸びがさらに向上する。
具体的には、第1のモノマーを重合開始剤および架橋剤の存在下に重合させて第1のゲルを得た後、好ましくは薬さじで崩した後、過剰の開始剤を含んだ溶液に浸し、開始剤をゲル内に侵入させた後、UV照射することで架橋剤由来の未反応の二重結合を不活性化することができる。
【0028】
本発明の高分子ゲルは、前駆体液を成型材料として用いて、各種のゲル状成型品として使用することができるほか、前駆体液をコーティング材として用いることもできる。具体例としては、関節、軟骨等の生体組織の代替材料、各種工業用水の配管のコーティング材、船底塗料、魚網へのコーティング、シート、フィルムへの親水性表面の形成、各種摺動部部品、耐火性建材(壁材)等が挙げられる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(1)引張り試験は以下の方法で行った。
ダンベル状の試験片の引張破断伸びを、JIS K−6251−7号に準処する方法で測定した。試験片の厚さは2.5±0.5mmとした。
(2)引き裂き試験は、Y.Tanaka et al,Eur.J.Phys.E3,395〜401頁(2000年)に記載されている手法により、破壊エネルギーを測定する方法で行った。破壊エネルギーとは、試験片の引裂き試験において定常的な引裂き破壊が進むとき(すなわち破断速度一定で破壊が進むとき)の単位破断面を形成するのに必要な仕事量であって、試験片の破壊力学的な丈夫さを示す指標である。具体的には試験片に切り込みを入れて引裂き試験を行い、その際に必要となる力と、試験片の厚みから算出される値(単位:J/m)である。
すなわち、図1に示すように、X方向の長さが50mm、Y方向の幅が7.5mm、Z方向の厚さが2.5±0.5mmの試験片1を用意し、その一端部にX−Y平面に平行な切込みを入れて2つの引張端部2,2を形成した。該引張端部2,2を試験装置(装置名:TENSILON型式 RTC−1150A、製造元:ORIENTIC社)の、対向する一対のクロスヘッドでそれぞれ挟持し、該クロスヘッドを互いに遠ざかる方向へ一定の速度で引張った。具体的には一方のクロスヘッドを固定し、他方のクロスヘッドを遠ざかる方向へ一定の速度(2V)で移動させることにより、試験片1を一定の破断速度(V)で引き裂いた。このときの他方のクロスヘッドの荷重(単位:N)を測定する。図2は他方のクロスヘッドの移動距離(単位:m)と他方のクロスヘッドの荷重(単位:N)との関係を示すグラフの例である。クロスヘッドの移動距離がd1〜d2の間で、応力が一定の値(F)を示すとき、試験片1のY方向の幅をw(単位:m)とすると、単位破断面積を得るのに必要な仕事量を表わす破壊エネルギー(G、単位:J/m)は下記式(1)で求められる。
クロスヘッドの移動距離がd1〜d2の間において、クロスヘッドが2d(m)だけ移動するときに、試験片1の破断が進む距離はd(m)で、形成される破断面積△Sはd×w(m)である。またクロスヘッドが2d(m)だけ移動したときの仕事量(△W)は、F×2d(J)である。
G=△W/△S=(F×2d)/(d×w)…(1)
【0030】
(実施例1)
表1の配合で第1のゲルを調製し、これを用いて乾燥ゲル微粒子を作製した。すなわち第1のモノマーとして1mol/Lの2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、架橋剤として0.04mol/L(AMPSに対して4mol%)のN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、及び開始剤として0.001mol/L(AMPSに対し0.1mo1%)のα−ケトグルタル酸を含む水溶液10mlに、UV(波長365nm、照射エネルギー密度:1.5mW/cm)を常温(25℃)で6時間照射し、架橋密度4mol%のポリAMPSゲル(PAMPSゲル)11gを得た。なお架橋剤の第1のモノマーに対する割合は、第1のポリマーにおける架橋密度の値に相当する。
【0031】
【表1】

【0032】
得られたPAMPSゲルを薬さじで粗くつぶした後、凍結乾燥を圧力0.2Paで合計24時間(−42℃で6時間、−25℃で6時間、25℃で5時間、63℃で7時間)行い、2gの凍結乾燥品を得た。
得られた凍結乾燥品を、乳鉢と乳棒を用いてすりつぶす方法で粉砕して乾燥ゲル微粒子を得た。得られた乾燥ゲル微粒子の粒子径は5〜100μmの範囲内であり、平均粒子径は50μmであった。
【0033】
これとは別に第2のモノマーを含有する水溶液を調製した。すなわち、第2のモノマーとして2mol/Lのアクリルアミド(AAm)、架橋剤として0.0002mol/L(AAmに対し0.01mol%)のMBAA、及び開始剤として0.0002mol/L(AAmに対し0.01mol%)のα−ケトグルタル酸を含む水溶液(第2の溶液)を調製した。
なお、第2のモノマーを含有する水溶液における、架橋剤の第2のモノマーに対する割合は、第2のポリマーにおける架橋密度の値に相当する。
【0034】
次いで、上記で得た乾燥ゲル微粒子の0.2gに対して、該第2の溶液の16.1mlを加えて混合し前駆体液を調製した。ガラス板上に縦6mm、横6mm、厚さ2mm(いずれも内寸)のシリコーン樹脂製の枠を置いた成形型を用意し、該前駆体液を真空脱気して得られたペースト状の前駆体液を、該成形型の枠内に流し込み、該枠の上面をガラス板で密封した状態で、UV(波長365nm、照射エネルギー密度:1.5mW/cm)を常温で8時間照射して板状のゲルを得た。
得られたゲルを水中に約一週間浸漬させて、充分に膨潤したハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
【0035】
(実施例2〜6)
実施例1において、第2のモノマーを含有する水溶液の調製に用いる架橋剤の使用量を表2に示す通りに変更した他は実施例1と同様にしてハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同様にして第1のゲルを調製し、これを微粒子化せずに用いた。
すなわち、まず実施例1と同様にして、表1に示す配合の水溶液を調製し、該水溶液の10mlを、前記と同様の成形型の枠内に流し込み、上面をガラス板で密封した状態で、UV(波長365nm、照射エネルギー密度:1.5mW/cm)を常温で6時間照射して板状のPAMPSゲル(架橋密度4mol%)を得た。
これとは別に、実施例1と同様にして第2のモノマーを含有する水溶液(第2の溶液)を調製した。
次いで、上記で得た板状のPAMPSゲルを、大過剰の第2の溶液に1日以上浸漬した。その後、第2の溶液で膨潤したゲルを取り出し、UV(波長365nm、照射エネルギー密度:1.5mW/cm)を常温で8時間照射して板状のゲルを得た。
得られたゲルを実施例1と同様にして水で充分に膨潤させてハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
【0037】
【表2】

【0038】
(比較例2〜6)
比較例1において、第2のモノマーを含有する水溶液の調製に用いる架橋剤の使用量を表3に示す通りに変更した他は比較例1と同様にしてハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
【0039】
【表3】

【0040】
図3は実施例1〜4について引張り試験を行った結果を示したもので、図4は比較例1〜4についての引張り試験結果を示したものである。縦軸は応力(単位:MPa)、横軸は歪(単位:mm/mm)を表す。
図3,4の結果より、第1のゲルを凍結乾燥させて微粒子化して用いた実施例1〜4は、第1のゲルを粉砕せずに用いた比較例1〜4とそれぞれ比較して引張り応力に対する伸びが大きいことがわかる。また実施例1〜4は比較例1〜4に比べて降伏応力が低いこともわかる。特に第2のポリマーの架橋密度が0.03mol%以下である実施例1,2は、降伏後によく伸び、その後破断せずに歪の増加に伴う応力の増加が大きくなるという特徴が見られた。
【0041】
(実施例11〜14)
実施例1において、第2のモノマーを含有する水溶液の調製に用いる第2のモノマーおよび架橋剤の使用量を表4に示す通りに変更した他は実施例1と同様にしてハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
【0042】
【表4】

【0043】
図5は実施例11〜14について引張り試験を行った結果を示したものである。この図に示されるように、実施例11は実施例1と比べてモノマー量を2倍にし、架橋密度を同じにした例であるが、実施例1に比べて破断するときの引張応力(破断強度)が大きく上昇した。
【0044】
図6は、実施例1〜4および実施例11〜14について引き裂き試験を行った結果を示したもので、図7は、実施例1〜3、5、6および比較例1〜3および5,6についての引き裂き試験結果を示したものである。縦軸は破壊エネルギー(単位:J/m)、横軸は第2のポリマーにおける架橋密度(単位:mol%)を表す。
図6の結果より、第2のポリマーの架橋密度が0.01〜0.3mol%である実施例1〜4において、架橋密度が低いほど、引き裂きによる破壊エネルギーが大きくなる傾向があり、第2のモノマー量が4mol/Lである実施例11〜14よりも、2mol/Lである実施例1〜4の方が該破壊エネルギーが大きいことがわかる。
また図7に示されるように、第2のポリマーの架橋密度が0.005mol%以下である実施例5,6は破壊エネルギーが小さい。また、特に第2のモノマー量が2mol/Lであって架橋密度が0.01mol%である実施例1において、約600J/mという高い破壊エネルギーが得られた。これは比較例6とほぼ同等であった。
【0045】
(実施例21〜24)
実施例1〜4において第1のゲルとしてのPAMPSゲルに対して、該ゲル中に残留している架橋剤の未反応部位を不活性化する処理を行った他は、実施例1〜4とそれぞれ同様にしてハイドロゲルを得、これを用いて評価を行った。
すなわち、実施例1と同様にしてPAMPSゲルを得た。得られたPAMPSゲルに対して、薬さじで軽く潰した後に、過剰の開始剤が入った溶液に浸し、UV照射した。その後、凍結乾燥を行い、乳鉢と乳棒を用いてすりつぶす方法で粉砕して乾燥ゲル微粒子を得た。得られた乾燥ゲル微粒子の粒子径は5〜100μmの範囲内であり、平均粒子径は50μmであった。この後の工程は、実施例21は実施例1と、実施例22は実施例2と、実施例23は実施例3と、実施例24は実施例4とそれぞれ同様に行った。
【0046】
図8は実施例21〜24について引張り試験を行った結果を示したものである。図8と図4を比較すると、架橋剤の未反応部位を不活性化した乾燥ゲル微粒子を用いた実施例21〜24は、比較例1〜4とそれぞれ比較して引張り応力に対する伸びが大きいことがわかる。また実施例21〜24は比較例1〜4に比べて降伏応力が低いこともわかる。
図8と図3を比べると、第2のポリマーの架橋密度が0.03mol/L以上である実施例22、23、24は、実施例2〜4と比べて破断するまでの伸びが大きく、特に実施例22は実施例2よりも伸びが大きく向上した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】引裂き試験法の説明図である。
【図2】引裂き試験法の説明図である。
【図3】実施例に係る引張り試験結果を示すグラフである。
【図4】比較例に係る引張り試験結果を示すグラフである。
【図5】実施例に係る引張り試験結果を示すグラフである。
【図6】実施例に係る引き裂き試験結果を示すグラフである。
【図7】実施例および比較例に係る引き裂き試験結果を示すグラフである。
【図8】実施例に係る引張り試験結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋網目構造を有する第1のポリマーと液体を含む第1のゲルを調製する工程と、
該第1のゲルを凍結乾燥した後、粉砕して乾燥ゲル微粒子を得る工程と、
第2のモノマーを含有する溶液中に前記乾燥ゲル微粒子を浸漬させて前駆体液を得る工程と、
前記前駆体液中の第2のモノマーを重合させる工程を有することを特徴とする高分子ゲルの製造方法。
【請求項2】
第2のモノマーを含有する溶液が、第2のモノマーと架橋剤を含有しており、該第2のモノマーの含有量に対する架橋剤の含有量の割合が0.001〜5.0mol%である、請求項1記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項3】
第2のモノマーを含有する溶液における第2のモノマーの含有量が0.5〜10mol/Lである、請求項1または2に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項4】
第2のモノマーを含有する溶液中に前記乾燥ゲル微粒子を浸漬させる際に、第2のモノマーを含有する溶液を、乾燥ゲル微粒子の1gに対して5〜500ml使用する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項5】
前記前駆体液に対して真空脱気を行った後に、前記第2のモノマーを重合させる工程を行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項6】
前記前駆体液が加圧された状態で、前記第2のモノマーを重合させる工程を行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項7】
前記第1のゲル中に存在する架橋剤の未反応部位を、凍結乾燥する前に不活性化する工程を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の高分子ゲルの製造方法。
【請求項8】
第2のモノマーを重合して得られる第2のポリマーからなる連続相と、該連続相中に均一に分散している、第1のポリマーからなる粒子と、該連続相および該粒子に共通して含まれる液体とを有し、前記第1のポリマーからなる粒子内に、前記第2のポリマーの分子鎖が存在していることを特徴とする高分子ゲル。
【請求項9】
隣接している前記第1のポリマーからなる粒子同士が密接して存在していることを特徴とする請求項8記載の高分子ゲル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−185156(P2009−185156A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25667(P2008−25667)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年度北海道高分子若手研究会、高分子学会北海道支部および高分子学会北海道高分子若手研究会主催、2007年9月3日開催。
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】